その資機材は使えるか?

 非常用備蓄品として、集会所や公民館といった避難所になり得る施設にはさまざまな資機材が準備されていることも多いです。
 仮設トイレや段ボールベッド、仕切りやテントといったアイテムは、備え付けているだけではあまり意味がありません。実際に使ってみて、使い方を覚えておかなければ、便利なものであっても役には立たないのではないでしょうか。
 以前に避難所で、本来はパーテーションとして使われるはずの段ボールが避難者の敷物代わりになっていたという笑い話のような光景を見たことがありますが、これもその段ボールがなんなのかが運営者側にわからなかったため、敷物代わりに使われてしまったようです。
 もっとも、寒い時期にはパーテーションよりも床からの寒気を遮断するための道具として使った方がよいという見方がありますので、一概に悪いとも言えません。
 余談になってしまいましたが、備え付けてある資機材は、避難者や運営者が存在を知らなければないのと同じですし、使い方を知らなければやっぱりないのと同じです。
 また、資機材を使うために必要なものが欠落している場合があります。
 とある避難所予定の施設では、停電に備えてステンレス製のかまどが用意されていましたが、肝心の薪と鍋は備え付けてありませんでした。
 近所から持ってくる想定なのかもしれませんが、使うための資機材は一通り揃えておいた方が、いざというときに困らないのではないかと考えます。
 こんな例はたくさんありますが、せっかく準備する資機材ですので、避難者や運営者もそれがどんな道具でどうやって使うのかについて、できれば実際に使ってみて使い方を知っておいて欲しいと思います。

施設の避難計画はできていますか?

平成29年6月19日の『水防法』等の改正により、浸水想定区域などに所在する要配慮者利用施設の所有者または管理者に対し、避難確保計画の作成及び避難訓練の実施が義務となりました。
要配慮者と聞くと老人や障害者が思いつきますが、乳幼児もここに含まれるため、老人ホームや障害者福祉施設だけではなく、幼稚園や保育園、こども園も避難確保計画の策定と避難訓練の実施が義務化されています。
4月18日付けの読売新聞1面には、浸水想定区域にある幼稚園や保育園、こども園の2割が避難確保計画未策定となっているという記事がありました。
その理由は「施設側の人員不足や義務化されているという意識が薄い」と記事には書いてありましたが、行政側も人員不足やコロナ禍で立ち入り検査ができず指導が難しいようです。
正直なところ、未策定の数字が思ったよりも少ないなと感じました。
実際のところ、避難確保計画では避難の発動条件が施設管理者の判断に一任されているものも多く、誰が見ても避難と判断できる避難条件が決定されていないものは策定しているとはいえないと思っています。
また、避難開始から避難完了までは定めていても、避難先でどのように過ごすのかや、どのようになったら避難を解除するのかについても、明確に決めているところは少ないと思っています。
避難確保計画はピンからキリまでありますが、災害対策に関心のある人が作っているかどうか、そして管理者や所有者がどれくらい真剣に災害対策を考えているのかによって出来上がりの質が相当違っています。
現在は計画があればいいということで、かなり適当に作っているところも多いと思いますが、大規模災害が起きるたびに要配慮者利用施設で死者やけが人がでる現状を考えると、もっと真剣に取り組むことと、防災に通じた人と一緒に考えるなどして、生きた避難確保計画を策定し、生きた避難訓練をし、本番ではだれも死なないようにしてほしいなと思います。
 

子どもと要支援者の避難先

被災地の避難所で生活しなければならなくなった場合、子どもと要支援者の方の取り扱いについては少し注意が必要です。
大規模災害で被災すると、被災地の衛生状態や医療体制は崩壊、または限定された対応しかできなくなりますので、いざというときの支援体制には非常に不安が残ります。
また、子どもの生活環境についてもかなり劣悪になります。常に見知らぬ人がいますので落ち着きませんし、何が起きても避難所の避難者に目の敵にされてしまうことが多いです。
いろいろと考えてみると、子どもと要支援者の方については被災地外に一時的に疎開した方がよいのではないかという結論に、今のところはなっています。
ただ、広域的に知り合いがいる方や医療機関同士の相互支援協定が結ばれていたりすればいいのですが、そうでない場合には疎開させるといっても受け入れ先の問題が出てきます。
そういった部分で、行政機関同士の連携が必要になってくるのかなと考えています。
大規模災害が発生しても、被災地の人は被災地で生活しなければならないという妙な前提条件があるような気がしますが、被災地の人が被災地外へ疎開しても全然問題ありませんし、子どもや要支援者といった配慮のいる人達が普段の生活に困らない場所に行っているという安心感は、復旧を早める効果があるのではないかとも思います。
原子力災害では問答無用で被災区域外へ避難をさせられてしまいますが、普通の自然災害でも、そういった対象になる人は被災地域外に移動させて、被災地の負担を少しでも減らすようにした方がいいのではないかと考えています。
ああ

段取り8分な災害対策

 昨日も書きましたが、「災害対策=特別なこと」としてしまうと、対策は長続きしません。
 あくまでも日常生活の延長線上で考えていかないと無理が来ます。
 そして、災害対策は決して難しいことではありません。日々の生活の中で、ちょっとした意識を持てばいいのです。
 災害対策とは「災害が起きた後、日常生活の質をいかに落とさなくてもすむようにしておくか」という準備ですから、住んでいる地域や今いる場所がどのような災害に弱いのかを知り、それに対する備えをしておけばよいのです。
 例えば、山のてっぺんに住んでいる人が浸水被害や津波の心配をしてもあまり意味がありませんし、平地に住んでいる人が土砂災害のことを気にしても自分の生死には直接の影響は少ないです。
 あなたがいる場所にあわせた対策をとることが、災害後の生活の質を落とさなくてもすむ一番の方策なのです。
 災害に弱いからといって、いま住んでいるところを変えるのは難しいかもしれませんが、引っ越しや家を買うときなどは、土地の形や周囲の状況といったものをしっかり確認しておくだけで、災害時に避難しなくてはいけない状況を減らすことができます。
 また、建物がしっかりとした耐震化がしてあれば、地震後に慌てて避難所に駆け込まなくてもすみますから、家を買う際にはそこもしっかりと検討しておいてください。
 普段からの生活の質を落とさないという点では、避難所へ避難するよりも自宅で過ごせる方がいいはずですので、まずは住むところが安全出ることが必要です。
 そして、食事、水分、排泄がきちんと確保されていること。
 特に排泄は絶対に我慢ができませんので、トイレの排水が無理だというときにどうやってトイレを確保するのかについてはしっかりと決めておかなければいけません。
 仮設トイレを作るのか、トイレの排泄部分だけを仮設化するのか、それとも使えるトイレを事前に調べておくのか。
 そういった決めごとをきちんと定めておくと、災害のショックで頭が回らないときにでもトラブルの回避はできます。
 最近の災害は多種多様なものが起きているので、そのときにどのようなことに困ったのかはさまざまな事例が今ご覧のインターネットなどにもたくさん出ています。
そういった事例を見て、自分のところの対応がきちんとできているかを確認しておくようにしてください。
 災害対策も段取り8分です。訓練していないことはできませんし、準備していないものはありません。
 仮設トイレや段ボールベッド、物資の配給訓練などさまざまな訓練はされていると思いますが、その訓練に使っている資材についても、きちんと使えるものを準備しておくようにしてください。

日常の延長の災害対策

 災害対策というと身構えてしまいがちですが、その目的は「日常生活を守ること」です。
 普段の生活を守るための対策を行うので、日常生活の延長として考えるといいのではないでしょうか。
 乾物や缶詰など、長期保存できるものを日々の食事のメニューに組み込んだり、風呂の水を貯めておいたり、カバンに水の入った水筒を入れておいたりといった、ちょっとした気遣いがあなたにとっての立派な防災になります。
 無理に災害対応用の特別なものを準備するのではなく、普段の生活の中で備えをしていかないと、特別にしてしまうといつかは忘れて存在しないのと同じ状態になってしまいます。
 日常生活、例えば電気やガス、水道が止まったときにどうやったら質を下げなくて済むのかを考えて準備をしておくと、それが災害への備えになります。
 個人の災害対策は身構えるほど難しくはありません。できるところから少しずつ手をつけて、災害時に日常生活をできる限り維持できるように準備しておくことをお勧めします。

消火器は火を扱う全ての部屋に個別に準備する

 お恥ずかしいことですが、昨日小火を出しました。
 古いオーブントースターから出火しまして、火が大きくなるのに「火事、火事、水、水!」としか出ない言葉の貧弱さ。
 消火器は準備していたのですが、少し離れた場所に置いていたので取りに行くのに間に合いそうになく、火を消す水を汲むにも道具がありませんでした。
 ただ、筆者の声を聞いた子ども達は「濡れたタオル」「洗面器に一杯の水」「電話機の前で消防への通報準備」とそれぞれに動いてくれており、濡れたタオル+みずぶっかけで事なきを得ることができました。
 我が家では先日防災センターでの訓練で消火訓練もしており、そのときに職員さんが教えてくれた手順を元に、子ども達はそれぞれの判断で行動してくれていました。
 火を消して鎮火したオーブントースターを安全な場所へ撤去し、徹底的に水をぶっかけてからの反省会で、「小さな火でも消防へ通報する」と「火を扱う場所には消火器を置く」ことを決め、本日買ってきました。
 中型の消火器の方が確実性は高いのですが、置き場所の問題で当面は写真のようなエアゾール消火器を導入することになりました。
 日々の訓練はもちろんですが、資機材についてもきちんと整備し、いざというときにすぐに使えるようにしておかなければいけないと深く反省した筆者でした。

「だろう」と「かもしれない」

 運転免許を持っている方はご存じと思いますが、運転時には「だろう運転」ではなく「かもしれない運転」をするように教わっています。
 自分にとって都合の良い解釈で車を走らせるのではなく、危険が起きるかもしれないと考えながら運転をしろということなのですが、これは災害対策でも同じことが言えるのですが、なぜか災害時には、殆どの人は避難しなくてもすむような理屈を考えて手遅れになってしまったり、災害後のことを考えるあまり、あれこれと悩んでいるうちに被災してしまう方がたくさんいます。
 これらの共通することは「自分は死なないだろう」という考えですが、そんなことはありません。災害時にうかつな行動をしたり、判断が遅ければ死ぬ。自分だけは死なないという根拠はどこにもありません。
 運転時に何かおきるかもしれないと考えるのと同じように、災害対策では死ぬかもしれないと考えて、死なないための準備をしてください。
 あなたは小説や漫画の主人公ではありません。死ぬときにはあっけなく死んでしまう存在。それを忘れずに、しっかりと対策を考えていきたいですね。

【活動報告】ベーシックガバナンスチェックを受けました

 一般財団法人非営利組織評価センターというNPO団体の組織運営状況を第三者として評価してくれるところがあります。
 先日、中国ろうきんNPO寄附システムのご支援をいただいた際にふるさと島根定住財団様から受けてみてはというご案内をいただきましたので、試しに受けてみました。
 提出する書類はあれこれあって準備に少し手間取りましたが、評価結果としてはいくつかの指摘はいただきましたが、大きな問題はなさそうという評価をいただき一安心。
指摘事項については今まで意識していなかった部分についてのものが多く、できるところから順次修正や作成をしていこうと思っています。
 ベーシックガバナンスチェック自体は第1回目は無料とのことでしたので、当法人も受けることができたのですが、大きな団体であればともかく、当法人のような零細NPOではなかなか独善的になりやすいと思っているので、NPO法人を運営されている方は一度受けてみてもいいのではないかと思います。
 参考までに、当法人のベーシックガバナンスチェック結果通知を掲示してみますので、興味のある方はごらんいただければと思います。

ベーシックガバナンスチェック結果通知(特定非営利活動法人石西防災研究所)

避難所の表示に注意しよう

 災害が起きた、あるいは起きそうなときは近くの避難所へ避難するように、以前は誘導されていました。
 密を防ぐ必要があるとされている新型コロナウイルス感染症が蔓延してからは、できるだけ安全なおうちでは在宅で過ごし、危険エリアなどに住んでいる人が避難所に避難するように変わってきていますが、災害時には「○○地区に避難勧告」といった風に安全かそうでないかを考えない状態で避難指示が出させることが多いです。
 ところで、避難所にはそれぞれの災害に対応しているか否かがわかるようになっています。以前は「避難所は災害全てに対応」のようなイメージだったと思いますが、現在では「該当する災害に対応している避難所へ避難」となっていて、ハザードマップはもちろん、避難所にも可能な限り対応表を貼り出すようになっています。

 この対応表、どこの避難所でも周囲からよく見えるところに貼ってあるのですが、結構気がつかない人がいるようで、水害が起きそうだからといって水に浸かるエリアにある避難所に避難しようとする人がいます。
 せっかく貼り出してあるのですから、お住まいの地域の避難所がどのような災害に対応しているのかをしっかりと確認し、避難所で被災することがないようにしてください。

情報提供とリスク

 自治会や自主防災組織による地区防災計画の策定でネックになるのが、個人の情報をどうやって提供してもらうのかということです。
 隣近所がわからないこのご時世、そこに誰が住んでいるのかは情報の提供を受けない限り、さっぱりわからないものです。
 もちろん自治会に入っていれば家族構成はある程度わかりますが、そこに住んでいる人がどのような状態で災害時にどのような支援がいるのかは、恐らく誰にもわかりません。
 普段の生活でも支援のいる要支援者については、福祉と防災と地域が連携して要支援者の支援計画を策定することになっていますが、普段の生活はできているが、災害時の避難などに支援のいる人についてはどこも拾うことができません。
 ただ、家族の状態を知られるのがあまり嬉しくない人もいらっしゃるので、放っておいてくれと情報提供を拒否されることもあると思います。
 また、個人情報を気にする人にとっては、情報は行政が持つべきで近所の人が知るべきではないと考えている人もいますので、文字通りの地区防災計画を策定しようとしても一筋縄ではいかないのが現状です。
 ただ、地区防災計画というのはその地区全てが該当者になるわけではなく、地区防災計画の策定に関わった人に対する計画だということに留意して下さい。
 つまり、賛同者だけで計画を策定しても法律上は何の問題もないということになります。
 逆に考えれば、地区防災計画は一人で作っても「自分の地区防災計画」として認められますので、他の人が策定した地区防災計画に従わなくてもいいということで、情報提供はしなくてもいいということになります。
 ただ、その場合には何か起きても全ての責任は自分に降りかかってくるということを肝に銘じておかなければなりません。
 家屋が倒壊してもまず助けてはもらえませんし、状況によっては安否確認すらしてもらえないでしょうが、その覚悟を持ったうえでご自身の情報を提供しないという選択肢を選んで欲しいと思います。
 どこも人手が足りない今、正確な情報を提供して非常時には助けて欲しいとお願いしている人と、自分の情報は出さないが非常時は助けて欲しいという人では、助ける優先度が変わります。
 そういったリスクがあることを考えた上で情報提供について考えて欲しいと思います。