非常用持ち出し袋に一枚「巻きタオル」

巻きタオル。筒にしても使えるしバスタオルとしても使える。何気に便利なタオル。

 「巻きタオル」というのをご存じですか。小学校などの水泳の前後に着替えに使っていた人もいると思いますが、大きなバスタオルで筒にできるスナップボタンがついていて、首から落ちないように上側になる部分にはゴム紐が入れてある着替えもできるバスタオルです。
 「ラップタオル」という呼び方もされるようですが、非常用持ち出し袋にこれが一枚はいっているといろいろと使えます。
 用途通りに身体を拭いたり、この中で着替えをしたり、防寒着になったり、広げるとちょっとしたタオルケットになったりもします。丸めれば枕、紐や洗濯ばさみを使えば間仕切りや簡易カーテンにもなりますし、見せたくない洗濯物を干すときのカバーとしても使えます。
 お値段もそんなに高くなく、非常用持ち出し袋から溢れてしまうような大きさでもありませんので、非常用持ち出し袋に一つ入れて置いてはいかがでしょうか。
 非常用持ち出し袋に入れる前には、一度サイズが自分に合うかは必ず確認してくださいね。また、子どもさんの非常用持ち出し袋に入れる場合には、定期的にサイズ合わせすることをお勧めします。
 身体の大きさがきちんと隠れるサイズの巻きタオルでないと、いざというときにこまったことになりますから、それだけはご注意を。

正常性バイアスの功罪

 車の運転免許を持っている方は、免許を取得する過程や更新講習などで「『だろう』ではなく『かもしれない』運転をしてください」と言われていると思います。
 「大丈夫だろう」ではなく、「何かあるかもしれない」と考えて安全に運転するという意味なのですが、災害対策でも同じことが言えます。
 同じことが繰り返されると、人間の行動は「それまでと同じ」という前提で考えてしまいがちです。これは正常性バイアスの一つで、考えることを減らすために無意識にパターン化している自分の中の事実に当てはめて考えてしまうことなのですが、災害時にはこの正常性バイアスを打ち破ることができるかどうかが生き残ることのできる鍵となっていることに留意してください。

 何か起きたとき、人は自分のそれまでの生活や行動を変えようとせず、その状況の中から普段と同じものを見つけ出そうとします。また、行動を変えないで済む理由をいくつも作り出そうとします。
 それが正常性バイアスと言われるもので、この正常性バイアスのおかげであまり考えずに普段の生活を送ることができるのですが、これが度を過ぎると非常事態なのに常時のルールで判断しようとして危機的な状況を生み出してしまいます。
 常時と非常時を切り分けることは、実は非常に困難な作業です。どこまでが常時でどこからが非常時なのかは、その人ごとに違うからです。
 ですが、非常時にどうするかを決めておかないと、正常性バイアスによって非常時が常時の延長にされてしまう可能性は非常に高くなります。
 切り替えるためのスイッチと切り替え後の行動をどうするのかを決めておくことで、正常性バイアスから逃れて身を守ることが可能になりますので、自分の中の常時と非常時の線引きについてきちんとしておくことをお勧めします。

行動パターンを正しくはめる

 災害が起きそうなとき、自分の命を守るために避難をすることがありますが、一つ気を付けておきたいことがあります。
 それは、「行動パターンを正しくはめておく」ということです。
 例えば、水害で川から水が越水しそうな状況を考えてみてください。住んでいる家が低地であれば水没する可能性は高いですから、直ちに避難を開始する必要性があるでしょう。では、どこへ避難するのか。答えは「安全を確保できる高いところ」です。多くの人は近くの避難所への避難を選択すると思うのですが、「避難=避難所」ではないことに注意してください。
 漫然と「避難=避難所」と考えている人の場合、避難先の避難所が安全かどうかの検討はしていない場合がほとんどです。最近では避難所にその避難所がどのような災害なら安全かについて表示されているところも増えてきましたが、この表示はハザードマップの情報を前提にしてされていますから、それが常に正しいとは限りません。ハザードマップの想定を超えていれば、当然被災する可能性があるということは意識しておくべきです。

吉賀町の避難所所の一つ、吉賀高校体育館にある避難所表示。土石流と崖崩れ・地すべりの時には使えないことがわかる仕組み。この適応表はハザードマップがベースになっていることに留意。

 東日本大震災で多くの教員や生徒が犠牲になったとある小学校では、その小学校が避難所になっていてハザードマップでは津波でも水没しないとされていたことから、避難所を開設するしないで揉めているうちにみんな津波に飲まれてしまったという話(詳しくはwikipedia「石巻市立大川小学校」を参照)もあります。今いる場所に危険が迫っていて避難するときに必要な行動パターンは「避難所へ避難する」のではなく、「安全な場所へ避難する」です。
 緊急時にはどこへ避難するかを時間はありません。
 水害でも津波でも、より高い場所へ避難してあなたの安全を確保すること。結果的にその場所が無事だったとしても、高台に逃げてはいけない理由は何もないのです。
 同じように、避難しなくてはいけない災害が起きたときには、どのようにすれば自分の安全を確保できるのかについての行動パターンを作っておいてくださいね。

非常用持ち出し袋の点検時期

市販品の非常用持ち出し袋
市販の非常用持ち出し袋。中身の使い方、子どもが理解していますか?

 ある程度までの年齢のこどもの非常用持ち出し袋の中身は、大人用に比べると点検回数を増やす必要があります。
 というのも、月例や成長によって必要なものがめまぐるしく変わっていくので、一度セットして一年に一回の点検では服や下着が入らなくなっていたり、食べるものが変わっていたりして持っているのに役に立たないという事態になります。
 特に乳幼児は週単位で必要なものが変化することもありますから、普段使っているおむつやミルクなどを入れたお出かけセットがあると思いますので、それを帰宅したらすぐに出かけられるようにセットして、非常用持ち出し袋にすることをお勧めします。
 自分で非常用持ち出し袋を持って避難できるくらい子どもが大きくなってきたら、4半期に一度、非常用持ち出し袋の点検をして服や下着が小さくなっていないか、非常食が成長に合っているかを点検して入れ替えていきます。
 基本的に必要なものは大人も子どもも変わりませんから、親子で一緒に点検することで、おうちの防災を勧めていけるといいなと思います。
 また、高齢者の非常用持ち出し袋についても半年に一度でいいので点検してみてください。それまでは持てていた非常用持ち出し袋が持てなくなったり、服や下着などで追加しないといけないものが出ている可能性もあります。
 非常用持ち出し袋というのは普段の生活を維持してくれるための救命袋です。その時々にあった仕様に入れ替えて、いざというときに持って避難できる、中身を確実に使うことができるようにしておいてくださいね。

情報収集を制限する

 災害時における情報収集には2つの段階があります。
 一つは災害発生中のもので、これは刻一刻と変わっていく情報により生死が分かれる情報ですので、状況が落ち着くまでは情報を集め続ける必要があります
 もう一つは発生した災害が落ち着いて状況が大きく動かなくなったとき。
 長期戦になったときとも言えますが、こうなると情報をとり続けていても「情報疲れ」をするだけになってしまうので、意図的に情報を止める必要があります。
 現在はさまざまな情報環境があり、大きくも小さくも情報を集め続けることができます。例えばインターネットのSNSでは玉石混合で真偽不明の情報、特に不安のあおるようなものが大量に飛び交っています。またマスメディア、特にテレビでは、なぜか被害の大きかったところの情報しか写しません。視聴率が稼げるとか、テレビ映えするという理由ではないことを信じたいのですが、その地域に住んでいる人からするとそんな情報ばかり見せられると不安にしかなりません。
 そしてこれらの情報を集め続けると、気がつかないうちに不安や緊張、恐れがあなたの心を蝕んでいきます。
 それを防ぐには、収集できる情報をあえて収集しないこと。例えば、情報を集めるのはお昼の一時間という風に決めておくとそれ以外の時間は不安を感じずに済みます。
 災害からの復旧で地味に大切なのはこころの健康です。特に避難所等で状況が落ち着いてきたら、テレビやラジオなどのマスメディアは流しっぱなしにするのではなく、時間を決めてスイッチを入れるようにしてください。

マイタイムラインを作ろう

 地震のようないきなり発生するような災害を除くと、その大小はありますが災害には予兆が必ずあるものです。
 とくに大雨や台風など、水に関する災害はある程度予測がつくので、その予測に従って行動すればあなたの安全はとりあえず確保されることになります。
 ところで、水に関する災害に関しては現在警戒レベルが決められていてそのレベルに応じた行動をすればいいことになっているのですが、一つ問題になるのが、この警戒レベルの発表基準が面的なものであるということです。
 例えば、「○○市××町に避難勧告が出されました」と聞くと××町の人は全て避難所に避難するようなイメージになるのですが、実際のところは避難勧告が出る前に水没している家屋があったり、避難する方が危険な場所に住んでいる人がいたりします。
 そのため、自治体が発表する警戒レベルだけではなく、自分の住んでいる場所の警戒レベルを作って置いた方が安心です。
 住んでいる場所の警戒レベルというと難しそうに聞こえますが、実際のところは、「家の裏の溝が溢れたら避難する」とか「近くの水路の水が8割くらいの量になったら避難する」というような避難をすべき判断基準を作るという作業で、その際に活用できるのが「タイムライン」です。
 タイムラインの作成は3日前から始まることが多いのですが、あなたが避難するために必要なさまざまな情報収集や準備の順番や段取りを決めていく作業ですが、この中にあなたの住んでいる場所の避難判断基準も入れておくのです。
 タイムラインは「東京マイ・タイムライン(東京都のウェブサイトへ移動します)」や国土交通省下館河川事務所が出している「みんなでタイムラインプロジェクト(国土交通省下館河川事務所のウェブページへ移動します)」を確認していただければタイムラインの詳しい考え方や作り方がご理解いただけると思います。新型コロナウイルスで家から出られないこの時期だからこそ、あなたやご家族と一緒に作ってみてはいかがでしょうか。
 これからは梅雨、夏の大雨、そして台風と水の災害がいろいろと起きてくるかもしれません。まだ何も起きていない今の時期だからこそ、あなたのタイムラインをしっかりと整備して、いざというときに余裕を持って避難ができるようにしておきたいですね。

福祉避難所をどう開設するのか

 福祉避難所は、乳幼児や障害者、生活に人の支援が必要な人など、「要配慮者」とされている人達が必要なケアを受けられるように設置される避難所です。
 この福祉避難所、開設は義務ではありません。自治体が必要と判断したときに設置することができるとされており、福祉避難所へ避難できるかどうかは避難所を巡回する行政の保健師や医師などが判断することになっています。
 詳しくは内閣府の作った「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を見ていただきたいのですが、要支援者が自分で判断して福祉避難所に避難することができないため、発災時には要配慮者は通常の避難所に避難するしかありません。
 その結果、通常の避難所では避難し続けることが困難な状態になって、自宅避難や車中避難、あるいは最悪の場合避難先がないという事態が想定されます。
 これだけ災害が日常的に発生し、自治体のマンパワーが不足している現状では、福祉避難所は通常の避難所と同じ条件で開設した方がその後のトラブルが少ないと考えるのですが、福祉避難所に指定されるディーサービスセンターや老人介護施設などは普段営業を行っていることから、「災害が起きる可能性」だけで営業を止めて避難所開設というわけにはいかないのかなとも考えます。
 避難所に避難してくる人達を見ていると、要配慮者の方は比較的早めに避難しているように感じます。ただ、多くの方が避難してくるとさまざまな事情で追い出されてしまう現状になっているので、「避難所内で何とかしろ」ではなく、きちんと支援できる体制のある場所で福祉避難所を開設した方がよいと考えるのですが、あなたはどう思いますか。

避難開始のルールを決めておく

 災害情報や警戒レベルについては以前「災害時の情報にはどんなものがあるだろう」という記事で触れたことがありますが、警戒レベルについてはレベル順に発表されるとは限りません。
 短時間に集中してピンポイントで降るような雨の場合だと、警報から二つレベルが上がっていきなり「避難勧告」が出るケースも想定されます。
 そのため、警報が出たらその後どのように雨が降りそうなのかについてアメダスや降雨量、雨雲レーダーなどの気象情報を確認して置かなければなりません。
 緊急時に判断するときには、大抵の場合「これくらいなら」とか「まだ大丈夫」といった正常性バイアスによって気がつくと避難するのに手遅れの状況になっていることもよく起きますので、自分たちが「何が起きたらどこへ避難を開始するのか」を平常時に決めておかなければ冷静な判断はできないと思います。
 平常時に決めた避難基準、例えば「時間雨量が30mmを超えたとき」や「近くの川の水位が一定量を超えたとき」「家の前の側溝が溢れたら」などの条件が満たされたら、いろいろ考えずに避難を開始することをルール化しておきます。
 もし避難後に何も無くても、「何もなくてよかった」のですから喜べばいいのですし、判断基準がおかしいかなと感じたら、その感覚を元にして避難開始のルールを変更すればいいだけの話です。
 「避難所」が開設されていなくても「避難できる場所」を決めておけばそこで過ごせばいいですし、「避難場所」であれば条件なしに避難をすることが可能です。ただ、避難場所は殆どの場合場所だけの提供となりますので、雨を凌げる装備が必須となることに注意してください。
 また、水没や崖崩れなどの心配が無い場所や近くに避難できる場所がどうしても見つからないなら、家の中の上層階への避難でもやむを得ません。(避難所の詳しいことについては当研究所の投稿記事「避難所の種類と機能について考える」をご覧ください。
 いずれにしても、避難開始のルールを決めておくことで避難遅れはなくなりますから、どうなったらどこへ避難するというおうちのルールを作って、家族みんなで共有しておいてくださいね。

「行動を起こす鍵」を決めておく

 現在国会で新型コロナウイルスへの対応を巡っていろいろな話をしているようですが、滅多にない大規模な感染症ということなのか、政府の動きがなんとなく後手後手に回っているような気がします。
 以前にもSARSや新型インフルエンザ対策などで大騒ぎしたはずなのですが、そのときに得た教訓は「行動を起こす鍵」を決めておくということです。
 「行動を起こす鍵」は「トリガー」や「引き金」とも言われますが、さまざまな想定で検討をしておいて、どんな状況になっても発生したらすぐに行動に移すことができるようにパターン化して行動を決め、その行動を起こすための鍵となる事象を決めておく作業をさします。
 例えば災害対策では「BCP(事業継続化計画)」と言われる状況と対応の計画書がそのままこれに当たります。
 もちろん状況は動きますし、設定した状況と100%同じ事態が起きることはまずないでしょうが、いろいろと検討しているうちに備えなければいけないことがはっきりと見えてきますので、その対応をするための行動を起こす鍵をしっかりと決めておく。これは平時にこそ準備しておくもので、非常時に慌てふためかないために必ず検討して準備しておいた方がよいものです。
 「Aが起きたらBを実施」という考え方はプログラムのようですが、BCPというのはまさにプログラムで、設定された状況に従って行動をするためのツールとして考えてみるとわかりやすいかもしれません。
 慌てている会社や自治体はこのBCPがうまく機能しておらず、落ち着いて手を打っている会社や自治体はBCPがうまく稼働していると考えていいと思います。
 BCPがないのにうまく対応している会社は、この「行動を起こす鍵」をはっきりとさせていて、それを従業員や顧客にも周知徹底がされているところでほぼ間違いないはずです。
 企業のBCPだけでなく、家族やあなたの生存継続化計画を作るときにも、この「行動を起こすための鍵」を意識して計画を組んでみてください。
 難しくてややこしくて専門業者に丸投げしていた企業のBCPが、そんなに難しくないと感じると思いますよ。

避難所へ避難するための判断基準

 「被災しそう、または被災したら避難所へ避難する」というのが災害対策ではよく言われますが、自治体が作っている避難所の圏域人口と収容人員にかなりの開きがあることをご存じですか。
 自治体の作る地域防災計画では、避難所は自宅が倒壊したりひどい損傷を受けて生活の場にすることができない、または他所から来て帰宅できるまで生活できる拠点がないという人を収容する想定で考えられています。
 そのため、台風や水害などあらかじめ避難する場合を除いては「在宅避難」が前提とされています。家屋の耐震補強が勧められているのも、地震で家屋がつぶれないようにすることで生活者の命を守ること、そして在宅避難ができる環境を維持することが目的と考えることができます。
 そう考えると、地震で被災したときには2段階で避難所へ避難をするかどうかの検討をする必要があります。

1.家屋の危険度を見極める

 家屋本体にどのような損害が出ているのかを確認します。
 次に周辺家屋が自分の家屋に被害を与えないか、火災・液状化現象・津波などの二次災害が起きていないかを確認します。

以上の確認をして、とりあえず建物が余震に耐えられそうかどうかを確認します。
本格的な被災状況の確認は自治体が実施する「応急危険度判定」に任せるとして、とりあえずは目で見て問題がなさそうなら次の確認を行います。

2.生活できるかを確認する

 自分の家屋の内部が生活可能かを確認します。他人の支援が必要な人や健康に不安のある方は、自身の生活が維持できないと判断したら避難所へ避難します。
 片付ければ住めるのであれば、生活できる空間作りを優先し、在宅避難をするようにします。例えば窓ガラスが割れていて散乱しているようであれば、割れたガラスを片付けて、窓ガラス代わりのブルーシートなどを使うことで、居住空間を確保することは可能です。
 また、自宅が住めなくても納屋、テントを張れるような庭などがあれば、そこを居住空間にすることが可能です。

 避難所への避難は、被災者全員では無く、生活弱者や住む場所を失った人が行うようにします。そうしないと、避難所に人が収容しきれずに避難所としての機能が麻痺することになってしまいます。
 よく騒動の元になることなのですが、「避難所に避難しないと支援物資がもらえない」は誤りです。避難所は支援物資の拠点になっていますが、そこで物資を受け取ることができるのは、避難所への避難者だけではなく、在宅や避難所以外に避難している被災者全てです。
 このことは災害対策基本法にしっかりと明記されている(災害対策基本法第86条の7参照)のですが、自治体職員も含めて知らない人が多いので、避難所運営訓練などでは避難所への避難者以外も対象になることをしっかりと関係者で情報共有しておく必要があります。

 また、避難所へ避難する場合には、電気のブレーカーやガスや水道の元栓をしっかりと締め、できる限りの戸締まりをしっかりとしてから避難するようにしましょう。