社会福祉施設と福祉避難所

 保育園や介護施設などの社会福祉施設では、非常事態に備えた事業継続化計画、いわゆるBCPを持っていると思いますが、そのBCPでは多くの場合、災害発生時の利用者や職員の安全確保については考えられていても、施設の復旧や早期利用開始についてまでは定義されていないことも多いのではないでしょうか。
 令和3年5月に災害対策基本法が改正され、社会福祉施設をあらかじめ福祉避難所として指定し、事前に指定している被災した要配慮者及びその家族を最初から避難者として受け入れられるようにすることができるようになりました。

 これにより、普段利用している要配慮者の心身両面の安全安心が確保でき、安心して早めの避難をしてもらえるようになります。
 ただ、現時点ではなかなか及び腰になってしまっているのが実際のところではないでしょうか。
 今までは営業中の被災について考えておけばよかったのに、福祉避難所としての機能を持たせることになるとより細かな規定を作る必要があるからです。
 例えば、その社会福祉施設がどのような災害に弱いのかやどうなったら福祉避難所の設営を行うのか、職員の確保はどうするのか、施設の復旧と要配慮者の避難受け入れの両立ができるのかなど、さまざまな問題が発生します。
 また、今まで以上に職員やその家族のBCPまで考えてもらわないといけませんから、手間と時間を考えるとどうしても二の次になってしまいます。
 BCPの修正期限まで3年間の猶予はありますが、その間に個別避難計画を策定し、避難所運営計画を作り、事業の復旧や支援受け入れ体制、他の社会福祉施設との応援協定や定期的な訓練など、やらないといけないことはてんこ盛りです。
 元々現在の社会情勢から考えて、社会福祉施設が機能を再開しないと社会全体の復旧が進まないという現実がありますから、営業を止めないことや要配慮者を受け入れることのできる環境を作っておくことは必然です。
 厚生労働省や内閣府防災担当が社会福祉施設に関するガイドラインを作っていますので、とりあえずはそれに当てはめてBCPを作成し、その上で問題点を見つけていくことになると思います。
 全ての社会福祉施設が服し避難所になれる要件を満たしているわけではないと思いますが、あなたの社会福祉施設はどのような条件なら福祉避難所になれるのか、そして福祉避難所をどうやったら運営できるのかについて、市町村などの行政機関から相談がある前に、準備を始めておいた方がよさそうです。

福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改定)(内閣府防災担当のサイトへ移動します)

その時勝負はついている

 事前の備えとして建物の耐震化は必ずしておけということがかなり厳しく言われています。
 そうは言っても、過去数十年間なんともなかった地域では、おそらくピンとこないのではないかと思いますし、実際古い建物の耐震診断も思ったほど進んでいないというのが筆者の周りを見た感じでの感想です。
 ところで、活断層と呼ばれる断層の活動周期はどれくらいかご存じですか?
 国土地理院の定義でいくと、「数十万年以内で活動のあった断層で今後も動く可能性のあるもの」を活断層と呼ぶそうです。
 数十万年というスパンで考えると、数十年は誤差と呼ぶのもどうかというくらい短い期間でしかありません。人間の一生のうちに、住んでいる場所が地震の被害にあわなかったからといって地震が起きないとはいえないということです。
 かつて熊本では企業誘致の際に「地震の来ない安全な場所」とPRしていましたが、2016年に活断層型地震、いわゆる熊本地震が起きました。
 このときにも、決して根拠なく地震がこないと言っていたわけではありません。過去120年程度の記録を調べて大きな地震がなかったことからそう言っていたわけですが、数十万年という間隔で考えると、こちらも誤差です。
 少なくとも、日本に住んでいる以上はいつどこで大きな地震にあっても不思議ではないということを頭の中に置いておかなければいけないのです。
 そして、地震が起きたら建物が揺れで崩れるかどうかは誰にもわかりません。揺れている最中に慌てて補強工事ができるわけではありませんから、揺れた段階で地震対策の勝負はついているということです。
 いくら非常用持ち出し袋の準備や避難所への移動訓練、そして避難所開設訓練をしていても、一番最初の揺れに伴う被災で無事でいなければ、何の役にも立たないのです。
 そういう意味で、地震は起きたときには勝負がついています。
 建物の耐震化、家具やその中身、照明具の固定、ものが倒れてこない場所に就寝スペースを作るなど、揺れたときに生き残る、つまり勝負に勝てるように準備をしっかりとしておいてくださいね。

 参考までに、同じ建物(文化住宅)で耐震補強をした場合としていない場合の比較実験をした映像を独立行政法人防災科学技術研究所がyoutubeにアップロードしていますので、そのリンクを貼っておきます。

避難所のトイレ事情

携帯トイレ各種

 家屋被災等で避難所生活をしなければならなくなったとき、最初に問題になるのがトイレです。
 水道が止まっていると下水道や水洗トイレは使用できなくなりますから、避難所になる施設では、まずはトイレを閉鎖することになります。
 くみ取り式や簡易水洗トイレであるならくみ置きの水でなんとかなりますが、通常の水洗トイレの場合、最低でも1回に15リットル以上の水を流さないと詰まってしまいますので、避難所を汚染しないためにも可能な限り早くトイレを閉鎖する必要があるのです。
 避難所では避難者数にあわせて仮設トイレを設置する必要があるのですが、業者から仮設トイレが届くまでの間をどうするのかという問題が残ります。
 段ボールトイレや簡易トイレなどが準備してあればいいのですが、そうでない場合には悲惨な状況になってしまいます。


 避難所が予定されている施設では簡易トイレを備えておいた方がいいでしょうし、避難するあなたも携帯トイレや動物用シートなどを準備しておいた方が安心です。
 また、簡易トイレでは洋式トイレが多いのですが、仮設トイレはほとんどが和式です。そのため、しゃがめないお年寄りや和式トイレを使ったことのない人は非常に困ったことになってしまいます。本当は避難所として使われる施設はトイレの一部だけでも簡易水洗式を採用しておくと安心なのですが、下水道が普及してしまっている地域ではそれも難しいようです。
 あなたの避難する予定の避難所のトイレ事情はしっかりと確認して、無用なトラブルが起きないようにしたいものですね。

大雨や水害とのとき、避難で必ず着替えを持っていないといけない理由

こんな雨でも足下が濡れることはあるので靴下の準備はしよう。

大雨や台風での避難では、なるべく濡れないように早めの避難をするようにしてください。
もしどうしても大雨や水の中を濡れてでも避難をしなければならなくなったときには、しっかりと防水対策をした袋などにタオルと着替えセットを入れて、必ず持って避難することをお勧めします。
濡れたままでいると風邪を引くとはよく言われることですが、災害時でもそれは全く変わりません。
服でも靴でも、濡れるとその部分の体温は濡れている部分の水に奪われていき、たとえ夏であっても低体温症になる確率が跳ね上がるからです。
人間は身体が冷えてくると、体温を保つために熱を作ろうとします。寒いときに身体が震えるのはこのためなのですが、そのときに同時にエネルギーもかなり消費することになります。
空気に比べると、水の熱伝導率は約25倍だそうですから、いくら熱を作っても濡れている部分に熱を持って行かれて、身体がどんどん冷えてくるという事態になります。
暑い時期に海や川やプールで遊ぶと涼しくなるのは、水が身体から熱を奪っていってくれているからで、長い時間浸かっていると寒くなって水中にいられなくなると言った体験をしたことがある人も多いのではないかと思います。
災害時、避難所に身体を温める熱源があればいいのですが、冬ならともかく、夏にそんな熱源を用意してくれている避難先はまずないでしょう。
そうすると、一番確実なのは避難が完了したらすぐに乾いた服に着替えるということです。
空気は水とは逆に高い断熱性を持っていますから、着替えることで冷えた身体を温めることができます。
もちろん、濡れたままでは避難所に入れてもらうこともできませんから、着替えは必須になるわけです。
避難の時、足下は運動靴を履くように書かれている文献が多いですが、その際に替えの乾いた履き物も一緒に準備しておくと、着替え後もあなたの自由を確保することが可能です。
一番良いのは、濡れてしまう事態になる前の安全な時期に避難することです。
そのことを前提にして、それでも濡れて避難することを考え、あなたの装備の準備をするようにしてくださいね。

家具の転倒防止対策はしてますか

 おうちの中の災害対策としてよく言われるものに家具の転倒防止対策があります。
 割と簡単で効果が高く、費用対効果もよいのでお勧めしているのですが、なぜかなかなか普及しないのが現実です。
 借家やアパートの場合、返すときに現況復旧条件がついている場合に、家具の固定をビスなどの穴が空くものでしていると、穴の痕を補修しなければいけないケースも多いようで、なかなか実際にするのは難しいとも聞きます。
 ただ、固定しなくても家具の転倒防止は可能です。
 もちろん壁や天井にビスなどでしっかりと固定してあるのが一番安全ではあるのですが、突っ張り棒を使えばある程度の安全を確保することも可能です。
 突っ張り棒で止めるときのコツは、突っ張り棒の天井などに面している部分を板などで補強してやることです。


 そうすることによって、突っ張り棒の棒の部分だけで無く、板全体で家具を支えることになるので、天井板が弱くても転倒を防ぐことが可能です。
 場所によっては突っ張り棒ではなくチェーンやL字金具などを使う場合もあると思いますが、しっかりと止めてあると地震のときだけでなく、水害で浸かったときにも家具が浮いて建物を壊すのを防ぐことができます。
 他にも、家具と天井の間に荷物を入れて家具が揺れないようにする方法もあります。
 一番良いのは普段居る場所に家具を置かないことなのですが、日本ではなかなか難しい条件ですので、寝室には背の高い家具は置かない、倒れる方向を考えて配置するなど、あなたが怪我しないような方法を考えてみて下さい。
 突っ張り棒やそれに使う板などは普通にホームセンターで売っていますので、少しずつでも固定を進めて、もし地震が来たときに家具の下敷きにならないようにしておいてくださいね。

周囲の変化に気づくこと

側溝から水が溢れてくると外に逃げるかどうか判断が難しくなる

 当研究所が防災研修会などで避難判断のことをお話しするときに、必ず言うのが「身近なものの変化に気づこう」というものです。
 行政が発表する気象情報や土砂災害警戒情報、避難情報は、どんなに細分化できてもせいぜい地区までです。
 でも、同じ地区の中でもその災害に弱い場所とそうでない場所が必ず存在します。
 避難判断をしなければならないような場所に住んでいる場合には、例えば土砂災害警戒情報や避難情報が出る前に被害が発生しているかもしれません。
 もちろんなんともない場合もあるのですが、行政が発表する各種情報はあくまでも地区という「面」だと考えて下さい。
 でも、あなたが住んでいる場所は地域の中の一つの「点」です。その点の変化が一番よく分かるのは、そこに住んでいるあなたではないでしょうか。
 地震のようにいきなりやってくる災害はともかく、徐々にひどくなってくる大雨による洪水や内水氾濫、土砂災害等にはほぼ予兆がついてきます。
 その予兆に気づいて避難することで、あなたの命が守れるのです。
 例えば、土砂災害警戒地域であれば小石が崩れてきたり崖から水が噴き出してきているような状態はいつ崩れてもおかしくない予兆ですし、大雨が降り続いて家の前の側溝の水が普段見ないような水かさになってくると、避難を開始する必要があるでしょう。
きっかけはほんのちょっとした予兆なのですが、それに気づくことであなたの命の安全が確保されるのです。
 行政の発表する気象情報や雨雲レーダー、土砂災害警戒情報などを始めとする面の情報と、家の周辺の変化の情報を重ね合わせることで、より正確な避難判断が下せるようになります。
 本当は避難判断が必要ない場所に住むのが一番なのですが、狭い日本ではそんなことは言っていられません。普段はそこで生活しながら、非常時にだけ逃げるという判断もよいのではないでしょうか。
「身近な変化に気づくこと」
 あなたの命を守るために重要なことだと、当研究所では考えています。

同じ正解のない世界

 災害対策ではいろいろなことが終わってから言われるわけですが、それは災害が収まって落ち着いて、全ての結果がわかっているから言えることで、災害時に常に正しい答えが導き出せるとは限りません。
 同じ状況下でも、前回正解だと思っていた行動が今回は命の危険を招くこともあり得るわけで、過去の経験則がそのまま当てはまらないのが災害の特徴と言えるかもしれません。
 そういった事態をなるべく避けるため、避難訓練や研修会を重ねていくわけですが、問題が起きないようにやろうとすると、実はあまり意味の無いものになってしまいます。いざ本番でトラブルが起きても対処できるように、訓練ではより意地悪な環境や設定を行うといいと思います。
 もっとも、現実としてはそんな設定をすると関係者や上司にボロっかすに言われたりするのですが。
 ともあれ、災害対策は同じ正解のない世界です。あるとすれば、とにかく早めに避難することくらい。ただ、普段の生活や行動から、災害時のあなたにとっての正解を予想することはある程度できるので、普段の生活でちょっとだけ災害対策を意識してもらえると、よりあなたの命が安全になると思います。

常時と非常時の判断

台風や大雨など、ある程度早めから被害が想定される場合には、どのように対処するか悩ましいときがあります。
公共交通機関では基本的にBCPが準備されていて、その計画に従って計画運休することも増えてきました。
ただ、結果として何も起きなかった場合には、公共交通機関は計画運休したことを責められます。
困ったことに、何も無かったという事実は存在していますから、運休で困った人達だけでは無く、専門家という人達もマスメディアも喜んでバッシングをするわけです。
災害が起きたかもしれないという予測は、そういったときには完全に無視されます。
ただ、公共交通機関の場合、もし災害に伴って事故が起きるとその被害はけっして許容できるレベルではありません。
どのタイミングで常時と非常時のスイッチを切り替えるのかは、本当に判断に迷うと思います。
実はこの判断を迷わせずに実行するためにBCPが存在しているのですが、あまりバッシングすると、今度は現場の判断でBCPに従わないという選択肢が登場してしまうことになります。
そうすると、非常時に備えた計画そのものが破綻してしまいます。
公共交通機関は常に安全確実に利用者を目的地に連れて行くのが仕事です。
その目的を考えれば、災害時により安全な対応を判断することはおかしいことではないと思います。
計画運休は、数日前から予告されるものですから、それに従ったそれぞれの対応を取ることが正しい姿なのではないでしょうか。
日常生活を非常時にシフトすることは難しいものです。
特に通勤通学している人達にとっては、その所属する組織が「非常時とは」という定義をきちんと示しておく必要があります。
以前、大阪北部地震では、鉄道が止まったにもかかわらず会社や学校が通常どおり活動しようとして、あちこちで問題が発生しました。
判断に迷うときに日常を継続するのか、それとも非常時にシフトするのか。この判断、公共交通機関だけではなく、それぞれの組織や個々人もできるように準備しておきたいですね。
あっても、やっぱり判断には迷うのでしょうが。

【開催報告】防災研修会を開催しました。

 去る9月18日、益田市民学習センターにおいて防災研修会を開催しました。
 内容は「災害ってなんだろう?」ということで、災害の種類と基本的な逃げ方についてお話をさせていただきました。
 今回の参加者は当研究所の会員様ばかりで、講師をする側にとっては授業参観のようで非常に緊張しましたが、講義後に出席者の皆様からさまざまなご指摘をいただき、今後よりよいものを提供できるのでは無いかと自信をつけることができました。
 今回は土曜日の夜と言うことで、忙しく、そしてお疲れの中、参加していただきました皆様にお礼申し上げます。
 また、今後も不定期になると思いますが、小さな防災研修会を開催していきたいと思っていますので、興味があってご都合のつく方は是非一度参加してみて下さい。
 お待ちしております。

お店にハザードマップを貼っておこう

 あなたのお宅では、ハザードマップは壁に貼ってありますか。
 家だけでなく、避難経路についても赤線などでわかるように書いて、避難先まで問題ないかを確認するようにしてください。
 ところで、不特定多数の人が集まる食堂やレストランなどの飲食店では、災害が起きたときにどこへ避難すべきか知らない人が多くやってきて利用します。
 いざというときに安全な避難先がわからないとパニックになってしまいますし、少ない従業員の方で完全な誘導をすることも難しいですから、お店の位置と近くの避難所がわかるハザードマップを貼っておくといいと思います。
 貼る場所は、トイレの中。
 小便器を使っているときに目線がある場所や、個室の場合には扉の内側。用を足しているときは案外としっかり見てくれますから、そこへ掲示しておくとかなり効果的です。飲食店に限らず、不特定多数の人が利用する施設では掲示するようにしておくと、ある程度の混乱を避けることができると思います。
 ハザードマップは大事にしまっておくものではありません。活用してこそ作った意味があります。
 掲示したからといってお客様に何かが訴求できるわけではありませんが、いざというときに少しでもお客様の生存確率を上げることができる簡単な取組です。
 広告に混じっていても構いませんので、お店のどこかにお店の位置と避難場所を記載したハザードマップを貼り出してみませんか。