簡易トイレと汚物処理

携帯トイレ各種

 災害で通常のトイレが使えなくなったときに登場するのが簡易トイレです。
 時間の経過と共に工事現場で見るような使いやすくてきちんと仕切られた仮設トイレが到着したり、使えなかったトイレが使えるようになったりしますが、それまでは汚物を自分で処理する必要のある簡易トイレを使わなければなりません。
 最近では避難所の備蓄品や非常用持ち出し袋の中のアイテムとして常備されていることも増えてきましたが、いざというときにそれらの道具を正しく使うことができますか。
 こういった簡易トイレは使用一回ごとに凝固剤で固めた汚物の入った袋の口を縛って可燃ゴミとしてゴミ置き場に出しておかないといけないのですが、残念ながら汚物をそのままにしてしまう人が多いようです。
 張り紙などで意識させるようにしていても、普段の慣習というのはどうしても出てしまうので、次に使う人との間で大きなトラブルになってしまいます。
 普段の避難訓練や避難所設営訓練時に実際に使ってみないと身につかないような気がするのですが、トイレの問題は「汚い」とか「くさい」といった感覚が先に立ってしまって設置まではしても実際に使用するところまではいかないようです。
 ただ、使うときには本当に困ってしまう部分なので、とりあえずは使用から汚物袋の処分までを入れた訓練はしておいたほうがいいと思います。
 ところで、簡易トイレは汚物袋と凝固剤を一セットにして一回ごとに使用するのですが、あなたは自分が普段トイレに行く回数とその時の大小について大ざっぱでいいので把握していますか。

座るところは段ボールでもバケツでも作れるが、処理袋は用意していないと作れない。特に凝固剤がないと汚物が可燃物で処理できないので要注意!


 大小で使う簡易トイレが異なることがありますので、回数を把握したうえで非常用持ち出し袋に備える簡易トイレの数を確保して下さい。
 災害備蓄として避難所においてあるトイレの汚物袋と凝固剤の数は、例えば2000セットあると聞くと多いと感じますか、それとも少ないと感じますか。
 その避難所に避難する人が100人いるとします。そうすると、一人が簡易トイレを使用できる回数は20回。一日に5回トイレに行くとすると、4日分しかありません。
 もし避難者が1000人だとすると、たった2回分です。
 自分の備蓄を準備しておかないと、簡易トイレさえ使えなくなるということを知っておいてください。
 各人が自分の簡易トイレを持っているほど、トイレ事情には余裕が出てきます。
 食べたり飲んだりは我慢できても、出すのは我慢にも限界がすぐ来ますので、簡易トイレの準備と取り扱い方の熟知、そしてゴミ処理についての計画を作っておくことをお勧めします。

避難生活の強い味方のお茶

被災して生活が日常に戻るまでの間、生活に必要なさまざまなものが不足している状態になります。
特に食生活においては、配給される食事だけではビタミンやミネラルが圧倒的に不足していますので、それを補う方法を準備しておきましょう。
重要なビタミンである葉酸やビタミンCの補給が手軽にできるものとしては緑茶があります。
抹茶や煎茶など、緑色をしているものには葉酸やビタミンCがしっかりと含まれていますので、それを摂取することで簡単に葉酸とビタミンCを摂取することができます。
ただ、ペットボトルのお茶はこれらの効果は期待薄。葉や粉からお茶をいれるようにしてください。
長期にわたる避難生活では、このお茶にかなり助けられたという話も聞きます。
そんなに重量もありませんしかさばるものでもありませんので、準備しておくことをお勧めします。

カセットコンロと電磁調理器

よくあるカセットコンロの一つ。

 災害後に温かな食事を作るため、調理器は準備しておいた方が安心できると思います。特に災害直後はライフラインの全てが止まっている可能性が高いので、単独で使えるカセットコンロを準備しておくことをお勧めします。
 ただ、カセットコンロはその名の通りカセットガスがなければ使えません。
 調理する時期と内容によってカセットガスの使用量が異なるためになんとも言えませんが、通常2~3食分を作ってガス1本を消費すると考えて準備するといいと思いますが、たくさんのカセットガスが必要なのも確かです。
 田舎であれば廃材で焚き火などをして、そこで調理する方法もあるのですが、都会地でこれをやろうとしても廃材が手に入らないと思いますから、電気調理器を準備しておくといいと思います。
 ライフラインの中で、プロパンガスを除くと一番復旧が早いのが電気ですので、特に都市ガスの地域では電磁調理器を準備すれば、暖かいものを継続して食べることができると思います。
 最近は携帯できるタイプの電磁調理器もあるようですので、あらかじめ準備しておくことをお勧めします。
 特に乳幼児やお年寄りと一緒に避難する場合には、熱源を複数確保するのを忘れないで欲しいと思います。
 ちなみに、お住まいの地域が田舎でプロパンガスであれば、ボンベさえ無事なら、直結できるガスコンロで暖かいものを作って出すことが簡単にできます。

水は重い

水の確保はTPOにあわせて量を考えよう。

災害時に不足するものとして、トイレと水があります。
トイレは絶対に我慢できないものですし、水分補給できなければ3日以内に動けなくなります。
食べ物は、成人の場合1週間程度は食べなくても生きていけるようですので、とりあえずトイレと水について確保する方法を考えておきましょう。
トイレについては過去に何度も触れていますので、今回は水について考えてみます。
非常用持ち出し袋に水を入れると、とにかく重たくなります。
一日の飲料水とされる3リットルだけでも、3kg。これを3日分持って避難しようとすると、恐らく他のものは持てなくなります。
山歩きなどでリュックサックになれていて、リュックサックも山用の丈夫なものであればよいのですが、普通に町歩きで使うようなリュックサックだと、9kgでもへとへとになると思います。
そうすると、水はあらかじめ避難先に保管しておいたり、家の中に分散しておいたり、車の中や倉庫といったさまざまな場所に分散して保管するという対策を考えておく必要があります。
非常用持ち出し袋には500mlのペットボトルを3本程度にして、あとは2リットルのペットボトルで保管しておくようにすれば、腐敗や重さをそこまで気にしなくてもよくなります。
また、ウォーターサーバーが停電時でも動くのであれば、そういったものを上手に使うとより快適に安全な水が確保できます。
繰り返しになりますが、水は重たいです。
しかし、あなたの命を繋ぐためには絶対に必要なものでもありますから、あなたの知恵を絞って、災害後に確実に手に入れられるようにしておいてくださいね。

自分専用の道具を優先的に準備する

 災害時に持ち出す非常用持ち出し袋の準備はお済みですか。
 明日からは新しい年度に入りますので、引っ越しをしたり、生活環境が変わる方は、ハザードマップや周辺環境、避難や避難後の生活に必要なアイテム類の準備や確認をしておくことをお勧めします。
 さて、災害後の対策で優先的に準備するものとしては、一番最初はトイレです。さまざまなトイレがありますが、あなたは準備したトイレを使うことができますか。
 二番目は水です。災害発生後には断水することが多いので、飲料水の準備はもちろん、生活に使うための水も準備しておきましょう。
 では、その次に準備すべきものはなんでしょうか。
 これはあなたが普段の生活で必要としているが、他の人にとってはそこまで重要では無い品物になります。
 たとえば、眼鏡、老眼鏡、補聴器、杖、車いすなど、あなたが生活をするために必要な道具があるならば、それらの道具は優先して準備しておく必要があります。
 災害時の緊急支援物資では、多くの人が必要とするものが最優先されるので、特定の人が必要となる道具は後回しになるか、もしくは配慮されません。
 そのため、そういった道具が必要な人は自分であらかじめ準備しておく必要があるのです。
 災害後に自分で情報を確認できなかったり、移動できなかったりするのは生活をするのに困ったことがたくさん発生する元になります。
 非常用持ち出し袋には、そこまで見据えた道具を準備しておくことをお勧めします。

歯磨きセットは必須アイテム

 非常用持ち出し袋を作るときに見落としがちで、市販品の非常用持ち出し袋に入っていることが殆どないものの一つが「歯磨きセット」です。
 歯ブラシと歯磨き粉、それにうがい用コップをひっくるめて歯磨きセットと呼んでいますが、あなたの非常用持ち出し袋にはこの歯磨きセットが入っていますか。
 実は、被災後の生活では口の中の衛生環境を維持できるかどうかで病気にかかる率がまったく違うことがわかっています。特に高齢者の方の場合は、歯磨きは絶対にしないといけません。
 口の中はさまざまな雑菌の温床になっており、それを歯磨きしてうがいで流すことで一定以上の数を増やせないようにしています。
 でも、災害が起きて歯磨きができない状態になると、口の中にさまざまな雑菌が繁殖し、特に高齢者ではその雑菌が肺炎を起こしたりすることが非常に多くなります。
 避難生活で体調を維持するためには、口の中の環境を維持することが必須なのです。
 歯ブラシが無ければ、口をゆすぐ洗口液や歯磨きシート、ティッシュペーパーなどでも構いませんので、口の中の汚れを落とす習慣だけは忘れないようにしてください。
 災害後の避難生活では、さまざまな理由から免疫が弱ってきます。そうすると、身体のあちこちにいる雑菌が一斉に悪さをしようと活動を始めます。その中でも、口は内臓に直結している部分ですので、口の衛生を死守することが元気に災害後を過ごすことの絶対条件です。
 入れ歯の方の場合には、入れ歯洗浄剤なども非常用持ち出し袋に入れておいて、口の中の衛生環境をできる限り守るようにしてくださいね。

お風呂の残り湯をどうするか

 災害対策のお話をしていると、割とよく出てくるものの一つに「お風呂の残り湯は抜くのが正解か、貯めておくのが正解か?」という質問です。
 答えは「あなたがお住まいの環境によります」ということにしているのですが、お風呂の残り湯というのは案外と使い勝手の悪いものですので、そこだけは留意しておいてほしいと思います。
 お風呂の湯を抜かずに1日おいておくと、なんともいえない臭気がお湯から出てくると思います。特に夏場はひどいのですが、これは人が入浴した後のお湯なので、さまざまな汚れの入った水で雑菌が繁殖した結果です。
 夏場などは特にひどくなりますので、人に直接使うのはちょっとためらわれます。
 浄化キットがあればそれを使えばある程度使える水に変換はできますので、残り湯を使うことを考えるのであれば、水の浄化キットは準備しておいてほしいと思います。それがない場合、庭木の水やりか打ち水、トイレを流すかくらいになりますので、大容量の水ではありますが、過大な期待はしないほうがいいでしょう。
 また、集合住宅で2階以上にお住まいの場合には、大きな地震のときに湯船から残り湯がひっくり返って階下のおうちを水浸しにしてしまう危険性もあります。
 残り湯は抜くのが正解なのかと言われると、集合住宅の2階以上にお住まいなら抜くのが正解と答えます。
 単独住宅の場合には、風呂場が1階にあり、使い道を考えた上で残り湯を残しておくのは良いアイデアだと思います。
 ただ、小さいお子様がいる場合には、残り湯で溺死する危険性は排除できませんので、残り湯は抜いておくことをお勧めします。
 あなたのお住まいの環境でその水をどのように使うのか、そしてそれはどれ位必要なのか。それをきちんと踏まえた上で考えることをお勧めします。

トイレの問題を考える

簡易トイレの汚物の処分はどうやってやる?

 災害が起きて断水すると、多くの場所ではトイレが使えなくなります。
 流すのに水が必要ないくみ取り式や、少量の水で済む簡易水洗であればともかく、充分な水の確保ができなければ原則としてトイレは使用禁止にせざるを得ません。
 避難所の衛生環境が確保できるか否かの一番最初は、このトイレの問題となるのですが、多くの場合、運営者の手が回らずに、トイレの封鎖を行う前に汚物でてんこ盛りになっている状態になってしまいます。
 現在の災害対策支援では、早ければ3日後くらいには仮設トイレが届き始めるそうなので、発災から3日後までのトイレをどうするのかという問題があります。
 防災のワークショップなどではこのトイレづくりも取り上げられたりしていますが、実際に作るとなると、手間と時間、それに臭いの問題が発生してきます。
 簡易トイレで出した汚物は、出した先のビニール袋に凝固剤や消臭剤を投入して口を縛り、燃えるゴミなどに出すことになりますが、時間の経過と共に腐敗して臭気がただよい、精神的にも衛生環境的にもよくありません。
 また、できる限り小まめに汚物の回収を行わなければなりませんが、そういった作業をしたがらない人や、できない人も多くいます。
 避難所での最優先課題はトイレだと思いますので、地震による下水管の破断や断水時のトイレの封鎖、簡易トイレの設営、使い方、汚物処理について、あらかじめしっかりと取り決めておく必要があります。
 避難所だけでなく、あなたのおうちでも、自宅避難を行う場合に備えて、準備しておくことをお勧めします。

粘膜を守る

 地震では発生直後から、水害では発生して数日すると、地上1mくらいまで細かな粉じんが舞います。
 この粉じん、粒子がかなり細かいものなので、目や鼻、のどといった粘膜につくとさまざまな病気を引き起こすことがあります。
 そのため、背の低い乳幼児やペットの散歩には留意する必要があります。
 また、災害後に行う掃除でも、そういった粉じんが舞うため、粘膜を痛めてしまいますので、しっかりとした対策を行う必要があります。
 鼻や口を守るマスクは必須アイテムですし、できれば花粉症用の眼鏡、または水泳用のゴーグルなどで目を守るようにしたいものです。
 身体につくと、その粉じんを生活空間に持って入ってしまうことになるため、外出時にはできるだけ雨合羽など粉じんが付着しにくく落としやすい素材のものを着用し、帰宅時には家に入る前に外ではたくようにしておくとよいでしょう。

避難するときの格好の一例。

 いずれもちょっとしたことなのですが、災害後に起きる感染症や炎症に対してはかなり有効な手立てですので、非常用備蓄品や非常用持ち出し袋に入れておくといいと思います。
 ちなみに、写真は地震発生後に避難するときに安全が確保されやすい格好の一例です。こういった格好を準備することは難しいかもしれませんが、できる範囲で構わないので、粘膜を保護するための道具も準備し、避難のときやお片付けのときに忘れずに着用するようにしてください。

災害時に胸を張って助けてもらうには

 災害が起きたとき、さまざまな理由から自分一人では自分の命を守ることができない人がいます。
 そういった人達を災害死から守るため、災害時要支援者個別対応計画を策定する努力義務が災害対策基本法に明記されました。
 法律に書かれていなかったとしても、可能な限り人の命は守られないといけませんが、災害時に助けてもらうのは抵抗があるという人もいると思います。
 でも、災害時に自分一人で何とかしようとして結局命が失われると、さまざまな場所にそれが影響してきます。
 助ける側はただ助かって欲しいと思って手をさしのべるので、助けてもらう人が卑屈になる必要はまったくないのですが、かといってふんぞり返ってもよくありません。
 安心して助けてもらう、安心して助けることができる、そういった関係を作らないといけないのです。
 では、どうすれば災害時に自分が胸を張って助けてもらうことができるのか。
 まずは助けてもらう人は自分の命を何が何でも守るという意識を持つことです。
 助けてくれる人はなんとかして助けようとしますが,助けてもらう側が助けることに抵抗すると、それだけで貴重な時間が失われてしまいます。
 「死ぬ」という行為はその人の権利だとは思うのですが、原因が災害なのは駄目です。災害では死んではいけません。何が何でも助かって生き抜いて下さい。
 次に、助けてもらう人が自分にできることを自分でやることです。自分にできない部分を助けてもらうのです。
 例えば、歩けない人でも家の中で移動して玄関口までは出られるかもしれません。それなら、助ける人に玄関まで迎えに来てもらえばいいので、お互いに時間を無駄にしなくて済みます。
 助ける人は何を助けて欲しいのかがわかりません。だから、助けてもらう側が助けて欲しいことをきちんと伝えないと、一から十まで助ける人がすることになります。
 もしも自分で何もできないことがわかっていれば、助ける人を増やすとか、来てもらう優先度を上げてもらうとか、やりようはいろいろとありますので、できることとできないこと、やってほしいことをきちんと助けてくれる人に伝えておきましょう。
 助ける人に段取りがあることはみんなわかっていると思いますが、助けられる側こそ事前の段取りをしっかりとしておく必要があるのです。