ちょっとずつ防災のすすめ

 災害対策としていろんな準備をしないといけないことは、おそらくたくさんの人が理解していると思います。でも、実際に行動している人はごく少数。「万が一に備えるのはかっこわるい」「逃げられればあとは行政が面倒を見てくれる」「防災にかける金はない」などなど、理由はさまざま。
 ここでの問題は、災害対策をしていない人たちも「自分が生き残ると思っていること」です。災害、とくに地震については発生時にどこにいるかと運不運もあるのですが、生き残るための方法を知らなければ、生存確率は格段に下がります。
 では、死なないためにはどうするかというと、自分が死ぬ要素を排除していけばよいということです。
 例えば、寝室で寝ているときにタンスが倒れて下敷きになったとしたら、よくて骨折、悪ければ死にます。もしもタンスを固定していれば、下敷きになる可能性は低下しますし、そもそもタンスが寝室に無ければタンスに潰される心配は考えなくてもよいわけです。

 こういった死ぬ危険がある要素を排除することは、そんなに難しいことではありません。でも、一気にやってしまおうとすると、時間もお金もかかるものです。
 そこで、毎月ちょっとずつ安全度を上げていくのはいかがでしょうか。今は師走で、ちょうど大掃除の時期でもあります。そのついでに、寝室の危険度点検を行って倒れてくるものや割れたり折れたりしそうなものを撤去してしまえば、寝ている時間の安全は確保できます。そしてこの作業だけで、人生の中で三分の一を過ごす寝ている時間の安全はかなり高くなります。
 そんな風に、自分が過ごす時間の長いところから、できるところから少しずつ対策を進めていけば、最終的には居住環境の安全は確保されることになります。転倒防止装置や飛散防止フィルムなど、一度に揃えると高くなるものでも、毎月ちょっとずつなら、さほど経費はかかりませんし、一度設定してしまえば、安全度は格段に上がります。家具や荷物がたくさんある状況でも、その配置や器具の据え付け方によっては、ある程度の危険を防ぐことも可能です。
 何もしないよりは、何かしてある方が生き残る確率は格段に上がります。
 無理しない範囲で、ちょっとずつ居住環境の安全対策を進めてみてはいかがでしょうか。

正確な情報を得るには

 災害発生時に必要なものは正確な情報です。これを得ることができるかどうかで、行動が大きく変化することを意識しておかなければなりません。
 では、正確な情報はどうやって集めればいいのか。ツイッターやラインを初めとするSNSは、かなり情報が早く、多く流れますが、信憑性はイマイチです。愉快犯などが登場して被災地外からおかしな情報を流して現地を混乱させたりすることが、過去の大きな災害では必ず起きています。
 テレビはどうかというと、これは映像に見入られて判断すべきタイミングを逃してしまうことが予測されます。予想外の災害を目の当たりにすると、思考停止してしまう危険性があるのです。
 そのため、ながら作業に向いているラジオをお勧めします。音声だけですので行動を束縛することはありませんし、携帯型であれば避難行動しながら最新の情報を集めることができます。ラジオの情報により広域的な情報を、SNSなどでローカルの状況を確認できれば、情報の正確性はかなり高まるのではないでしょうか。
 いざ災害が起きた、または起きそうなときに自分がどのような方法で正確な情報を集めて行動を判断するのか、一度考えて、その準備をしておくことをお勧めします。

自分のデータを知ろう

 防災用品を準備するときに必要となるのは自分自身のデータです。
 例えば、自分が一日にトイレに何回行くのか知っていますか。その回数や大小の回数によって準備すべき簡易トイレの量が変わります。
 また、一日にどれくらいの水分を取るのかによって、準備すべき水の量も変わります。飲む水の量だけで無く、料理に使う量も含めて考えなければいけません。普段料理をしない人は意識しづらいかもしれませんが、味噌汁や料理などでどれくらい水気を取っているかを一度調べてみてください。
 国が一応の基準は示していますが、この基準で準備すると、余ったり足りなかったりと言った状況が間違いなく起こります。「標準的な人」はデータ上にしか存在しないのです。
 例えば、水は成人が一日に必要な量は最低3リットルとされていますが、よく水を飲む人や夏場に汗をかく時期であればこれでは足りないでしょうし、あまり水分を取らない人や冬場の汗をかかない時期であれば、必要とされる最低量は減ります。塩辛いものが苦手な人は、食事が塩気の強いものであれば水の量は増えるでしょうし、その逆もあるでしょう。
 準備するに当たっては、自分のデータを取って、それに従っていろいろなものを準備しておくのがあなたに一番あっている防災と言うことになります。
 例えば「非常食」。とにかく準備したものは一度食べてみること。どうやって作るのか、どれくらいでどんな感じになるのか、味付けはどうか、何よりできあがりが自分の好みかどうか。これらがわかっていないと、いざというときに食事でこんなはずではと落ち込むことになります。災害避難後の生活では、それまでの自分の生活の質をいかに落とさずにすむかが大変重要になりますが、その中でも特に重要と考えているのが食事と排泄です。生活の質を落とさないためにも、あなたが普段どのような生活をしているのか、そして一日に何をどれ位使用しているのかについて、一度しっかりと確認してみてくださいね。

足下を確保する

 災害時、主に地震のときには、よっぽど意識して片付けている家で無い限りさまざまなものが床に散乱してしまいます。特に眠っていたときなどは、揺れが収まって寝ぼけ半分で避難や片付けを行うことになりますが、そのときに自分の足を守るためのものが準備できていますか。
 散乱しているものの中には、ガラスやプラスチック片など、足を切ったり刺さったりしてしまう危険なものが多くあります。そんなところを素足で歩くと、せっかく無事に地震をやり過ごせたのにしなくてもいい怪我をすることになってしまいます。一般的には運動靴を準備しておくことが推奨されていますが、置いたりしまったりする場所に悩んでしまったりします。スリッパでも、靴下でもいいので、何か足を守るものを準備しておいてください。

市販の防災セットに入っているスリッパ。割と多目的に使える。

 新聞紙を近くに置いておけば、新聞紙スリッパを作ることもできるでしょうし、タオルや服を巻き付けても構わないと思います。大切なのは足を怪我しないこと。素足で歩かなくてもすむ方法を考えてください。
 「身を守る」とは、自分が安全な場所まで移動できて初めて完了する行動であり、無事に移動するためには、足を怪我するわけにはいきません。ないに超したことはありませんが、いざというときに備えて安全に逃げるために足を守れる方法を準備しておいてくださいね。

扉の前にものを置かない

 火災などで防火シャッターが降りた後、逃げ遅れた人や消火活動をする人のために非常用扉がもうけられています。「扉の前にものを置かない」というのは消防法でも決められていることなのですが、過去にはこの非常用扉の可動範囲にものがあって扉を動かすことができず惨事を招いた火災がたくさんあった結果です。
 防災上も、扉の周囲にものを置かないというのは鉄則なのですが、職場ではともかく、家の中では意外とそれに気づいていない人が多いことに驚かされることがあります。家庭で押したり引いたりして開けるタイプの扉では、その可動範囲及びその周辺に倒れたり崩れたりして扉の開閉を妨げるようなものは絶対に置いてはいけません。引き戸であっても、引き戸にもたれてしまうようなものを周囲においてはいけません。
 「扉の前にものを置かない」と聞くと、扉の前にものがなければいいのかと考えてしまいがちですが、扉の開閉を邪魔しないために行う作業ですからそこを意識してものの配置をしないといけないでしょう。扉の開閉はもちろんですが、扉の周囲にものがないことで、足下の安全がしっかりと確保されます。そうすると、扉を超えても足下の心配をしなくていいわけで避難の速度が上がることは間違いありません。職場では、普通の扉と非常扉を、家庭では部屋や廊下を行き来する扉や玄関を、それぞれチェックしてみてください。もしもそこに何か置いてあったとしたら、すぐに撤去して出入りをふさぐことのないようにしておいてくださいね。

 ちなみに、上記の写真はとあるオフィスの非常扉です。
 扉の可動域は確保されており、通り道も取られているのですが、折りたたみ式コンテナが大量に積まれていたり、台車が何台かまとめて置かれています。 地震や水害では、こういったものが崩れたり流されたりして扉の開閉を邪魔してしまうことが起きますので、少なくとも扉を構成しているポケット部分には何も置かないようにしたほうが安全です。
 「扉の前にものを置かない」だけでなく、「なぜ置いてはいけないのか」まで考えてもらえるといいなと思います。

支援物資では来ないけれど自分に必要なものは準備しておく

 災害では、よっぽどのことが無い限り1週間程度で支援物資が届き始めます。
 国がプッシュ式支援と呼んでいるもので、食品、水、乳児用ミルク、紙おむつ(大人用、子供用)、生理用品、トイレ、トイレットペーパー、毛布の8品目は必ず送られるものとして決められています。
 とはいえ、名目上はこれだけの品目が送られてくるとしても、あなたにあったものがくるとは限りません。食品でもアレルギーがある方は食べられないものが出てくるでしょうし、乳児用ミルクは子どもが飲んだり飲まなかったりするものもあります。紙おむつも必要なサイズのものがあるとは限りませんし、生理用品についても同様なのですが、とりあえず送られてくるのは間違いないので、アレルギーや品物にこだわりがあったり。「その銘柄」でないと困るもの以外はなんとかなると考えてください。
 もちろん、これらも準備しておくに超したことはありませんが、それ以上に重要なのは、「自分にとっては必要だけれども大多数の人にとっては必要とは言えないもの」、つまり支援物資として送られてくる優先順位は低いが自分にとっては優先順位の高いものを備えておくことです。
 具体的に書くと、必要とされる常備薬、眼鏡やコンタクトレンズ、スマートフォン用モバイルバッテリー、下着類などは少なくとも準備しておいた方がいい品目です。自分にとって必要なものは人の数だけありますから、例えばコーヒーのような嗜好品が手放せない人はそれも必要になるでしょう。
 普段の生活であなたが何気なく使っているさまざまなものをきちんと見直して、あなたの生活に絶対必要なものについてはきちんと準備しておくことです。よく見てみると、意外なものがあなたの生活の必需品になっていたりして驚くことがあるかもしれません。
 災害では、いかに自分の生活の質を確保していくかがその後の復旧・復興への切り替えに影響していきます。できるだけ生活の質を下げないですむためには何を準備しておけばいいか、時間を見つけてリスト化し、優先度を上げて準備しておくようにしたいですね。

指示待ちでは助からない

 災害発生時において最も重要なのは、自分で安全を判断できることです。
 ですが、この国に住んでいる多くの人は誰かの指示を待っている状態。例えば、行政の避難情報や消防団の巡回、テレビやラジオからの避難の呼びかけなど、誰かからの指示があって始めて避難するということが多いなと感じます。別に指示待ちは本人が決めたことなのでどうでもいいのですが、その結果としてその判断をした「自分以外の誰かが悪い」という状況を作り出してしまいます。
 結果的に避難が必要なかったような事例であれば、「あいつが逃げろと言ったから逃げたのに無駄な時間を使わせやがって」と文句の一つもいうようになり、その発言を聞いた人は、絶対に一緒に避難するもんかとと思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも、私は誘う気にはなりません。隣近所のつきあいがあって、避難しなければ死んでしまうだろうなと思ったとしても、です。
 確かに、災害で避難するか否かを判断するためにはいろいろな知識を取得して、判断するための情報に意識を向けておかなければなりません。それが面倒だという人もいらっしゃるでしょう。ただ、自分の命を自分以外の誰かの判断にゆだねると言うことは、もしもその判断が間違っていたときに、自分が死ぬことになってしまいます。また、みんなでどうしようと考えているうちに被災してしまう可能性もあります。
 避難するタイミングは人それぞれです。10人いれば10通りの判断基準があるわけなので、自分で自分の判断基準を定めて逃げ方なども決めておきたいですね。
「自分の命は自分で守る」
 こと災害に関しては、まずは自分の安全の確保が第一になります。こういったことを書くといろいろと言われてしまうのですが、自分が安全でなければ人の救助などできるわけがありません。
 繰り返しになりますが、指示待ちではなく、自分の命は自分で守ることを基本にして、ご自身の防災計画を策定していただければなと思っています。

モノではなく機能で考える

 災害対策ではよく物資をどのように準備するかということが考えられています。
 ただ、さまざまな物資を準備していても何らかの事情で用意したものが使えず、最悪身一つということも考えられます。そのときに起きるいろいろなことへの対策は、モノに注目するとあれもこれもないということになってげんなりしてしまいますので、機能に着目して考えるようにしましょう。
 例えば、防寒着としてダウンジャケットやスキーウェアがあれば最適ですが、それがないときには防寒という機能に注目します。寒さを防ぐためには熱を奪う風を通さないことと、体から発生する熱を逃がさないことが求められるわけですから、血管の面積が広い身体部分に風を当てないよう、大きなビニール袋に頭と腕が出るように穴を開けて着ます。これだけでも体感温度はずいぶんと変わりますが、身体から発生する熱を逃がさないよう、身体とビニール袋の間に空気の層を作れるよう、新聞紙や段ボールを巻き付ければ、簡単ですが効果的な防寒着ができあがります。
 昨日考えてみたトイレもそうで、一番いいのはトイレがそのまま使えることですが、トイレが使えないことにより発生する問題、そして解決したことにより発生する問題を考えていけば、そこまで絶望的な事態は起きづらいのではないかと考えます。この場合には、例えば発生する水分の吸収、においの吸収、汚物を見えないように処理する方法、何より排泄時に人に見られない手立てがなんとかなれば、トイレがなくても安心して排泄ができるわけです。
 繰り返しますが、困った出来事と、何に困っているのか、どんな条件が整えば困った出来事が解決できるのかを考えていけば、手持ちの資材や手に入る資材でかなりなんとかなってくると思います。また、防災グッズを準備するときには、機能を手に入れるためには相当な苦労が必要となりそうなものから優先して準備しておけば、非常用持ち出し袋や非常用備蓄品を使うときにでも助かるものですから、災害対策で物資を備えるときにも参考にしてみてくださいね。

身を守る努力とはなにか

 災害時にしないといけないことと言うといろいろありますが、あなたは最初に何をすべきだと思いますか。いろいろな考え方がありますが、まずは身を守って自分の命を守ること。これが第一なのではないでしょうか。
 避難訓練というと、大前提になるのは自分が五体満足で無事でいるということなのですが、これは自分の命を守れて始めて訓練になるものです。こけたり倒れたり何かの下敷きになったりして怪我をしたり動けなくなったり、最悪の場合は死んでしまうかもしれません。地震では「シェイクアウト」や「ダンゴムシのポーズ」が有名ですが、他の災害でも、まずは自分の命を守ることを最優先に考えます。
 命を守るにはどうすればいいか。水害や津波でも、自分の命を守るための行動についてしっかりと考え、いざ本番の時にきちんと動けるようにしておかなければなりません。普段から自分を守るためにはどうすればいいかを、頭のどこかで考える癖をつけてください。最初はくたびれますが、慣れてくると安全な場所が目につくようになってきます。最終的には無意識のうちにそういった安全な場所を選んでいるようになりますので、頭上、足下、周囲に怪我をしそうなものがないかどうか意識的に確認するようにしましょう。
 そして、避難する判断を他人にゆだねないこと。避難はあくまでも自分が行うものです。自分の心身の条件や移動する時間、受け入れてくれそうな場所の選定などを考慮してどこへいつどうやって逃げるのかを決めておきます。必ずしもその判断に従わないといけないわけではありませんが、自分が準備した避難基準がなぜそうなったのかについてはしっかりと考え、自分で納得しておいてください。また、実際に動いてみるといろいろなことがわかります。とても逃げられない場所であったり、あえて避難の必要が無かったりというような状態は、実際に歩いてみないとわからないものです。
 自分の身を守るということは、そんなに大上段に構えるものではなく、毎日のちょっとした積み重ねが結果的に身を守ってくれることにつながるのだと思います。ちいさなことですが普段から準備をしておくことです。

ラジオの準備をしておこう

 災害時にもっとも頼りになるのは、個人的にはラジオだと思っています。
 携帯タイプのラジオであれば、非常用持ち出し袋に入れていても、普段使いでもさほど邪魔にはなりませんし、地震や何かが起きたときでも避難しながらリアルタイムの情報を得ることができます。よく災害時にはラジオが一番と言われるのは、持ち運びが楽で場所も取らず、ある程度精度のある災害情報を確実に受け取ることができるからです。
 では、災害の時に頼りになるラジオというのはどのようなものなのでしょうか。ラジオに限らず、電化製品は電気を使うことが前提で作られていますので、乾電池や蓄電池の持ちがいいか、あるいは手回し式や太陽パネルをつけて自分で発電できるものが重宝されます。
 災害時には環境が極端に悪くなることも多いですので、防水防塵あたりの装備はあったほうが安心です。
 また、ラジオとしてはAM、FMの両方が拾えるタイプでないといけません。近距離であればFM波で充分ですが、大規模災害などの場合には、それなりの距離でも聞くことのできるAM波が入るラジオが有効です。
 よく災害用ということでライトやランタン、携帯電話の充電器や時計などがついていて多機能を謳っているものも多いのですが、ラジオの電池の出力がなければそれらの装備は充分に使えませんので、あまり多機能にしないほうが無難だと思います。また、手回し充電器でも機械によってずいぶんと効率が異なるので注意してください。一般的には、それなりの値段でよく売れているものだとそれなりの機能を有していると思っています。
 ラジオは非常用と言うことで、買ったらそのまま非常用持ち出し袋に詰めておしまいという人も多いと思いますが、使い方をしっかりと覚えておかないとあとで面倒なことになりますので、ラジオを買ったら、まずは使い方と電池交換の仕方、電池の規格と必要な本数を確認しておき、できればスペアを用意しておきましょう。
その上で、実際に電源を入れて、そのラジオが聞き取りやすいのか聞き取りにくいのか、チューナーは使いやすいか否か、もし発電機を搭載しているのであれば、その発電能力でどれくらいの間ラジオが聴けるのかも一つの基準となるでしょう。
 災害時には、ラジオは貴重な情報源となります。そのラジオがきちんと使えるように、しっかりと使い方を覚えておいて欲しいものです。