必要なものと代替品

災害対策の物品でよく出てくるのが「○○の代替品として」というものです。
「○○があるとこんなものが作れますよ」といった内容なのですが、正直なところ、「必要なものはきちんと準備しておけ」と声を大にして言いたいところです。
被災して手元にまともなものが無い状態といった事態に備えてということなのでしょうが、最初からものが無い前提で代用品を考えるのは本末転倒。
まずはその目的に応じたアイテムをきちんと用意しておくことが重要です。
災害時にはさまざまなものが不足します。よく出てくるのがおむつなのですが、紙おむつの代替品としてよく出てくるのがビニール袋とタオルを使った袋おむつです。
ビニール袋は水を漏らしませんが、足やお腹の結び目から漏れ出すのでそれを防ぐためにかなりきつく結ぶことになります。
すると、出したおしっこはそのまま代用品おむつの中に閉じ込められ、蒸れて非常に不快です。
布おむつに慣れている人なら手早く交換して赤ちゃんの下半身の乾燥状態を維持できますが、紙おむつに慣れている人だと、濡れたら交換しないといけないということが理解できていない人もいると聞きます。
そんな状態になったら、赤ちゃんは泣き止みませんし肌もかぶれたりして後が大変です。
それなら、普段持ち歩くカバンにおむつカバーを一つ入れておけばそこまで困らなくても済みますし、紙おむつの予備を持ち歩ければ、そもそも悩まなくてもいい話です。
何も無い状態に備えて代替品の作り方を知っておくことは大切ですが、それを前提にして何も準備しないという考え方は困ります。
代替品はあくまでも非常時の非常用であり、可能な限りその目的に適切な道具を準備した方がストレスがかかりません。
できる限りその目的に応じたアイテムを準備しておいてくださいね。
ちなみに、代替品を準備するときの考え方は「それは何を目的にしているのか」です。
さっきのおむつの話では、赤ちゃんがおしっこやうんちをしたときに親や周りに被害が及ばないようにするのが目的ですので、考え方によってはおむつをつけないと言う選択肢もあります。
難しく考えずに、もしもアイテムがなければ、そのときに「どうやったらその目的が達成できるのか」を考えて代替品を準備すれば失敗はあまりないと思います。
変にとらわれず、柔軟に考えたいものですね。

視線を遮るものを用意する

小学校の防災クラブで試して見た視線を遮るための場所づくり。思ったよりいろいろなアイデアがでる。

 避難所に避難すると、ある程度落ち着くまでは基本的にプライバシーはないと考えた方が良さそうです。
 最近でこそ気の利いた避難所であれば授乳室やおむつ交換場所、着替え場所などを準備するようになってきてはいますが、多くの避難所は場所の提供だけという考え方ですので、広いスペースにあちこちでごろ寝というのが現在の日本の避難所のスタイルなので、授乳や着替えなど、他人に見られたくないと感じる行為をする可能性があるならば、視線を遮る道具を準備しておくようにしてください。
 例えば、自立型テントがあればプライベート空間を簡単に作り出すことができるので非常に便利です。
 ただ、避難所はすし詰めになることが多く,テントが建てられない場合も多々あります。
 そういった事態に備えて、大きめのバスタオルやエマージェンシーシート、レジャーシートなど物理的に視線を遮ることのできるものを用意しておくようにしてください。
 退屈になると、動きのあるものを無意識に目で追ってしまいがちです。
 そうすると、見ている側は意識していなくても、見られている側は落ち着かないものです。
避難所にそういった道具を備蓄するのは現実的ではないので、とりあえず自衛のために、自分の非常用持ち出し袋にはそういった道具を入れておくことをお勧めします。

かまどは使ってみよう

 個人装備に限らず、地域の避難所に準備してある各種資材は使いこなせて初めて役に立つものです。
 地方の避難所には、結構な確率で簡易かまどが備えられているのですが、このかまどはいざというときに使うことができるかと考えてみると、結構怪しいところが多いような気がしています。
 というのも、保管しているかまどは新品まっさらというものが多く,かまどはあっても薪がないとか、上に載せる鍋がないなど、せっかく備えているのに何か足りないという状態になっていることが多いからです。
 そして、この手の簡易かまどは配置の仕方によっては火がかまどの口から噴き出してきたりすることもあります。
 実際に一度は使ってみないと、癖や置き場所がわからないのではないかと考えます。
 避難所の資材は、劣化したらすぐに更新というわけにはいかないようですが、地域のイベントなどに使用することでみんながそのかまどを使えるようにしておくと、何かあったときにも困らないと思います。
 余談ですが、最近はたばこを吸う人が少なくなり、台所のコンロも電化になっているところが増えてきました。
 備蓄するついでに、火をつける道具も準備しておいた方がよさそうです。
 当研究所で実際に使ってみたかまどの口からの火の噴き出しについて映像を撮ってみたので、お時間があれば見てみてください。

アルファ米の分量

 防災訓練などに参加するともらうことが多いものの一つにアルファ米があります。
 軽量で場所をとらず、保存期間も長いアルファ米は施設や学校、公共機関などたくさんの人を対象としたところでは非常に重宝します。ただ、保存期間はそのうちにやってくるので、期限ぎりぎりのものを防災訓練で試食してもらって防災意識を高め、処分するものをできるだけ減らそうということのようです。
 さて、このアルファ米、一般的なサイズだと一袋がどれくらいの量になるか考えたことがありますか。
 一例を挙げると、アルファ食品の安心米【白米】では内容量100g、これは乾燥重量で、出来上がりは270gとなっています。
 一般的なお茶碗でご飯を軽く盛り付けると約150gだそうなので、ざっくりと考えて、一袋でお茶碗2杯弱くらいでしょうか。
 アルファ米は、出来上がりが乾燥重量の2.5~3倍程度になるので、出来上がり量の表示がないときには、これを一つの目安にするといいと思います。
 このことを知っておくと、グループなどに配られたときにどんな感じで消費すればいいのかの目安ができます。
 アルファ米の個包装は一人一つで配られることが多いのですが、上手に作らないと生ゴミになってしまいますので、自分が普段食べる量を考えながら適切な量を作るようにするといいと思います。
 ちなみに、この計算はおかずがある場合の計算になりますので、おかずがない場合には、一人一袋食べないと身体が持たないと思います。
 同じ白米でも、メーカーによって味が異なるので、平時に食べ比べして好みの味を見つけてストックしておくと、いざというときにも安心だと思います。

日持ちする野菜を常備する

 災害にもいろいろとありますが、常に非常食が必要な状況になるのかというと、実はそうでもありません。
 お住まいの建物に被害がなければ、住む場所に戻ることができますし、そうすれば家庭の備蓄があるわけですから、無理に非常食を1週間分準備しなくてもいいという考え方もできます。
 普段からご家庭で料理するのであれば、おうちにはさまざまな食材があると思いますので、それらを調理すれば数日間は普段と何ら変わらない食事を摂ることも可能です。
冷蔵庫が無事であれば、中の食材は冷蔵、冷凍の順番で消費することで食材を無駄にせずにすみますし、近くに自分の耕作している畑でもあれば、そこから野菜を持ってくれば備蓄としては充分です。
 そんな中で、ちょっとだけ意識しておくといいのが、保存のきく野菜を普段使いすることです。
 例えばじゃがいもやさつまいも、タマネギ、キャベツや白菜も上手に処理すると結構長期に保存することができます。
 そういった野菜を備蓄することと、それらを使った料理を普段から食べることで、いざというときにも野菜不足を防ぐことができます。
 また、干し大根や干ししいたけといった乾物も非常に有効です。
 非常食にしても、被災者向けの配給食にしても、野菜はかなり不足しています。
 それらを補うために、野菜ジュースなども有効なのですが、こういった保存しやすい野菜も活用しておくとバリエーションが増えて野菜不足も補えます。
 普段使わないものは非常時にはまず使うことはできませんので、普段の生活のなかでそういったお野菜を取り入れて、上手に暮らしていきたいですね。

非常食は賞味期限をずらして買っていく

非常食の代名詞「アルファ米」あると便利だが他のものでもなんとかなる。

 災害用備蓄品としてよく出てくる水と非常食ですが、これを一気に買いそろえると後々一斉に賞味期限が切れてしまうと言う大問題が起こります。
 一日程度の備蓄量なら消費もできますが、これが政府推奨の1週間分などということになると、結構大変なことになり、数年に一度、非常食しか食べられない週というのが発生してげんなりしたりします。
 ではどんな風にそれを躱すかというと、賞味期限をずらすことをお勧めします。
 例えば、一度に揃えるのは経費も馬鹿になりませんので、1年に1度1~2日分を購入するようにしていくと、更新時期がずれていって非常に助かります。
 また、消費期限の異なる非常食を組み合わせるのも手です。賞味期限が5年のアルファ米と賞味期限が半年程度のインスタントラーメン、そして賞味期限が1年程度のレトルト食品を組み合わせておくと、メニューが増える上に期限切れ間近の非常食試食週間を避けることもできると思います。
 あとは、わざと消費期限の短いものを買うという方法もあります。非常食の賞味期限は製造から5年程度のものが多いのですが、製造から半年も過ぎると不良在庫になっている場合があります。
 これらは期限が短いことから、それを承知の上であれば通常のものよりも安く売られることが多いので、そういったものを買えば,単価を抑えた上で期限をずらすことも可能です。
 ちなみに水も同じように普通の水と長期保存が可能な備蓄水を組み合わせることで一斉にくる期限切れを防ぐことができます。
 非常食は賞味期限が切れてもある程度食べることはできますが、せっかく準備するのですから、備蓄の一部の賞味期限を毎年くるようにしておくことで、非常食の点検をすることもできますので、ローテーションという視点からも、賞味期限をずらしておくといいのではないでしょうか。

災害と常備薬

 新型コロナウイルス感染症がかなり流行っているようですが、この感染症にかかると、現在は無自覚・無症状でも最低10日間の自宅待機が必要となります。
 当然のことながら、外出はできないわけで、そうなると日常生活で薬を必要としている人は死活問題となります。
 医療機関や薬局との連携がうまく取れていればいいのですが、現在の様子から見ると、しばらくは今までの想定よりも長め、10日から15日前後の薬の余裕が必要と考えた方がよさそうです。
 ただ、基本的に薬というのは手元に在庫があるようには処方されません。
 薬を手元に残すためには、かかりつけ医と相談して事情を説明し、一度多めに処方してもらうことです。
 あとは通常通り処方してもらえば、手元には多めに処方してもらった分だけ薬が残っていることになります。
 いくつかそういった取り扱いが難しい薬もあるようですが、あなた自身の健康状態を維持するために、常備薬が必要な方は備えておいてはいかがでしょうか。

善意と悪意

 大災害が起きると、発生後すぐに金品や物品の寄附をしようとする人がいますが、その行為、少しだけ待って下さい。
 現地の状態がわからないのに金品の寄附の受付を始めるところは、本当にその寄付金が現地に届くかどうか、しっかりと調べることが必要です。
 いろいろと言われていますが、日本赤十字社は赤十字社という全世界に繋がるネットワークがありますし、会計報告もきちんとされています。
 もしも寄附をするのであれば、ここを基準にしてどのような寄附の使い道があってどれくらい明朗会計なのかを確認しても遅くはありません。
 どのみち寄附したお金がすぐに現地に届くわけではないですから、一呼吸おいて、状況がはっきりしてからの寄附でも充分間に合います。
 せっかくの善意を、悪意ある人に利用されないようにしてください。
 それから、物品の寄附もできれば止めてください。
 物品の寄附をしてもよい人は、現地に直接持ち込めて受取人が明確である場合だけです。ただ、災害発生後すぐに物資を持ち込もうとするのは、現地への災害救助派遣や救助活動の邪魔になりかねませんので、持ち込むのであれば他の活動の邪魔にならないようにご配慮願います。
 そして、物品を送る人が忘れがちですが、災害が発生してダメージを受けているのは物流も一緒です。善意でものを送りつけようとすると、ダメージを受けている物流にさらなる負荷をかけてしまって、結局届いた頃には必要ない状態になっていたりすることが殆どです。
 ちなみに、災害後の個人からの任意の救援物資でかなり困るものが、生鮮食料品と古着です。物流がダメージを受けている以上、平時と同じように物品が届くなどと考えないで下さい。流通の回復には時間がかかりますので、生鮮食料品を送っても、100%腐ってゴミになってしまいます。
 また、不要な古着を送るのも絶対に駄目。あなたが着ないものは他の人も着ません。送るのならば新品のものを、できるだけ箱単位で送って下さい。
 送りつけられた古着は、ほぼ100%現地で焼却処分となっていて、そうでなくても負荷のかかっている現地のゴミ処理にさらなる負荷をかけてしまいます。
 マスコミの報道やSNSなどで「○○が足りない!」と発信されることはよくありますが、その後その○○が山のように届いて処分に困る状況になることはよくあります。
 物資の調達は現地からでもできますから、慌てず騒がず、せっかくの善意を無駄にすることの無い方法で届けてください。
 最近ではAmazonやヤフー、楽天などで現地の必要としているものと提供する人のマッチングサイトも災害時には運営されるようになってきています。
 そういったところを利用して、いるものをいるぶんだけ必要な場所に届くようにしたいですね。
 せっかくの善意が現地にとって悪意にならないように、金品や物品を送るときには、しっかりと配慮して欲しいなと思います。

参考:支援物資等を提供する(NPO法人レスキューストックヤードのウェブサイトへ移動します)

とりあえず使ってみる

市販品の非常用持ち出し袋セット

 非常用持ち出し袋や防災ポーチ、備蓄品など、さまざまな防災グッズを準備していると思いますが、それらのグッズをどのように使うのか、実際に使ってみたことがありますか。
 一般的に防災備蓄品は値段が高いせいか、一度準備してもそれをもったいなくて使えないという人が多いようですが、実際に使ってみないと、その品物があなたにあっているのかどうかがわかりませんので、お試しで必ず一度は使ってみてください。
 防災本や講演会など、さまざまなところで推奨されているアイテムでも、実際に使ってみるとあなたが使うには向いていないという場合があります。
 また、求めている機能と実際の機能が異なることもよくあります。
 身近なところでは、携帯トイレがあります。
 さまざまな防災アイテムの紹介では、この携帯トイレを常備するというのがほぼ必ず書かれているのですが、この携帯トイレには大小用と小用があるということを説明しているものは殆どありません。
 百円均一ショップで売っている携帯トイレの表記でも「男女兼用」ということの他に「大小用」なのか、「小用」なのかを確認しておかないと、いざというときに非常に困ることになります。
 また、小用を使おうとすると、女性の場合にはそのときの服装によっては非常に使うのに苦労する場合もありますので、実際に使ってみることは必須です。
 他にもさまざまなアイテムがあって、それぞれに特徴がありますので、専門家が紹介していたからと言って買ったものをそのままにしておくのではなく、それがあなたにあっているのか、必要なのかを実際に使って試して見て下さい。
 実際に使ってみると、「こんなはずでは?」ということがよくあります。非常用持ち出し袋や防災ポーチ、備蓄品はその積み重ねで作っていくものです。
 せっかく準備するのですから、使いやすいものを準備しておくようにしてくださいね。

アレルギー対策を整えておく

 災害が発生して避難所に長期滞在する必要が出てくると、さまざまな問題が出てきます。
 見た目や動きなどで分かる問題なら良いのですが、内臓疾患やアレルギーのある人は、ぱっと見何が問題なのかわからないために健常者とトラブルになりがちなので気をつけなければいけません。
 特に食事制限や食べものからのアレルゲンの摂取を控えるという行動は、行政などからの配給食のとき、お残しや食事をしないという選択肢になることもあって、見る人によっては「何の不満がある」と文句を言われてしまうこともあります。
 そして、避難所で配られる食料品ではアレルギーや食事制限に配慮されたものが出る可能性はまずありませんので、そういう人は自分であらかじめ食事を準備しておく必要があります。
 現在は3日から1週間程度は自分の備蓄を用意するように言われていますが、アレルギー体質の人は、それ以上に準備しておくようにしてください。
また、最悪に備えて何が食べられて何が食べられないのか、どれ位摂取してもいいのかは、あらかじめ平時に試しておいたほうが安全です。
 それから、万が一に備えて抗アレルギー薬は常に携帯しておくようにしてください。
 非常用持ち出し袋に入れておいてもいいのですが、いざというときにそれを常に持ち出せる環境にいるとも限りません。
 普段必ず持ち歩くカバンや財布などに、最低1回分は入れて持ち歩くようにして下さい。
 アレルギーは未だにたいしたことが無いと考える方がいますので、アレルギー持ちの人は、自衛手段をしっかりと確立しておいた方が無難です。
 せっかく災害から助かったのに、食べ物のアレルギーで倒れてしまっては何にもなりません。
 悲しいことですが、自分の身は自分で守るを基本にして備えるようにして下さい。