防災計画は現実的ですか

 東日本大震災における大川小学校の損害賠償請求事件では原告が全面勝訴しています。このことは割と有名な話なのですが、この中で裁判所が「事前防災の予見と不備」を大きな理由にしていることはご存じですか。
 人が集まっている学校などでは、想定されうる災害についてきちんと精査し、条件変更のたびに防災計画をきちんと見直すことが必須とされています。
 詳細は裁判所の判例をご確認いただきたいのですが、筆者の解釈では、この判例の前提にあるものは、学校に限らず、人が集まる施設では起こりうる災害とその対策についてしっかりと精査したうえで可能な限り犠牲者を出さないための対策を行う必要があるということなのではないかと思っています。
 学校や病院、介護施設、保育所やこども園などでは、ほとんどの場合防災計画が作られていると思います。ただ、それはきちんとそれらがある場所の状況を反映し、的確に安全確保ができるものになっているでしょうか。
 特に介護施設などでは、筆者の知る限りでは防災計画のひな型を適当に手直ししたものが備え付けられていることが多いですし、見直しや改訂もまったくされていないものもよくあります。
 法律上は防災計画が立てられていて計画書が備え付けられているので問題がないと判断されるのですが、それで安全がきちんと確保されているでしょうか。
 防災計画を一から作れというのは結構ハードルが高いと思うのですが、これらの施設に義務付けられている避難訓練の状況や結果を防災計画書に反映させることはできると思います。
 もしあなたが防災担当をしているのであれば、今からでも遅くはありません。
 自分の担当している防災計画書を見直し、地域の災害リスクや要件をきちんと満たせているか、そして実際に安全確実にできるような計画になっているかを確認し、しっかりとした安全を確保してください。
 余談ですが、介護施設は特に地域の中では危険な場所に建てられていることが多いです。立地からすでにリスクがあるのですから、しっかりとした対策を作って実行できるかどうかを確認することをお勧めしておきます。

大川小学校津波訴訟判例文(裁判所のウェブサイトへ移動します)

日常生活の中の防災

 防災というと非日常に備えるというイメージがあるようですが、日常生活の中にこそ防災は存在します。
 普段の生活で危ないところや気を付けたほうがいいところは、災害時にも危なかったり気をつけないといけなかったりしますし、普段の生活でやっていないことは非常時にできるわけはありません。
 災害という非日常では、普段の生活がより極端に出てくるだけですので、防災というのは日常生活の延長線上にあるのです。
 そう考えると、普段からちょっと気を付けておけば非常時にも備えることができることになります。
 災害は非常事態ではありますが非日常ではありません。日常でのいいこと悪いことが極めてわかりやすく極端に見えるだけなのです。
 日常生活の中にこそ防災があるのだという意識で、何気ない日々の生活に災害対策を取り入れてほしいと思います。

わかっていることとわかった気になっていること

 どんなジャンルにもその道のプロと言われる人がいます。
 防災という分野でも、たくさんのプロ講師がいて、日々日本中を駆け回って講演会をやっています。
 有名どころの人の講演会を聞くと「なるほどな」と思うことも多いのですが、1時間もたつときれいに忘れていたりする自分がいて、それはどうしてなんだろうと考えてしまうことがあります。
 一つには、その人の講演が上手にまとまっていて、疑問を挟む余地がないので記憶に残らなかったことなのかなと思います。
 それから、そういった人の講演会は全国や日本という大きなくくりの話になりがちのため、目の前の自分の地域や自分のいる場所に落とし込めておらず、自分のことになっていないこともあるのかなと思います。
 地域のことにしっかりと災害対策を落とし込むためには、長期戦でじっくりと、災害対策がその地域にとっての当たり前になるまでやり続ける必要があります。
 年に1回くらい「いい話」を聞いても、最終的にわかった気になっているだけで自分事になっていないため、毎年やっても状況が変わらないということはあるのかもしれません。
 では、本当にわかってもらうためにはどうすればいいのかというと、偉くて有名な人を呼んできて講演をやってもらうよりも、地域に根差した防災活動をやっている人と一緒に地域の防災対策をやり続けることではないか。
 実はこれは非常に難しいことで、片手間にできることではないですし、やり続けることはもっと難しいように思えます。
 ただ、災害対策として取り組むのではなく、地域づくりの一つとして地域活性化の一つの手段にしてしまえば、地域づくりをする限り災害対策は進んでいきますし、忘れられることもないと思います。
 行政機関も自治会も、災害対策の定義を一度考え直して、地域がどうあったらいいのかをしっかりと考えることがわかっていることという状態にするには必要なことではないかと思います。

とりあえず試してみること

 災害後の生活では、さまざまな人がさまざまな代替品・代替手段の情報を提供していますが、その代替品や代替手段を実際に試してみた人はどれくらいいるでしょうか。
 例えば、トイレ問題。
 トイレが使用できない場合には大人用のおむつをつければ安心です、といった話を見ることがありますが、実際につけてみたところ、吸収した後の状態がかなり気になって気が散り、筆者自身は何かに集中することはちょっと難しかったです。
 むろん全く気にならない人もいると思いますのであくまでも個人的な意見ですが、それを体験したことにより、筆者自身は便器につけられる簡易トイレを数日分準備することにしました。
 ちゃんとしたおむつでもかなり気持ち悪く感じるのですから、赤ちゃんのおむつの代用品としてよく紹介されているタオルとポリ袋などは、赤ちゃん大泣きまっしぐらになると思います。
 タオルとポリ袋の組み合わせは、普通の布おむつと同じ状態なので、赤ちゃんが排せつするたびに替えてやる必要があります。でも、被災直後にそれだけ衛生的なタオルを準備できるのであれば、最初から紙おむつを準備しておけという話になります。
 試してみると意外なことがわかることは他にもたくさんあります。
 いろいろとやってみている筆者ですが、印象としては普段の生活で使用しているものはできる限り普段通りのものが使えるように準備し、そうでないものについては代替品や代替手段を知っておくことがいいようです。
 代替品はあくまでも代替品。代替手段はあくまでも代替手段。
 とはいえ、代替品や代替手段でも自分は大丈夫かもしれません。それを確認するためには、平時にいろいろと試してみること。
 そうすることで自分に必要な準備が見えてくると思います。

小さな危険で学ぶ

空き缶クッキングでは刃物も使うし火も使う。でも、気を付けていれば事故は防げる。

 最近はちょっとでも怪我をすると管理責任を問われるそうで、自治体の作る公園などから遊具がどんどんと撤去されているようです。
 ただ、怪我をしないということはそれが危ないということが体験的に理解できないということなので、本当にそれでいいのかなと考えてしまいます。
 例えば、身近な話では包丁を子供に使わせるのは危ないからやらせないというおうちがあるそうです。
 では、包丁が危ないということを、やらせないという人はどうして知っているのでしょうか。包丁で指を切ったりするような怪我をしているからこそ、危ないし痛いことを知っているのではないですか。
 人の成長が基本的なことを体験や経験から判断するようになっている以上、ある程度の危ないことは体験しておかないと最終的に大けがや死を招くような失敗をやってしまうのではないかと心配してしまいます。
 ちなみに、当研究所のやっている子どもの防災キャンプでは、直火や刃物を使うことがあります。また、さまざまなぱっと見に危ないことをやることもあります。
 ただ、その中で指を切ったりやけどをしたりすることで、取り扱いに気を付けるようになりますし、同じ失敗はしないということが殆どです。
 危険であることは変わらないのですが、その危険の危ない理由を知ることで、危なくない使い方、あるいは危険回避の方法を学ぶことができるのではないかと思います。
 小さな危険を見守ってやり、大きな危険を防いでいくのも、危険なことをさせないという一つの方法なのではないかと思います。

被災地支援を考えたら

一般の人はボランティアセンターが設置されてから支援に入るのが無難です。

 大きな災害が起きて甚大な被害が出ると、被災地の状況がどのようになっているのか、そして何か手伝いはできないかと考える方も多いと思います。
 被災地では、発災後しばらくの間はかなり情報が錯綜します。
 また、行政機関は状況の把握と生存者救助に全力を挙げている状態なので、行政機関へのお問い合わせは絶対にやめてください。
 支援ではなく、ものすごく邪魔になります。
 ではどのように情報を集めるのかというと、行政機関や報道による現在の状況の発表、または信頼できるウェブサイトからのものを確認するようにします。
 SNSでは、かなり情報が錯綜するので、客観的な状況把握は相当難しくなります。
では、ある程度落ち着いてからはどうするかというと、衣食住そして情報の全てを自己完結できる人は被災地応援に入ってもいいと思います。
 例えば災害支援のNGOやNPOなどはこのジャンルに入ります。被災地入りし、自ら情報を収集して対処をしていくのは、普通の人ではかなり難しいと思います。
 言い換えると、衣食住及び情報が自己完結できない人はこの時点ではまだ支援に出るのは早いということです。
 状況がさらに落ち着くと、社会福祉協議会などが被災地復旧ボランティアセンターを立ち上げることになります。
 ボランティアセンターが立ち上がったら、そこから被災地の状況や必要なボランティアについてはネット上で情報発信されますので、それを確認して判断をすることになります。
 状況が不明だからと言って、行政機関やボランティアセンターに直接電話することは絶対にやめましょう。
 ここまでくるとお気づきだと思いますが、被災地支援を行う上で状況確認の電話は絶対に避けてほしいです。電話での対応は一件に一人しか対応できない上、たいていの場合話が長くなります。現地対応に追われている職員の手をかけてまでさせるものではありません。
 結局、被災地支援の情報は、基本的にはインターネットで集めることが正解となります。ボランティアの申し込みもインターネットで行われることが殆どになってきていますので、そちらで申し込むことになります。
 ちなみに、SNSはボランティアに出かけた人が発信している情報を見るのには有効です。どのような状況で何が必要で、どのようなことをしたのかがわかれば、ある程度の目安がつけられると思います。
 賛否あるマスメディアからの情報も、被災地以外の人が被災地の状況を確認するのには有効ですので、それらも上手に使ってほしいと思います。ただ、マスメディアは全体的に「ひどい状況である」ということを強調しがちなので、その辺を割り引いて考えないといけないのが悩ましいところです。
 ともあれ、被災地に支援を行うためには支援に入るための情報収集は絶対に必要です。それを行ったうえで、被災地に行って支援をするのか、それとも寄付など現地以外で支援を行うのかについて判断してもらえればいいと思います。

防災の優先度

 災害対策について尋ねると、ほとんどの人が対策は必要といいます。
 では、自分が対策できているかを尋ねると、ほとんどの人ができていないと答えます。必要だけど対策はしていない、なんとも不思議な感じがしますが、「重要だが緊急性が低い」と考えられていると思えば、この結果はなるほどなと思います。
 重要で緊急性が高いものはすぐに対策をすると思います。例えば、直撃しそうな台風や確実に大雨になる場合には重要で緊急性が高くなるので災害対策を行う人はたくさん出ると思います。
 でも、例えば地震対策となると、重要ではあるが緊急性があるのかという疑問が出てくるようです。また、自分が生きている間には地震は起きないと思っている人もいるかもしれません。
 実際のところ、地震は一度対策するとそれ以上の手はかからないのですが、手間とお金がかかるのがわかっているために手をつけていないのかなと思います。
 いろいろなところでお話してみると、ゼロからプラスにすることには熱心でも、マイナスからゼロにするという作業は嫌な人が多いようで、それも対策が進まない原因なのかもしれません。
 やらないといけないことはわかっているが、日々の生活の方が忙しい。それが多くの人の本音だと思います。
 でも、大きな災害が起きると日常生活は吹っ飛んでしまいます。吹っ飛んだ日常生活をいち早く取り戻せるのは、きちんとした対策が必要となります。
 常に防災の緊急度を上げておく必要性はないと思いますが、時々防災の緊急度を上げ、その時にさまざまな対策をしておいてほしいと思います。

地震対策で一つだけするとしたら

家具を固定しないと、家具が倒れるだけでなく、中のものが散らかって相当危険になる。

地震への備えは結構悩む人が多いようです。
実際、いつ来るのか来ないのかさえわからない、でも絶対に起きることはわかっている災害なので、備えておけばいいのですが、備えが無駄になるかもと考えると備える必要性を疑問視してしまうという難しい災害扱い。
台風や大雨だと、最近の予報精度なら最悪でも数時間前には被害が予測できますが、地震はそういうわけにはいきません。
いきなり起きて、起きた時には勝負がついているのがこの地震という災害ですので、準備はしておく必要があります。
どんな準備をすればいいのかというと、とにかく自宅が倒壊しないこと、そして建物の中の家具などが倒れないようにしておくことです。
これだけであれば、絶対に必要で一度やればいい作業になりますので、とりあえずこの対策だけをしておくようにしてください。
ただ、倒壊を防ぐ耐震化や家具の固定ではお金がかかります。
お金をかけたくないのであれば、寝る場所だけでも補強をしておきましょう。
最近では丈夫で潰れない天蓋付きのベッドなどもありますので、そういったものを用意しておくのも手だと思います。
また、普段いる部屋から背の高い家具をすべて撤去することも有効です。
どうしても家具の撤去が嫌なら、家具と天井の間に段ボール箱をしっかりと詰め込むと、家具が転倒しにくくはなります。
地震のあとには、避難所は収容人員をはるかに超える避難者でいっぱいになります。衛生環境や治安が悪い避難所で起きる騒動を考えれば、自宅を災害後もそのまま使えるようにしておくことがどれくらい大事なのかイメージがつくのではないでしょうか。
しっかりと備えるようにしたいですね。

【活動報告】オンラインイベント「Shimatching~島根とゆるくつながる場~」に出演しました。

2023年1月26日に開催されたオンラインイベント「Shimatching~島根とゆるくつながる場~」に出演させていただきました。
このオンラインイベントはふるさと島根定住財団様が不定期に開催しているもので、普段は古民家再生や地域イベントをされている団体が登場して全国の方に団体の紹介をしたり、意見交換をしたりし、島根県を知ってもらって交流してもらおうというものです。
普段の当研究所の活動からみるとちょっと異色な感じなのですが、防災では広域災害時にお互いに助け合える関係づくりをしておこうという理屈を作り、出演させていただきました。
当日は島根県江津市の都野津街並みの会様と一緒に出演させていただき、当研究所の防災と自然体験を組み合わせた活動についてお話をし、防災活動は難しくないというイメージがもっていただけたならいいなと思います。
また意見交換では「防災×歴史探訪」や「防災×土木施設見学」などをやってみてはというご提案や「防災では何を一番きをつければいいか?」「こういった施設で気をつける点は?」といったご質問もいただき、今後の取り組みの参考になるお話もいろいろと伺うことができました。
せっかくいただいたさまざまな地域にお住いの方とのご縁もでき、他地域とも連携をしながら、引き続き活動を行っていきたいと思います。
お声がけいただきましたふるさと島根定住財団様、そしてイベントにご参加いただきました皆様に厚くお礼申し上げます。
なお、どんな雰囲気だったのかについてはふるさと島根定住財団様が運営するサイト「しまっち!」をご覧ください。
また、この「しまっち!」では3月5日に開催予定の「外あそびごはんの会」のお手伝いスタッフも募集しています。
興味のある方は併せてご確認ください。

活動レポート(「しまっち!」のウェブサイトへ移動します)

車中泊を考える

実際に車中泊した翌日の朝の車内。お外は雪で真っ白でした。

研修のご質問の中で、災害からの避難時に車中泊になった場合の寒さのしのぎ方について聞かれることがあります。
雪降る中でやってみた体験談としては、
1.窓の断熱
2.床の断熱
3.電気毛布の準備
といった感じでマイナス3度くらいまでは快適に眠ることができました。
車中泊の場合、寒いときには車内からどれだけ熱を逃がさないかがカギとなります。
もともと鉄の箱なので熱が逃げるのは仕方がないのですが、窓ガラスからは無視できないくらいの熱量が簡単に逃げていきます。
これは断熱ガラスなどを使っている場合でもあまり変わりませんので、窓には断熱効果のあるものを貼り付けることが大切です。
もしも難しい場合には、布などでもよいので、熱が逃げないような工夫をしておきましょう。
床からはかなり冷気が上がってきますので、エアーマットなどを寝る場所の下に敷いて空気の層で断熱します。
最後は熱量を発生するもので、蓄電池+電気毛布などで温めるようにし、体の上には空気を多く含むことのできる毛布をかけると、やってみた限りでは快適に眠ることができました。
ペットや何らかの問題で災害時の避難で車中泊の可能性がある人は、寒い時期に自分の車で試してみるとよいと思います。