地形と避難のタイミング

ハザードマップの一例(益田市高津地区~吉田地区の洪水ハザードマップ)

 災害からの避難では、「〇〇地区に避難指示が出ました」というと〇〇地区の全ての住民が避難所に避難しなくてはならないというイメージを持たれているのではないでしょうか。
 言葉を正確に書くとすると「〇〇地区の被害が想定される場所にいる人に対して避難指示が出ました」というところなのですが、被害が想定される場所は非常に曖昧で行政機関が具体的に指定ができないので、「〇〇地区」というくくりで避難を促す構造になっています。
 ですが、もしも避難指示を素直に受け取って〇〇地区の全ての人が避難所に避難するとしたら、よほど小さな集落でない限り、その避難所の収容能力を大きく超えてしまってパンクしてしまうでしょう。
 また、家はなんともなかったのに避難中に遭難してしまうというケースもありますから、自分のいる場所はどのような災害に対して弱いのかをきちんと把握しておく必要があります。
 そこで確認しておきたいのがハザードマップです。これには土砂災害警戒地域が記載されているはずですから、それを見ると大雨などで崩れる場所がある程度予測できます。また、河川氾濫もハザードマップを見ればある条件下ではありますが被害に遭うところが予測できます。
 排水がうまくいかないことによって発生する内水氾濫についてはハザードマップではわからないものも多いので、国土地理院地図Vector内「自分で作れる色別等高図」で色塗りしたものを使って低い場所を確認しておきます。メートル単位のざっくりとした絵ですが、これである程度低い場所が把握できるので、その地域にいるのであれば優先して避難する必要があることがわかります。

国土地理院Vectorを使って1m刻みにしてみた。こうすると、どこが低いのかが一目でわかる。


 逆に言えば、こういった避難の要件を満たさない場所にいる場合にはそこにいたほうが安全だということが言えるわけですから、慌てて避難しなくてもいいということがわかると思います。
 もちろんこれらで問題ない場所だからと言って100%安全だとは言えませんから、不安であれば避難してもまったく問題ありません。
 重要なのは、自分のいる場所がどんな条件の土地なのかをきちんと知っておくことで、それによって避難判断をする基準が異なるということになります。
 似たような場所に住んでいるからといって、必ず同じように被災するとは限りません。隣り合わせた2件の家が、片方は倒壊して片方はなんともないということもあり得るからです。
 自分が住んでいる場所の地形を把握し、避難が必要だと考えたら、その避難経路も含めた地形の安全をしっかりと確認し、どのタイミングで避難すればより安全かをしっかりと決めておきたいものですね。

避難所設営基本の「き」その5・情報の受取と公開の方法

さまざまな機関からさまざまな情報が送られてくる。どう処理するかが腕の見せ所

 さて、避難所設営も殆ど終わったと思いますが、設営のとき、一つ気をつけておきたいことがあります。
 最初に避難所、特に指定避難所と言われる場所では「地域の被災避難者の住居」と「被災者の支援を行うための物資集積所」という二つの性格を持っているということに触れました。
 小さな避難所や在宅避難者車中避難者などは、この指定避難所に支援物資を受け取りに行くことになりますが、その際に情報も持って帰る場所でもあるということを気にかけておいてください。
 自治体が発信している災害情報は多岐に及んでおり、しかも時間ごとに変わるような内容もありますので、それらが分かるように掲示しておかなければなりません。
 情報の受信方法は、届いていることが一目で分かるFAX一択だと思いますし、避難所への掲示も紙で行った方がわかりやすいし確実です。
 発信元の自治体がそれに対応しているか、そしてどのような掲示物をどのように張り出したら良いのかについてもあらかじめ決めておきましょう。
 ところで、自治体が発信する情報はなぜか言い回しが難しくて字が小さいものが多いのですが、高齢者や疲労の溜まった避難者、日本語が充分に理解できない人などはこれをそのまま読んでもたぶん理解ができないこともあると思います。
 貼り出すときには、あまりに難しい言い回しであれば「やさしい日本語」に変換して大きな字で掲示するのもよいと思います。

 ここまで、避難所設営の基本について書いてみましたが、もしかしたらご存じのやり方と違っているかもしれません。
 ここで書いた避難所設営の基本は、あくまでも筆者が経験と知識からやっておいたほうがよいと感じているものなので、恐らくたくさん抜けがあると思います。
 また、避難所によってはここまで考えなくても良い場所もあると思います。
 要は、避難所設営のときに混乱が起きずに避難者が無事に収容できて避難すべき期間快適に過ごせればよいのですから、そういう視点で避難所の設置について考えていただければいいと思います。
 「避難所はホテルではないし、避難者はお客では無い」ということを前提に、避難所設営を的確に準備していただけるといいと思います。
 ちなみに、避難所は行政や自治体、自主防災組織が運営するものだけではありません。さまざまな事情で自宅にそのまま留まる自宅避難や、医療施設、宿泊施設などに有償で避難するのも当然ありです。
 避難所を準備する方の基本は今回少しだけ触れましたが、避難する側も自分の状況や準備、そして経済状況などを考えて避難先を決めておくといいと思います。

避難所設営基本の「き」その4・ルール作りと名簿の準備をする

 区画整理まで終わったら、次は避難者と管理運営者がお互いに守るべき基本的なルールを作っておきましょう。
 例えば「避難所に入るときには靴を脱ぐ」は避難したときからルール化しておかないと、途中で切り替えるのは大変です。
 その1からその3までで触れたような内容や、その施設特有のルールを取り込んだ「避難上の注意」を作成しておきましょう。
 また、避難所にあるものと避難者が持ってくるものも決めておいて事前に知らせておく必要があります。
 避難所は「避難するための場所貸し」でしかないのですが、未だに「避難所は無料のホテルで体一つで行けばいい」といった誤った認識を持っている方がいらっしゃるので、地域の人達への周知は絶対に必要です。
 また、避難所設営時にルールを入り口に大きく掲示しておくと「言った」「言わない」で揉めなくてすむのでお勧めです。

 ルールというと、避難所に避難してきた人の避難者リストは可能な限り早く作成しておく必要があります。
 このリストがあるとないとでは、後々の作業がかなり変わってきますので、避難者の収容がある程度完了した段階でリスト作りを行いましょう。
 どこの誰が避難しているのかということと、避難所から出るときには、いつどこへ出たのかということが管理運営者にわかるようにしておきます。イメージとしては、避難所の住民票を作ると考えてください。
 作ったリストですが、避難者の中にはさまざまな事情から避難しているという情報を開示して欲しくない方もいらっしゃいます。
 少し手間ですが、リストができた段階でそういった方を外したリストを作成し、受付にはそちらを備え付けるようにします。
 そして、避難所は生活空間になりますので、出入りは必ず受付を通すこととし、避難所入居者以外が避難所内に入れないようにしておきます。
 面倒ですが、安全上必ず受付をしてから出入りするというルールも作っておかないと、避難所内部で窃盗などの犯罪が起きたり、マスメディアが勝手に入ってきたりと収拾がつかなくなってしまいます。

 事前のルール作りと設営後の名簿作り。どちらも大切な作業となりますので、管理運営者と避難所利用者の皆さんとでしっかりと詰めておきたいですね。

避難者と施設管理者がどちらも安全・安心に過ごすために必要なのが避難所ルールです。
細かな部分は時間が経つ毎に変わっていくと思いますが、基本的なルールだけは事前に管理運営者や地域の中でしっかりと話し合い、事前に決めておきましょう。

避難所設営基本の「き」その3・区画整理をしよう

 避難所設営でもっとも怖いのはトイレの問題なので一番最初に書きましたが、最初はそれほどでなくてもじわじわと影響が出てくる問題として、避難者の居住スペースがあります。
 一時的な避難である避難場所としての活動なら、とりあえず入れるだけ押し込めてもいいのですが、生活空間となる避難所として考えたとき、発生するであろういくつかの問題は最初に手を打っておくことで解決することが可能です。
 今回は避難所設営でトイレの次に重要な区画整理について書いてみたいと思います。
 区画整理は、ある一定の空間のどこに何を配置するということを整理する作業ですが、大きく分けると

1.立ち入り禁止エリアを設定する
2.居住許可空間は最初から決めておく
3.壁際は必ず空ける

の3つになります。

1.立ち入り禁止エリアを設定する

 避難所として専用設計された施設ならともかく、通常は他のことに使っている施設を避難所にするわけですから、一般の人には入って欲しくないエリアが必ずあると思います。
 例えば、事務室や会議室など、施設の機能復旧や避難所運営に必要と考えられるスペースは最初に確保して避難者が使わないように処置をしておかないといけません。
 また、授乳施設や医務室、発病者の収容エリアなど、無いと困る場所についても立ち入り禁止エリアに指定しておきます。
 嫌な書き方になりますが、一度解放した部屋や場所は、そこからどけて欲しいと思っても、なかなかうまく行かないものです。不毛な移転交渉に時間を取られるわけにいきませんので、最初から使えないようにしておきましょう。
 もしも避難者が溢れたとしても、心を鬼にして立ち入り禁止エリアは確保するようにしてください。そうでないと、後々管理運営者が泣くことになります。

2.居住許可エリアは最初から決めておく

 居住エリアは最初に設定をしておきます。国際的な難民支援マニュアルであるスフィア基準に照らすと、避難者には一人最低1×2mの空間が必要とされますので、その計算から収容できる人数を決定します。
 3にもつながる話ですが、居住許可エリアは最初からござやブルーシートなどを敷いて一目でわかるように場所を指定し、それ以外のところは居住禁止とします。見て分かるようにしておかないと、それぞれ好き勝手に居住空間の設営を始めてしまうので、それを防ぐためにも誘導時に「シートやござのある場所でお過ごし下さい」といった案内をするとよいでしょう。
 廊下や階段、出入り口付近はできるだけ空けるようにし、家族と家族の間には通路またはパーテーションで仕切りを入れるようにします。
 衛生環境を考えると、生活空間では基本は土足禁止とします。そうでない場合には居住エリアの高さを床よりも高めにしてください。
 これは被災地を歩き回った靴についている埃や塵、細かいごみといったものを床に寝ている人が吸い込まないようにするための措置で、あるならば段ボールベッドの上を居住空間にするともっとよいです。
 そして通路は、居住許可エリアの広さにもよりますが、広い場所なら車いすがすれ違えるくらい、狭い場所でも車いすが通れるくらいの幅は最低限確保するように設計して下さい。

3.壁際は必ず空ける

 人間の習性というのは面白いもので、個人の判断に任せると、殆どの場合壁際から居住空間が埋まっていきます。
 でも、移動や掃除の手間、後々の資機材の配置などを考えると、壁側を通路としておくほうが使い勝手がいいですし、歩行困難の人も壁を伝って歩くことが可能なので、移動がしやすくなります。
 2の居住許可エリアを設定するときには、ござやブルーシートで場所をはっきりさせると書きましたが、この場所を指定しているござやブルーシートは養生テープなどでしっかりと固定し、簡単に移動ができないようにしておきます。
 そうしないと、これらを持って壁際に移動する人が絶対に出てくるからです。
 壁際は空けること。そして壁面から居住許可エリアの間の通路は、2でも書きましたが車いすがすれ違えるくらいの幅がとれれば理想です。

 とりあえずはこの3つを考えながらご自身の避難所の設計図を作ってみて下さい。
 その上で収容人員を割り出してみると、自治体が作っている避難計画よりも収容人数がずいぶん少なくなることがご理解いただけると思います。
 避難所で安全そしてストレスを少なく過ごす気であれば、管理運営者は避難所の収容人員を超える避難者の収容はしないようにすることです。
 場合によっては、避難者の優先順位をつけてもいいかもしれません。
 大切なのは、区画整理の内容についてはその避難所を使う可能性のある地域にしっかりと共有しておくことです
 そうすることで、避難のタイミングによっては収容できないことがあると言うことがわかるはずですので、避難するための動機付けにもなります。

避難所設営基本の「き」その2・管理者と運営者を決める

 前回は避難所のトイレ問題について書きました。
 今回は避難所の管理者・運営者のお話です。
 避難所に指定される施設というのは、学校や公共施設が圧倒的に多いのですが、避難所の管理者と運営者がきちんと定められている場所は少ないのではないかと思っています。
 集会所のような小さな地域の小さな施設であれば、その地域の自治会が管理者と運営者を兼ねることも多いと思うのですが、少し大きい施設になると管理者と運営者をしっかり決めておかないと、運用が開始されると途端に混乱が起きることになります。
 特に指定避難所の場合には「地域の被災避難者の住居」と「被災者の支援を行うための物資集積所」という二面の性格を持っていますので、なおさら整理しておかないとややこしい事態を招きます。
 例えば、避難者が自主的に避難所の管理運営組織を作ったとすると、被災避難者の住居としての維持管理はできるようになりますが、被災者の支援を行うための物資集積所の管理・運営は念頭にないので、送られてきた物資を巡って地域内にも配るのか、避難所だけで使うのかという判断に困る内容が一気にあふれ出ることになってしまいます。
 また、管理者や運営者がきちんと決められていない場合には、その施設の管理者がなし崩し的に施設運営者になってしまって、本来その施設の復旧をすべき立場の人達が避難所運営に手を取られて復旧ができなくなるという事態が起こります。
 避難所の設置者は市町村なのでよいとして、設置した後の管理者は誰か、そして運営者は誰がするのかについてあらかじめ決めておくことで、入り口以前での躓きを防ぐことができるのです。
 別に避難所になった場所の元々の管理者が管理・運営者になっても構いませんし、自主防災組織や自治会が管理・運営することになってもいいと思います。
 事前にここを決めておくのは、発災後に管理・運営者を決めようとすると絶対にトラブルが起きてまともに決まらないからです。
 管理者と運営者を明確化し、「避難所としての管理・運営」と「物資集積所としての管理・運営」が確実にできるようにしておきたいですね。
ちなみに、管理者と運営者を定めるときにはローテーションについても整理しておきましょう。
一人の人が毎日24時間避難所運営をし続けることは正直に言って無理ですので、一日8時間を目安に管理・運営部門の勤務交代を念頭に入れてローテーション表を組むようにしてください。
もちろん表の通りに進むことはまずないと思いますが、交代することがしっかりと認識されている場合には管理・運営に従事する人達の士気もそれなりに維持できます。
管理者・運営者をはっきりさせてから、避難所の設営についての検討を始めるようにしてくださいね。

避難所設営基本の「き」その1・まず何をするか

 避難所の設営についてご質問をいただくことがあります。
 その時に最初に確認する内容、なんだかわかりますか。
 それは「施設の水源とトイレ」です。
 災害が発生して避難所を設営するとき、一番盲点になる部分であり、そして一番最初に問題が発生し、場合によっては最後まで問題になるもの。
 それがトイレ問題です。
 極端なことを書けば、くみ取り式で水を使わないストレート式、いわゆるボットン便所ならば通常使用で問題ありませんし、タンクレスの便器を使った下水道方式の2階以上のトイレであれば、問答無用で使用禁止を言い渡します。
 わかりやすく書くと、排泄物の処理に水が必要なのかどうか、そして一回に必要な水の量はどれくらいで、どの程度、どうすれば確保できるのかが問題になるということです。
 どんな人でもトイレは我慢できませんし、避難してきた被災者はトイレが使えなくなるということはまず考えていませんので、断水するとあっという間にトイレが汚物まみれの不衛生な場所になってしまいます。
 それを防ぐためには、災害時にトイレを使うことが可能なのかどうか、使えるとするとどうやったら使うことが可能になるのか、また、使えないのであればどのような手段を使ってトイレを作るのかということを事前に準備しておく必要があるのです。
 ざっくりとしたイメージですが、水洗トイレの場合、通常8~18リットルの水が一回の利用で必要となります。
 安全を考えると、10リットル以上の水が常時確保できないのであれば、水洗トイレは使うべきではありません。
 中途半端な水量だと、使用したトイレットペーパーが詰まって汚水があふれ出してしまうからです。水に溶けやすく作られているトイレットペーパーではありますが、それも水量が充分にある場合のこと。そうでなければ、溶け残ったものが固まってしまって汚水管を詰まらせてしまう原因になります。
 もしも水洗式のトイレであれば、タンク式でなんらかの方法でタンクを常に満水にできる条件が整っているのであれば、1階部分のトイレは使用可としてよいと思います。
 地震に限っては、2階以上は使用不可。これは汚水管が破損して漏水していた場合には階下が汚物まみれになってしまうからです。汚水管の点検が終わるまでは、2階以上のトイレは使わないようにしてください。
 最近は節水型と言うことでタンクレスの水洗トイレも増えていますが、タンクレスの場合には便器に直接水を入れるとうまく流れないものもあるようですので、あらかじめ便器メーカーにバケツで水を流した場合にきちんと排水ができるかどうかを確認しておいてください。
 ではトイレが使えない場合にはどうするかですが、トイレを閉鎖して、別に簡易トイレを設営するしかありません。
 これは、使ってはいけないトイレの中に簡易トイレを設置すると、通常通りの使い方をしてしまった場合に汚物が溢れて仮設トイレごと駄目になってしまうことが起こり得るためです。
 簡易トイレキットを複数準備し、設営場所を確保し、取り扱いにも習熟しておくことをお勧めします。
 飲食は我慢できても、人間の生理として、排泄は絶対に止めることができません。
 衛生環境を少しでも維持するため、まず避難所のトイレ問題からしっかりと検討し、備えておくことをお勧めします。

【活動報告】高津小学校防災クラブを開催しました

 昨年度に引き続き、益田市立高津小学校様からご依頼をいただけたので、今年も防災クラブを開催できました。
 クラブ活動は年度ごとに参加してくれる子どもさんが入れ替わるのですが、去年に引き続いてこのクラブを選んでくれた子ども達もいて、講師としてとてもうれしい限りです。
 そういった子達の期待に応えられるように頑張りたいと思っています。
 4月26日の第1回は、「災害ってなんだろう?」をテーマにいくつかの事例を取り上げて考えてみてもらいました。
 普段耳慣れないけれど、知っておきたい警報音や、地震や大雨の映像を見たり、台車に乗って横揺れ体験をしてみたりしてもらいました。

台車に机を乗せ、先生の合図で机の下に潜り込んで横揺れを体験してみる。身体を支えるのが意外と難しいことがわかる。

 警報音を聞いて身を守る行動を取ってもらうという演習では、警報音を聞いても全員が椅子に座ったままで「同調性バイアス」を見せてくれましたので、周囲を気にせず行動して欲しいというお話をすることができました。
 最後にはハザードマップを見てもらい、家に帰ってから自分の家にあるハザードマップで家や通学路の危険な場所を確認しておくのを宿題にしてみました。
 見なかったからと言って別にペナルティはないことは説明してありますが、帰ってから確認してくれているといいなと思います。
 確認してみたところ、今年度は頭を使うことよりも身体を使う方がいいという肉体派の子どもさん達なので、できるだけ身体を動かす災害対策体験を組んでみたいと考えています。
 参加してくれた子ども達、そして担当の先生に感謝します。

ダニに気をつけよう

 暖かくなって人の活動が活発になってくると、よく出会うようになってくるのがダニです。
 出会うだけならいいのですが、ダニ類は病気を媒介することが多い生物ですので、かまれないように注意する必要があります。
 マダニでは「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」「日本紅斑熱」「ライム病」、同じダニの仲間のツツガムシが媒介するツツガムシ病なども有名なところです。
 イエダニではせいぜい咬まれてかゆいくらいですが、マダニやツツガムシに咬まれると、かゆい上に取れない、その上病気にかかる可能性がありますので、できるだけ咬まれないように注意する必要があります。

1.マダニの種類

 マダニと言っても種類はいろいろありますが、中国地方では主にフタトゲチマダニやタネガタマダニなどが見られるようです。


 また、ツツガムシもいます。
 大きさは3~8ミリと大きく、目で確認できます。また、硬い外皮に覆われているのも特徴です。

2.咬まれないようにするためにはどうするか

 ダニは森林や草むら、藪、畑などに生息しています。そのため、そういった場所に立ち入るときには肌の露出をなるべく防ぐように長袖長ズボン、長靴や帽子、手袋などを着用するようにします。
 ダニに潜り込まれないように服の裾は露出しないようにしておきます。
 また、ダニがとりついたことがすぐにわかるように、着用する服はなるべく明るい色にし、ダニがつきにくい化学繊維素材でできているものがよいでしょう。
 それらを装備した上で、マダニに効果のある防虫スプレーをしっかりと吹いておくことが必要です。
 ディートやイカリジンといったマダニが忌避するような成分が入っているものを使うようにし、使うときには必ず使用上の注意を読んで正しく使うようにしてください。
 帰宅したらすぐに服を着替え、脱いだ服は直射日光を当てるか乾燥機で乾燥処理するようにします。
 ダニは乾燥に弱いので、乾かすことで万が一連れて帰ってしまった場合でも確実に殺すことができます。
 また、着替えと併せてお風呂に入って身体にマダニがついていないかをチェックして下さい。

3.咬まれていたらどうするか

 不幸にしてマダニがかみついているのを発見したら、なるべく早くマダニを撤去する必要があります。
 マダニをそのまま放っておくと、マダニが取れなくなってしまうからです
 ただ、マダニは構造上刺し口が皮膚の中にしっかりと入っているため、無理して取ろうとすると刺し口だけが皮膚内に残って取り除くのが非常にやっかいなことになる場合があります。
 皮膚科に行って取ってもらうのが一番確実ではありますが、休日や夜間などで病院にかかれない場合もあります。
 そんなときにはかみついているマダニの上からたっぷりのワセリンを塗ってやりましょう。
 塗ってから30分もたつと、マダニが簡単に取れるようになります。
 ワセリンだけでなく、油脂性のクリームやバターなどでも同様にマダニを取れやすくする効果が期待できます。

4.病気になるとどうなる?

ダニに咬まれたあと、そのダニが病原体を持っていた場合に発症します。
山に入ったことやダニに咬まれたことを医者に説明して、早めの診察と治療にとりかかってもらわないと、危険になる病気が多いので注意が必要です。

1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

SFTSでは、咬まれてから6~14日程度で発熱や食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など消化器官系の症状がでます。
重症になると死ぬこともありますので、発症したら早めの処置が必要となります。

2)日本紅斑熱

日本紅斑熱は咬まれてから2~8日程度で発熱、発疹、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。
ツツガムシ病によく似ている症状のため、確定がなかなか難しいようですが、早めの治療は必須です。

3)ライム病

ライム病は咬まれてから数日~数週間で発症します。初期には的のような紅斑が現れることが多く、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感など、インフルエンザにかかったかのような症状が出ます。
一月もすると皮膚や神経、眼の症状や不整脈、関節炎などのさまざまな症状が現れます。
最終的には慢性関節炎や皮膚炎、慢性脳脊髄炎などが発症します。

4)ツツガムシ病

ツツガムシ病では、咬まれてから10~14日程度で悪寒をともなう高熱が出ます。頭痛、筋肉痛、全身倦怠感なども出ます。
発症2~3日後には全身に紅斑や紫斑がでます。
放置しておくと、脳炎や肺炎、心不全などで死亡する事例もありますので、早めの処置が必須です。

マダニは野生鳥獣、特に鹿が多い地域では非常にたくさん発生しています。
荒廃した農地や野生鳥獣の増加によって、ダニが好む環境が作られ、数が増えていると考えることができます。
ダニに咬まれないようにすることで、ダニが持っている病気にもかからずに済みます。
マダニの生息域に入る前には、しっかりとした防除する体制を取るようにしてくださいね。

問題点はなんだろう

 災害に備えてさまざまな訓練をするわけですが、その訓練の目的は2つあると思っています。
 一つは資機材に習熟すること。訓練でしっかりと取り扱いができるようになっているからこそ、いざ災害のときでも問題なく資機材を使うことができるので、災害対策で備えている資機材は必ず使って慣れておく必要があります。
 そしてもう一つは、いざというときに発生するであろう問題点をあらかじめ洗い出しておくことです。
 実戦を想定した訓練では、どんなに完璧に行動しようとしても必ず問題が出るものです。その問題への対策を考えて又訓練し、という繰り返しによって、いざというときに機敏で確実に助かるための行動をとることができるようになります。
 ただ、なぜか訓練ではシナリオに従って完璧にこなさなければいけない風潮があり、訓練のための訓練になっているような気がしてなりません。
 訓練だからこそ、さまざまな意地悪な想定をしてさまざまな失敗をし、それを踏まえてより安全に助かる方法を考えることができるのですが、「うまくいかなかった=失敗」となると、心情的に失敗は嫌なので失敗させるような訓練は阻止しようという意識が働くものです。
 訓練のための訓練だとやる側は考えなくて済むので楽ですし、運営側も理不尽に怒られなくて済むので、本当に災害が起きるかもという考えがない限りは自然にそちらへ流れていくのは仕方のないことだと思います。
 それはともかく、訓練をしたときにどのような問題が発生したのかをチェックすることは非常に重要なことです。
 本当は参加者全部から訓練に対する意見を出してもらって訓練結果に反映できるようにすることが理想ですが、もしも意見を集める場がないとしても、あなたが災害対策の訓練に参加するときには、ぜひ問題点を考えながら参加して欲しいと思います。そして、できればその問題点の解決方法も併せて考えてください。
 訓練のための訓練であっても、問題点を探す目と解決策を考える頭が動いていれば、その訓練はあなたにとって必ず役に立つものになります。
 せっかく訓練に参加するのですから、あなたが生き残る確率を上げるために、少しだけ目線を変えてみて下さい。

お水を持って歩こう

 災害が発生して断水が起きると、自動販売機やコンビニなどの店頭から真っ先に消えるのがお水です。
 特に都会地ではその傾向が強く、公共交通機関が止まったときなどは徒歩で帰宅する人達がこぞって買い込んで遅れると水分が何も手に入らなくなります。
 断水していなければ水道で水を汲むことができるのですが、水を汲むための容器がないとどうにもなりません。
 そして、水のペットボトル以上に水を汲んで運べる容器が手に入る確率は低いです。
 そこで、普段持ち歩くカバンにペットボトルや水筒を入れてお水を持って歩くようにしてはどうでしょうか。

ダイソーで見つけた300円のステンレスボトル。140ml入るので、ちょっとした持ち歩きに便利。重量もそんなになく、カバンの中でも水漏れしにくいので便利ではある。


 最近は持ち歩くのにも便利な少量のペットボトルやステンレスボトルも出ていて、これならカバンに入っていてもさほど邪魔にならないと思います。
 ステンレスボトルで水を持ち歩くのならば、普段使いの水筒にすれば、中の水が痛んだりすることなくいざというときの備えもできます。
 殆ど中身がなくなったときに被災したのであれば、身の安全の確保をしたら、すぐに水栓で水を汲めば水は確保できます。電気やガスよりも、水道が止まるのはずっと後になりますから、容器さえあれば水の確保はそんなに難しくないと思います。
 水は飲むこと以外にも、傷口の洗浄やタオルなどを濡らして身体を冷やすなど、さまざまな目的に使うことができ、いざというときに確実にあなたの命を守ってくれますから、特に外回りの多い人や非常時に長距離を歩かなければいけないような人は、是非水を持ち歩く習慣を持つといいと思います。
 いざというときに備えて、小さな安心感を準備しておいてくださいね。