防災のラストワンマイル

 災害対策をやっていると、さまざまな情報や物資や支援体制はここ十年くらいで随分と充実してきたなと感じています。
 物資では、国から被災地の要求を待たずに支援物資を届けるプッシュ式が運用されるようになりましたし、情報は気象庁や国土交通省、都道府県、市町村と行政機関から驚くくらい提供されるようになっています。
 支援体制についても、自治体間の相互応援や災害ボランティアセンターの充実、災害NPOの活躍など、量はともかく、必要なものがほぼ提供される環境になってきています。
 ところが、実際には被災した人達の状況というのはさほど変わっていない現状があります。
 これは多岐に渡るさまざまな被災者の要求や要望と、提供する側のマッチングがうまくいっていないことが原因で、私自身は「防災のラストワンマイル」と呼んでいます。
 どのように解決するとよいのか、思案をまとめてみました。

1)物資のラストワンマイルをどうするか?

 災害時の支援物資については、大規模災害のたびに国がやり方の改善をしています。
 大まかな流れを書くと、次のようになります。

備蓄基地→第一次集積所(被災地外かつ近傍地)→第二次集積所(被災地内かつ小規模)→指定避難所(分配拠点)→被災者

 このうち、国が責任をもつことになっている第一次集積所までの物資と流通経路はかなり早く確保することが可能になっており、被災して早ければ翌日、遅くとも数日以内には対応ができるようになっているようです。
 第二次集積所については市町村が責任を持つことになっています。さまざまな問題は残っていますが、流通業者との協定や公共施設の転用によりこちらの設置もさほど時間はかからないと思われます。
 問題となるのは、この第二次集積所から指定避難所、その先にいる被災者にどうやって届けるのかという部分。
 宅配業者に配送をお願いする協定をしている自治体もありますが、全ての自治体が協定しているわけでもないので、この部分を誰が担当するのかということが第一の問題。
 そして、指定避難所に届いた物資をどうやって被災者に配るのかということが第二の問題になります。
 行政が避難所を運営すると「平等・公平」の視点から必要な人に必要なものが必要な数配られないという事が起きますし、自治会が運営をすると、自治会に入っていない、また避難所に避難していない被災者には物資を渡さないという事例が発生しています。
 そのため、どんな人にどのような物資をどれくらい渡すのかということを事前に整理し、情報を共有化しておかないといけないでしょう。
 このあたりは、災害NPO等にやり方を教えてもらうのが手っ取り早いかもしれないと思います。

2)情報のラストワンマイル

 大規模災害が起きるたびに「情報が遅い」「知らなかった」「聞いてない」という被災者の意見が飛び交い、マスメディアがそれを使って「だから行政はダメだ」と叩くのが毎度の光景です。
 去年の西日本豪雨では、気象庁を始め各行政機関がこれでもかというくらいさまざまな災害・避難情報を出しましたが、今度は「情報が多すぎて被災者はわからない」とやっぱり行政を叩いています。
 それを受けてかどうかはわかりませんが、行政が発信する災害・避難情報がレベル表示されるようになるとのことですが、問題になるのは「知る気のない人にどうやって知らせるのか」ということです。
 テレビやラジオ、スマートフォンなどによるエリア配信や防災メール、広域・各個の防災無線と、広域的に出来る手は殆ど出尽くしているのが実際です。
 西日本豪雨では全ての人が助かった自治会は「自治会役員や消防団が一軒一軒訪問して避難させた」ということですが、いつも人海戦術が使えるとは限りません。特に独身者や単身者、高齢者の多い地域では各戸訪問して避難を促しても、文句を言われるか逃げないと言われて押し問答になるかを覚悟しないといけないでしょう。
 「おかしいな」という感覚と「情報はここで確認すること」を住民が意識して常に確認するクセを付けておくこと、何よりも「災害で死なないことは義務であること」を徹底しない限りは、どれだけ手を尽くしても誰かが必ず文句を言うのだろうなと感じます。

3)支援体制のラストワンマイル

 災害が収まって復旧・復興が始めると、被災者にはさまざまな疑問や不安、悩みが発生します。
 それに対するさまざまな対策や対応はだいたい用意されているのですが、被災者がそれを知る術がない。支援が必要な人とその人を支援できるところがうまく繋がっていないのが原因です。
 行政や災害ボランティアセンター、被災地を巡る災害NPO等に来るニーズをどのように対応できるところに繋ぐことができるのか。
 現状は「誰がそれを調整するのか」が決まっていないのですが、本来は行政機関の防災計画にそれを盛り込んでおいたほうがいいのかもしれません。
 熊本地震や九州北部豪雨では市町村や支援団体、災害NPOや地元自治会も加わった協議会が定期的に開催されてそれぞれの得意分野で活動を行うようになってきました。
 発災後だけでなく、普段から交流しておくとお互いのことがよくわかり、被災地の復旧・復興も早く行えるかもしれません。

 最近は「自己責任論」が闊歩していて何でも自分がやらなくてはいけないという風潮があるように見受けられます。
 ただ、実際のところ災害から立ち直るため、自分一人でできることには限度があります。そのため、いかに早く的確に必要とされているものやサービスを必要とする人に届けてその人が立ち直れるのかという仕組みを作っておく必要があるのではないでしょうか。
 自分でできることと助けがいる部分、これをしっかりと見極めて必要な支援を必要なときに受けられるようにしていきたいものです。