おうちの耐震補強を考える

 耐震補強の目安とされているのは、昭和56年以前に建築された木造建物です。これは明らかに揺れに弱い構造のものが多いため、住み続けるのであれば耐震診断を受けておく必要があります。
 ところで、それ以降の建物であっても耐震基準を満たしていない建物がかなりあるようです。震度6程度であれば完全に倒壊することはないとのことですが、念のため耐震診断をしてもらって、耐震補強がいるかどうか判断した方が良さそうです。
 石西地方には筒賀断層と弥栄断層が活断層として確認されていますが、これが動くと石西地方全域がその影響を受けることになり、想定されている震度は5~6ということですので、耐震補強をしておいた方がよさそうです。
 参考までに、耐震補強した場合としない場合の実物の家屋を使った実験がされていますので、興味のある方はご覧ください。

 もっとも、家屋の耐震化にはある程度の予算が必要となります。そのため、最低限自分が長時間過ごす寝室や居間だけでもやっておくという限定耐震補強も考えの一つとして持っておいていいと思います。
 それも難しい場合には、建物の倒壊から身を守る簡易シェルターが発売されていますので、それを利用するのも一つの方法です。
 どうしても予算をかけたくない場合には、2階建てであれば2階で寝るという方法もあります。これは倒壊は1階を中心にして崩れるため、2階の方が生存確率が高いということなのですが、生き残れるかどうかは運次第と行ったところです。
 いずれにしても、耐震補強は地震対策の基本的なことの一つです。面倒がらずに、まずは耐震診断から始めましょう。耐震診断ができる建築士については、お住まいの地域の市町役場の建築課で教えてもらえます。

危険なときほど「STOP」で考える

 どんなに準備していても予想していなかったこと、いわゆる「想定外」というのは必ず起きるものです。そして想定外なことに出くわしてしまうと、「どうしよう、なんとかしないと」と慌ててしまいますが、そのまま場当たり的に対処を始めると、時間が経つごとに悪化していくことが普通です。
 慌てている時こそ、一度「STOP」。大きく深呼吸して、手順に従って新しい行動計画を作り上げなくてはいけません。
 ここで使っている「STOP」というのは、危機管理の基本的な行動基準の頭文字を取ったもので、予想していなかった事態に遭遇したときの対処手順の順番でもあります。

S・・・「Stop」。とりあえず現在の行動を一度中止します。
T・・・「Think」。現在の状況について一度整理します。
O・・・「Observe」。何が起きていて、今どんな状況なのかを確認します
P・・・「Plan」。その事態で起きた問題への対処行動を実行します

 災害時には状況はめまぐるしく動くものです。あらかじめ想定した事態を超えてしまったときには、それまでの行動計画を止めて現状を確認し、助かるための行動計画をその場で作り上げる必要があります。
 自分の命が助かるためにはどのように行動すればいいのか。定めた行動計画にひたすら従うのではなく、自分が助かるために必要な行動について常に状況を確認しながら修正を加えていくことで、生き残る確率は上がります。
 危険なときこそ、一度「STOP」で考えること。
 悠長に見えるかもしれませんが、これが助かるための最短コースなのではないでしょうか。

事前準備と買い占め

市販品の非常用持ち出し袋
市販品の子供用防災セット。一通りのものがセットされているが、その中に自分が必ず必要とするものが入っているとは限らないことに注意。

 災害で避難や補給が途絶したときに備えて3日~7日程度の備蓄品を準備してくださいということが、政府広報などでさかんに言われていますが、あなたは自分が一日に何をどれ位消費しているかを知っていますか。
 あなたの生活に必要なものや用意すべきものは、あなたがいる環境や場所、体調によって異なりますので、自分が一日にどれくらいのものをどうやって消費しているのかを確認しておくことは、備蓄品の準備にあたって必ず確認をしておく必要があります。
 例えば、飲料水は料理で摂る分も含めて一日一人3リットル準備しなさいといわれていますが、汗をかく人や子どもではそれ以上必要になることがありますし、また、そこまで必要の無い人もいます。普段の生活を知ることで、自分に必要なものの数量がきちんと把握でき、無駄な備えをしなくて済むことになるわけです。
 これは災害後に起きる買い占めでよく起きることなのですが、災害が発生して備蓄がない場合、不安と焦りから自分の生活に必要以上のものを買い占めようとする心理が働きます。その結果、ある人は何も手に入れられず、ある人は手に入れすぎて駄目にしてしまったというようなおかしなことが生じます。自分が普段必要になるものと数量を把握することで、必要以上に買う必要がなくなれば、多くの人が助かることになります。事前準備がしてあれば、なおさら心に余裕ができます。
 自分が生活するのに何がどれくらいいるのかをきちんと確認し、その数量×日数分を準備しておくことで、いざというときに慌てなくて済みます。
 災害に備えて紹介されている準備すべき備蓄品はあくまでも平均的なもの。それらを全て準備したからといって、あなたにとって必要なものが全てそろっているわけではありません。
 自分の生活を確認し、それが支えられる分量を準備すること。そして準備した備蓄品は上手に入れ替えていき、いざというときに買い占めしなくてもすむこと。
 これが災害からの復旧の第一歩です。

命を守ることを常に意識する

 命を守ることが、災害時には何よりも優先されます。
 ただ、「いざというとき」は滅多に来ないものです。そのため、どうしても日常生活が優先されてしまい「いざというとき」の備えというのは「やろう」と決めてかからない限りいつまでできないというのが実際のところです。
 では、いざというときにはあきらめるしかないのかと言えば、そんなことはありません。いざというときにどうやったら生き残れるのかを考え、考え続ければいいのです。これは最初はかなり負担です。どこにいても何をしていても、意識的に「いま何か起きたらどこへ逃げればいいか、どう行動すれば助かるか」と考え続けるのですから、非常に疲れると思います。ただ、これをやり続けていると、そのうち無意識に「いま何か起きたらどこへ逃げる、どう行動すれば助かる」ということを頭のどこかで常に考えているようになります。
 こうなるとしめたもの。あなたが生き残る確率は格段に高くなります。生存確率というのは、年齢や性別にはあまり関係ありません。生き残ることを意識しているかそうでないかだけの違いです。
 そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、例えば自動車の運転で、最初は手順をいちいち確認しながらぎこちなく運転していても、気がついたら何も意識せずに運転ができるようになっているのと同じこと。
 災害時に命を守るには、その場所で、その状況で何かが起きたとき、どうやったら生き残ることができるのかを常に意識することです。

■台風と温暖化

 ここ数年、大規模な台風の襲撃が続いていますが、ちょっと気になるニュースを見つけました。

温暖化で台風遅くなる 被害拡大の恐れ―気象研(2019.01.08時事ドットコムニュース)

 ニュースの内容は、地球温暖化が進むと、台風を動かすための偏西風が北上してしまうため、移動速度がゆっくりとなりそうだという気象庁気象研究所の研究成果が発表されたそうです。
 そうでなくてもここ最近の台風は大型化した上になかなか勢力も衰えないという状態になっているわけですが、その上移動速度がゆっくりになると、長時間にわたって居座るため、被害が大きくなりそうです。
 さまざまなところで影響を与えている温暖化。人ごとではなさそうです。

地震の時は自分の重心を下げよう

 例えば歩いているときに不意に地震が来たとしたら、あなたはどうしますか。
 人は生き物としては異常なくらい頭が重たい、つまり重心が高いので、いきなり揺れるとそれだけで転んでしまう可能性が大です。
 それを防ぐためには、とにかく姿勢を低くすること。揺れ始めてから逃げることなどできませんので、とにかく重心を下げ、揺れに身体を持っていかれないようにすることです。何か捕まる場所があるならば、そこに捕まるのも手ですが、それでもやはり重心は下げること。しゃがむ、座るなど、もし転がっても怪我をしないようにすることが重要です。揺れると、上からさまざまなものが落ちてくる可能性があるので頭を守る必要がありますが、それ以上に高いのは転んで頭を打ってしまうこと。これを避けなければなりません。
 理想的なのはダンゴムシのポーズですが、それができない状況もあると思いますので、どんなときでもまずはしゃがむこと。
 それだけで大けがをしなくてすむ確率はあがります。とにかく揺れたときにはまず自分の重心を下げることを忘れないようにしてください。

食べられる野草を知っておく

 今日は七草がゆの日。おせち料理を食べて疲れてしまった胃腸を整え、野菜が乏しい冬場の栄養を補うという理にかなった風習です。
 もっとも、現代では普通に野菜が売られていて食べることができますので、昔ほど栄養を補うという要素は重要視されないのかなとも思います。
 さて、この七草、「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」の七種類で構成されていますが、野草としては冬でもしっかりと生えているものばかり。つまり、災害が起きたときに食料となり得るものなのです。
 元々野菜は食べられる野草を品種改良して食べやすくしてきたものなので、味はともかく、野草も食べることはできます。ただ、生えている草を片っ端から摘んできても、中には食べられなかったり処理が必要だったりするものもありますから、食べるためにはその処理方法や調理法も知っておく必要があります。
 地域によって食べられる野草が生えている場所や生えているものが異なりますので、お住まいの地域でどのようなものが生えているのか、どうやったらおいしく食べることができるのかについて、余裕のあるときに調べて食べてみるといいと思います。
 春の七草は、そういう意味では日本国内であればわりと手に入りやすい野草たちですから、それらの野草から探してみてもいいかもしれません。
 被災後に生き残るためには、食べられるもの食べられないものを判別できる能力が不可欠です。調べて食べてみて、自分の口にあうものを見つけておけば、いざというときでも焦らなくてすむかもしれませんよ。

石西地方のAEDマップのご紹介

 応急手当の講習会に行くと、100%と言ってもいいくらい出てくるのがAEDです。簡単な操作で誰でも取り扱うことができ、心臓マッサージとこのAEDの併用で助かる命が出てくるとなれば、しっかりと講習を受けて使えるようにしておいて損はありません。
 ただ、いざというときにそのAEDがどこにあるのかを知っていないと、使うことができません。
 このAEDの設置場所というのは案外とわかりにくくて、いろいろな団体がAEDマップを提供しています。石西地方では益田広域消防本部が管内のAED設置情報をホームページで提供しています。定期的に更新もされているようですので、お住まいの場所の近くではどこにあるのかを確認しておくのも大切なことだと思います。
 ただ、一つ注意しておかないといけないのは、AEDが置いてあるところが24時間開放されているわけではないということ。殆どの場合施設の中に置かれているため、その施設が開いている時間でないと使うことができません。
 場所の確認と同時に、そこから持ってくることができる時間も合わせて確認しておくといいと思います。

「命を守る」とは?

 地震や津波などが起きる際には、マスコミ報道等では必ず「命を守る行動をしてください」という言葉が入ります。「命あっての物種」ですから、とにかく生き残らないことにはその後の準備をいくらしていても何の役にも立ちませんので、マスコミ報道の伝えていることは完全に正しい内容だと思います。
 では、命を守るとはどういうことなのかというと、まずは「死なないこと」です。そして「怪我をしないこと」。
 当たり前のような話です。
 では、もし今地震が起きたとしたら、あなたはどうやって自分の命を守るのか、その方法と理由を説明することができますか。
 机のある学校や職場ではとりあえず机の下に潜るようにと指導を受けますが、なぜそうするのかをきちんと知っている人はあまりいません。頭、そしてできれば身体全部を落下物から守るために、机の下に潜るという行動が推奨されているわけです。
 でも、机の下に潜る「理由」ではなく「行動」しか教えていないため、安全な校庭にいる子ども達が緊急地震速報の音で慌てて危険な校内に避難するようなことが起きているのが現状です。最近では「ダンゴムシのポーズ」を教えることも多いようですが、これもやっぱりなぜこのポーズをするのかについての説明がされていません。逆に言えば、なぜそうするのかという理屈さえわかっていれば、それが災害時の行動規範になります。その結果、助かる確率があがることになるのではないでしょうか。
 例えば、家の耐震補強をするのは、地震が起きたときに家に潰されないようにするためです。どんなに命を守る訓練をしていても物理的に潰されてしまったら死んでしまいますから、潰されないように対策をしておくことが必要です。同じ理由で「家具の固定」も行っておく必要があります。他にも高いところに重たいものを置かないようにするとか、窓ガラスが割れて飛び散らないようにフィルムを貼るといった行為も自分が死なない、怪我しないために行う準備なのです。
 まず命が助かること。災害を生き残るためにはそれが一番最初であり、一番大切なことなのです。
 もしもあなたが災害対策にかける予算が少なくて何をするのかを迷っているようでしたら、まずは寝室のお片付け、そして家具の固定、できれば耐震診断をして家の耐震補強をするところから手をつけてみてください。
 また、学校や勤務先等ではものが落ちないように対策をしたり、頭や身体を守れるように身を隠す場所を決めたりしておきましょう。
 災害時にしっかりと命を守ることから、災害対策が始まるのです。

災害関係の碑あれこれ

 災害が起きると、何らかの理由で碑が建てられることがあります。
 大きく分けると、教訓を示すための碑と、何らかの災害対策を行った者を顕彰するための碑、そして鎮魂のための碑です。
 石西地方では、私が知る限りは顕彰碑か鎮魂の碑なのですが、これはこの地方で起きるのは水害や大雨による災害が殆どであるため、教訓の碑を建てるよりも、実際に被害に遭わないために水に浸からない場所に居所を建て、水に浸かる部分は田として遊水池の機能を持たせて被害を最小限に食い止めるための行動をしているためではないかと考えています。碑は丈夫な石で作られているとはいえ、そのままでは時間の経過とともに記憶が風化して人々から消えていくものですから、教訓よりも行動で示しているのではないかなと思います。。もっとも、当地方でもいろいろと調べてみても由来がはっきりしない碑が多いので、、その中には過去の災害の教訓についての伝承のあるものがあるのかもしれません。
 教訓の碑としてよく知られている東北太平洋岸に点在する過去の津波被害の碑も、記憶の承継がされていた一部の地域を除くと、このたびの東日本大震災で「そんなものがあった」と注目を浴びるといった状態なので、意識しない限りは忘れ去れていくことは仕方がないのかなと思います。
 教訓を未来に向けて残していくためには、それをいかに日常生活の中に溶け込ませていくかが鍵になると思います。例えばインドネシアのある島では「歌」で津波の教訓を伝えていて、その歌が歌い継がれていた結果スマトラ大津波でも死者が少なかったという風に。
 そういえば、教訓の書かれた碑の中に、今でもそのように考えなければいけないのだろうなと思ったものがありました。

東桜島小学校にある桜島爆発記念碑。「科学不信の碑」とも呼ばれているらしい。
出展:桜島・錦江湾ジオパーク推進協議会ホームページ

 それは鹿児島県にある桜島で起きた、大正3年の大爆発のあと建てられた桜島爆発記念碑の一つなのですが、その中に「(前略)住民ハ理論ニ信頼セズ、異変ヲ認知スル時ハ、未然ニ避難ノ用意、尤モ肝要トシ、平素勤倹産ヲ治メ、何時変災ニ値モ路頭ニ迷ワザル覚悟ナカルベカラズ。(後略)(※1)」という一文があります。
 大正3年の桜島の大噴火では事前にたくさんの地震や井戸からの熱湯ふきだしなど、さまざまな異変が起きましたが、地元の測候所が「桜島は異常なし。噴火はしない」と言い続けていたため、それを信じた住民達が大噴火の犠牲になってしまったことから「科学的な判断を鵜呑みにせず、自分の勘や判断で以上だと思ったら、事前に準備して災害後に路頭に迷うようなことのないようにせよ」という教訓を残しています。その記載から「科学不審の碑」とも呼ばれているそうですが、誰かの言うことに振り回されるのではなく、起きている事象から自分で判断して行動するというのは、災害対策として現在でも非常に大切な教訓なのではないかと思っています。
 災害の碑は、国土地理院の地図でも「自然災害顕彰碑」として地図上に表示されるようになりました
 もしもお近くに何かの碑があるなら、その碑がなんのために作られたのかについて調べてみるのも面白いのではないでしょうか。もしそれが災害の碑であったとしたら、その碑が何を伝えるために建てられたのかについて確認してみると、昔の人の思いが伝わってくるかもしれませんね。

※1 碑文の出展元は「桜島爆発の日 大正3年の記憶(野添武著/南日本新聞開発センター)」から抜粋しました。