行政の避難所対策

 研修会などで過去の災害での避難所の写真を参加者にお見せすることがあるのですが、それを見た人の感想というのが「どれがなんだかわからない」というものです。
 もちろん写真の雰囲気である程度の時代はわかるのですが、そこに出てくる風景というのは、それを除けばほとんど変化がないものになります。
 大きな体育館のような場所にござや敷物が敷かれていて、不安そうな顔の避難者が無秩序にプライバシーのない状態で過ごしているという状態。
 もしもお時間があるようでしたら、インターネットで検索してみるといろいろ出てくると思いますので見てみてほしいのですが、これだけ災害の多い国なのにもかかわらず、避難所については何の進歩もないのかなとちょっと悲しくなってきます。
 幸か不幸か、新柄コロナウイルス感染症の流行に伴って避難する最初の時点から空間を仕切るということが行われるようになりました。
 その結果は、避難所の収容人員の大幅な減少ということになり、避難所難民といった言葉が登場したりすることになったのですが、そもそも避難が必要な危険な場所に住んでいる人が相当な数がいるということが、貧弱な避難所の状態の大元になるのかもしれません。
 避難する場所があるだけでもいいというのは確かにそうなのですが、それでも難民キャンプでの最低限人道的な生活を送るための基準、いわゆるスフィア基準を下回るような状態は決してあるべき姿ではないのではないでしょうか。
 現在言われている南海地震・東南海地震が起きた時、どれくらいの人が被災者になって避難所に押しかけてくるのかはわかりませんが、人口が都市部に集中してきている現状を考えると、過去の大災害よりも悲惨な状況になることが予測されます。
 避難所は最後の手段と考えて、被災しないと思われる知り合いなどの家や被災地外の宿泊施設、また、そもそも被災しそうな場所に家を建てないなどして、避難所への避難が選択肢の一番最後になるようにすることと、避難所を細分化すること、そして避難所を設置するためのパーテーションやテント、トイレや生活空間の確保など、個人で準備すると持っていない人とトラブルになりそうな部分については、できるだけ行政が資材を準備しておくこと、そして避難所の運営についてはできる限り地元やボランティアに任せていくこと。
 そのためには、平時にいろいろな準備をしておく必要があるはずなのですが、あなたのお住いの自治体は大丈夫ですか。

避難所とお客様

「避難所は、あなたの命を守り繋ぐための場所の提供であって、避難者をお客様扱いしてくれる場所ではない」
 当たり前のことなのですが、普段災害対策から遠ざかっている人ほど、避難所で周囲に迷惑をかけるというのはもはや定番のようです。
 もし避難先でお客様として過ごしたいのであれば、避難所ではなく、被災地外の民間ホテルや旅館に避難しましょう。対価は要求されますが、対価相応のお客様扱いはしてもらえるはずです。
 避難所はあくまでも「場所の提供」なので、衣食で必要なものは全て持参しなければなりません。
 ですから、水や食事が配給されないからといって文句を言うのはお門違いです。
 布団がないからといって文句を言ってはいけません。寝具が必要なら、避難時に持参しなければいけません。
 明るかったり、うるさかったりしても、一般的常識の範囲であるなら、文句を言うべきではないでしょう。
 そして、他の避難者が衣食や寝具を持参して快適生活をしていたとしても、それに対して文句を言ったりうらやんだりすることは御法度です。
 あなたののどが渇いていたり、お腹が空いていたり、寒かったりするのはあなたの準備不足です。
 避難所で家と同じような生活を送ることは難しいでしょうが、できるだけ生活の質を落とさないようにするためには、事前のしっかりとした準備が必要なのです。
 さて、あなたの準備はできていますか。

避難所の開設・運営方法を確認しておこう

 島根県では、避難所を開設するのは市町村が基本になっているようですが、災害時には職員でないと対応できない事が加速度的に増えていくので、災害時にあってはできる限り地域にお任せしたいところだと思います。
 本当は平時から避難所運営委員会を立ち上げて誰がどのような権限をもって何をするのかをしっかりと決めておきたいところですが、地域コミュニティがしっかりしているところばかりではありませんので、それを決めるところに至るまでが大変なようです。
 ただ、避難所の設営や運営について具体的にどのようなことをするのかについては、ぼんやりとしたイメージしかないのではないでしょうか。
 勘違いしがちですが、避難者はお客様ではありませんので、避難所の運営や維持について自分たちで出来ることは当然自分たちでやらなければなりません。
 避難所の開設手順や運営については、さまざまな地方自治体がマニュアルと設定していますが、今回はいろいろと見た範囲で筆者がわかりやすいと感じた千葉市の避難所開設・運営の映像をご紹介したいと思います。
 避難所の開設基準やトイレの状態、備蓄品の状態などはさまざまな自治体ごとに異なりますので全てがその通りになるわけではありませんが、必要な手順はきちんと触れられていて一通りの流れが理解できると思いますので、よかったら参考にしてください。

「避難所は住民の力で ~目で見る避難所開設・運営の流れ~」(youtubeのchibachityPRに移動します)

避難所設営基本の「き」その2・管理者と運営者を決める

 前回は避難所のトイレ問題について書きました。
 今回は避難所の管理者・運営者のお話です。
 避難所に指定される施設というのは、学校や公共施設が圧倒的に多いのですが、避難所の管理者と運営者がきちんと定められている場所は少ないのではないかと思っています。
 集会所のような小さな地域の小さな施設であれば、その地域の自治会が管理者と運営者を兼ねることも多いと思うのですが、少し大きい施設になると管理者と運営者をしっかり決めておかないと、運用が開始されると途端に混乱が起きることになります。
 特に指定避難所の場合には「地域の被災避難者の住居」と「被災者の支援を行うための物資集積所」という二面の性格を持っていますので、なおさら整理しておかないとややこしい事態を招きます。
 例えば、避難者が自主的に避難所の管理運営組織を作ったとすると、被災避難者の住居としての維持管理はできるようになりますが、被災者の支援を行うための物資集積所の管理・運営は念頭にないので、送られてきた物資を巡って地域内にも配るのか、避難所だけで使うのかという判断に困る内容が一気にあふれ出ることになってしまいます。
 また、管理者や運営者がきちんと決められていない場合には、その施設の管理者がなし崩し的に施設運営者になってしまって、本来その施設の復旧をすべき立場の人達が避難所運営に手を取られて復旧ができなくなるという事態が起こります。
 避難所の設置者は市町村なのでよいとして、設置した後の管理者は誰か、そして運営者は誰がするのかについてあらかじめ決めておくことで、入り口以前での躓きを防ぐことができるのです。
 別に避難所になった場所の元々の管理者が管理・運営者になっても構いませんし、自主防災組織や自治会が管理・運営することになってもいいと思います。
 事前にここを決めておくのは、発災後に管理・運営者を決めようとすると絶対にトラブルが起きてまともに決まらないからです。
 管理者と運営者を明確化し、「避難所としての管理・運営」と「物資集積所としての管理・運営」が確実にできるようにしておきたいですね。
ちなみに、管理者と運営者を定めるときにはローテーションについても整理しておきましょう。
一人の人が毎日24時間避難所運営をし続けることは正直に言って無理ですので、一日8時間を目安に管理・運営部門の勤務交代を念頭に入れてローテーション表を組むようにしてください。
もちろん表の通りに進むことはまずないと思いますが、交代することがしっかりと認識されている場合には管理・運営に従事する人達の士気もそれなりに維持できます。
管理者・運営者をはっきりさせてから、避難所の設営についての検討を始めるようにしてくださいね。

避難所の幻想

 あなたは災害時の避難所というとどのようなイメージを持っていますか。
 身一つで避難すれば、食事、就寝、快適な居住空間が確保されて少々の不便はあるにしても、それまでとさほど変わらない生活を送れる場所だと思っていますか。
 それとも、身一つで避難したら食事も寝るところもなく、避難所からはあぶれてしまって空腹を抱えて建物の犬走りでうずくまっていることもありうる場所だと思っていますか。
 この二つは極端な例ですが、大規模な災害になると、多くの場合は後者の状態になって非常につらい思いをすることになることが殆どです。
 そのため、車中泊や損壊した自宅で無理矢理生活するような人達が大勢出てきます。
 避難所に避難しても、よほど事前準備のよい自治体で無い限りは、避難所に必要な資機材は置いていません。殆どの場合、その避難所を運営する地元の自治会や自主防災組織が防災倉庫に準備していたものが供出されることになります。
 自治体は住民に対して平等であることが望まれていますが、運営が自治体でない場合にはあらかじめの取り決めで資機材が運用されます。その時、あなたは助けてもらえる関係を作っているでしょうか。
 避難所は基本的には避難する場所のみを提供しています。避難して生活するためのさまざまなアイテムは自分で持ち込まなければならないのです。
 国も地方自治体も、全ての住民に対して支援できるだけの物資は持ち合わせていません。だから事前にしっかりと準備をしておくように言い続けているのです。
 安全が確保されたなら、基本は自宅避難。旅行者や家が全壊したり道路が通れなかったりといった理由で家に入れない人達が避難所で生活するのが一番合理的な避難方法です。
 繰り返しますが、避難所には自分の命を守るための資機材は置いていません。それを忘れずに、自分自身あるいは自治会や自主防災組織などで資機材の準備をするようにしてください。