避難訓練は観察者を置いてみよう

 避難訓練では、その施設の人が全員参加して行動することが大切だと思われていますが、実はそうではありません。
 全員が参加してしまうと、その避難訓練を客観的に評価できる人がいなくなり、その避難訓練のよかったところや悪かったところが客観的に判断できず、結局「無事に終わりました」という月並みな結果になってしまいます。
 避難訓練に直接参加せず、側から訓練の様子を見て評価する人がいると、避難訓練のいいところ悪いところが冷静に見えて次の訓練に反映することができます。
 当研究所でもそういった支援はしていますし結果報告書も作成していますが、無理に外部から観察者を入れなくても自分のところで誰かにその役をしてもらうことで、充分に役に立ちます。
 その時の視点は「本当にそれでいいのか?」「なぜそうなったのか?」「自分だったらどう動くだろうか?」というもの。
 例えば、避難訓練中に本当にけが人が出たとします。全員が訓練参加者になってしまうと、その記録は「怪我に対応した」で終わってしまいますが、観察者はそれだけではなく、「その怪我が起きた原因はなにか?」「本番でも発生する可能性はあるか?」「本番で起きたらどうすればその人の命が守れるか」といった視点で報告をしてもらうのです。
 それから、観察者がいると参加者は手が抜けません。特に管理職が観察者になっている場合、参加者は非常に真面目に取り組むことが多いですから、管理職の方には「自分がおらず、連絡もつかない」という想定にしてぜひ観察者になってほしいと思います。
 かつて、とある学校でその学校の避難訓練の見物をする機会がありました。その訓練では、学校から屋外の安全な場所へ避難するという訓練内容だったのですが、屋外への避難中、生徒の一人が溝に落ちて怪我をする事故を目撃してしまいました。
 どういう立場なのかはわかりませんが、近くで世間話をしながらそれを見ていた数名の教員は生徒に「保健室に行きなさい」の一言で特に何をするでもなし。
 見ていたこちらは「団子になって駆け足で避難行動していたため足下が見えなかった」ことや「溝蓋に隙間があって、そこに足が落ちてしまった」こと、「本番時に保健室が機能しているのか?」などさまざまな問題点や疑問点が出てきたのですが、それを指摘したところ、「溝蓋の管理はうちじゃない」や「怪我した人が悪い」「あんたに言われる筋合いはない」といった回答をいただきました。
 もしこれを見ていたのが筆者では無く、その学校の校長や教頭、もしくは教育委員会や保護者などであればこの教員達の反応は確実に変わったと思います。
 学校に限らず、組織として避難訓練するのであれば管理職が自分の目で見て何が問題なのかを洗い出したほうが効率がいいですから、訓練をする際には担当者に丸投げせず、ぜひ管理職の方が率先して観察者になっていただきたいと思います。
 客観的に見る目ができ、その意見が反映できるようになると、訓練の効率や効果は非常に高くなりますので、有意義な避難訓練がしっかりとできると思います。
 なぜか今の時期はさまざまな場所で避難訓練を行っています。余談になりますが、そういった過去の経緯から、当研究所では訓練計画の立案や実行だけでなく訓練観察の視点や訓練の改善点を考えるといった支援も行っていますので、興味のある方は一度ご相談いただければと思います。

訓練はうそをつかない

 「訓練はうそをつかない」という言葉がありますが、あなたは防災訓練に参加したことがありますか。
 人間が作った訓練設定なんぞ意味がないという方や、かっこわるい、時間の無駄などといった意見もよく聞くのですが、災害が起きたときに一番犠牲になるのがそういった理由で訓練に参加していない人達であることはご存じでしょうか。
 全てを理解した上で自分で勝手に訓練をするからいいという方はともかく、訓練に参加しない人というのはそもそも状況が理解できません。そして、何をどうしたら助かるのかと言うことも理解できていないので、まごまごしているうちに災害に襲われてしまうということです。
 防災訓練に参加すれば必ず助かるとまでは言えませんが、それでも実際に身体を動かした分だけは身になります。それが繰り返されることで、いざというときには身体が動いて自分の安全を確保する行動を取ることができるのです。
 自動車の運転を考えてみればわかるかもしれませんが、教習所に行っていたり免許を取ったばかりのときには、全ての行動をいちいち確認しながら車を動かしていたと思います。それが、毎日車を運転していると、いつの間にやら無意識に車を運転している状態になっています。これは身体が段取りを覚えてしまったからで、どんなものにでも当てはまるのではないかと思っています。
 災害はいつか必ずやってきますし、日本に住んでいる以上は何らかの災害に巻き込まれる可能性は非常に高いですから、防災訓練に参加して経験値を積んでおくことは無駄にはなりません。
 訓練はある程度想定されて条件下で行われるものですから、実際にその想定通りになることはまずありませんが、経験を積むことで予測できるものが増えていきます。そうすると、予想外の事態にも案外冷静に取り組むことができるようになるものです。

「訓練はうそをつかない」

 毎年同じ内容の訓練かもしれませんが、参加した分だけ確実に生き残る確率は上昇します。できるかぎりさまざまな機会を作って防災訓練に参加されることをお勧めします。