周囲の変化に気づくこと

側溝から水が溢れてくると外に逃げるかどうか判断が難しくなる

 当研究所が防災研修会などで避難判断のことをお話しするときに、必ず言うのが「身近なものの変化に気づこう」というものです。
 行政が発表する気象情報や土砂災害警戒情報、避難情報は、どんなに細分化できてもせいぜい地区までです。
 でも、同じ地区の中でもその災害に弱い場所とそうでない場所が必ず存在します。
 避難判断をしなければならないような場所に住んでいる場合には、例えば土砂災害警戒情報や避難情報が出る前に被害が発生しているかもしれません。
 もちろんなんともない場合もあるのですが、行政が発表する各種情報はあくまでも地区という「面」だと考えて下さい。
 でも、あなたが住んでいる場所は地域の中の一つの「点」です。その点の変化が一番よく分かるのは、そこに住んでいるあなたではないでしょうか。
 地震のようにいきなりやってくる災害はともかく、徐々にひどくなってくる大雨による洪水や内水氾濫、土砂災害等にはほぼ予兆がついてきます。
 その予兆に気づいて避難することで、あなたの命が守れるのです。
 例えば、土砂災害警戒地域であれば小石が崩れてきたり崖から水が噴き出してきているような状態はいつ崩れてもおかしくない予兆ですし、大雨が降り続いて家の前の側溝の水が普段見ないような水かさになってくると、避難を開始する必要があるでしょう。
きっかけはほんのちょっとした予兆なのですが、それに気づくことであなたの命の安全が確保されるのです。
 行政の発表する気象情報や雨雲レーダー、土砂災害警戒情報などを始めとする面の情報と、家の周辺の変化の情報を重ね合わせることで、より正確な避難判断が下せるようになります。
 本当は避難判断が必要ない場所に住むのが一番なのですが、狭い日本ではそんなことは言っていられません。普段はそこで生活しながら、非常時にだけ逃げるという判断もよいのではないでしょうか。
「身近な変化に気づくこと」
 あなたの命を守るために重要なことだと、当研究所では考えています。

同じ正解のない世界

 災害対策ではいろいろなことが終わってから言われるわけですが、それは災害が収まって落ち着いて、全ての結果がわかっているから言えることで、災害時に常に正しい答えが導き出せるとは限りません。
 同じ状況下でも、前回正解だと思っていた行動が今回は命の危険を招くこともあり得るわけで、過去の経験則がそのまま当てはまらないのが災害の特徴と言えるかもしれません。
 そういった事態をなるべく避けるため、避難訓練や研修会を重ねていくわけですが、問題が起きないようにやろうとすると、実はあまり意味の無いものになってしまいます。いざ本番でトラブルが起きても対処できるように、訓練ではより意地悪な環境や設定を行うといいと思います。
 もっとも、現実としてはそんな設定をすると関係者や上司にボロっかすに言われたりするのですが。
 ともあれ、災害対策は同じ正解のない世界です。あるとすれば、とにかく早めに避難することくらい。ただ、普段の生活や行動から、災害時のあなたにとっての正解を予想することはある程度できるので、普段の生活でちょっとだけ災害対策を意識してもらえると、よりあなたの命が安全になると思います。

常時と非常時の判断

台風や大雨など、ある程度早めから被害が想定される場合には、どのように対処するか悩ましいときがあります。
公共交通機関では基本的にBCPが準備されていて、その計画に従って計画運休することも増えてきました。
ただ、結果として何も起きなかった場合には、公共交通機関は計画運休したことを責められます。
困ったことに、何も無かったという事実は存在していますから、運休で困った人達だけでは無く、専門家という人達もマスメディアも喜んでバッシングをするわけです。
災害が起きたかもしれないという予測は、そういったときには完全に無視されます。
ただ、公共交通機関の場合、もし災害に伴って事故が起きるとその被害はけっして許容できるレベルではありません。
どのタイミングで常時と非常時のスイッチを切り替えるのかは、本当に判断に迷うと思います。
実はこの判断を迷わせずに実行するためにBCPが存在しているのですが、あまりバッシングすると、今度は現場の判断でBCPに従わないという選択肢が登場してしまうことになります。
そうすると、非常時に備えた計画そのものが破綻してしまいます。
公共交通機関は常に安全確実に利用者を目的地に連れて行くのが仕事です。
その目的を考えれば、災害時により安全な対応を判断することはおかしいことではないと思います。
計画運休は、数日前から予告されるものですから、それに従ったそれぞれの対応を取ることが正しい姿なのではないでしょうか。
日常生活を非常時にシフトすることは難しいものです。
特に通勤通学している人達にとっては、その所属する組織が「非常時とは」という定義をきちんと示しておく必要があります。
以前、大阪北部地震では、鉄道が止まったにもかかわらず会社や学校が通常どおり活動しようとして、あちこちで問題が発生しました。
判断に迷うときに日常を継続するのか、それとも非常時にシフトするのか。この判断、公共交通機関だけではなく、それぞれの組織や個々人もできるように準備しておきたいですね。
あっても、やっぱり判断には迷うのでしょうが。

【開催報告】防災研修会を開催しました。

 去る9月18日、益田市民学習センターにおいて防災研修会を開催しました。
 内容は「災害ってなんだろう?」ということで、災害の種類と基本的な逃げ方についてお話をさせていただきました。
 今回の参加者は当研究所の会員様ばかりで、講師をする側にとっては授業参観のようで非常に緊張しましたが、講義後に出席者の皆様からさまざまなご指摘をいただき、今後よりよいものを提供できるのでは無いかと自信をつけることができました。
 今回は土曜日の夜と言うことで、忙しく、そしてお疲れの中、参加していただきました皆様にお礼申し上げます。
 また、今後も不定期になると思いますが、小さな防災研修会を開催していきたいと思っていますので、興味があってご都合のつく方は是非一度参加してみて下さい。
 お待ちしております。

お店にハザードマップを貼っておこう

 あなたのお宅では、ハザードマップは壁に貼ってありますか。
 家だけでなく、避難経路についても赤線などでわかるように書いて、避難先まで問題ないかを確認するようにしてください。
 ところで、不特定多数の人が集まる食堂やレストランなどの飲食店では、災害が起きたときにどこへ避難すべきか知らない人が多くやってきて利用します。
 いざというときに安全な避難先がわからないとパニックになってしまいますし、少ない従業員の方で完全な誘導をすることも難しいですから、お店の位置と近くの避難所がわかるハザードマップを貼っておくといいと思います。
 貼る場所は、トイレの中。
 小便器を使っているときに目線がある場所や、個室の場合には扉の内側。用を足しているときは案外としっかり見てくれますから、そこへ掲示しておくとかなり効果的です。飲食店に限らず、不特定多数の人が利用する施設では掲示するようにしておくと、ある程度の混乱を避けることができると思います。
 ハザードマップは大事にしまっておくものではありません。活用してこそ作った意味があります。
 掲示したからといってお客様に何かが訴求できるわけではありませんが、いざというときに少しでもお客様の生存確率を上げることができる簡単な取組です。
 広告に混じっていても構いませんので、お店のどこかにお店の位置と避難場所を記載したハザードマップを貼り出してみませんか。

土のうと水のう

 水の浸水害を防ぐ方法の一つとして、土のうまたは水のうを積むというのがあります。玄関などの簡易な浸水防止手段として使えたり、堤を作ることで害の少ない方向へ水の流れを誘導することに使ったりします。
 ただ、どちらも事前に準備していないと使えないものですから、あらかじめその場所で浸水害が発生するのかどうなのかということを知っておく必要があります。
 周囲に比べて低地であったり、雨の際には水たまりや水の流れができやすい場所であれば、土のうや水のうは準備しておいた方がいいと思います。
 最近では吸水素材を使った土のうなどもありますから、ご自身の都合や保管場所にあわせて選択しておけばいいと思いますが、それぞれの利点と欠点を考えてみましたので参考にしてみてください。

1.土のう

 排水性のある袋に土砂を入れて積み重ねることで水を防ぎます。
 主に河川の決壊対策や土砂崩れを防ぐためなど、大規模な対策に使われますが、それ以外にもさまざまな場面で使われています。
 簡単に作れて設置も楽ですが、中に詰める土砂をあらかじめ準備しておかないといけないことと、詰め方や積み方にコツがあって人手が必要というところが問題点です。

2.水のう

 ポリ袋を二重にして中に水を詰め、それを置くことで家の玄関や排水溝などからの浸水を防ぎます。
 土のうに比べるとサイズが小さくなるため、家庭や事業所など小規模な浸水対策に使います。
 ポリ袋のため比較的形状が変わりやすく、複数の水のうを積み重ねて抑えることで、土のうに比べると浸水量を少なくすることが期待できます。
 また、水を詰めて置くだけなので、土のうに比べると技術が必要とされないところもメリットです。
 水は重いので大きな袋で作ると破れてしまうため、水のう用のポリ袋が大量にいることと、土のうに比べて作るのに時間がかかることが問題点です。

3.吸水土のう

 吸水ポリマーを使うことで、普段は保存場所を取らず必要な時に水を含ませることでしっかりとした土のうを作る災害対策用の土のうです。
土のうに近い性格を持っていますが、吸水させるだけで形ができて誰でも取り扱えるという点で土のうよりも優れています。
 よく誤解されていますが、浸水時に浸水箇所にこの吸水土のうを配置しても吸水している間に流れてしまいますので、浸水箇所のところで吸水が終わるまでしっかり押さえておくか、あらかじめ吸水したものを使う必要があります。
 土のうや水のうに比べて割高なこと、そして使い終わった後の吸水土のうの処分が問題点です。

 他にもゴムチューブを使った簡易堰(「ゴム引布製起伏堰」と呼ばれるそうです。)などもありますが、個人では殆ど使うことがないと思いますのでここでは触れません。興味がある方は「ラバーダム」や「タイガーダム」などで検索してみてください。

 最後に、土のうにしても水のうにしても非常に重たいので、運ぶときには腕や腰を怪我しないようにしてください。
 また、浸水が始まってから設置しようとしても遅いですから、浸水する可能性があると考えたら、天気が落ち着いているうちに設営しておくことをお勧めします。

制御された危険で体験をする

 新型コロナウイルス感染症のせいか、ここ最近アウトドアがはやりのようですが、それに伴ってさまざまな怪我や事故も増えているようです。
 刃物やたき火など、普段の生活で出てこないものを使うのがアウトドアの醍醐味ではあるのですが、それらは危険だということを知ってはいても経験がないため、引き起こされるトラブルも多いのですが、大きな事故や怪我を防ぐためには、制御されている状態で危険を体験することが大切です。
 二昔前くらいまでは日常生活でさまざまな体験ができていたのですが、現在は安全が最優先されて危ない目に遭うことがほとんどない状態ですから、さまざまな野外活動などで擬似的に危険を経験するしかありません。
 危険とは失敗ですが、指導者が見ているところで体験する危険は、命にかかわるものは殆どありません。怪我はするかもしれませんが、その代わりに危険について学習することができるのです。
 危険をしらないということは、どこで危険に遭遇するのかという予測もできないということです。危険を経験することで、他の部分でも危険を予測する力になり、災害時に自分が生き残ることのできる力になるのです。
 これから秋で過ごしやすい時期になってきます。
 屋外でのアウトドア教室ではさほど密にもなりませんし、個別に活動することも多いですから、そういったイベントに参加して危険に対する感覚を身につけ、生き残るための勘を養えるといいなと思います。

非常用持ち出し袋にはマスクを一箱入れておく

呼吸器はマスク、目はゴーグルで守るようにしよう。

 非常用持ち出し袋には、個包装された使い捨てマスクを一箱入れておくことをお勧めします。
 新型コロナウイルス感染症を含む感染症対策と言うこともありますが、一番の理由は災害後に呼吸器官系のトラブルから身を守るためです。
 というのも、地震や洪水と言った災害の後では細かい粉塵が舞っていることが非常に多いです。
 この粉塵を吸い込んでしまうと、咳や鼻水、ぜんそく、肺炎といった呼吸器系のトラブルが発生する可能性があります。
 特に子どもは早めに着用させる必要があります。
 地震で舞い上がる粉塵は50cm~1mくらいとされていますので、例えば地震後の避難時には子どもはマスクを着用しておかないと粉塵を吸い込んでしまいます。
 子どもは大人に比べると呼吸器の防御機能が弱いので、呼吸器系のトラブルが非常に起きやすくなります。
 マスクが無い場合には、ハンカチやタオルを使って口や鼻を守るようにしてください。また、粉塵を生活空間に持ち込まないということから、外から帰ってきたら使っていたマスクは密閉できる袋に入れて処分するようにします。
 呼吸器系からくる健康被害を防ぐためにも、マスクは忘れないようにしたいですね。

今日は救急の日です。

 本日は9月9日、語呂合わせで救急の日です。
 救急というと、まっさきに思いつくのが救急車。でも、石見の西部地方は面積が広くて距離があるので、救急車をお願いしてから到着するまでに数十分から1時間はかかります。
 そのため、救急車の到着までどのようにして救急車が必要な人の命を繋ぐのかが問題となります。
 簡単な傷の手当てや心肺蘇生、AEDの所在地や使い方など、ちょっとしたことを知っておくだけでも、いざというときに命が助かるか助からないかといった違いを生み出しますから、できればそういった学習をする機会を設けて、しっかりとした技術を身につけて置きたいものです。
 新型コロナウイルス感染症の関係で日本赤十字社や地区消防本部が開催する救命講座は殆ど行われていませんが、知識だけでも知っておいて欲しいと思います。
 youtubeの東京消防庁公式チャンネルで提供している心肺蘇生と怪我への応急手当の動画をリンクしておきますので、救急の日にあわせて見ていただけるとうれしいです。

夜に避難訓練してみよう

 避難訓練というと日中の条件のよいときに行うことが殆どです。
 避難とはどのようなものかを体験してもらい、事故が起きないようにするためにはそうするしかないのですが、毎回同じ条件だと慣れっこになってしまうものです。
 災害は夜中に起きることがありますから、条件を変えてみることも兼ねて、一度夜間に避難訓練してみることをお勧めします。
 もちろん快晴の時で構いません。月明かりや星空の下、自分たちが決めている避難先まで移動してみるのです。
 平時は防犯灯がついていますのでそこまで危険でもありませんし、夜道を歩く練習にもなります。
 実際にやってみると、普段歩き慣れている道でも、夜歩くとまた違った表情を見ることができて意外な発見があったりします。
 これから秋。涼しく歩ける季節になります。
 避難が必要な場所にいる方は、一度やってみてはいかがでしょうか。