防災訓練で思うこと

避難訓練の一コマ。津波に備えて階段を駆け上る。ただ、このとき揺れたらどうなるかは想定されていないし訓練もされていない。

 学校や施設の防災訓練を見学させていただくときにいつも考えてしまうことがあります。
 それは、放送によって状況や行動を説明すること。
 地震や火災の場合、何らかの原因で放送設備が損壊する可能性があります。行政の防災無線のように災害対策がきちんと取られていればよいのですが、学校や施設の放送設備でそこまでの対策が取られているものがどれくらいあるでしょうか。
 放送が使えなくなった状況下の訓練をしておかないと、本番で逃げ遅れたり混乱が起きたりするのではないでしょうか。
 どんな状況下にあっても避難をすることができるような体制、それぞれが自律的に判断して動けるようにしておくことが、訓練だからこそやっておかないといけないことだと考えます。
 防災訓練は失敗することが必要だと、筆者は考えています。
 さまざまな想定をし、その状況に応じてさまざまな判断をし、自律的な安全確保をできるようにするために、防災訓練では大いに失敗をしておくこと。
 本番では失敗は許されないのですから、訓練で失敗をして経験をしっかり積んでおくことが非常に重要です。
 防災訓練は、やることが目的ではありません。やった結果、身を守れるようになることが目的なのです。
 災害ではどのようなことが起きるか誰にもわかりません。
 だからこそ、さまざまな状況を想定して訓練を行うことが必要なのです。
 「訓練は嘘をつかない」という言葉があります。しっかりとした訓練は必ず本番で役に立ちます。
 せっかく実施する防災訓練だからこそ、少しだけ予定調和でないものを入れる必要があるのではないか。
 筆者はそう考えています。

【活動報告】高津小学校で防災クラブを開催しました。

頭を守る方法について一緒に考えてみる。

 今年度から高津小学校様の協力をいただき、小学校のクラブ活動の一つに防災クラブを加えていただきました。
 コロナウイルスの影響で上半期は中止となったのですが、下半期は開催させていただけると言うことで、去る9月9日に第1回をさせていただきました。
 「地震から身を守る」というタイトルで、地震が起きるからくりや地震の時に守るべき身体の部位、避難中に余震があったときの姿勢など、1時間の間いろいろとお話をし、できる部分は実際に身体を動かして体験してもらいました。

当研究所の誇るぐらぐらくん1号で横揺れ体験。机の下で身体を保持することが難しいことを体験してもらう。


 当方があがってしまったのと、お互いに初対面と言うこともあってかなりぎこちなかったですが、防災クラブの子ども達の積極さに助けられました。
 全部で6回となっていますが、当研究所のモットーである「命を守る、命を繋ぐ」ための技術や考え方をしっかりと伝え、また、子ども達から教わっていきたいと思っています。
 上半期はコロナウイルスの影響で当研究所の活動もあまりできていなかったので、少しずつ様子を見ながら対外的な活動を再開していければと考えています。
 担当の大畑先生、そして参加してくれた子ども達に感謝します。

エアコンの室外機にご注意を

台風だけで無く、地震や水害などでも被害に遭いやすいエアコンの室外機。写真のような状態だとどちらのエアコンも使う前に点検が絶対に必要となる。(写真はそなエリア東京の展示物)

 災害の後で家の片付けをするとき、もしもエアコンの室外機がそれまで置かれていた場所から動いていた場合には不用意に触れないようにしてください。
 エアコンの室外機には冷却用のガスが収められていて、これを屋内のエアコン本体に送ることで冷却効果が出ているのですが、定位置から動いている場合には本体と室外機を繋ぐパイプが破損している可能性があり、もし動かすと破損箇所から冷却ガスが噴き出して思わぬ事故が起きることがあるからです。
 まずは電気屋さんに点検をしてもらって、エアコンの状態に問題がないかどうか確認してください。
 問題が無ければ電気屋さんが室外機を定位置に収めてくれると思いますので、その後にエアコンを使うようにしてください。
 なお、エアコンの点検は建物が通電していないとできません。点検が終わるまでは、エアコンと室外機は「動かさない」「触らない」を忘れないようにしてください。

参考
災害時の困りごとと対処法」((株)ダイキンのウェブサイトへ移動します)

家具を固定する理由

野島断層記念館メモリアルハウス内の台所の写真。阪神淡路大震災の野島断層のすぐそばにあった家の震災直後の状況を再現したもの。食卓を食器棚が直撃している。

 災害対策として優先することの一つに「家具を固定する」というのがあります。
では、なぜ家具を固定するのでしょうか。
 一つには倒れてきて下敷きになったり破片で怪我したりすることを防ぐため。
 それから倒れたり壊れたりした家具が避難経路をふさいだりするのを防ぐためです。
 家具に限らず、振動や衝撃で動き出すものは凶器になりますから、複数の固定手段でしっかりと固定し、少々のことでは動き出さないようにしておかなければいけません。
そして、固定する向きにも注意が必要です。幅が広く、奥行きが短い側に家具はよく転倒します。これは揺れや振動に対して奥行きが短い方が先に耐えられなくなってしまうからで、万が一に備えて倒れるときには人のいない方向に倒れるように固定しておきましょう。
 また、家具の扉や引き出しが飛び出さないようにロックや固定をしておきましょう。それらや中身が飛び散るとやっぱり凶器と化します。
 普段使いでいちいちロックは面倒という方には、揺れや振動でロックされるような装置もありますので、それらを活用してください。
 家具が動き出さなければ、怪我をする可能性は低くて済みます。
 また、家具の固定は地震だけで無く、水害時にもこれらの流出や流出による家屋やその他のものを破壊することを止めることができます。
 固定不可の賃貸住宅でも無い限り、あらゆるものは固定しておくことが一番です。
 またどうしても固定できない場合には、固定できないものを集めた部屋を一つ作ることで家具の転倒で下敷きになったり怪我したりする可能性を下げることができます。
 災害対策というと最初に水や食料の心配をするのですが、それよりなにより生き残ることができなければそれ以降の備えが無駄になってしまいます。
 生き残るためには生き残る確率を少しでも上げる準備をすること。
 完璧な対応を取ることは難しいですが、だからといって何もしなければ、あなたが死んだり怪我したりします。そうすると、あなたの救出や安否確認を行うために不要な人手や資機材が投入されることになり、その数が増えれば救出する人手が足りなくなって助かる命も助からなくなります。
 まずは何か一つを固定してみてください。無理なら、せめて倒れてくる方向に人がいない状態を作り上げるようにしてください。
 ほんのちょっとでも作業を行えば、それだけ助かる確率は上がります。
 今からでも遅くはありません。まずは最初の一歩を踏み出して、災害で死なない環境作りに取り組んでくださいね。

手洗いと衛生概念

 災害時に避難所で衛生的な環境を維持するのは非常に困難です。
 ですが、通常時よりも人が密集して集団生活を行う環境であることから、災害時の避難所は通常時以上に衛生的な環境を維持するための努力をしなければなりません。
 ただ、こういった非常時にはその人の行動が先鋭化してくることに注意が必要です。
 特に衛生的な環境を維持するための基本である手洗いを見るとよくわかります。普段あまり手洗いしていない人はこれ幸いと手洗いをしなくなりますし、これでもかと手洗いする人は消毒液を持ち歩くような状態になってきます。
 衛生的な環境を維持することで、避難所内での感染症の流行をできるかぎり押さえるようにすることは、避難所運営の中でかなり上位に位置する仕事です。地域医療に過度な負担をかけないためにも、衛生管理は徹底しなければなりません。
 清潔な水を確保することはもちろんですが、石けんや消毒液の準備、ドアノブや手すりなどの定期的な消毒、トイレ掃除など、衛生管理はいろいろとあるのですが、手洗いという点で考えると、どんな人でも手洗いをしなければならないような仕掛けを作っておく必要があります。
 例えば、避難所に出入りする動線上に必ず手洗い場があるように設計しておくことや、出入り口に大きな手洗いの掲示をしておくこと、館内放送で手洗いをするように働きかけることなど、その避難所に応じてさまざまな方法があると思います。
 一つ有効なのは、子ども達に手洗いをしっかりとさせること。大人というのは不思議なもので、子どもが正しいことをやっているとなぜかそれをまねする人がたくさん出てきます。
 それを利用して手洗いを習慣づけるようにしていくのです。
 最近はやっている新型コロナウイルス対策でも、手洗いは最上位にくるような感染対策になっていますし、手洗いをしっかりするだけでかなりの感染症を減らすことが可能だと言うことを、マスクの入手が困難となった今回のコロナウイルス騒動は教えてくれました。
 避難所において感染症の大流行を防ぐためにも、手洗いだけは徹底しておきたいものです。

【参考】上手な手洗いの方法(厚生労働省のウェブサイトに移動します)

消毒あれこれ

 消毒薬についてはいろいろとあるのですが、今回のコロナウイルス騒動を見ていると、かなりあちこちで混乱が起きているような気がします。
 今回は間違いやすい消毒液についてちょっとだけ触れてみたいと思います。

1.エタノールとメタノール

 学生時代に理科や科学の授業で教わったと思いますが、アルコールにも大きく分けると二種類のものが存在します。
 一つはエタノール。これはエチルアルコールで、「消毒用アルコール」「消エタ」と呼ばれています。一定濃度でウイルスや細菌を殺傷できる能力があることから、今回の新型コロナウイルス騒動では店頭から消えて無くなってしまい、普段から医療ケアが必要とされている方に届かなくなってしまいました。
 消毒に使えるのは60%から95%の濃度のエタノールです。濃度が95%以上ある無水エタノールというものがありますが、こちらは濃度が高すぎで薄めないと消毒効果がありませんので気をつけてください。
 もう一つはメタノール。これは工業用アルコールで、アルコールランプなどの燃料用として使われるものです。人体に使うのは危険です。戦後、アルコールの無かった時期にこのメタノールを飲んで失明や亡くなった方もたくさんいたそうで、呑むと目が散るアルコール、つまりメチルアルコールと覚えろと筆者は教わりました。

2.次亜塩素酸ナトリウム液と次亜塩素酸水

 同じような名前なのですが、効果は全く異なります。
 次亜塩素酸ナトリウムは、ハイターなどの塩素系漂白剤を希釈すると作ることができ、主に食器やドアノブ、テーブルやいすといった「物の消毒」に使います。
 強アルカリ性ですので、手指の消毒など人体に直接使用することは厳禁です。また、霧吹きやスプレーで空気中に散布することも止めてください。
 次亜塩素酸水は塩化ナトリウム水溶液を電気分解したりして得られるもので、基本的な用途は次亜塩素酸ナトリウムと同じく「物の消毒」に使うようにしてください。
 次亜塩素酸ナトリウムと比較すると使用期限や濃度など気をつけないといけないことがかなり多いです。時間による劣化が早いこと、有機物や紫外線によって分解されてしまうこと等、取り扱いには気をつける必要があります。
 いろいろと騒動になっているのですが、製品評価技術基盤機構、通称(NITE)の試験結果では次亜塩素酸水での殺菌はかなり量が必要だということでしたので、空気中に散布することは止めた方が無難かなと、筆者は考えています。
 ともあれ、この二つは名前はよく似ていますが作り方や性質はかなり異なるので混同しないようにしてください。
 ちなみに次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性、次亜塩素酸水は酸性です。

 消毒液にはいろいろとあっていずれも一長一短があります。
 手の消毒で一番確実なのは流水を使って石けんでしっかりと手洗いすることみたいですが、消毒液を手配するときには事故が起きないように、消毒の目的にあった消毒液を準備すること、そしてまぎらわしいものがあるので充分気をつけてください。

【参考資料】
新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~(製品評価技術基盤機構のウェブサイトへ飛びます)

子どもに伝えておく災害時の対応

 親や大人がいないときに地震にあったらどうするかについて、こどもと話したことはありますか。
 こどもには「ここで遊ぶときはここへ避難してね」といった感じで伝えているのでは無いかと思いますが、安全になるまでそこにいて欲しいと思っていても、こどもは親を探しに危険を押して移動します。
 ですから子どもには「お父さんやお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、家族みんながそれぞれ避難するから、あなたも避難して安全だとわかるまではそこにいてください」と、家族もきちんと避難すると言うことを伝えておいてください。
 できれば、安全が確保されてから家族が集合すべき場所を具体的に決めておくとより安心です。集合すべき場所は、津波などの影響がありそうなら影響を受けない高台や避難所の場所を、そうでないなら自宅などを目印にしておくといいでしょう。
 そして安全とはどういう状態なのかについてもきちんと教えておく必要があります。抽象的ないい方だと、子どもはうまくイメージできないことが多いですから、例えば「波が完全にこないとわかるまで移動しない」とか「ラジオやテレビで安全だとわかるまで移動しない」など、わかりやすくイメージしやすい言葉で伝えておきましょう。
 親が子どもを心配するように、子どもも親を心配します。だから、こどもに「あなたが避難してくれていると思うから自分は避難できる」ということをしっかりと伝えてください。
 逃げないといけないときには、何をしていても逃げること。みんなちゃんと避難するから、あなたも避難すること。あなたが避難してくれると思えないと、自分が心配であなたを探しに行くことになり、災害に巻き込まれてしまうかもしれないことを伝えてください。
 一人一人がそれぞれに自分の命に責任を持ち、自分の命を守るための行動をしっかりととること。いざというときだけでなく、日頃からしっかりと話をしておかないと、思いはうまく伝わりません。
 迷ったときにはより安全な方を選ぶこと。大人がなんと言おうと、自分の命を守るための行動を取れるようにしておきましょう。
 東日本大震災で多くの児童が犠牲になった大川小学校では、子ども達の裏山への避難判断を教師が邪魔したうえに避難させなかったという話もあります。命を守るための判断は、子どもだけで無く大人もしっかりと身につけておく必要があります。
 過剰なくらいの安全確保でちょうどいいのです。「子どもだから大人が100%守る」というのは大人の思い上がりでしかありません。自分の命を自分で守る判断をさせることは非常に大切なことですから、折を見てしっかりと判断能力を育てるようにしましょう。

籠城の準備は大丈夫か

 災害が起きるとき、常に家にいるとは限りません。
 日中であれば、多くの人は職場や学校といった場所で被災するのではないでしょうか。災害が発生した後、すぐに家に帰ることができれば良いのですが、実際のところは職場や学校で一夜を過ごすという事態も起こりうると思っています。
 では、あなたはそんなときに一晩無事に過ごせる装備を持っているでしょうか。
 職場のロッカーや自動車のトランクなどに、あなたが一晩過ごせるだけの装備が入っていますか。お腹が減るのは我慢できても、のどが渇いたりトイレにいきたくなったり、寒さをしのぐのはかなり難しいことなのではないかと思います。
 できれば非常用持ち出し袋、駄目でも防災ポーチくらいは備えておいて、自分の命を守れるようにしておきたいですね。
 そういえば、小学生や中学生では余計なものは持ってこないように指導されており、例えば防災ポーチなども「余計なもの」に分類することも多いと聞きます。
 では代わりに一晩越せるものがきちんと学校に置かれているのかというと、指定避難所になっている学校でもせいぜい「毛布」というお寒い状況ですから、通常の学校にはまず装備は無いと考えて良いと思います。
 ではどうすればいいのか。どうやったら自分の身が守れるのかを考えておかなければ、いつになっても身体を寄せ合って暖を取る過酷な籠城から脱出することはできません。
 命を守るためにどうすればいいかをしっかりと考えて、何を用意しておいたらいいのかについて検討し、あなた自身の命を守る準備をしておきたいですね。

炊き出しで気をつけること

 大規模な災害が起きると、さまざまな場所で炊き出しが行われます。
 被災者同士が材料を持ち寄ったり、ボランティアの方が避難所まで来て調理したり、さまざまな形はありますが、行政からの配給弁当はパンか冷たいお弁当が多いですから、温かい食事ができるのは非常にありがたいことです。
 ただ、その時には衛生管理を徹底することがいつも以上に大事になりますので気をつけておいてください。
 例えば、水道が損傷して潤沢に水が使えない状態であるなら、素手で食材を触ることは厳禁です。手には普段からさまざまな雑菌がついていることはご存じだと思いますが、満足に手洗いのできない状態だと間違いなく汚れた状態になっています。アルコール消毒すればいいとお考えの方もいると思いますが、あれはあくまでも普段の手の状態がある程度衛生的であることが前提ですので、水と石けんによる手洗いの補助だと考えてください。
 素手で食材を触らないためには、使い捨ての手袋を着用すればいい話なので、自治会などで準備する災害セットの中には必ず使い捨て手袋を加えておくようにしてください。そして、使い捨て手袋はゴム製でない方が安全です。これはゴム製が食材に悪さをするわけではなく、ゴムアレルギーの方がいることを想定する必要があるからです。
ゴムアレルギーの方はゴムに接触すると赤くなって腫れたりかぶれたようになったりします。災害後には病院も稼働できていないことが殆どですから、抗アレルギー薬も手に入りません。
 非常時にはそういったことに意識が向きにくいですから、手袋はゴム製以外、例えばポリプロピレンなどの素材のものを用意しておく方がいいです。
 次に食材の温度管理。肉や魚は常温だと腐敗が進みます。クーラーボックスに入っているからと言っても安心はできません。しっかりとしたクーラーボックスにしっかりと冷やせるだけの保冷剤を入れ、必要時以外は開け閉めせず、炊き出しで材料を全部使い切るようにしてください。
 また、生肉や生魚を使った道具は雑菌に汚染されていると考えて、しっかりと洗浄もしくは処分を行ってください。充分な消毒ができれば良いのですが、そういった環境でない場合も多いと思いますので、使い捨ての割り箸などを使って利用後は処分するようにした方が安全です。

炊き出しの基本は素手では触らないことと食べ物全てに火を通すこと。


 最後に、出来上がったらすぐに食べること。暖かいものであれば2時間以内を目安に食べきるようにしてください。食べられなかったものは、もったいないですが全て破棄をしましょう。
 もし食中毒になったら助からないかもしれないと考えて、間違っても食中毒が起きないような衛生管理をするようにしましょう。
 なお、発生した生ゴミは液体と固体を分離した上で固体はビニール袋などでしっかりと密閉してゴミ袋へ、液体は猫の砂や吸水ポリマーなどに吸収させた上で、ビニール袋に密閉してやはりゴミ袋へいれるようにしてください。
 生ゴミは固体も液体もハエやゴキブリ等が発生する格好の温床となりますので、処分までしっかりと衛生管理をすることが大切です。
 被災地では食中毒を出すと死者が出てしまうかもしれません。そうならないためにも、衛生管理をしっかりと行って、安全に暖かくておいしいものが食べられるようにしておきましょう。

応急処置を巡る小さな戦い

災害時の応急処置の講習では「まず止血!」をたたき込まれます。

 先日、止血法を巡ってちょっとしたトラブルがあったそうです。
 伝聞調なのは、憤懣やるかたなしといった表情のAさんのお母さんからお話を聞いたから。
 Aさんは当研究所のジュニア研究員としてワークショップや他所の防災イベントなどに積極的に参加してくれている子どもさんなのですが、この子と他の子で止血方法を巡って言い争いになったのだそうです。
 もう一人の子、ここではBさんとしますが、このBさんが指を切ってしまいました。
結構血が出ていたようで、それを見ていたAさんはすぐにきれいなハンカチで傷口を押さえるように言ったそうです。
 いわゆる圧迫止血なのですが、Bさんは「まずは傷口を洗ってから」と水道の流水で傷口をあらい、その上で切り口から心臓に近い場所の血管を押さえながら傷口を圧迫止血したそうです。
 Aさんはちょうどこの出来事の少し前に応急処置の方法を習ったばかりで、そこでは「まず止血」と教わっていたのでそのように言ったのですが、Bさんも自分の通うスポーツ教室で応急処置の方法を教わっており、そこで習った方法で処置を行っていました。
 このことでAさんとBさんが喧嘩になってしまって、困ったAさんのお母さんが筆者に相談してこられたのです。
 聞く限り、どちらの手順も間違っていません。
 ただ、災害時の処置とスポーツ事故の処置が異なるのかなと考えて調べてみたのですが、応急処置法を書いた本にはどちらのやり方も出ています。
 強いて言えば、「水洗い→止血」の手順を記載している本の方が「まず止血」と書かれている本よりも古いかなといった感じですが、なんとなくすっきりしなかったので応急処置を教えている方に聞いてみました。
 その答えは「怪我の程度や周囲の状況によって異なる」というものでした。
 大きな怪我、特に出血が多いと、すぐに止血をしなければ命にかかわりますから、まず止血となります。
 また、そこまで出血量が多くなく水洗いしたら傷口が見えるようなレベルであれば、洗えってから止血すれば汚れが残らなくてよい。
 極論ですが、出血が止められるならそれでいいのです。
 納得いかないAさんには、どっちの処置も間違っていないことと、まず圧迫止血で血を止める、つまりAさんの処置で良いことを説明しました。
 そして方法は一つではなく「出血が止められる」という目標が達成できるならそれでいいというと、ちょっと不思議そうな顔をしていましたが、Bさんのやり方もあるんだということを理解してくれるといいなと思います。
 今回、止血法を巡って子ども達がバトルを繰り広げているのを知り、しっかり目的やその根拠を伝えていかなければいけないなと感じました。