避難所と新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症の流行が避難所の環境改善をしているのはかなりの皮肉。

 スフィア基準というのがあることをご存じでしょうか。
 スフィア基準とは、スフィアプロジェクトによって国際的な人道支援の計画や管理、実施に携わる支援活動従事者向けに作られたスフィアハンドブックに記載されている、避難所や難民キャンプなどでの人道的と考えられる最低の基準のことです。
 実際にはこのとおりになってはいませんが、できるだけこの基準に近づくように、世界中のNGOや難民キャンプを運営する人たちが日々努力しています。
 さて、このスフィア基準によると、大人一人当たりの占用スペースは最低3.5平方メートル必要だとされています。
 この面積からは例えば調理場所やお風呂、トイレや洗濯場所といったものは含みませんのが、これらの設備を含んで計算する場合には、4.5~5.5平方メートルは必要だとされています。
 内閣府の「避難者に係る対策の参考資料」によると、日本の避難所は、一人当たり1.57~2.93平方メートル、多くは畳一畳分の2平方メートル前後が確保できればいい設計です。
 スフィア基準で考えると、日本の避難所は残念ながら「非人道的」な避難所となってしまいます。過去では阪神淡路大震災が一番ひどくて、一人あたり1~1.7平方メートルしかないときもあったとのことで、これではまともに体を横にして眠ることすらできなかったことがわかります。
 ただ、最近は新型コロナウイルス感染症の流行で、人同士の距離を最低2mは確保しなくてはならなくなったため、一人当たりの占用面積が5~7.7平方メートルに拡大し、スフィア基準を満たすようになったのはかなりの皮肉な感じです。
 一つ問題なのは避難所において一人当たりの占用面積が増えるということは収容能力が下がるということで、実際に避難所に入れなかった事例もあるようです。
 このことからはっきりといえるのは、自分が避難すべき対象なのかという把握と、入れる避難所を探すことになるかもしれないことを考えると、複数の避難先の設定と、早めの避難開始をすることが必要になるということです。
 以前は避難対象地域は問答無用で避難と言われていましたが、現在は基本は自宅待機で自宅が危険な人が避難所へ避難するというものに変わっています。
 平時にしっかりと自分の環境を確認しておいて、いざというときに途方にくれなくても済むようにしておきたいですね。

バリアフリーを考える

技術の普及や周囲の理解もあってか、日常生活に支援が必要な人でも地域で暮らすことができるようになってきています。
生活の支援といってもさまざまですが、自分で自分が生活する場所を選ぶことができるようになったことは非常に喜ばしいことだと思っています。
ただ、生活の支援がいる人は、全てを自力でできる人たちに比べると、どうしても避難の判断や準備、行動が遅れがちになってしまうので、対策としては事前に決められることを全部決めて、いざというときにすべてが自動で動くようにしておく必要があると思います。
さて、今回のお題のバリアフリーですが、避難所におけるバリアフリーというと、どうしても車いすや足の不自由な人が移動しやすいようにスロープや傾斜を準備するというのが最初にイメージされることが多いようです。
でも、バリアフリーというのは、そもそもがバリア、つまり「障害」がフリーの状態、障害がない状態といった意味合いになりますので、一般的に思い浮かぶような物理的なものだけではないはずです。
一般的には、生活するときのバリアには4種類あるそうで、「物理的バリア」「制度的バリア」「文化情報面のバリア」「意識上のバリア」がそれにあたります。
災害時には普段のあれこれが先鋭化してしまいますので、どうしても生活に支援が必要な人たちには厳しい状態になりがちですから、事前にさまざまなケースを考えて想定し、備えておく必要があります。
先ほどのスロープ一つとってみても、健常者が考えるスロープと必要な人の考えるスロープでは出来上がりが違うかもしれません。
同じように、避難所に掲示される情報が難しく書かれていてわからない人がいるかもしれません。
状況がわからず、一人一つの配給品をたくさん取ってしまう人がいるかもしれません。
できあがった仮設トイレが使えない人や、仮設トイレがわからない人がいるかもしれません。
そこで生活する人たちがお互いの家庭の文化が可能な限りぶつからず、必要最小限のストレスで済むような避難所にするためには、開設してからさまざまな人の意見を吸い上げる仕組みを作ることも大切ですが、事前にバリアを持っている人たちに参加してもらって実際の避難や避難所の設営や運営で気づいた点を教えてもらい、改善を続けていくしかありません。
バリアはストレスに直結しますし、へたをするとバリアを感じる人の生死にも影響してきます。
その地域に住む人たちがどのようなバリアを持っていて、どのように支援すればとりあえずの生活が確保できるのか。
避難所のバリアフリーはそういうことをしっかりと考えることが大切です。

母乳とストレス

 災害時には母乳が出なくなって乳児にあげられなくなるという話をよく聞きますが、これは正しくないようです。
 母乳はどんな状態であっても作り続けられていて、ストレスなどにより体が警戒することで、母乳が出なくなっているというのが実際のところのようです。
 つまり、まずはお母さんと乳児を安心できる環境にすることで、ストレスが軽減して母乳が出るようになるということで、できるだけ普段の生活環境に近づけることで、体の警戒態勢を緩めてやることで、母乳はきちんと乳児に与えることができるということになります。
 例えば避難所であれば、しっかりとした目隠しや仕切り、できれば人ごとに仕切られた授乳室を作ることで体の警戒態勢を緩めることができると思います。
 母乳がでなければミルクを与えるのも手ですが、ミルクが嫌いだったり、諸般の事情でミルクを受け付けない子もいますので、母乳を出すための周辺環境を整えてやることが重要だと思います。
 また、ストレスを与えないという視点で見れば、自宅や親兄弟の家といった行きなれていて見慣れた人たちがいる場所を避難先として選ぶといいと思います。
 場合によっては、被災地外に出て状況が落ち着くのを待つという方法も選択肢に入れたほうがいいと考えます。
 乳児を抱えての避難所生活はかなり大変です。
 支援体制がきちんと整っている乳児向けの福祉避難所、または避難所ではない避難先を平時に決めておいて、いざというときに途方にくれないようにしたいですね。

【終了しました】はじめての防災キャンプの開催日の変更について

 7月23日から24日にかけて益田市の北仙道公民館で開催を予定していましたはじめての防災キャンプは、益田市内およびその周辺の新型コロナウイルス感染症蔓延のため、開催日を変更することとしました。
 新しい開催日は、8月27日から28日となります。
 予定しておられた参加者の方には急な日程変更となって申し訳ありませんが、一か月伸びた分、より楽しんでもらえる内容で開催したいと思っていますので、引き続きのご参加をよろしくお願いします。

弱者ほど厳しい避難所生活

 災害の避難情報では「レベル3・高齢者等避難」と「レベル4・避難指示」に別れています。
 このうち、レベル3の高齢者等の「等」には障がい者や乳幼児、妊婦といった生活に対してさまざまな配慮のいる人達が含まれていて、そういった人達は元気な人よりも早く避難を促されています。
 その理由はいろいろとあるのですが、一番大きな理由は、元気な人と同時に避難を開始したら、生活に配慮のいる人達は元気な人に避難する速度が負けてしまうからです。
 生活に配慮のいる人いない人の区別は、避難所にはありません。考え方としては、避難者は平等に避難者としての取り扱いがされてしまいます。
 そのため、生活に配慮のいる人達は元気な人と同時に行動を開始すると、どうしても速度で負けてしまって、避難しても避難所等に収容してもらえないという事態が発生します。また、元気な人に交じって避難するのが難しい場合もありますのから、せっかく避難したにもかかわらず、結局自宅に戻ってしまう例も起きています。
 これはまずいということで、現在は配慮のいる人達は最初から福祉避難所に避難できるように法改正されているのですが、普段から施設を利用している人達はともかく、乳幼児や妊産婦を最初から受け入れてくれる場所は、保育園や病院、助産院などになり、福祉避難所としてはあまり聞きません。
 また、元気な人でもアレルギーを持っている人がいますが、避難所で避難者に支給されるさまざまな支援物資はアレルギーの配慮はありませんので、自分でものを見て判断していくしか手がありません。
 これも避難者として平等に扱われることから発生する問題です。
 一般的に生活になんらかの配慮がいる人達は避難所では隅に押しやられ、その上生活再建することも時間がかかってしまうために最後まで避難所にいる羽目になることが多いです。
 あなたがもし、生活になんらかの配慮が必要な人だとしたら、避難所に避難するとひどい目に遭うことは目に見えていますので、避難所以外で自分が安心して過ごすことのできる避難先を用意しておくことをお勧めします。
 生活弱者ほど厳しい生活になってしまうのが避難所です。
 避難しなくても済むような場所に住んでいることが一番の理想ですが、さまざまな事情でそれが難しい場合には、最低1カ所、できれば複数箇所、自分の安心できる避難先を見つけておいてください。

ただ寝るだけでも立派な避難練習

ただの段ボール箱でも使い方で立派な寝具に早変わり。

 災害時、特に雨や台風の場合には、大抵の場合一晩を避難先で過ごすことになります。ホテルや親戚宅などならとりあえずの寝具はあると思いますが、避難所に行くとそういうわけに行かない場合があります。
 事前に避難先に準備しておくか、早めの避難で一緒に寝具を持ち込まない限りは、寝るときには布団が無い状態です。
 そして、基本的に体育館の備品は一時避難では使わせてはもらえませんので、寝るための方法を考えなければいけません。
 最近ではコッドや段ボールベッドなども準備されるようにはなってきましたが、それも基本的に高齢者が優先で数が足りているわけではありません。
 つまり、寝るための道具も自分で準備しておく必要があるのです。
 テント泊に馴れている人なら寝袋やその下に敷くマットなどは持っていると思いますのでそれなりに快適な就寝ができると思いますが、そうでない場合にはどうするか。
 そのためには、家で布団を使わずに快適に寝るにはどうしたらいいかを練習しておくといいと思います。
 やってみると、意外なものが役に立ったり、使えるとSNSで言われていたようなものが案外役に立たなかったりと、さまざまな体験ができます。
 その中で、携帯性に優れていて自分がそれなりにしっかり寝られるような道具が見つかっていくと思います。
 衣食住は大切ですが、それ以上に必要なものの一つが睡眠です。
 可能な限り眠りの質を落とさなくてもすむように、しっかりと練習をして自分に向いているアイテムを見つけるようにしてください。

【終了しました】初めての防災キャンプを開催します【日程変更有】

 2022年7月23日から24日にかけて、益田市の北仙道公民館で「はじめての防災キャンプ」を開催することになりました。
 避難所に来てから、開設、食事やトイレ、洗濯やお片付けなどを、途中遊びながら実際に体験してみてもらいます。
 「はじめての防災キャンプ」とありますとおり、当研究所も今回初めて実施する企画、どうなるかは参加者とスタッフの皆様によります。
 夏休み、子どもさんの一つの体験として、興味があればご参加下さい。
 なお、定員になり次第締め切らせていただきますので、それにつきましてはご了承下さい。
 また、詳細については、問い合わせフォームからお問い合わせ下さい。

(2022年7月15日追記)新型コロナウイルス感染症蔓延のため、日程が変更になりました。新しい日程は8月27日~28日になりますのでご注意ください。

ペットと避難所

バックに普段から慣らしておかないと、いざというときに捕まえる騒ぎで時間が取られてしまう。

 ペットと一緒に避難するということは、ここ最近さまざまなところでPRされていることもあって割と知られてきています。
 では、避難所の受け入れの方はというと、案外と体制ができていないというのが現実のようです。
 ペットといっても、避難所運営側のイメージは犬や猫、小鳥といった感じで、とりあえず場所を一つ準備しておけばといった感じで、そこまで熱心ではないようです。
 ただ、一口にペットといっても飼っている生き物はさまざまで、犬や猫、鳥だけではなく、は虫類や両生類、魚、虫といったものまで、飼っている人の趣味の幅がかなり広いので、実際に受け入れるとなると大事になります。
 例えば、避難者と避難したペットを別々に収容する同行避難で考えてみます。
 避難してきた小鳥と猫を一緒の部屋に入れたとすると、鳥はかなり落ち着かないでしょうし、猫も大騒ぎになるでしょう。
 犬と猫を同じ部屋に入れたとしたら、恐らく鳴き声や威嚇の声で聞いている人達が落ち着かないと思います。
 では、ペットの数だけ部屋を準備すればいいのかと言えば、そもそもどんな生き物が避難してくるのかがわからないので準備のしようがありません。
 地域の避難訓練で避難してくる予定の人にどのようなペットをつれて避難してくるのかという情報を集めることはできますが、ややこしいペットを飼っている人ほど、こういった場には出てこないことが多いので、あとで揉めることが予想されます。
 そうすると飼い主と一緒に避難所のスペースにいる同伴避難ということになりますが、今度は生き物が苦手な人との間で対立が生まれてしまいます。
 蛇を飼っている人が蛇を連れて避難所のスペースにいたとしたら、蛇が嫌いな人は卒倒してしまうかもしれません。
 こんな風に、一口でペットと一緒に避難するといっても、簡単には事前準備ができないということを、避難する側も避難所を運営する側も知っておかなければいけません。
その上で、どのようなペットを受け入れないといけないのかや、自分の飼っているペットは避難所以外に避難する先が本当にないのかといった調査や調整もしておかないといけないでしょう。
 また、避難先をペットによって分けたり、ペットを収容する避難所と収容しない避難所を分けたりといった事前の準備も必要です。
 ペットを飼っている人は、ペットを生き残らせる責任がありますから、きちんと自分とペットが災害時にどのようにするのかについて、しっかりと考えて対策をしておいてください。

やさしい日本語を使えますか?

 災害に関する用語は結構難しい言葉が多くて、表現としては正しい事を言っているのですが、意味が伝わらなくて結局よくわからないといった事態になっていることが多いです。
 きちんと情報が伝わらなければ正しい判断や行動ができませんから、なるべくわかりやすいような言い回しをするのですが、そうすると今度は「その表現では正しくない」というご意見を頂戴したりします。
 ただ、災害時には「正しい表現」であることよりも、「現在の状況」が理解してもらえることの方がずっとずっと大切だと思っています。
 そのために上手な言い換えを日々試行錯誤しているのですが、とりあえず誰にでも理解できそうな言い回しとして「やさしい日本語」というのがあります。
 元々は日本に在留している日本語が充分には使えない人に対して情報を伝えるための言い換えなのですが、日本語が充分に使えない人に情報が伝わると言うことは、日本語が使える人にも意味は通じるはずです。
 情報はきちんと伝わって初めてその効果を発揮します。
 さまざまな言い換えがありますが、正確で無くても、それが何を伝えたいのかが理解できるように、お暇な時間にでも難しい言い回しをやさしく伝える「やさしい日本語」の言い換え練習をしてみると、いざというとき、役に立つかもしれません。
 少なくとも、避難所を運営する人やさまざまな災害復旧ボランティアをしようと考えている人は、この技術を身につけておくといいと思いますよ。

在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(文化庁のウェブサイトへ移動します)

【終了しました】【お知らせ】外あそびごはんの会を開催します。

 今年の2月、3月に開催して好評をいただいた外遊びごはんの会を、益田市喜阿弥町のデルマーレキアーミ様のご厚意で会場をお借りすることができ、開催することができることになりました。
 今回は海編ということで、うまくいくかはわかりませんが海水からの塩づくりや海辺で落ちている貝やいろいろなものを拾ってみるビーチコーミングなどをやってみたいと思っています。
 もし雨天の場合には、デルマーレキアーミ様の施設をお借りして、参加者みんなで生活できる避難所を作ってみたいと思っています。
 参加費は500円で募集は先着順ですが、以前の外あそびご飯の会開催時に新型コロナウイルス感染症の関係で急きょ参加できなくなった方を優先させていただきますので、それについてはご了承下さい。
 なお、当日は保護者カフェを同時開催します。こちらの飲み物はデルマーレキアーミ様のご厚意で無料で提供いたします。
 見知らぬ相手だからこそ本音で話せることもあります。お子様を送迎してきて一息ついていきませんか。
 応募や詳細の確認につきましては、添付のチラシをご覧下さい。ご参加をお待ちしております。