被災者の心理について考える

 「災害」というのは非常事態ですが、被災後のあれこれは日常生活に組み込まれていきます。
 災害が起きてから完全復旧するまでにどのような精神状態になってくるのかについて、今日は考えてみたいと思います。

1.被災直後

 災害で自分はどうなってしまうのかという不安が中心です。
 自分の安全が確保されると、家族や友人、近所の人の安否、そして自分の財産、地域の状態という風に、安全が確保されて行くにしたがって意識が広がっていきます。
 連絡の取れない人や、残念ながら亡くなってしまった方がいるような場合だと、多くの人の意識はそこで止まってしまいます。

2.被災してから1週間程度まで

 自分や家族の命を繋いでいくことや、家の片付けなどに追われます。
 なんでも自分でやらなければと言う意識になったり、災害をなかったことにする逃避行動などが見られるようになるのはこの時期からです。
 これからどうするのか、どうしたらいいのかという将来に向けての不安が出てくるのもこの時期からで、日頃抱えていたさまざまな人間関係が一気に噴き出してきたり、漠然とした不安から暴力行為、性犯罪などが増える時期でもあります。

3.被災後1週間以降3週間目くらいまで

 被害の小さかった人と被害の大きかった人の差が出てくる時期です。
 被害の小さかった人は、家の復旧が終わって今後の見通しを考え始め、被害の大きかった人は自分の生活再建についてどのようにしたらいいのかについて考えていますが、高齢者や生活に支援が必要な方は、このあたりで将来に絶望を感じ始める人も出てきます。
 被災者の心身の疲れが出てくるのもこの頃からですので、心理的なケアも必要となってきます。

4,被災後3週間から半年

 被災者は自分の生活再建で手一杯になってきます。
 避難所に残っているのは、生活復旧の目処の立たない人が殆どになり、避難所の統合による再三の引っ越しや移動、見えない将来と破壊された日常など、被災時から積もってきた疲れと不安、そして不満と絶望から感情的になったり、逆に無気力になったりします。

5.被災後半年から一年

 話題に取り上げられることも少なくなり、良くも悪くも日常が戻ってきます。
 ただ、ここまでで以前の生活に戻れなかった人や他人との接触に疲れてしまった人は、やがて社会との接触を断っていくことになります。
 このあたりでこれ以降の生活が固定することが多くなるようです。

 人によってとらえ方や感じ方は異なると思いますが、以上が筆者が個人的に感じている被災者の様子です。
 被災してからしばらくは、気が張っていますし「みんなで復旧・復興するんだ!」という空気に流されて元気でいられることが多いのですが、日常生活は結局それぞれの被災者個人で取り戻していくことになるため、取り戻す方法を手に入れた人と手に入れられていない人では時間が経過するに従って格差が生じることになります。
 この格差が孤独感を生み出し、やがて孤独死に繋がっていくのでは無いかと思います。
 格差を作り出さないためには、「日常生活の復旧」に加えて「社会的な存在意義の確保」という視点からの支援が必要となるのでは無いでしょうか。
 自分の日常生活が戻ってきて、社会的にも必要とされている状態を作り出すことで、本人も生きていく気力が出てきますし、孤独死を防ぐことも可能です。
 別に大上段に構える必要はないと思います。朝、道路に出てもらって、行き交う人に「おはよう」のあいさつをしてもらうだけでもいい。それだけで生活に張りが出ます。
 ちょっとした社会との関わりを持ち続けることを作るような支援も行っていく必要があるのかなと感じています。

トイレの問題を考える

 さまざまな災害がありますが、いずれの災害でも出てくる問題が「トイレ」と「水の確保」です。
 今回は災害時、そして被災後のトイレについて考えてみたいと思いますが、災害が発生したら、大前提としてトイレが使えない可能性が高いと言うことは覚えておいてください。そして、飲み食いは我慢できても排泄は我慢することが困難ですから、自宅や避難先のトイレ事情をまずは確認して備えるようにしましょう。

1.建物で違うトイレ事情

 一戸建て、二階建て、アパート、高層マンションなどなど、人が生活する空間はいろいろありますが、それぞれ対応が変わります。
 また、処理方法が下水管なのか、浄化槽なのか、それともくみ取りなのかによっても事情が異なります。
 基本はこれらのかけ算の数対応方法があるのですが、おおざっぱな対応は次のとおりです。

大前提)2階以上にあるトイレは使用禁止です。

テープで出入口を閉鎖したトイレ
災害が来たら、最初にトイレを閉鎖しないと汚物で大惨事となります
写真は消防科学総合センターのHPから転載。

 被災後、汚水管の安全が確認されるまではトイレは使えません。
 特に地震だと建物内部にある配管が外れていることが考えられ、その状態でトイレを使うと下の階に汚水があふれてしまいます。
 アパートやマンションで他者に損害が発生した場合、あとで損害賠償請求されることもありますので、くれぐれもご注意ください。

1)下水管で処理している場合

 洪水等で配管に泥などが詰まっていることが考えられます。施設の点検が完了するまでは、原則トイレは使えません。

2)浄化槽で処理している場合

 下水管と同じで、原則は施設の点検が終わるまでは使わない方が無難です。
 電気が来ている場合には浄化槽を機能させることができるため、トイレを使うことは可能です。ただし、洪水などで水没してしまった場合は浄化槽内には汚泥などが貯まっているので、清掃整備が終わるまでは使用できません。

3)くみ取り式の場合

 災害後も基本的には普通に使うことができます。ただ、洪水等の場合には汚物槽が水でいっぱいになっていますので、くみ取りが終わるまでは利用することができません。また、落ち着いたら汚物層が破損していないか点検をしてもらってください。

2.怖い逆流

洪水等水による被害の場合には汚水管から水が逆流してくることがあります。
そうなると便器から汚物混じりの汚水が噴き上げて、のちのちの片付けに支障をきたすことになりますので、便器の排水部分を塞いでおいた方が無難です。
そのため、便器の排出口を押さえるように水のうを積むことをお勧めします。
材料は大きくて丈夫なビニール袋2枚とひも、それに水です。

■水のうの作り方

材料:大きくて丈夫なビニール袋2枚、ひも、水
作り方:
1.ビニール袋を二重にあわせます。
2.1で作ったビニール袋に水を注ぎます。袋の7分目くらいまでなら入れても大丈夫ですが、持てる重さにしましょう。
3.注いだらひもで口を縛ります。ひもがなければ、注ぐ水の量を半分くらいにして袋の口を縛り上げます。
4.それを便器の排出口にしっかり乗るように置きます。水のうは一つ、ないし二つで十分です。

水のうは土のうがないときには土のうの代わりに使うこともできますが、土のう袋に比べるとビニール袋は破れやすいので取り扱いには十分気をつけてください。

3.トイレが使えないときのトイレ

 水のうを積んだり、水没したりするとトイレそのものが使えません。
 そんなときにでも排泄は止められませんので、仮設トイレが必要となります。
 いろいろな方法がありますが、ここでは2つほど方法をご紹介します。

前提)仮設トイレの考え方

 家族の状況によって準備するものが変わってきます。
 和式が使えない場合には、座ってできるような設備が必要となりますし、排泄物を無事に処理できることは当然として、排泄時にたとえ家族であっても見られないような装備も必要です。
 以前に「携帯トイレと一緒に持つもの」でも触れましたが、例えば着替え用に使うテントやポンチョなど目隠しできるものを準備しておく必要があります。
 小さなこどもが居る場合には、おまるを準備しておくのもよいと思います。
 そしてできれば一度使ってみて、使い勝手を確認して、自分や家族が使いやすい形にしていけばいいと思います。

座るタイプのおまるなら、ある程度子どもが大きくなっても使うことが可能

1)携帯用トイレ

 100均でも見ることの増えてきた携帯トイレを準備をしておくことをお勧めします。
 携帯トイレにもさまざまな種類があり、小用、大用、大小用、男性用、共用とありますので、家族構成によって準備するものを考えましょう。
 また、家族の一日のトイレの利用状況を確認しておいて、その3日分程度は準備しておくといいと思います。
 大小用の共用の中には組立式便座のついているものもありますが、これは持って避難するようなサイズではないので、家庭での備蓄品として備えておくといいと思います。

携帯トイレ各種
携帯トイレは大用もあるが、便座にセットするタイプが殆どのため、水害では使えなくなることもある。使い方を確認しておきたい。

2)トイレを作る

 トイレで問題になるのは「水分」と「臭い」で、これがなんとかなれば理屈上はどこでもトイレを作ることが可能です。

■おすすめは「猫の砂」

 お勧めは「猫のトイレ用砂」
 これは水分を吸収し臭いも取ってくれる作りになっていますので、これがあるとかなり快適な仮設トイレを作ることができます。
 使った後は大も小も周りに砂がついて固まりますので、固まったものをBOS等消臭効果の高いビニール袋にいれてゴミ袋に入れるだけ。
 基本的には可燃ゴミで処分も可能です。

■吸水ポリマーや新聞紙も使える

 また、携帯トイレやおむつなどにも使われている吸水ポリマーがあれば水を確実に吸収できますし、新聞紙もしわくちゃにして丸めることでそれなりの吸水量を確保することができます。
 ただ臭いについては完全に消すことができないので、排泄後は速やかに消臭効果の高いビニール袋に入れるくらいでしょうか?
 吸水ポリマーを使う場合には、可燃ゴミとして出せない場合もあるのでお住まいの自治体のゴミ処理担当課に確認をお願いします。

地震で汚水管が破損した可能性があるだけなら、トイレの便器にビニール袋をセットしてその中に猫の砂や吸水ポリマー、新聞紙を入れて排泄するという方法もある。

 トイレの問題は健康管理とも密接に関係しています。災害時だからこそ、トイレを我慢しなくても済みように、あらかじめ準備しておくことが大事ですね。

災害ボランティアをやってみる

 最近はあちこちで災害が起きており、災害ボランティアという言葉もすっかり定着した感じがします。
 8月に佐賀県を中心とする大雨により発生した水害の復旧にも、あちこちからボランティアが集まって被災地の支援を開始していますが、ボランティアをするためにはどんな装備や意識が必要なのでしょうか。

1.ボランティアの条件

 災害ボランティアをするに当たって特に必要な条件はありませんが、被災地や被災者を助けたいという気持ちは必要だと思います。
 そして、体調が万全でなければ被災者に迷惑をかけてしまうことになりますから、体の調子はしっかりと整えておく必要があります。
 また、災害ボランティアは自分のことは全て自分でやることが基本ですので、自律できていない人はやらない方がいいと思います。

2.ボランティアをするには

 大きく分けるとボランティアセンターを通して行うものと、個別に回って作業を手伝うものとにわかれます。
 それぞれにメリットデメリットがありますが、ボランティア参加者の身元確認及び安全確保という点から、行政等はボランティアセンターを通してボランティアに入ることをお願いしています。
 また、現地の混乱や危険が解消されつつあるという一つの目安がこのボランティアセンター設置ですので、ボランティアセンターが設置されるまでは、地元の支援なしでボランティアに入ることはかなり困難が伴うということも意識しておく必要があると思います。

1)ボランティアセンターを通して行うボランティア

 被災地のどこで支援を行うかという場所・内容選びをボランティアセンターが行ってくれますので、時間にボランティアセンターに行けば済むという点で楽です。社会福祉協議会がやっているボランティア保険も適用されるので、何かあったときにも最低限の担保はされています。また、作業に必要な道具類や状況によっては飲料水等の提供を受けられることもあります。
 デメリットは、自分の思うようにはならないということ。ボランティアセンターの指定した時間に指定した場所で指定した内容のボランティアのみをこなすことになりますから、お隣の人から作業を頼まれてもやることができないというジレンマを抱えることがあります。
 また、誰でもできる内容が多いので、特殊技能を持っている人は物足りなさを感じることがあるかもしれません。

2)ボランティアセンターを通さずに行うボランティア

 自分の思うように思った場所で思った時間、被災者が要望している内容を要望にそって提供できるということで、被災者、支援者ともに要求を満たせて素早い復旧が期待できます。
 デメリットはまず被災地のどこへ行くのか、誰に何を提供するのかを地元の要望を確認しながら事前に決めなければなりません。また、ボランティア保険の適応がありませんので、自分で保険会社に依頼して保険をかけておく必要があります。そして、独立して作業をするので、自分の食料や水といったものだけでなく、作業に必要とされる道具類も自前で準備しておかないといけません。

3.ボランティアの装備

 個人の装備としては、長袖、長ズボン、安全靴、なければ安全中敷きをいれた長靴や運動靴、防塵マスク、作業手袋、あれば防塵ゴーグルと帽子、ヘルメット。
 リュックサックにはタオル、ウェットティッシュ、2リットル程度の飲料水、食事、怪我をしたときに使える救急セット、雨合羽。
 日帰りボランティアならこれくらいあれば大丈夫だと思いますので、あとは季節に応じて日焼け止めや冷却剤、カイロや防寒着といったもの、また個人的に必要なものを持って行けばいいと思います。
 宿泊して現地でボランティアを続ける場合には、被災地外に宿泊地を設定し、被災地には通うようにした方が現地に負荷をかけずにすみますので、移動手段及び宿泊方法も考えておいた方がよさそうです。

 行政機関は面的、一律的な対応しかできませんが、災害ボランティアはややこしいことを抜きにして被災者を助けることのできる重要なボランティアです。
 ボランティアが動けば、その分現地の復旧は進みますので、興味があったり機会があったら、ぜひ一度経験してみてください。

ろうそくと火災

 昨日は災害における死因について書きましたが、消防研究センターの調査によると、被災後に起きる火事の原因では、「通電火災」「ろうそくによるもの」「カセットコンロによるもの」「その他」に分かれるようです。
 最近は殆ど見ないような気のするろうそくが原因の火災が、消防研究センターから注意が出るくらいには起きているということで、今回はなぜろうそくによる火災が起きているのかについて考えてみたいと思います。

 最近でこそ電池式ランタンが普及していますが、ちょっと前までは普通にろうそくを使っていました。
 市販されている「防災缶」でも照明器具としてろうそくが入っているくらい、ろうそくは災害後の生活ではメジャーなものです。

市販の「防災缶」の中身。小型のペンライトと、背の低いろうそくが一緒に入っている。

 灯りだけでなくある程度の暖を取ることもできますし、なによりもろうそくの火は安心感を与えてくれます。
 非常にありがたい道具ではあるのですが、裸火であるが故に地震の際には非常に危険なものにもなるのです。
 地震ではしばらくは余震が続きます。重心の低いろうそくを使ったり、風防でろうそくを囲ったりと、いろいろと気をつけていても、強い余震がきたら飛んだりはねたり転がったりして、周囲にあるものに引火することがありますし、ろうそくは動かなくても、他の可燃物が倒れたり落ちたりすることもあるでしょう。
 他の災害時はともかく、地震ではろうそくに限らず屋内の裸火は危険であると言うことを覚えておいてください。

防災缶の中のろうそく。このサイズで3時間程度は燃えるらしい。
缶の表面に書かれている案内文には、たき火の火種にも使えるとある。

 ところで、災害備蓄ではランタンを勧めているのになぜろうそく火災が増えるのか。
 お仏壇があるようなお宅だと、たいがいろうそくとマッチが一緒に置いてありますので災害時にはそこから持ってきて使うということが多いようです。
 普段使わずどこにしまってあるかわからない電池式ランタンよりも、すぐに取り出せて普段使い慣れているろうそくを使うのはある意味で当然です。
 そうであるなら、例えばろうそくをしまってある場所に「災害の時はランタンを使う」という張り紙をしておいたり、ロウソクと一緒にランタンをしまっておいたり、家族で一緒に一年に一回くらいはランタンを囲む日を作ってもいいかもしれません。なんらかの形でランタンを意識し、使うという気にさせるような仕掛けを作っておけば、ろうそくを使う確率を下げることができるのではないかと思います。
 ろうそくは便利であるけれど、地震の時には屋内では使わない。その意識を持ってランタンを準備しておくようにしましょう。

災害での直接死を防ぐには

 起きる災害によって異なるのですが、それぞれの災害によってある程度亡くなる方の死因というのははっきりしています。
 例えば、地震であれば建物の倒壊による「圧死」、洪水であれば「溺死」、土砂災害であれば「打撲」と「窒息」といった感じです。
 もちろん全ての災害で出てくる死因というのもあって、火災による「焼死」などは大規模災害では大概どこかで発生しているようです。
 これらの死因を元に、どうやったら災害で死ななくて済むのかを考えてみると、「居場所の耐震強化」と「早めの避難」に答えが集約していくような気がしています。
 地震は予告なしにいきなり来るものですから、どこにいてもいる建物が崩れてしまえば圧死してしまう可能性があります。そのため、建物の耐震強化というのが学校等の最優先事項として実施されていたわけです。
 他の災害の場合には、ほとんどの場合何らかの前兆があります。その前兆を見逃さないようにすれば、ある程度までは安全なところに避難することが可能だと思います。
 そして「火災」ですが、これは起こる可能性が3回あります。
 1回目は災害そのものによるもの。例えば関東大震災ではちょうど昼食の準備をしていたご家庭が多かったこともあって、発災後100件以上の家から出火したそうです。ただ、初期消火ができれば、この火はさほど怖いものではありませんので、家庭に消化器を備えておくことが重要になってくると思います。
 2回目は、災害後のある程度復旧したときの通電時。これは通電火災と呼ばれるもので、暖房器具に可燃性のものが乗っていたり、断線などによりショートすることによって発生するものです。阪神淡路大震災では、この通電火災があまり意識されていなかったため火災が多発してしまったという苦い経験から、各電力会社さんは災害復旧による通電開始時には通電予定エリアを徹底的にチェックをするようになっています。そのため、熊本地震では通電火災は1件もなかったそうです。
 3回目は、余震や不注意によるもの。例えば、停電時にろうそくを使っていて余震にあい、ろうそくが転がって火がついたというような場合です。また、災害後に気を落ち着かせようとつけたたばこの火が漏れたガスに引火して火災が発生したようなケースもあるようです。いずれにしても、災害後にちょっと意識をすると防げる火災ではあります。
 こうやって見ていくと、災害で発生する民家の火災というのは、燃え始めた初期で消火器が使えるのであればかなりの火災を防ぐことが可能なのが見えてきます。
 家屋の火災はまず初期消火。もちろん、火事と言うことを大声で周囲に知らせて応援をしてもらうことも大切です。
 災害で死ななかったのに、その後の火災で死んでしまっては何にもなりません。
 建物の耐震強化と早めの避難、それに家庭用消火器の備え付け。
 これらを忘れないようにしたいです。

支援と受援

 災害が起きると被災地域の道路や鉄道といったインフラが損壊し、さまざまな物資が不足することになります。
 行政機関がさまざまな手当はするのですが、必要な人が少人数だったり、優先度の低い物資は後回しにされることが多々あります。
 そんなとき、SNSを使って不足している物資の提供を呼びかけ、それに応じてその物資を必要だと言っている場所に直接届けるという動きを作ることで、きめ細かな被災者支援を行っているというのが現在です。
 ただ、支援をお願いする側も、支援を行う側も、お互いにちょっとだけ気をつけておくことがあります。
 それは支援依頼者は発信日時と必要数量を明示し、支援する人はいつ時点の情報かということを必ず確認することです。
SNSを使った物資支援が本格化した東日本大震災以来、さまざまな災害が起きるたびにこのやりとりが行われて物資が届けられているわけですが、その場所で必要とされる支援物資は時間の経過とともに変わっていきます。
でも、発信された情報がいつまでも拡散していくと、発信時点で不足していた物資がいつまでも届き続けるという困ったことになってしまいます。
東日本大震災では乳児用の缶入りミルクがそんな状態でしたし、熊本地震では水が大量に余り、期限切れで倉庫を占拠している状態になっているという話もありました。
拡散した情報のコントロールを上手にしないと、善意で送られてくるものが迷惑なものになってしまうことが起こりえるということです。
ところで、先日の佐賀を中心とした大雨による災害で、佐賀県武雄市が「水不足です。水を送って」というメッセージを発信しましたが、今後のSNSでの物資支援の一つのスタイルになるのかなと思う配信をされていました。
 何がいるのかということが画像として書かれており、発信日時が発信される全ての画像の同じ場所に記載されています。
 本文上ではそれを何のために使うのかということと、どこへ送ってほしいのかが書かれています。

佐賀県武雄市のフェイスブックから抜粋。発信時は物資支援要請だったが、受け入れ中止に記事が変更されている。
支援要請の発信日時は8月31日14:03、記事修正として【9/1 16:00】と変更日時が表示されて迷わないようになっている。

 そして、必要がなくなったときには「水を送って」につけられていた画像が「受け入れ中止」の画像に、元の文章も「ありがとうございました」に変更されていて、古い支援要請がこれ以上拡散しないようにされていました。
 一目見て現在の状況がわかるようになっており、非常に上手に支援要請をされていたのですが、調べてみると2019年の2月に受援マニュアルを作られていたとのことで、それが早速活用されたのかなと感じています。
 さて、一度支援要請を行うと、さまざまな人が支援をしてくれますが、一人一人は小さくても件数が多くなると大変な量になってしまいます。
 そのため、避難所など割と小さい単位での物資支援をお願いするときには、支援要請日時にくわえて必要数量も明示しておくと、わかりやすくていいと思います

 そして、物資が必要量届いたら、かならず受け入れ中止と感謝のメッセージを流すようにしましょう。それによって支援者は他の支援に意識を向けることができます。

防災備蓄品を考える

 8月31日の読売新聞に、広島の企業さんが益田市役所に非常食を5000食分寄贈したという記事が出ていました。
 この非常食は防災センターに備蓄され、災害時に提供されるとのこと。
 大変ありがたい話だなと思いつつ、ちょっと不安に感じたことがありました。
 それは「5000食もあるのなら、わざわざ自分の食料を準備しなくても大丈夫」と考え出す人がいないかということです。
 5000食というとかなり多く聞こえますが、実が避難者が5000人でると、1回分の食事でしかない分量ということで、政府が推奨している備蓄3日分にはほど遠い数字です。
 本来、行政の持っている災害備蓄品は何らかの理由で自身の備蓄品を持ち出すことができない人に対して提供されるものであり、被災者全てに無条件に提供されるものではありません。
 現在の防災で命を守る方法は、「自助、共助、公助」と言われており、まずは「自助」として、自分で自分の命を守るための準備を整えておくことが要求されています。
 次に「共助」。その地区や地域全体で地区や地域の人たちを守る準備をすることになっており、行政の手は「公助」として、「自助」や「共助」ではどうにもならない部分に対応することになっています。
 つまり、自分の準備は自分でしておかないと誰も助けてくれないよということを政府を始めとする行政機関が言っているのです。
 確かに、防災用備蓄品を税金で全住民の3日分を購入しておけばいいのかもしれません。
 でも、準備しても使わないこともあり得るわけです。そうすると、それら期限の切れたもしくは切れそうな備蓄品の処分をどうするかという問題が起き、結局のところ、誰がどうやってもどこかから必ず文句が出る状態になってしまうのです。
 それを考えると、防災備蓄品は各自で揃え、足りない分がもし発生すれば、まずは地区・地域の自治会や自主防災組織から提供を受け、それでも不足するなら行政の備蓄を消費するという流れにした方が、余計な金や労力を使わなくても済むことになるでしょう。
 面倒くさいですし、身一つで避難できればそれに越したことはありませんが、避難時には非常用持ち出し袋は必ず持って行動を開始するということが徹底できるといいなと思います。

今日は防災の日です

 今日は9月1日。
 地元の益田市高津では、柿本人麿神社の八朔祭が執り行われているところですが、全国的には防災の日です。
 大正12年(1923年)9月1日に関東地方で起きた大地震を教訓として後世に伝えようと、昭和35年(1960年)に制定されたものだそうで、その後、この日の前後の8月30日から9月5日までを防災週間として、政府などの行政機関を中心として、防災に関するさまざまなイベントやキャンペーンをやっています。
 この時期には避難訓練や総合防災訓練、防災に関する報道やさまざまな防災ハウツーがいろいろな場所を賑やかし、なんとなく防災の日というイメージが定着してきているのかなという気がしています。
 ところで、せっかく防災の日があるのですから、この日に合わせてあなたの防災点検をしてみませんか?
 非常用持ち出し袋や備蓄品、避難のタイムラインや避難所、そこに至るための避難経路の確認など、たまに確認しておいた方がよさそうなものをまとめて点検しておくというのはどうでしょうか。

市販品の非常用持ち出し袋セット

 賞味期限のある非常食や水、電池や消耗品などは定期的に点検をしないといざというときに使い物になりませんが、一年に一回、自分の決めた日だと、何か無い限り忘れてしまっていても不思議ではありません。
 「防災の日」にやることに決めておけば、防災関連の準備や点検をしてもおかしくありませんし、新聞やラジオ、テレビを見ていれば必ずどこかで防災の日の話が出てくるので忘れることもありません。
 また、お店でも防災特集などが組まれて、非常用持ち出し袋や備蓄品の値段が安くなっていたり、買いやすくなっていることも多いと思います。
 そして、あなただけでなくご家族や職場などでも、災害対策や安全対策、連絡手段の確認や被災後の合流方法などをお互いに確認しておくことで、いざというときに慌てなくて済みます。
 せっかくある防災の日ですから、これを上手に使いたいものですね。

家が浸水したあとの対応

 佐賀県を中心として、全国あちこちで家屋や倉庫などの浸水被害が出ており、これからどうやってお片付けをするのかについて悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 かくいう私も、地元の島根県益田市で起きた昭和58年に大きな水害に遭い、うちの親が経営していたお店が床上浸水しました。
 今回は、その時やその後水害復旧のボランティアに出かけた先で経験した経験則としての浸水後の対策について書いてみたいと思います。

0.浸水家屋掃除の格好

マスクとゴム手袋は必須だと思ってください。臭いや粉じん対策としてのマスクと、たまっている汚泥には釘や刃物などの危険なものが混じっていないとも限りませんので、厚手のゴム手袋は用意しておきます。
また、万が一汚泥の撤去中に外傷を受けた場合、破傷風などになることがありますのでなるべく肌の露出は避けるようにします。
あとは汗拭きタオルと自分が飲むお水は忘れないように準備しておきましょう。

1,まずはものの撤去

 洪水の水が引いた後は一面が泥、というよりもヘドロの層が堆積しています。
 そのヘドロを一刻も早く屋内から出さないといけませんが、その時に邪魔になるのが洪水に使ってしまった家具や電化製品、畳やふすまといった家の中のいろいろなアイテムです。
 とりあえずはこれらを家の外に追い出します。もし水道の供給が再開されていれば水をかけてついた泥を流し、その後で再利用するかどうかを考えてください。
再利用する場合には、なるべくきれいな場所を見つけてそこで乾かします。乾いた後、最低でも一度は拭き取り掃除をし、その上で消毒を行ってください。
 使えない場合には、行政機関が粗大ゴミの仮置き場を設置しているはずですので、そちらへ持ち込むことになります。
 道路や空き地に置いてしまうと、それが呼び水になってあちこちから粗大ゴミが集まって収拾がつかなくなるので、仮置きするなら家の前など、目につく場所に置き、早めに粗大ゴミの仮置き場に移動させるようにしましょう。
 そして、可能な限り「燃えるゴミ(生ゴミ含む)」「不燃物」「家電製品」「粗大ゴミ」という風に普段の回収と同じように分けておくと後が楽です。

2.屋内の汚泥を排出する

 洪水で貯まった泥はなぜか非常にくさいことが多いです。そのため、開放できる扉や窓は全て開放し、風通しを良くしてから床下の汚泥の撤去から始めます。
 撤去した汚泥は、あれば土嚢袋に詰めて行政の指定した回収場所に持って行きます。指定が無い場合には、なるべく家から離れた場所に仮置きして回収を待つようにします。
 土嚢袋が無い場合には、やはり住家からなるべく離れた場所に運んで仮置きし、回収を待つようにしましょう。
 汚泥を除去した後は、壁や柱などを清掃し、床下と合わせて消毒を行います。その後は風通しを確保し、できれば扇風機なども使って完全に乾くのを待ちます。
 完全に乾いた状態であれば、もし汚泥が残っていても乾いた薄い板状になっている可能性が高いので、そのまま回収して土嚢袋にいれて回収してもらいましょう。
 また、天候や諸条件によって完全に乾ききらない場合もありますので、そんな時には消毒の回数を増やして乾ききらなかった場所からカビなどの汚染が広がらないようにしておきましょう。
 消石灰などは消毒と乾燥を同時にすることができるので、あるのであれば使った方がいいと思います。

3.洗浄と消毒は忘れずに

 幸いにして使える家具や食器類、調理器具などは丁寧に水洗いした後は消毒をしておきます。消毒後はしっかりと乾かして、カビや汚染を防ぐようにしておきましょう。
 消毒液はハイターなどの塩素系がお勧めですが、他の薬品と混ぜると塩素ガスが発生することがありますので「混ぜるな危険!」でお願いします。

4.無理しない

 手早くきれいに片付けられるのが理想ではありますが、現実としてなかなか思うようには片付きません。
 そんなときには焦らずに、自分のペースで無理しないように片付けていきましょう。ちょっとずつでも手を止めなければいつかは終わります。長期戦を覚悟して、マイペースで片付けをするようにしましょう。

5.もしボランティアが来てくれたら

 自宅や倉庫の掃除や片付けに災害ボランティアが来てくれたなら、おうちの人はなるべくボランティアにわかるような場所にいてください。
 屋内から持ち出したものの掃除や必要性の有無、掃除すべき場所やゴミ捨て場など、おうちの方に聞かないとボランティアでは判断のつかないことがたくさん起きてきます。
 その時に誰に聞いたらいいのかを、最初の顔合わせの時にボランティアに伝え、ボランティアの見える場所にいてもらうようにお願いします。
 人手のいる部分や誰に任せても大丈夫な部分は積極的にボランティアにお願いし、自分たちは自分たちでないとできない場所に集中して作業を行うようにすると効率がいいです。
 また、ボランティアは基本的に自己完結した装備を持ってきていますので、接待は不要です。
 ボランティアは支援した人の喜ぶ顔が一番の接待だと思っていますので、終わったときにいい笑顔を見せてあげてください。

 床下浸水、床上浸水を問わず、片付けの流れとしてはこんな感じになります。
 もし床下浸水であっても、安心せずに床下を開けて中を確認してください。
 何も問題なければそれでいいですし、もし汚泥がたまっていたなら、清掃しておきましょう。
 ところで、洪水による災害は環境が汚染され食中毒や赤痢などに感染しやすくなっています。もしも何か体調不良を感じたら、作業を中止して早めに病院を受診してください。
 また、食事の前やトイレの後は、しっかりときれいな水で手を洗うようにしましょう。

あなたの命は誰のもの?

 災害が発生して避難が必要になったとき、あなたは避難しますか? それとも諦めて避難しませんか?
 避難訓練の時や避難計画のお話をさせていただくと、たまに「何かあっても避難しない」という方がおられます。実際に東日本大震災でも「避難しない、家にいる」と避難を拒んで亡くなった方がかなりの数いらっしゃったとも聞きました。
 そこで、ちょっと考えていただきたいことがあります。
 日本に限らず、この世界では「災害で死ぬ自由」は保証されていません。
 つまり、水害や津波が起きるときに「避難しない」という選択をすると、警察や消防団、自主防災組織や近所の人がやってきては避難させようとします。
 そこで「避難しろ、避難しない」と揉めていると、時間切れになって避難しないことを選択した人だけでなく、避難させようと説得していた人たちをも巻き添えにしてしまうことになるのです。
 そして、災害で行方不明になると、行方不明者がでたエリアは人海戦術でがれきをどけ、行方不明者が見つかるまで探す作業が必要となります。この場合、がれきを重機でどけるような方法はとれませんから地域の復旧がかなり遅れます。さらに言えば、不幸にして亡くなっていれば、発見後にご遺体を安置所まで運び、納棺し、葬儀し、納骨するためにもさまざまな人手が必要となります。
 その作業は精神的にかなりきついものとなり、従事した方達の中には後にPTSDを発症してしまうケースも起きています。
 自分が逃げないと選択をした結果、災害時、災害後のより多くの人が危険にさらされることになってしまいます。つまり、災害時には、あなたの命はたくさんの人の命を握っているのです。
 災害時には死んではいけませんし、行方不明になってもいけません。
 所在をはっきりさせ、何が何でも生き残ることが、結果として復旧も早く進み、それまでの日常生活を取り戻すまでの期間も短くて済むのです。
 逃げるためには努力がいります。逃げない方が楽です。
 でも、あらゆる手段を考えて生き残る準備しておくことが、あなただけでなく、多くの人の命とこころを救うことになるのです。
 「自分の命は自分のもの」という意見は間違いではありませんが、災害時には多くの人の命も関係してくることになりますから、他の人の命を守るために、あなたの命も守ってくださいね。