当事者の災害、他者の災害

 災害というのは思ったよりも復旧に時間がかかるものです。ただ、マスメディアに取り上げられなくなり、災害の跡が片付いて行き、時間が経過していくとだんだんと人々の記憶からは忘れ去られていくものです。

 でも、被災した当事者はなかなかそうは行きません。自分の生活を取り戻し、日常を取り戻したように見えても、心の中の整理はなかなかつくものではありませんから、ここにギャップが生じてきます。周囲はその災害を忘れてしまったように普通の日々を過ごしているのに、自分だけは被災した日から時間が進んでいない。特に高齢者の方は、被災し、さまざまなものを失い、呆然としている中で周りだけが変化して、自分だけが取り残されていく。相談する相手もなく、人と会いたくなくなって、俗に言う「震災関連死」の1人になってしまう。これではあまりに悲しすぎます。

 ハード面では復旧しているかもしれませんが、急激な変化についていけない人たちに対してどんな対応をしていけばいいのか、立て続く災害の中で、行政も地域も問われているのではないのかなという気がします。

リップスティックでろうそくを作ってみた

 寒くなってくると空気が乾燥してきます。唇が切れることも多くなるので、リップスティックは必需品。というわけで、今年も仕入れてきました。

 パッケージを眺めていると、ふと気になる「ワセリン」という文字。ワセリンは石油から作られている保湿剤の一つなのですが、パラフィンの一種、つまり燃料になる材質でできています。
 ・・・もしかして、真ん中に芯を刺したらろうそくが作れるんじゃなかろうか。
 というわけで、試しにろうそくを作ってみることにしました。

 材料は、リップスティック、芯用のたこ糸、そしてはさみ。

 リップスティックは案外と柔らかいので作業はスティックケースの中でやりたいところですが、中央部に押し上げるねじがついているので、ケースから頭を出しておきます。
 お試しなので芯となるたこ糸は短めに切ります。そのままだと糸が太すぎるので、撚ってあるうちの一本を抜き取って芯にします。

 リップスティックの中央部に押しピンで穴を開け、そこにたこ糸を押し込むと、
なんとなくそれっぽいものができました。

 火をつけてみると・・・。

 ちゃんとろうそくになってます。火力はろうそくよりも強いです。
 ただ、その分リップスティックの消費も早い感じで、1分経たないうちにパラフィンが流出を始めました。
 メントールが助燃剤になっているのでしょうか?


 ともかく、いちおう予測通りろうそくにはなりました。火を消して試してみましたが、いちおうリップスティックとしても使えました。
 結論ですが、リップスティックはろうそくとして使うことは可能そうです。ただ、燃焼速度が速いので、ろうそくとして使うときにはケースから出して使った方が安全かもしれません。目方が少なく燃焼時間が短いので、あくまでもろうそくがなくて明かりが欲しいときの一つの応急的な手段として使えるかもしれないといったところです。
 他にもワセリンが含まれているものは燃料として使えるはずなので、また近いうちに試してみたいと思います。
 あ、もしもやってみようという奇特な方がいらっしゃる場合には、自己責任であることと、周囲の安全確保をしていただくようにお願いいたします。

災害ボランティアと破傷風

 一口に「災害ボランティア」といっても、その内容は多岐にわたります。
 でも、多くの人がイメージする災害ボランティアというのは、恐らくはゴミ出しや泥出しといった被災者のお片付けのお手伝いではないでしょうか。地震であれ水害であれ、多くの災害ではさまざまなゴミや泥が発生します。そして生活空間を取り戻すためには、まずそれらを片付けるという作業が必要です。これは短期間でやる必要があることが多いので、人海戦術となります。ただ、殆ど手作業ですから特殊な技能や知識も必要ありませんし、老若男女問わずに誰でもできる作業です。結果、多くの災害ボランティアがこの作業に従事することになりますが、作業でよく起きるのが切り傷や擦り傷と言った怪我です。
 被災現場はさまざまな理由で雑菌などが大量発生していることが多く、感染すれば命に関わるような細菌に感染する確率が高くなっていたりします。特に破傷風菌はちょっとした擦り傷や切り傷の傷口から感染しますから、ボランティアに参加する人はきちんとした対応策をとっておく必要があります。
 一つには、肌を露出させないこと。長袖長ズボン、マスク、手袋、長靴、帽子を着用し、なるべく肌をさらさないようにすることで、怪我を防ぎます。
 次に破傷風ワクチンを接種しておくこと。破傷風ワクチンは現在でこそ接種項目に加えられていますが、昭和44年以前は接種するワクチンではありませんでした。そのため、ある年齢以上の方は破傷風に対する免疫が無い状態になっています。破傷風ワクチン自体は、初めて接種する場合には最初に3回ほど続けて射つ必要がありますが、あとは10年に1回程度接種すればしっかりとした効果が維持できるもので、接種をきちんと行えば、ほぼ破傷風にかかる可能性はなくなるという便利なワクチンです。破傷風はかかったからといって抗体を得ることができるわけではないようで、唯一抗体を得ることができるのがこのワクチン接種なのだそうです。 破傷風は発症がわかりにくいこともあり、気づいたときには重症化していることも多い病気ですので、予防するに超したことはありません。
 詳しくはかかりつけのお医者様に確認していただければと思いますが、万が一に備えて、ボランティアをされる方は接種しておいた方がいいと思います。
 特に災害ボランティアを趣味にしておられる熟年層は、抗体を持っていないことも考えられますので、楽しくボランティア活動を続けるためにも、ワクチンの接種を検討してください。
 なお、破傷風菌自体は口から感染することはありませんので、念のため追記しておきます。

どうやって暖をとるか

 だんだんと寒くなってきて、世の中は冬です。
 こんなときに災害が起きたら、どうやって暖をとったらいいか、あなたは考えたことがありますか。
 ある程度の田舎まで行くと、燃やせる木や草がたくさんありますから、それを燃え移らない場所まで運んでいって焚き火をすれば充分に暖を取ることができます。
また、地震など状況によっては倒壊した家を薪代わりに使うこともできるでしょう。
では、都会地ではどうでしょうか。身の回りを見回して、何か燃やせるものがあるかどうかを考えてみてください。せいぜい公園の木や葉っぱというところでしょうが、圧倒的に燃やせるものが少ないのが現状です。倒壊するような家屋もさほどないでしょうし、冬に被災すると冷えと戦わなくてはならなくなります。
 寒さをしのぐには、風を遮って身体の周りから体温を逃がさないということを以前書きましたが、安定的に体温を維持しようと思ったら外部からの熱があるほうが有利です。
 例えば使い捨てカイロが一つあるだけでも、暖の取り方は全く変わってきます。また、安全対策の問題はありますがろうそくでも暖を取ることが可能です。外部からの熱量があると、身体で無理に熱を作る必要がなくなるので、体力を温存できて生存確率も上昇しますので、何か暖をとれる手段を考えておいてください。
 もしも何かを燃やして暖をとるのであれば、それに火をつける道具も念のために準備する必要があります。保存性を考えると、ライターよりはマッチの方がよさそうです。最近はやりのファイヤスターターもいざというときの備えとしては有効です。いずれにしても使い慣れないと火がつけられないので、しっかりと事前に練習をしておきましょう。
 ともあれ、いざというときにあなたの命をつないでくれる暖を取るための手段。しっかりと考えておいてくださいね。

指示待ちでは助からない

 災害発生時において最も重要なのは、自分で安全を判断できることです。
 ですが、この国に住んでいる多くの人は誰かの指示を待っている状態。例えば、行政の避難情報や消防団の巡回、テレビやラジオからの避難の呼びかけなど、誰かからの指示があって始めて避難するということが多いなと感じます。別に指示待ちは本人が決めたことなのでどうでもいいのですが、その結果としてその判断をした「自分以外の誰かが悪い」という状況を作り出してしまいます。
 結果的に避難が必要なかったような事例であれば、「あいつが逃げろと言ったから逃げたのに無駄な時間を使わせやがって」と文句の一つもいうようになり、その発言を聞いた人は、絶対に一緒に避難するもんかとと思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも、私は誘う気にはなりません。隣近所のつきあいがあって、避難しなければ死んでしまうだろうなと思ったとしても、です。
 確かに、災害で避難するか否かを判断するためにはいろいろな知識を取得して、判断するための情報に意識を向けておかなければなりません。それが面倒だという人もいらっしゃるでしょう。ただ、自分の命を自分以外の誰かの判断にゆだねると言うことは、もしもその判断が間違っていたときに、自分が死ぬことになってしまいます。また、みんなでどうしようと考えているうちに被災してしまう可能性もあります。
 避難するタイミングは人それぞれです。10人いれば10通りの判断基準があるわけなので、自分で自分の判断基準を定めて逃げ方なども決めておきたいですね。
「自分の命は自分で守る」
 こと災害に関しては、まずは自分の安全の確保が第一になります。こういったことを書くといろいろと言われてしまうのですが、自分が安全でなければ人の救助などできるわけがありません。
 繰り返しになりますが、指示待ちではなく、自分の命は自分で守ることを基本にして、ご自身の防災計画を策定していただければなと思っています。

「やさしい日本語」はみんなにわかりやすい

 最近の災害報道では、以前のように難しい言葉や字幕を使わないことが増えています。特に危険が迫っているときには「今何が起きているのか?」と「どうすればいいのか」だけ伝われば行動にはうつしてもらえます。それが目的です。また、文字が読めない人もいますので、アナウンサーがやはり同じ条件で、普段と異なり少しだけ感情を込めて「高いところへ逃げてください」などと具体的かつわかりやすく伝えています。
 では災害後はどうかというと、行政から発信される情報は、残念ながら難しい言い回しでかかれていることが殆どで、日本語の理解が十分でない人には非常にわかりにくいものになっています。
 そのため、災害後には行政が発表する各種情報を「やさしい日本語」に置き換えて誰もが言いたいことがわかる作業をするボランティアが必要となってきます。
 特に外国から働きに来ている人は普段の生活で使っている日本語くらいしかわかりませんので、どうやって伝えるかを試行錯誤して文章にしていくことになります。ただ、行政の出す情報はとにかく量が多い上に提供から支援開始までの時間が非常に短いという問題があり、ボランティアもやさしい日本語にする書類を選んで訳している状態です。でも、普通に書かれた行政からのお知らせをわかりやすい日本語に直すことは、日本語の知識のある人であれば基本的には誰でもできると思います。小さなニュアンスの違いは発生するとしても基本的な情報が伝わるか伝わらないかは、その後の行動に大きく差が出てきますから、快適な生活をするためにもその場にいる人たちがその処理ができるといいなぁと考えます。
 やさしい日本語は、いかに短いフレーズでいかに簡単にわかりやすく伝えるかを目的にしていますので、例えば避難所などではお年寄りと子どもが一緒になってこういう翻訳作業をすれば、言い回しや書き方など、ちょうどいい頭の体操になるのではないでしょうか。
 また、やさしい日本語は文字も大きく書くため、老眼にもやさしく、年寄りにも読み取れる程度の情報量です。
 誰にとってもメリットのある「やさしい日本語」。
 いざというときに備えて、日頃見ている文章を「やさしい日本語」にするとどういうフレーズになるのかを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
 島根国際センター発行の「やさしい日本語」のテキストをリンクしておきますので、興味のある方は是非ご一読ください。

災害対策とはなにか

 ここ最近の強烈な災害と発生している被害を考えれば、災害で発生する被害を皆無にするのが防災の仕事だと考える人はずいぶん減ってきたように感じていますが、「防災」つまり「災いを防ぐ」と書くと、災害からは100%守られるようなイメージを持たれてしまいます。そこで最近は「減災」という言い方に変わってきました。「災いを減らす」ことで、なんとかならないだろうかといったところでしょうか。
 もともと災害対策というのは「1.人の命を守る 2.人の財産を守る」ということを目的にして行われていますが、その前提条件は「避難するための時間を稼ぐ」こと。どんなに大規模な防災工事であっても、避難しなくてすむための工事というわけではないのです。なのに「避難しなくてもいい」と思い込んで災害に巻き込まれてしまったり、妙な安全神話が生まれてしまったりするのは、もしかしたら防災という言葉を使っていることに問題があるのかもしれません。
 ともあれ、災害対策というのはあくまでも人の命を守るための時間稼ぎをしているものだと考えて、危険な状況になりそうだと思ったら、早めに安全な場所に避難して自らの命を守ってください。あくまでも、自分の命を守るのは自分自身です。

モノではなく機能で考える

 災害対策ではよく物資をどのように準備するかということが考えられています。
 ただ、さまざまな物資を準備していても何らかの事情で用意したものが使えず、最悪身一つということも考えられます。そのときに起きるいろいろなことへの対策は、モノに注目するとあれもこれもないということになってげんなりしてしまいますので、機能に着目して考えるようにしましょう。
 例えば、防寒着としてダウンジャケットやスキーウェアがあれば最適ですが、それがないときには防寒という機能に注目します。寒さを防ぐためには熱を奪う風を通さないことと、体から発生する熱を逃がさないことが求められるわけですから、血管の面積が広い身体部分に風を当てないよう、大きなビニール袋に頭と腕が出るように穴を開けて着ます。これだけでも体感温度はずいぶんと変わりますが、身体から発生する熱を逃がさないよう、身体とビニール袋の間に空気の層を作れるよう、新聞紙や段ボールを巻き付ければ、簡単ですが効果的な防寒着ができあがります。
 昨日考えてみたトイレもそうで、一番いいのはトイレがそのまま使えることですが、トイレが使えないことにより発生する問題、そして解決したことにより発生する問題を考えていけば、そこまで絶望的な事態は起きづらいのではないかと考えます。この場合には、例えば発生する水分の吸収、においの吸収、汚物を見えないように処理する方法、何より排泄時に人に見られない手立てがなんとかなれば、トイレがなくても安心して排泄ができるわけです。
 繰り返しますが、困った出来事と、何に困っているのか、どんな条件が整えば困った出来事が解決できるのかを考えていけば、手持ちの資材や手に入る資材でかなりなんとかなってくると思います。また、防災グッズを準備するときには、機能を手に入れるためには相当な苦労が必要となりそうなものから優先して準備しておけば、非常用持ち出し袋や非常用備蓄品を使うときにでも助かるものですから、災害対策で物資を備えるときにも参考にしてみてくださいね。

トイレの回数と携帯トイレ

携帯トイレ各種
携帯トイレには持ち歩いて使える携帯トイレと便座を利用する簡易トイレがある。

 唐突ですが、あなたは自分が一日に何回トイレに行って排泄をしているか知っていますか。
 というのも、災害が起きて水道が止まってしまうとトイレに行っても水が流せなくなるので、携帯トイレを準備しておく必要があります。そのとき、自分が一日にどれくらいの量を排泄しているのかによって、準備しておくべき携帯トイレの数や量が変わってきます。
 トイレに流せる水を確保できるようになるまでには結構時間がかかることが多いので、少なくとも3日~1週間分は準備しておいた方が無難です。ただ、トイレについては案外と意識がいかないものらしく、準備していても1日分という方が多いようです。
 くみ取り式のトイレであれば風呂の残り湯程度でなんとかなりそうですが、水洗式はそういうわけにいきませんので、市販の携帯トイレを準備するか、または猫砂や手作りトイレといったものを準備して使えるようにしておかないといけません。
 携帯トイレは使い慣れないとこぼれたりして手が汚れること多いですから、水が使える平時に一度使ってみて、使い方をしっかりと覚えておく必要があります。特に女性の場合には必須と考えていただいていいと思います。
 また、避難所などに避難した場合には、使うための目隠しも必要になってきます。断水しているときに使われて汚物まみれにならないように、通常水が出るようになるまではトイレは封鎖されることが殆どです。そのとき、公衆の面前でするわけにはいきませんので、携帯トイレとあわせて目隠し用の道具も準備しておくと安心です。携帯トイレセットの中にはそういったものが準備されているものもありますので、忘れそうな人はそういったものを準備しておくこともよいと思います。
 食事は我慢できますが、トイレに関しては我慢はできません。
 食事や水、保温についても重要ですが、携帯トイレについても自分のトイレの利用回数を考えたものを準備品の中に加えておいてくださいね。

防災缶を開けてみた

 以前に名古屋市港防災センターに出かけたとき、受付で売っていたので買っていた「防災士が考えた防災缶」。
 パッケージには、中にろうそく、マッチ、手袋(白手袋、ポリ手袋各1)、マスク、ホイッスル、ビニール袋が入っていることが書かれています。
 非常時に使う用として大事に保管していたのですが、具体的にどんなものが入っているかどうしても気になったので開けてみることにしました。

 ビニールの開閉自在の蓋と、その下は缶切り不要のプルトップがついています。

 これを引っ張って開けてみると、中はこんな風になっています。

 品物を取り出してみると、こんな感じ。

手袋が軍手ではなく白手袋。軍手だと嵩張るからだと思われる。

 当たり前ですが、缶の外側に書かれていた内容物がきちんと納められています。
 ただ、イマイチこれらのアイテムをどういう風に使うのかがピンときませんでした。パッケージの説明にはそれぞれのアイテムをどんな風に使うのかが書いてあるのですが関連性がよくわからない。どのアイテムも被災後に使うものではあるのですが、それぞれ使う時点が異なるアイテムが一緒に納められているような気がします。
 以前に防災ポーチを作ったことがありますが、そちらは「被災してから避難するまでのアイテム」という明確な設定があったのですが、防災缶はいろいろなシーンに思い出して使ってねといったイメージ。
 もちろんいらないものは入っていませんし内容物的に腐るものも入っていませんので、缶が駄目になるまでは保管もしっかりとできそうです。
 で、これらのアイテムを見ていて、うちの研究員が首を傾げて一言。
「このマッチ、どうやって使うんですかね?」
 ・・・とりあえずはそこから説明が必要そうです。