災害対策用設備を過信しない

 人の命を守ることを目的に、はるか昔から、日本ではさまざまな災害対策用の施設が整備されてきました。
 ただ、最初は人の命を守るための設備、つまり避難する時間を稼ぐためのものという位置づけから、いつのころからか財産がくっついて、「絶対に災害を起こしてはならない」となり、どのような悪条件のところに住む人であれ、命と財産を守ることを目的に整備が進められています。
 でも、自然災害というのは昔も今も人知を超えるものがよく発生しているのですが、大きな災害が起きるたびに「想定外」という言葉が飛び出すという首を傾げてしまうような会見が飛び出したりしています。
 日本は昔から災害と付き合ってきた歴史があります。そのため、その土地にあったさまざまな災害を軽減し、避難する時間を稼ぐような仕組みがあったり、揺れて壊れても簡単に修繕できるような構造を取り入れたりしていました。
 もちろん進化し続けている土木技術のおかげで、昔よりもはるかに被災はしにくくなっているのですが、それでも50年に一度や100年に一度という表現が大雨や台風で頻繁に登場しているところをみると、そういった設備は災害を起こさないためではなく、災害時に人が避難する時間を稼ぐためのものと考えておいた方がよさそうです。
 もちろんさまざまな考え方があるわけですが、安全だと言っておいて被害に遭うよりも、災害が起きるかもと考えて行動する方が自分の命は確実に守れると思います。
大きな堤防であれ、ダムであれ、法面を押さえる設備であれ、完ぺきという言葉はありません。
 もしもに備えて、きちんと安全な場所を確認し、どのタイミングでどういう経路でどこに避難するのかを決めておくようにしたいですね。

【活動報告】すみれ保育園の避難訓練の支援をしました

 去る6月23日、益田市のすみれ保育園で実施された避難訓練の支援をしました。
 この保育園は地震から津波発生に備えた大規模な避難訓練を毎年やっていて、ここ数年は当研究所もこの避難訓練の支援を行って、善かった点や問題点、改善点などを報告書として保育園に提出しています。
 この報告書は職員会議で共有されていて、毎年しっかりとした改善がされていますので、いざというときの対応はかなり的確に行われると、参加するたびに感じています。
 今年も大地震から津波発生、高台への避難という訓練を実施。総勢50名以上の園児の皆さんが、保育士の先生たちに誘導されて近くの益田東中学校に移動していました。
 保育士の先生たちは避難準備をしながら子供を見て、安全確認をしながら誘導をして、と目まぐるしく動く状況の中を的確に行動していく力量が求められます。
 こういった大規模な訓練を実地でやっていれば、訓練でさまざまな事態に出会いますから、本番でも慌てずに対応ができ、子どもの命も先生方の命もしっかりと守れるのではないかと思っています。
 今回もさまざまな改善点はありましたが、改善点は出て当たり前で、時代や状況、想定によってどんどん改善していくことで、災害に強い、命を守れる保育園になってもらえることを願っています。
 いつも聞かれるのですが、実は訓練で何も問題が出なかった方が問題です。
 訓練で問題が出ないというのは、すでに予定調和で訓練をしているということなので、本番ではほとんど役に立ちません。
 いつもの状況から非常時に切り替え、非常時の対応を行うことが、本当の訓練なのではないかなと思います。
 実は、事前に避難経路の安全確認をする方法についてお問い合わせがあったので、無線機を使う方法を提案し、当研究所の無線機をお貸ししたのですが、お貸しするときに設定を間違えて、保育園さんが避難経路の確認で出動させた先生と避難に備えて待機している本体との連絡が取れなかったという問題を起こしてしまいました。
 でも、このことについても、訓練後にどのようにすれば問題が回避できたのかについての検討事例として、先生方が話し合ってくれ、どんな状況でも安全確保という姿勢はブレないなという強い印象をうけました。
 益田市内にはたくさんの保育園があり、それぞれに創意工夫を凝らした保育を行っています。
 でも、災害に備えて、しっかりと子供たちと一緒に実地で訓練をし、専門家を入れて改善点や修正点を見つけ、より安全確保をしようとしているところはそんなにないのではないかという気がします。
 保育園を選ぶときには、普段の保育はもちろんですが、こういった非常時の体制がどのようになっているのか、そしてきちんと対応するための訓練ができているかも確認しておくといいかもしれません。
今回お声がけいただきましたすみれ保育園の先生方、一緒に訓練をしてくれた園児の皆様に感謝します。

どんなときに避難がいるのかを知っておく

 災害発生時にお住いの地区に対して避難を呼びかけられることがありますが、この避難の呼びかけはその地区に住んでいるすべての人に対して避難しろと言っているわけではないことをご存じですか。
 市町村が発表する避難レベルは多くは地区単位で発表されるので、安全なところも危険なところもごっちゃになって避難を呼びかけられることになります。
 もしも対象地区の人が全員避難所に避難するとしたら、中に入れない人がかなり出てくるのではないでしょうか。
 実際には「避難指示を出した地区のうち、本当に危ないところに住んでいる人、また危ないと思っている人」が対象となっているので、安全な場所にお住いの場合には、そのままおうちで様子を見ればいいということになります。
 ただ、自分の家が安全かそうでないかを知るためには、きちんとハザードマップを見て住んでいる場所ではどのような問題が起きると予測されていて、どんなときに逃げないといけないのかをしっかりと把握しておきましょう。
 あなたの住んでいる場所に対して、行政は個別に呼びかけたりはしません。あくまでも面としての地域に対しての避難情報の発表となります。
 過去には住んでいる地区に避難指示が出たからと言って、安全なおうちから避難所へ移動中に災害に巻き込まれたりした人もいますので、まずはあなたのおうちの周りの危険から把握するようにしてください。

行政の避難所対策

 研修会などで過去の災害での避難所の写真を参加者にお見せすることがあるのですが、それを見た人の感想というのが「どれがなんだかわからない」というものです。
 もちろん写真の雰囲気である程度の時代はわかるのですが、そこに出てくる風景というのは、それを除けばほとんど変化がないものになります。
 大きな体育館のような場所にござや敷物が敷かれていて、不安そうな顔の避難者が無秩序にプライバシーのない状態で過ごしているという状態。
 もしもお時間があるようでしたら、インターネットで検索してみるといろいろ出てくると思いますので見てみてほしいのですが、これだけ災害の多い国なのにもかかわらず、避難所については何の進歩もないのかなとちょっと悲しくなってきます。
 幸か不幸か、新柄コロナウイルス感染症の流行に伴って避難する最初の時点から空間を仕切るということが行われるようになりました。
 その結果は、避難所の収容人員の大幅な減少ということになり、避難所難民といった言葉が登場したりすることになったのですが、そもそも避難が必要な危険な場所に住んでいる人が相当な数がいるということが、貧弱な避難所の状態の大元になるのかもしれません。
 避難する場所があるだけでもいいというのは確かにそうなのですが、それでも難民キャンプでの最低限人道的な生活を送るための基準、いわゆるスフィア基準を下回るような状態は決してあるべき姿ではないのではないでしょうか。
 現在言われている南海地震・東南海地震が起きた時、どれくらいの人が被災者になって避難所に押しかけてくるのかはわかりませんが、人口が都市部に集中してきている現状を考えると、過去の大災害よりも悲惨な状況になることが予測されます。
 避難所は最後の手段と考えて、被災しないと思われる知り合いなどの家や被災地外の宿泊施設、また、そもそも被災しそうな場所に家を建てないなどして、避難所への避難が選択肢の一番最後になるようにすることと、避難所を細分化すること、そして避難所を設置するためのパーテーションやテント、トイレや生活空間の確保など、個人で準備すると持っていない人とトラブルになりそうな部分については、できるだけ行政が資材を準備しておくこと、そして避難所の運営についてはできる限り地元やボランティアに任せていくこと。
 そのためには、平時にいろいろな準備をしておく必要があるはずなのですが、あなたのお住いの自治体は大丈夫ですか。

知っていること、できること

 災害対策に限りませんが、どんなことでも知っているということとそれができるということはまったく異なるものです。
 防災に関しても、多くの人は頭ではやらないといけないことは理解していると思うのですが、頭で理解しているだけで、いざというときにはまったくできていないということが非常に多いです。
 災害後によく「想定外だった」や「想像していなかった」「予想していなかった」「まだ大丈夫だと思っていた」といったコメントがほぼ必ず毎回出ているのは、頭で理解していると思っていたことができていなかったということの証明になるのではないでしょうか。
 避難訓練や災害対策のあれこれは、わかっているからしなくても大丈夫という方が結構いらっしゃいますが、知っていることとできるということが違うということを理解しておいてほしいと思います。
 頭でわかっているつもりでも、実際にやってみるとさまざまな齟齬が発生するものです。齟齬が出るからこそ、しっかりとした訓練をするわけですし、訓練後の修正点や反省点を確認したり、対策について見直したりすることをしておかなければいけないのです。
 訓練はうそをつきません。
 知っているだけではできませんし、訓練をやっている分だけは、いざというときにも体がしっかりと動くはずです。
 知っていることとできることは全く違うのだということを理解したうえで、防災活動にしっかりと参加していってほしいと思います。

機能を止めない方法を作っておく

どのようなお仕事でも、その仕事が無くなったら困るという方が必ずいるはずです。
特に人にかかわる仕事の場合には、災害でその機能が止まるとさまざまなところに大きな影響が発生しますので、平時に対策をきちんと立てておくようにしてください。
特に保育園やこども園といった小さな子供を預かる施設、高齢者を受け入れるデイサービスなどは、その機能が止まってしまうと家族はその世話をすることになってしまって、おうちの片づけすらできないことになってしまうので、代替策を準備し、災害が発生した時には速やかに代替手段に切り替えるようにして、家族が復旧に専念できるような体制を構築しておく必要があります。
そのためには、保育園やこども園、デイサービスといった施設の職員さんのおうちの災害対策がしっかりとできていなければなりません。
施設のBCPはその施設だけで完結するものではなく、施設にかかわるあらゆる人やもの、組織といったところも含めての対策を作る必要があります。
施設だけではなく、さまざまな企業や組織においても同様です。
自分のところの仕事だけでなく、周囲の人やもの、組織とも連動してBCPを構築することが、地域の素早い復旧のための重要な項目となります。

まずは試してみよう

 災害対策で個人ができることでは、さまざまな人がさまざまなことを言っていて、それらを見ている分には面白いものです。
 誰が言うことにもそれなりの根拠がありますし、それなりに必要だなと思わせるような内容もあります。
 中には「それ絶対無理」というようなとんちんかんなものもありますが、机上ではいろいろなことが考えられますから、それもありなのかなと思います。
 では、どうすればいいのかというと、いろんな人が言っているいろんなことのうち、自分が「そうかもな」と思うことを試してみましょう。
 例えば、災害時のトイレ問題で「おむつをつければいい」というのがあります。大人用おむつもありますし、介護の必要な人もつけていますから、それもありかなと思う人も多いのではないでしょうか。
 もしも「あり」だと思ったら、実際に一度やってみてください。
 正直なところ、筆者は二度とやりたくありません。微妙に濡れた感覚を履いたままというのは耐えられませんでしたし、大きい方など考えたくもありません。
 筆者自身は、その経験のあとは仮設トイレを充実させる方向に舵を切りました。
 でも、人によっては「おむつで問題ない、快適」という人もいるわけで、自分に合うかどうかは試してみないとわからないというのが正解です。
 ただ、災害発生時にぶっつけ本番は止めておきましょう。
 いろいろなことが自分にあっていればいいのですが、合わない場合には最悪の状況を生み出すこともあります。
 人の意見はたくさんあって、中には相互に矛盾したものもたくさんあります。
 どちらが正しい、誤っているというわけではなく、自分にあったものを選んで備えることを考えれば、まずは「試してみる」ことが一番だと思います。
 少しお金はかかるかもしれませんが、発災時、そして発災後の自分の生活環境の質をできるだけ落とさないようにするためにも、どんなものでもまずは試してみてください。

被災後は暇にしない

日本の災害では、被災者の方をお客様にしてしまうことがよくありますが、被災者の方を完全なお客様にするのは止めた方がよさそうです。
というのも、やることがある人はともかく、「被災して大変だから」と何もさせない状況にしてしまうと、人間ロクなことを考えなくなるものです。
特にお年寄りにはこの傾向が強いのではないかと感じていますので、できることをどんどんお願いしていくような体制を早い段階で構築しておくとみんなが幸せになれます。
日中、家や職場の片づけや仕事がある人はそちらに専念してもらって、やることがない人は避難所の運営や地域の仕事にどんどん協力してもらいましょう。
忙しいと、悪いことを考えている暇が無くなりますし、なによりも仕事をやっているという充実感があるものです。
どんな人でも、大抵何かはできます。
避難所の運営者や地域のまとめ役をしている人は、誰がどんな仕事なら、どうやればできるのかについて考えて、どんどん仕事を振り分けていきましょう。
そうすることで、相対的に自分でないとできない仕事だけが手元に残りますし、仕事が回りだすと状況もよくなるものです。
被災後の基本は、できる限り暇な状態にしないこと。
精神的なことが原因の災害関連死を防ぐためにも、意識しておきたいことの一つです。

乳児がいるときは液体ミルクを備えておこう

乳児にとって、災害時だろうがなんだろうが、栄養補給のためには母乳またはミルクをのむことが必要です。
では、乳児のお持ちの親御さんがどれくらい備えているかというと、母乳や粉ミルクは常備していても、液体ミルクを常備しているところはまだまだ少ないようです。
液体ミルクは賞味期限が半年から18か月と、災害食として用意するには期限が短いですし、出しているメーカーも限られていますので、現状では少ないのかなという気がしています。
ただ、災害時にはこの液体ミルクはかなり力強い味方になることを覚えておいてください。
場所がどこだろうが、容器の中には常に完成されたミルクが入っているのですから、調製する必要もなく、そして衛生面でも有利なのは考えなくてもわかると思います。
WHOが出している粉ミルクの調製法では、細菌対策で70度以上のお湯で粉ミルクを作ることが推奨されていますが、被災直後ではそういう温度を作れる材料がないかもしれません。
液体ミルクであれば、人肌程度まで温めればそのまま使えて細菌対策も出来ていますから、汚染を心配する必要は少なくなります。
もっともいいのは母乳なのですが、さまざまな事情から、母乳が使えない場合に備えて、液体ミルクを2~3日分用意しておくといいと思います。
もちろん、事前に乳児に飲ませてみて、好みの味であることは確認しておきましょう。
災害時には、母乳か液体ミルクを乳児に与えるといいということと、粉ミルクは必ず70度以上のお湯で溶かす必要があるということを、知っておいてほしいと思います。

乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン (厚生労働省のウェブサイトへ移動します)

自己責任ってなんだ?

 大雨や台風など、最近は正確な予報が出るようになって、行動の判断がしやすくなりました。
 もちろん外れることもあるわけですが、それでも安全側に行動を切り替えることで自分の安全が確保できるのであれば、それは納得できる部分なのではないかと思います。
 そして、天気予報の精度が上がってきたので、公共交通機関もより安全に運行をするため、計画運休や大雨が予測される際の運休、減便をする判断がかなり早くされるようになってきています。
 一昔は、途中で列車やバスが止まってしまって、1日以上閉じ込められているなどということもありましたが、事前に運転取りやめを判断するようになってからはそのようなことはかなり少なくなっています。
 でも、せっかく予報が出ているのに、多くの人は行動を変えません。何もないときの延長線上で行動してしまい、運休に巻き込まれて行動ができなくなるという人がかなりたくさんいます。
 天気が相当悪くなる予報が出ていて、公共交通機関も運転取りやめの情報を発信しているのに、自分は通常通りの行動をしてしまう。
 せっかく携帯できる情報端末であるスマートフォンを持っているのですし、持っていなくても、テレビやラジオなどでもこういった状況は何度も伝えていますから、毎日時間を作って気象情報や交通機関の運転状況を確認すれば、自分の行動をより安全にすることは可能なはずです。
 また、経営者は従業員の命を守る義務がありますから、計画運休や悪天候による運休の可能性が出されているときには、従業員にそれを伝え、自身を守らせる行動をしなければなりません。
 どんな立場であれ、「私は知らなかった」は理由にはならないのです。
 もちろん、雇用主や客がそういったことに無頓着な場合もあるでしょう。でも、できる範囲での自己防衛はしておかなければ、ひどい目に遭うのは自分だということを忘れないでください。
 ここ最近、発生する災害が大規模になる傾向が強いです。
 そして企業コンプライアンスが声高に言われている以上、公共交通機関は今までのように「何とかなるだろうと無理やり動かす」といったことは、まずありえません。
 それがわかっているのですから、自分の行動を自分で情報を集めて決定することは、これからは必須になってきます。
 毎日きちんと天気予報を見て予測し、天気が荒れそうなときには、公共交通機関が止まるかもしれないことを予測して行動を考える。
 それが当たり前であり、公共交通機関は何があっても止まらないという幻想は持たないようにしてください。