災害で起きる問題と事業継続化計画(BCP)

 災害時に備えて事業継続化計画(BCP)を作る理由はいろいろとありますが、その大きな目的の一つに「発生する問題を可能な限り早く解決する」ことがあります。
 問題というのは、発生したのに無視し続けると、多くの場合は問題が問題を生んでしまって収拾がつかなくなります。
 特に災害などの緊急時においては、一つの問題放置が後々大問題になることもありますから、できる限り一つの問題のときに対応して処置しておかなければなりません。
 災害時に発生する問題は多岐に及ぶので、どんなにBCPを作っても100%問題は起きないと言い切ることは無理ですが、過去のさまざまな災害から、災害が発生したときに自分たちが対応すべき問題は何かと言うことはある程度予測が可能です。
 予測した問題には予め解決方法が考えられているわけですから、それに従って手順を踏めば、基本的には対応者が誰であれ解決できるはずです。
 BCPの手順書は、そういった目線で作成する必要がありますので、「わかりやすく」「明確に」を考えて作成してください。
 そして、BCPがあれば、その場の指揮官は突発的に起きる事態に対応を専念させることができます。その結果、さまざまな問題が小さいうちに終息できて、復旧や復興が予定通り、または予定以上に早く完了できることになり、そのために作成するものです。 BCPを作っておくことは、今ある戦力でどれだけのことができるのか、そして何を優先して対応するのかを明確化することと、問題対応の手順を予め定めておくことです。
 現状を維持する方法ではなく、何から優先して対応すべきなのかを常に頭に置きながら作成するようにしてください。

【活動報告】青野山で自然体験会を開催しました。

青野山から日原方面にまっすぐ伸びる弥栄断層。その上に国道9号線がある。

 去る5月3日、島根県鹿足郡津和野町にある青野山で自然体験会を開催しました。


 前日までの雨がうそのように晴れ渡った天気の中、会員様、そして会員様のご友人などにご参加いただき、賑やかに青野山を登山しながら春の山野草の観察をし、また、途中の視界が開けた場所では弥栄断層についても説明させていただきました。


 各自弁当の昼食をいただき、下山後は津和野城趾に登り、そこから本日登った青野山を別角度から眺めるオプションも実施。
 少々厳しい行程でしたが、参加された皆さん笑顔で終了することができました。
 この場をお借りして、ご参加いただきました皆様に感謝いたします。

「逃げなきゃコール」をご存じですか

 自分で避難の判断をすることはなかなか難しいものですが、顔見知りから避難しようと言われると、なんとなくそうしようかなという気になるものです。
 特に高齢者の方の場合にはその傾向が強いようですが、ご近所やただの知り合いだと、夜遅くや朝早くにはなかなか避難の声をかけにくいもので、その結果として逃げ遅れてしまったりすることがあります。
 そんなとき、遠方にいるご家族や親しい人から「避難して」という電話が入ると、逃げないといけないのかなという気になりやすいですし、早朝や夜間でもそこまで失礼とは感じないものです。
 そこで、「逃げなきゃコール」の出番です。
 電話をする相手が住んでいる自治体の防災メールに登録しておいたり、スマホアプリの「NHKニュース防災」「Yahoo!災害情報」、「au登録エリア災害・避難情報メール」で条件を登録することで、遠方で起きている各種災害の情報が入ってくるようになります。
 6月からはNTTドコモもユーザーが指定した地域で緊急速報を告げるエリアメールが出されるとショートメールでお知らせしてくれるサービスが始まるそうですから、そういった情報を上手に活用して早めの避難を促すようにしてほしいなと思います。
 避難すべき場所に住んでいる人の「避難」という行動を起こすために背中を押してあげる「逃げなきゃコール」。
 大切な方を守るためにも活用して欲しいなと思います。

【おしらせ】警戒レベルの内容が変更されました

 災害時にはさまざまな行政機関からさまざまな警戒情報が出されていますが、住民が判断基準として使うように作られているのが市町村長が発出する警戒レベルです。
 令和3年4月28日に国会で審議され可決、成立した改正災害対策基本法の中で、この警戒レベルの内容が見直されました。
 今まではレベル4に「避難勧告」と「避難指示(緊急)」が同居していたため、例えば、「レベル4・避難勧告」といった感じでレベル4の後に内容を表示していましたが、今回の法改正で「避難勧告」が廃止され、避難指示に一本化されることになりました。

下側が改正後の基準。実質レベル3に避難勧告が取り込まれ、避難を前倒しするようなイメージ。

 レベル3の「避難準備・高齢者避難開始」からレベル4の「避難指示」までにはかなりの状況の開きがあるような気もしますが、これでレベルと意味がセットになったので、今までよりもわかりやすくなったのではないでしょうか。
 実際の運用は、法成立から一月以内に公示して施行となりますので、遅くとも梅雨時期までには変更されることになり、より早めの避難が期待できることになります。
 とはいえ強制力はありませんので最終的な判断は個々人に委ねられているわけですが、昨今の大雨や台風の状況から考えると、改正されたレベル4がいつ発出されてもおかしくないと考えます。
 もう一度書きますが、レベル4は「避難指示」です。避難勧告よりもより緊急性が高いと言うことを知っておいて欲しいと思います。

2021.5.12追記:表を最新のものに変更しました。

自助・共助・公助の関係

「自助・共助・公助」ということが、防災業界ではよく言われる言葉です。
自助は自分の備え、共助は地域の備え、公助は行政の支援になるのですが、次のようなものが図としてよく描かれています。

 この図だけで見ると、自分が備えていなくても共助や公助がそれをカバーするように見えるので大丈夫という感じに見えてしまうのですが、この図を時間軸で書き直すと次のようになります。

 つまり、単純に言えば「災害が起きたときはまず自分の命は自分で守れ、守ったら近所同士で命を繋げ、そしたらそのうち救援がくる」ということなのですが、大前提として、まずは自分が安全に生き残るというものがあります。
 ここが忘れられがちな部分なのですが、まずは自分が生き残るための手立てをきちんと整えていないと、災害が起きたときにはそこで人生終了となるという事実です。
 例えば、阪神淡路大震災では災害発生後、すぐにご近所で救出活動が行われてたくさんの人が助かったとされています。
 では、もしいま地震が起きたとき、ご近所の救出活動がいまあなたのお住まいの場所ですぐに開始できるでしょうか。
 多くの地域では高齢化が進み、家屋やがれきの撤去がすぐにできるようなパワーはもはやありません。また、若い人がいるところは近所付き合いがほぼ皆無ですので、やっぱり救助活動はしてもらえないでしょう。
 そう考えるとこんな感じの時間軸になります。

 時間軸で整理するとよくわかることなのですが、肝心な初動時には、自分以外誰も助けてはくれません。
 災害の規模が大きくなればなるほど、公助は遅れていきますし、場合によっては公助が行われない場合も想定しておいた方がいいでしょう。
 つまり、自助とは「自分の命は自分で守れ」という意味で、共助や公助はそれを支援するものだと考える方が精神衛生的によさそうです。
 これを図にするとこうなります。

 災害時には、あなたの命はあなた自身が守らなければ誰も守ってはくれません。
 あなたの命を守るために、まずはその方法を考えて一つでもいいので実行に移して欲しいと思います。

個別避難計画と福祉避難所

 今の国会で災害対策基本法が審議されていますが、その中に要支援者の個別避難計画の策定が市町村の努力義務であることが明記されました。
 過去の災害で高齢者の避難が遅れて犠牲になるケースが非常に増えているため、あらかじめ個別避難計画を作って、何かあればそれに従って避難ができるようにすることを目的とし、市町村や社会福祉協議会、介護事業者やケアマネージャー、自主防災組織が要支援者一人一人の状況に応じた避難計画を策定し、特別な配慮のされた避難所のスペースまたは福祉避難所へ直接避難できるようにするようです。
 これ自体は非常に有効性の高いことで、しっかりと進めていく必要性があると思っていますが、同時にいくつかの問題点も抱えていると考えています。
 まずは誰が要支援者なのかを開示するかどうかということ。
 これはもろに個人情報ですので、本人の同意なしに自主防災組織への情報開示はできません。
 自主防災組織はその地域に住んでいる人達で構成されている組織ですので、好き嫌いや恥ずかしさ、遠慮などがあって支援不要ということを言われる人もいらっしゃるようです。
 介護事業者や社会福祉協議会が対応することになると、今度は要支援者を誰が避難させるのかと言う問題が発生します。
 介護事業者や社会福祉協議会が24時間いつでも避難支援ができるような体制はどこも組んでいないと思いますので、どのように対応することになるのかが気になるところです。
 そして、福祉避難所として指定される福祉施設の立地条件。
 石西地方の福祉施設はなぜか水害や地すべりといった災害に遭いやすい場所に建てられていることが多いです。ある程度面積が確保できて土地単価の安いところということでこうなっているのだと思いますが、福祉施設に避難したらそこで被災したという笑えない状態になることが予測されます。
 また、安全な場所にある福祉施設は、多くの場合一般の避難所として指定されているのが現状です。福祉避難所として機能させる場合には指定者のみが避難できる場所になるはずなので、そのことを地域に周知徹底する必要もあります。
 人的な問題と設備の問題をどうやってクリアしていくのかという大きな課題はあると思いますが、こうでもしないと要支援者が被災地域から避難しないだろうと考えると、関係者にはがんばって欲しいなと思います。
 ついでに書くと、個別避難計画が必要なのは要支援者に限った話ではありません。
 地域に住んでいる全ての人がそれぞれ自分で作成しておくべきものですから、要支援者にとらわれることなく、しっかりと啓発していければいいなと考えています。

災害対策は小さなことの積み重ね

 災害対策というと「面倒くさい」という言う人や「準備するだけ無駄」「やらなくても問題ない」「災害が起きたら何をしてもどうせ死ぬから」といった感じで対策を最初からやらないという方も多いです。
 確かに、いっぺんにいろいろとしようとすると、ものすごく手間がかかりますし面倒くさいものではあります。
 でも、その手間や面倒を惜しむほど、あなたの命は安いものでしょうか。
 例えば、自分が住んでいるところの地形やハザードマップの確認は5分もあればできると思います。
 建物が地震に耐えられるかどうかは、簡単な判定基準が公開されていますので、それを使えば耐えられるか耐えられないかの予想はつきます。
 災害対策は、一気に全てきちんと準備できているのが理想ですが、毎日少しずつ行うことで気がついたら準備ができているという感じでも全然問題ありませんし、そちらのほうが心理的負担は少ないかもしれません。


 例えば、そのあたりの棚に直接置いてあったものを、かごに詰めて棚に貼った耐震ジェルの上に置く。これだけでも確実にその場所の安全度は上昇します。
 タンスの固定や倒れる方向の修正、寝室の安全確保など、ちょっとした作業で効果のある方法をとっておくと、あなたの命を守れる確率は簡単に上昇するのです。災害対策というと、どうしても災害や避難の知識に偏ってしまいがちですが、知るだけでなく行動することが、災害対策では非常に重要なことなのです。
 何か行動を起こすことは、0から1への変化です。0には何をかけても0ですが、1に整数をかけるとその分だけ数字は大きくなり、あなたの安全度は上昇していきます。
 一度にたくさんのことをするのは難しくても、毎日一つだけ危険度を下げる何らかの行動をすることで、あなたが安全に災害をやり過ごせる可能性はあがります。
 昨今の災害を考えると、いつあなたが被災者になっても不思議ではありませんから、ちょっとずつでいいので災害対策を始めてほしいと思います。

内水氾濫に気をつけて

 水害が起きる「氾濫」には、堤防等の治水施設が壊れることによって起きる「外水氾濫」と排水能力が追いつかなくなって水が溜まっていく「内水氾濫」があります。
外水氾濫は水が一気に押し寄せて起きる水害で、多くの人がイメージする「水害」はこちらだと思います。
 ただ、いくら堤防を強化しても起こってしまう水害があります。それが「内水氾濫」と言われるもので、こちらは排水能力を超えた水が流れ込むことによって排水路から水があふれ出して周囲が水没するものです。

数分間で大量の雨が降ったため、溢れてしまった側溝。降り続けると水没する。


 外水氾濫は河川や池沼などがなければ心配する必要はないものですが、内水氾濫は周囲と比して低地にいるのであれば起こりえる水害であることに留意してください。
 また、内水氾濫は静かに起こるため、気付いたときには周囲が水没しているということがよくあります。
 平時にあなたがいる場所の高さについて確認しておき、もし低地にいるようであれば、大雨時には周囲により注意を払うようにしてください。

 そろそろまた雨の季節がやってきます。
 雨の時期に入る前に、側溝や水路、雨樋といった排水に関わる部分の点検や掃除、そして海抜高度の確認をしておいてくださいね。

どうして避難命令が存在しないのか

 災害対策法では、「避難準備」「高齢者避難開始・避難準備」「避難勧告・避難指示」という風にレベルに分けて避難に関する具体的な行動が決められています。
 ただ、ちょっとだけ注意して欲しいのが、巷でよく言われている「避難命令」は災害では存在しないことを覚えておいてください。

大雨時における自治体の警戒レベルと発表基準、住民に期待される行動の一覧表。令和3年6月頃にはレベル4が避難指示だけになる予定。

 これはどういうことかというと、災害時における避難の判断は各自で行うべきという考え方がベースにあるからです。
 例えばA地区に避難命令を出したとします。そうすると、A地区の住民の全てに一律に避難する義務が発生するため、安全な場所にいるはずの人が避難をするときに災害に巻き込まれたりする可能性が出てきます。
 行政が発表する避難情報は面である該当地域全体に出しますが、実際の避難はその地域に住んでいる各々が周囲の状況などを見て判断する必要があるため、あえて命令になっていないのです。
 つまり、避難は誰かに言われてするものではなく、自分の判断で決定をするものなのだということです。
 災害時の避難はあなた自身が主役であって、決してお客様ではないのです。
 災害対策で一貫して決まっているのは、さまざまな行動決定権は各個人が持っていて、最終的な責任も各々がとると言うこと。
 つまり、最終責任は自分にあるということを忘れないでくださいね。

日本で地震がよく起きるわけ

 地震の回数と頻度では、日本は恐らく世界で一番多い国なのではないかという気がします。
 ただ、どうして地震が多いのかについて考えてみたことがありますか。
 その理由の一つが、日本が今の形になった理由でもあるプレートの問題です。
 簡単な作図になりますが、まずは次の絵を見てください。

 これは日本列島と陸の乗っているプレートの関係を示すものです。
 かなり適当な日本地図の上におおざっぱに線を引いたものなので実際には自分で確認して欲しいと思いますが、日本列島は4つのプレートがぶつかっている場所であることがわかればいいと思います。
 そのうち、矢印を確認していただきたいのですが、これがプレートが押しつけられている方向を示しています。
 太平洋プレートとフィリピン海プレートが北アメリカプレートとユーラシアプレートに押しつけられていることがわかると思います。
 そんな馬鹿なと思った方は、国土地理院のウェブサイトで地面がどれくらい動いているかを確認できますので、是非一度ご確認ください。
 さて、押しつけられたプレートは、そのうちに崩壊してかかっている力が一時的に小さくなります。この崩壊時に地震が起きるというわけです。
 下の図面で、海溝部に潜り込んだプレートがわかると思いますが、これが摩擦の力で反対側の陸地を引っ張っていきます。


 そして限界点を超えた瞬間、陸地か海側かのどちらかが崩壊して力を逃がすのです。
 力が均等にかかり続ければ崩壊するタイミングも極端に大きくずれることはないので、ある程度周期的に地震が起きることが予測できます。
 それから考えると、プレートの移動が収まらない限りは日本と地震は切り離せない関係になることがわかると思います。
 地震大国日本は、その成り立ちからして地震から逃げることはできません。
 絶対に地震が起きない場所はないのですから、どこに住んでいても地震には備えておいた方がよいと思います。