アウトドアグッズと防災用品の違い

 「アウトドアグッズと防災グッズは兼ねることができます」という記事を雑誌などではよく見かけます。
 確かにその通りなのですが、それは「そのグッズを使い慣れていること」が前提となることに注意してください。
 アウトドアグッズ、特にソロキャンプや単独行で使うような装備は、軽量、コンパクトさが優先して設計されていて、丈夫さや使いやすさは二の次というアイテムが多いです。
 では防災グッズではどうかというと、あくまでも普段使いの延長になるため、丈夫さや使いやすさの優先度が軽量、コンパクトよりも高くなります。
 なぜなら、アウトドアを満喫することは非日常で楽しいことですが、災害は同じ非日常であっても不安やしんどさが先に立ちます。些細なことで不安や怒りが増幅されてしまう環境を考えると、例えば使い方に気を遣うシングルバーナーよりも大きくても安定しているカセットコンロのほうが日常に近い生活を送ることができますし、十徳ナイフよりも小さな包丁のほうが使いやすいことは言うまでもありません。
 もちろん、アウトドアグッズがダメと言っているわけではありません。
 使い慣れている道具であれば、それを使うことで安心感がもたらされるものですし、軽量コンパクトなアウトドアグッズは非常用持ち出し袋に治まりやすくて運びやすいので入れ方や重量を気にせずに持って移動でき、とりあえずの生活の質を落とさないという点で非常に有効です。
 ただ、普段は使わずにいざというときに初めて使うという状態だと、組み立てている途中で壊れたり、思ったような使い勝手でなかったりしてそのアイテムがない時よりもストレスをため込むことになりかねません。
 アウトドアグッズは買ったらすぐに誰でも使えるというものではなく、マニュアルを読んだり実際に使ったりしてそのグッズに馴染んでおくことが絶対的に必要です。
 普段使いのアイテムを組み込みながら、できるだけ日常に近い防災グッズをそろえていくことで、いざというときにも生活の質を維持していきたいですね。

災害遺構を訪ねて10「昭和58年水害関係の碑他」

 昭和58年7月水害は益田川流域のあちこちに大きな被害を及ぼし、内陸部にある益田市美都町仙道でも、水に浸かった地域がありました。
 国道191号を益田から広島方面に向けて進んでいくと、仙道の市街地がありますが、その入り口付近には昭和58年水害の最高水位の表示があります。


 昭和58年当時は川幅が狭かったため、越水して街が浸かったようです。
 その後、3年をかけて河川改修工事が行われ、その完成を祝って作られた復興記念碑が、国道191号と益田川に挟まれた場所に作られています。

 裏面に刻まれた建碑史略には、昭和58年水害の概略と、復興への感謝が綴られていました。
 そして、この碑から少し進むと、国道191号と山との間に小さな社が現れます。
 社の後ろに倒れていた「むらおこし社縁起」という立て看板によると、元々は金比羅様を祭っていたものだそうです。

水神様を祭りしている「むらおこし社」。左手には子宝亀石という亀のような石がある。
社に掲げられている看板。これで「むらおこしさん」と読むそうです。

 昭和58年水害後の河川改修で祭られていた金比羅様は勧進元に返却され、社も解体になりそうだったところを地元の有志が引き取り、新たに水神様をお祭りし手再び水の災いが起きないようにお祭りしているのだそうです。
 そのおかげかどうかはわかりませんが、昭和58年水害以後、仙道地区が水に浸かったという話は出ていません。
 ところで、水神様をお祭りしているはずの神社の表示はなぜか「むらおこし社」。
 これで「むらおこしさん」と読むそうですが、水がわき出るようにいろいろな意欲が沸いて新しい地域作りの基となることを期待してこのような名前になったそうです。
 余談ですが、すぐ脇に「子宝亀石」と書かれた亀のような石が一緒にお祭りされていて、なんとなくほっこりとさせられました。

世代間格差と情報格差

 いろいろな人を相手に防災のお話をしていると、防災に関する知識に世代間格差があるなと感じることがよくあります。
 例えば、「地震が起きたら最初にどうする?」と尋ねると、年齢が高くなるほど「火を消す」という回答が多くなり、年齢が低くなるほど「身の安全」という回答が多くなります。
 蘇生法で見てみると、心臓マッサージだけすればいいと教わった人、心臓マッサージと人工呼吸を併用すると教わった人、これにAEDまで含めるとさまざまな流派が存在します。どれが間違っているというわけでは無くどれも正しいですし、積み重なっていく実際の運用から変化しているだけなので、そうでなければならないということではないのですが、教わったことと異なることを他人がやっていると、やはり違和感が拭えないようです。
 要するに防災の知識は日々変化していて、適当な時期にアップデートしておかないと時代にそぐわなくなっていくということで、定期的に研修や訓練を受けることは必要なのだろうなと思います。
 ただ、一般的に学生の間は避難訓練や防災訓練、授業などで防災に関する知識をアップデートすることはできるのですが、社会人になると途端にその機会が減ってしまいますから、どれくらいそういった機会を作ることができるのかが、防災教育をし続けるための一つの問題になってくると思います。
 人を助けることや災害に備えることは世代を超えて必要なことです。そのためには、意識的に研修や訓練に参加したり、あるいは自分の子や孫、地域の子どもに質問してみるというのも面白いと思います。
 そういえば、以前小学生にダンゴムシのポーズを質問したことがあったのですが、ある学年を境に見事に分かる子と分からない子に分かれてしまいました。
 地元の小学校ではダンゴムシのポーズを教えないため、保育園や幼稚園で防災教育に重点が置かれ始めた時期でできる子とできない子に分かれてしまったというのが本当のところのようです。
 できる限り世代間格差や情報格差を埋めてみんなが命を守り、命をつなげるように、当研究所もお手伝いをしていきたいなと考えています。

刃物に気をつけて

 非常用持ち出し袋や備蓄品のリストの中に、ないと困るアイテムが一つ含まれていないことにお気づきでしょうか?
 それは包丁やハサミといった刃物です。
 刃物については持ち歩くとそれだけで逮捕される可能性のあるものです。
 特に刃渡り6cmを超えるものは銃砲刀剣類所持等取締法という法律で「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、これを携帯してはならない」(銃砲刀剣類所持等取締法第22条)と決められており、明確な使用目的が説明できない場合には取締りの対象となります。
 また、刃渡りが6cmを超えなくても、正当な理由なく刃物を持って歩いている場合には軽犯罪法(軽犯罪法第1条第2項)によりやはり取り締まりの対象となってしまいます。
この「正当な理由」は具体的でなくてはならないため、例えばこれからキャンプに行くので包丁を持っていることはOKでも、いつ起きるかわからない災害に備えて十徳ナイフを持っているというのは正当な理由にはならないのです。
 文房具としてのはさみやカッターなども同じで、すぐに取り出せるようにしていると、軽犯罪法で取り締まられてしまう可能性があります。
 よくある話ですが、よくキャンプに行くのでなたを車に積みっぱなしにしている状態だと、例えば検問などで発見されると、必要も無く持っているとされて取締りを受けてしまいます。
 そんなわけで、非常用持ち出し袋や備蓄品などには必要なはずの刃物がセットされていませんので、刃物については、面倒でも「現在災害が発生、または発生が予測される状態であり、これから避難所へ移動し、場合によってはそこである期間生活をしなくてはならずそのために必要な状態」になったときに荷物に加えて避難するようにしてください。また、防災ポーチを作るときにはその中に十徳ナイフなど入れないようにしてください。
 細かい内容は、以下のサイトでご確認ください。

刃物の話」(警視庁ウェブサイトへ移動します)

気力の元は暖かい食べ物

 災害が起きた後、何の備えもないまま避難所に避難した場合には「飢えと渇きに悩む」から「配給の非常食+水」になり、「弁当工場の作った冷えたお弁当」となっていきます。
 どうして炊き出しが喜ばれるのかというと、こういった食糧事情なので暖かい物を飲んだり食べたりできないという生活に、できたての温かい食べ物や飲み物が支給されるからです。
 じつは避難所運営で一番ネックになるのが食料を温めるという問題です。電子レンジでもあれば冷えたお弁当を温め直して食べるという手が使えるのですが、何百人、何千人と収容する大きな避難所だと、そういった対応はまず無理です。
 弁当工場で作った物を暖かいうちに運べば良いのではという意見もありますが、弁当作成業者にとって一番怖いのは食中毒です。また、短い時間でたくさんの弁当を作ることは物理的に困難なので、どうしても冷凍保存して出火することになりますから、どうかすると冷たい弁当よりも悪い、どこかしら凍った弁当を食べる羽目になったりします。
 避難所全員の弁当は難しいかもしれませんが、せめて自分の家族分だけでも温かい食事を取ることができれば、気力を維持することは可能です。
 アウトドア用のガスバーナーやカセットコンロ、焚き火、どうにもならなければ使い捨てカイロでもいいので、非常用持ち出し袋には温める道具を準備し、食事はできるだけ温めて食べるようにしてください。
 温めた食事は心を落ち着かせ、身体もリラックスさせる効果があります。災害後に元気に復旧を進めていくためには、しっかりと暖かいものを口にすることが重要なのです。ただ、温めた食事は食べきらなければすぐに傷んでしまいますので、食べられない場合には残った物は速やかに処分してください。
 食事や飲み物をしっかりと温めて、食事で気力を失うことがないようにしたいですね 。

地震が起きたらまずどうするか

 以前は「地震だ、火を消せ!」というのが合い言葉になっていました。
 震源から距離があって揺れるまでに余裕がある場合にはいいのですが、直下型地震の場合には緊急地震速報よりも早く揺れ始めるため、火を消していると身の安全が確保できない事態が発生します。
 幸い、日常的に使っている家庭用のガスではガスボンベに直結して火を使っているので無い限り、制御用のマイコンメーターが揺れを感じたら自動的にガスの共有を止めてくれますから、ガスによる出火はあまり考えなくてよくなりました。

LPガスのマイコンメーター。ある程度の揺れを感じると自動的にガスの供給を止めてくれる。都市ガスも同様の装置がついている。

 電気コンロの場合はそもそも燃えるべきものがないですし、これも揺れを感じたら自動的に給電が止まるので心配はいりません。
 もちろん裸火を使っている場合には消す必要があるでしょうが、これも周辺に燃えるものを置いていなければすぐに類焼することはないでしょうから、普段からの意識付けでなんとかなると思います。
 そして、火が燃え移る危険がないことを前提にしてまずは身の安全を第一に考えましょう。
 揚げ物などで油を使っている場合には、なるべくその場所から離れて油を被らないようにすること。また、落下物や倒れてくる物で怪我をしないこと.特に台所は家の中でもいろいろなものがたくさんある場所ですので、落下や家具の転倒が起きないように固定を意識しておいた方がいいでしょう。
 そして、万が一の出火に備えて消火器も準備しておきます。最近は家庭内に置いてもさほど違和感のないおしゃれなデザインのものも増えていますし、大きな火は消せなくても、初期消火には使えるコンパクトな消火器も出ています。

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 そういったものを準備しておくと、自宅だけで無く周囲の家が出火したときにも初期消火活動を行うことができ、自分の財産を失うことを防ぐことができるかもしれません。
 また、地震時に自動的に電気のブレーカーを落とす装置をつけておくと、緊急避難の時にブレーカーの切り忘れを気にしなくて済むのでお勧めです。

簡易型の感震ブレーカー。構造は簡単。取り付けも簡単。最近のブレーカーの中には、初めから感震装置が組み込まれている物もある。

 やるべきことをできる限り自動化できれば、あなたの身の安全を守り、また財産を守ることがやりやすくなります。
「まずは身を守ること」
 特に地震のときにはこのことが大切です。そのために、平時からしっかりと準備しておきたいですね。

あると便利な段ボール

風邪対策の定番、窓を段ボールで覆う。外側から窓に貼り付けることで飛んできた物が窓ガラスに当たって割れることを防ぐ。重量物に備えて内側からも貼るとかなり安心ではある。

 段ボールというのはいろいろなところで使われています。
 どこででも見かけるもののはずなのですが、災害時にいざ使おうとするとどこにもないものの一つです。
 家でストックしておくのも場所を取って仕方が無いのですが、それでもいざというときに備えていくつか段ボール箱をしまっておくと重宝します。
 間仕切りや目隠し、壁や窓の応急処置、組み合わせれば段ボールベッド、いす、トイレ、ダンボハウス、簡易寝袋そして最後はたき付けまで、あると便利なこと請け合いです。

段ボール箱をそのまま寝袋として試してみた。段ボールの弾力で思ったほど寝心地和悪くない。また、保温効果でかなり暖かい。乳幼児が入るサイズにすると体温を維持するのが楽。


 行政では段ボールベッドや間仕切りなどは段ボール業者さんと提携して、いざというときには持ってきてもらうような協定を結んでいるところも多いのですが、段ボール業者さんも普段からたくさんストックしてあるわけではないので、大規模災害の時などには生産が間に合わないと言ったことも起きています。

市販の災害用段ボールベッド。ベッドの下は箱になっていて、生活用具をいろいろ仕舞えて便利

 平時に必要量をストックしておくのが一番良いのですが、予算と場所の兼ね合いからなかなか難しいというのが現実みたいです。
 自宅避難を考えている場合には、どこに家の中のどこに段ボール箱があるのかを確認しておくと、必要なときに使えて便利です。普段は何かを収めておき、いざというときには防災グッズとして使うというのもいいと思います。
 保温性があって、非常に使い勝手のよい段ボール箱。非常用グッズを収めておいて、災害用品の一つとして考えるのもよさそうだなと思います。

大雨警報と洪水警報

 気象庁発表の警報の中でよく発令されるものの中に大雨警報と洪水警報があります。
 筆者は大雨警報が出て、その後洪水警報が出るようなイメージがあったのですが、必ずしもそうなるわけではないようです。
 試しに気象庁のウェブサイトを確認してみると、

 大雨警報は「大雨による重大な土砂災害や浸水害が発生するおそれがあると予想したときに発表します」と書かれており、中略して「雨がやんでも重大な土砂災害等のおそれが残っている場合には発表を継続します」とあります。
 洪水警報は「河川の上流域での大雨や融雪によって下流で生じる増水や氾濫により重大な洪水災害が発生するおそれがあると予想したときに発表します」となっています。

 このことから考えると、大雨警報が出た後に洪水警報が出ることはありますが、洪水警報単体でも発令されることがあるということになります。
 河川の上流域で大雨が降れば、下流域で雲一つなく晴れていても流れてきた大雨の水が合流して氾濫ということも当然起きるわけですから、言われてみれば納得です。
 その地域に雨が一滴も降っていなくても、上流部で降った雨による河川氾濫がありうるとなると、洪水警報が発令された場合にはどんなに天気がよくても早めに浸水想定区域外へ避難を開始した方がよさそうです。
 河川の流域に住んでいる人は、住んでいる地域だけでは無く上流部の天気も気にしておいた方がより安全を確保できそうですね。

参考:気象庁ウェブサイト「気象警報・注意報の種類

【終了しました】災害時外国人サポーター養成研修が開催されます。

 令和2年10月4日13時から江津市の江津パレットにおいて災害時外国人サポーター養成研修が開催されます。
 この研修は災害時に被災した日本語が不自由な人に対してさまざまな支援を行うサポーターを育成するための研修会で、島根国際化センター様が主催されています。
 自治体が出す文書のやさしい日本語への翻訳や、避難所巡回訓練などを行ったりする実践的な研修会です。
 事前申し込みが必要で、募集定員は30名。募集締め切りは令和2年9月24日となっています。
 詳細は島根国際化センターのウェブサイトにてご確認ください。

災害時外国人サポーター養成研修(西部)
(島根国際化センターのウェブサイトへ移動します)

一時避難先と避難経路をいろいろな天候の時に実際に歩いてみる

 災害が起きたら、危険な場所にいる人は安全な場所へ避難しないといけないことは多くの人が知っているところだと思います。
 ではその安全な場所というのはどんなところなのか、イメージができていますか。
 あなたのお住まいの場所で、例えば地震が起きたとき、あるいは水害が起きそうなときで家がその災害に耐えられそうにない状態になったときにどこへ一時避難すればいいのかを決めていますか。そして、そこまでの避難経路は決めていますか。
 ここまでの内容でも、それなりの方が災害に応じた一時避難先や避難するための経路を作っているのでは無いかと思います。
 では、その計画に従って実際に移動と避難を試してみた人はどれくらいいるでしょうか。避難は避難訓練のように常に良い条件で避難ができるわけではありません。晴れや曇りのときだけでなく、雨や雪の時にも避難しないといけない事態が起こりうるのですが、それに近い気象条件で自分が決めた避難経路を歩いてみた人がどれくらいいるでしょうか。
 図上で決めた内容も、実際にやってみるとさまざまな問題があるのが普通です。
 例えば、大雨で避難する経路上に水没するアンダーパスがあったり、津波対策で避難するのに川のすぐそばを延々と移動していくような経路だったり、実際に歩いてみないとわからないことがいろいろと出てきます。
 一時避難先と避難経路を知っていることと、そこが一時避難先や避難経路として利用できることを知っていることとは違います。
 図上でさまざまなことを決めたら、あとは実際に歩いてみて、自分の目で見て経路や避難先を確認し、その上でどのような物を持って避難する必要があるのかについて確認していく。
 そうすることで、使える避難計画になってくるのです。
 あなたの一時避難先とそこまでの避難経路について、一度悪天候の時に移動して状況を確認してみてはいかがでしょうか。