防災のラストワンマイル

 災害対策をやっていると、さまざまな情報や物資や支援体制はここ十年くらいで随分と充実してきたなと感じています。
 物資では、国から被災地の要求を待たずに支援物資を届けるプッシュ式が運用されるようになりましたし、情報は気象庁や国土交通省、都道府県、市町村と行政機関から驚くくらい提供されるようになっています。
 支援体制についても、自治体間の相互応援や災害ボランティアセンターの充実、災害NPOの活躍など、量はともかく、必要なものがほぼ提供される環境になってきています。
 ところが、実際には被災した人達の状況というのはさほど変わっていない現状があります。
 これは多岐に渡るさまざまな被災者の要求や要望と、提供する側のマッチングがうまくいっていないことが原因で、私自身は「防災のラストワンマイル」と呼んでいます。
 どのように解決するとよいのか、思案をまとめてみました。

1)物資のラストワンマイルをどうするか?

 災害時の支援物資については、大規模災害のたびに国がやり方の改善をしています。
 大まかな流れを書くと、次のようになります。

備蓄基地→第一次集積所(被災地外かつ近傍地)→第二次集積所(被災地内かつ小規模)→指定避難所(分配拠点)→被災者

 このうち、国が責任をもつことになっている第一次集積所までの物資と流通経路はかなり早く確保することが可能になっており、被災して早ければ翌日、遅くとも数日以内には対応ができるようになっているようです。
 第二次集積所については市町村が責任を持つことになっています。さまざまな問題は残っていますが、流通業者との協定や公共施設の転用によりこちらの設置もさほど時間はかからないと思われます。
 問題となるのは、この第二次集積所から指定避難所、その先にいる被災者にどうやって届けるのかという部分。
 宅配業者に配送をお願いする協定をしている自治体もありますが、全ての自治体が協定しているわけでもないので、この部分を誰が担当するのかということが第一の問題。
 そして、指定避難所に届いた物資をどうやって被災者に配るのかということが第二の問題になります。
 行政が避難所を運営すると「平等・公平」の視点から必要な人に必要なものが必要な数配られないという事が起きますし、自治会が運営をすると、自治会に入っていない、また避難所に避難していない被災者には物資を渡さないという事例が発生しています。
 そのため、どんな人にどのような物資をどれくらい渡すのかということを事前に整理し、情報を共有化しておかないといけないでしょう。
 このあたりは、災害NPO等にやり方を教えてもらうのが手っ取り早いかもしれないと思います。

2)情報のラストワンマイル

 大規模災害が起きるたびに「情報が遅い」「知らなかった」「聞いてない」という被災者の意見が飛び交い、マスメディアがそれを使って「だから行政はダメだ」と叩くのが毎度の光景です。
 去年の西日本豪雨では、気象庁を始め各行政機関がこれでもかというくらいさまざまな災害・避難情報を出しましたが、今度は「情報が多すぎて被災者はわからない」とやっぱり行政を叩いています。
 それを受けてかどうかはわかりませんが、行政が発信する災害・避難情報がレベル表示されるようになるとのことですが、問題になるのは「知る気のない人にどうやって知らせるのか」ということです。
 テレビやラジオ、スマートフォンなどによるエリア配信や防災メール、広域・各個の防災無線と、広域的に出来る手は殆ど出尽くしているのが実際です。
 西日本豪雨では全ての人が助かった自治会は「自治会役員や消防団が一軒一軒訪問して避難させた」ということですが、いつも人海戦術が使えるとは限りません。特に独身者や単身者、高齢者の多い地域では各戸訪問して避難を促しても、文句を言われるか逃げないと言われて押し問答になるかを覚悟しないといけないでしょう。
 「おかしいな」という感覚と「情報はここで確認すること」を住民が意識して常に確認するクセを付けておくこと、何よりも「災害で死なないことは義務であること」を徹底しない限りは、どれだけ手を尽くしても誰かが必ず文句を言うのだろうなと感じます。

3)支援体制のラストワンマイル

 災害が収まって復旧・復興が始めると、被災者にはさまざまな疑問や不安、悩みが発生します。
 それに対するさまざまな対策や対応はだいたい用意されているのですが、被災者がそれを知る術がない。支援が必要な人とその人を支援できるところがうまく繋がっていないのが原因です。
 行政や災害ボランティアセンター、被災地を巡る災害NPO等に来るニーズをどのように対応できるところに繋ぐことができるのか。
 現状は「誰がそれを調整するのか」が決まっていないのですが、本来は行政機関の防災計画にそれを盛り込んでおいたほうがいいのかもしれません。
 熊本地震や九州北部豪雨では市町村や支援団体、災害NPOや地元自治会も加わった協議会が定期的に開催されてそれぞれの得意分野で活動を行うようになってきました。
 発災後だけでなく、普段から交流しておくとお互いのことがよくわかり、被災地の復旧・復興も早く行えるかもしれません。

 最近は「自己責任論」が闊歩していて何でも自分がやらなくてはいけないという風潮があるように見受けられます。
 ただ、実際のところ災害から立ち直るため、自分一人でできることには限度があります。そのため、いかに早く的確に必要とされているものやサービスを必要とする人に届けてその人が立ち直れるのかという仕組みを作っておく必要があるのではないでしょうか。
 自分でできることと助けがいる部分、これをしっかりと見極めて必要な支援を必要なときに受けられるようにしていきたいものです。

レンタルで試してみる

 以前災害対応用品とアウトドア用品は非常に親和性が高いということを書きましたが、災害に備えるための装備を準備をするにあたって、自分にどのようなものがいるのか確認ができていますか?
 いろいろなアイテムが出てきたと思いますが、その中にアウトドア用品が出てきたとしたら、一度借りて試してみてください。

 アウトドア用品というのは、やはりそれなりのお値段がするので買ってはみたが自分には合わなかったというときのダメージは結構大きいものです。
 よく知っている道具ならともかく、初めて使う道具が自分にあっているかどうかを確認するためには、持っている人に借りてみるのが一番です。

 最近のキャンプ場ではレンタル用品が充実しているので、身につけるものを除いたら大概借りることが出来ますから、いろいろと試してみて、その中から自分にあったものを見つけて買いそろえていくというのも楽しいものですよ。
 また、キャンプ場まで行かなくても、家に届けてくれるレンタルもできるようになってきているみたいです。
 特にレインウェアなどは「値段=性能」ですから買える範囲で予算をケチらないことがよいのですがやっぱり相性があります。
 人によっては何万もするレインウェアよりも数千円の雨合羽の方が使い勝手がよいと言う人(私のことです)もいらっしゃいます。
 また、寒さを凌ぐだけならウインドブレーカーを使うという方法もありますよね。とにかく一度試してみて、なるべく自分にあうものを購入するようにしたいものです。
 さまざまなアウトドア用品をレンタルしてくれるお店で郵送対応してくれるお店をご紹介しておきます。
 レインウェアなどもありますので、成長の早い子どもさんやお試しで使ってみるといった使い方が出来そうです。
 ちょっとお値段は張りますが、買って後悔することを考えれば安いもの。
 借りてみて、ぜひ使い勝手を確認してみてくださいね。

キャンプ用品レンタルならそらのした

ハザードマップの功罪

 ハザードマップというのをご存じですか。
 自治体によって表示されているものはいろいろ違いますが、ある想定の中で被害の発生する場所を地図に落とし込んだもので「被害予測地図」とも呼ばれます。
 去年の西日本豪雨では、岡山県真備町での洪水ハザードマップと浸水域がほぼ一致したと言うことで脚光を浴びました。
 あなたが住んでいる地域やお勤め先のハザードマップ、一度は見たことがありますか?
 もしまだなら、良い機会ですので自分が住んでいる場所や勤め先にどのような危険が潜んでいるのか確認してみてくださいね。
 ハザードマップは、殆どの自治体が自分のところのホームページ内で見ることができるようにしています。
 該当部分を印刷して、とりあえず安全かどうかを確認してください。

益田市の洪水土砂災害ハザードマップ

津和野町の洪水土砂災害ハザードマップ

吉賀町の洪水土砂災害ハザードマップ(防災マップの冊子の一部になっています)

島根県砂防危険箇所検索システム(土砂災害の起きそうな指定地域の地図です)

国土交通省浜田河川国道事務所(高津川系河川浸水想定区域情報)

 ところで、東日本大震災のとき、被災地に住む多くの人はこのハザードマップを知っており、ちゃんと読み込んでいました。
 でも、そのハザードマップでは「浸水しない」とされた地域の人に大きな被害が出ることになりました。
 最初に書きましたが、ハザードマップというのは「ある想定の中で被害が発生する場所」を表示したものですので、前提条件が変われば当然浸水域も変わることになります。
 余談ですが、上記で掲載しているURLの中でも、国土交通省が想定している条件と益田市が想定している条件が異なるため、両方のハザードマップを比較すると浸水域にかなりの違いがあるのがわかると思います。
 東日本大震災前に出されたハザードマップの想定は明治・昭和三陸津波で、想定波高は8.8mとなっていました。それ以上の津波が来れば当然ハザードマップ以上の浸水域が発生するわけですが、見た人はハザードマップに表示された「津波で浸かるか浸からないか」だけを見て自分の居場所が安全かどうかを判断していたそうです。
 危険を知らせるためのハザードマップが「ここは安全だと誤解させる安心マップ」になってしまっていたのです。
 ハザードマップというのは、自分がいるところの危険度を目で見ることの出来る便利な地図です。
 ですが、条件が変わればハザードマップに書かれる影響範囲も相当変わるということを頭に置いた上で、内容を確認するようにしたいものです。

チェーン規制導入

 山陰地方を始めとする早朝から始まった大雪は峠を越えたようですが、久しぶりに集中的に山間部を始めとする場所では雪が積もっているようですので、雪道を走行される方はどうぞ気をつけてください。
 ところで、今年の冬から「冬用タイヤ規制」に加えて「チェーン規制」が作られました。
 全国で13区間が指定され、近くの浜田道の「大朝IC~旭IC間」が該当しています。また、県内では島根県と広島県を結ぶ国道54号線の赤名峠も該当しているようです。
 この「チェーン規制区間」では「大雪特別警報や大雪に関する緊急発表が行われるような降雪時」にはスタッドレスタイヤでは駄目でタイヤチェーン装着者のみが通行可能になるとのことで、道路交通情報などでも言い回しを変えるといった話も聞きました。また、高速道ではそこまで厳しくないという話もありますが、念のためにタイヤチェーンは用意しておく方がよさそうです。

チェーン規制区間を示す看板
国土交通省の報道発表資料から抜粋


 ところで、あなたは車のタイヤチェーンをきちんと巻くことができますか?
 過去、チェーンを着用した車が、そのチェーンによって損傷を受けるケースがかなり出ているようです。
 原因は、チェーンの装着方法。
 指定されたとおりの装着ができていなかったため、チェーンがタイヤハウス内で跳ね回ってあちこちダメージを受けてしまうようです。
 事前に一度装着練習をしておけば防げたトラブルですね。
 また、制限速度以上の速度で走ったために切れてしまったというケースもあるようですので、 チェーンをつけたらいつも以上に慎重に運転した方がいいですよね。
 ところで、今回の規制にあわせて私も久しぶりにゴム製のタイヤチェーンを買いました。
 で、練習でつけてみようとしたら車のタイヤよりもタイヤチェーンの方が小さいのですね。どうやらサイズを間違えて買ってしまったらしく、数字が覚えられない自分に思わず苦笑い。
 今回は事前に練習しようとしたからそれがわかりましたが、いざ本番のときにそうなっていたらと思うとぞっとします。
 タイヤチェーンを準備する、そしてシーズン前には一度取付の練習をしてみる。
 たったそれだけでたくさんの事故が防げます。
 シーズン前の習慣にしたいものですね。

阪神淡路大震災に思う

1995年1月17日午前5時46分。
淡路島北部の明石海峡を震源とする阪神淡路大震災が発生しました。
その時は益田の地でもぐらりとした揺れがあり、寝ていた私も目が覚めて何が起きたのかわからずにきょろきょろと辺りを見回したものです。
その後、どうやら神戸の方で大きな地震があったらしいという話が聞こえてきたものの、特に被害の話は聞かなかったのでそのまま関東地方へ出張に出かけました。
「鉄道は止まっている」という情報は入っていましたが、そんなに甚大な被害とは思わず飛行機で東京へ。
神戸の惨状を知ったのは、出張先で仕事を終えて入った宿の食堂のテレビからでした。
大阪や神戸から来ていた人達もその場にいたのですが、テレビから流れてくる映像に言葉もなく茫然となっていたのを今でもはっきりと覚えています。
その後、彼らと一緒になんとか現地の情報がわからないかと画策するのですが、今と違って携帯電話やインターネットがさほど普及していたわけではありませんからとにかく情報がない。
国や政府ですら、全容が把握できていない感じでした。
この時に思ったのが、災害については「情報が無い=問題ない」ではなく「情報が無い=発信できないほどの被害を受けている」ということなのだということです。
情報が出せない地域にどのように情報を取りに行くか。
マスメディア、特にテレビは「絵として使えるひどい状況」ばかりを伝える性格を持っています。
直接影響のなかった人達への見世物としてはいいのかもしれませんが、被災者がその映像を見てさらに落ち込むという悪影響は残念ながら現在も配慮されていない気がします。
今はSNSが発達しました。そのおかげで、さまざまな情報が発信されるようになり、丹念に拾っていくと早い段階で全容が見えるようになっています。
また、行政側もいかに素早く情報を出していくかという努力を続けてきたので、かなり早い段階でそちらからも全容がわかるようになっています。
ただ、あちこちからさまざまな情報が発信されるようになった結果、今度は欲しい情報が埋もれてしまうという事態が起きるようになりました。
あの「情報が無い」という焦燥感からすると隔世の感がありますが、どうやって必要な情報を手に入れていくか、今はそれを模索している状態です。
阪神淡路大震災当時、私の知り合い達も神戸や大阪、その近郊に住んでいました。
連絡手段が限られていたこともあり、現地の知り合いの安否が全て分かったのは数ヶ月後。
私の知り合い達は怪我くらいで済みましたが、その知り合い達は殆ど何らかの形で自分の知人や友人を亡くしていたことも聞きました。
あれから24年が経ちますが、災害への対応力というのは挙がったのでしょうか。
建物はその後も続く地震により耐震性がより強化され、ちょっとやそっとでは崩れないものになっています。
でも、住んでいる私たちの考え方や備えはどうだろうか。
当時は「想定外」といえたことも、今は「想定内」になっています。
災害への備えと、生き続けるための段取り。
この日が来るたびに、自分にその準備が出来ているかを問いかけています。

避難所と避難場所と福祉避難所

避難所と避難場所と福祉避難所。
よく似た名称ですが、中身はちょっと違います。
今回は、この3つについて、その違いや中身について触れてみたいと思います。

1.避難所と避難場所の違い

避難場所と避難所。同じじゃないかと思いませんか?
少なくとも、防災のことをやり始めるまで、私はそう思っていました。
災害対策基本法の中でこの二つの違いについては、実はきちんと定義されています。
「避難場所」は法律上は「指定緊急避難場所」となっていて、該当する災害に対して安全な建物や公園などとりあえず逃げ込める「場所」が指定されています。
「避難所」は法律上は「指定避難所」となっていて、災害後、家が壊れたりして住む場所を確保できない人に提供される「施設」のことです。
同じ場所が指定されていることも多いのですが、例えば益田市の場合には「避難場所」は「校庭」、「避難所」は「屋内運動場」というような整理をしているようです。
益田市吉賀町は避難場所及び避難所は施設と住所の一覧表になっていましたが、津和野町は一覧表の他に位置図も作っていて、わかりやすいなと感じました。

2.避難所と福祉避難所の違い

避難者のうち、高齢者、障がい者、乳幼児、妊産婦、傷病者、内部障がい者、難病患者など特別の支援が必要な人(これらの人は「要配慮者」と呼ばれています)のために支援が受けられる施設を避難所として指定するのが福祉避難所です。
避難所と異なるのは、福祉避難所は災害発生当初から自動で設置されるものではなく、被災自治体からの要請で開設されるということです。
福祉避難所として指定できるのは一般避難所内の一部、老人福祉施設、障害者支援施設、保育所等の児童福祉施設、保健センター、特別支援学校、宿泊施設となっています。
自治体と各施設の間で協定を結ばなければ福祉避難所として指定できないのですが、災害時、収容する被災者支援に必要な職員数や資機材を確保できないことから難色を示している施設も多く、なかなか指定が進まないようです。
そのため、福祉避難所という名前は存在しますが、実際に運用できるのかという大きな問題があります。
また、要配慮者に対する配慮は配慮の必要な内容によって収容できる施設が変わるはずですが、現在のところそのような考え方はされておらず、妊産婦も障がい者も高齢者も一緒に収容するような感じになってます。
石西地域では吉賀町のみ福祉避難所の指定を確認できました。

3.支援はどう異なる?

食料や物資などの支援は「指定避難所」に対して行われることが原則になっています。
そのため、自治体の定めた「指定避難所(福祉避難所)」以外に避難した場合、そのままは物資やその他の支援が受けられない事態が発生します。
例えば、地域や有志で設置した「避難所」は支援の対象から外されることが多いようです。津和野町ではこれを「一時避難所」とし「行政の支援がない避難所」と定めていました。
ただ、災害対策基本法では避難所以外の被災者に対しても支援は行わなければならないと決められていますので、実際には自分たちの避難しているところから指定避難所に物資を受け取りに行くような形になると思われます。
また、避難場所に多数の避難者がいる場合には「指定はされていないが指定避難所扱いされる」場合もありますので、細かい運用は各自治体によって変わってきます。
ところで、人工透析や酸素吸入などの医療設備を必要とする人達への支援は、優先度は高いのですが支援はかなり遅れます。できれば被災地外に域外避難して安全を確保するほうが良いでしょう。
妊婦については、かかりつけの病院での出産が不可能な場合、最悪避難所での出産という可能性があります。
かかりつけの産婦人科医に、どのようなものが必要なのか、どのような支援が受けられるのかについて確認しておきましょう。

公衆電話を使ってみよう

 公衆電話を知ってますか?
 携帯電話が普及した結果、家でも街でも固定電話が姿を消しつつありますが、かつては普通に見られた町中の公衆電話、どこにあるかと聞かれてすぐに場所の返事ができるでしょうか?
 公共施設や住宅街、道路脇にたまに見ることがあるくらい存在感が無くなっている公衆電話ですが、実は災害になるとこれほど頼りになる存在はありません。
 災害が発生すると、被災地にいる関係者の安否を確認したり、状況を聞こうとしたりして、多くの人が一斉に電話をかけることになります。
 不要不急な電話はかけないようにと言われてはいますが、現実にはつい電話を使ってしまいます。
 また、被災地にいる人たちも、自分たちの安否を知らせたり、状況を連絡しようとして一斉に電話を使います。
 そうなると、被災地では爆発的に通信量が増えてしまい、輻輳(ふくそう)という状態になるので、NTTを初めとする通信事業者は、自社の通信システムそのものが動かなくなるのを防ぐため、限界を超える前に被災地に対する通信制限を行います。
 こうなると、災害時有線通信の指定を受けた電話以外は殆ど繋がらなくなり、何十回、何百回と電話をかけ続けてやっと1回繋がるというような事態になります。
 災害時有線通信というのは、公共の目的のために指定された各種機関があらかじめ通信事業者に登録しておくことでその電話からの発信を優先してもらえるというものなのですが、実は公衆電話もこの災害時有線通信の指定を受けているのです。そのため、被災した後でも比較的電話がつながりやすいとされています。
 自分の携帯電話でいつ繋がるかわからない電話をかけ続けるよりも、公衆電話を見つけてそこから電話する方が効率的ですし、携帯電話の電池も節約できます。
 ただ、この公衆電話を使うに当たっては、いくつか気をつけておかないといけないことがあります。

1.どこに公衆電話があるのかを知っておくこと。

 公衆電話を使いたくても、そもそも設置場所を知らなければ使うことができません。
 まずは自分の身近なところにある携帯電話の位置を確認しておきましょう。
 ちなみに、NTT西日本が設置場所の公開をしていますので、参考にしてください。

2.必ず小銭を用意しておくこと

 災害時には、公衆電話も電気系統が動かなくなるため、テレフォンカードを使うことができません。
 また、10円玉専用の公衆電話もありますので、必ず10円玉を複数枚用意しておきましょう。

3.使い方をマスターしておくこと

10円玉+ダイヤル式の昔懐かしいピンクの公衆電話。使い方、知っていますか?

 ある一定以上の年齢の方は大丈夫だと思いますが、生まれたときから携帯電話やスマートフォンのあった世代だと公衆電話を使ったことがない人もいると聞きます。
 受話器を取り上げてお金を投入し、通話音を確認してからダイヤルを押したり、回したりします。
 場所によっては10円専用の回転式ダイヤルのもの(ピンク色の電話です)もありますので、使い方を知っていないとお手上げになってしまいます。
 日頃から意識して公衆電話を確認し、たまにはそれを使って電話をかける練習をしておきましょう。

 携帯電話は便利なのですが、基地局が動かなくなると復旧に時間がかかります。
 各通信事業者もさまざまな手で通信回線を確保しようとしていますが、もっとも大切なのは不要不急な電話は被災地からも被災地以外からもしないことです。
 輻輳状態にならなければ通信規制も入らず、電話は普通に使えます。
 また、SNSで自分の安否を知らせておくのも手です。
 これまでの災害では、電話に比べるとパケット通信は格段に繋がりやすく、その中でもSNSはさほどのタイムラグがなく通信ができていたという実績があります。
 ただ、だからといってSkypeやLINE電話など、パケットを使った音声通信が増えれば、そちらも程なく通信が飽和状態になってしまうかもしれません。
 「災害時伝言ダイヤル」等も上手に活用して、自分の安否だけは早めに知らせておきたいものです。

新年のご挨拶

あけましておめでとうございます。
旧年中はどちら様にも大変お世話になり、ありがとうございました。

さて、去年の災害を振り返ってみましょう。
時系列に並べてみると
1月22日からの大雪
2月4日からの大雪
4月9日大田市を中心とする島根県西部地震
6月18日大阪北部地震
7月4日からの平成30年7月豪雨
8月の台風13号、20号
9月の台風21号
9月6日北海道胆振東部地震
9月~10月の台風24号
雪、地震、大雨、台風と、立て続けに大きな災害が起きました。

漢字能力検定協会の実施する2018年を表す漢字でも「災」の字が選ばれるくらい、多くの方に災害が記憶に残ったということなのでしょう。
でも、これらの災害を見て、どれくらいの人が明日は我が身と準備をしているでしょうか?
いざ災害が起きて「こんなはずでは無かった」ということにならないように、お互いに準備をしていきたいものですね。

どうぞ今年も当研究所をよろしくお願いいたします。

※災害の出典は総務省消防庁作成の平成30年災害情報から一部を抜粋しました。

防災・減災・縮災とは?

当研究所のコンセプトにも入っている「防災・減災・縮災」ですが、似て異なるものを表しています。
言葉の語源とその意味するところについて、そしてその先にあるものについて、ちょっとだけ触れてみたいと思います。

1)防災

文字通り「災いを防ぐこと」を目的とするものです。
具体的には、津波対策のための防波堤や川の線形改良、護岸工事、山の斜面が崩れないような対策工事など、ハード的なものを指し、日本では長年この「防災」に取り組んできました。
ところが、近年の災害の大規模化や公共事業の予算の縮小などにより、発生する災害を防ぐことが物理的に難しい状況になってきています。

2)減災

そこで、発生する災害はもう防ぎようがないので、人が受ける被害を減らそうという動きが出てきました。
これが「減災」と言われるもので、文字通り「災いを減らすこと」が目的となっています。
早めの避難や防災用品の充実、支援体制の強化などがここに位置します。

3)縮災

でも、「減災」をしても被害を無くすことはできません。
そのため、被災している期間をいかに短くするか、いかに自分の日常生活を早く取り戻すことができるのかという考え方の元に産まれたのが「縮災」です。

防災は大規模な工事を伴うため行政や大企業で無ければ実施するのは困難ですが、減災や縮災は個人や地域、組織や中小企業でも、努力次第で行うことができます。
それが「タイムライン」や「事業継続化計画(BCP)」と言われるもので、これらを作って訓練を実施することで、災害時にも可能な限り被害を防ぎ、通常業務を早く再開することが可能になります。
この時に気を付けないといけないのは、作成業者に丸投げしないこと。
つい「わからないから」と業者に丸投げしてしまいがちですが、実際に行うのは誰でも無いあなたです。
あなたが行う行動を、あなたをよく知らない他人が勝手に決めたところで、そのとおり行動できるとは限りません。
業者に作ってもらうなら、丸投げにせず自分も協議に加わって、一緒に作り上げていくようにしましょう。
そして、作りっぱなしにせず、定期的に訓練を行って、可能な限り減災・縮災ができるように備えておきましょう。

被災物件の調査と証明あれこれ

被災した後、災害関係の証明(罹災(りさい)証明書や被災証明書といいます)を受けるのに、役所に行って手続きを行うことになります。
ただ、役所の対応する職員も普段は全く違う仕事をしているため、不慣れで手続きを間違えることも多々あり、被災者もさんざん待たされたあげくに再度手続きしないといけないはめになるようなことも起きているようです。
今回は、役所が出す各種証明について考えてみたいと思います。

1.住家の被災判定の種類

被災すると住家の被災判定を行うことになります。
ややこしいのは、これが三種類あって、それぞれに内容や手続きが異なることです。
行政への手続きに必要な罹災証明書は、申請しないと手続きができないことに注意してください。

1)応急危険度判定

この様式の他にもいくつか種類がありますが、色は統一されています。

被災した家屋を現状のまま利用したとき、とりあえずそれが倒壊しないかどうかを確認するものです。
緑、黄、赤の三種類の紙があり、緑は「とりあえず問題なし」、黄は「危険」、赤は「いつ崩れてもおかしくない」という意味があります。
応急危険度判定士の資格を持つ人(建築士や建築業者、行政の建築職員など)が、建物の状況をみて判定を行います。
これは被災自治体の判断で該当地域に応急危険度判定士が派遣されますので、申請は不要です。

2)被害認定調査

悲哀判定
被害認定調査では、第一次は外回りだけ調査します

罹災証明書の発行に必要な証明書を作るために必要な調査で、被災者からの申請が必要です。
基準は「どれだけ経済的にダメージを受けているか」というもので、「全壊」「大規模半壊」「半壊」「被害無し」の4種類にわかれます。
これには外観だけを見て決める一次調査と、屋内まで立ち入って行う二次調査の二つがあり、通常は一次調査のみで判定されます。
ただ、外観に影響が無くても屋内が壊れているという場合もありますので、判定後、再調査を申し出ることで二次調査を受けることになります。
ここで作られる罹災証明書が、行政機関の行う各種給付・融資・減免申請の根拠となります。
調査が完了すると「調査済証」が建物に貼り付けられますが、実施する自治体によっては行わない場合もあります。
また、災害の規模にもよりますが、申請から調査まで1週間~1月程度はかかるようです。

3)被災度区分判定

その建物を修理して引き続き利用することができるかどうかを調べる調査です。
これは被災者が個別に建築士に依頼して行うもので、費用負担が発生します。

2.住家以外の被災判定


住家以外で損害を受けた場合、例えば農地や林地、工場などで被害が出た場合には、申請手続きが異なります。
こちらは「被災証明書」といい、被害にあった場所の写真を角度を変えて複数枚撮影し、窓口で申請を行うと、原則その場で証明書が発行されます。
取り扱う市町村によっては、「被災証明書」では無く「罹災届出証明書」が発行される場合もありますが、いずれにしても罹災証明書よりも早いのが特徴です。
また、被災自治体によっては被害調査認定と同様に現地調査を行う場合もあります。この場合には、被害認定調査と同じくらいの期間がかかります。

3.注意点

どんな場合であっても、被災した場所の写真はかならず角度を変えて複数枚撮影しておきます。
特に住家以外の被災判定では写真が必須となりますので、申請するまでのところで撮影をしておきましょう。
また、民間の地震保険などの請求をする場合にも写真が必要となります。
全景数枚、被災箇所毎に数枚の写真を撮影しておくと、手続きがスムーズに進みます。
また、被害認定調査の時、外観を調べる一次調査の職員は屋内を調べる二次調査が出来ないので、判定後に再度申し出る必要があります。
調査を待てない状況であれば、写真を撮った上で行政機関に連絡し、修繕などの許可を受けてください。
住家以外の被災判定は、ルールが定まっていないため、被災自治体によって扱いが異なります。
申請窓口では、対象となるものが住家なのかそれ以外なのかをはっきりとさせて手続きしましょう。

大規模災害になると、被災自治体の職員は不眠不休の体制をとっても手が足りてないのが現実です。
そのため、処理が遅いと言って文句を言っても状況は変わりません。
幸い、行政関係の手続き以外はこの証明書の必要性はあまりないので、地震保険や生命保険などの保険関係や生活再建の具体的な手続きなど、できるところから手を付けるようにしましょう。