自分の行動を記録してみる

 非常用持ち出し袋を準備するときによく聞かれるのが、「何をどれくらい用意すればいいのか?」ということです。
 それに対してで筆者はいつも「あなたは一日に水をどれくらい飲んでますか? トイレ、何回行ってますか?」と聞き返すようにしています。
 非常用持ち出し袋の水や食料、簡易トイレといったアイテムは、どれくらい準備すれば良いのかが人によってかなり変わってきます。
 よくトイレに行く人は簡易トイレの数も増えますし、逆は減ります。また、どれくらいの水分を摂っているかは意識していないとわからない話です。
 そのため、自分にあった非常用持ち出し袋を作るときには、まず自分の一日の行動を記録してみることをお勧めしています。
 記録してみると、案外水分を摂っていたり、思ったよりもトイレに行っている回数が多かったり、意外な発見が出てくると思います。
 そういったご自身の情報を基準にして、非常用持ち出し袋の中身を準備するようにすると、いざというときに必要なものが最低限は揃っている安心した状態が維持できます。
 さまざまなアイテム類を行政などの指示通りに準備すれはとりあえずは安心なのですが、重たいし嵩も大きいです。できるだけコンパクトにするためにも、ご自身の行動記録をまとめてみてはどうでしょうか。

避難するときには何がいる?

非常用持ち出し袋に関する記事を見ると、これでもかというくらいさまざまなものが書かれていて、それを全部一つの袋に収めると結構な大きさと重量になります。
とはいえ、必要なものを集めていくとそうなるわけで、持って行くなということも言えません。
ただ、絶対に必要になるものはある程度わかりますので、今日はそれを紹介していきたいと思います。
まず、絶対にいるものの筆頭はあなたの個人装備です。
例えば、入れ歯、眼鏡、補聴器、杖といった道具類、常備薬や生理用品といった衛生用品といった、自分には必要だが他の人にとってはそうでもないものや手に入りにくくなるものだが、自分にとっては必要なものがこれに該当します。
これは自分で用意しておかないと誰も用意してくれませんので、必ず用意するようにしてください。
次は携帯トイレです。大小兼用のものが望ましいですが、なければ小専用でも構いません。一日にトイレに行く回数を確認し、その回数分は持参するようにしてください。
飲むことや食べることは我慢できても、排泄は我慢できません。災害時に断水するとトイレが使用不能になる場合がほとんどですので、トイレを汚物で汚染しないためにも準備しておいてください。
三つ目は飲料水です。一人1日3リットル準備しようといった記事も見かけますが、そんな量を持って移動するのは困難な人もいますので、500mlペットボトル2本程度を用意してください。
傷の洗浄やものを濡らしたりすることもあるので、お茶やジュースでは無く、水を準備しておくことをお勧めします。
四つ目が身体を冷やさないための道具です。例えば非常用持ち出し袋ではお馴染みになっているエマージェンシーブランケットや使い捨てカイロなどです。着替えや下着も一組は用意しておいてください。
脱ぐことは簡単にできますが、着込もうとすると着るための服が必要です。ただ、避難所にはそんなものはありませんので、自分で自分のものを持ち込む必要があるのです。
何も無ければ、せめて雨合羽くらいは準備しましょう。体温が保たれているのであれば、必要なのは周囲から体温を奪う風を防ぐ道具になるからです。
五つ目は時間を潰せるアイテムです。いきなり災害後から始まる地震はともかく、台風や水害といった事前に避難の可能な災害の場合、避難完了から家に帰ることができるようになるまでには半日から数日はかかります。
ただ寝ているだけだと、人間はだんだん不安になってくるものですから、余計なことを考えなくても済む、暇つぶしのアイテムを複数準備しておくといいと思います。
そして、最後が自分の好きな食べ物です。そんなに長い期間避難するわけではないので、自分が楽しめる食べ物を持参していきましょう。
臭いの強いものや煙の出るものは無理ですが、自分の楽しめる食べ物があれば、それだけで不安な避難所の時間が解消されると思います。
これらを準備した上で、あとはあなたの好みや必要性にあわせてさまざまな道具を準備するようにしてください。

非常食は何がいい?

非常食の一つの缶パン。吉賀町で作っている。ちょっと甘めが疲れたときにはうれしい逸品。

 結論から書くと、非常食は「自分のモチベーションが維持できる食べ物」を準備しろということになります。
 よく非常食として「アルファ米」や「乾パン」などが挙げられますが、これらの食事は本当の非常用です。
 例えば、地震が起きて家が倒壊してしまったといった非常事態に、調理器具が無くても食べられるこういった非常食を準備しておこうということで、災害で避難したら、何が何でもこれを食べなければならないというものではありません。
 台風や水害などでは、災害発生までの時間が割とあることが多いですので、一食分のお弁当を作ることもできると思います。
 この作ったお弁当も非常食になりますし、食べ慣れた味は自分のモチベーション維持にも貢献してくれますから、余裕があるならそういったものを準備することも大切です。
 また、普段食べないような高級食材の缶詰なども非常食にしておくといいかもしれません。非常事態だからといって、食事まで貧相にしたり非常事態に落とさなくてもいいのです。できるだけ自分が好きなものを食べて、避難中のモチベーションを落とさないようにしてください。
 ただ、多くの人がいる場所になりますので、臭いには気を遣う必要があります。あなた自身が良いにおいだと思っていても、周りにはそれが大嫌いな人がいるかもしれません。そうなると喧嘩になったりしますので、臭いの強いものは避けた方がいいでしょう。
 そして、もう一つ。
 大好きだからといって、お酒だけは避難中は飲まないでください。
 気持ちに不安がある状態での飲酒は、精神的にも肉体的にもよくありません。
 お酒は状況が落ち着いてから飲むことにして、間違っても非常食には加えないようにしてください。
 災害の起きる可能性のある期間は長くても数日ですので、自分が楽しくなるようなものを非常食にしておくとモチベーションが維持できていいと思います。
 あれこれ探して、自分が楽しくなる非常食を用意してみてくださいね。
 最後になりますが、お弁当を作る際には衛生には充分に気を遣ってください。保冷剤などで弁当が傷まないようにして、食べ残したものは処分するくらいの衛生管理でお願いしたいと思います。
 同じ理由で、生ものは止めた方が無難です。

缶詰ご飯とアルファ米

缶詰ご飯各種。現在はお弁当缶という名称で小さいやつが売られている。

 一昔前までは、ご飯の入った缶詰が割とよくあちこちでみることができました。
 当研究所でも、たまに訓練で使うことがある程度にはメジャーだったのですが、最近ではほとんど見ることはなくなりました。
 代わって出てきたのがアルファ米です。
 水を加えるだけで食べることが可能なアルファ米は、軽くて保存に場所も取らず、缶詰ご飯ほど手間もかからないため、あっという間に防災での備蓄の基本となってしまいました。
 防災コーナーに行くと、売られているご飯はほぼ100%アルファ米で、缶詰ご飯を見たことがある人は少ないのではないでしょうか。
 缶詰ご飯は加熱してご飯をアルファ化しないと食べられないため、熱を加えるという手間が必要になります。そして、保存に場所を取る上に重たい。
 そういった理由で、最近では実店舗で見ることはあまりないのではないかと思っています。ただ、手間はかかりますが味はおいしいですし、缶詰なので劣化もしにくいですから、家に置いておく防災備蓄品として準備するのはありかもしれないなと思っています。
 味付きご飯や丼ものになってしまうのが残念ですが、加熱できる道具とセットで備蓄しておいてみてもいいのではないでしょうか。
 又、水分も一緒に補給できる「飲むご飯」や「おかゆ」の缶も販売されているので、食べにくかったり、なるべく荷物を減らしたい人は、そういったものも選択肢にいれておくといいと思います。
 アルファ米だけでは味気ないと思っている人に、ちょっと変わり種ということで缶詰ご飯のお話でした。

ペットの補給品問題

ケージの中にいられる時間は結構短いです。ペットをどこで解放しますか?

 ペット連れでの避難。ペットを飼っている人にとっては割と常識になってきていても、受け入れる側である避難所運営や避難者にとってはあまり常識にはなっていないようです。
 そのため、ペットの隔離場所が人の通りの多いところになったり、飼い主がペットを放置して鳴き声で周囲に迷惑を掛けたり、ケージに入れたままなので中が糞尿で汚物まみれになってしまったりと、かなり問題を引き起こしているなという気がします。
 実際、ペット同伴可の避難所とペット同伴不可の避難所を分けて設置している例も出てきているようで、命に貴賎はないとはいいながら、なかなか難しい問題になってきています。
 その上で問題になるのが、ペットのご飯やトイレのことです。
 避難所では、当たり前ですが人間の避難にしか対応していません。つまり、ペットのことは自分で全て準備しなければいけないのですが、それが理解できている飼い主はあまりいません。
 ペットの食事を何とかして欲しいといったり、排泄物について避難所運営側に処理させたりといった、そもそも同伴避難が理解できていない飼い主が非常に多いです。
 避難者の補給でさえままならない中で、ペット関係の補給がされるわけはありませんので、自分の非常用持ち出し袋の他に、ペット用の非常用持ち出し袋も準備しておかなければなりません。
 ただ、ペットを飼っている人には高齢者の方も多いです。自分の非常用持ち出し袋でさえ作れない人が、ペット用の非常用持ち出し袋を作れるとも思えませんので、何か対策を考えておく必要があります。
 ペット専用の避難所を作るとか、どこかにペット用の備蓄をしておくとか、ペット保険があるのですから、ペット用の防災備蓄倉庫を作ってもいいのではないかと思います。行政主導というわけにいかないと思いますが、愛好家の皆さんで検討する必要がある時期に来ているのでは無いかという気がします。
 あなたのペットの非常用持ち出し袋は準備ができていますか。そして、自分の非常用持ち出し袋と一緒に持ち出せるようになっていますか。
 今一度、点検をお願いします。

値段のワケを考える

 折からの災害続きで、百円均一ショップでもさまざまな防災グッズを置いてくれるようになりました。
 防災の普及啓発をしている人達の中でも、百円均一ショップのグッズを利用して非常用持ち出し袋を作ってほしいという方も結構います。
 無いよりはあったほうがいいに決まっていますので、百円均一ショップでアイテム類を揃えることはいいのですが、基本的には値段相応だということを頭の隅に置いておいてほしいと思います。
 例えば懐中電灯。百円均一ショップでは小さくて光量の強い懐中電灯を扱っています。それはいいのですが、消耗品である電池が滅多に見ない規格のボタン電池だったりして、ほとんど本体が消耗品といったものもあります。
 また、エマージェンシーブランケットは、性能と値段が比例するアイテムです。無いよりはあった方がいいのですが、軽量な百円均一ショップのエマージェンシーブランケットは向こうが透けて見えるほど薄いです。
 保温効果はそれなりだと思いますが、厚手のエマージェンシーブランケットのように中で着替えをしたり、目隠しに使うにはちょっと難しそうです。
 別にだから駄目といっているわけではありません。無いよりはある方が良いに決まっています。でも、安いものを準備したのに高いもののような効果がないことに文句は言わないで欲しい。
 例えば、登山用のアイテムは防災アイテムになり得ますが、防災アイテムは必ずしも登山用アイテムにはなり得ない。値段の違いはそのまま能力の違いです。それを理解した上でアイテム類を揃えて欲しいと思っています。
 ただ、中には百円均一ショップのものの方がいい商品もあったりするので、そういったアイテムを探すのも面白いと思います。
 非常用持ち出し袋は使わないのが一番なアイテムです。でも、万が一使うような事態になれば、あなたの命を支えてくれる唯一のアイテムになるかもしれません。
そのことを考えた上で、準備をするようにしてくださいね。

ラジオの話

携帯ラジオ各種

 非常用持ち出し袋の記事を見ると、多くの場合「携帯ラジオ」が品物の項目に入っていますが、あなたの非常用持ち出し袋には入っていますか。
 携帯ラジオは情報を取るには非常に便利なアイテムではあるのですが、筆者は、地域によって必要性の優先度が異なるアイテムなのではないかと思っています。
 というのも、ラジオ本体の感度や電波の条件によって、まったく受信できなくなる場所があるからです。
 そのため、ラジオよりも携帯電話のアプリを使う方が感度の良い受信ができる場合があります。
 ラジオを有効活用しようとするなら、できればお住まいの場所や避難先の電波状況がどうなっているのかをあらかじめ確認しておくとよいと思います。
 ちなみに、手回し発電装置のついたものもありますが、この発電効率は機材によってかなり差があるので、購入前にはよく調べておくことをお勧めします。
 よく「携帯電話も充電できる」といったうたい文句のものもありますが、現在主力となっているスマートフォンは充電に必要とされるアンペア数が高いため、ラジオの手回し発電機で充電できる量はあまり期待しない方がいいと思います。
 また、多機能型のラジオもありますが、多機能だからといって、懐中電灯などの機能をラジオに肩代わりさせると、電池の消耗がかなり激しくなるので注意して下さい。
 ラジオは普段から馴染みがあるなら、災害時にも非常に頼りになる存在です。
 ただ、使い慣れていないとそもそも設定ができませんから、平時にしっかりと使い方をマスターし、いざというときに慌てなくても済むようにしたいですね。

非常口の鍵

鍵の開け方は書いてあるが、小さいのでいざというときには読めない。

 災害だけでなく火災のときにもとても重要になるのが非常口です。
 普段はスタッフ専用出入口になっているか、もしくはまったく使わない純粋な非常用として作られている非常口の扉には、ほぼ確実に鍵がかけられています。
非常時にはこの鍵を解放して脱出するのですが、実はこの非常口の鍵は解除するのに決まったルールがないため、非常口を使う事態になったときには焦りながら鍵の解除方法と格闘することになります。
 カバーを外してロックを解除するといった単純な作業でも、焦っているときにはなかなかうまくいきませんので、そういった場所にでかけたときには、念のために鍵の解除方法を確認しておいたほうが安心です。
 本当のことをいえば、非常口には鍵はかけないのが一番いいのですが、非常口を使ってさまざまな悪事を働く人が出ることを考えると、そういうわけにもいかないみたいです。
 ちょっとしたことなのですが、そういった細部の確認が一秒を争うときにはとても重要になりますので、非常口の鍵、ちょっとだけ意識しておくことをお勧めします。

簡易トイレと汚物処理

携帯トイレ各種

 災害で通常のトイレが使えなくなったときに登場するのが簡易トイレです。
 時間の経過と共に工事現場で見るような使いやすくてきちんと仕切られた仮設トイレが到着したり、使えなかったトイレが使えるようになったりしますが、それまでは汚物を自分で処理する必要のある簡易トイレを使わなければなりません。
 最近では避難所の備蓄品や非常用持ち出し袋の中のアイテムとして常備されていることも増えてきましたが、いざというときにそれらの道具を正しく使うことができますか。
 こういった簡易トイレは使用一回ごとに凝固剤で固めた汚物の入った袋の口を縛って可燃ゴミとしてゴミ置き場に出しておかないといけないのですが、残念ながら汚物をそのままにしてしまう人が多いようです。
 張り紙などで意識させるようにしていても、普段の慣習というのはどうしても出てしまうので、次に使う人との間で大きなトラブルになってしまいます。
 普段の避難訓練や避難所設営訓練時に実際に使ってみないと身につかないような気がするのですが、トイレの問題は「汚い」とか「くさい」といった感覚が先に立ってしまって設置まではしても実際に使用するところまではいかないようです。
 ただ、使うときには本当に困ってしまう部分なので、とりあえずは使用から汚物袋の処分までを入れた訓練はしておいたほうがいいと思います。
 ところで、簡易トイレは汚物袋と凝固剤を一セットにして一回ごとに使用するのですが、あなたは自分が普段トイレに行く回数とその時の大小について大ざっぱでいいので把握していますか。

座るところは段ボールでもバケツでも作れるが、処理袋は用意していないと作れない。特に凝固剤がないと汚物が可燃物で処理できないので要注意!


 大小で使う簡易トイレが異なることがありますので、回数を把握したうえで非常用持ち出し袋に備える簡易トイレの数を確保して下さい。
 災害備蓄として避難所においてあるトイレの汚物袋と凝固剤の数は、例えば2000セットあると聞くと多いと感じますか、それとも少ないと感じますか。
 その避難所に避難する人が100人いるとします。そうすると、一人が簡易トイレを使用できる回数は20回。一日に5回トイレに行くとすると、4日分しかありません。
 もし避難者が1000人だとすると、たった2回分です。
 自分の備蓄を準備しておかないと、簡易トイレさえ使えなくなるということを知っておいてください。
 各人が自分の簡易トイレを持っているほど、トイレ事情には余裕が出てきます。
 食べたり飲んだりは我慢できても、出すのは我慢にも限界がすぐ来ますので、簡易トイレの準備と取り扱い方の熟知、そしてゴミ処理についての計画を作っておくことをお勧めします。

チャック付きビニール袋

防災ポーチや非常用持ち出し袋にはさまざまなアイテムが入っていると思いますが、汎用性が高いアイテムとして、ジップロックのようなチャック付きビニール袋を入れておくことをお勧めします。
ある程度以上の大きさのものであれば、中に衣類を詰めて枕代わりにしたり、水を運んだり、開封したお菓子類を湿気させないための保存に使ったり、使用済み紙おむつなど臭気のでるものを入れたり、濡れたら困る携帯電話等のアイテムを中に入れれば、雨天時の移動や避難でも安心して移動ができます。
さまざまなサイズがありますので、自分がよく使うサイズのものを用意しておくといいと思います。
筆者はジップロックをお勧めしていますが、これはチャックが二重になっていて液漏れ・臭気漏れがしにくいことと、触っているときのカサカサ音が殆どないからです。
夜間や静かなときのポリ袋などのかさかさという音は、案外と周囲によく響きますし耳障りでトラブルの元になります。
さまざまな場面で役にたつチャック付きビニール袋。防災アイテムの一つとしてお勧めします。