「縁起でもないこと」を考える

 起きて欲しくない出来事に備えるような話をすると、大抵の場合「縁起でもない」といって話を中座させようとする人が出るものです。
 災害対策訓練などは、まさにこの「縁起でもないこと」の一つのためか、なかなか自主的に訓練に参加してくれる方は少ないというのが実情です。
 無理矢理訓練に参加してもらうと、ほぼ100%傍観者か批判者になって訓練にならないのもお約束。
 「やっても無駄」といった方もいらっしゃいますし、まじめに訓練している人をあざ笑ったり、馬鹿にしたりするのもよくある話です。
 そういった人達が被災してひどい目にあうのは、ある意味で「自己責任」ですから仕方が無いのではありますが、そういった方に限って「避難所に行けば全てが解決する」「何もしなくても全て自分以外の誰かが解決してくれる」といった自分に都合のいい幻想をいだいているので、被災した後にひどい目にあることがよくあります。
 災害は「考えなければ発生しない」とか、「正しい生活をしていれば被害に遭わない」といったたぐいのものではなく、日本に住んでいる以上どんな人も遭遇し、被災者になる可能性がある事象です。
 であるなら、その時に備えて想定し、準備しておくことは決して「縁起でもないこと」だとは言えないのではないでしょうか。
 それは今日、明日かもしれませんし、10年後、ひょっとしたら100年後かもしれませんが、いつかは必ず起きる。そう考えることは「縁起でもないこと」ではないような気がするのですが、あなたはどう考えますか。

避難所設営基本の「き」その1・まず何をするか

 避難所の設営についてご質問をいただくことがあります。
 その時に最初に確認する内容、なんだかわかりますか。
 それは「施設の水源とトイレ」です。
 災害が発生して避難所を設営するとき、一番盲点になる部分であり、そして一番最初に問題が発生し、場合によっては最後まで問題になるもの。
 それがトイレ問題です。
 極端なことを書けば、くみ取り式で水を使わないストレート式、いわゆるボットン便所ならば通常使用で問題ありませんし、タンクレスの便器を使った下水道方式の2階以上のトイレであれば、問答無用で使用禁止を言い渡します。
 わかりやすく書くと、排泄物の処理に水が必要なのかどうか、そして一回に必要な水の量はどれくらいで、どの程度、どうすれば確保できるのかが問題になるということです。
 どんな人でもトイレは我慢できませんし、避難してきた被災者はトイレが使えなくなるということはまず考えていませんので、断水するとあっという間にトイレが汚物まみれの不衛生な場所になってしまいます。
 それを防ぐためには、災害時にトイレを使うことが可能なのかどうか、使えるとするとどうやったら使うことが可能になるのか、また、使えないのであればどのような手段を使ってトイレを作るのかということを事前に準備しておく必要があるのです。
 ざっくりとしたイメージですが、水洗トイレの場合、通常8~18リットルの水が一回の利用で必要となります。
 安全を考えると、10リットル以上の水が常時確保できないのであれば、水洗トイレは使うべきではありません。
 中途半端な水量だと、使用したトイレットペーパーが詰まって汚水があふれ出してしまうからです。水に溶けやすく作られているトイレットペーパーではありますが、それも水量が充分にある場合のこと。そうでなければ、溶け残ったものが固まってしまって汚水管を詰まらせてしまう原因になります。
 もしも水洗式のトイレであれば、タンク式でなんらかの方法でタンクを常に満水にできる条件が整っているのであれば、1階部分のトイレは使用可としてよいと思います。
 地震に限っては、2階以上は使用不可。これは汚水管が破損して漏水していた場合には階下が汚物まみれになってしまうからです。汚水管の点検が終わるまでは、2階以上のトイレは使わないようにしてください。
 最近は節水型と言うことでタンクレスの水洗トイレも増えていますが、タンクレスの場合には便器に直接水を入れるとうまく流れないものもあるようですので、あらかじめ便器メーカーにバケツで水を流した場合にきちんと排水ができるかどうかを確認しておいてください。
 ではトイレが使えない場合にはどうするかですが、トイレを閉鎖して、別に簡易トイレを設営するしかありません。
 これは、使ってはいけないトイレの中に簡易トイレを設置すると、通常通りの使い方をしてしまった場合に汚物が溢れて仮設トイレごと駄目になってしまうことが起こり得るためです。
 簡易トイレキットを複数準備し、設営場所を確保し、取り扱いにも習熟しておくことをお勧めします。
 飲食は我慢できても、人間の生理として、排泄は絶対に止めることができません。
 衛生環境を少しでも維持するため、まず避難所のトイレ問題からしっかりと検討し、備えておくことをお勧めします。

問題点はなんだろう

 災害に備えてさまざまな訓練をするわけですが、その訓練の目的は2つあると思っています。
 一つは資機材に習熟すること。訓練でしっかりと取り扱いができるようになっているからこそ、いざ災害のときでも問題なく資機材を使うことができるので、災害対策で備えている資機材は必ず使って慣れておく必要があります。
 そしてもう一つは、いざというときに発生するであろう問題点をあらかじめ洗い出しておくことです。
 実戦を想定した訓練では、どんなに完璧に行動しようとしても必ず問題が出るものです。その問題への対策を考えて又訓練し、という繰り返しによって、いざというときに機敏で確実に助かるための行動をとることができるようになります。
 ただ、なぜか訓練ではシナリオに従って完璧にこなさなければいけない風潮があり、訓練のための訓練になっているような気がしてなりません。
 訓練だからこそ、さまざまな意地悪な想定をしてさまざまな失敗をし、それを踏まえてより安全に助かる方法を考えることができるのですが、「うまくいかなかった=失敗」となると、心情的に失敗は嫌なので失敗させるような訓練は阻止しようという意識が働くものです。
 訓練のための訓練だとやる側は考えなくて済むので楽ですし、運営側も理不尽に怒られなくて済むので、本当に災害が起きるかもという考えがない限りは自然にそちらへ流れていくのは仕方のないことだと思います。
 それはともかく、訓練をしたときにどのような問題が発生したのかをチェックすることは非常に重要なことです。
 本当は参加者全部から訓練に対する意見を出してもらって訓練結果に反映できるようにすることが理想ですが、もしも意見を集める場がないとしても、あなたが災害対策の訓練に参加するときには、ぜひ問題点を考えながら参加して欲しいと思います。そして、できればその問題点の解決方法も併せて考えてください。
 訓練のための訓練であっても、問題点を探す目と解決策を考える頭が動いていれば、その訓練はあなたにとって必ず役に立つものになります。
 せっかく訓練に参加するのですから、あなたが生き残る確率を上げるために、少しだけ目線を変えてみて下さい。

【活動報告】第1回総会を開催しました

 令和3年5月23日に益田市の益田市民学習センターで当研究所が法人成りして初めての総会を開催しました。
 正会員10名全員のご参加をいただき、議案全てに対して全会一致で賛同をいただき、令和2年度の完了と令和3年度の活動が開始されることになりました。
 新型コロナウイルス感染症が地域で蔓延しており、行く先が混沌としていますが、それでも災害対策は進めていかなければなりません。
 会員の皆様方の思いを大切にして、気分も新たに新年度の活動を行っていきたいと思っています。
 お忙しい中お集まりいただき、陰に日向にご支援いただいている正会員の皆様に、こころから御礼申し上げます。

大雨への備えをしておこう

2020年の氾濫危険水位まで上昇した高津川高角橋付近。このあと雨がやんで事なきを得たが、今年はどうなるかわからない。

 令和3年5月15日、中国地方は梅雨入りしました。観測史上、2番目の早さだそうです。
 ちなみに、一番早かったのは1963年5月8日だそうで、その次が2011年5月21日となり、今回の梅雨入りが2番目の早さとなったということでした。
 さて、ここ最近の雨の傾向を見ると、短時間にピンポイントで大雨が降るというのが続いています。
 排水能力を超えて内面越水をしてしまうケースも増えていますので、家の雨どいや側溝の掃除は早めにしておいた方がよさそうです。
 その上で、水没しそうな環境にあるのであれば、土のうや水嚢の準備、そして貴重品の階上への移動は早めにやっておきましょう。
 そして、線上降水帯には要注意です。これが発生すると、局所的な大雨が降り続くことになり、水害の危険性が増してきます。
 避難所だけでなく、安全な宿泊先への移動など早めの避難をするようにしてください。特に高齢者の方や普段の生活に人の支援が必要な方については、災害時に備えて万が一の受け入れ先や受け入れ体制、被災後の生活場所について予め詰めておきましょう。備えて使わなくてすむことを目標にして避難計画を作ることです。人や地域によっては備えることが害悪のようなことを言われる方もいらっしゃいますが、考えたくないから備えないというのはあなたや周囲の人の命を危険にさらす行為です。
 できる範囲でしっかりと備えて、いざというときにも命を守る、命をつなぐ行動ができるようにしておきたいですね。

熱中症対策をしておこう

経口補水液やスポーツドリンクは熱中症対策に重要。でも、飲み過ぎ注意!

 暑くなったり寒くなったり忙しい天気ですが、どうやらだんだん暑くなってきているのは確かなようです。
 寒かったものが徐々に暑くなっていくのであれば、身体が馴化していくので大きな問題にはならないのですが、寒かったところがいきなり暑くなると、身体がついていけなくなります。
 それだけならいいのですが、温度変化に適応できないと熱中症になる危険性があるので注意することが必要です。
 炎天下に日差しの下に長い時間いないことや、水分補給、休憩をきちんととること、そして何よりも無理しないことが大切になってきます。
 ある程度馴化すると、身体が楽になるのですが、それまでは行動するときには時間に余裕を持たせることや睡眠不足を防ぐこと、飲料水を常に持ち歩くこと、そして万が一に備えて経口補水液や冷却剤を用意することを忘れないようにしたいものです。
 体温調整がきかなくなって身体がオーバーヒートしてしまうのが熱中症です。事前の予想である熱中症警戒アラートも以前にご紹介していますので、そちらも参考にして、できる限りの備えを持っておいてくださいね。

災害対策は必要なものに気づくかどうか

 災害対策というとさまざまな防災用品を準備して備えておくというイメージが強いかもしれません。
 ですが、殆どのおうちでそれなりの備えができていることにお気づきでしょうか。
 例えば、買い物用のバックやお出かけ用のカバンや袋がないおうちはまずないと思います。
 それから、食料品がまったくないおうちも殆どないと思います。
 ましてや、地方で周囲に商店がないような場所だと、まず間違いなく数日間過ごせるだけの食料備蓄はあると考えて良いでしょう。一人暮らしでも、インスタントラーメンくらいなら一袋くらいはあるのではないでしょうか。
 飲み水も、日本の場合は水道水であれば飲める水が供給されています。
 つまり、水道から取水している水は、基本的に飲用ができると考えて良いと思います。
 例えば、水洗トイレの水タンク、太陽熱給湯器、電気給湯器などは水道が止まっても水を取り出すことで飲料水を確保することが可能です。
 排泄物はどうでしょうか。
 昔ながらのくみ取り式であれば、水害でタンクが砂に埋もれない限りは使用が可能です。浄化槽もタンクが無事で曝気槽を動かすポンプの電源さえ確保できれば使うことは可能です。アパートやマンションの上層階に住んでいたり、下水道の地域では、例えばペットの砂や尿取りパットなどがあればしばらくは何とかなります。
 就寝具では、毛布は大抵のおうちにあると思いますから、その保管場所を覚えておけばいつでも取り出して使えます。
 普段生活しているのですから、非常時のために無理に完璧に備えなくてもある程度の災害対策はしていると考えてください。非常時に使えるものはどんなものがあってどこにしまってあるのか。それを知っておけばいいということです。
 災害発生時に1分1秒を惜しんでの避難が必要な地域にお住まいの場合には非常用持ち出し袋は必須ですが、そうでない場合には、ある程度場所を決めておくことで災害時にすぐ準備することが可能だと思います。
 普段使いのものを災害時にも使うのが、一番効率が良いですし、一番安心できるものですから、非常用持ち出し袋を作らないのであれば、どこになにが納めてあるのかを知ることが大切です。
 災害対策はしていないのではなく気づいていないだけ。
 普段の生活の中で、避難するときにいれる袋やいれるものをイメージし、いつでも持ち出せるようにしておきたいですね。

自助・共助・公助の関係

「自助・共助・公助」ということが、防災業界ではよく言われる言葉です。
自助は自分の備え、共助は地域の備え、公助は行政の支援になるのですが、次のようなものが図としてよく描かれています。

 この図だけで見ると、自分が備えていなくても共助や公助がそれをカバーするように見えるので大丈夫という感じに見えてしまうのですが、この図を時間軸で書き直すと次のようになります。

 つまり、単純に言えば「災害が起きたときはまず自分の命は自分で守れ、守ったら近所同士で命を繋げ、そしたらそのうち救援がくる」ということなのですが、大前提として、まずは自分が安全に生き残るというものがあります。
 ここが忘れられがちな部分なのですが、まずは自分が生き残るための手立てをきちんと整えていないと、災害が起きたときにはそこで人生終了となるという事実です。
 例えば、阪神淡路大震災では災害発生後、すぐにご近所で救出活動が行われてたくさんの人が助かったとされています。
 では、もしいま地震が起きたとき、ご近所の救出活動がいまあなたのお住まいの場所ですぐに開始できるでしょうか。
 多くの地域では高齢化が進み、家屋やがれきの撤去がすぐにできるようなパワーはもはやありません。また、若い人がいるところは近所付き合いがほぼ皆無ですので、やっぱり救助活動はしてもらえないでしょう。
 そう考えるとこんな感じの時間軸になります。

 時間軸で整理するとよくわかることなのですが、肝心な初動時には、自分以外誰も助けてはくれません。
 災害の規模が大きくなればなるほど、公助は遅れていきますし、場合によっては公助が行われない場合も想定しておいた方がいいでしょう。
 つまり、自助とは「自分の命は自分で守れ」という意味で、共助や公助はそれを支援するものだと考える方が精神衛生的によさそうです。
 これを図にするとこうなります。

 災害時には、あなたの命はあなた自身が守らなければ誰も守ってはくれません。
 あなたの命を守るために、まずはその方法を考えて一つでもいいので実行に移して欲しいと思います。

個別避難計画と福祉避難所

 今の国会で災害対策基本法が審議されていますが、その中に要支援者の個別避難計画の策定が市町村の努力義務であることが明記されました。
 過去の災害で高齢者の避難が遅れて犠牲になるケースが非常に増えているため、あらかじめ個別避難計画を作って、何かあればそれに従って避難ができるようにすることを目的とし、市町村や社会福祉協議会、介護事業者やケアマネージャー、自主防災組織が要支援者一人一人の状況に応じた避難計画を策定し、特別な配慮のされた避難所のスペースまたは福祉避難所へ直接避難できるようにするようです。
 これ自体は非常に有効性の高いことで、しっかりと進めていく必要性があると思っていますが、同時にいくつかの問題点も抱えていると考えています。
 まずは誰が要支援者なのかを開示するかどうかということ。
 これはもろに個人情報ですので、本人の同意なしに自主防災組織への情報開示はできません。
 自主防災組織はその地域に住んでいる人達で構成されている組織ですので、好き嫌いや恥ずかしさ、遠慮などがあって支援不要ということを言われる人もいらっしゃるようです。
 介護事業者や社会福祉協議会が対応することになると、今度は要支援者を誰が避難させるのかと言う問題が発生します。
 介護事業者や社会福祉協議会が24時間いつでも避難支援ができるような体制はどこも組んでいないと思いますので、どのように対応することになるのかが気になるところです。
 そして、福祉避難所として指定される福祉施設の立地条件。
 石西地方の福祉施設はなぜか水害や地すべりといった災害に遭いやすい場所に建てられていることが多いです。ある程度面積が確保できて土地単価の安いところということでこうなっているのだと思いますが、福祉施設に避難したらそこで被災したという笑えない状態になることが予測されます。
 また、安全な場所にある福祉施設は、多くの場合一般の避難所として指定されているのが現状です。福祉避難所として機能させる場合には指定者のみが避難できる場所になるはずなので、そのことを地域に周知徹底する必要もあります。
 人的な問題と設備の問題をどうやってクリアしていくのかという大きな課題はあると思いますが、こうでもしないと要支援者が被災地域から避難しないだろうと考えると、関係者にはがんばって欲しいなと思います。
 ついでに書くと、個別避難計画が必要なのは要支援者に限った話ではありません。
 地域に住んでいる全ての人がそれぞれ自分で作成しておくべきものですから、要支援者にとらわれることなく、しっかりと啓発していければいいなと考えています。

【お知らせ】ますだすまいる通信にご紹介いただきました

 益田市市民活動支援センター様が令和3年4月に発行されたますだすまいる通信第92号で、当研究所が3月27日二条公民館様からご依頼いただき講師をさせていただいた研修会を取り上げていただきました。
 当研究所の研修内容について第三者の目から見られた研修概要が掲載されていますので、どのような内容だったのかに興味のある方は、是非一度ご覧下さい。

ますだすまいる通信92号(益田市のウェブサイトへ移動します)