災害対策は「早く手を打つこと」が基本です。

 災害対策は、何事も「早く手を打つこと」が基本です。災害が発生してから起こるさまざまな問題は、時間が経っていくとどんどん増えていきます。
 ですが、問題が発生した時点、もっと言えば問題が発生する前に対処しておけば、問題を一つ消すことができてそれに投入しなくてはならない力を他のことに振り分けることができます。
 例えば、大地震が起きたと想定します。そこで発生するのは倒壊した家屋、多くのけが人、火災で、これらに対応するのは全て消防となります。地域の消防力はそんなに多くありませんから、これに全部対応しようとすると手が回らずに全てを中途半端にするか、または心を鬼にして最優先事項以外の全てを切り捨てるかということになるでしょう。現に阪神淡路大震災では、消防力の不足からそのような事態になりました。
 でも、全ての家屋が耐震補強され倒壊しなければ、また、家具の固定やガラスの飛散防止などの対策がしてあれば、緊急に救助を要する人の数は格段に減らすことができますし、各家庭に消火器が備えてあってそれをきちんと使うことができていれば、発生する火災の件数もぐっと減らせるはずです。そうなれば、消防はそれでも必要とされる怪我や火災にのみ対応すればよくなりますから、誰も何もしていない状態よりもずっと手早く確実に仕事をこなせます。
 病院などで問題になるのは電気と水ですが、例えば水は井戸からくみ上げて浄水できるようにしておき、電気は自家発電機だけでなく、太陽光発電システムや蓄電池などを併用することで、電気や水がないことにより起きうる病院の受け入れ中止を防ぐことができます。電気や水の復旧は年々遅れる傾向にありますから、場合によっては普段から敷地内で発電したものを使うようにしてもいいのかもしれません。
 また、普通の人たちも家庭や職場、学校に非常用持ち出し袋が置いてあれば、それをもって避難すればいいので、当座の水や食料、衣類やトイレなどの心配はしなくてもすみますし、さまざまなものを持っている人と持っていない人の間で発生するであろういざこざも防ぐことが可能です。
 こんな風に、起きる前に手を打っておくことで、そこから発生するであろうさまざまなリスクを消滅あるいは軽減することが可能になり、発生するさまざまな問題を少なくすることが可能になります。
 ここまでお話ししてきたのは事前準備になりますが、発災後に問題が起きたときも、放置せずすぐに対応できればそれ以上問題が大きくなりません。
 例えば、避難所のトイレが閉鎖前に使われてしまって汚物で汚染されていたとして、その場で掃除して消毒した上で閉鎖すれば、その後トイレが汚染源になって発生するさまざまな問題を防ぐことができます。照明についても、生活リズムが異なる人たちが一緒に生活すると明るい暗いというトラブルが必ず起きます。そのとき、それを放置せずに同じような就寝リズムの人たちで部屋や場所をまとめて照明を調整するようにすれば、そこから発生する睡眠不足やさまざまな病気、トラブルを避けることができるでしょう。
 災害に限らないことですが、問題を先送りすると大概の場合にはさらに問題が大きく深刻化するものです。物理的に解決できないことは仕方がありませんが、工夫ややり方で解決できることはその場で解決してしまうこと。そうすれば、その先に広がるさまざまな問題の発生を防ぐことができます。それに対処するため、予測できることをあらかじめ準備しておくのが「BCP」といわれる「事業継続化計画」で、これがあるのとないのでは災害が発生した後の対応が驚くほど違います。
 作るのは事業に限りません。家庭でも、学校でも、あなた自身でも、自分が被災してから復旧するまでの計画を一度きちんと作ってみてください。そうすることで、本当に災害が起きたとき、驚くほど早く日常を取り戻すことができると思いますよ。

防災面から見たインフルエンザ予防接種

 インフルエンザの流行期に入ったというニュース(リンク先:NHKニュース)を聞きました。去年よりもちょっと早いかなと言う感じですが、あなたは予防接種は済ませていますか。いろいろ言われている予防接種ですが、しないよりはしておいた方がいいのは確実なので、ワクチンがあるうちに摂取することをお勧めします。
 インフルエンザに限らず、人から人へうつる感染症は予防接種のできるものはできるだけやっておいた方が安心です。副作用の問題があるのは確かなのですが、災害後に地域の医療体制が崩壊している中で感染症にかかったときの悲惨さは想像したくないですから、副作用よりは万が一の安心を取りたいと考えます。
 さまざまな災害で避難所が開設されるとさまざまな人がそこへ避難してきます。たくさんの人が狭い衛生的とは言えない環境の中で一緒に過ごすのですから、一人がひどい感染症にかかるとあっという間に避難所全体が汚染されてしまうことはご理解いただけると思います。
 平時にそれなりに衛生的な環境であっても学校や職場ではやるのがインフルエンザ。もしかかると、薬の投与と充分な栄養と睡眠が必要なのですが、被災した地域の避難所で、それがきちんと確保できるでしょうか。過去にインフルエンザが流行した避難所では、感染した人を別室に隔離したそうですが、隔離されるとろくな看病もしてもらえず、食べ物やトイレにも事欠く状態になってしまいます。
 インフルエンザについては厚生労働省のホームページ「インフルエンザQ&A」に詳しい説明が載っていますのでここで細かいことは書きませんが、人との接触が避けられない場所である以上、感染しても体の免疫で防げるようにしておくことがとても大切なことになります。
 これから来年春までの間インフルエンザの流行は続くのではないかと思いますし、予防接種したからインフルエンザにかからないというものでもないのですが、自分が感染源にならないためにできる手立ての一つとして予防接種をするようにしてください。
 ちなみにワクチンは接種から4~6週間でもっとも免疫力が増すと言われていますので、今から摂取すると年末には効果がしっかりと出ていることになります。
 何事もないことが一番いいのですが、万が一に備えた準備をしておくことをお勧めします。

訓練はうそをつかない

 以前に子どもの絵本を読んでいたとき、東京消防庁の標語の一つとして「訓練はうそをつかない」という言葉があることを知りました。
 そのとき「なるほどな」と思ったのですが、経験していないことや想定していないことをいきなりやれと言われても、なかなかできるものではありません。
でも、さまざまな想定を考えてそれに対処する方法を決め確実にできるための訓練をしていれば、いざというときでも想定したことが起きるだけなので、慌てず粛々と対応をすることが可能です。
 最近はさまざまな単位で防災訓練が行われていますが、お仕着せの訓練ではなく、地域でしっかりとした防災計画を持ち意識を持った防災訓練をおこなっているところは、さまざまな被害が出るとしても人的被害は限りなく0に近い数値になっている気がしています。
 訓練参加者がどこまで真剣に考えているかという問題はありますが、少なくとも参加することで流れを知り覚えることはできます。安全な避難先まで時間がどれ位かかって、途中どんな障害があってどういった対応をすればいいのかといったことは現地を知らなければ考えることはできませんが、訓練に参加することで問題点を理解しやすくなり、対応も考えやすくなります。そして訓練の時にさまざまなことを考えて修正を加えていくことで、災害本番の時の生存確率はどんどん上げることができます。
「訓練はうそをつかない」
 お散歩に出る前に最寄りの避難所を調べ、避難経路を作り、天気のいい日にお散歩の一環として一度歩いてみる。これは立派な避難訓練です。できれば複数の避難所まで歩いて、かかる時間や問題点を知っておくだけでも全然違います。
 一人でも家族でも友人とでも地域でも、簡単なものでよいので防災訓練を習慣化しておくことをお勧めします。

医療行為と常備薬

 大規模な災害が発生すると水が手に入りにくくなります。
 そのため、大量のきれいな水を必要とする医療行為は規模縮小や閉鎖を余儀なくされてしまうことがあり、例えば透析を受けている人などは透析が受けられなくて困ったことになり、命に関わる問題が起きますので、平常時にかかりつけのお医者様と非常時の対応についてきちんと詰めておくことをおすすめします。
 また、常備薬の必要な方もいますが、これも災害時にはなかなか手に入らないものになりますので、1週間分くらいは手元に置くことをかかりつけのお医者様に相談されておくといいと思います。災害後の支援物資として送られてくるものの中には薬もあるのですが、基本的には誰でも使えるようなものに限定されますし、特殊な薬や種類が多くなると、手に入らないものも増えてきます。
 状況が落ち着いてくると災害派遣医療チームが避難所などに入ってきて簡単な診察などの医療行為をしてくれるわけですが、普段のかかりつけのお医者様ではありませんので、「いつもの薬」といっても全く通じません。薬の名前を覚えているといいのですが、自分の症状は言えても使っている薬の名前までは言えないものです。そこでお薬手帳の登場です。
 お薬手帳は飲んでいる薬の種類や分量がわかるように書かれたもので、これがあると災害派遣医療チームのスタッフも対応が早く確実になります。自分の命を守るためにも、お薬手帳またはそのコピーを非常用持ち出し袋や普段の鞄にいれておくことをお勧めします。
 余談ですが、お薬手帳は一人一冊です。医療機関ごとや薬局ごとに作るのではありませんのでご注意ください。
 あとは、自分の病気にはどのレベルの医療行為が必要なのかをきちんと把握しておくことです。特殊な設備や頻繁に交換の必要なものがある人などは、かかりつけの病院の再開を待っているわけにいきませんので、被害にあっていない場所まで避難して医療行為を継続する必要があるでしょう。
 寝たきりや、支援がいる人も、できれば被災地区外まで避難した方が手厚い介護が受けられると思います。
 被災した場所には、通常の生活はありません。
 支援が必要な方は、支援が受けられる場所まで移動する。それによって自分が生き残る確率も上がりますし、被災地でひどい目にあうこともありません。
 何事も起きていないときだからこそ、非常時の段取りについて決めておく必要があるのです。

自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。

防災グッズを揃える優先順位

 立て続く災害のせいか、防災グッズや災害対策の本や特集を見かけることが増えているような気がしますが、これらの記事を見ていくと、さまざまなものが取り上げられていて、全部揃えようなどと思えないような金額に積み上がってしまうこともしばしば。「防災グッズを揃えたいけれど、何から準備したものやら・・・」と途方に暮れてしまうことも起きてしまいます。
 当研究所で「防災グッズ、何から準備をすべきか」ということを聞かれたとしたら、まずは「絶対に必要なものの備蓄を増やす」ことから始めてほしいと思います。
 例えば、紙おむつや生理用品、常備薬、眼鏡やコンタクトレンズ、アレルギー対応のあれこれなど、各家庭、各個人で絶対に必要なものの種類は変わってきますが「絶対にないと困るもの」はないと困るのですから、ある程度の補給が期待できるまでの物資は備蓄しておく必要があると思うからです。また、自動車の燃料であるガソリンもないと困るものの代表格です。
 当研究所の記事もそうなのですが、防災関係の記事では代替手段や代替品の紹介をすることが非常に多いです。
 そのため、代替品があればなんとかなると考えてしまいがちなのですが、防災関係の記事の大前提は「絶対に必要なものは前もって準備しておくこと」です。
 例えば、おむつでよく紹介されるのはビニール袋とタオルを使った代替品ですが、実際にこれを使うとなると、赤ちゃんのおしりが蒸れてしまったり、交換用のタオルが大量に必要になったりと、紙おむつを準備しておいた方が楽だったというような結果になってしまいます。
 また、赤ちゃん用ミルクでは、味によっては赤ちゃんがいやがって飲まないという場合もあるでしょう。ですが、行政が手配して届いた赤ちゃん用ミルクがあなたの赤ちゃんが嫌がっているミルクだとしたら、どうしますか?
 無理矢理飲ませようとして赤ちゃんとあなたが疲労困憊するよりも、普段使っているものが準備してあれば、ミルクの問題により発生するあれこれを気にしなくてもすみます。余談ですが、母乳の場合でもショックやストレスで一時的に母乳が出なくなることもありますので、折に触れて赤ちゃんが飲める赤ちゃん用ミルクを見つけて慣らしておいたほうが安心です。
 生理用品も全く同じで、災害が起きたことによるショックで生理が始まってしまうこともあるようですから、自分の普段使っている生理用品を1周期分は用意しておくと、これも安心です。
 長袖シャツとキッチンペーパーなどで代替品を作るというような記事もあるのですが、普段でさえ、少しデリケートな方は合わない生理用品でかぶれたりすることもあるようですから、いっそう衛生的な環境を意識する必要のある災害時には、提案されている代替品は正直なところ現実的ではないと思います。
 今書いてきたような代替品は、別に嫌がらせやネタとして考えられたわけではなく、どちらかというと「どうにもならない状態なのでないよりはまし」という前提で考えられた代替品ですので、それを作ればいいんだから安心とは、絶対に思わないようにしましょう。
 また、常備薬として普段から飲んでいる薬がある人は、その薬はなくなると困るはずです。これは他のもので代替が効くものではありませんから、絶対に必要なものの最右翼と言えるでしょう。
 日々の生活の中では、他に代替の効かないものや、代替品を作るまたは維持することによって他に発生する数々の問題が生じてしまうものは、できるだけ必要なものそのものを用意しておきます。そのことによって、そうでなくてもさまざまなストレスにさらされてしまう災害後の生活でよけいなストレスをため込まなくてすみます。
 さまざまな防災用のあれこれを準備するときには、まず最初に自分の日々の生活の中で使うもののうち、「絶対に必要でないと困るもの」を最優先で多めに備蓄していくと間違いがないと思います。

防災から見た「衣・食・住」

 衣食住は人の生活の根幹を支えているものだといってもいいと思います。
 一般的には「着る物」「食べるもの」「住む場所」を揃えることが大切とされているようですが、これを防災という視点で見てみたら、思ったよりも面白いなと思えるようになりました。

 まずは「衣」。
 これは文字通り「着る物」のことなのですが、防災の視点で見ると「適切な体温調節」という風に考えることもできます。冬場にTシャツと短パンで屋外へ放り出されたら寒くて仕方ないでしょうし、逆に夏場にコートやセーターしか着替えが無ければこれまたつらいと思います。
 季節に応じて防災セットに備える服も衣替えをしていく必要があるなと考えました。 薄手の長袖シャツやズボンを重ね着すれば季節に関係なく対応ができるかなとも考えたりしましたが、いずれにしても適切な衣類がないと体温調節が難しくなることから、これは大切な視点だと思います。


 次は「食」。
 「食」=「食べ物」と言われるものですが、防災の視点では、これは「食べ物・飲み物・排泄」を含めた一連の流れを考える必要があります。
 「排泄」が追加されているのは、出さなければ食べられなくなるためで、例えばトイレなどがうまく流せずに汚物まみれになった避難所では、不衛生なのと同時に食事や水分摂取を制限することによるさまざまな体調不良が発生していました。
 防災においての食はまず「排泄」を考え、次に「飲み物」、そして「食べ物」をどうするか考えていきます。
 この順番は人が生きるために我慢できなくなる順番に並べたもので、排泄は「出物腫れ物所嫌わず」と言われるくらい我慢できないものですし、水分補給が途絶えると、3日以上の生命維持はかなり困難なものになります。食事は1~2週間は摂らなくても体に蓄えられたものを分解して生命維持を行えるため、この順番で準備しておくのが得策です。
 今までは3日~1週間分を用意しておくような話が出ていましたが、都会地が大規模に被災したときには状況が落ち着くまでに2~3週間はかかりそうだという話も出始めていますので、災害時に自宅避難を行う方は、自宅のトイレの構造を考えた上で、準備しておくようにします。同様に水や食料も再検討しておきましょう。

 最後は「住」。
 これは住むための家をさすのですが、防災的に見ると「安心できる場所」という風に考えられます。
 避難所で生活していても、そこで安心した生活が営めないのであれば、これは住環境が満たされていないと判断できるのではないでしょうか。
 自分や家族が安心できる環境はどのようなものか、それはどのようにしたら確保できるのかについて考えておくことが必要です。
 災害で被災したからといって、指定避難所で生活しないといけないというわけではありませんので、自分や家族が安心できる場所を見つけるようにしましょう。

 防災での「衣食住」は、被災後に落ち着いて生活するための基準と考えてもいいかなと感じます。

 また「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあります。これは衣服、食事が満たされて初めて礼儀を知ることができるのだといった意味合いですが、これは避難後にも言えることです。
 衣食住と同じ定義で考えれば、衣類は体温調節がうまくできるものとなりますが、この場合には下着類も含めた適切な着替えと考えます。
 災害により身一つで逃げ出した人は着たきりになりますので、それだけでもげんなりしてきます。着替えが一セットあるだけで、服や下着を洗濯することが出来、さっぱりとした気持ちで前向きになれるのではないかと思います。
 また、この場合の「食」は命を繋ぐだけでなく、生きる気力を生み出すためのものでないといけません。
 具体的には、暖かく、自分が食べ慣れた食事をいかに確保していくのかということを考えていくということです。
 過去の事例でいけば、阪神淡路大震災では、送られてきた支援物資の衣服を取り合ったという話もありましたし、東日本大震災や熊本地震で避難所で配られる弁当は食中毒を配慮して冷たいか、ひどいときには凍っているような、味の濃い、油ものの多い弁当になり、その結果、その弁当が食べられない人が体調を崩してしまうようなことも頻発してした。

 発災後には「生活再建」と言うことが声高に言われますが、まずはそれぞれの体と気持ちを身近なところから通常生活に戻していかないと、生活再建という視点にまでたどり着くことが難しいと思います。

 被災した人が生活を取り戻すためにはどういった道筋をつけていけばいいのか、特に高齢者や日常生活で支援を必要とする人たちがどうやったら前向きになることができるのかを、こういった視点で整理していくことができないのかなと考えます。

救急セットの作り方

 今日は9月9日、救急の日です。
 災害時、警察、消防、救急には救助の電話が殺到しますが、いずれの機関も人数には限度があるため、緊急性の高い案件から対応していきます。
 特に救急は、対応する救急車の台数も限られており、医療機関も重傷者優先対応になりますので、ちょっとしたけがは後回し、もしくは対応してもらえません。
 ですが、怪我した本人からしてみたら、痛いですしそのままにしておくと状況が悪化する可能性もありますので、できる範囲は手持ちの道具を使い、自分で救急措置をすると考えた方が間違いないですし、精神衛生上もいいと思います。
 とりあえず自分で処置しておいて、状況が落ち着いてから医療機関であらためて手当てしてもらうようにすることで、医療機関は重傷者対応に集中できるので、救える命が増えます。
非常用持ち出し袋や災害用備蓄品のチェックリストには必ず「救急セット」が入っているのは、可能な限り応急処置は自分でする必要があるために組み込まれているのですが、救急セットの中身について考えたことがありますか?
 今回は、みんな必要性は認識しているけれどどうやって作ったものか悩んでしまう救急セットの作り方について考えてみたいと思います。

1.救急セットの意味

 本文でも触れましたが、軽傷者をなるべく早く的確に措置することで怪我の悪化を防ぐとともに、医療機関への負担をかけないために用意するものです。
 災害時には怪我をしないことが大原則ですが、それでも切ったり擦ったり折れたりということは起こりうるものですから、それに備えて準備しておきましょう。

2.救急セットの中身

救急セット
防災用の救急セットもいろいろとあるが、完璧なものは無いので、結局自分でいろいろと買い足すことになる。

 救急セットに必要なものは、大きく分けると二種類あります。
 一つが被災してすぐに使う外傷対応に使うもの。
 もう一つは、避難が長期化したときに必要な常備薬やビタミン剤といった内服薬です。
 とはいえ、持ち歩くアイテムと分量は考えないとそれだけで非常用持ち出し袋の中が一杯になってしまうので、どうしても必要となるであろうものを準備します。

1)外傷対応

 まずは絆創膏です。いろいろな種類がありますので、二種類用意します。
 一つは普通にカットバンと呼ばれているもので、指に巻くタイプが数枚あればいいと思います。
 もう一つはハイドロコロイド素材のもの。キズパワーパットと書く方が通りがいいかもしれませんが、これのコロイド面が大きいものを数枚準備します。ハイドロコロイド素材だけのシートもありますので、面の大きいシートを一枚用意して、体には包帯やテープで貼り付けるという方法でもいいかもしれません。
 用途ですが、カットバンは切り傷用。ハイドロコロイド素材のものは擦り傷や深い傷に使います。
 次は滅菌ガーゼと包帯。これは数枚あればいいです。止血に使います。
 「目薬」。埃などが入ったときに差して目を守るのに使います。
 あとは「三角巾」が一枚。これがあると、包帯、止血帯、ガーゼなどいろいろな働きをしてくれます。
 そして、はさみ、毛抜き、ピンセット、使い捨て滅菌手袋といった医療器具も一緒にしておきます。
 また、使い道がいろいろとあるのでマスクと消毒用アルコールがあると助かります。

包帯と止血帯の機能を併せ持っているイスラエルバンテージ。
通販で取るのが早いが。割とお勧め。

2)内服薬

 まず絶対に忘れてはいけないのが持病の薬です。
 通常は必要とされる日数分しか処方されませんが、救急セットを作る目的をかかりつけのお医者様に伝えると、数日分多めにもらえることがありますので、差分を救急セットにいれ、新しい薬をもらうたびに入れ替えておけば、いざというときに持病の薬がないという騒ぎを防ぐことができます。
 次が「ビタミン剤」。市販されている総合ビタミン剤のようなものがあれば充分です。
 それから「整腸剤」くらいがあればいいと思いますが、季節によっては「総合感冒薬」などをセットしておいたほうがいいかもしれません。
 あとは「水」ですが、これは救急パックではなく、普通に非常用持ち出し袋に入っていると考えて、ここでは割愛します。

お薬手帳の表紙
お薬手帳も忘れずに持って逃げよう。最近は「e-お薬手帳」などのアプリもある。

 これらをパッキングすると、そんなに大きくない袋に収めることができます。
 市販の防災用救急セットにはもっといろいろと入っており、もっとさまざまな怪我や病気に対応できるようにはなっていますが、最低上記のものがあれば大概のことはなんとかなると思います。
 どちらかというと、問題になるのは救急セットに何を入れるかよりも、あなたが何を使えるか、ということです。
 例えば、海外から輸入される軍用救急セットには、コンパクトでより多くの資機材が詰められており、状況によってはその場で簡単な手術ができるくらいに充実したものもあります。
 ですが、それらの優秀なアイテムも使い方を知らなければ単なる重しにしかなりません。
 それよりは、自分が使い方をよく知っているもので救急セットを構成し、いざというときに迷わずに中の資機材が使えるように習熟しておいた方がいいと考えます。
 毎回触れていますが、ものを揃えればよしではなく、それを何も見なくても使えるくらいに練習しておくことが大切です。特に怪我に使う道具は、暇を見て使い方を確認しておかないと本当に必要なときに大慌てすることになりかねません。
 せっかく揃えるのですから、箱から出して使ってみて、使い勝手を確認するようにしてくださいね。

被災者の心理について考える

 「災害」というのは非常事態ですが、被災後のあれこれは日常生活に組み込まれていきます。
 災害が起きてから完全復旧するまでにどのような精神状態になってくるのかについて、今日は考えてみたいと思います。

1.被災直後

 災害で自分はどうなってしまうのかという不安が中心です。
 自分の安全が確保されると、家族や友人、近所の人の安否、そして自分の財産、地域の状態という風に、安全が確保されて行くにしたがって意識が広がっていきます。
 連絡の取れない人や、残念ながら亡くなってしまった方がいるような場合だと、多くの人の意識はそこで止まってしまいます。

2.被災してから1週間程度まで

 自分や家族の命を繋いでいくことや、家の片付けなどに追われます。
 なんでも自分でやらなければと言う意識になったり、災害をなかったことにする逃避行動などが見られるようになるのはこの時期からです。
 これからどうするのか、どうしたらいいのかという将来に向けての不安が出てくるのもこの時期からで、日頃抱えていたさまざまな人間関係が一気に噴き出してきたり、漠然とした不安から暴力行為、性犯罪などが増える時期でもあります。

3.被災後1週間以降3週間目くらいまで

 被害の小さかった人と被害の大きかった人の差が出てくる時期です。
 被害の小さかった人は、家の復旧が終わって今後の見通しを考え始め、被害の大きかった人は自分の生活再建についてどのようにしたらいいのかについて考えていますが、高齢者や生活に支援が必要な方は、このあたりで将来に絶望を感じ始める人も出てきます。
 被災者の心身の疲れが出てくるのもこの頃からですので、心理的なケアも必要となってきます。

4,被災後3週間から半年

 被災者は自分の生活再建で手一杯になってきます。
 避難所に残っているのは、生活復旧の目処の立たない人が殆どになり、避難所の統合による再三の引っ越しや移動、見えない将来と破壊された日常など、被災時から積もってきた疲れと不安、そして不満と絶望から感情的になったり、逆に無気力になったりします。

5.被災後半年から一年

 話題に取り上げられることも少なくなり、良くも悪くも日常が戻ってきます。
 ただ、ここまでで以前の生活に戻れなかった人や他人との接触に疲れてしまった人は、やがて社会との接触を断っていくことになります。
 このあたりでこれ以降の生活が固定することが多くなるようです。

 人によってとらえ方や感じ方は異なると思いますが、以上が筆者が個人的に感じている被災者の様子です。
 被災してからしばらくは、気が張っていますし「みんなで復旧・復興するんだ!」という空気に流されて元気でいられることが多いのですが、日常生活は結局それぞれの被災者個人で取り戻していくことになるため、取り戻す方法を手に入れた人と手に入れられていない人では時間が経過するに従って格差が生じることになります。
 この格差が孤独感を生み出し、やがて孤独死に繋がっていくのでは無いかと思います。
 格差を作り出さないためには、「日常生活の復旧」に加えて「社会的な存在意義の確保」という視点からの支援が必要となるのでは無いでしょうか。
 自分の日常生活が戻ってきて、社会的にも必要とされている状態を作り出すことで、本人も生きていく気力が出てきますし、孤独死を防ぐことも可能です。
 別に大上段に構える必要はないと思います。朝、道路に出てもらって、行き交う人に「おはよう」のあいさつをしてもらうだけでもいい。それだけで生活に張りが出ます。
 ちょっとした社会との関わりを持ち続けることを作るような支援も行っていく必要があるのかなと感じています。

熱中症対策で摂る飲み物あれこれ

 熱中症対策と言うことで、毎年夏はさまざまな飲み物が飲むべきとか飲まない方がいいとか言われ、同じ飲み物でも評価が分かれることがあります。
 もうそろそろ夏も終わると思いたいのですが、今回は熱中症対策で誰がどんな飲み物を飲むべきなのかと言うことについて考えてみたいと思います。

1.スポーツドリンク

 ポカリスエットやアクエリアスと言ったスポーツドリンクは、熱中症対策としてまずあげられる飲み物ですが飲むべきという人と飲むなと言う人がいる飲み物でもあります。
 浸透圧が調整されているため体に吸収されやすく、水分だけで無く他に体に必要な塩分や糖分といったものも入っているので熱中症対策としては一番手近で一番飲みやすい飲み物です。
 問題になっているのは、その糖分です。元々スポーツドリンクですので、運動している人に必要とされる糖分がしっかりと入っています。そのため、体を動かさない人が多量に飲むと、糖分の過剰摂取が起こってしまうのです。
 糖分の過剰摂取が起きると吐き気や腹痛、意識がもうろうとしたりするペットボトル症候群になるのですが、これを熱中症の症状と勘違いしてさらにスポーツドリンクをがぶ飲みし、救急搬送されてしまったケースもあるようですので、炎天下で大汗を流して仕事をする方や走り回っている人には向いていますが、屋内の冷房の効いたところで飲む場合には、あまり向いているとは言えません。

2.経口補水液

 割と最近登場したスポーツドリンクよりも糖分を押さえ、ナトリウム分などの電解質が強化された飲み物です。
 元々下痢や嘔吐、発熱と言った病気に伴う脱水症状に対して使われているため医師の指導の下で使用するようになっている製品もありますが、そうでないものもあってちょっとややこしいです。
 医療用のものがあるくらいなので、正しく使えば非常に効果的。ポイントはちょっとずつ定期的に飲むことです。
 最も、経口補水液を口にしたときにこれがおいしく感じる状態であれば、軽度の自覚の無い脱水症状を起こしていることが考えられますので多めに飲むことをお勧めします。
 スポーツドリンクとは逆に、炎天下で激しい活動をしている人には糖分が不足しているので向きませんが、屋内の冷房の効いたところでの水分補給には非常に向いた飲み物です。
 市販品も多いですが、「水・1リットル、砂糖・40g、塩・3gを合わせてかき混ぜる」と経口補水液を手作りすることもできます。

3.麦茶

 夏場の飲み物の代表格というとこの麦茶です。割と最近までは「麦湯」と呼ばれていて夏場の滋養によいと飲まれていました。麦茶の原料は大麦で、体温を下げる働きがあることが知られています。
 塩分以外のミネラル分が豊富ですが、塩分と糖分が不足しており、今はどうかわかりませんが、30年前の運動部などではこの麦茶に塩をひとつまみ加えたものが定番アイテムとなっており、糖分を補うためにはレモンや梅干しのハチミツ漬けがよく出てきていました。
 安価で飲み過ぎても体調を崩さずに済むという点では安心して飲むことができ、誰でも安心して利用することが可能です。

4.水

水分のみ補充することができます。安心して飲むことができますが、飲み過ぎると下痢したりします。塩分やミネラル分、糖分といったものを何らかの形で補う必要がありそうですが、塩分飴などが摂取できれば、水で充分という考え方もできます。

5.ビール、コーヒー、紅茶、日本茶

 これらの飲み物は脱水症状を助長します。ビールはアルコール、コーヒー等はカフェインに利水作用がありますので、いくら飲んでも脱水症状がひどくなるだけです。よく「最初の一杯をおいしくするために汗をかいて水分は摂らない」という飲んべえの猛者がいらっしゃいますが、下手するとビールにありつく前に倒れますし、ビールを飲んでも体の脱水症状を助長するだけですのでお勧めはしません。

6.清涼飲料水

 さまざまなものが発売されていますが、いずれも糖分過多です。飲み過ぎるとペットボトル症候群になる確率が高いですし、乾きが満たされることもありませんので、熱中症対策としてはお勧めできません。ただ、水気のものがとりにくいときに自分が好きな味のものを飲むことで脱水症状を遅らせることはできるかもしれません。

7.甘酒

塩分を始めとするミネラルや糖分を効率よく摂取することができ、飲む点滴という方もいます。ただし水分の補給にはなりませんので、別途何か水分の取れる飲み物が必要です。

以上、いろいろと書きましたがそれぞれの飲み物の得手不得手があると思います。
一種類に固執するのではなく、いろいろな飲み物を組み合わせて上手に脱水症状を回避するようにしたいものです。
そして、調べられる範囲では調べていますが、ここに書いたのはあくまでも私見ですので、書いてある内容は鵜呑みにせず、裏付けを確認した上で自己責任で摂取してくださるようにお願いいたします。