災害を「知ること」から始めよう

 災害対策のお話をさせてもらうと、多くの方が「何から手をつけていいのかわからない」と言われます。
 確かに、災害対策は家の耐震化や非常用持ち出し袋、備蓄品の準備、地形や気象を読んだり、安全な避難経路を考えたりと、いろいろなことをやらないといけませんから混乱してしまうのも当たり前です。できれば現状維持、何も手をつけたくないというのも正直なところだと思っています。
でも、何もしなくていいのかというとそういうわけにもいきません。とりあえず、研修会や講演会、書籍やマスメディアなどで災害を知るところから始めてみてはいかがでしょうか。
 災害を知ることで、自分がいる場所では何を優先して準備すべきかが見えてきます。そして、優先度の高いと考えるものから準備していけばいいのです。いっぺんに準備できなくても、例えば月に一つ家具を固定することだけでもやっていけば、固定した空間は安全が確保されるようになります。お水のペットボトル1本でも準備しておけば、いざというときにあなたの身を助けてくれるかもしれません。
 一番怖いのは「知らないこと」です。知らなければ対策を取ることもできませんし、何が危険で何が安全なのかさえもわかりません。
 「敵を知り己を知らば百選危うからじ」という言葉もあります。まずは災害を知ることです。あらゆる災害対策はそこから始まります。

準備する水のペットボトルのサイズを考える

ペットボトルの水。左から500ml、1リットル、2リットル。

 災害時に使う非常用持ち出し袋や被災後に使うことになる備蓄品では、それぞれ準備しておくものが異なります。
 ただ、共通するものもあって、例えば飲料水などは衛生的な水が確保できないという前提で考えると絶対に必要なアイテムの一つとなります。
 では、どのように準備したらいいのでしょうか。
 結論から言うと「備蓄品は保管しやすい最大量」で、非常用持ち出し袋は「持ち歩きがしやすくそのままで飲みやすい大きさ」ということになります。
 備蓄品は家屋倒壊が起きない限りはそんなに長距離を抱えて移動することは考えにくいですから、別に量が多くても困ることはありません。
 保存が利くのであれば、2リットルのペットボトルやウォーターサーバーなどでも問題ないと思います。ただ、水の容器からそのまま注ぐということを考えると、容易に持ち上げることのできる2リットルがお勧めになるでしょうか。
 非常用持ち出し袋では持ち歩くという前提がありますから、大きなボトルだと重さが分散できないので持ちにくいという問題があります。隙間に詰めたり重心を簡単に調製することを考えると、大きくても500mlまでのものになると思います。
 防災ポーチなど普段持ち歩く前提のものであればもっと小さな200mlやそれ以下のものでも構わないと思いますが、そのあたりはご自身の体力と非常用持ち出し袋の重量とを考えながら用意してください。
 中間どころの1リットルというものも存在します。これは備蓄品にも非常用持ち出し袋にも入れることが可能ですが、ちょっと中途半端な感じがします。ただ、家族で小さい子どもや高齢者がいる前提なら、その人達の水の確保と重量バランスの点から、1リットルも検討に上がってくると思います。
 ご自身の非常用持ち出し袋や備蓄品収納の大きさやバランスを考えながら、いろいろと試してあなたがしっくりとくる編成を考えてみてください。
 ちなみに、ここで準備するペットボトルは必ずお水にしてください。水であれば飲料以外にも傷の洗浄やうがいなどいろいろなことに使えます。
 災害時にはなるべく少ない数のアイテムで多くのことに使えることが求められます。災害対策用には「水」。
 もし嗜好品を準備される場合でも、その水分は水としてカウントせず、水は水として準備してくださいね。

レトルト食品で気をつけておきたいこと

 レトルト食品というと長期保存ができて味もよく災害時に限らず普段の生活の中でも重宝するアイテムです。
 ただ、一つ気をつけておきたいのが、レトルト食品にも常温保存可のものとそうでないものがあるということです。

 スーパーの食品売り場などを見ていると気づくと思うのですが、レトルト食品なのに冷蔵棚の中に並んでいる商品があり、よく見ると「要冷蔵」と書かれていると思います。
 これらのレトルト食品は減菌・滅菌処理がされていないために常温保存ができず、賞味期限も短くなっていますので、災害用食料として準備する際には十分に気をつけてください。
 災害用に備蓄するときには、保存方法の記載を賞味期限と併せてきちんと確認し、保存に向いたものを準備するようにしてくださいね。

牛乳パックで灯りを作る

 牛乳パックというのは、牛乳を飲み終わった後もいろいろと使える便利な道具です。例えば、洗ってから開くとまな板として使えます。その後、切り刻めば着火剤として使えますし、長く切ると簡易的なロウソクの代わりにもなります。中に食材を入れてから牛乳パックに火をつけて燃やせば簡易オーブンになりますから、灰になるまで使える優秀な道具だと思います。
 で、今日は火がないときに作ってみる前提で、牛乳パックを使った簡易ロウソクを作成してみることにします。

 牛乳パックは、内側にアルミの貼り付けていないものでないとうまくいきませんので、中がアルミでないことを確認してください。

 端っこからくるくると切っていきます。長く切るのがポイントです。

 切り終わったら、燃えない針金などを使って牛乳パックを宙に浮かせます。引火しないように、火の落下点には水を満たした皿やバケツを置いておきます。

 ライターやマッチで火をつけます。うまく引火すると、非常によく燃えて明るいです。ただ、燃える速度はかなり速いので、目を離せないのが難点です。牛乳パック一つで、切り方によりますが15分から45分くらいは燃やせると思います。
牛乳パックを使った簡易ロウソクは非常に火がつきやすく明るいのが利点ですが、燃える速度が速く燃え尽きるのが早いことが難点です。できれば屋内ではやらないほうがいいと思います。

 ちょっとした暇つぶしや実験の一つとして、ご家族でキャンプなどをされるときに一度作って燃やしてみても面白いと思います。
 ただ、繰り返しになりますが引火しないように注意が必要です。実際にやってみられる場合には、自己責任でお願いします。

非常用持ち出し袋は家族一人に一つずつ準備する

 非常用持ち出し袋を作るというお話をすると、なぜか一家族で一つ準備すればいいと思う方が多いようです。
 実際のところ、一家族に一つだと、いざというときにはどうにもならないことが殆どです。少々大きなリュックサックを準備しても、家族全部の生活を養うものを持つことは非常に難しいと思います。例えば、家族4人の生活に必要とされる水は、一人一日3リットルとして全部で一日12リットル。もし3日分持って避難となると、これが36リットル、つまり36キログラムの重量を一人が背負うことになります。これは極端にしても、非常事態の対応としても、自分の命を守るためのものが特定に人に集中している事態は避けるべきだと思います。
 非常用持ち出し袋は、家族一人に一つ必要です。リュックサックを背負うことが難しい人は仕方がありませんが、リュックサックを背負える人であるなら、子どもでも年寄りでも関係ありません。自分が持てる範囲の自分の荷物をきちんと持ってもらうことが必要です。
 例えば、3歳のこどもに一日分の水や食料、生活用品まで入ったリュックサックを背負えといわれても難しいでしょうが、例えば300mlのペットボトルのお水1本と簡単な非常用食料、着替えくらいであればきちんと背負えるのではないでしょうか。自分で背負える範囲の生活物資を持つことで、万が一はぐれたとしても背負っている物資で命を繋ぐことはできます。また、少しの荷物でもわけることができれば、その分他の荷物を持つことができるので、生活環境の低下を少しでも防ぐことができます。
 家族みんなで自分が避難所で生活するとしたらどんなものがいるのかを話しながら用意していけば、きっと満足のいく非常用持ち出し袋をそれぞれが作ることができると思います。
 非常時には、自分のことは自分ですることが基本中の基本です。小さい子でも責任を持たせて準備させ、いざというときに持ち出すように話をしておくことで、仮に大人がいないときでも自分のものを持って避難することができれば、命が助かる確率はかなり高くなると思います。
 3月末、生活環境が変わるついでに、それぞれが非常用持ち出し袋を準備する機会にもしていけるといいですね。

被災体験演習をしてみよう

 非常用持ち出し袋や備蓄品を準備しても、使い方がわからなければ宝の持ち腐れです。そこで、ゆっくりできる日に家族で被災体験をしてみるのはいかがでしょうか。
 ちょうど今はコロナウイルスの騒動でなかなか屋内での遊びが難しいときですので、おうちで、家族で準備してある非常用持ち出し袋や備蓄品だけで一日過ごしてみてください。
 電気やガス、水道は使わず、お風呂やトイレも、このときは非常用アイテムだけを使ってみます。食事も寝るのも全て非常時想定で生活してみるのです。
 平常時にやるのであれば、万が一何か困ったことが起きても普通に生活ができる環境がありますから困ることはありません。衣食住、全て非常用持ち出し袋や備蓄品で過ごしてみて、その後で実際にどうだったかを家族で話してみてください。
 よく問題が出てくるのはトイレと就寝ですが、それ以外にもさまざまな問題が発生すると思います。また、意外と余ったものや足りなかったものが出てくると思いますので、それに対しての解決策を考えてください。
 冬と夏では準備しておくものが異なりますし、体験できることも違います。慣れてきたら、四半期に一回やってみてください。そうすれば、わざわざ高い非常用食料を買わなくても普通のインスタント食品やレトルト食品で代替できますし、普段の生活と差補と違うご飯を食べることもないと思います。
 被災体験は、繰り返すほど困ることが減ってきます。そして、いざ本番の時にはそれまで体験した成果がありますので、生活の質をさほど落とさなくても被災生活を送ることができるようになっていると思います。
 せっかくやるのですから、家族で楽しみながら被災体験演習をしてみてくださいね。

緊急防災放送装置を点検しておこう

 津和野町と吉賀町で各家庭に配布されている緊急防災放送装置にはないのかもしれませんが、益田市の緊急防災放送装置は定期的に電池を交換する必要があります。個人的にはなぜ充電池式ではないんだろうかと思いますが、ともかく電池を交換していないと停電時に防災無線を受信することができず、「肝心な時に役に立たない」ということになりますので、きちんと交換をしておくことをお勧めします。
 確認するポイントは緑のランプです。このランプが点滅していたり消えている場合には電池を速やかに交換しておきましょう。


 詳しい電池交換のタイミングや方法については、益田市役所のウェブサイトをご確認ください。
 寿命は概ね一年だそうですから、非常用持ち出し袋や備蓄品の点検をするついでに電池交換してしまうようにするといいかもしれませんね。

口の中を清潔に保つ

 口の中がきれいでないと、さまざまな雑菌が繁殖します。その雑菌によるいろいろな病気にかかってしまう可能性が高くなるので、口の中をきれいに保つことは普段の生活でもとても重要なことです。
 通常は歯磨きやうがい、ゆすぐなどをして口の中に繁殖している雑菌を追い出しているのですが、災害時にはそれができなくなることがあります。特に発災から数日間は口の中がなんとなく気持ち悪くても、言い出せずに我慢してしまい、いつの間にかその気持ち悪い状態が当たり前になってしまうことが起きます。
 特に高齢者では口の中で雑菌が繁殖した結果誤嚥性肺炎を起こしてしまうことが多々あります。高齢者以外の方も免疫力が落ちていれば同じような症状になることはあり得ます。他にも虫歯やその他の疾患にもいろいろと口内環境が影響を与えているという話はありますので、気をつけるべき重要項目といっても過言ではないでしょう。
 口の中をきれいに保つために一番簡単な方法は、非常用持ち出し袋に歯磨きセットを入れておくことです。洗口液を一緒に準備しておけば水がなくても歯磨きから口をゆすぐところまで可能ですし、洗口液なら罪悪感もありません。

被災時の歯磨きでは水がない場合歯磨き粉は使わない方が無難。歯ブラシできれいにした後は、洗口液でゆすぎ口の中の汚れを撤去する。

 歯磨きセットがない場合には、清潔なティッシュ類や布をお茶や水に浸して絞り、歯を磨いてから少しの水でゆすぐようにすればとりあえずの口の中の衛生環境は守ることができると思います。

ティッシュや布を写真のように指に巻き付けて少し湿らせ、歯を磨く。

また、定期的に歯磨きの時間を生活の中に組み込んでおくことで、被災後の生活にもメリハリができて病気になりにくくなると思います。
 口の中は菌が繁殖しやすい環境が整っていますから、生活環境以上に衛生的であることに気を遣わなければいけません。
 あなたの非常用持ち出し袋にも、歯磨きセットは必ず入れておいてくださいね。

防災訓練は子どもも積極的に活動してもらう

 地域の防災訓練で主体となって活動しているのはどのような人でしょうか。多くの場合、自治会の方や地域対策を考えている方が中心となると思いますが、その中に子ども達は交じっていますか。
 防災訓練では、子ども達は仕事ができない「お客様」として扱われていることが多いのですが、実際の被災地の復旧では、子ども達がかなりの戦力として活躍しています。炊き出し、話の聞き役、衛生管理など、子ども達はありとあらゆる場面で復旧支援の手伝いをしてくれます。大人同士であれば大げんかが始まるようなぴりぴりとした状況を子どもが仲裁するというようなこともしばしば起きたりしています。歩いて会話ができる子であれば、それなりの仕事はできます。ただ、残念ながら子ども達は経験が不足しているため、最初に指示がないと動けないのです。そして、指示を出している大人達はそれを見て子ども達をお客にしてしまう。悪循環です。
 防災訓練でも子ども達に積極的に参加してもらい、さまざまな仕事のお手伝いをしてもらう。そうすることで、大人とは違った目線での意見ももらえますし、いざというときに頼れる戦力としても育成ができます。
 実際のところ、被災地の復旧が始まると働ける人達はほとんど働きに出てしまい、避難所には高齢者と子ども達が残されてしまいます。子ども達が避難所運営を手伝ってくれることで、大人達にも余裕が生まれてきます。
 もちろん、大人の思ったようにならないことは当然ありますが、子ども達も仕事があることで自分たちが活躍しているという満足感を得ることができ、精神的に安定することも期待できます。災害本番だけでなく、普段の防災訓練でも活躍ができるように、地域の子ども達にも打ち合わせに参加してもらい、守ってもらう側から守る側に変わってもらう。そうすると、地域も社会も変わってきます。
 最初は大変だと思いますが、子ども達も彼らなりにいろいろと考えていますから、防災訓練を企画される際には、ぜひ地域の子ども達を加えてみることを考えてみてください。

自助・共助のすすめ

 広域災害が発生すると、自衛隊や消防、警察と言った公助による救助はほぼあてにならないと思ってください。
 広域災害では救助を求める人の連絡で、公的機関の電話はパンク状態になりまずつながりません。つながっても、現場に出ることのできる戦力には限りがあることと、その機関にしかできない業務を持っているため、副次的な業務である個人の救助活動まで手が回らないというのが現実です。
 例えば、阪神淡路大震災のとき、倒壊した家屋から救出された人の実に95%が家族や友人・知人といった面識のある人に助けられており、警察や消防、自衛隊といった公的機関の救助隊による救助はわずか1.7%だったそうです。(出典元:平成28年度防災白書
 つまり、自分たちで救助しなければ助からない命が出てくるということです。
 自助でできる一番大切なことは、家屋を倒壊させないことです。例えば住家や建物の耐震補強や耐震強化を行えば建物の全壊を防ぐことは可能です。一部が崩れているのを片付けるのと、全部が崩れているのを片付けるのと、どちらの作業が早いかは想像がつくと思います。
 倒壊しないための処理が難しいのであれば、シェルターなどを使って倒壊建物に潰されないように備えておくということも重要です。
 全ての準備が諸事情でできないとしたら、少なくとも自分が生きていることを知らせるホイッスルくらいは身につけておいてください。。脱出時に怪我をしないように、着替えや靴を枕元に用意しておくことも重要だと考えます。
 後は「共助」として、ご近所と顔つなぎをしておくことです。ご近所づきあいは面倒くさいという話も聞きますが、こと災害に関してはつきあって顔見知りになっておくことが自分に取って不利になることはありません。高齢化や都市流出が続いていて、田舎では空き家が馬鹿みたいに増えています。倒壊した家屋全てに人がいるわけではありませんから、いることを知っておいてもらわなければ、そもそも救助にすら来てもらえないのです。ですので、そこに住んでいることを知っている人をたくさん作っておくことが大切なのです。別に濃厚なつきあいをしなくてもいいと思います。顔を見たらあいさつしておくだけでも、そこに人がいるという証拠になりますから、倒壊したときに気にかけてもらえる可能性が高くなるわけです。また、あいさつすることで周囲の人の顔がある程度はわかるようになりますから、状況によっては自分が助ける側に回ることもできるでしょう。
 人口減少や公務員削減などで、災害時に動員できる災害対応要員は年々減り続けています。いざというときに役所がなんとかするということは、もはや幻想でしかありません。都会であれ田舎であれ、それぞれの理由で公助は当てになりません。隣近所の人と顔見知りになっておき、いざというときにお互いに救助をすることができるようにしておくようにしたいものですね。