避難訓練は定番化しない

 学校や施設の避難訓練では、だいたい毎年同じような内容が繰り返されていることが多いです。
 それだけ重要ということもいえるのですが、内容も完全に同じになってしまうと、それが当たり前になって本番では右往左往することも出てきます。
 特に想定シナリオが共有化されている場合には、そのシナリオに従って訓練を実施しないと怒られることもよくあり、変更する手間を考えると、結局毎年同じような訓練になってしまいます。
 それを防ぐためには、シナリオは参加者には共有しないことが大切です。
 いつ、どのような想定で何が起きるのかまでは共有してもいいと思いますが、具体的な行動については事前に決められているはずですから、シナリオがなくてもそのとおりに行動できると考えておきます。
 そうすることによって、落ち着く先がわかりませんので最後まで緊張した状態で訓練を行うことができると思います。
 まだ、どうしてもシナリオを共有する必要があるのであれば、その中にサプライズを組み込むことをお勧めします。
 例えば、けが人が発生しているや職員の数が不足しているなど、少し意地悪な想定を準備することで、シナリオがあってもかなり緊迫した訓練ができます。
 実際のところ、訓練をしっかりすればするほど行動も素早くなって安全も確保されやすくなるのですが、いつも同じ想定だと、異なる条件で本番になったときには相当慌てることになってしまいます。
 避難訓練では予定調和は必要ありません。トラブルがなく終わったとしたら、想定になにか大きな問題があったのではないかと考え、訓練を計画していくことをお勧めします。

避難所は土足厳禁が基本

段ボールベッドと避難所用テントを組み合わせる。

 避難所では、生活空間は土足禁止にしたほうが健康を保ちやすいのでお勧めです。
 というのも、避難所の就寝場所がすべて床面から20cm以上の高さがある場所ならいいのですが、そうでない場合、土靴から落ちた汚れやごみ、ウイルスや雑菌などを吸い込んでしまい、呼吸器系の病気を発症することが多くなります。
 日本では床に直接寝る習慣があるために靴を脱いで生活空間に入るという習慣ができたのだと思いますが、これは理にかなっています。
 地表に舞っている病気の元であるゴミやほこりなどを吸い込まないために、靴を脱ぐ習慣になっているのです。
 逆に靴を脱ぐ習慣のない国では、寝る場所の高さを上げてベッドというものになっていて、地表で舞っているさまざまな雑菌から呼吸器系を守るようになっています。
 とはいえ、避難所は人の出入りも多く、土足を禁止してもしっかりとした衛生面の確保は難しいと思います。できるなら土足は禁止したうえで、床から少しでも高さを上げたところで寝ることにするようにしてほしいと思います。
 避難所の生活空間での土足を禁止することは、避難所で大きな病気を出さないためには大変重要なポイントです。

留守表示のジレンマ

 避難を促す人たちにとって、その家にまだ人が残っているのか、それとも避難が終わっているのかという情報は非常に大切です。
 避難が終わっている家に対して呼びかけを行うのは時間の無駄ですし、下手をすると避難を促している人の避難が遅れてしまうことになりかねませんので、避難したという情報がきちんと伝わるようにしておく必要があります。
 玄関への張り紙や軒下に印を出しておくなど、地域によってさまざまな形で避難したことを知らせる方法が決められているのですが、困ったことに、その方法が家に誰もいないということを教えている状態のため、空き巣にとってはこれ以上ないくらい仕事がしやすい状態を作っていることになります。
 ましてや、普段の留守であればいるかもしれないペット達も一緒に避難しているのですから、そういった人たちから見ると非常に仕事がしやすい状態にあるのです。
 かといって、普段通りの状態で避難をすると、避難してるのかどうかがわからないので、避難を促す人たちが困ることになります。
 避難区域を立ち入り禁止にして人も車も一切入れないこと。そして、立ち入り禁止区域に入ったものは問答無用で逮捕、というくらいの対応ができるとよいのですが、立ち入り禁止区域で出入りを規制する人をどうするのかという問題が発生します。
 緊急時には消防や警察は対応にかかりきりになりますので、なかなかこういったことにまでは手が回りません。
 一昔前なら消防団という地域をよく知っている人たちがいましたが、現在ではそこまでの力を持っているところは少ないと思います。
 手っ取り早いのは、避難するときに避難する人が、避難を呼びかける人に声をかけるようにすることです。そうすることで、避難したことがわかりますので、呼びかけるほうも楽になります。
 自己責任な世の中ではありますが、こういった避難確認をするようなところでは、地域コミュニティが生きていると思います。「一声かける」という文化も残っていると思いますので、お互いに安全な方法で対処ができるといいなと思います。

ハザードマップが読めますか

 市町村などが作っているハザードマップですが、完成したり改訂があると、多くの場合は各家庭に配られているようです。
 ただ、その中身の説明がないために、次の資源回収日には大量に出されているケースもあるとか。
 本来なら災害から身を守るために作られたはずのハザードマップがただの資源になってしまっているのは、ようするに見方がわからないからです。
 見方さえわかれば結構役に立つのですが、配られているハザードマップに書かれている解説を読んでも、よくわからないという方が多いのではないでしょうか。
 研修会などで説明すると「ああそういう意味なのか」と言ってもらえることも多いのですが、わからないから資源にされているのです。
 また、中途半端に細かいサイズになっているため、かなり使いにくいものも多いです。見やすいだろうと思って冊子にしていても、実際には非常に使いにくくわかりにくくなってしまっている残念なケースもよくあります。
 見方さえわかれば、あとは更新されても改訂されても大きく表示方法が変更されることもないですから、見方をしっかりと周知してほしいと思います。
 見方と用語。
 これがきちんと理解できるような機会の提供が少ないような気がするので、結果として理解が進まないという状態が続いている気がします。
 せっかく大金をかけて作ったハザードマップです。
 しっかりとハザードマップが役立つような、そういった心配りがいるのかなと感じています。

自主防災組織のお悩み

 防災の仕事をしていると、自主防災組織の方から組織運営について相談をいただくことがあります。
 最初は地域の人を災害から守るという熱い思いで結成された自主防災組織も、時がたって災害が起きなければ、だんだんと熱も冷め、次世代への承継もうまくいかないことが多いようです。いただくご相談は、今後どうやればうまく活動ができるのかとか、人がいない、集まらない、動けないといった内容で、あまり明るい内容ではありません。
 ただ、聞いていると不思議に思ってしまうことが一つあります。
 それは、なぜ身の丈にあった計画に変更しないのかということ。
 ご相談いただくときの前提が「この活動計画ができなくなっている」というのが大半なのですが、できないのであれば、できるような活動計画に変更すればすむのではないかと思います。
 自主防災組織の中には、非常に立派な行動計画を作って毎年それを更新しながら組織をうまく運営しているところもあります。
 でも、地域によってはその行動計画を実行するだけの力がなくなっているところもありますので、そういった状況で持っている行動計画をやろうとするとどうしても無理が来ます。
 自主防災組織はあくまでも「共助」のために結成されている地域のボランティア的な組織ですから、実行することが難しい行動計画でできないというのであれば、行動計画自体を変えてしまえばいいのです。
 基本的な考え方は「できることをできる範囲で」です。
 理想を掲げても物理的にできない場合にはできませんので、できることをできる範囲で設定しなおすことで、無理のない自主防災組織の運営が続けられることになります。
 もちろん、人が増えたりやる気のある人たちがたくさんいる状況になれば、活動計画を組み替えて大きなものにすればいいだけなので、その時々に応じてやる活動を変動させるくらいの気持ちでいればいいと思います。
 よく誤解されているのですが、自主防災組織は自主防災組織に所属する人たちを守るために存在しています。
 自治会や自治体とは異なる任意組織ですので、あくまでも自主防災組織に加入している人をどうやって守るのか、を基礎にしてください。加入していない人を相手に考える必要はないのです。
 自主防災組織に加入している人達が、お互いにできる範囲でできることをして助け合うだけでいいと考えると、何となく肩の荷がおりませんか。
 自主防災組織を難しく考える必要はありませんん。地域の人間関係がしっかりと生きているなら、存在しなくてもいいくらいの組織であり、あくまでもお互いをできる範囲で助け合うために作られているのです。
 できることをできる範囲で、無理なくやり続けること。
 これからの自主防災組織はそれを前提にして活動計画を作ったほうがいいのではないか。そんな風にお話をしています。

「大丈夫」という情報の大切さ

 災害が起きた時に自分に大きな被害がなかった場合には、あえて自分は大丈夫という情報発信はしないという方が多いと思います。
 特に大きな災害の場合には、短時間で相当数の安否確認の電話やメールが集中してしまうので、通信環境への負荷を防ぐという意味でも発信を控えるということはよくあることだと思います。
 ただ、心配している人から見ると情報発信がないというのは「大丈夫」だから発信していないのか、それとも「発信できないような状況」になっているかがわかりませんので、不安に駆られて相手が出るまで電話やメール等を送り続けて通信環境を悪化させてしまうことが発生します。
 被災地外で被災地にいる人の心配をする人は、とりあえず無事なことがわかればいいのですから、とりあえず被災地にいる人は自分が大丈夫である旨の情報は発信したほうがいいわけですが、電話やメールでやりとりしていると状況はあまり変わりません。
 SNSや災害時伝言ダイヤル、災害用伝言版などを活用して、なるべく通信環境に負荷をかけずに大丈夫なことが伝えられるといいと思います。
 SNSであればいいのですが、災害時伝言ダイヤルや災害用伝言版では一つ気を付けておかないといけないことがあります。
 それは「鍵となる電話番号を決めておくこと」です。
 「J-Anpi」というシステムによって、固定電話、携帯電話会社に関係なく、登録されている伝言はどこからでも見たり聞いたりできるようになっていて、いちいち探す手間はかなり減りました。

※注 災害時伝言ダイヤルとweb171は連携しており、相互に情報確認ができる。

 ただ、J-Anpiの伝言を聞くためには鍵となる電話番号が必要となります。
 「もし自分が被災したとき、安全だったら伝言を出しておくから、〇〇番で検索してくれ」という情報を連絡してくるであろう相手に伝えておくことで、いざというときに通信環境に負荷をかけずに安否が確認できます。
 これは家族間でも同じことで、いざというときにどの番号で伝言をやりとりするのかについては事前に決めておくようにしてください。
 また、災害時伝言ダイヤルや災害時伝言版は平時でも訓練用に開放されているときがありますので、そういった機会を使って、実際にやりとりする練習をしておいてください。
 「私は大丈夫です」ということを伝えることは大切な情報です。
 自分が無事だから発信しなくても大丈夫、ではなく、無事だからこそ大丈夫だという情報を早めに発信するようにしてください。

J-Anpi(J-Anpiのウェブサイトへ移動します)

NTT西日本の災害への備え・対策サイト(NTT西日本のウェブサイトへ移動します)

あなたは地図が読めますか

普段住んでいるところでも案外とわからないところがある。写真は防災マップを作る一シーン。

非常用持ち出し袋のアイテム類の一覧を見ると、多くのものに「地図」が入っています。
田舎に住んでいる人にはピンとこないアイテムなのですが、普段公共交通機関で移動している人の場合には、いざ歩いてときに道がわからないという大問題があるため、地図が必要だと考えられているのです。
ただ、この地図にもさまざまなものがあり、それぞれに特徴があります。
どのような地図を準備してもいいのですが、その地図がきちんと読めないと何の役にも立ちませんので、せっかく地図を準備するのであれば、その地図に書かれているものがどのようなものを意味するのかをきちんと理解しておきましょう。
例えば、自分のいる現在位置がわからないとそもそも地図が使えません。
また、場所がわかっていたとしても、自分がどの方向に向けて移動すればいいのかが理解できていなければ、全く違った方向に移動してしまうことになります。
最近都会地では「避難用マップ」というような名称で徒歩避難者向けの地図も販売されているようですが、地図を用意するのであれば、方位磁針もセットで準備したほうがいいと考えます。
例えば、日本で作られて日本で使う地図の場合には、基本的に上側が北になっているはずです。そうでない場合には地図面のどこかに方位が記載されていますので、それを確認してください。
では、方位磁針がない状態で自分がいま見ている方向を当ててみてください。
次に、30分ほどその地図で歩いてみて、今見ている方向が東西南北のどの方向なのか、もう一度当ててみてください。
結構な確率で方向がわからなくなっていると思います。
平時にはさまざまな目標や目印があって移動もわかりやすいですが、災害時にはそれらが燃えたり崩れたりしてわからなくなるかもしれません。
地図を準備するなら、方位磁針も併せて準備し、そのうえでそれを読み取ることが可能な程度には見慣れておく必要があります。
現在はスマホやカーナビが充実しているため、地図を見ることはあまりないと思います。
地図は普段から見慣れていないと内容を読み取ることは難しいですので、特に長距離を公共交通機関で通勤・通学している人は機会を作って地図と方位磁針に慣れるようにしておいてください。

逃げるべきか留まるべきか

当研究所のある益田市市街地のハザードマップ。あなたのおうちは避難が必要ですか?

 避難という言葉を調べてみると、「災難を避けてその場から立ち退くこと」といった意味になるそうです。
 防災対策でよく使われるこの避難という言葉ですが、その中身を見ると「垂直避難」「水平避難」「その場で待機」という大きく3つに分けられています。
 「水平避難」は言葉の意味のとおり、災害が発生するであろう場所から災害が起きない場所への水平移動のことを指します。
 「その場で待機」は、そもそも避難の必要がない場合に使われるもので、自宅待機ともいわれます。
 そして、「垂直避難」は、「その場にいるが、なるべく高いところへ移動する」ということで使われています。


 確かにその場から移動はしているのですが、危険地帯から移動しているわけではないので、避難に該当するかどうかは正直疑問ですが、それでも例えば1階にいたら間違いなく溺れてしまうような場所の場合には、2階以上の場所へ逃げるのは一つの考え方なのかなと思います。
 ただ、垂直避難には限界があります。都会の何十階建ての建物ならともかく、田舎の一戸建てだとせいぜいあっても3階くらいまで。そんな場所で垂直避難することは、果たして正しいのだろうかとも考えてしまいます。
 自分が垂直避難でもなんとかなりそうかどうかは、お住いの場所のハザードマップを確認して判断するしかありません。ハザードマップを100%信用することは危険ですが、それでも一つの判断基準にはなります。
 さまざまな条件でそこから遠方へ逃げられない人や、逃げ損ねた場合には、上層階に逃げることで命をつなげるかもしれません。
 基本は水平避難ですが、もしも垂直避難になった場合に備えて、どのような条件だと危険なのかについて確認しておくことをお勧めします。

11月5日は世界津波の日です

 11月5日は「世界津波の日」に指定されています。
 2015年の国連総会で決定されたそうですが、この日は1854年の安政南海地震(M8.4)とそれに伴う大津波が紀伊半島を襲った日です。
 収穫したばかりの「稲むら」に火を放ち、村人達を高台に導いて多くの命を救ったという「稲むらの火」という逸話もこのときに誕生したのですが、この出来事に因み、11月5日を「津波防災の日」として選んだとのこと。
 日本では「津波」という言葉でほとんどの人が何が起きるのかをイメージできると思いますが、海外でもかなりの地域で「TSUNAMI」とよばれる自然現象になっています。
 ちなみに、太平洋地域で大きな地震が起きた時にニュースなどに登場する、ハワイにある太平洋津波警報センターの名称も「 Pacific Tsunami Warning Center(略称:PTWC)」となっていてやっぱり「津波」が正式名称になっています。
 ともあれ、あなたがお住いの場所がもしも海や沿岸部にちかい川に面しているようであれば、津波の影響はあるかもしれません。
 万が一に備えて、津波が起きた時にはどこへ逃げるのかについて、考え、そして実際に避難訓練もしてみてくださいね。

津波防災特別サイト(内閣府防災のウェブサイトへ移動します)

「おはしも」の「お」

避難中は絶対に押さない、そして急かさない

 先日お隣の国で群衆雪崩による死傷者が出たというニュースがありました。
 150名以上の方がお亡くなりになったということで、犠牲になられた方にはご冥福をお祈りいたします。
 日本でも平成13年に明石市であった花火大会で同じような群衆雪崩が発生し、11名の方が亡くなっていますが、大勢の人が密集した状態で移動を行っているとき、移動ができている間はいいのですが、何かの原因で移動の流れが止まってしまっても、止まった部分から後ろの人は止まれません。
 次々に人が押し寄せて圧縮状態になり、動けなくなって窒息してしまったり、倒れる人の下敷きになった圧死したりします。
 学校などの避難訓練で「押さない」「走らない」「しゃべらない」「戻らない」をまとめて「おはしもを守ろう」という言われ方をされることがあります。
 避難に限らず、人が移動するときの速度は人それぞれで、同じような速さにはなりません。
 そのため早い移動速度の人が遅い移動速度の人にひっかかると、そこで詰まってしまいます。
 ここで早い人が遅い人にペースを合わせることができれば事故になりませんが、遅い人を押してしまうと、そこで転倒事故が発生してしまいます。
 避難の時だけではなく、移動時にも絶対に人を押さないこと。
 特に大勢の人が移動しているような場所では、群衆雪崩を引き起こさないためにも、前の人にあわせた動きをするようにしてください。