避難所は健常者しか避難できない

 大規模災害が長期化すると、避難のための場所が生活のための場所に変わります。
 そういった避難所でよく観察してみると、避難している方がほぼ健常者だということに気付くと思います。
 妊産婦や赤ちゃん連れ、身体やこころに病気を持っている人を見かけることはほとんどないと思います。
 避難所で過ごす人達は、災害前の生活と比すと自分の思ったようにならないことから大なれ小なれこころに不満や不安を持っています。
 それが自分の常識の外の事態に出会うと、その対象者に対して言葉や物理的な暴力が振るわれ、危険を感じた人は避難所から退去することになります。
 例えば、乳児は泣くことでしか自分の意思を伝えることができません。おなかが空いたり、おむつが濡れているだけでなく、不安を感じたときにも大声で泣くのです。
 その泣き声は、普段鳴き声に接することのない人の耳にはものすごく耳障りに聞こえ、なかでも不満や不安を押し殺しているような人にとっては格好の攻撃材料になってしまいます。そしてそれが続くと、乳児を持つ親は危険を感じて退去することになり、それが続く結果、避難所は健常者だけになってしまうのです。
 同じ事が障害をもつ方にも言えます。結果として、本来は避難が必要な人が避難所を追い出され、避難しなくても生活できる人が避難所を占拠するという困った状態になるのです。
 現在避難レベル3で高齢者や障害者、乳幼児などを持つ親は避難するようになっていますが、そういった人達は避難準備を始めてから避難ができるようになるまでに時間がかかります。
 そして避難所に避難したときには健常者で溢れていて入れないということもよく起きます。
 そのため現在福祉避難所を避難所開設と同時に設置して支援が必要な避難者を専門に受け入れるような整備が進められているのです。
 地方自治体の中には、この福祉避難所の設置が地域に混乱をもたらすと消極的だと聞きますが、役割をしっかりと決めて説明しておくことで、無用な混乱が起きることは防げると思うのですが、あなたはどう考えますか?

子どもの世話ができますか

スプーンで飲んだり食べたりできるかどうか知っているだけでも大事

 あなたがもし親で、小さな子どもが居るとしたらと考えてください。
 あなたはその小さな子どもをどのようにお世話すると思いますか。あなた自身が全てのことを任せきりにされるでしょうか。それとも、誰かに任せきりにしてしまうでしょうか。あるいは、周囲の助けを借りながら自分でも頑張ってみるでしょうか。
 実は、その子のお世話を普段しているかしていないかで、災害後にどれくらい家族の生活が安定するかが決まります。
 というのも、普段は仕事や用事で子どもを誰かに任せることができていたとしても、災害時にはあなたが子どもの面倒をある程度の間みなくてはいけないことになるのです。
 そのときにあなたが一人ででも子どものお世話がきちんとできないと周囲や家族の間でさまざまなストレスが溜まってうまく行かなくなるのです。
 災害時には、さまざまな普段の状況が先鋭化して浮き彫りになります。
 いいことも悪いことも、災害という事実が隠れていたさまざまなことをさらけ出してしまうのです。
 子育てでも同様で、さまざまな事情で誰かに子育てを押しつけていたら、災害時にはそのしっぺ返しを受けてしまうことになります。
 生活リズムや、食事、排泄、そして表情の読み取りまで、普段見ていないものは非常時にも見ることはできません。
 最低限、育児の一通りはできるようにしておきましょう。
 そして、もしも周囲に任せきりの人がいるようであれば、30分でも1時間でもいいので、その人に子どもを預けて面倒を見させてください。
 実際に動かないと、口でどのように言っていても行動はできません。
 自分でやってみること、その人に任せてやらせること。
 どんなことでもそうなのですが、特に育児では普段からしっかりと関わっておきたいですね。

AEDにご注意ください

 いざというときに備えて設置されている「AED」。
 正式名称は「自動体外式除細動器」といって、心蔵がけいれんを起こしているような状態を正常化し、心蔵の正常な活動を再開させるために使う道具です。
 これは年齢を問わずに発症しますが、早期に除細動すればほとんど助かるため、誰にでも簡単に使えて除細動できるAEDが普及しています。
 さて、AED用のパッド、あるいは設定モードには「小児用」と「大人用」があるのですが、「小児用」と聞いて、あなたはどんな年齢の人まで使えると思いますか。
 医療関係では「小児」というと15歳未満を指すことが多いのですが、このAEDパッドの「小児用」は「未就学児」を指していて、これが緊急の時に判断を迷わす要因になっているようです。
 小児用パッドは大人用よりもパッドの大きさを小さくし、パワーを1/3にしています。未就学児に設定をあわせていることから、6歳から14歳までの子どもには「小児用」ではパワーが不足していて充分な除細動ができないのです。
 日本赤十字社や消防署などがやっているAEDの訓練では、パッドが大人用しか無い場合には未就学児にも大人用パッドを使っても問題ないとされていますので、判断に迷ったら大人用パッドを使うようにしてください。
 また、パッドが同じで本体の設定で小児用と大人用に切り替えるAEDもありますが、こちらも小児用は未就学児です。
 学校に行くようになったらAEDは「大人用」を使うこと。
 新しいAEDでは「未就学児」と「小学生~大人用」という書き方に変わってきているようですが、殆どのAEDでは「小児用」「大人用」という表示です。
 迷ったときは「大人用」。忘れないようにしてくださいね。

災害対策の準備は地域で異なる

市販品の非常用持ち出し袋セット
よくある非常用持ち出し袋のセット品

 個人の防災では非常用持ち出し袋や避難所のことがかなり頻繁に言われますが、非常用持ち出し袋や避難所の準備について都会と田舎では異なっているのはイメージできますか。
 以前に聞いた話ですが、大雨でとある田舎の集落が孤立したとき、数日後にその集落に救援部隊がたどり着いたら、住んでいた人達は特に困っていなかったということがあったそうです。
 もちろん電気は止まっているのですが、水は井戸から取っていて、熱源はプロパンガス。トイレはくみ取り。そして米は備蓄していて野菜は庭から取ってくるというような生活で、冷蔵庫と照明が使えないくらいでそこまでの不自由はなかったということのようでした。
 もしこれが都会地だと、停電は水も熱源も人の生活から奪ってしまいますし、食料の備蓄もそこまでの量はないのではないでしょうか。
 ライフラインが集中管理されている状況だと、一つのダメージが致命的な影響を与えることになりますが、普段の生活ではそこまで意識はしていないと思います。
 都会地と田舎での防災に対する準備の違いや意識の違いは、こういった普段の生活環境にもあるのではないかと思っています。
 実際、防災のご相談をいただくときにはよくライフラインと備蓄の話になって、そこまで非常食の準備をしないといけないのかと言われることがあります。
 災害への備えは住んでいる環境によって大きく異なるので、必要なものを選んで準備していただくような話になるのですが、都会基準で作られているマニュアルに完全に従うと、過剰準備になるのかもしれないと思うことがあります。
 もちろん、井戸が枯渇したりする可能性もありますから最低限の命を維持するための道具は必要なのですが、お住まいの環境や条件によって、準備するものを切り替え、命を守れるようにしてほしいなと思います。

赤ちゃんの災害への備え

 生活弱者といわれる方々の中に、赤ちゃんとそのお母さんが含まれていますが、もしもあなたがその対象であるなら、ご自身の災害に対する備えができているでしょうか。
 被災後の避難所での生活は、支援物資が届くまでは自助でなんとかしないといけませんが、元気な大人でも備えがないと結構大変ですので、赤ちゃんが居る場合にはそれ以上に事前に準備をしておかないといけません。
 そして、赤ちゃんは日々大きくなっていきますので、ただ準備すればいいわけでは無く、成長にあわせて日々備えを変えていく必要があります。
 おむつやミルクの量、着るための服など、非常用持ち出し袋を作っても数週間で準備した内容を全部変えてしまわないといけないこともよく起きます。
 もっとも、赤ちゃんとのお出かけをするためのお出かけカバンを作っている方であれば、お出かけから戻ったらすぐに次のおでかけの準備をするようにしておけば、それが非常用持ち出し袋になりますからそんなに手間ではないと思います。
 お出かけをあまりしないようなおうちであれば、3日分くらいのおでかけができるような内容で非常用持ち出し袋をつくっておくといいと思います。
 もちろん一番良いのは避難しなくても済む、家にそのままいることができる状態ですので、1週間程度の備蓄はしておくようにします。
 でも、万が一何も持っていない状態で被災し、避難することになったらどうするか。
 日本新生児生育医学会というところが「被災地の避難所等で生活をする赤ちゃんのためのQ&A」というリーフレットを発行していますので、興味のある方はリンク先を覗いてみてください。

被災地の避難所等で生活をする赤ちゃんのためのQ&A」(日本新生児生育医学会のウェブサイトへ移動します)

社会福祉施設と福祉避難所

 保育園や介護施設などの社会福祉施設では、非常事態に備えた事業継続化計画、いわゆるBCPを持っていると思いますが、そのBCPでは多くの場合、災害発生時の利用者や職員の安全確保については考えられていても、施設の復旧や早期利用開始についてまでは定義されていないことも多いのではないでしょうか。
 令和3年5月に災害対策基本法が改正され、社会福祉施設をあらかじめ福祉避難所として指定し、事前に指定している被災した要配慮者及びその家族を最初から避難者として受け入れられるようにすることができるようになりました。

 これにより、普段利用している要配慮者の心身両面の安全安心が確保でき、安心して早めの避難をしてもらえるようになります。
 ただ、現時点ではなかなか及び腰になってしまっているのが実際のところではないでしょうか。
 今までは営業中の被災について考えておけばよかったのに、福祉避難所としての機能を持たせることになるとより細かな規定を作る必要があるからです。
 例えば、その社会福祉施設がどのような災害に弱いのかやどうなったら福祉避難所の設営を行うのか、職員の確保はどうするのか、施設の復旧と要配慮者の避難受け入れの両立ができるのかなど、さまざまな問題が発生します。
 また、今まで以上に職員やその家族のBCPまで考えてもらわないといけませんから、手間と時間を考えるとどうしても二の次になってしまいます。
 BCPの修正期限まで3年間の猶予はありますが、その間に個別避難計画を策定し、避難所運営計画を作り、事業の復旧や支援受け入れ体制、他の社会福祉施設との応援協定や定期的な訓練など、やらないといけないことはてんこ盛りです。
 元々現在の社会情勢から考えて、社会福祉施設が機能を再開しないと社会全体の復旧が進まないという現実がありますから、営業を止めないことや要配慮者を受け入れることのできる環境を作っておくことは必然です。
 厚生労働省や内閣府防災担当が社会福祉施設に関するガイドラインを作っていますので、とりあえずはそれに当てはめてBCPを作成し、その上で問題点を見つけていくことになると思います。
 全ての社会福祉施設が服し避難所になれる要件を満たしているわけではないと思いますが、あなたの社会福祉施設はどのような条件なら福祉避難所になれるのか、そして福祉避難所をどうやったら運営できるのかについて、市町村などの行政機関から相談がある前に、準備を始めておいた方がよさそうです。

福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改定)(内閣府防災担当のサイトへ移動します)

温かい食事を食べるには

 大規模災害になると、電気、ガス、上下水道といったライフラインは寸断されて止まってしまう確率が高いです。
 避難所で提供される食事は、基本的には被災地以外から輸送してくる関係上、温かいものはまず提供されません。過去の災害ではお弁当が遠くで大量に作られることになったため、冷凍せざるを得ず、凍っていたこともあると聞きます。
 災害後、避難所での炊き出し支援が非常に喜ばれるのは、温かいものを食べることができるからというのが非常に大きいのです。
 では、どうやって温めるのか。
 よくあるものではカセットコンロ。これは普段から簡単に手に入りますし手入れも楽ですので、一つは持っているべきアイテムです。
 これからの季節、お鍋などをカセットコンロで温めれば、使い方もわかりますし、備蓄もきちんとでき、おいしいものを食べることもできます。


 それから、発熱剤を準備しておくのも手です。これは耐熱パックに発熱剤を入れ、水を加えることで加熱することができる優れもの。安全に使うことができますが、費用対効果が悪いのが欠点でしょうか。
 真夏であればソーラークッカーも便利だと思います。市販品もたくさんありますが、アルミ箔と段ボールなどを使えば自分で作ることもできるようですので、試して見るとよさそうです。また、同じく夏しか使えませんが、黒く塗った灯油缶に水を入れて黒いビニール袋を包み、お湯を作り、それで湯煎する方法もあります。
 ともあれ、普通に提供されるだけではほぼ確実に温かい食事はできませんから、あなたの気力や体力を守るためにも、何らかの備えをしておいてくださいね。

大雨や水害とのとき、避難で必ず着替えを持っていないといけない理由

こんな雨でも足下が濡れることはあるので靴下の準備はしよう。

大雨や台風での避難では、なるべく濡れないように早めの避難をするようにしてください。
もしどうしても大雨や水の中を濡れてでも避難をしなければならなくなったときには、しっかりと防水対策をした袋などにタオルと着替えセットを入れて、必ず持って避難することをお勧めします。
濡れたままでいると風邪を引くとはよく言われることですが、災害時でもそれは全く変わりません。
服でも靴でも、濡れるとその部分の体温は濡れている部分の水に奪われていき、たとえ夏であっても低体温症になる確率が跳ね上がるからです。
人間は身体が冷えてくると、体温を保つために熱を作ろうとします。寒いときに身体が震えるのはこのためなのですが、そのときに同時にエネルギーもかなり消費することになります。
空気に比べると、水の熱伝導率は約25倍だそうですから、いくら熱を作っても濡れている部分に熱を持って行かれて、身体がどんどん冷えてくるという事態になります。
暑い時期に海や川やプールで遊ぶと涼しくなるのは、水が身体から熱を奪っていってくれているからで、長い時間浸かっていると寒くなって水中にいられなくなると言った体験をしたことがある人も多いのではないかと思います。
災害時、避難所に身体を温める熱源があればいいのですが、冬ならともかく、夏にそんな熱源を用意してくれている避難先はまずないでしょう。
そうすると、一番確実なのは避難が完了したらすぐに乾いた服に着替えるということです。
空気は水とは逆に高い断熱性を持っていますから、着替えることで冷えた身体を温めることができます。
もちろん、濡れたままでは避難所に入れてもらうこともできませんから、着替えは必須になるわけです。
避難の時、足下は運動靴を履くように書かれている文献が多いですが、その際に替えの乾いた履き物も一緒に準備しておくと、着替え後もあなたの自由を確保することが可能です。
一番良いのは、濡れてしまう事態になる前の安全な時期に避難することです。
そのことを前提にして、それでも濡れて避難することを考え、あなたの装備の準備をするようにしてくださいね。

液体ミルクと母乳

 災害に限らず、環境が変わって不安になると母乳は出にくくなるようです。
 そうは言っても、赤ちゃんはおっぱいを飲むのがお仕事。お腹が空くと大声で泣きますし、泣かれても母乳が出ないとやるせない悲しさで情けなくなります。
 そんなときに役に立つのが液体ミルクで、国産メーカーでは現在グリコと明治の2社が製造しています。この液体ミルクは常温保存でき、調製済みですので最悪そのまま飲ませることも可能な便利なアイテムです。
 ただ、赤ちゃんに限らず、人間は環境が変わったときに正体不明のものは食べたくないものですから、平時に一度飲ませてみることをお勧めします。
 製造している2社は味がずいぶん異なりますので、飲む赤ちゃんも好みが出るのではないかと思います。飲ませてみてご機嫌な方を1日分程度ストックしておくと、取りあえず気分的にはずいぶんと楽になると思います。
 また、母乳が出ない理由には母親の水分不足が原因であることもありますから、避難の際には液体ミルクと合わせて、お水や湯冷ましを持って行くのを忘れないようにして下さい。
 どうしても母乳が出ない場合には、最悪お母さんが液体ミルクを飲むという手もあります。かなりの荒技ですし、それで確実に母乳が出ると確約できるわけでもないのですが、少なくとも筆者のところはそれで母乳が出せていましたので、やはり平時に一度試して見るといいかもしれません。
 母乳100%での育児は理想かもしれませんが、何が起きるか分からないのも現在の世の中です。
 赤ちゃんが生き残れるために、平時に粉ミルクや液体ミルクなどを試して見て、子どもの好みの味のものをストックしておいてくださいね。

避難所に入る順番

 災害では避難者が二種類にわかれます。
 一つは元気で避難後の生活の復旧も早い人。もう一つは年齢や障がいなど何らかの理由で生活再建に支援の居る人、いわゆる生活弱者といわれる方です。
 自主防災組織や自治会が機能している地域だと、水害や台風と言った予測される災害時には事前に生活弱者の方を避難所あるいは福祉避難所に搬送して事前に安全を確保する光景が見られます。
 地域のつながりがしっかりとしているところも、比較的早めに生活弱者の方の避難は早いような気がしています。
 おおざっぱになりますが、事前に予測できる災害の場合だと、生活弱者→健常者の流れで避難所に人が増えていく構図です。
 ですが、これが地震になると光景が逆転します。
 発災後、まず最初に避難してくるのは健常者の方。そしてこういった人達が避難所を埋めたころ、生活弱者の人達が避難してくるといった光景になります。
 それがいけないというわけではないのですが、避難所に避難できる、または入れる順番を決めて地域で共有しておかないと、元気で声のでかいおっさんが避難所の一番いい場所で多くの面積を確保し、支援のいる人は避難所に入れないという光景が発生してしまうことになります。
 こういった光景は、田舎よりも都会で見られることが多いような気がします。
 顔見知りであればそれなりに遠慮や譲り合いもありますが、見知らぬ人であれば何の関係もありませんので、お互い様という意識も沸いてこないかもしれません。
 災害時にその場に居た人は誰もが被災者です。その被災者の中でも、生活への支援がないと生きていけない人もいて、そういう人達が避難所に優先して入れるような環境が作れるといいのですが。