コミュニケーションボードを準備する

 避難所の運営で一番問題になってくるのは、コミュニケーションです。
 避難者は普段から顔見知りの人ばかりでなく、旅行者や通りすがりの人、住んではいるが面識のない人、日本語がうまく通じない人、障害を持つ人などが避難してきます。
 この人達とどのようにコミュニケーションを取ったらいいのでしょう。
 日本語が話せる人であれば、会話することでお互いにどのように考えているのかわかることができると思いますが、日本語が話せない、聞き取れない人とのコミュニケーションは、次々に人がやってきて大騒ぎになっている状況ではかなり困難なのではないでしょうか。
 だからといって、その人が理解できる言語で会話できる人を常に受付に配置することもかなり難しいです。
 そのため、受付にはコミュニケーションボードを準備しておくことを勧めます。
 このコミュニケーションボードというのは、最近あちこちで見かけるようになりましたが、簡単な行動や問い合わせ内容、ひらがな、数字、時計などを一枚のボードにして、それを指さすことでお互いの意思を確認できるという道具です。
 このボードに地域で多い国の人の母国語も併せて表示させておくと、会話が通じなくても最低限の意思疎通ができることから、災害対策の一つとして各自治体や社会福祉協議会などで作成されています。
 もちろん、文字が理解しにくい方もいらっしゃいますので万能ではありませんが、それでもこれを予め用意しておくことで会話が通じないというお互いのストレスを軽減させることができ、一度にたくさんのことをこなさなければならない避難所開設時には威力を発揮するのではないかと考えています。
 また、避難所を開設してからのさまざまなお知らせも、音声だけでなく、大きく書き出して貼り出すことで、伝わらない、聞いていないというトラブルを防ぐことが可能です。
 どのようなものかイメージがつかないという方のためにいくつかのリンクを貼っておきますので、自分の地域で使えそうなものを見つけて、試しに使ってみてもらえるといいなと思います。

横浜市社会福祉協議会のコミュニケーションボード

八王子市のコミュニケーションボード

公益社団法人明治安田こころの健康財団のコミュニケーションボード

非常用持出袋の作り方・その2

市販品の非常用持ち出し袋
市販品の子供用非常用持ち出し袋。これにいろいろなものを足していくことになる。

 非常用持ち出し袋を作るのに、以前まずは自分に何が必要なのかを洗い出してみるという作業をしていただきました。
 ずいぶんと間が開いてしまいましたが、今回は全ての人に必要ではないだろうかと考えられるアイテムについて考えてみたいと思いますが、ここで書き出したアイテムを見られて無条件にそろえるのではなく、自分の生活と比較して、それが必要かどうかについて判断していただきたいなと思います。

1.飲料水500ml×2

 まずは飲み水です。洗ったり調理に使ったりもできることから、ここでは普通の水を用意することをお勧めします。1リットル1本でもいいのではと思われるかもしれませんが、あえて500ml二本にすることで、袋に入れやすくし、重さを感じにくくすることを考えています。

2.食料(そのまま食べられるもの)

 食料品はそのまま食べられるものを用意します。ピーナッツ等の豆類やようかん、チョコレートやあめ玉など、水気がなくてもとりあえず食べられるものがよいでしょう。

3.歯磨きセット

 歯の衛生を保つことで、健康を維持することができます。歯ブラシが無理なら洗口剤や歯磨きシート、歯磨きガムなどを使ってもいいです。
 何もないようなら、ティッシュペーパーやタオルでもいいですので、歯を衛生的に保つように意識します。
 また、口の中をさっぱりさせられると精神的にも安心するものです。

4.着替え・下着類

 濡れたり汗をかいたり、逆に冷えたりすることへの対策として、着替えを1セット準備しておきます。肌着があると、長期の避難でも体を衛生的に保つことが可能になります。
 また、臭いが気になる場合に着替えることで精神的に安心できます。

5.懐中電灯・ヘッドライト

懐中電灯類

移動するときに使うための懐中電灯です。夜道を移動するときや停電時には大活躍します。

6.ランタン

避難先で明かりがないときに使います。真っ暗な中に明かりが一つあるだけで、精神的に落ち着くのが不思議なところです。

7.ポケットティッシュ

トイレの時だけでなく、さまざまな場面で活躍してくれるアイテムです。芯を抜いたトイレットペーパーがあると汎用性が広がります。

8.ウェットティッシュ

 水がないときに手や道具類を衛生的に保つのに必要です。除菌仕様のアルコールと純水仕様のものがあります。体などを拭くことを考えるとアルコールでないもののほうが汎用性は高いですが、アルコールの方が衛生的ではあります。

9.非常用トイレ数個

携帯トイレ各種

 トイレが使えないときに備えて、携帯トイレを自分が一日にトイレに行く回数分用意しておきます。

10.マスク

ほこりやチリなどで気管支を痛めないため、また、避難先で感染症を防ぐために必要です。小分けタイプのものが便利です。

11.タオル

手や体、さまざまな道具を拭いたりするのに必要です。できれば数枚あると便利です。手ぬぐいでも大丈夫です。

12.ラップ

傷の手当てや体温保持、食器の汚れ防止など、さまざまなことに使えます。

13.救急セット

救急セット

基本は外傷用と考えて、絆創膏やガーゼ、包帯、テーピングテープ、それにとげ抜きやはさみ、綿棒といったアイテムを入れておきます。

14.ラジオ、イヤホン

携帯ラジオ各種

被災地周辺の情報を集めるのに必要です。AMが受信できるものがあれば、被災地以外からの情報を得ることもできます。また、イヤホンがあれば周囲の静寂を守りながら情報収集が可能です。

15.ビニール袋

 いろんなことに使えます。大きいものから小さいものまで、数種類準備しておきます。

16.乾電池

懐中電灯やランタン、ラジオなどを動かすのに必要です。電気機器の電池の規格を揃えておくことで、複数の電池を持って歩かなくて済みますので楽です。

17.雨合羽

ポンチョ着用

雨天時の移動に使えるほか、防寒着としても使うことができます。大きめのポンチョタイプであれば、簡易テントやトイレの時の目隠しにも使えます。

18.スリッパ

避難所での人の生活空間は土足禁止にすることが必要です。そのため、スリッパは必要です。

19.使い捨てカイロ

夏場でも冷えることは多いですのであると便利です。また、時間をかければ人肌以上の飲み物を作ることができます。

20.筆記具

マジックや鉛筆、消しゴムといった筆記具とメモ帳は避難所での生活では必須アイテムです。

21.小銭

 慌てていると現金を忘れて避難することもあります。また、公衆電話を使うときにも小銭は必要となります。100円と10円を取り混ぜて準備しておきましょう。

22.連絡先リスト

生存連絡や何かの連絡をするときに備えて連絡先の一覧を書き出しておきます。小銭と一緒にチェック付きビニール袋に入れておくと安心です。

23.モバイルバッテリー

携帯電話を使う人はこれが絶対に必要です。

24.新聞紙

防寒着やたき火の焚き付け、折り紙して皿にする、敷物など、一日分あると重宝します。

25.ナイフ・はさみ

いろいろなものを切り分けるのにあると便利です。

26.ひも

洗濯物を干したり、簡易テントを作ったり、避難所での仕切りやのれんなどを作るときにも使えます。

27.ガムテープ

ものを貼り付けたり修繕したり作ったりするときに、あるととても便利です。切るのに道具が入らないため、使いやすいです。

 いろいろと書いてきましたが、これらのものと自分が必要な道具を合わせてみると、案外と量があるなと思われると思います。
 書いてあるものには他に使えそうな代用品があるかもしれません。また、自分には必要ないものがあるかもしれません。
 それらを上手に組み合わせて、いざというときに持って逃げられる「非常用持ち出し袋」を個人ごとに組み立てておくといいですね。

タイムラインを作ってみよう

 BCPを語る上で切っても切り離せないのが「タイムライン」と呼ばれるシナリオです。
 これは災害の発生前から発生後復旧するまで時系列にあわせて対応を決めておくもので、いざというときに見落としがないように、そして優先順位を間違えないために作成するものです。
 作るときに必要なのは「何について」「何を」「誰が」「いつ」「どのように」判断するのか、そして「そのための判断材料は何か」を決めることです。
 先日、保育園様のタイムラインを一つ、防災担当の先生方と作成してみましたので、それを例に考えてみたいと思います。

1.「何について」決めるのか

 今回は「運動会」について判断を決めることになりました。
 運動会は、なるべく中止を防ぐために屋外と体育館での開催を毎回検討しておられます。
 ただ、去年は迷走台風により開催の判断をするのに大変苦労した上、当日の朝に大雨が降ったので急遽開催を延期することとし、保護者の方から「もう少しなんとかならなかったのか」という意見が寄せられていました。
 そこで、今回、試しにタイムラインを作成することにしました。

2.「何を」を決めるのか

 ここでは中止の判断、及び屋外と体育館での開催決定のための判断基準を作ります。

3.誰が決めるのか

 決定権保育責任者である園長先生が、主任先生や担任の先生と相談して決定することにしました。

4.「いつ」「どのように」決めるのか

1)中止の場合

 まずは中止の判断です。
 この保育園の運動会の開催時期は9月なので、季節柄「大雨・洪水」「台風」「光化学オキシダント」「高温」が想定されます。
 気象については気象庁がさまざまな予報を出しています。「高温早期警戒情報」や「台風の進路情報」「早期注意情報(警報級の可能性)」は5日前から予報が出されています。
 これらの情報が発表された場合には、速やかに保護者に「中止の可能性」について予め説明しておこうということになりました。
 また、当日の天気がどうあれ「中止する場合には『前日の午前中』」に決定する」こと、保護者には「基本的にはお迎えの時に伝えるが、必要な人は前日昼以降のところで電話により保育園に確認をしてもらうこと」を周知することとしました。

2)開催の場合

 開催の場合には中止の判断と同様、前日の午前中に「屋外」なのか「体育館」なのかを決定することにしました。
 この判断には昨今突風でテントが飛ばされる事故が多発していることから、「大雨・洪水」「台風」「光化学オキシダント」「高温」に加えて「強風」を加えることにしました。

①体育館の場合

 判断基準である前日の午前中の時点で「光化学オキシダント注意報」が発表されている場合、当日の状況を問わず体育館開催することにしました。
 また、天気予報で雨天が予測されている場合、グラウンドコンディションが悪い場合には、同じく体育館開催とし、事前に異常高温注意報が発表されている場合には、時間を短縮した上で体育館開催としました。

②屋外の場合

 気象条件やグラウンドコンディションに問題が無い場合には屋外開催とします。
 ただ、突風が起きることがあるので、風が強くなってきたときには園児のテント以外は倒しておくことと、園児のテントは飛ばされないようにしっかりと支柱を固めておくこととしました。
 それから当日の光化学オキシダント発生や異常高温時については、予め省略するプログラムを決めておき、時間を短縮して開催することにしました。
 これらの判断には、気象情報に加えて空の霞ぐあいやちょっと離れた場所の工場の排煙の煙も利用することにしています。

5.情報の共有化

 保育園の運動会では、保護者だけでなくそれ以外の園児の関係者も多数来られます。
 そのため、判断基準についてはあらかじめ保護者にも伝えて心構えしておいてもらうことが大切です。
 今回の話し合いでは、「運動会のご案内」をプリント配布する時点で判断基準について併せて保護者にお知らせすることにしました。
 また、保護者が判断に困るような天気になりそうであれば、3日前に「開催の判断についてのお知らせ」を改めてプリント配布すること、運動会のプログラムに「演目の省略があるかもしれないこと」を記載することとしました。
 保護者に限らずですが、明確な判断基準があることがわかると、ある程度の予測ができるようになり、それぞれが準備できるためにトラブルが防げます。
 この判断基準でも「もっと早く判断して」というお話が出るかもしれませんが、そのときにはもう一度判断基準を見直していけばいいだろうということで、今回はこれでやってみようということになりました。

 タイムラインは作るまでは結構大変ですが、一度作ってしまうとあとは修正ですみ、だれがやってもそんなに大きく判断がずれないというメリットがあります。
 今回の話し合いでは「短い時間の大雨などで保育園の休園はどのように対応したらいいか考えてみたい」というご意見をいただきました。
 ちょっとずつでもタイムラインを整備していくことで判断に迷うことなく行動を取ることができます。
 まずはよく使うものを一つ文章化して作ってみてはいかがでしょうか。

まずは生き残ること

 いざというときに備えて、防災ポーチや非常用持ち出し袋非常用備蓄品などを準備していても、災害から生き残ることができなければ全ては無駄になってしまいます。
 例えば、政府が推奨する備蓄が完全に行われていても、地震で家の下敷きになってしまえばそれを使うことはできません。
 どのような災害であれ、まずは自分が生き残ること。
 そのためには、自分が生き残れる確率を上げるための工夫をしておかなければいけないのです。
 例えば、水没したり山や崖が崩れたりするようなところに住んでいるのであれば、何かあったときにどういう風にどこへ逃げるのかを決めておくだけでも生き残れる確率は上がります。
 また、地震で亡くなった多くの人は家屋や家具の下敷きになっていますから、家屋の耐震補強や家具の固定をしておけば、地震で生き残る確率は上がります。
 また、寝室からは家具を無くしたり、屋根の下敷きになりにくい場所に作ることも有効です。
 ガラスが飛び散らないように窓ガラスにフィルムを貼ったり、長めのカーテンを取り付けたり、照明器具を固定したりすることも大切ですよね。
 日頃からのちょっとした工夫を重ねることで、ちょっとずつ生存確率をあげることが可能になります。
 災害対策は一気にはできないかもしれませんが、少しずつでも対策しておけば、その分だけ生き残れる可能性は高くなります。
 今からでも気がついたところから災害対策を始めて、生き残る手法を考えてみてくださいね。

連絡先は紙にも書いておこう

公衆電話は災害時には頼りになる連絡手段です。でも、相手方の連絡先がわからないとそもそも電話をかけられません。
災害時に頼りになる公衆電話。でも、相手方の番号がわからないとかけられない。

 最近は携帯電話の普及で、電話番号を覚えていなくても簡単に電話をかけることができるようになっていますが、いざ災害が起きると、連絡先を覚えていないので連絡したくても連絡できないという状況に陥ってしまいます。
 また、例えば110番や119番など、普段なら間違えるはずの無いはずの電話番号を間違えてかけてしまったりすることもあります。
 そんなときに備えて、あらかじめ災害時に連絡したい人や連絡すべき先、緊急連絡先などを紙に書き出しておくことをお勧めします。
 普段手帳をお使いであれば手帳のメモ欄や住所録に書き込んでおくのもいいでしょうし、無くすのが心配な人は外から見にくい場所に貼っておくのもよいと思います。
 あるいは、非常用持ち出し袋や防災ポーチに小銭と一緒に入れておいてもいいのではないでしょうか。
 大切なのは、大切な連絡先は複数の手段で保管しておくことです。
 そうしておくことで、携帯電話を無くしたり壊したり、電池が切れてしまったときでも大切な人への連絡だけは可能になり、お互いにいらないストレスを貯めなくても済みます。
 極限時だからこそ、間違い電話をかけずに済ませたいですし、大切な人に心配をかけたくないですから、連絡先の保管方法にも気をつけたいものですね。

復旧のための権限をどうするか?

 行政機関は基本的に災害時におきたさまざまなことについて、自分のところで管理監督しようとします。
 ですが、実際のところは時間が経過するごとに対応事項が加速度的に増えていきますので、そのうちに破綻して何も指示ができなくなり、結果的に地域の復旧が遅れて地域の崩壊も進むことになってしまいます。
 ではどうすればいいのか?
 復旧のための権限を、それに対応できるところにあらかじめ任せておくという方法は採れないでしょうか?

 例えば、災害後の道路開削の権限を地域の建設業者に任せてしまうのはどうでしょうか?
 災害時に優先して開削する道路を指定しておき、もし道路に何かあれば行政の判断をまたずに開削作業を行うようにしておくのです。
 当然その必要性や妥当性については検証しなくてはいけないでしょうが、災害が起きたときに、指示を仰げなくなった場合でも予めの指示で開削作業を進めることが可能であれば、復旧支援がその分早く進められることになります。
 また、避難所の開設についても行政からの指示ではなく、地元自治会や地元の自主防災組織に委ねておけば、いちいち連絡したり人員派遣をしなくてもすみます。
 平時には集中している権限を、災害時にはそれぞれに任せてしまうことで、素早い対応が可能になるのではないでしょうか。
 行政は災害時には全体的な情報収集に特化し、落ち着いてからは予算措置と復興、災害の検証に力を入れればよいので、そこまでの無理が生じないと考えます。
 災害時に頼りになる自衛隊はどこで何をしてもらうのかについて細かい指示が必要になるとは思いますが、できる限り対応作業を自動化することで、少ない人数でもパニックにならないようにしておくことが、これからの行政には必要なことではないのかなと考えます。
 さまざまな組織といろいろな形で協定を結んでいますが、その協定を元にして具体的にいつ何をしてもらうのかについても、自立的に動いてもらえるように約束をしておくことが重要かなと思います。

集まるべき場所を立ち上げる

 自主防災組織や自治会がしっかりしている地域は問題ないでしょうが、そうでない場合には、被災したときに何をどこへ言えばいいのかさっぱりわからない状態になります。
 そのため手近な消防団や行政に相談を持ちかけるわけですが、相談を受けた方も混乱中ですので、うまく対応してもらえずにみんながストレスがたまる状態になります。
 そこで、被災したらまずは「地域の災害対策本部」を立ち上げるようにしましょう。
 立ち上げる、といっても難しいことはありません。紙に対策本部と書いて壁か机に貼り、そこをとりあえずの窓口にしてしまうのです。
 困っている人たちはとりあえず言っていくところができますし、そこで情報を集約して行政に知らせるだけで行政の対応が早くなります。また、自衛隊やNPOといった支援組織もその本部にやり方の相談にきますので、そこでマッチングすればよいことになります。
 もちろん、災害ボランティアセンターが立ち上がったら、地域の災害対策本部で集めた困りごとをまとめて依頼して、人員を派遣してもらうことも可能です。
 いわば、必要な情報の交通整理をする場所を作ると言ったらいいでしょうか。
 災害時には、さまざまな情報が錯綜します。当然SNSなどでもさまざまな情報が飛び交うわけで、受援者も支援者もそれらに振り回されてしまうので、そこを拠点にして情報の交通整理をし、迅速な復旧に繋げていく手助けを行えばよいのです。
 最初は少し動く必要がありますが、軌道に乗ると、勝手にそれぞれの情報が集まってきます。
 ここで情報を一元化しておくことで、行政任せで手遅れになることなく、迅速に復旧・復興が可能になってくるのです。
 自主防災組織や自治会の防災訓練というと避難所運営や避難手順の確認がほとんどですが、このような機能も求められる場合が多いので、できれば併せて訓練しておくとよいと思います。

二つの避難

 災害時における「避難」という言葉には二つの定義があります。
 一つ目は、発生した災害から身を守るための「避難」。これは「一時避難所」「避難場所」「避難所」が該当します。
 ただ、万能なものは殆ど無いのが実情なので、対応している災害によって行き先を使い分ける必要があります。
 二つ目は生活環境を維持するための「避難」。これは災害後、何らかの事情により自宅が使えなくなっている場合に行う避難で、対応しているのは「避難所」のみです。
 「一時避難所」や「避難場所」は災害が収まるまでの仮の避難先ですので、生活環境を維持するための避難は「避難所」に移動する必要があるのですが、大規模災害だと避難所に収容しきれないために、しばらくの間は一時避難所や避難場所、避難所の区別無く避難者が鈴なりというになってしまいます。
 それでも状況が整理されてくると避難所への移動を順次行っていき、一時避難所や避難場所は本来の業務を再開していくことになります。
 この二つの避難がごっちゃになっているので、避難者が避難所へ移動する場合にいろいろな騒動が起きることになり、避難者も行政も施設管理者も振り回されてしまいます。
 命を守るための避難と、命を繋ぐための避難。
 何も起きていない通常期にこの避難の違いを理解して、スムーズに避難ができるようにしたいものです。

蘇生法を知ろう

心肺蘇生の練習をするために作られた”actor911”

 災害時に限らずですが、負傷者がいるときに考えるべきことは、可能な限り早く確実な手当ができるところ、例えば病院に輸送して手当を受けさせることです。
 ただ、可能な限り早くといっても本格的な手当が開始されるまで何もしなければ生存率は格段に下がってしまいますので、それまでどのようにして命を繋ぐかということを考えておく必要があります。
 大きな出血があれば止血し、心肺停止していれば心臓マッサージや人工呼吸を行うことで、大けがをしている人の生存率を格段に上げることができます。
 今回は、その方法について書いてみたいと思います。
 ただ、最初にお断りしておきますが、止血処置や心臓マッサージ、人工呼吸を行うには正しい知識と正しい訓練が必要です。これには消防署や日本赤十字社が行っている救命講習を受講することが早道です。
 それぞれの救命処置も時代によってどんどん変化していきますので、できれば年に1回程度定期的にどこかで受講して、知識を更新されることをお勧めします。

1.処置にかかるまでの準備

(1)まずは安全確保

 負傷者がいる場合に最初に気をつけないといけないのは、まずは自分の安全です。救助者が被災しては何にもならないので、まずは安全な環境かどうかを確認します。
 負傷者がいる場所が危険であれば、まず安全な場所へ移動させてからの処置となります。

(2)負傷者の全身の状態を確認する

 どのような怪我をしているのか、呼吸や反応はあるかを観察します。大規模な出血などがある場合には、止血処置を優先するかどうかなどもここで考えます。

(3)意識の確認をします

顔を近づけて肩をたたき、耳元で大きな声で「大丈夫ですか!」と声かけをします。3回もやると、意識があればなんらかの反応が返ってくるので、反応がない場合には意識がないと判断します。

(4)支援者を呼ぶ

 周囲に人がいれば、依頼する人を特定して119番通報とAEDの搬送を要請します。このときに、「救急車を呼んで」ではなく「119番通報してください」というように具体的な行動指示を行うようにしてください。
「○○さんは119番通報してください」「そこの赤いシャツの人はAEDを○○ストアから持ってきてください」といった感じです。

(5)呼吸の確認

 胸及び腹の動きを観察します。呼吸があれば上下運動しているはずですので、それがなければ呼吸を停止していると判断します。
 一般的には呼吸停止していても、しばらくの間心臓は動いています。心臓が動いていても心臓マッサージは問題ないという所見が出ているそうなので、「呼吸停止=心停止」と判断してよさそうです。
 意識がなくて呼吸がある場合には、舌や吐瀉物で気道がふさがるのを防ぐため、頭と体を横向きにします。可能であれば頭に枕をするとよりいいでしょう。

2.処置の優先順位

放っておくと死んでしまう危険性の高いものから処置していきます。
出血と心肺停止の場合だと、まずは心臓マッサージと人工呼吸を行います。ただし、大量に出血していたり、心臓マッサージするたびに血が噴き出すような状態の場合には、止血を優先します。
可能であれば、止血処置と心臓マッサージ及び人工呼吸は同時並行で実施できればより生存率が高まります。

3.処置の方法

(1)心臓マッサージ

両手で胸骨を圧迫する。少々力を入れて押さえても凹まないことが体験できる。

 胸骨の下部分を押します。30回一セットで、手の腹の部分を使ってしっかりと体重をかけて押さえるようにします。圧迫の深さはおよそ5cm。少々のことではこの深さまでは押さえられないので、しっかりと圧迫してください。
 1分間に100~120回のペースで行うのですが、わかりにくい場合には、「もしもしかめよ~♪」の歌を歌いながら行うとちょうどよいリズムで、1番が終わるとちょうど30回の心臓マッサージができています。

(2)人工呼吸を行う

直接口同士を触れると感染症の心配があるので、ハンカチなどを間に挟んで人工呼吸を行う。

意識がない場合、全身の筋肉が弛緩しますので舌も喉の奥に垂れてしまって気道を塞いでしまうことが起きます。
そのため、気道確保が必要となります。あごをしっかりと持ち上げ、鼻の穴を押さえて、負傷者の口を塞ぐように口を合わせて胸が膨らむ程度に息を吹き込みます。
あまり一気に吹き込むと肺がパンクすることがありますので、吹き込む量には気をつけてください。
これを2セット行い、そのあとは再び心臓マッサージを行い、人工呼吸を繰り返すことを続けます。

(3)AED

蓋を開くだけで起動するAEDの例。

心停止の際には心室細動が伴うことが多いですので、それを排除しない限り心臓が自律的に拍動を再開してくれる可能性は低いです。
その心室細動を排除するのがAEDという機械で、だれでも使えるように可能な限り自動化がされています。
最近のAEDはふたを開けると同時に自動で起動し、処置の方法を1から説明してくれますので、その指示に従って作業を行います。
ただ、使用するに当たっては以下の点に気をつけてください。

①胸の周りが濡れていないこと。濡れていれば水気を拭き取ること
②湿布薬などが貼られていた場合には剥がす。
③ペースメーカーが入っていないか確認する。もしあれば右胸のところに凸があるので、パットはそれを避けて貼る。
④ネックレスなどの金属装身具はパッドに触れないように気をつける
⑤パッドは素肌に装着しなければ効果がないが、装着した後はなるべく上にタオルなどをかけて周囲の目にさらされないようにすること

  AEDのパッドは外装袋に貼る場所がイラストで描かれています。心臓を挟むようにパッドを貼り付ける必要があるので、最悪の場合心臓の上と下にパッドを貼り付けても効果があります。
 また、パッドは濡れてしまうと効果を発揮できなくなります。その場合、AEDには予備のパットが入っていますのでそれと取り替えてください。
 注意点として、AEDにおける小児とは未就学児を指します。6歳以上は成人モードで使うことになりますので気をつけてください。
 それからAEDについているパッドが小児用の場合、大人に貼り付けても電圧が足りない場合がありますので、パッドは大人用を使ってください。小児に大人用パッドを使うのは問題ありません。
 AEDは一度装着したら外しません。そのまま救急隊に引き継ぎます。つけられたAEDは負傷者の心電図などのさまざまな情報を持っていますので、それを救急隊や病院が活用します。
 使用後は戻ってきますので、パッドを交換して次の利用に備えてください。

(4)止血処置

圧迫止血を包帯がしてくれる機能を持っているものもある。写真はイスラエルバンテージ、もしくはミッキーバンテージと呼ばれるもの。

 止血処置を行うときは、二次感染を防ぐためにあらかじめビニール手袋やビニール袋などを手に被せ、直接出血部位に手を触れなくてすむようにします。
 止血処置の方法は、次の3つがあります。

①直接圧迫止血法
傷口に清潔なハンカチやタオル、ガーゼなどを直接当てて手のひらで傷口を圧迫する方法です。傷口を心臓よりも高い位置にして行えば、より止血効果を期待できます。
止血処置の基本となる方法です。
②関節圧迫止血法
傷口より心臓に近い動脈(止血点)を圧迫し、血の流れを止めて止血します。
直接圧迫式の準備や処置をする間、流血を押さえるために行うものです。
③止血帯止血法
直接圧迫止血法では止められないような大量の動脈性出血の場合、手足に限ってですが最終手段として止血帯を使った止血方法があります。
これは傷口よりも心臓に近い部分の動脈上に布を当て、布の上から止血帯を巻きます。その止血帯の結び目に棒を差し込み、血が止まるまで棒を静かに回して棒を固定します。
そしていつ止血を開始したのかがわかるように「止血開始○時○分」と外れないようにつけておきます。
この止血帯止血法は非常な痛みを伴いますので、せいぜい20分程度しか持ちません。20分たったら一度緩めて細胞の壊死を防ぐようにしてください。
止血帯止血法を取った場合は、大至急処置のできる医療機関へ搬送します。

4.処置を止めてもよいとき

 基本は救急隊が来るまで心臓マッサージ、人工呼吸、AEDを維持する必要がありますが、次のような場合には処置を止めます。

(1)生き返ったとき

 当然のことですが、生き返ったときには心臓マッサージと人工呼吸は不要です。ただ、医療機関への受診は必要ですので、AEDはつけたまま、救急隊の到着まで安静にさせてください。

(2)救急隊に引き継ぐとき

 救急隊が到着すると、救急隊員から作業の指示があります。そこで救急隊員に引き継いだ場合には、処置は終了となります。

(3)自分の安全が確保できない状態になったとき

 災害現場で救助者の命が危険にさらされているような場合には、まず自分の安全の確保をしてください。一緒に遭難しては元も子もありません。

5.その他

 心肺停止に対応する場合、AEDはかなり重要な要素となりますので、普段からAEDが備え付けてある場所を意識して確認するようにしましょう。
勝負は5分以内です。
 また、知識はあっても練習してみないことには本当はどうなるのかがわかりません。
 消防署や日本赤十字社の救急法講習を積極的に受講して、意識すればきちんと体が動くようにしておきたいものですね。
 なお、ある程度の人数が集まれば講習会を個別開催してくれる場合もありますので、詳しくはお近くの消防署や日本赤十字社の各支社にお問い合わせください。

災害遺構を訪ねて6・津田川ダム記念碑

津田川ダムの全景。
灌漑用では無く、治水を行うためのダム。農業用で灌漑能力が無いダムは珍しい気がする。

 益田市津田町に河口がある津田川をさかのぼっていくと、谷が深くなって唐突にダムが姿を現します。
 これが津田川ダムで、人家ではなく農地を守るために作られた防災ダムです。

記念碑の全景
右手の白い構造物がダムの監視装置。手前の碑が今回紹介する記念碑で、周囲は草刈りをされている。

 ダムよりも少し上流にダムの監視装置があり、その横に、今回ご紹介する津田川ダム記念碑があります。
 このダムがなぜ農地を守る防災ダムだとわかるのかというと、この記念碑の背面に事細かに経緯が記されているからです。
 これによると、津田川はかつて豪雨のたびに水害を起こして下流域の農地を浸水流出していたとのこと。

 昭和34年の災害を契機にダムを造ろうという運動が始まったものの、実際の動きが出てくるのは昭和40年7月の集中豪雨後だったようです。
 その後、昭和42年から現地測量が始まり、昭和49年に竣工したのだとか。
 このダムを造るに当たって奔走した渡辺亀市さんという方も顕彰されていて、経緯と顕彰碑を兼ねた記念碑になっています。
 見える範囲から覗くと、ダムの前後から急激に谷が深くなり、そして川も急になっているように見受けられます。
 このダムが完成してから、下流域一帯が水害に遭ったという話は聞かないので、防災ダムとしてきちんと仕事をしていることがわかります。
 あまり目立たないダムですが、近くに行くことがあったら見てみてはいかがでしょうか?