大人の訓練、子どもの訓練

 防災活動の一環として、避難訓練などの支援をすることがあります。
 支援というのは、避難訓練のタイムスケジュールや訓練時の状況作成、訓練後の講評などさまざまですが、このうちで、一番喜ばれないのが訓練講評です。
 講評をするにあたっては、人の命を守るべき仕事のある人には厳しく、自分の命を守ればいい人はそれなりに見ていくのですが、どんなに頑張ったとしても、必ず一つや二つの修正点、改善点は発生します。それを指摘して改善や修正方法を提案するのですが、これを「あら探し」と感じる人もいて、非常にやりにくいことがあります。
 大人だけや子供だけの訓練はそれでも比較的楽なのですが、大人と子供が入り混じった訓練になると、途端に大人が傍観者になって参加している子どもたちの講評を始めてしまいます。
 そういった人は、たいてい自分の訓練が満足にできていない方なので、どうしても辛口の評価になってしまい、後で怒られることもしばしば。
 大人と子供が入り混じった避難訓練では、大人は子どもの講評ではなく、安全を確保するための誘導をしてほしいのですが、なぜか大人が指示を出し、子どもがそれに従って全員死亡の評価になったりするので、本当に難しいなと思います。
 大人であれ子供であれ、自分の命を守るのは最終的には自分でしかできません。他人に命を預けてはならないのです。
 本当は防災訓練でそういったことを徹底したいのですが、大人は指示慣れ、子どもは指示待ちになってしまっている場合が多いので、普段の生活を変えなければ、災害時に助かる人を増やすことは難しいのかもしれないなと思うことがあります。
 大人だけ、子どもだけの訓練ではこういったことは発生しないので、混ざったときにどうやって生き残るすべを身に着けてもらうのか。
 これができたとき、東日本大震災で子供達の避難が大人も救ったような状況が作れるのにと、少しだけ歯がゆい思いもしています。
 どのようにしたら大人も子供も一緒になって助かることができるのか、試行錯誤は続きます。

避難所にいかない避難

 大規模災害が起きると、行政の準備している避難所はほぼ確実に避難者でパンクします。
 そうなると避難所難民が発生してしまうわけですが、どこの避難所もパンクしているので避難先がない人が必ず出てきます。
 そう考えると、避難所に避難しない避難方法を考えておかないと、自分の身を守ることができないということになりますので、平時にしっかりと考えておくようにしてください。
 一番いいのは、自宅が避難先になることです。水没する場所にないこと、台風や地震に耐えられる構造であることなどが要件になりますが、自宅から出なくて済むのであればそれが一番落ち着くし、安心できる避難先だと思います。避難所に配られる食料品や日用品は自宅避難者も受け取ることができますので、生活環境を考えると、自宅が一番だということになると思います。
 次に、予測できる災害に限りますが、被災予想地域から出てしまうことです。被災予想地域から出てしまえば、とりあえず自分の命を守ることはできます。小旅行にしてしまえば、災害から避難しながら楽しむこともできるのではないでしょうか。
 あとは、安全な場所にいる親せきや家族の家を頼るか、知り合いのいるところに行くか、別荘や別邸を用意するかといったところですが、ここ最近の避難所の考え方は、避難所にしか避難先がない人が避難所に入るという設定に変わってきています。
 あなたが災害時に避難しなければいけない場所に住んでいるとしたら、避難所以外に避難する先を準備しておいた方がいいと思います。
 そして、何よりも早めに避難を開始することです。
 避難が空振りしたからといっても、誰も責めも笑いもしません。もし空振りしても「何もなくてよかったね」といえるだけの心の余裕も持てるといいですね。

管理責任を明確化しておく

  

 学校や公民館、集会所や体育館、大規模な寺社仏閣などは、平時はそれぞれの利用がされていますが、災害時には避難所やご遺体の収容所、応援部隊の仮宿など、さまざまなことに転用されることになります。
 もしあなたがこういった施設の管理者だった場合、転用されたときの責任は誰にあるのかについてきちんと明確化されているでしょうか。
 決まっていなかった場合には、かなり高確率でその施設を普段管理している人が災害後も引き続き管理させられる場合が多いですので、災害時にも普段の仕事にプラスしてややこしい仕事がやってくることを覚悟しておきましょう。
 避難所以外の場合には、行政職員や警察、消防、自衛隊、その他入居する団体がきちんと管理してくれるのですが、避難所だけはなぜか施設管理者に押し付けられるケースが多いのです。
 そうならないためには、例えば平時にその避難所を利用する可能性のある人たちを集めて避難所運営委員会を作り、その中で運営手順や管理責任者についてきちんと決めておくことをお勧めします。
 避難所の運営は避難者のことにプラスして、情報や物資の集積所、支援申請窓口などかなり多岐に渡ります。きちんと運営マニュアルややることになれている人がやるのなら問題はないと思いますが、そうでない場合には、自分のことは当座なにもできないことを覚悟しておきましょう。
 ちなみに、こういった避難所に派遣されてくる行政職員は当てになりません。行政職員という看板は背負っていますが、彼らは防災のことについてはほぼ何も知りません。基本的には災害や避難所運営の知識はないと考えておいた方がいいです。
 管理責任を明確化しておくことで、誰が責任者なのかが明確になります。責任者がはっきりしていれば、善かれ悪しかれ行動や判断が素早くできるようになりますので、平時のうちにしっかりとした検討をしておくようにしてください。

避難訓練

 避難訓練は少なくとも年に1回はやることになっているところが多いと思いますが、あなたは参加していますか。
 自治会や地区の避難訓練ではそうでもないのですが、学校や施設等の避難訓練だと、なぜか偉い人ほど参加しないという光景が見られます。
 例えば施設長や園長、校長や、担任の先生も参加せずに指示を出していることもよく見られる風景です。
 自分が目を光らせて全員を訓練に参加させるという考え方はいいと思うのですが、実際に自分もやらないと、本番では怪我したり、避難し損ねたり、場合によっては死んでしまったりすることも考えられますので、できる限り当事者として訓練に参加してほしいと思います。
 訓練参加者は、言われることではなく行動を見ています。
 偉い人が真剣にやれば、それは訓練参加者にもしっかりと伝わるので、きちんとした中身の濃い訓練になります。
 訓練の講評は、講評担当の人を毎回ランダムで選んでしてもらうか、当研究所のような防災の専門家に依頼すれば済む話なので、偉いからと傍観者にならずにしっかりと訓練に参加してください。
 新年度に入って、これから避難訓練を行うところも多いと思います。
 毎年同じような訓練になるかもしれませんが、その場所にあった知見を取り入れて行う訓練なら、必ず本番で役に立ちますから、訓練を目的にするのではなく、訓練によって得られる成果を目的に取り組んでほしいなと思います。

防災計画は現実的ですか

 東日本大震災における大川小学校の損害賠償請求事件では原告が全面勝訴しています。このことは割と有名な話なのですが、この中で裁判所が「事前防災の予見と不備」を大きな理由にしていることはご存じですか。
 人が集まっている学校などでは、想定されうる災害についてきちんと精査し、条件変更のたびに防災計画をきちんと見直すことが必須とされています。
 詳細は裁判所の判例をご確認いただきたいのですが、筆者の解釈では、この判例の前提にあるものは、学校に限らず、人が集まる施設では起こりうる災害とその対策についてしっかりと精査したうえで可能な限り犠牲者を出さないための対策を行う必要があるということなのではないかと思っています。
 学校や病院、介護施設、保育所やこども園などでは、ほとんどの場合防災計画が作られていると思います。ただ、それはきちんとそれらがある場所の状況を反映し、的確に安全確保ができるものになっているでしょうか。
 特に介護施設などでは、筆者の知る限りでは防災計画のひな型を適当に手直ししたものが備え付けられていることが多いですし、見直しや改訂もまったくされていないものもよくあります。
 法律上は防災計画が立てられていて計画書が備え付けられているので問題がないと判断されるのですが、それで安全がきちんと確保されているでしょうか。
 防災計画を一から作れというのは結構ハードルが高いと思うのですが、これらの施設に義務付けられている避難訓練の状況や結果を防災計画書に反映させることはできると思います。
 もしあなたが防災担当をしているのであれば、今からでも遅くはありません。
 自分の担当している防災計画書を見直し、地域の災害リスクや要件をきちんと満たせているか、そして実際に安全確実にできるような計画になっているかを確認し、しっかりとした安全を確保してください。
 余談ですが、介護施設は特に地域の中では危険な場所に建てられていることが多いです。立地からすでにリスクがあるのですから、しっかりとした対策を作って実行できるかどうかを確認することをお勧めしておきます。

大川小学校津波訴訟判例文(裁判所のウェブサイトへ移動します)

基本は自宅避難です

 災害対策の考え方の普及が進んだのか、それとも新型コロナウイルス感染症などで敬遠されているのか、在宅避難の人はかなり増えているのかなという気がします。
 自治体が設定している指定避難所の収容人数を確認すればわかるのですが、もともとその地域の人間をすべて収容できるような避難所はほとんど存在しません。
 避難しないといけない状況にある人が他に選択肢のない場合に自治体の設置する指定避難所に避難するというのが考え方の根底にあるからです。
 また、物理的に避難地域の全ての人を収容できるような施設がないということもあると思います。
 ではどんな前提で避難所に避難する人が決まるのかというと、以下の図のようになります。


 まずは自宅にいることができるのかどうかがスタート。
 自宅にいられない場合に、他の家族や知り合いなど、避難しなくてもいい人たちの家などに避難できないか、また、安全な場所にある宿泊施設などに避難できないかが選択肢に上がります。
 そして、どうにもならない場合に初めて指定避難所への避難が選択されるということになります。
 過去にはなんでもかんでも避難所に避難しろという乱暴な時代もありましたが、これだけ大規模災害が続くとそんなことも言っていられないということがわかってきたようです。
 避難指示が出ても、それはあなた特定の話ではなく、その地域全体の話です。
 まずはそれが自分に当てはまるのかどうか、そして当てはまっている場合にはどこへどうやって避難するのかについて、可能な限り事前にしっかりと決めておくことをお勧めします。

避難する人の心構え

高いところへ避難するのを習慣づけておくと、少なくとも洪水や津波対策はできる。

防災訓練などでは、高齢者を始めとする要配慮者は自主防災組織などがお迎えに出かけて避難させることがよくあります。
ただ、毎回の訓練でそれを毎回やってしまうと、要配慮者の方は「迎えに来るまで待っていればいい」といった判断をしてしまい、津波などに対する避難が間に合わないことが発生します。
避難に支援がいる方々ですから、急いで避難させるためにはどうしてもそういった行動になってしまうのですが、緊急時に迎えが来ず、いつまでも自宅にいると危険な場合も想定しておく必要があります。
ご本人が判断に迷うような場合もありますので一概には言えないのですが、そういった場合には、ご近所の方が危険が迫っていることだけでも知らせるような仕掛けを作っておいた方がいいでしょう。
もっとも、危険が迫ってくることを知らせると、なし崩しにその人の避難支援を行うことになる場合が想定されますので、最終的には非常時に備えて自主防災組織だけでなく、普段地域に在住している人たちもそういった支援を行えるようにしておく必要があるかもしれませんね。
そして、避難訓練では災害発生のタイミングや避難行動開始をすべて主催者が説明してしまうこともよくあります。
時間内に終わらせようとするとどうしてもそうなってしまうのですが、本番では誰も避難開始など教えてくれませんから、何が起きたら避難を開始するのかについて「行動するための鍵」を自分の中で決めておくことが大切です。
言うまでもありませんが、自分の命を守るための行動は自分が主体的にとらなければ誰も助けてはくれません。
そういう意味では、要配慮者の方であってもできる範囲での行動はやってもらったほうが安心です。
訓練のための訓練ではなく、本番の状況に合わせた訓練も、慣れてくるとやってみたほうがよいですし、発生する災害の想定も変えてみる必要があります。
その避難所が、想定されるすべての災害に対して安全だとは言えないのです。
避難する人は、自分の命は自分で守るという心構えを持って、行動をしていきたいですね。

仮設トイレで気を付けること

仮設トイレでもパーテーションで区切ることで入り口を別にすることができる。

 大きな避難所になると、トイレ問題を解決するのに仮設トイレが設営されることがありますが、その時に意識しないといけないことの一つに、男性と女性の入り口を分けるというものがあります。
 日本の公共施設のトイレでは、多くの場合出入口が男女同じ、またはすぐ近くにあることが多く、人目がない場合には平時でも危険な状況になることがあります。
 災害後に仮設トイレが必要な状況というのは、非常にストレスが発生しやすい環境にあると考えて間違いありませんので、性的なトラブルの発生を予防する意味でも、トイレは男女完全に引き離すことが必要です。
 そのほかにも、トイレの周囲は常に明るくしておくことや、人目のある場所に作るなどいろいろとあるのですが、事前にしっかりと検討しておかないといざというときにはそこまで意識が向かないものです。
 一般的に避難所において、寝床とトイレは、さまざまなトラブルが発生しやすいところですので、トラブル防止のためにも平時にしっかりとレイアウトを検討しておくことをお勧めします。

経験と被災生活

炊飯器以外のご飯炊きだけでも立派な経験になる。写真はビニール袋炊飯の一コマ。

 災害が起きた後、ある程度環境が落ち着いてくるまでは生活が激変することが多いです。ライフラインの確保や家屋、周囲の片づけ、職場の片づけや業務の復旧など、普段以上にさまざまなことを同時に行わなければなりません。
 生活の質も、蛇口をひねると水が出る環境から給水所まで水を取りに行くことになったり、オール電化だったのにたき火などで暖を取り、調理したりと、一気に数十年も過去に戻ることになってしまいます。
 そういった生活に耐えられるかどうか、つまり過去の経験の中でそれに似た状況になったことがあるかが大きなカギになるような気がしています。
 例えば、アウトドア遊びをよくやる人だと、環境が変化してもあまり気にならないかもしれません。
 疑似的に不自由な環境を作り出して体験していれば、どのようなものかが予測できるのであまり途方にくれることはないと思いますが、普段便利な生活しかしていない人だと、あまり極端な環境の変化には耐えきれないかもしれません。
 体験していること、経験したことについては、多くの場合予測ができて対策もでき、何とかしようと思えるものです。
 ですが、体験も経験もなくいきなりそういう生活に放り込まれると、ひょっとするとその生活そのものに耐えられないかもしれません。
 普段の生活の中で「ちょっと不便な日」などを作って、例えば水道を使わない日や台所を使わない日などをやってみると、いろいろな気づきがでてくると思います。
 アウトドアでのキャンプもよい体験になるでしょう。
 日常生活だけではなく、不自由さにも慣れておくことで、いざ災害の時に生活の質は落ちても気持ちを落ち込ませなくてもすむのではないかと思います。

防災はトップで決まる

 普通の仕事と違って、防災はマイナスの状態をできるだけ0に近づけるというあまり建設的にみられない仕事になります。
 そのため、多くの組織では「重要ではあるが優先度が低い」という状態に置かれていて、いざ災害になって大慌てすることが非常に多いです。
 特に中小企業や施設などでこの傾向が強いのですが、防災を確実に実施するためには、その組織のトップが防災についての意識付けをしっかりと持って「防災をやる」という意思を明確にし、しっかりとした指示を出す必要があります。
 組織の構成員がいくら防災が必要だと動いていても、トップにその気がなければ他の人がやろうという気になりません。
 逆に言えば、トップがやる気になれば防災は驚くくらい一気に進みます。
 自分の組織で死者やけが人を出さないため、そして事業をしっかりと続けるために、日常の仕事と同じか、あるいはそれ以上の必要性を意識して、組織の構成員の方に意識付けをしてほしいと思います。