暑熱順化しておこう

 ここ最近、寒暖の差が激しい日々が続いていますが、体調は管理できていますか。
 しっかりとした睡眠と食事、無理のないスケジュールなど、身体や心に負荷がかかることをなるべく減らすようにして、気温の変化が心身への過度な負担にならないようにしてくださいね。
 ところで、暑くなってくると思わずエアコンの冷房スイッチを入れたくなりますが、そうすると体が季節の暑さについていけなくなって、暑い時期に熱中症を始めとするさまざまなトラブルが発生します。
 そうなる前に、無理のない範囲で、しっかりと汗をかいて体を暑さに慣れさせるようにしてください。このことを「暑熱順化」といいます。
 暑熱順化のポイントは汗をかくこと。汗をかくことで汗腺が開き、暑い日に汗をかくことができるようになって体の中の余計な熱を排泄できるようになります。
 例えばウォーキングやジョギングなど、軽く汗をかく程度で十分です。面倒くさければ入浴でも構いません。湯船にお湯を貼り、汗をかくことでも暑熱順化することができます。汗をかくときには、しっかりと水分や塩分を補給しておくことを忘れないようにしてください。
 暑熱順化には、体質によりますが数日から半月程度はかかりますので、ちょっとずつ暑さに慣れていくことをお勧めします。

熱中症について学ぼう:暑熱順化(熱中症ゼロへのウェブサイトへ移動します)

身の安全を確保して

 先日、岸田総理大臣の襲撃事件がありました。
 総理にはけがもなく、実行犯は無事に取り押さえられたとのことですが、気になったことが一つ。
 それは状況からなにか危険が起きていることが予想される状況にもかかわらず、スマートフォンやカメラで犯人を取り押さえたり様子を撮影している人がたくさんいたことです。
 女性の悲鳴や避難を促す声も聞こえていますが、撮影を止める様子も避難する様子もなく、もしここで爆発物がさく裂していたらどうなっていたのだろうと、ちょっと考えてしまいました。
 日本では長らく「安全と空気はタダ」と言われ続けてきて、身の安全は自分以外の誰かが守ってくれるものという考え方になっている人が本当に多いです。
 ただ、いざというときに自分の身を守れるのは自分しかいません。本来は避難するなり伏せるなり、なんらかの退避行動をとらないといけないはずなのですが、ひたすら撮影するか、様子を見ているか。報道機関の人は仕方がないにしても、一般の人まで一緒になって撮影をする必要性がわかりません。
 もっとも、日本では襲撃に対する訓練というのはされていません。「伏せろ!」という叫びを聞いて体が反射的に床に伏せることができる人がどれくらいいるでしょうか。
防災でも同じで、地震がきた時にいくら緊急地震速報が鳴ってくれてっも、状況確認しようとしてしまうことが、初動の遅れを招いてしまっているのです。
 まずは身の安全の確保、それから状況確認というのは、身を守るための基本です。
 とっさの時に考えなくても動けるように、しっかりと訓練をしておきたいですね。

10台超のカメラ映像で検証 岸田首相襲撃の経緯 凶器の入ったカバンを何度も気にする仕草が…【関西テレビ・newsランナー】(youtubeのウェブサイトへ移動思案す)

防災ってなんだ?

 いろいろなことが言われている防災ですが、要は「自分の命を守ること」が目的で、それが達成できるのであれば防災の普及啓発は必要性がかなり小さくなります。
 でも、この「自分の命を守ること」については、なかなかピンとくる人がいないようで、安全と空気はタダと言われた時代の弊害なのかなと思うこともあります。
 日本は数十年にわたって大きな戦争もなく、国土全土が襲われるような災害もなく、割と平和に暮らせてきました。
 人は自分の経験している範囲でしか物事が理解できないことが多いですので、「今まで何もなかったから、この先も大丈夫」と考えてしまっているのかもしれません。
 実際のところは、毎年のようにどこかで大きな災害が起きている時代に入っているわけで、いつ自分が被災者になるのかわからないという時代になっています。
 毎年同じような災害に遭っている人もいるかもしれません。
 そうすると、自分がいつ災害に遭ってもいいように備えをしておく必要があります。
それが防災活動です。
 防災は誰かがしてくれるものではなく、自分で自分の命を守ることです。そして、自分の命と同様に他人の命も守らなければなりません。
 自分が対策しないと、周りの人が巻き込まれることになりますから、自分の命、周りの命を守るための準備はしっかりとしておいてほしいと思います。

災害に備えるのは自分

 災害時の対応については、行政の不手際がいろいろと指摘されることが多いのですが、こと避難に関する限りは自分で対策を備えておくしか方法はありません。
 行政サイドは人的不足、経験不足、研修不足などなど、さまざまな理由でまともな対応はできないと考えてください。
 これら行政サイドの不足を補うために自主防災組織を作るということになったのですが、自主防災組織も行政から地域の防災対応を丸投げされ、高齢化や人口減少、近所付き合いの減少などで活動不全に陥ってしまっているところもかなり多いです。
 どんな人であれ、自分の身を守るのは自分しかいないということを肝に命じておきましょう。
 情報は自分で取りに行く、避難の判断は自分でする、避難は自分でする、といった、自分で判断するための情報を集めて自分で決定し、自分で避難するという手立てを考えておかないといけないのです。
 その過程の中で、自分ではできないことが出てくることがあります。その自分でできないことをどのように周囲に助けてもらうのか、これが重要になるのです。
 自主防災組織も何もしない人をおんぶにだっこで助けて避難させるほどの能力はありません。助けてほしい人が助けてほしいことを伝えることができて、初めて助けてもらえるということを知っておきましょう。
 自力で何とかなる人や、自分の情報を出したくない人は、自分でなんとかすればいいので人の助けは不要でしょう。でも、人の助けが欲しい人は欲しいと言わなければ伝わらないのです。
 現在作成することとされている要支援者の個別避難計画も、避難準備や避難、避難後の支援に至るまですべてを誰かに押し付けるというのでは計画は必ず破綻します。
 その人が何をどこまでできるのか、どうすれば安全が確保できるのかは人によって異なります。まずは自分が自分の身を守るために考えて準備すること。もし自分で何をすればいいのかわからなければ、わかる人を探しましょう。
 繰り返しますが、災害時には誰も助けてはくれません。もし助けがきたとすれば、かなり運がよいか、それとも準備がしっかりとできていたかのどちらかです。
 災害時に身の安全を確保できるように、自分で準備を整えておきましょう。

点の情報、面の情報

 防災の研修会をやっていると、いただくご意見の中に高確率で「避難情報の発表が遅い!」というのがあります。
 行政に物申しておくようにと言われることも多いのですが、当研究所はあまり行政とのお付き合いがないので、直接お伝えいただくようにその都度お話はしています。
 ただ、防災の研修会でよく言われている「避難レベル3で避難に時間がかかる人の避難開始、避難レベル4でその地域の危険な場所の人は全員避難」というのを真に受けると、そういったご意見が出るのも無理はないと思っています。その地域全体が危険になる可能性があるときには、地域の中にはすでに危険になっている場所も当然存在し、避難情報だけを鵜呑みにすると避難が遅れてしまうという事態が発生するからです。
 ただ、日本の場合には、災害が予測されるときに行政から発表される各種情報は、あくまでも「お願い」にすぎませんので強制力はありません。
 同じ地域であっても、住んでいる場所によって早く避難しないといけない人もいれば、避難が必要ない人もいるわけで、それを加味したうえで自分の避難判断をしてほしいというのが、行政側の考え方になります。
 その地域の雨量や雨雲レーダーの状況、川の状態などのデータからその地域がどういった状態なのかを見ているだけで、実際に現地であなたの周囲の状況を見て判断しているわけではありませんから、行政の発表する避難情報は「面の情報」になります。
 でも、あなたも含めて多くの人が知りたいのは、地域がどうなるのかではなく、自分のいる場所がどうなるのかということなわけで、欲しいのは自分のいる場所という「点の情報」になるわけです。
 行政があなたがいる場所という「点の情報」を出すのは無理ですから、それぞれがどのタイミングで避難しなければいけないのかは、それぞれが自分で考えて行動を決めておくしか手はなく、そのためにマイタイムラインと呼ばれる自分の災害時行動計画を作ることが推奨されているのです。
 避難情報はあくまでも一つの目安であって、実際には自分で行動を決めるための鍵を作っておくことが重要となります。
 例えば、近所の側溝の水が溢れたら、とか、裏山から水が出てくるようになったら、といったピンポイントの危険情報を使うことで、あなたの安全確保ができると思います。
 あなたの周りの「点の情報」を上手に使って、あなたの安全を確保するようにしてくださいね。

防災散歩のススメ

 新しい生活環境になった人も多いと思いますが、住み始めた地域のハザードマップは確認しましたか。
 地域によってはすでにハザードマップを配られなくなっているところもあるようですが、国土地理院の重ねるハザードなどを利用して、住んでいる地域のハザードはしっかりと確認しておいてください。
 そして、お休みの時にでもハザードマップを持って実際に地域を歩く防災散歩をしてみてください。ハザードマップを見ながら歩いてみると、ハザードマップを見ているだけではよくわからないことがたくさんわかります。
 また、歩いてみると安全な場所や危険な場所が案外たくさんあることに気づくと思います。
 ついでに地域の特性や地形などもわかりますから、時間を見つけては防災散歩をやってみることをお勧めします。

国土地理院「重ねるハザード」

効率化と防災

 効率化を求めると、基本的に巨大化・集中化するようですが、こと災害対策で考えると、ある程度以上の効率化や集中化は避けたほうが安全ではないでしょうか。
 例えば、2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震では、効率化による大型火力発電所が停電したことをきっかけとして電力供給力が下がってしまい、ブラックアウトが発生しました。もし火力発電所の規模が中小規模で複数個所に点在していれば、ひょっとしたら防げた事故かもしれません。
 また、極端に権限を集中化させることにより、その権限を持っているところが失われてしまうと一切の対応ができなくなってしまいます。
 市町村合併を進めた結果、かなり広域な範囲を一つの市町村が管轄することになりましたが、例えば市庁舎が災害で被災すると、被災した市の災害対応は完全に停止してしまいます。
 分散化していればしているほど、災害時に受けるダメージを軽くすることはできるのですが、分散化すれば、当然維持するのに必要となるいろいろな経費は増えますので、分散化させればいいというものでもないと思います。
 効率化を求めながら災害時にも強い体制を作ることは、さまざまな分野で大切な問題だと思うのですが、現状では極端な効率化か極端な分散化かという二極論になりがちです。効率化と分散化のバランスを取りながら、いざというときにもできる限り受けるダメージを減らし、すぐに復旧にかかるための手順書がBCPです。
 効率化を求めるのであれば、いざというときに備えたもっとも悲惨な状況での想定で作られたBCPを基にして行うことが、これからの世の中には必要になってくるのではないかと思っています。

暗闇を体験する

 日本に住んでいると、案外と暗闇に出会うことが少ないものです。 
 夜の街を歩いていても街灯はありますし、家の中でもどこでも、ほとんどの場合きちんと灯りがあって、暗闇があるという状態自体が珍しいかもしれません。
 災害時には多くの場合電気の供給が止まってしまうため、本当に真っ暗な中で生活をすることになりますが、普段灯りのある生活をしている人にとって、灯りがないというのはものすごい恐怖になります。
 暗闇というのは、人間にとって本質的な恐怖を感じるもので、それを排除するために現在のような明るさを手に入れたのかなと思っていますが、暗闇を知らないというのも問題があると思います。
 そこで、当研究所の防災キャンプには暗闇体験という項目を作り、実際に暗い建物の中を歩いてみるということをやってみます。
 もちろん完全に真っ暗なわけではなく、非常灯はついていますし、肝試しではないので、懐中電灯や持ち歩ける灯りは持って歩きます。
 それでも、普段とは異なる環境になるためか、怖がったり、友達同士で団子状になったりして、暗いところを歩くというのがどういうことなのかについていろいろと考えるようです。
 災害本番ではほとんど灯りのない状態になっているとは思いますが、そんなときでもこういった暗さを覚えておけば、パニックになることは少ないのかなと思います。
 街中で完全に灯りのないところを歩くのは危険が伴いますが、例えば家族などでキャンプ場などに出かけた時、夜のキャンプ場を歩いてみると、普段とは違った体験ができると思いますよ。

遊びと防災

 防災活動をしていくうえで、結構大変なのが防災に興味を持ってもらうことです。
 そのため、防災活動の普及や推進をしているところはさまざまな仕掛けを作っているわけですが、その中に遊びがあります。
 身体を動かしたり、頭を使ったり、面白がりながら楽しんで体験した結果が、気が付いたら災害時に役に立っているということになるので、有名人の講演会や座学よりも効果的なのではないかと、筆者は思っています。
 先日防災かくれんぼのお手伝いをしましたが、ここでも参加している人たちはとても楽しそうに遊びながら、いざというときの行動についてしっかりと確認していました。
 また、当研究所が子供向けにやっている研修会でも、かなり遊びを取り込んで、できる限り興味を持ってもらえるようなものにしようと試行錯誤しています。
 防災を中心に据えなくても、さまざまなところで体を動かして遊ぶこと、予測をすることというのは非常に大切な体験であり、そういった経験が、いざというときに生き残れるかどうかの差になっていくのではないかと感じています。
 季節もよくなってきました。せっかくなので外におでかけしてしっかりと、身体や頭を使って遊んでみてください。
 子供だけでなく、大人にも大切なことだと思いますよ。

考え方の違いを理解する

 多くの人が当たり前だと思っていることでも、100%の人がそう思っているとは限りません。
 特に災害後で情報が錯綜しているときには、自分を守るためにどうしても周囲が困ってしまうような行動をとってしまうことがあります。難しく考えなくても、例えばコロナ禍で使い捨てマスクがどういう状況になっていたのかを考えれば理解できるのではないでしょうか。マスクの供給が止まってしまうような報道が出たとたん、店頭でマスクを買い占める人が続出して店では売り切れていた状態。状況がわからずに不安になったので、目につくものをすべて手に入れようとしてしまうことは、迷惑な話ではありますが、感覚としては理解ができませんか。
 さまざまな感覚を持つ人がその所属するコミュニティーに関係なく避難所に避難してくるのが災害です。「そんなことは常識」と考えるのは簡単ですが、思ってもみないところでお互いの悪気のないトラブルが起きるのを回避するためには、ルールをきちんとわかるようにしておくことです。
 全ての手順を誰にでもわかる表示で見えるところに張り出しておくことで、考え方の違う人でもどのような行動をするべきなのかがわかります。
 考え方が異なる人たちが同じ空間で生活するためにはルールを決めることとそのルールをわかるようにしておくこと、なによりも、全ての人がわかる手順を踏んでルールを決めることが大切です。
 緊急時にはそんなことをしている余裕はないと思いますので、できるだけ事前に避難所運営委員会などを設置して、避難所におけるルールを決め、すぐにわかるところに貼りだせるように、場所やポスターなどを準備しておくようにしてください。
 非常時には、ちょっとしたトラブルが大きなトラブルに発展しやすいです。
 できるだけトラブルが起きないような準備をしておきたいですね。