災害が起きて断水すると、多くの場所ではトイレが使えなくなります。
流すのに水が必要ないくみ取り式や、少量の水で済む簡易水洗であればともかく、充分な水の確保ができなければ原則としてトイレは使用禁止にせざるを得ません。
避難所の衛生環境が確保できるか否かの一番最初は、このトイレの問題となるのですが、多くの場合、運営者の手が回らずに、トイレの封鎖を行う前に汚物でてんこ盛りになっている状態になってしまいます。
現在の災害対策支援では、早ければ3日後くらいには仮設トイレが届き始めるそうなので、発災から3日後までのトイレをどうするのかという問題があります。
防災のワークショップなどではこのトイレづくりも取り上げられたりしていますが、実際に作るとなると、手間と時間、それに臭いの問題が発生してきます。
簡易トイレで出した汚物は、出した先のビニール袋に凝固剤や消臭剤を投入して口を縛り、燃えるゴミなどに出すことになりますが、時間の経過と共に腐敗して臭気がただよい、精神的にも衛生環境的にもよくありません。
また、できる限り小まめに汚物の回収を行わなければなりませんが、そういった作業をしたがらない人や、できない人も多くいます。
避難所での最優先課題はトイレだと思いますので、地震による下水管の破断や断水時のトイレの封鎖、簡易トイレの設営、使い方、汚物処理について、あらかじめしっかりと取り決めておく必要があります。
避難所だけでなく、あなたのおうちでも、自宅避難を行う場合に備えて、準備しておくことをお勧めします。
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避難所の安全確保
避難所を運営する上でもっとも気をつけないといけないことは、入居者の安全です。
生活空間なのですから、避難所にいる間はできるだけ気持ちを落ち着かせることのできるような空間作りを考えておく必要がありますが、そこで考えなくてはいけないことは「不審者対策」です。
この不審者というやつ、ちょっとした気分で発生するやっかいなもので、見知らぬ人であれ顔見知りであれ、あなたにとって不審者になり得るということを気に留めておいてください。
不審者対策で意識しておきたいのが、あらゆる場所の出入口です。
この出入口の善し悪しで、ある程度犯罪の発生は抑えることができます。
悪さをしようという気になっても、物理的にそれを阻止することで安心できる空間作りをするということですね。
例えば、避難所に立ち入るための出入口はできる限り一カ所に絞った方が目が届きます。情報掲示板や喫茶スペースなどを手近に作っておくことで、自然と人がここを通過するようにしておくと、常にたくさんの目がある状態になるので、外部からの不審者が入りにくくなります。
また、避難所内部でいうと男女のトイレは可能な限り離しておいてほうが安全です。
構造的に同じ場所に作らざるを得ない場合でも、出入口を可能な限り離すことで不審な動きをしている人をすぐに見つけることができます。
着替えや授乳などにスペースも、一般の避難者が出入りするような動線から外れたところに作ると、のぞきに行こうとする人への抑止効果が期待できます。
できるなら、パーテーションではなく、別に部屋を用意しておくと安心して着替えや授乳をすることができますし、それぞれの部屋には同性の管理者を常駐させておくと、より強力に内部の不審者を抑制することが可能です。
不審者はありとあらゆる隙をついて犯罪を犯そうとします。
可能な限り不審な行動にすぐ気づけるような避難所の配置にしておくことで、犯罪を抑止し、避難者の生活を守ることができるのです。
こういった対策は、災害後に運営しながらやろうとしてもかなり困難が生じます。
平時にしっかりと時間をかけて、安全な避難所の設計をしておくとよいのではないでしょうか。
避難所と避難場所
避難所と避難場所。一文字違いですが、内容はずいぶんと異なる性格を持っています。ただ、この二つ、普通の住民だけで無く、災害担当をしている行政職員でもごっちゃになっているケースがあり、ややこしい問題が大規模災害の後で毎回起きています。
では、この二つはどう違うのか。
避難場所は災害が発生しそうな状況から災害が収まるまで、自分の安全を確保するための場所です。場所と書かれているとおり、必ずしも施設の中というわけでは無く、公園や大きな駐車場、校庭といった場所もよく指定されています。
そして、避難所は、災害によって何らかの事情により生活を送るべき場所が失われてしまった人が新しい住居が見つかるまでの仮の生活空間として準備されるものです。
そのため、避難所は施設が指定されています。
ただ、避難所で生活するにはかなりの気力と体力が必要だということに、いい加減に気づいて欲しいと思います。
というのも、日本の避難所には基本的にプライバシーは無視されています。他人の視線を遮るような布や生活空間を仕切る段ボールがあったとしても、自分がほっとできる空間を作れているわけではありません。
最近の新型コロナウイルス感染症のおかげでようやく避難所内に家族で過ごせるようなテントが配備されるようになってきましたが、基本的には24時間自分の行動が誰かの目にさらされているということになります。
知らない人の目があるのに毎晩ぐっすりと眠れる人はそういないと思います。結果として、睡眠不足による活動量低下が起きてしまいます。
それから、食事の問題。
気力や体力を維持するためには温かな食事は必須なのですが、実際のところはおむすびや菓子パン、油ものたっぷりの配給弁当という冷たい食事のローテーションが行われていて、仮に避難所に台所があったとしても、食中毒を恐れて避難者に調理は一切させないというのが現実です。
せめてキッチンかーなり炊き出し班なりが毎食作ってくれれば良いのですが、資金、場所、資材、そしてさまざまな平時の法規がその手の活動を妨害しています。
「避難者に贅沢をさせると避難所から出て行かない」ということを言われる偉い人がいますが、避難者は誰も避難したくて避難しているわけではありません。
仕事がなくなったり、住む場所が再建できなかったりといった、事情を抱えて行き場のない人達が最後まで残るだけなのです。
自分だけの安心できる空間と睡眠、そして暖かでおいしい食事。これが的確に供給されれば、今のような避難所地獄は消えていくのではないかと思っています。
そうでなくても年をとると環境の変化に弱くなるのですから、気力や体力がきちんと維持されるような対策を平時にしっかりと行っておきたいですね。
【お知らせ】地域防災力強化の講演を見ることができます
一般財団法人日本防火・防災協会様の主催で、地域防災力の充実強化のための講演について、オンラインで見ることができますのでご紹介します。
日本防火・防災協会は毎年防災に関する講演会をやっているのですが、新型コロナウイルス感染症が流行していることから、今年度はオンラインでの開催になったようです。
講演の内容は自主防災組織や女性と災害史などさまざまですので、リンク先からあなたが聞いてみたい講演を選んで聞くのもよいのでは内かと思います。
詳細はリンク先をご覧下さい。
■地域防災力の充実強化のための講演(日本防火・防災協会のウェブサイトへ移動します)
災害とパニック
火災や緊急事態を題材にした映画やドラマでは、ほぼ100%パニックが起きる描写がされていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
試しに、大きな地震の場面、または大規模な火災に遭遇した人達を撮影した映像を探して見てみて下さい。
そこに映っているのは、パニックになって我先に逃げ出す人では無く、お互いに顔を見合わせたり状況を確認するために周囲を見回したりする人が殆どだと思います。言い方を変えると、ほぼ100%パニックは起きていないことがわかります。
個別には、出入り口に人が殺到したりすることはありますが、概ね落ち着いた雰囲気で避難を行っているものが殆どで、どちらかというと、その場で地震の感想やお互いの 安否確認が始まったりして、すぐに安全確保をしないことが問題になりそうです。
もちろん地震が起きると怖くて泣いてしまう人はいると思います。
ただ、それも全体から見るとごく少数。多くは冷静に状況を見ているか、もしくは茫然自失、あるいはちょっとした興奮状態になっています。
施設管理者や避難誘導担当は、パニックになるかもと情報を規制してしまうことが多いみたいですが、実際には正しい情報を伝えても案外と冷静な判断をしてくれるものです。
逆に正しい情報が与えられない方が混乱を生み出すことになると思います。
怖いのはパニックでは無くて情報不足による判断の停止ですので、パニックを本当に防ごうと考えているのであれば、積極的に正しい情報を提供することをお勧めします。
ちなみに、正しい情報というのは「現在は状況がわからない」というのも含みます。
今、施設管理者や避難誘導担当者が把握している情報はさまざまだと思いますが、憶測では無く現在把握できている範囲の情報をきちんと整理できるような、そういった訓練をしておくといいと思います
災害時に胸を張って助けてもらうには
災害が起きたとき、さまざまな理由から自分一人では自分の命を守ることができない人がいます。
そういった人達を災害死から守るため、災害時要支援者個別対応計画を策定する努力義務が災害対策基本法に明記されました。
法律に書かれていなかったとしても、可能な限り人の命は守られないといけませんが、災害時に助けてもらうのは抵抗があるという人もいると思います。
でも、災害時に自分一人で何とかしようとして結局命が失われると、さまざまな場所にそれが影響してきます。
助ける側はただ助かって欲しいと思って手をさしのべるので、助けてもらう人が卑屈になる必要はまったくないのですが、かといってふんぞり返ってもよくありません。
安心して助けてもらう、安心して助けることができる、そういった関係を作らないといけないのです。
では、どうすれば災害時に自分が胸を張って助けてもらうことができるのか。
まずは助けてもらう人は自分の命を何が何でも守るという意識を持つことです。
助けてくれる人はなんとかして助けようとしますが,助けてもらう側が助けることに抵抗すると、それだけで貴重な時間が失われてしまいます。
「死ぬ」という行為はその人の権利だとは思うのですが、原因が災害なのは駄目です。災害では死んではいけません。何が何でも助かって生き抜いて下さい。
次に、助けてもらう人が自分にできることを自分でやることです。自分にできない部分を助けてもらうのです。
例えば、歩けない人でも家の中で移動して玄関口までは出られるかもしれません。それなら、助ける人に玄関まで迎えに来てもらえばいいので、お互いに時間を無駄にしなくて済みます。
助ける人は何を助けて欲しいのかがわかりません。だから、助けてもらう側が助けて欲しいことをきちんと伝えないと、一から十まで助ける人がすることになります。
もしも自分で何もできないことがわかっていれば、助ける人を増やすとか、来てもらう優先度を上げてもらうとか、やりようはいろいろとありますので、できることとできないこと、やってほしいことをきちんと助けてくれる人に伝えておきましょう。
助ける人に段取りがあることはみんなわかっていると思いますが、助けられる側こそ事前の段取りをしっかりとしておく必要があるのです。
避難口の表示の有無
避難口や避難経路を示す誘導灯。
いざというときにあなたが屋外に逃げ出すのを手助けしてくれる大切なものですが、この誘導灯、ある場所とない場所があることをご存じですか。
例えば、大きなホテルには必ずついていますが普通のおうちで見ることはあまりないと思います。
この誘導灯は火災などの非常事態が発生したとき、その場にいる人を安全に屋外へ誘導するための装置です。
誘導灯は避難口誘導灯、通路誘導灯、階段通路誘導灯、そして映画館などでよく見る客席誘導灯があり、それぞれに設置基準が作られています。
今回は避難口誘導灯と通路誘導灯に絞って考えてみたいと思います。
1.避難口誘導灯
避難口誘導灯はその場所から外部に通じる扉や開口部に設置されているもので、避難すべき出口を表していて、基本的には緑地に白色の開口部が描かれています。
不特定多数の人が利用する場所では100㎡以上、また、特定の人が使う場合でも400㎡を超える部屋の場合には設置する必要があります。
どこからでも目立つように高い位置についていて、誘導音が出るタイプのものもあります。
2.通路誘導灯
通路誘導灯はいまいる場所から避難口がどこにあるのかを指し示すための誘導灯で不特定多数の人が利用する施設の場合には、この表示が見えないところを作ってはいけないことになっています。
また、停電時にも消えることがないように、照明を維持するためのバッテリーがセットされていて、最低20分は点灯するようになっています。
白地に緑で避難方向を示す矢印と避難口のマークが書かれています。場所によっては文字で「避難口」や「非常口」と書かれているものもあります。
煙に紛れてもしっかり見えるように床や壁の低い位置につけられていることが多いです。
この基準を満たしていない場合には、避難口誘導灯や通路誘導灯をつけなくてもいいということになります。
そこに普段から住んでいれば、どこに出入口があるのかはわかっているでしょうし、出入口が目視できる場所であるなら、わざわざ誘導灯がなくてもたどり着けるだろうということです。
普段あまり意識していないと思いますが、知っておくと何かの役に立つかもしれませんので、出かけた場所で確認してみてください。
窓ガラスとカーテン
窓ガラスからの光などを遮るために、カーテンやブラインドなどが設置されているおうちは多いのではないでしょうか。
地震や台風などで窓ガラスが割れたとき、破片が室内に飛び散らないように、できるだけ窓の室内側にはカーテンやブラインドなどをしめておいたほうが安心です。
採光が気になるようなら、レースカーテンやブラインドの波根の角度の調整などをとり、ガラス単体で居住空間に面することがないようにしておいてください。
もちろん、窓に飛散防止フィルムも貼ることも重要です。
断熱フィルムや遮光フィルムでは、ガラスの飛散防止に充分な効果は得られませんので、貼るときには注意が必要です。
予算が無かったり、採光がどうしても欲しいという方は、大きめのビニールハウス用シートなどを窓ガラスの室内側に天井から一枚垂らしておくとよいとも思います。
地震や台風などで起きる怪我のうち、ガラスによる怪我というのは割とよく発生するようです。
怪我をすると動きが取れなくなることもありますので、窓ガラスの飛散防止対策については気をつけておいて欲しいです。
まず上を見る
あなたのお出かけ先で地震が起きたとき、あなたはまず何をしますか。
建物外に逃げ出すとか、その場でダンゴムシのポーズをとるとか、柱のそばによるとか、人によっていろいろだと思います。
また、あなたがいる場所がどんなところなのかによっても変わってきます。
一つだけ共通して言えるのは、まずは上を確認するということです。
地震の際に危険ものはいろいろとありますが、もっとも危険なものは上からの落下物です。高さがあるところからの落下物に直撃されると、場合によっては死んでしまうこともありますので、まずは頭上の安全を確認して下さい。
まずければ、揺れていても少しでも安全な場所に移動しなければ危険です。
逆に頭上に何も無ければ左右の安全を確認し、それでも大丈夫なら危険はかなり少ないと言えます。
避難訓練で防災ずきんやヘルメットを被るのは、それだけ頭上から落ちてくるものが驚異ということですので、まずは頭上の確認を行います。
気持ちに余裕があるようなら、移動しながら頭上の確認をするくせをつけておくと、いざというときの動きが早くできます。
身を守る行動といういわれ方をしますが、その一番最初は頭上の安全確認。
これを覚えておいて欲しいと思います。
マニュアルとパクリ
学校や施設には必ず災害対応マニュアルが備え付けられているはずですが、そこにお勤めの方でそれを読んだことがある人はどれくらいいるでしょうか。
マニュアルというのは、作業手引きのことですから、読んで中身が理解できるようになっていないと役に立ちません。
ところが、作られたマニュアルを見ると、本当にこれで大丈夫なのかと思うものもたくさんあります。
とあるところでは、なぜ災害対応マニュアルが必要なのかということや、作成した意義などが延々と書かれているのに、実働の部分では『管理者が判断する』としか書かれていないものがありました。
確かに最終判断や起きたことの責任は管理者が行うべき性格のものですが、得てして管理者不在のときに災害対応マニュアルを見たいといけないような大きな出来事が起きたりします。
災害対応マニュアルは「誰が」「どのタイミングで」「何を」判断し、「どこまで」「どのように行動するのか」について、誰が責任者になったとしても判断が可能なものを作っておかないと意味がないことになります。
また、非常に良くできているマニュアルもあったのですが、その施設には無いはずの高層階からの避難手順が記載されていて、どこからか内容を拝借してきたのだなとわかることもありました。
パクることは著作権法で定める範囲を守る限りはまったく問題ありません。
よいものはりどんどんまねるべきですし、そうすることでより現実的なマニュアルが整備できます。
ただ、パクった中身はしっかりと確認しておかないと自分のところとは合わない場所が必ず出てきますし、いざ本番でトラブルになるのも、そういったところだったりします。
マニュアルは現実の行動に即して作成し、パクったら中身を必ず自分のところにあわせてカスタマイズすること。
そして、出来上がったら実際にそのとおり行動してみることで、マニュアルにあるもの、ないもの、追加記入がいるもの、削除すべきものが次々に出てきます。
防災訓練を経て、災害対応マニュアルをより実戦に即した形にしていくことが大切なのです。
どこから拝借してきてもいいのですが、それをそのまま使ってお茶を濁すのでは無く、自分のところにあった内容に書き換えていく手間は惜しまないようにしてほしいと思います。