「大丈夫」という情報の大切さ

 災害が起きた時に自分に大きな被害がなかった場合には、あえて自分は大丈夫という情報発信はしないという方が多いと思います。
 特に大きな災害の場合には、短時間で相当数の安否確認の電話やメールが集中してしまうので、通信環境への負荷を防ぐという意味でも発信を控えるということはよくあることだと思います。
 ただ、心配している人から見ると情報発信がないというのは「大丈夫」だから発信していないのか、それとも「発信できないような状況」になっているかがわかりませんので、不安に駆られて相手が出るまで電話やメール等を送り続けて通信環境を悪化させてしまうことが発生します。
 被災地外で被災地にいる人の心配をする人は、とりあえず無事なことがわかればいいのですから、とりあえず被災地にいる人は自分が大丈夫である旨の情報は発信したほうがいいわけですが、電話やメールでやりとりしていると状況はあまり変わりません。
 SNSや災害時伝言ダイヤル、災害用伝言版などを活用して、なるべく通信環境に負荷をかけずに大丈夫なことが伝えられるといいと思います。
 SNSであればいいのですが、災害時伝言ダイヤルや災害用伝言版では一つ気を付けておかないといけないことがあります。
 それは「鍵となる電話番号を決めておくこと」です。
 「J-Anpi」というシステムによって、固定電話、携帯電話会社に関係なく、登録されている伝言はどこからでも見たり聞いたりできるようになっていて、いちいち探す手間はかなり減りました。

※注 災害時伝言ダイヤルとweb171は連携しており、相互に情報確認ができる。

 ただ、J-Anpiの伝言を聞くためには鍵となる電話番号が必要となります。
 「もし自分が被災したとき、安全だったら伝言を出しておくから、〇〇番で検索してくれ」という情報を連絡してくるであろう相手に伝えておくことで、いざというときに通信環境に負荷をかけずに安否が確認できます。
 これは家族間でも同じことで、いざというときにどの番号で伝言をやりとりするのかについては事前に決めておくようにしてください。
 また、災害時伝言ダイヤルや災害時伝言版は平時でも訓練用に開放されているときがありますので、そういった機会を使って、実際にやりとりする練習をしておいてください。
 「私は大丈夫です」ということを伝えることは大切な情報です。
 自分が無事だから発信しなくても大丈夫、ではなく、無事だからこそ大丈夫だという情報を早めに発信するようにしてください。

J-Anpi(J-Anpiのウェブサイトへ移動します)

NTT西日本の災害への備え・対策サイト(NTT西日本のウェブサイトへ移動します)

揺れやすい地形、揺れにくい地形を知る

 地震では震源から同じ距離であっても同じ震度や同じ揺れになるわけではありません。
 揺れを拾いやすい地形だとより揺れますし、逆に揺れにくい地形だとほとんど揺れません。
 揺れを拾いやすい地形は、俗にいう「軟弱地盤」と言われるような場所で、硬い岩盤の上に柔らかな地盤が乗っているため、本来の揺れ以上に揺れてしまいます。
 そのため、震源から離れていても、建物が倒壊したり大きな被害が発生します。
 建物の構造自身がよく問題になりますが、実は建物の構造よりも建物が乗っている地盤の状態のほうが、地震に対して大きな問題となるのです。
 1995年に神戸や淡路島が大きな被害を受けた阪神淡路大震災や2004年に新潟県の中越地方が大きな被害を受けた新潟県中越地震では、この地盤の脆弱性が建物の倒壊を増やしてしまったと言われています。
 では、地盤の柔らかさや固さはどうやって調べればいいのでしょうか。
 実際には専門家に地盤調査をしてもらうのが一番ですが、おおざっぱに見るのであれば、「地震ハザードカルテ」というものがあります。
 これは全国を250mのメッシュで区切って、揺れやすい場所や揺れにくい場所の診断をするもので、大まかな参考になると思います。
 さまざまなところで言われているところですが、地震は起きた時には勝負がついています。
 建物の倒壊や半壊といった被害を防ぐには、こういった地味な調査も重要になってきますので、よかったら参考にしてみてください。

地震ハザードステーション(防災科学技術研究所のウェブサイトへ移動します)

地震の起きる確率

 大地震の起きる確率、ということであちこちで数字が出されています。
 南海トラフ地震の場合、今後30年以内に大地震の発生する確率は70~80%だそうで、まず近いうちに起きると考えて間違いなさそうです。
 これは南海・東南海地震がほぼ似たような周期で発生しているために予測がしやすいという前提があります。
では、確率が低ければ安心できるのかというと、実はそうでもありません。
 2016年に熊本地震が発生しましたが、地震が発生するまで発生する確率は0~0.9%というもので、ほとんど起きないのではないかと考えた人も多かったようです。
 結果はというと、2016年4月14日にM6.5、その28時間後にM7.3の地震が発生し、大きな被害を受けました。
 実はこの地震活動の評価というのは、定期的に発生することがわかっている海溝型地震を別にすると、かなり適当だと考えていいと思います。
 南海トラフ地震のように、起きると言われてから10年以上経ちますが、まだ起きていないこともあれば、確率は低くても大地震に見舞われることもあります。
では、この数字をどうみたらいいのか。
 答えは簡単で、0%でない場合には地震は起きると考えておけばいいのです。
 起きる時期がわからないだけで、地震は起きる。そう考えたほうが精神衛生上いいと思います。
 日本に住んでいる場合、ほぼ100%の人が一生の間に一回は大きな地震に出くわすと考えてほぼ間違いないです。
 震源近くにいるのか、それともマスメディアで光景を見ることになるのかはわかりませんが、地震は起きるから備えておく。
 確率が0%以外の場所にお住いのかたは、それくらいの気持ちでいたほうがいいと思います。

長期評価結果一覧(政府 地震調査研究推進本部のウェブサイトへ移動します)

自助と共助と公助の関係性

 最近の災害対策で言われているのが「自助」「共助」「公助」です。
 考え方はいろいろとあるのですが、災害時には「自助」→「共助」→「公助」の順番に自分の身を守る対策が行われることから、一番最初に来るのが自助となります。
 では、普段はどうでしょうか。
 「自助」だから自分で、と言われても、何から手を付けたらいいのか、災害対策に興味のある人でもない限りはわからないとなると、自助は全く進みません。
 そのために「共助」としての自主防災組織づくりが言われているわけですが、これもコロナ過で地域のつながりが薄れてしまったことや高齢化などでうまくいかないという現実があります。
 また、自主防災組織単独で研修や講習をするのは難しいかもしれません。
 そこで「公助」の出番となります。
 さまざまな研修や呼びかけ、訓練開催などを通じて何をしたらいいのか、何から手を付けるべきなのかを明確化し、実行するための後押しをします。
 例えばその相手が自主防災組織だったり、地域だったり、個人だったりするわけですが、誰が何をすべきなのか、どのようにすればいいのかについての交通整理も公助の仕事かもしれません。
 災害対策は、平時には「公助」→「共助」→「自助」という、災害時とは逆の動きをする必要があるのです。
 「公助」を行政単独でするのが難しいなら、消防や社会福祉協議会、当研究所も含む災害対策のNPO等に支援を要請してもいいと思います。
 大切なのは災害対策に対する備えや心構えなどがきちんとすべての人に伝わることです。
 理想論かもしれませんが、最初はできることが小さくても、さまざまな災害対策を見たり訓練したりすることでできることが増え、結果として地域の防災力の向上につながっていくと思います。
 災害対策は発災前と発災後では「自助」「共助」「公助」の矢印が変わると考えると、案外と関係性がわかりやすくなるような気がするのですが、あなたはどう思いますか。

あなたは地図が読めますか

普段住んでいるところでも案外とわからないところがある。写真は防災マップを作る一シーン。

非常用持ち出し袋のアイテム類の一覧を見ると、多くのものに「地図」が入っています。
田舎に住んでいる人にはピンとこないアイテムなのですが、普段公共交通機関で移動している人の場合には、いざ歩いてときに道がわからないという大問題があるため、地図が必要だと考えられているのです。
ただ、この地図にもさまざまなものがあり、それぞれに特徴があります。
どのような地図を準備してもいいのですが、その地図がきちんと読めないと何の役にも立ちませんので、せっかく地図を準備するのであれば、その地図に書かれているものがどのようなものを意味するのかをきちんと理解しておきましょう。
例えば、自分のいる現在位置がわからないとそもそも地図が使えません。
また、場所がわかっていたとしても、自分がどの方向に向けて移動すればいいのかが理解できていなければ、全く違った方向に移動してしまうことになります。
最近都会地では「避難用マップ」というような名称で徒歩避難者向けの地図も販売されているようですが、地図を用意するのであれば、方位磁針もセットで準備したほうがいいと考えます。
例えば、日本で作られて日本で使う地図の場合には、基本的に上側が北になっているはずです。そうでない場合には地図面のどこかに方位が記載されていますので、それを確認してください。
では、方位磁針がない状態で自分がいま見ている方向を当ててみてください。
次に、30分ほどその地図で歩いてみて、今見ている方向が東西南北のどの方向なのか、もう一度当ててみてください。
結構な確率で方向がわからなくなっていると思います。
平時にはさまざまな目標や目印があって移動もわかりやすいですが、災害時にはそれらが燃えたり崩れたりしてわからなくなるかもしれません。
地図を準備するなら、方位磁針も併せて準備し、そのうえでそれを読み取ることが可能な程度には見慣れておく必要があります。
現在はスマホやカーナビが充実しているため、地図を見ることはあまりないと思います。
地図は普段から見慣れていないと内容を読み取ることは難しいですので、特に長距離を公共交通機関で通勤・通学している人は機会を作って地図と方位磁針に慣れるようにしておいてください。

逃げるべきか留まるべきか

当研究所のある益田市市街地のハザードマップ。あなたのおうちは避難が必要ですか?

 避難という言葉を調べてみると、「災難を避けてその場から立ち退くこと」といった意味になるそうです。
 防災対策でよく使われるこの避難という言葉ですが、その中身を見ると「垂直避難」「水平避難」「その場で待機」という大きく3つに分けられています。
 「水平避難」は言葉の意味のとおり、災害が発生するであろう場所から災害が起きない場所への水平移動のことを指します。
 「その場で待機」は、そもそも避難の必要がない場合に使われるもので、自宅待機ともいわれます。
 そして、「垂直避難」は、「その場にいるが、なるべく高いところへ移動する」ということで使われています。


 確かにその場から移動はしているのですが、危険地帯から移動しているわけではないので、避難に該当するかどうかは正直疑問ですが、それでも例えば1階にいたら間違いなく溺れてしまうような場所の場合には、2階以上の場所へ逃げるのは一つの考え方なのかなと思います。
 ただ、垂直避難には限界があります。都会の何十階建ての建物ならともかく、田舎の一戸建てだとせいぜいあっても3階くらいまで。そんな場所で垂直避難することは、果たして正しいのだろうかとも考えてしまいます。
 自分が垂直避難でもなんとかなりそうかどうかは、お住いの場所のハザードマップを確認して判断するしかありません。ハザードマップを100%信用することは危険ですが、それでも一つの判断基準にはなります。
 さまざまな条件でそこから遠方へ逃げられない人や、逃げ損ねた場合には、上層階に逃げることで命をつなげるかもしれません。
 基本は水平避難ですが、もしも垂直避難になった場合に備えて、どのような条件だと危険なのかについて確認しておくことをお勧めします。

【活動報告】おたがいさま益田様で防災研修を行いました

 去る10月17日、益田市高津町の生協益田支所様にて、おたがいさま益田様の防災研修会の講師をさせていただきました。
 テーマは災害から命を守るにはということで、ハザードマップと防災と聞いて思いつくアイテムを一つご持参いただき、それについて参加者同士で話をしてもらいました。
 また、実際の音声を聞きながらの避難訓練や、非常時に使われる警報音を聞いていただいたりと、盛りだくさんの内容でやらせていただきました。
 ただ、研修よりも展示物のほうが興味をもっていただけたようで、展示していた簡易トイレやエマージェンシーシート、非常用のアイテムの入ったボトルなどをについてあれこれとご質問をいただきました。
 次回があれば、今度はそういったアイテム類の見方や使い方、準備などについてやってみるのも面白そうだなと思いました。
 今回お声がけいただきましたおたがいさま益田様、そしてご参加いただきました皆様にこころから感謝いたします。
 諸般の事情で写真がありませんので、記事にて報告させていただきます。

【活動報告】ワークショップ「防災マップを作ろう!」を開催しました。

横断歩道の見通しが悪いと、渡ったあとで危険認定。

 去る10月15日に益田市の高津上市地区で小学生による地域安全点検として防災マップ作りを行いました。
 参加者が全部で5名と少し寂しかったですが、そのぶんしっかりと地域の安全点検をして回ることができました。
 普段通学路として使っている道も、安全点検してみるとかなり危険だということに気づいたようで、どうすればいざというときの安全が確保できるかについて参加者でいろいろと話をしていました。

地域のお年寄りとちょっと立ち話。しっかりやってと激励される。

 また、防災や防犯といった普段あまり気にしていないものの見方がわかると、普段の生活でもかなり見方が変わってくるというご意見もいただきました。
 今回はこれで終了しましたが、今後各地で防災マップを作る機会が増えるといいなと思っています。
 子どもたちと一緒に地域の安全点検をしてみませんか?
 興味のある方で講師やお手伝いが必要であれば、ぜひお声がけください。
 できる限りのお手伝いをしたいと思っています。
 今回参加してくれた子供たち、そしてお手伝いいただきました皆様に心から感謝いたします。

事業継続化計画を行動に落とし込む

BCPは避難だけでなく、事業を再開するための準備や流れも記載されている、はず?

 さまざまな企業や団体で、現在一通りできたといわれているのが事業継続化計画、いわゆるBCPと呼ばれるものです。
 ただ、このBCP、綿密に作りすぎていて一つ状況が変わるとまったく対応できないようなものから、全て管理者に判断を丸投げしている計画と呼べないようなものまでさまざまで、いざというときに本当に大丈夫かなと思うことがよくあります。
 「うちはきちんとした計画を作ってるから」というところのBCPを見せてもらうこともたまにありますが、一度作った計画を見直しも確認も訓練もせずにそのまま棚に飾ってあるようなものが多いです。さらには、困ったことにそのBCPを職員や従業員の方が存在すら知らないということも非常に多くあります。
 本来、BCPは各種訓練を行う毎に進化を続けていくものです。そして、その内容が訓練の基本となるため、職員や従業員が存在を知らないということは、そもそもあってはならないことなのですが、BCPと訓練が切り離されているとこういったことが起こります。
 もっとも、BCPが訓練にきちんと取り入れられているところは筆者の知る限りでもあまり多くはありません。
 多くは火災や災害からの避難訓練くらいで、安否確認や復旧訓練まではやっていないと思います。火災や災害からの避難訓練だと、何をすればいいのかわかっていますし、確認や講評は近くの消防署にお願いできるので、大した手間が必要なく、手直しもしなくていいのでお手軽なのだと思います。
 でも、せっかくBCPを作っているのであれば、それを基本にした訓練計画をぜひ一度作ってみてください。訓練時にはBCP担当だけでなく、BCPを読み込んだ人何人かが訓練をみてどう思ったかを講評すれば、次の訓練でそれがきちんと反映できます。
それを続けていれば、実際に必要なものやできるできないがよくわかりますし、事業を継続するためにはどうすればいいかを考え直すきっかけにもなります。
 いざというときに廃業しなくてもすむようにきちんと整備し、使えるものを策定しておいてください。

予知と対策と備え

 南海地震、東南海地震については毎日誰かが数日以内に起こりますとか、〇日が危ないとかいった情報をyoutubeなどでよく見ます。
 いろいろなもっともらしい根拠は書かれていますが、結果だけ見たら今のところみんなはずれてます。
 もっとも、どれか一つが当たれば、「大地震を的中させた!」などと言って、それまでの外れはきれいに忘れられてもてはやされるのだと思いますが、この予知は何のためにするのでしょうか。
 たぶん、「〇日に地震が起きるからちゃんと準備をしておけ」というのがスタートだと思うのですが、こういった予知に興味がある方に限って、なぜか本当に起きた時に備えた準備ができていないような気がするのは、筆者の気のせいでしょうか。
 地震予知は難しくても対策と備えは誰にでもできますし、また、起きた時にはあなたの身の安全をある程度保証してくれるものでもあります。
 いつ起きるかはわからなくても、いつかは必ず起きるのがこの南海地震、東南海地震です。
 対策を備えをしっかりとしたうえで、予知が当たるかどうかを楽しんでもらえたらと思います。