まず上を見る

写真のような豪華な天井は、地震時には凶器になりうる可能性がある。

 あなたのお出かけ先で地震が起きたとき、あなたはまず何をしますか。
 建物外に逃げ出すとか、その場でダンゴムシのポーズをとるとか、柱のそばによるとか、人によっていろいろだと思います。
 また、あなたがいる場所がどんなところなのかによっても変わってきます。
 一つだけ共通して言えるのは、まずは上を確認するということです。
 地震の際に危険ものはいろいろとありますが、もっとも危険なものは上からの落下物です。高さがあるところからの落下物に直撃されると、場合によっては死んでしまうこともありますので、まずは頭上の安全を確認して下さい。
 まずければ、揺れていても少しでも安全な場所に移動しなければ危険です。
 逆に頭上に何も無ければ左右の安全を確認し、それでも大丈夫なら危険はかなり少ないと言えます。
 避難訓練で防災ずきんやヘルメットを被るのは、それだけ頭上から落ちてくるものが驚異ということですので、まずは頭上の確認を行います。
 気持ちに余裕があるようなら、移動しながら頭上の確認をするくせをつけておくと、いざというときの動きが早くできます。
 身を守る行動といういわれ方をしますが、その一番最初は頭上の安全確認。
 これを覚えておいて欲しいと思います。

マニュアルとパクリ

 学校や施設には必ず災害対応マニュアルが備え付けられているはずですが、そこにお勤めの方でそれを読んだことがある人はどれくらいいるでしょうか。
 マニュアルというのは、作業手引きのことですから、読んで中身が理解できるようになっていないと役に立ちません。
 ところが、作られたマニュアルを見ると、本当にこれで大丈夫なのかと思うものもたくさんあります。
 とあるところでは、なぜ災害対応マニュアルが必要なのかということや、作成した意義などが延々と書かれているのに、実働の部分では『管理者が判断する』としか書かれていないものがありました。
 確かに最終判断や起きたことの責任は管理者が行うべき性格のものですが、得てして管理者不在のときに災害対応マニュアルを見たいといけないような大きな出来事が起きたりします。
 災害対応マニュアルは「誰が」「どのタイミングで」「何を」判断し、「どこまで」「どのように行動するのか」について、誰が責任者になったとしても判断が可能なものを作っておかないと意味がないことになります。
 また、非常に良くできているマニュアルもあったのですが、その施設には無いはずの高層階からの避難手順が記載されていて、どこからか内容を拝借してきたのだなとわかることもありました。
 パクることは著作権法で定める範囲を守る限りはまったく問題ありません。
 よいものはりどんどんまねるべきですし、そうすることでより現実的なマニュアルが整備できます。
 ただ、パクった中身はしっかりと確認しておかないと自分のところとは合わない場所が必ず出てきますし、いざ本番でトラブルになるのも、そういったところだったりします。
 マニュアルは現実の行動に即して作成し、パクったら中身を必ず自分のところにあわせてカスタマイズすること。
 そして、出来上がったら実際にそのとおり行動してみることで、マニュアルにあるもの、ないもの、追加記入がいるもの、削除すべきものが次々に出てきます。
 防災訓練を経て、災害対応マニュアルをより実戦に即した形にしていくことが大切なのです。
 どこから拝借してきてもいいのですが、それをそのまま使ってお茶を濁すのでは無く、自分のところにあった内容に書き換えていく手間は惜しまないようにしてほしいと思います。

仕事と家族の行動

 あなたがお仕事をしていらっしゃる方だとしたら、あなたのお仕事は災害が発生した後、どのような対応をとるのかについてご存じだと思います。
 発災後すぐに帰宅できる方、発災後すぐには無理だがその日のうちに帰宅できる方、発災後ある程度落ち着くまでは帰宅できない方。
 お仕事によっていろいろだと思います。
 もしあなたが災害が起きたら家に帰れないようなお仕事をしているのであれば、家族がどのように動くのかについてしっかりと話をしておくことをお勧めします。
発災後は仕事に追われるものですが、家族が気になっているとなかなか仕事に集中できないものです。
 でも、家族がどのように行動しているのかがあらかじめ話してあれば、「現在はたぶんああいった行動をしている」というようなイメージができますから、ある程度落ち着いて仕事ができます。
 仕事が一段落して家族と合流しようと思った時も、家族がどこにいるのかはある程度予測ができるので、無駄な動きもしなくて済みます。
 また、家族にも帰れないことを宣言しておくことで家族もそのつもりで行動をするでしょうから、あらかじめの動きはしっかりと決めておいてください。
 その情報を家族で共有することで、より安全な行動が取れるようになると思います。

子ども用マスクを準備しておく

 ここ最近では新型コロナウイルス感染症対策で小さな子もマスクをつけていることが多いですが、この騒動が収まった後も、災害後は歩ける子どもはできるだけマスクを着用するようにしてください。
 というのも、災害後には非常に細かな粉じんが舞っており、地表から1mくらいは常に粉じんがある状態だと考えて間違いありません。
 呼吸器系に吸い込むと健康には良くないですので、マスクで防除するようにします。
また、できるならば目の粘膜を守るためのゴーグルもかけておいてください。水泳用のもので充分機能すると思います。
 それから、可能であれば雨合羽などの粉が落ちやすい表面のつるんとした上着を着用させるようにしておくと安心です。
 ここまで読んで気がついた方もいらっしゃると思いますが、災害後の粉じん対策は花粉症対策と同じ方法です。
 花粉症対策を粉じんが収まるまでやると考えて行動していただければと思います。
 また、もっと小さい子どもの場合には、家の中でも少しだけ高い場所にいるようにしておくと安心です。

誰が迎えに行くのか?

 家族一緒に一日中毎日生活している人は、恐らくいないと思います。
 子どもが学校に出かけたり、親は仕事に出かけたり、家にいるお年寄りもディーサービスに出かけていたりして、案外と家に誰もいないということも多いのではないかと思います。
 さて、そんな状況下でもし災害が起きたとしたら、子どもと年寄りをどうやって家に帰らせますか。
 学校や施設が責任持って家まで送ってくれるのであれば問題なのですが、そんなケースはほとんどないと思います。
 多くの場合、何か起きたなら学校や施設まで利用者を迎えに来るように決められているのではないでしょうか。
 もしも災害時の引き渡し方法がきちんと決められていない、または知らないようでしたら、すぐに確認されることをお勧めします。
 保育園や幼稚園では、ほぼこの引き渡し方法が確立されていて、園児の親も大体ルールは知っているのですが、学校に入った途端どうなっているのか分からない場合も多いからです。
 また、お年寄りが出かけている施設でも同じ事が言えます。普段は送迎してくれていても、災害時にどうするのかについては取り決めがないこともあるのではないでしょうか。
 そして、ご家族が学校の近場でお仕事をしているのであればいいのですが、家族が全て遠くに働きに出かけている場合もよくあると思います。
 そういった場合には、家族以外で誰に迎えに行ってもらうのかをあらかじめ決めておかなければなりません。
 誰が迎えに行くのかという情報は、迎えに行く側だけで無く引き渡す側にも伝わっていなければ、引き渡しの際に揉める元になります。
 学校や施設、あるいは避難先に誰が迎えに行くのか。
 ご家族で検討して、家族みんなが知っているようにしておいてくださいね。

災害対策はまず自分のことから

市販品の非常用持ち出し袋セット

 災害対策の講習会というと、よくあるのが地域を対象とした救助訓練や炊き出し訓練、避難訓練などです。
 これはきちんとやれば効果が出るものですが、訓練のための訓練をしていてはあまり意味を成しません。
 元々の災害対策は、まずは自分が生き残るために行うものですから、まずは自分の備えをきちんとしておく必要があります。
 あなたが必要なものと近所の人が必要なものはかなり異なるのが当たり前ですので、まずあなたに何が必要なのかをしっかりと考えて準備して下さい。
 例えば、入れ歯、眼鏡、杖、補聴器、持病の薬などは、もし無くなったとしたら、あなた以外の人のものを転用するわけにはいかないものが殆どです。
 食物アレルギーを持っている人なら、自分が食べられる非常食の用意も必要ですし、抗アレルギー薬も準備しておく必要があります。
 そういったものを優先的に予備を準備していくことで、自分に対する備えができてくるのです。
 共助も公助も、たくさんの避難者をとりあえず助けるために準備されているものですから、個人として必要とされるようなものはまず配給されないと思って下さい。
 防災の専門家や書籍に書いてあることはあくまでも参考例です。
 あなたは、まずあなたに必要とされる対策をあなたのために準備するところから始めてほしいと思います。

足湯と手浴

 大規模災害で被災すると、さまざまな原因から被災した人は精神的に緊張した生活を送ることになってしまうことが多いです。
 精神的に緊張すると、身体も緊張してしまい、気がついたら寝不足や体調不良が身体や心に出てきますから、できる範囲でも緊張をほぐす時間が必要になります。
 日本人の特性なのかどうかはわかりませんが、大きなお風呂にゆっくりと入るとかなりリラックスできる人が多いのですが、大規模災害後には水や燃料、設備の不足や衛生面の問題などから、なかなかそういったことは難しいようです。
 その代わりに、足湯や手浴をしてみてはどうでしょうか。
 バケツや洗面器にお湯を入れて手や足をつけるだけなので、誰でもできますし難しい技術も必要ありません。
 そして、身体全体が暖まって緊張をほぐすことから、安眠やこころの緊張の緩和効果も期待できます。
 被災地への支援では、ボランティアによる足湯や手浴が行われることもあり、マッサージが追加されていることもあってか、非常に評価は高いようです。
 大規模災害もある程度落ち着いてくるとお湯は手に入りやすくなると思いますので、被災者の緊張緩和の方法の一つとして避難所運営やボランティア支援に入る人には知っておいてほしいと思います。

低体温症に気をつけよう

 登山や屋外での運動をやっている人は割とよくご存じだと思いますが、低体温症には季節は関係ありません。
 夏であっても、身体から熱が奪われてしまって低体温症にかかってしまい危険な状況になることがあります。
 低体温症は本人が気づいたときには一人では手の打ちようが無い状態になっていることが多いので、意識して低体温症にならないように気をつけておく必要があります。
 では、低体温症はどうやって起きるのでしょうか。
 低体温症は、身体が作る熱が何らかの原因で奪われてしまい、熱を作ることができなくなる状態を指します。
 例えば、夏にはやる方がそれなりにいる沢登りですが、水の冷たい上流部で水に浸かり続けていると感覚がなくなり、震えがきます。これは低体温症の予兆で、そのうちに手足の指の動きが鈍くなったり、肌の感覚がマヒしたりしてきます。
 その後は全身の動きが鈍くなったり、転んだり。意識がはっきりしなくなると危険な兆候です。
 最終的には寒いという感覚がなくなって眠くなって絶命してしまうので、そうなる前に手を打ちましょう。
 基本は,身体を乾燥させて保温することです。
 保温といっても、意識が混濁しているような状態のときには、かなり体温が下がっていますので、ストーブや湯たんぽなどでいきなり温めると心臓マヒを起こすことがありますので、ゆっくりと温めていくしか手がありません。
 で、この低体温症、大雪の最中に屋外作業をしたり除雪しているときにも起こります。雪に埋もれると一気に低体温症になりますし、除雪などで汗をかいたあと寒風に吹かれれば同じように一気に低体温症になります。
 とにかく小まめに休憩をとって身体を冷やさないこと。そして雪や汗で身体が濡れたら、すぐに拭き取って乾いた衣服に着替えることを基本に行動をしてください。
 低体温症は条件さえ揃えばどんなところでも起こり得るものです。
 そのことを忘れずに、どうぞご安全にお過ごし下さい。

避難所の鍵

避難所としてよく使われる体育館。ここは誰が鍵を開けるのでしょうか?

 小さな自治会の避難所であれば、避難所の鍵がどこにあるのかというのは皆さんご存じだと思います。
 災害対策や施設の利活用に熱心なところであれば、鍵の貸し出しや保管方法のルールも定められているのではないでしょうか。
 地域で災害が起きそうなとき、その地域の人が誰でも避難所の扉の鍵を開けることができているのは、避難所の基本です。
 では、大規模な避難所はどうかというと、大規模な避難所では、殆どが施設管理者しか鍵を持っていません。
 施設が開いている時間に避難所になるのなら問題ありませんが、施設が閉まっているときに避難所を開設しようとしても、鍵が無いので避難所には入れないということになります。
 そのため、学校や大きな施設などは、災害時には施設は解放せず、災害が収まってから避難所として解放するというところもあるようです。
 施設の鍵が複数あることは、防犯上好ましいことではありませんし、平時にその鍵を使ってトラブルが起きることは、施設管理者としては認めることができないことだと思いますから仕方がないことなのですが、避難してくる人から見ると施設側の都合はどうでもよくて、避難してきたのに避難所は鍵がかかっていて入れないという事実だけが残ります。
 かといって避難してきた人が鍵を壊して勝手に入ってしまうと、これは不法侵入になってまた別の騒ぎになってしまいます。
 本来は避難所の開設の一番最初の手順である鍵の問題は平時に取り扱いを決めておかないといけないのですが、災害が来ると騒がれている地域でも、それが完全にできているわけではないようです。
 あなたが避難することのできる避難所の鍵は誰がいつ、どうやって開けられるのか、避難訓練などのときにでも確認しておいた方がよさそうです。

必要なものと代替品

災害対策の物品でよく出てくるのが「○○の代替品として」というものです。
「○○があるとこんなものが作れますよ」といった内容なのですが、正直なところ、「必要なものはきちんと準備しておけ」と声を大にして言いたいところです。
被災して手元にまともなものが無い状態といった事態に備えてということなのでしょうが、最初からものが無い前提で代用品を考えるのは本末転倒。
まずはその目的に応じたアイテムをきちんと用意しておくことが重要です。
災害時にはさまざまなものが不足します。よく出てくるのがおむつなのですが、紙おむつの代替品としてよく出てくるのがビニール袋とタオルを使った袋おむつです。
ビニール袋は水を漏らしませんが、足やお腹の結び目から漏れ出すのでそれを防ぐためにかなりきつく結ぶことになります。
すると、出したおしっこはそのまま代用品おむつの中に閉じ込められ、蒸れて非常に不快です。
布おむつに慣れている人なら手早く交換して赤ちゃんの下半身の乾燥状態を維持できますが、紙おむつに慣れている人だと、濡れたら交換しないといけないということが理解できていない人もいると聞きます。
そんな状態になったら、赤ちゃんは泣き止みませんし肌もかぶれたりして後が大変です。
それなら、普段持ち歩くカバンにおむつカバーを一つ入れておけばそこまで困らなくても済みますし、紙おむつの予備を持ち歩ければ、そもそも悩まなくてもいい話です。
何も無い状態に備えて代替品の作り方を知っておくことは大切ですが、それを前提にして何も準備しないという考え方は困ります。
代替品はあくまでも非常時の非常用であり、可能な限りその目的に適切な道具を準備した方がストレスがかかりません。
できる限りその目的に応じたアイテムを準備しておいてくださいね。
ちなみに、代替品を準備するときの考え方は「それは何を目的にしているのか」です。
さっきのおむつの話では、赤ちゃんがおしっこやうんちをしたときに親や周りに被害が及ばないようにするのが目的ですので、考え方によってはおむつをつけないと言う選択肢もあります。
難しく考えずに、もしもアイテムがなければ、そのときに「どうやったらその目的が達成できるのか」を考えて代替品を準備すれば失敗はあまりないと思います。
変にとらわれず、柔軟に考えたいものですね。