通勤・通学経路を確認しよう

 家の安全についての検討が終わったら、次は家と職場を結ぶ通勤・通学路を確認してみましょう。
 普段意識することのない高低差や建物からの落下物の可能性、陥没や倒壊など、災害というフィルターを通すと普段と違った風景になってくると思います。
 特に車での通勤・通学をしている場合にはアンダーパスに気をつけてください。
 アンダーパスは、大雨時には周囲から雨水が流れ込んで大きな池になってしまうことがあり、意識せずに普段どおりに運転していると水没したアンダーパスに突っ込んでしまうケースが非常によく起きています。
 短時間で大量の雨が降る場合には、管理者の通行止めの措置が間に合わない場合もよくありますから、通勤経路を見直すときにそういった場所は外すようにするか、または大雨時には必ず迂回するということを常に忘れずに考えるようにしておいてください。
 他にも、風が吹いたら飛んだり落下しそうな屋根や看板、増水時に落ちてしまうかもしれないマンホールや側溝、地震時に倒壊しそうな塀や建物など、どういった経路にすれば一番自分が安全に移動できるかを考えてみましょう。
 小学校などでは通学路が決められていることも多いのですが、筆者の知る限り交通事故対策は考えていても防犯や防災の視点は取り入れられていません。

子どもによる通学路の安全点検の一コマ。

 そのため、子どもがいる場合には一緒に通学路を点検しておく必要もあるでしょう。 おうちの防災計画では、家から避難所までの安全な避難路を検討することがあると思いますが、普段使っている道の危険を知って安全対策をしておくことはとても大切なことです。
 災害対策は普段の生活の中にあるものですから、何かを考えるときには災害対策の視点を加えてみてほしいと思います。

災害対策で最初に家を考えるわけ

耐震化してないと、家具の下敷きになることも

 災害対策、特に地震では対策をするときに一番最初に言われるのは耐震補強、または耐震化という話です。
 家の倒壊を防いで命を守るということが一番の目的ですが、被災後にできるだけ避難所に避難しなくても済むことも大きな理由の一つです。
 もしお手元に避難所一覧があれば確認していただきたいのですが、避難所の大きさと収容人員を比べてみてください。その避難所の建物の中に、全ての避難者が生活スペースを確保して収まるでしょうか。
 多くの避難所は収容能力を超える避難者が割り当てられています。
 公的な施設に全ての住民を納めるとこうなりますということなのですが、実際に災害が起きると避難者が収容しきれずにあふれ出してしまうという事態が発生しています。
では、もしも家から避難しなくて済むとしたらどうでしょうか?
 家の安全が確保されているのであれば、避難時に危険な目に遭う可能性のある避難所への移動はしなくてもよくなります。
 また、住み慣れた家ですからどこに何があるかも知っているし、他人の目も気にしなくて済み、ストレスも少なくて済みます。
 できるだけ自宅から動かなくて済むように準備することが、災害対策のとても重要な位置をしめているのではないかと、筆者はそんな気がしているのです。
 もっとも、全ての家が安全な場所に建っているわけではありません。水害や台風などで被害を受ける場所にあるおうちだってあるでしょう。
 幸い、地震以外の災害では、大抵の場合何らかの前兆があります。自分の住んでいる場所がどうなったら危険なのかをあらかじめ調べておいて、どうなったら安全な避難所への避難行動を開始するのかを決めておけば、とりあえずの安全を確保することは可能になります。
 あなたのお住まいの家は地震に強い作りになっていますか。
 そして、他の災害で被災が予測されるような場所ではありませんか。
 災害対策は、それを確認するところから始まります。

【お知らせ】熱中症警戒アラートの運用が開始されました

 寒暖の差が激しいですが、日中のもっとも温度が高いときは25度を超えるような状況も出てきています。
 ここ数年、熱中症にかからないように暑くなりそうだと予測されるときには「高温注意情報」が気象庁から発令されていましたが、今年は環境省と気象庁が一緒になって「熱中症警戒アラート」というものを全国を対象に運用することになりました。
 気温や湿度、日差しの強さなどの予想から熱中症の危険度を示す数値である「暑さ指数」が33以上になると判断された場合、前日17時と当日5時に熱中症警戒アラートを発表。テレビ、ラジオや防災行政無線、両省庁の公式ホームページ、登録メールなどで住民に伝えるそうです。
 期間は10月27日5時まで。都府県単位の発表が基本となるそうですが、一部では複数の地域にわけての発表となるようです。
 この熱中症警戒アラート、2020年度は関東地方で試行していたそうですが、今回それを全国に広げての運用になりました。 
 詳しくは環境省のウェブサイトをご覧下さい。
 また、登録をすると個人のメールアドレスにも熱中症警戒アラートの予報が送られてくるようになっています。
 こちらも令和3年4月28日から運用開始で、詳細は同じく環境省のウェブサイトをご確認ください。
 これから暑い季節がまたやってきます。
 熱中症対策の一つとして、参考になるのではないかと思いご紹介しておきます。

熱中症予防情報サイト(環境省のウェブサイトへ移動します)

自助・共助・公助の関係

「自助・共助・公助」ということが、防災業界ではよく言われる言葉です。
自助は自分の備え、共助は地域の備え、公助は行政の支援になるのですが、次のようなものが図としてよく描かれています。

 この図だけで見ると、自分が備えていなくても共助や公助がそれをカバーするように見えるので大丈夫という感じに見えてしまうのですが、この図を時間軸で書き直すと次のようになります。

 つまり、単純に言えば「災害が起きたときはまず自分の命は自分で守れ、守ったら近所同士で命を繋げ、そしたらそのうち救援がくる」ということなのですが、大前提として、まずは自分が安全に生き残るというものがあります。
 ここが忘れられがちな部分なのですが、まずは自分が生き残るための手立てをきちんと整えていないと、災害が起きたときにはそこで人生終了となるという事実です。
 例えば、阪神淡路大震災では災害発生後、すぐにご近所で救出活動が行われてたくさんの人が助かったとされています。
 では、もしいま地震が起きたとき、ご近所の救出活動がいまあなたのお住まいの場所ですぐに開始できるでしょうか。
 多くの地域では高齢化が進み、家屋やがれきの撤去がすぐにできるようなパワーはもはやありません。また、若い人がいるところは近所付き合いがほぼ皆無ですので、やっぱり救助活動はしてもらえないでしょう。
 そう考えるとこんな感じの時間軸になります。

 時間軸で整理するとよくわかることなのですが、肝心な初動時には、自分以外誰も助けてはくれません。
 災害の規模が大きくなればなるほど、公助は遅れていきますし、場合によっては公助が行われない場合も想定しておいた方がいいでしょう。
 つまり、自助とは「自分の命は自分で守れ」という意味で、共助や公助はそれを支援するものだと考える方が精神衛生的によさそうです。
 これを図にするとこうなります。

 災害時には、あなたの命はあなた自身が守らなければ誰も守ってはくれません。
 あなたの命を守るために、まずはその方法を考えて一つでもいいので実行に移して欲しいと思います。

0か1か100か

カップ麺やレトルト食品は保存食の定番メニュー。お気に入りを普段使いで消費していけば、常においしいものが食べられる。おまけに長期保存用よりもかなり安価。レトルト食品は、要冷蔵のものもあるので気をつけて。

 災害対策の話をさせていただくと、よく出てくる理由に「完璧に準備なんてできない」というのがあります。
 さまざまな防災対策の本や講演などで一覧表になっているようなものを全て準備しないといけないのかと考えてげんなりしてしまう場合も多いようです。確かに、それらのアイテムを準備すれば、一応は「完璧」となるのでしょうが、実際にはそれにプラスして個人の必要なアイテム類が発生し、それはその人の環境によってどんどん変化していくので、実際のところ100%完璧はまずありません。
 ただ、まったく準備していないと、いざ災害が起きたときには何をしたらいいのかどうすればいいのかわからずに途方に暮れるだけになってしまいます。
 必要なのは、最初の一歩。
 例えば、あなたのいるところから近くの避難所までの位置関係を確認して避難経路を考えるだけでも、災害対策の一つになります。
 普段水筒を持ち歩かない人であれば、小さな水のペットボトルや水筒を持って歩くだけでも立派な災害対策です。
 肝心なのは、「完璧にできないからやらない」、ではなく「なにかできることを一つやってみること」で、何か一つでも用意ができたなら、拍手して自分を褒めてあげてください。何かを一つ準備した結果、あなたが生き残れる確率が確実に上がったのですから、すごいことです。
 災害なんかで死んでしまうのは、あまりにももったいないです。そして、災害なんかで希望を失うのももったいない話。
 そのために、何か一つ災害対策を始めてほしいなと思います。

個別避難計画と福祉避難所

 今の国会で災害対策基本法が審議されていますが、その中に要支援者の個別避難計画の策定が市町村の努力義務であることが明記されました。
 過去の災害で高齢者の避難が遅れて犠牲になるケースが非常に増えているため、あらかじめ個別避難計画を作って、何かあればそれに従って避難ができるようにすることを目的とし、市町村や社会福祉協議会、介護事業者やケアマネージャー、自主防災組織が要支援者一人一人の状況に応じた避難計画を策定し、特別な配慮のされた避難所のスペースまたは福祉避難所へ直接避難できるようにするようです。
 これ自体は非常に有効性の高いことで、しっかりと進めていく必要性があると思っていますが、同時にいくつかの問題点も抱えていると考えています。
 まずは誰が要支援者なのかを開示するかどうかということ。
 これはもろに個人情報ですので、本人の同意なしに自主防災組織への情報開示はできません。
 自主防災組織はその地域に住んでいる人達で構成されている組織ですので、好き嫌いや恥ずかしさ、遠慮などがあって支援不要ということを言われる人もいらっしゃるようです。
 介護事業者や社会福祉協議会が対応することになると、今度は要支援者を誰が避難させるのかと言う問題が発生します。
 介護事業者や社会福祉協議会が24時間いつでも避難支援ができるような体制はどこも組んでいないと思いますので、どのように対応することになるのかが気になるところです。
 そして、福祉避難所として指定される福祉施設の立地条件。
 石西地方の福祉施設はなぜか水害や地すべりといった災害に遭いやすい場所に建てられていることが多いです。ある程度面積が確保できて土地単価の安いところということでこうなっているのだと思いますが、福祉施設に避難したらそこで被災したという笑えない状態になることが予測されます。
 また、安全な場所にある福祉施設は、多くの場合一般の避難所として指定されているのが現状です。福祉避難所として機能させる場合には指定者のみが避難できる場所になるはずなので、そのことを地域に周知徹底する必要もあります。
 人的な問題と設備の問題をどうやってクリアしていくのかという大きな課題はあると思いますが、こうでもしないと要支援者が被災地域から避難しないだろうと考えると、関係者にはがんばって欲しいなと思います。
 ついでに書くと、個別避難計画が必要なのは要支援者に限った話ではありません。
 地域に住んでいる全ての人がそれぞれ自分で作成しておくべきものですから、要支援者にとらわれることなく、しっかりと啓発していければいいなと考えています。

災害対策は小さなことの積み重ね

 災害対策というと「面倒くさい」という言う人や「準備するだけ無駄」「やらなくても問題ない」「災害が起きたら何をしてもどうせ死ぬから」といった感じで対策を最初からやらないという方も多いです。
 確かに、いっぺんにいろいろとしようとすると、ものすごく手間がかかりますし面倒くさいものではあります。
 でも、その手間や面倒を惜しむほど、あなたの命は安いものでしょうか。
 例えば、自分が住んでいるところの地形やハザードマップの確認は5分もあればできると思います。
 建物が地震に耐えられるかどうかは、簡単な判定基準が公開されていますので、それを使えば耐えられるか耐えられないかの予想はつきます。
 災害対策は、一気に全てきちんと準備できているのが理想ですが、毎日少しずつ行うことで気がついたら準備ができているという感じでも全然問題ありませんし、そちらのほうが心理的負担は少ないかもしれません。


 例えば、そのあたりの棚に直接置いてあったものを、かごに詰めて棚に貼った耐震ジェルの上に置く。これだけでも確実にその場所の安全度は上昇します。
 タンスの固定や倒れる方向の修正、寝室の安全確保など、ちょっとした作業で効果のある方法をとっておくと、あなたの命を守れる確率は簡単に上昇するのです。災害対策というと、どうしても災害や避難の知識に偏ってしまいがちですが、知るだけでなく行動することが、災害対策では非常に重要なことなのです。
 何か行動を起こすことは、0から1への変化です。0には何をかけても0ですが、1に整数をかけるとその分だけ数字は大きくなり、あなたの安全度は上昇していきます。
 一度にたくさんのことをするのは難しくても、毎日一つだけ危険度を下げる何らかの行動をすることで、あなたが安全に災害をやり過ごせる可能性はあがります。
 昨今の災害を考えると、いつあなたが被災者になっても不思議ではありませんから、ちょっとずつでいいので災害対策を始めてほしいと思います。

内水氾濫に気をつけて

 水害が起きる「氾濫」には、堤防等の治水施設が壊れることによって起きる「外水氾濫」と排水能力が追いつかなくなって水が溜まっていく「内水氾濫」があります。
外水氾濫は水が一気に押し寄せて起きる水害で、多くの人がイメージする「水害」はこちらだと思います。
 ただ、いくら堤防を強化しても起こってしまう水害があります。それが「内水氾濫」と言われるもので、こちらは排水能力を超えた水が流れ込むことによって排水路から水があふれ出して周囲が水没するものです。

数分間で大量の雨が降ったため、溢れてしまった側溝。降り続けると水没する。


 外水氾濫は河川や池沼などがなければ心配する必要はないものですが、内水氾濫は周囲と比して低地にいるのであれば起こりえる水害であることに留意してください。
 また、内水氾濫は静かに起こるため、気付いたときには周囲が水没しているということがよくあります。
 平時にあなたがいる場所の高さについて確認しておき、もし低地にいるようであれば、大雨時には周囲により注意を払うようにしてください。

 そろそろまた雨の季節がやってきます。
 雨の時期に入る前に、側溝や水路、雨樋といった排水に関わる部分の点検や掃除、そして海抜高度の確認をしておいてくださいね。

どうして避難命令が存在しないのか

 災害対策法では、「避難準備」「高齢者避難開始・避難準備」「避難勧告・避難指示」という風にレベルに分けて避難に関する具体的な行動が決められています。
 ただ、ちょっとだけ注意して欲しいのが、巷でよく言われている「避難命令」は災害では存在しないことを覚えておいてください。

大雨時における自治体の警戒レベルと発表基準、住民に期待される行動の一覧表。令和3年6月頃にはレベル4が避難指示だけになる予定。

 これはどういうことかというと、災害時における避難の判断は各自で行うべきという考え方がベースにあるからです。
 例えばA地区に避難命令を出したとします。そうすると、A地区の住民の全てに一律に避難する義務が発生するため、安全な場所にいるはずの人が避難をするときに災害に巻き込まれたりする可能性が出てきます。
 行政が発表する避難情報は面である該当地域全体に出しますが、実際の避難はその地域に住んでいる各々が周囲の状況などを見て判断する必要があるため、あえて命令になっていないのです。
 つまり、避難は誰かに言われてするものではなく、自分の判断で決定をするものなのだということです。
 災害時の避難はあなた自身が主役であって、決してお客様ではないのです。
 災害対策で一貫して決まっているのは、さまざまな行動決定権は各個人が持っていて、最終的な責任も各々がとると言うこと。
 つまり、最終責任は自分にあるということを忘れないでくださいね。

震度で被害を予想する

 地震が毎日のようにあちこちで起きていますが、備えはされていますか。
 おうちの耐震化、内部の家具や棚などの耐震化など、地震に関して言えば事前準備でその後の復旧作業がずいぶんと変わってきます。
 「段取り7割」や「段取り8割」という言葉がありますが、地震はまさにそのとおりで、いざ本番が起きたときにはその時点で全てが終わります。
 ところで、震度と被害の関係について考えたことがありますか。
 地震でさまざまな震度が発表されますが、その基準は次のようになっています。

 この表をみてわかると思いますが、震度5弱が黄色、震度6強で赤になっています。
気象庁が作成する色つきの表では基本的にこの色が使われていて、黄色は「注意」赤は「危険」と考えます。
 ちなみに紫は死者が出ている可能性があるときに使われる色だと思ってもらえばいいと思います。
 そこから考えると、黄色は「もしかしたら何か被害が出るかも」のスタートライン、そして赤では「何らかの被害がほぼ確実に出ている」、つまり赤表示になっている震度6強以上では何らかの災害がその地域で発生したと考えてよいでしょう。
 紫や濃い紫では確実に被害が出ていると考えてよい状況なので、それに対する対策を考えておかなければなりません。
 ところで、震度とセットでよく出てくるマグニチュード。これは震源のエネルギー量を示すもので、おおざっぱに言うとマグニチュードが一つ上がると、エネルギー量は30倍になります。
 つまり、震度3は震度1の2ランク上になるので、30倍×30倍=900倍の力が発生したと言うことになります。
 計算上はマグニチュード9以上では地球が割れてしまうことになるので、マグニチュードとしては最大が9となっているわけです。

マグニチュードと震度の関係を表す図。震源は一つだが、地盤や伝播の仕方によって同じ距離でも震度は異なる。

 いろいろと書きましたが、震度5弱以下であっても耐震化していない場合にはものが崩れたり倒れたりすることがありますので、まずはおうちの中の耐震化、そしてできれば建物の耐震化もしておいてくださいね。