逃げるべきか逃げないべきか

災害の原因はいろいろとありますが、その原因によって避難すべき場合と、自宅でやり過ごした方が安全な場合とがあります。
あなたはお住まいの場所やお仕事の場所がどのような災害の危険性があって、避難した方が良いか、するとすればどこに避難するのか、またはその場で待機している方が安全が確保できるのかを検討していますか。
いきなりやってくる地震の場合は、建物補強と落下物防止くらいしか事前対策はできませんが、他の災害は事前にどの災害で避難しないといけないのか、避難先はどこで、どうやって避難するのか、そして避難開始のタイミングはどうするのかを決めることができます。
また、逆に避難した方が危険な場合には、家にじっとしている場合も出てきます。あるいは、逃げ遅れた場合には自宅のどこが一番安全なのか、それも確認しておかないといけません。
行政機関が出す避難の呼びかけは地区・地域という面で発表されますが、実際に避難すべきかどうかは、あなたのいる場所の環境や条件によって異なってきますので、事前に地域の特徴を確認して、どのようにすべきかを決めておいた方が安心です。
逃げるかどうかがわからなければ、その先の準備がうまくできずに、実態とあわない状態になってしまいます。
まずはあなたのいる場所がどの災害に弱いのか、そしてどんな条件になったら避難しないといけないのか、そのことをしっかりと確認しておいて下さいね。

施設の避難計画はできていますか?

平成29年6月19日の『水防法』等の改正により、浸水想定区域などに所在する要配慮者利用施設の所有者または管理者に対し、避難確保計画の作成及び避難訓練の実施が義務となりました。
要配慮者と聞くと老人や障害者が思いつきますが、乳幼児もここに含まれるため、老人ホームや障害者福祉施設だけではなく、幼稚園や保育園、こども園も避難確保計画の策定と避難訓練の実施が義務化されています。
4月18日付けの読売新聞1面には、浸水想定区域にある幼稚園や保育園、こども園の2割が避難確保計画未策定となっているという記事がありました。
その理由は「施設側の人員不足や義務化されているという意識が薄い」と記事には書いてありましたが、行政側も人員不足やコロナ禍で立ち入り検査ができず指導が難しいようです。
正直なところ、未策定の数字が思ったよりも少ないなと感じました。
実際のところ、避難確保計画では避難の発動条件が施設管理者の判断に一任されているものも多く、誰が見ても避難と判断できる避難条件が決定されていないものは策定しているとはいえないと思っています。
また、避難開始から避難完了までは定めていても、避難先でどのように過ごすのかや、どのようになったら避難を解除するのかについても、明確に決めているところは少ないと思っています。
避難確保計画はピンからキリまでありますが、災害対策に関心のある人が作っているかどうか、そして管理者や所有者がどれくらい真剣に災害対策を考えているのかによって出来上がりの質が相当違っています。
現在は計画があればいいということで、かなり適当に作っているところも多いと思いますが、大規模災害が起きるたびに要配慮者利用施設で死者やけが人がでる現状を考えると、もっと真剣に取り組むことと、防災に通じた人と一緒に考えるなどして、生きた避難確保計画を策定し、生きた避難訓練をし、本番ではだれも死なないようにしてほしいなと思います。
 

段取り8分な災害対策

 昨日も書きましたが、「災害対策=特別なこと」としてしまうと、対策は長続きしません。
 あくまでも日常生活の延長線上で考えていかないと無理が来ます。
 そして、災害対策は決して難しいことではありません。日々の生活の中で、ちょっとした意識を持てばいいのです。
 災害対策とは「災害が起きた後、日常生活の質をいかに落とさなくてもすむようにしておくか」という準備ですから、住んでいる地域や今いる場所がどのような災害に弱いのかを知り、それに対する備えをしておけばよいのです。
 例えば、山のてっぺんに住んでいる人が浸水被害や津波の心配をしてもあまり意味がありませんし、平地に住んでいる人が土砂災害のことを気にしても自分の生死には直接の影響は少ないです。
 あなたがいる場所にあわせた対策をとることが、災害後の生活の質を落とさなくてもすむ一番の方策なのです。
 災害に弱いからといって、いま住んでいるところを変えるのは難しいかもしれませんが、引っ越しや家を買うときなどは、土地の形や周囲の状況といったものをしっかり確認しておくだけで、災害時に避難しなくてはいけない状況を減らすことができます。
 また、建物がしっかりとした耐震化がしてあれば、地震後に慌てて避難所に駆け込まなくてもすみますから、家を買う際にはそこもしっかりと検討しておいてください。
 普段からの生活の質を落とさないという点では、避難所へ避難するよりも自宅で過ごせる方がいいはずですので、まずは住むところが安全出ることが必要です。
 そして、食事、水分、排泄がきちんと確保されていること。
 特に排泄は絶対に我慢ができませんので、トイレの排水が無理だというときにどうやってトイレを確保するのかについてはしっかりと決めておかなければいけません。
 仮設トイレを作るのか、トイレの排泄部分だけを仮設化するのか、それとも使えるトイレを事前に調べておくのか。
 そういった決めごとをきちんと定めておくと、災害のショックで頭が回らないときにでもトラブルの回避はできます。
 最近の災害は多種多様なものが起きているので、そのときにどのようなことに困ったのかはさまざまな事例が今ご覧のインターネットなどにもたくさん出ています。
そういった事例を見て、自分のところの対応がきちんとできているかを確認しておくようにしてください。
 災害対策も段取り8分です。訓練していないことはできませんし、準備していないものはありません。
 仮設トイレや段ボールベッド、物資の配給訓練などさまざまな訓練はされていると思いますが、その訓練に使っている資材についても、きちんと使えるものを準備しておくようにしてください。

お散歩と防災

 災害対策の研修会の中で最近よく行われているものに「防災マップづくり」があります。
 対象は小学生だったり地域の人だったり、フィールドワークの大学生だったりしますが、行うことはどれも一緒で、その地域の危険な場所、安全な場所、役に立つものを洗い出して一枚の地図に落としていくという作業です。
 ただ、普段見ているようでもいざやってみると非常に時間がかかるもので、その地域の住民の方が自分の地域の点検をするのに一日以上かかることはざらにあります。
 普段意識していないものは存在していないものと一緒なので、見慣れた場所でも視点を変えると見知らぬ場所になるということなのかなと思います。
 ところで、いざ災害が起きると最後にものをいうのは基礎体力。普段からしっかりと動いている火とは、そうでない人に比べるとやっぱりタフです。
 普段から歩く習慣を持っておくといいのですが、これまた意識していないとなかなか難しいものですから、あまり運動をしない人はせめてちょっとした時間に家の周りの散歩くらいしてみてはいかがでしょうか。
 その散歩の際に、先ほどの「危険な場所」「安全な場所」「役に立つもの」を探したり確認したりということを一緒にやると、あなた自身も健康になって、いざというときにも自分の安全を確保した避難や対策をすることができます。
 あまり関連性のない気のするお散歩と防災ですが、意識付けすることであなたの身を守るのに結構大切だと思いますので、できるようならやってみてください。

【お知らせ】「日本海南西部の海域活断層の長期評価」が公表されました

 令和4年3月25日に地震調査研究推進本部(地震本部)が日本海南西部の海域活断層の長期評価を公表しました。
 今回は実際に機材を使って調査した結果だそうですが、調査前の想定よりもずいぶんと活断層が多い感じがします。
 島根県西部は今回の評価では南西部中部という位置で評価されていますが、1872年の浜田地震や1026年の万寿の大海嘯についても触れられています。
 30年以内にM6.8程度の地震が起こる確率は6-9%となっていますが、0%では無いということで、いつ地震が起きてもおかしくない状況です。
 充分な調査ができていないということで、評価も難しいようですが、沿岸部に住んでいる人は、地震と津波について対策をしておいたほうがよさそうです。
 詳しくは地震本部のウェブサイトをご覧下さい。

日本海南西部の海域活断層の長期評価(地震本部のウェブサイトへ移動します)

どのような調査をしたのかに興味のある方はこちらもどうぞ
日本海南西部の大地震 海域活断層対象の評価初公表 地震調査委」(NHKのウェブサイトへ移動します)

避難所の表示に注意しよう

 災害が起きた、あるいは起きそうなときは近くの避難所へ避難するように、以前は誘導されていました。
 密を防ぐ必要があるとされている新型コロナウイルス感染症が蔓延してからは、できるだけ安全なおうちでは在宅で過ごし、危険エリアなどに住んでいる人が避難所に避難するように変わってきていますが、災害時には「○○地区に避難勧告」といった風に安全かそうでないかを考えない状態で避難指示が出させることが多いです。
 ところで、避難所にはそれぞれの災害に対応しているか否かがわかるようになっています。以前は「避難所は災害全てに対応」のようなイメージだったと思いますが、現在では「該当する災害に対応している避難所へ避難」となっていて、ハザードマップはもちろん、避難所にも可能な限り対応表を貼り出すようになっています。

 この対応表、どこの避難所でも周囲からよく見えるところに貼ってあるのですが、結構気がつかない人がいるようで、水害が起きそうだからといって水に浸かるエリアにある避難所に避難しようとする人がいます。
 せっかく貼り出してあるのですから、お住まいの地域の避難所がどのような災害に対応しているのかをしっかりと確認し、避難所で被災することがないようにしてください。

地震とライフライン

 3月16日夜の地震の続報がいろいろと出ているようですが、現地の生活が早く復旧されることを願っています。
 さて、今回の地震でもそうなのですが、電気や断水、ガスの供給停止というのは大きな地震が起きるとほぼ100%どれかが発生しますが、その理由を知っていますか。
 揺れによる損壊ももちろんあるのですが、地震が起きた結果、地面が上下左右にズレることによって管が破損や切断状態になってしまうことによってトラブルが発生するのです。

地震の種類と地面の動き

 径の大きな配管であればあるほど影響も大きくなるので、水道本管や下水本管、ガス本管、製油所の送油管などが破断すると、断水や火災などが起きてこまったことになってしまいます。
 日本は地形的にどこにいても地震が発生する可能性がありますので、地震が起きないところへ移転するというわけにはいきません。
 水道や下水、ガス、送油などを止めるわけにもいかないので、実際のところは地震が起きてから復旧するまでの時間をどれくらい短くすることができるかということくらいしか対策ができません。
 個人としては、飲料水の確保や下水道の代わりになるようなトイレの準備、カセットガスとコンロの準備といったところでしょうか。
 最近では災害が頻発しているので、災害が発生したときの給水車の手配や仮設トイレの準備などは過去では予測できないくらい準備が早くなっています。
 とはいえ、大規模災害になると何が起きるかわかりません。
 自分の命を繋ぐ水やトイレくらいは、予め準備しておいた方がよさそうです。

災害遺構を訪ねて17「益田川ダム」

 厳密に言うと「災害遺構」というのとはちょっと違う気がするのですが、災害がきっかけとなって作られた、洪水対策に特化した益田川ダムをご紹介したいと思います。
 益田市というところは、高津川と益田川に挟まれた地域に市街地が広がっています。
 二つの川がもたらす良質な耕土は流域に豊かな田畑を作ってくれましたが、同時にちょっとした雨でも水没する、水害多発地帯でもあったのです。
 戦前からさまざまな治水事業や改良事業が行われてきたのですが、その想定を超える豪雨や台風に襲われて、流域が水没することが繰り返されていました。
 益田川ダムを造る計画自体はかなり昔からあったようですが、昭和58年の島根県西部水害が決め手となって益田川ダムが造られることになったそうです。
 このダムが面白いのは、洪水対策の単能ダムだということ。
 元々は他のダムと同じような多目的型の湛水するダムだったそうですが、紆余曲折の末に普段は水をためない穴あきダムになったそうですが、その後の雨の降り方を見ると、これで正解だったのではないかという気もします。

ダムを上流部から見る。湛水していないのがよくわかる。

 吐水口はダムの低い位置で常に開放状態となっていて、流域に大量に雨が降ったときでも、吐水口から排出される水の量は一定のため、下流域に影響が少ないことです。
 昨今のダムの緊急放水による下流域の水没事故などの話を聞くと、このダムの優位性がよく分かるのではないかと思います。
 普段は地元の人のお散歩やダムマニアの人くらいしか見かけない場所ですが、このダムができてから後、益田川での大きな氾濫が起きていないことを考えると、効果はあったのだろうなと思います。

まず上を見る

写真のような豪華な天井は、地震時には凶器になりうる可能性がある。

 あなたのお出かけ先で地震が起きたとき、あなたはまず何をしますか。
 建物外に逃げ出すとか、その場でダンゴムシのポーズをとるとか、柱のそばによるとか、人によっていろいろだと思います。
 また、あなたがいる場所がどんなところなのかによっても変わってきます。
 一つだけ共通して言えるのは、まずは上を確認するということです。
 地震の際に危険ものはいろいろとありますが、もっとも危険なものは上からの落下物です。高さがあるところからの落下物に直撃されると、場合によっては死んでしまうこともありますので、まずは頭上の安全を確認して下さい。
 まずければ、揺れていても少しでも安全な場所に移動しなければ危険です。
 逆に頭上に何も無ければ左右の安全を確認し、それでも大丈夫なら危険はかなり少ないと言えます。
 避難訓練で防災ずきんやヘルメットを被るのは、それだけ頭上から落ちてくるものが驚異ということですので、まずは頭上の確認を行います。
 気持ちに余裕があるようなら、移動しながら頭上の確認をするくせをつけておくと、いざというときの動きが早くできます。
 身を守る行動といういわれ方をしますが、その一番最初は頭上の安全確認。
 これを覚えておいて欲しいと思います。

津波あれこれ

 先日太平洋のトンガで火山の大爆発があり、日本にも津波が到達しました。
 気象庁では最初は津波の恐れがないとしていたものの、後に津波警報及び注意報を太平洋沿岸から南西諸島にかけて発令しました。
 未確定ながら、これは噴火が原因の大気の震動による衝撃波、空振と呼ぶそうですが、この衝撃波によるものだとも言われています。(詳しく知りたい方はリンク先のウェザーニュースをご確認下さい。)
 そして、普通の津波と異なり原因が大気の衝撃波のため、速度は速く、そして世界中のどこででも津波が起こりうるやっかいな代物なので、潮位が上昇してから慌てて津波警報が発令されても仕方が無いと言えるでしょう。
 ところで、この津波、大波と高潮とはどのように異なるのでしょうか。
 今回は津波について再確認してみたいと思います。

1.津波とはなにか

 津波は英語でも「TUNAMI」と呼ばれていて、呼称としては日本語の津波がそのまま国際標準として使われています。
 ごくまれに隕石落下や、今回のトンガ火山の噴火による空振のような場合もありますが、津波は基本的には地震や火山などが原因で起きる海底や海岸地形の急激な隆起や陥没によって生じた大規模な海水の塊が原因となった場所から広がっていき、地上に被害を与えるものです。
 水面表層部が風などによって大きな波となる大波と異なり、海水の表層部から深層部にかけて一気に動くため、とても大きな水の塊が押し寄せることになります。

2.津波の特性
津波は海水が大きく移動するもので、水深が深いところでは波の移動速度は速いものの波高はそこまで高くはなりません。これが水深の浅い沿岸部に達すると、今度は波の速度は遅くなり、波高は一気に高くなります。
波というか大きな水の塊が何回も押し寄せてきますので、一度やり過ごしたからと言って油断は禁物です。第一波よりもそのあとの方が大きなものと言うことも多いです。
参考までに、東日本大震災時の津波の動きを空から追ったものをリンクしておきます。

東北地方太平洋沖地震による津波(岩手県久慈市上空)(youtube八戸市広報チャンネルに移動します)

2.津波と大波と高潮の違い

発生する原因がそれぞれ異なります。
津波の起きる原因は1のとおりですが、大波は台風など気圧が下がり、強風などで水面の表面で起きる現象で、高潮はやはり気圧の低下によって水位が上昇し、沿岸部が水没する状態をいいます。

3.津波の警報基準

 津波の警報基準は次の表のとおりになります。


 ただ、地震が原因で発生した津波については、予測される津波の高さでは無く、感覚的な「大きい」や「巨大」といった言葉が使われます。
 これは東日本大震災時に津波の高さを聞いた人達が避難せず、大きな人的被害を出したことから変更されました。

4.津波に関する注意報や警報が出たらどうするか

 取りあえず高い場所へ避難しましょう。津波は波と異なり海水全体が押し寄せてきますので、数十センチのものでも波とは比較にならないほどの力を持っています。
 物見高く堤防などで見ていると、もし飲まれたらまず助からないと思って下さい。
 津波が来るとわかったら、可能な限り高い場所へ移動します。海岸部から離れたとしても、海岸部とあまり変わらない高さの場合津波は押し寄せてきてあまり意味がありません。
 とにかく高手へ逃げて下さい。
 そして、津波警報や津波注意報が解除になるまでは高手で避難を継続します。
 津波は一度だけでは収まらず、何回も続けて押し寄せてきますので、安全が確認されるまでは油断しないようにしてください。

 滅多に起きないと思われていた津波ですが、最近は火山や地震の頻発により津波が発生することも増えてきています。
 もしも沿岸部で津波発生を耳にしたら、何を置いてもまずは高いところへ避難することを忘れないようにお願いします。