避難所設営基本の「き」その1・まず何をするか

 避難所の設営についてご質問をいただくことがあります。
 その時に最初に確認する内容、なんだかわかりますか。
 それは「施設の水源とトイレ」です。
 災害が発生して避難所を設営するとき、一番盲点になる部分であり、そして一番最初に問題が発生し、場合によっては最後まで問題になるもの。
 それがトイレ問題です。
 極端なことを書けば、くみ取り式で水を使わないストレート式、いわゆるボットン便所ならば通常使用で問題ありませんし、タンクレスの便器を使った下水道方式の2階以上のトイレであれば、問答無用で使用禁止を言い渡します。
 わかりやすく書くと、排泄物の処理に水が必要なのかどうか、そして一回に必要な水の量はどれくらいで、どの程度、どうすれば確保できるのかが問題になるということです。
 どんな人でもトイレは我慢できませんし、避難してきた被災者はトイレが使えなくなるということはまず考えていませんので、断水するとあっという間にトイレが汚物まみれの不衛生な場所になってしまいます。
 それを防ぐためには、災害時にトイレを使うことが可能なのかどうか、使えるとするとどうやったら使うことが可能になるのか、また、使えないのであればどのような手段を使ってトイレを作るのかということを事前に準備しておく必要があるのです。
 ざっくりとしたイメージですが、水洗トイレの場合、通常8~18リットルの水が一回の利用で必要となります。
 安全を考えると、10リットル以上の水が常時確保できないのであれば、水洗トイレは使うべきではありません。
 中途半端な水量だと、使用したトイレットペーパーが詰まって汚水があふれ出してしまうからです。水に溶けやすく作られているトイレットペーパーではありますが、それも水量が充分にある場合のこと。そうでなければ、溶け残ったものが固まってしまって汚水管を詰まらせてしまう原因になります。
 もしも水洗式のトイレであれば、タンク式でなんらかの方法でタンクを常に満水にできる条件が整っているのであれば、1階部分のトイレは使用可としてよいと思います。
 地震に限っては、2階以上は使用不可。これは汚水管が破損して漏水していた場合には階下が汚物まみれになってしまうからです。汚水管の点検が終わるまでは、2階以上のトイレは使わないようにしてください。
 最近は節水型と言うことでタンクレスの水洗トイレも増えていますが、タンクレスの場合には便器に直接水を入れるとうまく流れないものもあるようですので、あらかじめ便器メーカーにバケツで水を流した場合にきちんと排水ができるかどうかを確認しておいてください。
 ではトイレが使えない場合にはどうするかですが、トイレを閉鎖して、別に簡易トイレを設営するしかありません。
 これは、使ってはいけないトイレの中に簡易トイレを設置すると、通常通りの使い方をしてしまった場合に汚物が溢れて仮設トイレごと駄目になってしまうことが起こり得るためです。
 簡易トイレキットを複数準備し、設営場所を確保し、取り扱いにも習熟しておくことをお勧めします。
 飲食は我慢できても、人間の生理として、排泄は絶対に止めることができません。
 衛生環境を少しでも維持するため、まず避難所のトイレ問題からしっかりと検討し、備えておくことをお勧めします。

区画整理と住所割

 まるで不動産業者か行政機関のようなタイトルですが、別に土地のことをいいたいわけではなく、避難所を開設する際に大切なことを書き出してみました。
 避難所から「一時」の文字が消えると、そこは避難先から避難者の生活空間に変わりますが、一時避難所の設営時に区画整理していないと、場所を多く取る人、すみっこでじっとしている人、入り口にたむろする人など、避難所の状態が雑然として後々苦労することになります。
 避難所内で避難者が使える場所、使えない場所、用途を指定して使う場所を分け、その上で通路を確保し、一軒あたりの床面積を決めます。避難所を設置する際には、文句を言われても一番最初のこの作業だけは手を抜かないで下さい。
 一番良いのは、予め決めておくことで、そうすればいざというときにはそれに従って行動するだけなので、避難者を待たせずに済みます。
 そして、避難者の生活が始まったら、早い段階で住所割を作ることをお勧めします。
 どこの区画に誰がいるという情報は、避難所運営をするためには結構重要となりますので、これらも早めに作るようにしましょう。
 もちろん、さまざまな理由から住所割に名前を載せないで欲しいというかたもいらっしゃると思いますので、そのあたりは配慮する必要がありますが、これを作っておくと、後に尋ね人があったときに回答がしやすくなります。
 公開する住所割りの地図には、マグネットなどで人がいるのかいないのかだけわかるようにしておくと、運営がしやすくなると思います。
 区画整理と住所割。避難所運営でもっとも重要なことですので、もしあなたが避難所運営に関係している人であれば、あらかじめ準備しておくことをお勧めします。

避難所は立入禁止エリアをあらかじめ決めておく

 避難所を開設するに当たっては、どこを使おうかというところから話が始まると思いますが、大規模な災害の場合には収容能力を超える人が避難してくる可能性があります。
 その時に避難所として使える場所を決めている状態だと、最終的にどこもかしこも避難者だらけになって通常業務どころか避難所運営すらおぼつかなくなってしまいます。
 そのため、避難所を開設する際には最低限使っては行けない部屋と、その理由をはっきりとさせておく必要があります。
 例えば、学校なら職員室や事務室は避難者が入ってくるといろいろな不都合が生じるでしょう。体調不良者や妊産婦、授乳などのことを考えると、保健室も避難者が使ってはいけない場所となります。また、水が止まっているようであればとりあえずトイレも使用禁止にしておかないと、水を持ってきた頃には汚物で溢れて大惨事になっているかもしれません。

テープで出入口を閉鎖したトイレ
水が止まったら、とりあえず最初にトイレを閉鎖しないと汚物で大惨事となります

 次に、避難所運営のための本部の位置を確保します。
 大規模になればなるほど、ここがちゃんと確保されていないと、あとで揉めることになってしまいます。
 また、駐車場となる場所では、仮設トイレや給水支援などが受け入れられる場所を確保しておく必要があります。
 忘れがちですが、ゴミ置き場についても臭いが避難所に入りにくく、収集のしやすい場所というのを考えておかなくてはなりません。
 こうして考えていくと、避難所の設営準備というのは災害発生時では無く、平常時に決めておかなければいけないということが分かると思います。
 もちろん、実際の災害時には決めたように動かないかもしれませんが、少なくとも「使えない・使っては行けない場所」をあらかじめ決めておくだけで避難者の誘導がずいぶんとやりやすくなります。
 逆に考えれば「使えない・使っては行けない場所」以外は使えるわけですから、最悪、あらかじめ決めておいた場所以外全ての場所に避難者を入れることが可能になります。
 理想としては避難所として設定したエリアで収まるのが一番ですが、避難所が必要になってくる災害では、殆どの場合総定数を上回る避難者が来るものです。
 避難所開設を訓練するときには、そういった考え方を取り入れて行うとよいのではないかと思います。