加害者にならないために

 災害、特に地震が起きた時に怖いのは家屋や塀、構造物の倒壊です。
 平時はなんともないように見えても、地震が起きたら倒れたり折れたり崩れたりといったことが起こりえますので、そういったことが起きないように普段から適切な管理が必要となります。
 個人の所有権が認められている日本ですが、所有権は同時に所有しているものへの管理責任もついて回りますので、仮にその場の状態を知らなかったとしても、何か起きて被害が発生すれば、その被害を補償する義務を負うことになるのですが、このことが理解できている人はまだまだ少ないようです。
 例えば、経年劣化で倒れそうな塀があるとします。所有者は高齢で、経済的にもこの塀を取り壊すのは無理だと主張しています。
 で、この壁が地震で倒壊し、その倒れた先に人がいて、その人が死んだり怪我をしてしまうと、所有者の管理責任が問われて取り壊し費以上の補償料を支払うことになってしまうのです。
 地震が頻繁に起きる日本では、家や塀といったあらゆる構造物が地震対策をしていないといけません。
 貸家や貸倉庫などでも、地震で崩れれば貸主が賠償する責任しなければならない可能性が出てきます。
 平時の日常生活では必要経費の優先順位は低いかもしれませんが、発生した災害で事故が起きると、途端にさまざまな損失があなたに襲い掛かってきます。
 地震保険に入っておくのはもちろんですが、古い家であってもきちんとした耐震補強、高いブロック塀は取り壊したり高さを下げたりして、万が一倒壊しても周囲に被害を及ぼさないようにしておくなど、所有者としての義務をしっかりと果たすようにしましょう。
 

生活用水を考える

 災害対策の中で大きな問題になるのが水です。
 そのうち、生活用水については量も多く必要で飲料水よりも優先順位が低くなるため、なかなか確保が難しいのではないかと思います。
 ただ、生活用水は飲料水ほどの清潔さは求められませんから、あらかじめ準備がしてあれば確保は非常にしやすくなると思いますので、水の確保という意識を持つとよいのではないでしょうか。
 例えば、排水に影響で他者に影響がなければ、風呂おけはおそらく家の中で最大の貯水場になりますので、災害が起きる前にそこに水をためておくのは一つの手です。
 庭などに井戸があるなら、それらを定期的に使えるかどうか確認しておくと、いざというときに非常に頼もしい存在になります。
 電気が来ているのであれば、除湿器の水やエアコンの排水なども使えるかもしれません。また、雨水タンクや太陽熱温水器なども貯水装置としては優秀です。
 最近では配水管の中に貯水できる空間を確保したものもあるようですので、ちょっと意識するだけで水の確保はある程度できると思います。
 普段からどのあたりに水があってどうやって処理しているのかを意識するだけで、ある程度の水の確保は可能です。
 全てを準備するのは大変かもしれませんが、できる範囲での生活用水の確保の方法を考えてやってみてください。

弱者ほど厳しい避難所生活

 災害の避難情報では「レベル3・高齢者等避難」と「レベル4・避難指示」に別れています。
 このうち、レベル3の高齢者等の「等」には障がい者や乳幼児、妊婦といった生活に対してさまざまな配慮のいる人達が含まれていて、そういった人達は元気な人よりも早く避難を促されています。
 その理由はいろいろとあるのですが、一番大きな理由は、元気な人と同時に避難を開始したら、生活に配慮のいる人達は元気な人に避難する速度が負けてしまうからです。
 生活に配慮のいる人いない人の区別は、避難所にはありません。考え方としては、避難者は平等に避難者としての取り扱いがされてしまいます。
 そのため、生活に配慮のいる人達は元気な人と同時に行動を開始すると、どうしても速度で負けてしまって、避難しても避難所等に収容してもらえないという事態が発生します。また、元気な人に交じって避難するのが難しい場合もありますのから、せっかく避難したにもかかわらず、結局自宅に戻ってしまう例も起きています。
 これはまずいということで、現在は配慮のいる人達は最初から福祉避難所に避難できるように法改正されているのですが、普段から施設を利用している人達はともかく、乳幼児や妊産婦を最初から受け入れてくれる場所は、保育園や病院、助産院などになり、福祉避難所としてはあまり聞きません。
 また、元気な人でもアレルギーを持っている人がいますが、避難所で避難者に支給されるさまざまな支援物資はアレルギーの配慮はありませんので、自分でものを見て判断していくしか手がありません。
 これも避難者として平等に扱われることから発生する問題です。
 一般的に生活になんらかの配慮がいる人達は避難所では隅に押しやられ、その上生活再建することも時間がかかってしまうために最後まで避難所にいる羽目になることが多いです。
 あなたがもし、生活になんらかの配慮が必要な人だとしたら、避難所に避難するとひどい目に遭うことは目に見えていますので、避難所以外で自分が安心して過ごすことのできる避難先を用意しておくことをお勧めします。
 生活弱者ほど厳しい生活になってしまうのが避難所です。
 避難しなくても済むような場所に住んでいることが一番の理想ですが、さまざまな事情でそれが難しい場合には、最低1カ所、できれば複数箇所、自分の安心できる避難先を見つけておいてください。

地震とそれ以外の災害の違い

 災害に関する講習会をするとき、地震とそれ以外とに分けて説明することが割とあります。
 というのも、地震は予知できませんが、それ以外の災害は予測できること、そして発生する被害が違うことが挙げられるからです。
 例えば、大雨や台風はある程度被害の発生は予測できると思いますが、地震の発生場所や被害を正確に予知できたケースは存在しません。
 また、大雨や台風では水や土砂でものが埋まったりえぐれたりという被害が多いですが、あらかじめ被害が発生するであろう場所は予測ができます。
 でも、地震では発生エリアの地中、地表問わずにあちこちが動いて予測できない被害が起きるのです。もちろん液状化現象など、地勢的に被害が予測できるものもありますが、何が起きるのかは起こってみないとわからないのが地震の怖いところです。
 そのため、地震とそれ以外については説明を分けておく必要があるのです。
 地震以外の災害は徐々に被害が予測できるので、災害発生前に自分の命を守るための手が打てますが、地震はいきなり襲っていますので、起きたときには終わっています。
 何も起きない平時に対策を講じていない限り、地震は命を守るための手の打ちようがないのです。
 災害をひとまとめにして説明をすると、聞いた人は地震のときにでも「起きることが予想できて、かつ起きてから避難の判断ができる」ような誤ったイメージに繋がります。
 災害を考えるときには、いきなりやってくる地震と予兆のある地震以外の災害に分け、それぞれに対策をするようにしてください。

テレビとラジオと防災無線

よくある防災無線の屋外スピーカー。

 テレビやラジオである地域の災害情報を提供したとしても、その地域でそれを見てすぐに避難やその他の行動を起こす人はどれくらいいるでしょうか。
 また、同じ情報が防災無線で流れてきたとしたら、それを聞いた人はどんな行動をするでしょうか。
 テレビやラジオなど、いわゆるマスメディアによる報道というのは、映像で見ても音声で聞いても、どこか他人事な感じがしてしまうようです。
 これは普段から取り扱っている情報が日本や世界ですので、災害の情報も割と見慣れている日常の光景だからなのかもしれません。
 では、防災無線で同じ内容が流れるとどうなるかといえば、それを聞いたら、自分がどのように行動するのかについて考え出すと思います。
 普段は災害情報が流れないところから流れてくる身近な情報だと考えるのです。
 最近では経費削減と称して防災無線を廃止するような行政の動きもあるようですが、もし廃止した場合、ある程度はメールやマスメディアを聞き流してしまう人達が出ることを想定しておくべきです。
 防災無線は、あるだけでは無駄と言われることも多く、行政からのお知らせなどを流していることも多いのですが、本来は非常事態を告げるものですから、日常的にさまざまな情報を流しているとこれまた聞き逃されてしまう可能性が出てきます。
 非常事態を告げるものは、普段は役に立っていないと思われるくらいでちょうど良いのかもしれません。
 テレビやラジオは自分の日常とは別世界の話、そんな風なイメージがある以上は、防災無線はまだまだ活躍してもらわないといけないのではないかという気がします。

公衆電話を確認しておこう

 とある携帯通信会社の回線が長時間ダウンしてしまっています。現在では概ね復旧したようですが、未だに繋がらないところもあるようで、該当するユーザーさんはかなり大変だと思います。
 普段何気なく使っている携帯電話ですが、データ通信も含めた通信環境が全てダウンしてしまうと、思った以上に困ってしまうことが分かった方も多いのではないでしょうか。
 以前は家庭に普通に置かれていた固定電話も、そもそも引いていない家が結構ありますし、家族割りなどもありますから、家族全部が同じ携帯通信会社という方も多いでしょう。危機管理上は固定電話はあった方がいいと思っていますし、家族でも事情がない限りは携帯通信会社は別である方がいいとは思います。
 とはいえ、それは普段の生活とを天秤にかけての選択肢になりますので、普段からかかる経費をなるべく安くしたいと考えると、現在の状態になってしまうのでしょう。
 ただ、今回のようなケースだと、家から緊急時に電話をする手段がなくなってしまっているわけで、何らかの代替え手段を考えておかないといけません。
 そこでお尋ねしますが、あなたは自分の近くにある公衆電話の位置を2台以上思い出すことができますか。
 携帯電話が使えないときには、公衆電話を使うしかありません。
 一時期公衆電話不要論なども出ましたが、現時点ではまだ数百メートルに一台程度は残っていますので、いざというときに備えて場所を把握しておきましょう。
 また、その公衆電話で使える支払い方法もきちんと確認しておくことです。
 公衆電話は、基本的には10円玉は必ず使えるようになっているはずですので、公衆電話の位置の把握と同時にお財布には数十円が常にあるようにしてください。
 それと、当たり前のことですが、公衆電話のかけ方をきちんとマスターしておいてください。
 公衆電話も止まっているかもしれませんが、それでも携帯電話よりも使えなくなる確率は低いと思いますので、散歩のついでに確認しておいてくださいね。

小銭を少しだけ持つ

 災害後にはさまざまなところにいつもとは異なる問題が発生します。
 よく起きるのが、支払いの問題。
 最近ではスマホ決済やカード決済などで普段は支払いが簡単にできてしまうのであまり意識されませんが、いざ災害が起きると、被災地域の電源や通信が失われてしまうことも多いです。
 そうなると、買い物をしようと思っても手元に現金がないと何一つ手に入れることができなくなります。
 コンビニによっては対策をしているところもあるようですが、多くは電気や通信が止まってしまったら代替手段は人力ということになっているようです。
 そして、高性能なレジは電気や通信環境がなければただの箱なので、人力計算時にはまったく役に立ちません。
 おつりもレジからだせませんので、できるだけ細かく、できればちょうどの支払いが要求されてしまいます。
 よくある「念のために1万円しまっておいた」というのは、災害時には自分の助けになってくれないこともあるということを知っておいてください。
 では、いくらくらい持っていれば良いのかというと、あまり高額になると非常用持ち出し袋などが盗まれてしまうかもしれませんし重たいですから、1~2千円程度をくずして持っておくといいのではないでしょうか。
 もちろんある程度は持っている方が安心なので、あとはその人のお財布事情に合わせてと言うことになりますが、そんなにびっくりするほど持っていてもしかたがありません。
 あくまでも急場しのぎとして、常に小銭を持ち歩く習慣をつけておきましょう。

ただ寝るだけでも立派な避難練習

ただの段ボール箱でも使い方で立派な寝具に早変わり。

 災害時、特に雨や台風の場合には、大抵の場合一晩を避難先で過ごすことになります。ホテルや親戚宅などならとりあえずの寝具はあると思いますが、避難所に行くとそういうわけに行かない場合があります。
 事前に避難先に準備しておくか、早めの避難で一緒に寝具を持ち込まない限りは、寝るときには布団が無い状態です。
 そして、基本的に体育館の備品は一時避難では使わせてはもらえませんので、寝るための方法を考えなければいけません。
 最近ではコッドや段ボールベッドなども準備されるようにはなってきましたが、それも基本的に高齢者が優先で数が足りているわけではありません。
 つまり、寝るための道具も自分で準備しておく必要があるのです。
 テント泊に馴れている人なら寝袋やその下に敷くマットなどは持っていると思いますのでそれなりに快適な就寝ができると思いますが、そうでない場合にはどうするか。
 そのためには、家で布団を使わずに快適に寝るにはどうしたらいいかを練習しておくといいと思います。
 やってみると、意外なものが役に立ったり、使えるとSNSで言われていたようなものが案外役に立たなかったりと、さまざまな体験ができます。
 その中で、携帯性に優れていて自分がそれなりにしっかり寝られるような道具が見つかっていくと思います。
 衣食住は大切ですが、それ以上に必要なものの一つが睡眠です。
 可能な限り眠りの質を落とさなくてもすむように、しっかりと練習をして自分に向いているアイテムを見つけるようにしてください。

ゴミをどう処分するか

災害時にはさまざまなゴミがでる。これをうまく捌かないと後々さらに大変になる。

 災害が発生すると、必ず出るのがゴミです。
 普段の生活分だけでなく、被災したものを処分するためにさまざまなゴミが発生し、それが一度に集中するために、なかなか処分が追いつかないという問題があります。
 そのうえ、災害ゴミは可燃物、不燃物、家電金属、プラスチックを問わず、まとめて出されてしまうために、全てを埋め立てることになり、処分場は一杯になってしまって新たな騒動を生み出すこともあります。
 また、古い町並みのところが被災すると道路のあちこちにゴミだまりができて車が通れなくなるような事態も発生しますから、安全な場所までゴミを輸送する手段も必要になります。
 災害時だからこそ、しっかりとした集積方法や分別方法の周知をしてゴミを出してもらい、それをきちんと処分していくことが必要になってきます。
 これは避難所でも同じで、仕分けしてあるゴミは処分経路に負担はかかっても、処分できない事態にはなりませんので、できるだけ発生元に近いところでしっかりと仕分けをするようにしてください。
 最近では中間保存場所を作って、そこで種類ごとに仕分けすることも始められていますが、充分に広い場所を確保できるのかという場所の問題があって、完全にやるのは難しいようです。
 ただ、工夫次第でうまくいく場合もかなりあるようですので、地域にあわせたゴミの処分について、何も無いときにしっかりと取り決めをしておくといいと思います。
 災害とゴミは切っても切り離せないほど関係性が高いものです。
 素早い復旧には、ゴミの処分計画はかなり重要な位置を占めますので、自治会や行政機関などが平時から準備をしておくことをお勧めします。

電気をどう確保するか

 災害が起きて困るのが停電です。
 発送電分離とかで電力会社の体力はかなり削られていますので、昔のように数日で復旧ということが期待しない方が良さそうです。
 でも、生活に必要な電気はできるだけ早く確保したいですから、ある程度は事前準備しておく必要がありそうです。
 例えば、スマートフォンなどであれば、乾電池や充電池があればとりあえずは凌げます。防災用ラジオなどには発電機能を持っているものもありますから、自分のスマートフォンなどが充電できる出力があるかどうかを確認した上で用意するのもありでしょう。
 また、最近よく目につくのが蓄電池と太陽光パネルのセット。寒い地方の冬だと発電できないかもしれませんが、ある程度の発電量は期待してもよさそうです。
 少し規模が大きくなると、自家発電機が選択肢に入ってきます。燃料供給の問題はありますが、正弦波タイプの自家発電機ならパソコンなどの精密機器にも使えますし、ある程度まではいろいろな家電製品も使うことができます。
 気をつけないといけないのは、絶対に屋内では使わないこと。
 排気ガスで一酸化炭素中毒になって、毎年亡くなる方が出ていますので、面倒でも発電機本体は屋外に設置して、電源コードで家の中に給電するようにしてください。
 余談になりますが、最近は災害対応住宅として屋根にソーラーパネルをつけ、屋内に非常用電源のあるものがあるようですが、使えるかどうかは蓄電機の出力とコンセントの位置次第。本当に使いたいものの電力量と相談の上で使われたらいいと思います。
 普段の生活通りに電気を使おうとすると、自家発電機では追いつかないくらいの電力量を使っているかもしれません。
 省エネや節電という話にも繋がりますが、普段から自分がどれくらい電気を必要としているのかを確認した上で、準備をしておくといいと思います。