避難所設営基本の「き」その4・ルール作りと名簿の準備をする

 区画整理まで終わったら、次は避難者と管理運営者がお互いに守るべき基本的なルールを作っておきましょう。
 例えば「避難所に入るときには靴を脱ぐ」は避難したときからルール化しておかないと、途中で切り替えるのは大変です。
 その1からその3までで触れたような内容や、その施設特有のルールを取り込んだ「避難上の注意」を作成しておきましょう。
 また、避難所にあるものと避難者が持ってくるものも決めておいて事前に知らせておく必要があります。
 避難所は「避難するための場所貸し」でしかないのですが、未だに「避難所は無料のホテルで体一つで行けばいい」といった誤った認識を持っている方がいらっしゃるので、地域の人達への周知は絶対に必要です。
 また、避難所設営時にルールを入り口に大きく掲示しておくと「言った」「言わない」で揉めなくてすむのでお勧めです。

 ルールというと、避難所に避難してきた人の避難者リストは可能な限り早く作成しておく必要があります。
 このリストがあるとないとでは、後々の作業がかなり変わってきますので、避難者の収容がある程度完了した段階でリスト作りを行いましょう。
 どこの誰が避難しているのかということと、避難所から出るときには、いつどこへ出たのかということが管理運営者にわかるようにしておきます。イメージとしては、避難所の住民票を作ると考えてください。
 作ったリストですが、避難者の中にはさまざまな事情から避難しているという情報を開示して欲しくない方もいらっしゃいます。
 少し手間ですが、リストができた段階でそういった方を外したリストを作成し、受付にはそちらを備え付けるようにします。
 そして、避難所は生活空間になりますので、出入りは必ず受付を通すこととし、避難所入居者以外が避難所内に入れないようにしておきます。
 面倒ですが、安全上必ず受付をしてから出入りするというルールも作っておかないと、避難所内部で窃盗などの犯罪が起きたり、マスメディアが勝手に入ってきたりと収拾がつかなくなってしまいます。

 事前のルール作りと設営後の名簿作り。どちらも大切な作業となりますので、管理運営者と避難所利用者の皆さんとでしっかりと詰めておきたいですね。

避難者と施設管理者がどちらも安全・安心に過ごすために必要なのが避難所ルールです。
細かな部分は時間が経つ毎に変わっていくと思いますが、基本的なルールだけは事前に管理運営者や地域の中でしっかりと話し合い、事前に決めておきましょう。

避難所設営基本の「き」その3・区画整理をしよう

 避難所設営でもっとも怖いのはトイレの問題なので一番最初に書きましたが、最初はそれほどでなくてもじわじわと影響が出てくる問題として、避難者の居住スペースがあります。
 一時的な避難である避難場所としての活動なら、とりあえず入れるだけ押し込めてもいいのですが、生活空間となる避難所として考えたとき、発生するであろういくつかの問題は最初に手を打っておくことで解決することが可能です。
 今回は避難所設営でトイレの次に重要な区画整理について書いてみたいと思います。
 区画整理は、ある一定の空間のどこに何を配置するということを整理する作業ですが、大きく分けると

1.立ち入り禁止エリアを設定する
2.居住許可空間は最初から決めておく
3.壁際は必ず空ける

の3つになります。

1.立ち入り禁止エリアを設定する

 避難所として専用設計された施設ならともかく、通常は他のことに使っている施設を避難所にするわけですから、一般の人には入って欲しくないエリアが必ずあると思います。
 例えば、事務室や会議室など、施設の機能復旧や避難所運営に必要と考えられるスペースは最初に確保して避難者が使わないように処置をしておかないといけません。
 また、授乳施設や医務室、発病者の収容エリアなど、無いと困る場所についても立ち入り禁止エリアに指定しておきます。
 嫌な書き方になりますが、一度解放した部屋や場所は、そこからどけて欲しいと思っても、なかなかうまく行かないものです。不毛な移転交渉に時間を取られるわけにいきませんので、最初から使えないようにしておきましょう。
 もしも避難者が溢れたとしても、心を鬼にして立ち入り禁止エリアは確保するようにしてください。そうでないと、後々管理運営者が泣くことになります。

2.居住許可エリアは最初から決めておく

 居住エリアは最初に設定をしておきます。国際的な難民支援マニュアルであるスフィア基準に照らすと、避難者には一人最低1×2mの空間が必要とされますので、その計算から収容できる人数を決定します。
 3にもつながる話ですが、居住許可エリアは最初からござやブルーシートなどを敷いて一目でわかるように場所を指定し、それ以外のところは居住禁止とします。見て分かるようにしておかないと、それぞれ好き勝手に居住空間の設営を始めてしまうので、それを防ぐためにも誘導時に「シートやござのある場所でお過ごし下さい」といった案内をするとよいでしょう。
 廊下や階段、出入り口付近はできるだけ空けるようにし、家族と家族の間には通路またはパーテーションで仕切りを入れるようにします。
 衛生環境を考えると、生活空間では基本は土足禁止とします。そうでない場合には居住エリアの高さを床よりも高めにしてください。
 これは被災地を歩き回った靴についている埃や塵、細かいごみといったものを床に寝ている人が吸い込まないようにするための措置で、あるならば段ボールベッドの上を居住空間にするともっとよいです。
 そして通路は、居住許可エリアの広さにもよりますが、広い場所なら車いすがすれ違えるくらい、狭い場所でも車いすが通れるくらいの幅は最低限確保するように設計して下さい。

3.壁際は必ず空ける

 人間の習性というのは面白いもので、個人の判断に任せると、殆どの場合壁際から居住空間が埋まっていきます。
 でも、移動や掃除の手間、後々の資機材の配置などを考えると、壁側を通路としておくほうが使い勝手がいいですし、歩行困難の人も壁を伝って歩くことが可能なので、移動がしやすくなります。
 2の居住許可エリアを設定するときには、ござやブルーシートで場所をはっきりさせると書きましたが、この場所を指定しているござやブルーシートは養生テープなどでしっかりと固定し、簡単に移動ができないようにしておきます。
 そうしないと、これらを持って壁際に移動する人が絶対に出てくるからです。
 壁際は空けること。そして壁面から居住許可エリアの間の通路は、2でも書きましたが車いすがすれ違えるくらいの幅がとれれば理想です。

 とりあえずはこの3つを考えながらご自身の避難所の設計図を作ってみて下さい。
 その上で収容人員を割り出してみると、自治体が作っている避難計画よりも収容人数がずいぶん少なくなることがご理解いただけると思います。
 避難所で安全そしてストレスを少なく過ごす気であれば、管理運営者は避難所の収容人員を超える避難者の収容はしないようにすることです。
 場合によっては、避難者の優先順位をつけてもいいかもしれません。
 大切なのは、区画整理の内容についてはその避難所を使う可能性のある地域にしっかりと共有しておくことです
 そうすることで、避難のタイミングによっては収容できないことがあると言うことがわかるはずですので、避難するための動機付けにもなります。

避難所設営基本の「き」その2・管理者と運営者を決める

 前回は避難所のトイレ問題について書きました。
 今回は避難所の管理者・運営者のお話です。
 避難所に指定される施設というのは、学校や公共施設が圧倒的に多いのですが、避難所の管理者と運営者がきちんと定められている場所は少ないのではないかと思っています。
 集会所のような小さな地域の小さな施設であれば、その地域の自治会が管理者と運営者を兼ねることも多いと思うのですが、少し大きい施設になると管理者と運営者をしっかり決めておかないと、運用が開始されると途端に混乱が起きることになります。
 特に指定避難所の場合には「地域の被災避難者の住居」と「被災者の支援を行うための物資集積所」という二面の性格を持っていますので、なおさら整理しておかないとややこしい事態を招きます。
 例えば、避難者が自主的に避難所の管理運営組織を作ったとすると、被災避難者の住居としての維持管理はできるようになりますが、被災者の支援を行うための物資集積所の管理・運営は念頭にないので、送られてきた物資を巡って地域内にも配るのか、避難所だけで使うのかという判断に困る内容が一気にあふれ出ることになってしまいます。
 また、管理者や運営者がきちんと決められていない場合には、その施設の管理者がなし崩し的に施設運営者になってしまって、本来その施設の復旧をすべき立場の人達が避難所運営に手を取られて復旧ができなくなるという事態が起こります。
 避難所の設置者は市町村なのでよいとして、設置した後の管理者は誰か、そして運営者は誰がするのかについてあらかじめ決めておくことで、入り口以前での躓きを防ぐことができるのです。
 別に避難所になった場所の元々の管理者が管理・運営者になっても構いませんし、自主防災組織や自治会が管理・運営することになってもいいと思います。
 事前にここを決めておくのは、発災後に管理・運営者を決めようとすると絶対にトラブルが起きてまともに決まらないからです。
 管理者と運営者を明確化し、「避難所としての管理・運営」と「物資集積所としての管理・運営」が確実にできるようにしておきたいですね。
ちなみに、管理者と運営者を定めるときにはローテーションについても整理しておきましょう。
一人の人が毎日24時間避難所運営をし続けることは正直に言って無理ですので、一日8時間を目安に管理・運営部門の勤務交代を念頭に入れてローテーション表を組むようにしてください。
もちろん表の通りに進むことはまずないと思いますが、交代することがしっかりと認識されている場合には管理・運営に従事する人達の士気もそれなりに維持できます。
管理者・運営者をはっきりさせてから、避難所の設営についての検討を始めるようにしてくださいね。

避難所設営基本の「き」その1・まず何をするか

 避難所の設営についてご質問をいただくことがあります。
 その時に最初に確認する内容、なんだかわかりますか。
 それは「施設の水源とトイレ」です。
 災害が発生して避難所を設営するとき、一番盲点になる部分であり、そして一番最初に問題が発生し、場合によっては最後まで問題になるもの。
 それがトイレ問題です。
 極端なことを書けば、くみ取り式で水を使わないストレート式、いわゆるボットン便所ならば通常使用で問題ありませんし、タンクレスの便器を使った下水道方式の2階以上のトイレであれば、問答無用で使用禁止を言い渡します。
 わかりやすく書くと、排泄物の処理に水が必要なのかどうか、そして一回に必要な水の量はどれくらいで、どの程度、どうすれば確保できるのかが問題になるということです。
 どんな人でもトイレは我慢できませんし、避難してきた被災者はトイレが使えなくなるということはまず考えていませんので、断水するとあっという間にトイレが汚物まみれの不衛生な場所になってしまいます。
 それを防ぐためには、災害時にトイレを使うことが可能なのかどうか、使えるとするとどうやったら使うことが可能になるのか、また、使えないのであればどのような手段を使ってトイレを作るのかということを事前に準備しておく必要があるのです。
 ざっくりとしたイメージですが、水洗トイレの場合、通常8~18リットルの水が一回の利用で必要となります。
 安全を考えると、10リットル以上の水が常時確保できないのであれば、水洗トイレは使うべきではありません。
 中途半端な水量だと、使用したトイレットペーパーが詰まって汚水があふれ出してしまうからです。水に溶けやすく作られているトイレットペーパーではありますが、それも水量が充分にある場合のこと。そうでなければ、溶け残ったものが固まってしまって汚水管を詰まらせてしまう原因になります。
 もしも水洗式のトイレであれば、タンク式でなんらかの方法でタンクを常に満水にできる条件が整っているのであれば、1階部分のトイレは使用可としてよいと思います。
 地震に限っては、2階以上は使用不可。これは汚水管が破損して漏水していた場合には階下が汚物まみれになってしまうからです。汚水管の点検が終わるまでは、2階以上のトイレは使わないようにしてください。
 最近は節水型と言うことでタンクレスの水洗トイレも増えていますが、タンクレスの場合には便器に直接水を入れるとうまく流れないものもあるようですので、あらかじめ便器メーカーにバケツで水を流した場合にきちんと排水ができるかどうかを確認しておいてください。
 ではトイレが使えない場合にはどうするかですが、トイレを閉鎖して、別に簡易トイレを設営するしかありません。
 これは、使ってはいけないトイレの中に簡易トイレを設置すると、通常通りの使い方をしてしまった場合に汚物が溢れて仮設トイレごと駄目になってしまうことが起こり得るためです。
 簡易トイレキットを複数準備し、設営場所を確保し、取り扱いにも習熟しておくことをお勧めします。
 飲食は我慢できても、人間の生理として、排泄は絶対に止めることができません。
 衛生環境を少しでも維持するため、まず避難所のトイレ問題からしっかりと検討し、備えておくことをお勧めします。