暖かい食事のために発熱剤を準備してみる

 避難所で避難生活するにしても、自宅で生活するにしても、食事はしっかりと食べる必要があります。
 ただ、冷たいものや常温のものばかり食べていると、暖かいものが恋しくなってくるのは事実ですし、疲れて空腹な時に暖かいものを食べることができれば、それだけでかなりの気力を回復することができます。
 よくカセットコンロを準備しようという話をするのですが、ご家庭の事情によっては、それができない場合もあると思いますが、暖かいものを食べるための環境は整えておいた方が安心です。
 そこで、発熱剤を使ってみてはいかがでしょうか。「紐を引くだけであつあつのお弁当」などというキャッチフレーズでお弁当などにも使われていますが、普段の保管では危険は殆ど無く、劣化しにくく、いざというときには水を注ぐだけでしっかりと発熱してくれます。加熱するためには水が必要ですので、その分を余計に準備しておくという必要はありますが、水であれば基本的には発熱しますので、飲料用でなくても使うことが可能です。
 アウトドアや災害用に使う発熱剤は、殆どの場合ケースがついていますので、そのケースに缶詰やレトルト食品など暖めたいものを入れ、説明書に従って発熱させると暖かいものが食べられます。加熱温度は70~80度くらいですので、焦げたり発火したりすることはありませんし、よくある「○○のご飯」のような加熱しておいしくなるタイプのご飯もしっかりと温めることができます。また、授乳用の液体ミルクを温めるだけでなく、粉ミルクを調製するためのお湯を作ることも可能です。
 とても便利な発熱剤なのですが、欠点としては売っているところが限られているところです。いざというときにすぐ買えないと思いますので、一度買ってみて、自分のニーズにあっているかどうかを試してみてください。
 ちなみに、使い捨てカイロがあれば、その熱でもほのかに暖かくすることは可能ですので、あわせて使い捨てカイロも準備しておくとよいと思います。

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避難所の区画整理について考える

体育館が避難所になる場合は、最初は大きな空間しかない。ここを区画整理する。

 避難所で最初に決めないといけないことは、区画整理です。
 これを最初に行っておかないと、避難した人たちが好き勝手に場所を占拠してしまうため、移動をさせられずに後で四苦八苦する羽目になります。
 では、区画整理でどんな場所を決めなければいけないのか。
 最初は通路です。どんな場所であっても通路の確保は最優先に行います。さもないと、導線が混乱して非常に使い化っての悪い状態になります。
 次に、本部と資材置き場を確保します。これらはある程度しっかりとした面積と空間を確保する必要があります。避難者で施設が一杯になっても、そこを運営する場所がないと大混乱を招くことになりますので、最初に本部の設置場所を確保してください。避難所の出入口付近で、人の出入りが監視できる場所が望ましいです。また、掲示物の掲示場所も近くに作れるとよいです。

 資材置き場は運ばれてくる資材ごとに分類できるように、ある程度広いスペースが確保できると作業がしやすくなります。例えば避難所が学校の体育館なら、資材が勝手に持って行かれないように周囲から見通しのきくステージなどに置くとよりよいと思います。
 施設によっては仮設トイレの場所を確保する必要があります。人目につきやすく、明るさを確保でき、かつプライバシーが守られるような場所が選択できるとベストです。


 あとは談話スペース。足の不自由な方や独りで避難された高齢者の方などがそこで時間を過ごせるような空間を作っておきます。いすや机を置き、誰でも使えるようにしておくとよいと思います。

 また、授乳やおむつ替えできるスペースも確保したいです。診療エリアとしてそのうちに回ってくる医療者を受け入れられる場所を確保しておき、そこを使えるようにしておくと当座をしのぐことができます。
 洗濯物を干す場所や学習をする場所など、他にもさまざまな必要な施設がありはしますが、とりあえずはこれくらいの場所を確保した上で、初めて避難者にエリアを割り当てていきます。
 本番時にこんなことを決めていてはとても対応が間に合わないので、これらのレイアウトは事前にきちんと形にしておくと作業が早くなります。

区画の中をさらに家族単位で過ごせるように段ボールで仕切る。これだけで快適性が格段に変わる。

 さて、避難者への区画の割り方ですが、できれば地区ごとにしておくと後でいろいろと作業がしやすくなりますので、大ざっぱでいいので地区ごとの割り当てを考えていきます。もしも収容者が多数になってくるようなら、空いている区画を割り当てるなど、別にゾーンを設定するとよいでしょう。また、各区画ごとに代表者を決めて貰い、その人が本部と避難者との間でいろいろな連絡用務を請け負ってもらうことになります。
一口に避難所と言っても、運営開始までには決めることがたくさんありますし、ここで上げたことが絶対とも思いません。避難所の数だけ事前に準備した方がいいことはあると思います。災害の時に決めたとおり運用できるとは限りませんが、いきなり本番で避難所を開設をしてもごたごたしてうまくいきませんので、できる限り事前にさまざまな段取りを詰めておくようにしましょう。

野菜ジュースとビタミン剤

 大規模災害が起きて被災してしまい避難所での生活になると、食事の問題が必ずついて回ります。最初は非常食、おにぎりやパン、そして某コンビニの災害用幕の内弁当へという流れで、大体決まっているようです。
これは行政機関が備蓄している非常食が初めの頃は配布され、補給路が安定すると被災地区外から大量のおにぎりやパン、弁当が供給されるようになるためですが、被災者が多いので大量生産品、しかも衛生状態維持のために冷たい状態で供給されるので食べにくい上に単調な味で飽きてしまいます。
  「災害時なのだから贅沢を言うな」という方もいらっしゃるのですが、被災者に供給される弁当は1食300円から350円程度で供給される大量のお弁当は油ものやインスタントもののオンパレード。その上衛生管理上保冷されてくるのですから我慢強い人でもそのうちに耐えきれなくなると思います。これらのお弁当は栄養状態は二の次、とにかく飢えないことを優先したメニューとなっていますので、食べやすさではなく数を稼げるものが使われ、そういうメニューは圧倒的に繊維質やビタミンが不足する食事です。
 そのため、自衛の手段として野菜ジュースや粉末の青汁、総合ビタミン剤などを非常用持ち出し袋に準備しておくようにしましょう。
 たくさんの人が集団で生活する環境ではさまざまな病気が流行りますが、それらから身体を守ってくれる働きをするビタミンは不足しがちです。身体を元気に保つためにも、必ず不足するビタミンを補給できるものを準備しておきましょう。
 ただ、ビタミン剤にも身体に合う合わないがありますので、できれば平時に自分が飲んでも大丈夫なのものかどうかを実際にちぇっくしてみることをお勧めします。

トップダウンと合議制

 災害が発生して初期の初動時には短時間にさまざまなことが起きるため、迅速な判断と行動が求められます。つまり「完璧な判断だが遅い」ことよりも「7割でしかないが早い」ことが求められる世界。常に完璧でなくてはいけない行政職員にその判断をさせるのはかなり難しいと思います。
 平時に自治体や自治会、避難所となる施設の運営関係者などで構成する避難所運営委員会を立ち上げて初動対応のことや避難所の内容について予め決めておき、その内容に従ってリーダーが全体の指揮を執って動いて必要以上の混乱を起こさないようにする必要があります。万が一、リーダーが避難所にこれなくても、予め決めておいた手順があれば物事を進めていくことができるので、非常に順調に運営を進めることができます。
 そうで無い場合にはどうするかというと、避難所運営を理解している人か指揮能力の高い人がその場で判断して支持していくことになりますが、大抵の場合情報がなくて判断できないか、もしく判断する人が多すぎてまとまらないかのどちらかになります。
 理想なのは予めさまざまなことを取り決めておき、それに従って判断し、指揮を執る人がいること、そして何かあったときには相談ができる体制になっていることです。もちろんその相談者もできれば予め決めておくことで、スムーズな合議ができると思います。
 トップダウンと合議制、これを上手に切り替えて避難所の運営を行っていくことになりますので、例えばHUG(避難所運営ゲーム)などで判断基準の訓練をしておくことが必要なのではないかと思います。

液体ミルクとほ乳瓶

 以前に国産の液体ミルクが発売されるという記事を書きましたが、あれからおよそ1年が経過しました。
 実際に使った方からの意見では、「調整しなくて済むので衛生的に使える」と概ね好評だったようですが、「ほ乳瓶の衛生を保つのが難しい」という大きな問題がありました。対策として、紙コップとスプーンを使った飲み方や、使い捨てのほ乳瓶が提案されたりもしていたのですが、今回液体ミルクのパッケージにそのまま取付のできるほ乳瓶が開発されたと聞いたので記事にしてみます。
 国内で製造されているのは、江崎グリコが製造している紙パックの「アイクレオ」と、明治が作っているスチール缶の「ほほえみ」の2種類です。


 それぞれ形態が違っていて容量も異なっているので月齢や好みによって使い分けることになっているのではないかと思いますが、どちらもそれぞれ紙パックや缶に直接取付のできるほ乳瓶ができました。
現在はアイクレオで使う紙パック用ほ乳瓶が発売されている状態ですが、こちらは同じサイズであれば麦茶や水といった他のものに転用することも可能だとのこと。
また、缶につける方は令和2年3月から発売されるようで、缶と乳首の間にスペーサーが入り、乳首は交換できるようになっているようです。
ほ乳瓶の瓶の持ち歩きや消毒という手間や容量が減る分、保護者にとっては使うメリットがあるのではないかと思います。
災害時だけで無く、授乳者の体がくたびれているとき、普段お世話したことのない方にお願いするとき、そしてお出かけ時にも安心して使えるアイテムですので、機会を作って一度使ってみるのもよいのではないかと思います。
詳しい記事はこちらのリンクからご確認ください。

「赤ちゃんには選択肢がないのは不公平」 ほ乳瓶いらずの紙パック装着用乳首はこうして生まれた (ねとらぼ)

https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1912/04/news019.html

缶入り乳児用液体ミルクで“哺乳びん用乳首”のアタッチメント開発、「明治ほほえみ らくらくミルク」を移し替えずそのまま(食品産業新聞社)

ttps://www.ssnp.co.jp/…/milk/2019/11/2019-1129-1510-14.html

避難訓練と本番の違い

 避難訓練と本番では、やる内容が大きく異なるなと思うことがあります。
 避難訓練での子ども達への合い言葉は「お・は・し・も」で、これは「押さない」「走らない」「しゃべらない」「戻らない」の頭文字を取ったものです。
 でも、いざ本番の時にこれをこなしたらどうなるかというと、逃げ遅れたり周囲の人が気づかなかったりすることが起きるでしょう。
 災害時の避難は「身を守る」「急いで逃げる」「周りを巻き込む」「戻らない」が基本となると思います。まずは身を守り、そして安全な場所に逃げる、そのときにはできるだけ周りの人も避難するように声かけて巻き込み、避難した後は安全確認ができるまで絶対に戻らない。東日本大震災では、釜石の子ども達がこの行動をとり、多くの人たちを救うことができました。
 ではなぜ避難訓練では「お・は・し・も」になってしまうのでしょうか。
 これは訓練を実施する側の都合と、近所から紛らわしいという苦情が入るからではないかと思われます。
 訓練する側は、できるだけ統制のとれた避難をしたいと考えます。そのため走らせないししゃべらせないのだと思います。また、単独訓練で「津波だ、逃げろ!」と子ども達が騒ぐと、学校の周囲のお宅はパニックになってしまうかもしれません。いっそのこと、ご近所も巻き込んだ避難訓練を行えば実戦さながらの訓練になると思うのですが、なかなか準備が大変なようで、そこまでの訓練を大規模校でやっているところは少ないのではないかと思います。
 避難訓練というと、訓練のための訓練になってしまいがちです。できれば専門家を交えてより実戦的な訓練を行ったり、そこまではしないまでも、訓練の様子を見てもらって講評を受けるだけでも緊張感は変わると思います。もちろん当研究所でもそういった業務を行っていますので、お気軽に相談いただきたいと思いますが、せっかく避難訓練をするのですから、「問題なし」で終わるのではなく、小さな問題でもいいので見つけて改善していくようにしていければなと思っております。

災害時の子どもの安全

緊急時に子どもがどこへ避難するのか知っていますか?

 災害時には自分の身を守ることを最優先で行うことが大切だと思っているのですが、自分の身を守った後、あなたと家族はどのような行動をするのかを決めていますか。
 大人であれば、とりあえずは安全な場所に移動するというところでしょうが、学校や保育園、幼稚園に通っている子ども達の場合、それぞれの施設がどういう判断でどんな行動をとるのか、きちんと把握していますか。
 学校や保育園、幼稚園などの教育機関の場合、子ども達は教師や保育士といった大人の指示に従って行動することになりますが、子ども達が何が起きたらどこにいるのか、どこへ避難するのかについて、きちんと教育機関側に確認が取れていますか。災害が発生したとき、または発生が予測されるときには、原則として教育機関まで保護者が迎えに行くということになっているところが殆どだと思いますが、どんな状況なら保護者に引き渡しがされて、どんな状況なら引き渡しを中止するのかについて、きちんと把握していますか。
 というのも、学校やこどもたちが無事であっても、お迎えに行った保護者がその途中で被災する可能性が非常に高いからです。東日本大震災では、災害時には保護者に子どもを引き渡すという取り決めに固執してしまったため、お迎えに向かう途中で被災したり、お迎え後の避難中に被災した方もいらっしゃったようです。
 災害時に教育機関から保護者に子どもを引き渡すことができるのは、状況が落ち着いて安全に引き渡しが可能な状態がそろっている必要があります。逆に、そろっていない状態では引き渡しはせず、学校で安全を確保する必要があるのだと思います。
 むろん、先生方に全ての責任を取れというわけではありません。災害時の避難や引き渡しについてきちんと保護者との間で取り決めをしておくことが大切だということが言いたいのです。保護者が同意するなら、自分で判断できる年齢の子ども達であれば、災害時の避難について自主的に行わせるというのも選択肢としてはありだと思っています。危険から逃げるという能力については、ひょっとしたら大人よりも子どもの方が優れているのではないかと思うこともあるからです。
 子どもが自分のいる場所で状況が落ち着くまできちんと命を守ることができること。そして子どもが自分の命を守っていることを信じることで、保護者もまた自分の安全を確保することができます。
 これこそが「津波てんでんこ」なのではないでしょうか。
 自分の身の安全というのは、結局のところ自分にしか守ることができないのですが、災害時に教育機関として集団行動をするのであれば、先生方が日々の災害対策についてきちんと学習し、訓練や教育を継続して行っていく必要があります。でも、それがきちんとできているでしょうか。
 「釜石の奇跡」は防災教育を受けた中学生達の自主的な行動の結果でした。あなたがお住まいの地域の子ども達の災害対策はきちんとできていますか。
 そして、あなたの子どもは、災害後にどこであなたを待っていますか。

災害対策は「早く手を打つこと」が基本です。

 災害対策は、何事も「早く手を打つこと」が基本です。災害が発生してから起こるさまざまな問題は、時間が経っていくとどんどん増えていきます。
 ですが、問題が発生した時点、もっと言えば問題が発生する前に対処しておけば、問題を一つ消すことができてそれに投入しなくてはならない力を他のことに振り分けることができます。
 例えば、大地震が起きたと想定します。そこで発生するのは倒壊した家屋、多くのけが人、火災で、これらに対応するのは全て消防となります。地域の消防力はそんなに多くありませんから、これに全部対応しようとすると手が回らずに全てを中途半端にするか、または心を鬼にして最優先事項以外の全てを切り捨てるかということになるでしょう。現に阪神淡路大震災では、消防力の不足からそのような事態になりました。
 でも、全ての家屋が耐震補強され倒壊しなければ、また、家具の固定やガラスの飛散防止などの対策がしてあれば、緊急に救助を要する人の数は格段に減らすことができますし、各家庭に消火器が備えてあってそれをきちんと使うことができていれば、発生する火災の件数もぐっと減らせるはずです。そうなれば、消防はそれでも必要とされる怪我や火災にのみ対応すればよくなりますから、誰も何もしていない状態よりもずっと手早く確実に仕事をこなせます。
 病院などで問題になるのは電気と水ですが、例えば水は井戸からくみ上げて浄水できるようにしておき、電気は自家発電機だけでなく、太陽光発電システムや蓄電池などを併用することで、電気や水がないことにより起きうる病院の受け入れ中止を防ぐことができます。電気や水の復旧は年々遅れる傾向にありますから、場合によっては普段から敷地内で発電したものを使うようにしてもいいのかもしれません。
 また、普通の人たちも家庭や職場、学校に非常用持ち出し袋が置いてあれば、それをもって避難すればいいので、当座の水や食料、衣類やトイレなどの心配はしなくてもすみますし、さまざまなものを持っている人と持っていない人の間で発生するであろういざこざも防ぐことが可能です。
 こんな風に、起きる前に手を打っておくことで、そこから発生するであろうさまざまなリスクを消滅あるいは軽減することが可能になり、発生するさまざまな問題を少なくすることが可能になります。
 ここまでお話ししてきたのは事前準備になりますが、発災後に問題が起きたときも、放置せずすぐに対応できればそれ以上問題が大きくなりません。
 例えば、避難所のトイレが閉鎖前に使われてしまって汚物で汚染されていたとして、その場で掃除して消毒した上で閉鎖すれば、その後トイレが汚染源になって発生するさまざまな問題を防ぐことができます。照明についても、生活リズムが異なる人たちが一緒に生活すると明るい暗いというトラブルが必ず起きます。そのとき、それを放置せずに同じような就寝リズムの人たちで部屋や場所をまとめて照明を調整するようにすれば、そこから発生する睡眠不足やさまざまな病気、トラブルを避けることができるでしょう。
 災害に限らないことですが、問題を先送りすると大概の場合にはさらに問題が大きく深刻化するものです。物理的に解決できないことは仕方がありませんが、工夫ややり方で解決できることはその場で解決してしまうこと。そうすれば、その先に広がるさまざまな問題の発生を防ぐことができます。それに対処するため、予測できることをあらかじめ準備しておくのが「BCP」といわれる「事業継続化計画」で、これがあるのとないのでは災害が発生した後の対応が驚くほど違います。
 作るのは事業に限りません。家庭でも、学校でも、あなた自身でも、自分が被災してから復旧するまでの計画を一度きちんと作ってみてください。そうすることで、本当に災害が起きたとき、驚くほど早く日常を取り戻すことができると思いますよ。

「やさしい日本語」はみんなにわかりやすい

 最近の災害報道では、以前のように難しい言葉や字幕を使わないことが増えています。特に危険が迫っているときには「今何が起きているのか?」と「どうすればいいのか」だけ伝われば行動にはうつしてもらえます。それが目的です。また、文字が読めない人もいますので、アナウンサーがやはり同じ条件で、普段と異なり少しだけ感情を込めて「高いところへ逃げてください」などと具体的かつわかりやすく伝えています。
 では災害後はどうかというと、行政から発信される情報は、残念ながら難しい言い回しでかかれていることが殆どで、日本語の理解が十分でない人には非常にわかりにくいものになっています。
 そのため、災害後には行政が発表する各種情報を「やさしい日本語」に置き換えて誰もが言いたいことがわかる作業をするボランティアが必要となってきます。
 特に外国から働きに来ている人は普段の生活で使っている日本語くらいしかわかりませんので、どうやって伝えるかを試行錯誤して文章にしていくことになります。ただ、行政の出す情報はとにかく量が多い上に提供から支援開始までの時間が非常に短いという問題があり、ボランティアもやさしい日本語にする書類を選んで訳している状態です。でも、普通に書かれた行政からのお知らせをわかりやすい日本語に直すことは、日本語の知識のある人であれば基本的には誰でもできると思います。小さなニュアンスの違いは発生するとしても基本的な情報が伝わるか伝わらないかは、その後の行動に大きく差が出てきますから、快適な生活をするためにもその場にいる人たちがその処理ができるといいなぁと考えます。
 やさしい日本語は、いかに短いフレーズでいかに簡単にわかりやすく伝えるかを目的にしていますので、例えば避難所などではお年寄りと子どもが一緒になってこういう翻訳作業をすれば、言い回しや書き方など、ちょうどいい頭の体操になるのではないでしょうか。
 また、やさしい日本語は文字も大きく書くため、老眼にもやさしく、年寄りにも読み取れる程度の情報量です。
 誰にとってもメリットのある「やさしい日本語」。
 いざというときに備えて、日頃見ている文章を「やさしい日本語」にするとどういうフレーズになるのかを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
 島根国際センター発行の「やさしい日本語」のテキストをリンクしておきますので、興味のある方は是非ご一読ください。

自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。