「ありときりぎりす」

 災害が起きて避難をしたとき、備えていた人と備えていなかった人には明確な差が発生します。
 備えていた人は非常用持ち出し袋を持ってきていて、避難所でもある程度は衣食住の保証された生活が送れますが、備えていなかった人は非常時に持ち出せる物もなく、着の身着のままで避難してくることになります。避難所では災害備蓄がされていない場所も多いですから、そういった人達は空腹や寒さ、情報枯渇等、ないないづくしに苦しむことになります。
 まさに自業自得なのですが、そういった人に限ってなぜか自分以外の何かを悪者にして攻撃をよくしています。その相手は行政だったり、避難所運営委員会だったり、自分の家族だったりするのですが、その中で、災害に備えていた人も標的にされるケースがよくあります。
 そういった人は「備えていることが悪」のような言い方をするのですが、自分が備えていなかった間抜けなのだと言うことに気づかない哀れな人ですから、相手にしてはいけません。
 「ありときりぎりす」のお話ではないですが、いざというときに備えていた人をそれまでさんざん馬鹿にして自分が備えなかったのですから、完全な自業自得。身体で備えるという大切さを覚えてもらうと思って下さい。
 ちなみに、行政が備蓄している災害支援物資は、何らかの理由で非常用持ち出し袋が持ち出せない人用に準備されているものです。
 住まいの市町村役場の防災計画には備蓄数量がきちんと明記されていますのでご確認いただきたいのですが、とても避難者全員に行き渡る量はありません。
 このことを理解しておかないと、避難さえすれば衣食住は保証されていると考えてしまうかもしれません。
 空腹と飢え、寒さで震えるきりぎりすにならずにすむように、今からでも遅くはないので非常用持ち出し袋の備えを行ってくださいね。

防災って何だろう?

 災害の定義を確認したところで、「防災ってなんだろう」ということを考えてみたいと思います。
 災害の定義は

「発生した自然事象+人が受けた被害」

でした。
 そうすると、防災は自然現象を起こさない対策と人が被害を受けない対策をすることになります。

1.自然現象を起こさない対策

 最初にお断りしておきますが、自然現象を起こさない対策も人が被害を受けない対策も、どちらも完璧にすることは困難です。
 例えば行政が行うハード面での防災対策は、起きうるであろう一定の条件が定められていて、それを防ぐための対策を行うという方法を取っています。
 具体的に言えば、10年に一度、あるいは30年に一度、50年、100年といった期間の中で過去もっともひどかった例を基本にして設定がされます。
 そのため、昨今のように極所に短時間で集中豪雨が起きたり、超巨大な台風が来たりすると「想定外」という言葉が出てきます。
 つまり想定外、言い換えると想定を超える事象が発生した場合には、想定を超える部分で被害が発生することになるわけです。
 最近は地球温暖化で雨や台風の被害が増加しているという話もありますが、地球温暖化対策を行うことも、この自然現象を起こさない対策に含まれることになります。

2.人が被害を受けない対策

 人が被害を受けない対策は、防災から見る優先順位としては「人の命を守る」ことが最優先で考えられるべき内容です、
 ただ、人の命を守ることが最優先だからといって、人の日々の生活を犠牲にしてまで命を守るという話になってくると、物理的に命は守れても経済的に死んでしまうということにもなりかねません。
 それでは意味がないので、被害を与えそうな自然事象が発生したときに命を守るための方法を準備しておくというのがここの目的になってきます。
 例えば、地震に備える視点で見ると、究極的に考えると日本から脱出して地殻の安定してほぼ地震の起きない北ヨーロッパやユーラシアなどに移住すれば考えなくてよくなりますが、多くの人はそんな選択肢はとれないと思います。
 では、地震が起きたら何が起きて命が危険にさらされるのかを考えてみます。
 地震の場合、地震の揺れで死ぬ人は殆どいないです。地震の結果、壊れた建物や家具などの重量物の下敷きになって圧死するか、または倒壊した建物に何かの火が引火して発生する火災による焼死か、はたまた地震で発生する津波や地滑りに巻き込まれるかといった地震によって引き起こされたものによって死んでしまうわけです。
 そうすると、地震が起きたときにそれらに対抗する方法を考えて準備しておけばいいことになります。
 例えば、建物の耐震化や居住空間の耐震化、感震ブレーカーを始めとする感震装置付きの各種器具を使うこと、津波を凌げる高台や避難ビルへの避難路の確保、地滑り対象地域からの生活空間の移転といった準備を行うことになるでしょう。 

 こうしてみていただくとわかると思いますが、防災には行政等がすべきことと自分でやらないと誰もやってくれないことがあることがわかると思います。
 あなたが被害を受けないようにするためには、あなたが自分のために災害に備える準備をしていく必要がありますが、あなたは何から備えますか。

災害って何だろう?

 あまりに初歩的なことで申し訳ないのですが、一つ質問です。
 あなたにとって、「災害」とはどんなことでしょうか。
 いろいろと思い浮かぶのではないかと思うのですが、恐らく何らかの形で人が被害を受けているイメージになったのではないでしょうか。
 人が立ち入らないような山の中で起きた土砂崩れや、何も無い岩でできた島が津波に飲まれるようなイメージを思い浮かべた人はいないと思います。
 一般的に言われている災害の定義としては、

自然事象で起きる天変地異+人が受ける被害=災害

となると思います。
 例えば、崖崩れで考えてみます。
 同じ崖崩れでも、人の住む地域で道路の寸断や家屋を巻き込むような崖崩れが起きたら大騒ぎになりますが、山の奥深くで発生した崖崩れは、恐らく誰も気づかないのではないでしょうか。
 ちょっと余談になりますが、今世間で大問題になっている新型コロナウイルス感染症も同じことが言えます。コロナウイルスの変異自体は普段から頻繁に起きているものですが、人間に悪影響を与えるものが発生したので現在のような災害になっているわけです。
 こうして考えてみると、自然現象で起きる天変地異は止めようがありませんが、人が受ける被害を減らせば「災害」にはならないと考えられないでしょうか。
 最初の崖崩れでは、それが起きないように防護壁をつくったり、危ない場所への建築制限をかけたりしているわけですし、新型コロナウイルス感染症については、コロナウイルスの撲滅は不可能ですから、ワクチンを射って人に耐性をつけることで被害を防ごうとしているわけです。
 被害が起きる前になるべく被害の発生を押さえるための備えをすることが、一番簡単で確実な災害対策になると思うのですが、あなたの備えは大丈夫ですか。

【お知らせ】特定非営利活動法人になりました

 このたび、2021年1月15日をもって当石西防災研究所は特定非営利活動法人になりました。
 法人成りして何が変わるわけではないのですが、活動内容に問題ないというお墨付きをいただいたと考え、この団体を維持できるように努力していきたいと思います。
 今後とも個人の方、ご家庭、学校や保育園などの施設、自治会を中心に地道に活動していきたいと考えておりますので、引き続きご協力をよろしくお願いいたします。
 なお、今回の法人成りに伴い、今後このウェブサイトにいくつか変更を行いますので、突然一部のレイアウトやリンクが変更になっているかもしれませんが、驚かれないようにお願いしたいと思います。
 繰り返しのお願いになりますが、石西防災研究所を今後ともよろしくお願いいたします。

意識しないと見えていないもの

先般の大雪のときのことです。
当所の理事長が出勤しようとして車に乗り込み、エンジンをかけるとすぐに声をかけてきました。
曰く「見たことのないランプが点灯している。寒すぎるからに違いない」
寒さでつくランプというとあまり印象になかったので、参考までに見せてもらったのですが、ついていたランプは水温計の低温を示す青ランプ。

水温計のない車には装備されている水温チェックの青ランプ。気づかない人は気づかない。

 このランプ、水温表示を表しているもので、エンジンが暖まるまではいつも点灯しているはずなのですが、理事長は初めて見たと言っていました。
 説明したら、「今まで気づかなかったのかな」と首を傾げていましたが、この車に乗り始めてすでに10年近く。気づいていないことに驚いていました。疑っていましたが、筆者が乗るときには必ず点灯するランプなので、普段見ていても、見えていなかったのだろうなという話になりました。
 災害対策も同じことで、危ない場所や危険な物は隠れているわけではなく、常に目で見ています。
 それでも気づかないのは、今回の水温計ランプと一緒で意識が向いていないからなのでしょう。
 災害に対する事前準備は、その気にならないと必要なものが見えてきません。
 もしも、まだあなたが何も備えていないのであれば、もし災害が起きたらと想定して周囲を見てみて下さい。
 たぶん、今までと見える世界が大きく異なってくると思いますよ。

【活動報告】高津小学校防災クラブを開催しました。

 去る1月20日、益田市立高津小学校において1月の防災クラブを開催させていただきました。
 今回は地震にまつわる内容で、地震で倒れる建物の倒れる原因である地面の固さと建物の耐震補強について説明しました。
地面については新潟地震で倒れた県営住宅を例に挙げ、建物がしっかりしていても、地盤をしっかりさせていないと建物が倒れてしまうことをお話しし、プリンを使った弱い地盤の映像を見てもらいました。

実際に使った映像。当研究所ではyoutubeにも動画を投稿しています。

 それから、その後には建物をどうやったら強くできるのかということで、ストローとクリップを使って建物のような四角形を作ってもらい、それを倒れないようにする方法を考えてもらいました。

クリップがしっかり止まらないので組み立てる端から壊れてしまい、結構ストレスが溜まります。

 準備段階ではチームを作ってやる予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症の流行が再燃しつつあることから、個人で作ってもらうことに変更しましたが、そうなると器用な子不器用な子が出てきて、もやもやの溜まったクラブ活動になってしまったと反省しています。

三角形だと自立することに気づいて友達同士で組み立てを助け合う姿も見られた。

 最後は建物の面を三角形で構成すると建物が強くなることや、壁全体で支える2×4という工法についても紙を使って説明してみました。
 かなり拙い説明だったので理解してもらえたかどうかはわかりませんが、何かのときに思い出してくれればいいなと思います。
 毎回参加してくれる子ども達と、担当の先生にお礼申し上げます。

「どこでもシェイクアウト」の勧め

机の下でダンゴムシ
机の下でダンゴムシはお約束です

 最近あちらこちらで地震が起きていますが、とっさのときに身を守る行動が取れるかどうかは普段それを意識しているかどうかにかかっています。
 普段の自信対応訓練では「机の下に入る」と習慣付いている方も多いと思いますが、もし道路の上で地震に遭遇したらどうしますか。
 道路の上に机はありません。どのような行動を取ると身の安全の確保をすることができるでしょうか。
 それを身につけるために、「どこでもシェイクアウト」をやってみることをお勧めします。
 「シェイクアウト」とは、2008年にアメリカで始まったとされる地震防災訓練のことで、「地震を振り払う」という意味で作られた造語だそうです。
 内容は地震の際に身を守る行動3原則を1分間で行うもので、具体的なアクションは

1.姿勢を低くする

2.頭や体を守る

3.揺れがおさまるまでじっとしている

という流れになっています。
 シェイクアウト訓練自体は多くの人が同時に短時間でやる訓練のようですが、別に一人でやってはいけないというルールはありません。
 例えば普段の生活の中で、「今ここで地震が起きたら、身を守る行動3原則をどのように取ればいいのか」を考え、実際に体を動かしてみることでできるかどうかを判断し、どうすればより身の安全な確保できるのかについて考えておけば、いざというときに考えずに身を守る行動を取ることができます。
 外出先や、ふとしたときにやってみることで、身を守るための行動の経験値が溜まっていきますから、いざというときに身を守る行動が取りやすくなります。
 周辺の状況や置かれているもの、人の流れなどで安全な場所や身を守る行動はいろいろと変わっていきますので、あらゆるところで一度やってみて、実際にそう動くとどうなるのかについて考えてみてください。
 自信が無い場合には、最初は防災をよく知っている人と一緒にやってみるといいと思います。
 自分では安全が確保できたと思っていても、窓ガラスやつり天井が落ちてきたり、ものが飛んでくる可能性があったりと、意外なものが凶器になることに気がつけると思います。
 もちろん当研究所でもシェイクアウト訓練のお手伝いをすることはできますので、ご希望があればお問い合わせください。

待つのはつらい

 災害時に、その災害がいつまで続くのかがわからないのは非常に不安なものです。災害後において受け身でいることは非常につらいことです。
 例えば大規模な台風が通過している地域では、テレビやラジオなどをつけっぱなしにして、いつ頃その場所が台風の勢力圏を抜けるのかを気にしているのではないでしょうか。
 情報収集する手段を持たず、ひたすらじっとしているところを想像してみてください。なんともいえない不安に襲われているのではないでしょうか。
 それでも、災害はいつか終わりが必ずあるからじっとしていることができます。
 でも、もし災害でいつまで続くのかわからない状態になっているとしたら、人の行動はどう変わるでしょうか。
 例えば、現在新型コロナウイルス感染症対策として外出自粛が呼びかけられています。一応期限は設定されていますが、これはいつまで続くのか、具体的な期日は誰にも予測できていません。
 春先に初めて非常事態宣言が出されたとき、いつまで続くのだろうかという言い表せない不安が多くの人の心の中に居続けたのではないでしょうか。
 その後、夏に終息したと判断され、政府は経済活性化としてGoToキャンペーンを導入しましたが、これによって「もう待たなくても大丈夫」という安心感が発生しました。
 現在また非常事態宣言が出されて外出自粛が呼びかけられても反応が鈍いのは、再び期限がわからないままに待つ事への不安が大きいと思います。
 おまけにこの感染症、感染していても発症しないケースもかなりあり、それが事態をさらにややこしくしています。
 「コロナ疲れ」と言われていますが、待つことに疲れてしまって耐えられなった結果が現在の蔓延状態を生み出しているのではないかと感じています。
 繰り返しになりますが、先の見えない待ちは非常に不安ですし、その不安は疲労を生み出します。
 くたびれきってしまうと、同じ疲労を味わうのがいやな人達は言うことを聞かなくなります。
 そうならないためにも、しっかりとした目処をあらかじめ明確にしておくことが大切なのではないかという気がしています。

新型コロナだけじゃないウイルス対策

 新型コロナウイルス感染症対策で世の中は大騒ぎしていますが、通常の下痢嘔吐の風邪も流行ってきているようです。
 どうもアルコール消毒万能主義みたいな感じで、アルコール消毒さえしていれば大丈夫と勘違いされている向きも多いようですが、ウイルス対策の基本は石けんでの手洗いと充分な流水での洗浄です。
 それができていないと、アルコール耐性のあるウイルス対策はできていないということになり、違う風邪が流行るということになります。
 下痢嘔吐を引き起こすノロウイルスにはアルコール耐性を持ったものもいるようで、新型コロナウイルス感染症が流行る以前は「ノロウイルスはハイターなどの塩素系漂白剤で消毒する」ということがいわれていましたが、「しっかりとした手洗い=アルコール消毒」になってしまっていることで、ノロウイルスが流行するかもしれません。
 だじゃれになりますが、「吐いたらハイターで消毒」と覚えておいてくださいね。
 ちなみに、ハイターには塩素系漂白剤のハイターと、酸素系漂白剤のワイドハイターがあるので、表示をきちんと見て「塩素系漂白剤」の方を使ってください。
 また、ハイターでなくても塩素系漂白剤であればしっかりと消毒できますので、誤解のないようにお願いします。
消毒液の作り方は以下のとおりですが、保管期間が長いと作り方どおりに作っても充分な濃度になっていない可能性がありますのでご注意ください。


花王さんのウェブサイトではそのあたりもふまえた花王の塩素系漂白剤での消毒液の作り方が出ていますので、そちらも参考にしていただければと思います。

塩素系漂白剤で消毒液を作る方法(花王のウェブサイトへ移動します)

母乳と乳児用ミルク

液体ミルクの一例。消費期限や内容量、味などがかなり異なるので普段使わない人は事前に試しておいた方がいい。

 災害発生後、母乳で子育てをしている方の中には被災したという精神的なストレスから母乳が一時的に止まってしまうことがあります。
 また、摂取する水分量が少なくなると、母乳が詰まりやすくなって出にくくなることもあります。
 そんなときに備えて、平時に乳児用ミルクが飲めるかどうか、どこのメーカーのどんな種類が好きなのかを試しておくことをお勧めします。
 母乳育ちの子に限りませんが、乳児も自分の好きな味や嫌いな味があります。大人でも食べ物の好き嫌いがあるのですから、乳児も好き嫌いがあって当たり前です。
 各メーカー、それぞれに特色のある乳児用ミルクを販売していて、味もかなり違いますのでお子さんの好みの味を見つけておくようにしましょう。
 また、水が手に入らないときには液体ミルクを使用することがあるかもしれません。災害支援物資として、乳児用ミルクは最初液体ミルクが送られてくることが多いようなので、各社の液体ミルクを手に入る範囲で試しておくことも忘れないでください。
 災害時だからこそ、母乳でも乳児用ミルクでも乳児にしっかりと飲んでもらって、普段と異なる環境のなかでもしっかりと育ってもらうことが重要となります。
 また、離乳食も同様で、普段手作りのおうちでも避難所では手作りすることは難しいですから、平時に市販の離乳食を試してみることで、被災時でも食べてくれる離乳食を準備することができます。
 離乳食もメーカーによって味が全く異なるので、ぜひお子さんの好みの味を見つけてください。
 筆者の家でも、離乳食の時期にはさまざまなメーカーのものを試してみましたが、よく食べるもの、まったく食べないものがいろいろとあってとても面白かったのを覚えています。
 乳幼児は成長段階に応じて、飲むもの食べるものの種類や量が変わっていきますから、一度決めて終わりではなく、その都度いろいろと試しておくことをお勧めします。