災害対策は「早く手を打つこと」が基本です。

 災害対策は、何事も「早く手を打つこと」が基本です。災害が発生してから起こるさまざまな問題は、時間が経っていくとどんどん増えていきます。
 ですが、問題が発生した時点、もっと言えば問題が発生する前に対処しておけば、問題を一つ消すことができてそれに投入しなくてはならない力を他のことに振り分けることができます。
 例えば、大地震が起きたと想定します。そこで発生するのは倒壊した家屋、多くのけが人、火災で、これらに対応するのは全て消防となります。地域の消防力はそんなに多くありませんから、これに全部対応しようとすると手が回らずに全てを中途半端にするか、または心を鬼にして最優先事項以外の全てを切り捨てるかということになるでしょう。現に阪神淡路大震災では、消防力の不足からそのような事態になりました。
 でも、全ての家屋が耐震補強され倒壊しなければ、また、家具の固定やガラスの飛散防止などの対策がしてあれば、緊急に救助を要する人の数は格段に減らすことができますし、各家庭に消火器が備えてあってそれをきちんと使うことができていれば、発生する火災の件数もぐっと減らせるはずです。そうなれば、消防はそれでも必要とされる怪我や火災にのみ対応すればよくなりますから、誰も何もしていない状態よりもずっと手早く確実に仕事をこなせます。
 病院などで問題になるのは電気と水ですが、例えば水は井戸からくみ上げて浄水できるようにしておき、電気は自家発電機だけでなく、太陽光発電システムや蓄電池などを併用することで、電気や水がないことにより起きうる病院の受け入れ中止を防ぐことができます。電気や水の復旧は年々遅れる傾向にありますから、場合によっては普段から敷地内で発電したものを使うようにしてもいいのかもしれません。
 また、普通の人たちも家庭や職場、学校に非常用持ち出し袋が置いてあれば、それをもって避難すればいいので、当座の水や食料、衣類やトイレなどの心配はしなくてもすみますし、さまざまなものを持っている人と持っていない人の間で発生するであろういざこざも防ぐことが可能です。
 こんな風に、起きる前に手を打っておくことで、そこから発生するであろうさまざまなリスクを消滅あるいは軽減することが可能になり、発生するさまざまな問題を少なくすることが可能になります。
 ここまでお話ししてきたのは事前準備になりますが、発災後に問題が起きたときも、放置せずすぐに対応できればそれ以上問題が大きくなりません。
 例えば、避難所のトイレが閉鎖前に使われてしまって汚物で汚染されていたとして、その場で掃除して消毒した上で閉鎖すれば、その後トイレが汚染源になって発生するさまざまな問題を防ぐことができます。照明についても、生活リズムが異なる人たちが一緒に生活すると明るい暗いというトラブルが必ず起きます。そのとき、それを放置せずに同じような就寝リズムの人たちで部屋や場所をまとめて照明を調整するようにすれば、そこから発生する睡眠不足やさまざまな病気、トラブルを避けることができるでしょう。
 災害に限らないことですが、問題を先送りすると大概の場合にはさらに問題が大きく深刻化するものです。物理的に解決できないことは仕方がありませんが、工夫ややり方で解決できることはその場で解決してしまうこと。そうすれば、その先に広がるさまざまな問題の発生を防ぐことができます。それに対処するため、予測できることをあらかじめ準備しておくのが「BCP」といわれる「事業継続化計画」で、これがあるのとないのでは災害が発生した後の対応が驚くほど違います。
 作るのは事業に限りません。家庭でも、学校でも、あなた自身でも、自分が被災してから復旧するまでの計画を一度きちんと作ってみてください。そうすることで、本当に災害が起きたとき、驚くほど早く日常を取り戻すことができると思いますよ。

自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。

防災グッズを揃える優先順位

 立て続く災害のせいか、防災グッズや災害対策の本や特集を見かけることが増えているような気がしますが、これらの記事を見ていくと、さまざまなものが取り上げられていて、全部揃えようなどと思えないような金額に積み上がってしまうこともしばしば。「防災グッズを揃えたいけれど、何から準備したものやら・・・」と途方に暮れてしまうことも起きてしまいます。
 当研究所で「防災グッズ、何から準備をすべきか」ということを聞かれたとしたら、まずは「絶対に必要なものの備蓄を増やす」ことから始めてほしいと思います。
 例えば、紙おむつや生理用品、常備薬、眼鏡やコンタクトレンズ、アレルギー対応のあれこれなど、各家庭、各個人で絶対に必要なものの種類は変わってきますが「絶対にないと困るもの」はないと困るのですから、ある程度の補給が期待できるまでの物資は備蓄しておく必要があると思うからです。また、自動車の燃料であるガソリンもないと困るものの代表格です。
 当研究所の記事もそうなのですが、防災関係の記事では代替手段や代替品の紹介をすることが非常に多いです。
 そのため、代替品があればなんとかなると考えてしまいがちなのですが、防災関係の記事の大前提は「絶対に必要なものは前もって準備しておくこと」です。
 例えば、おむつでよく紹介されるのはビニール袋とタオルを使った代替品ですが、実際にこれを使うとなると、赤ちゃんのおしりが蒸れてしまったり、交換用のタオルが大量に必要になったりと、紙おむつを準備しておいた方が楽だったというような結果になってしまいます。
 また、赤ちゃん用ミルクでは、味によっては赤ちゃんがいやがって飲まないという場合もあるでしょう。ですが、行政が手配して届いた赤ちゃん用ミルクがあなたの赤ちゃんが嫌がっているミルクだとしたら、どうしますか?
 無理矢理飲ませようとして赤ちゃんとあなたが疲労困憊するよりも、普段使っているものが準備してあれば、ミルクの問題により発生するあれこれを気にしなくてもすみます。余談ですが、母乳の場合でもショックやストレスで一時的に母乳が出なくなることもありますので、折に触れて赤ちゃんが飲める赤ちゃん用ミルクを見つけて慣らしておいたほうが安心です。
 生理用品も全く同じで、災害が起きたことによるショックで生理が始まってしまうこともあるようですから、自分の普段使っている生理用品を1周期分は用意しておくと、これも安心です。
 長袖シャツとキッチンペーパーなどで代替品を作るというような記事もあるのですが、普段でさえ、少しデリケートな方は合わない生理用品でかぶれたりすることもあるようですから、いっそう衛生的な環境を意識する必要のある災害時には、提案されている代替品は正直なところ現実的ではないと思います。
 今書いてきたような代替品は、別に嫌がらせやネタとして考えられたわけではなく、どちらかというと「どうにもならない状態なのでないよりはまし」という前提で考えられた代替品ですので、それを作ればいいんだから安心とは、絶対に思わないようにしましょう。
 また、常備薬として普段から飲んでいる薬がある人は、その薬はなくなると困るはずです。これは他のもので代替が効くものではありませんから、絶対に必要なものの最右翼と言えるでしょう。
 日々の生活の中では、他に代替の効かないものや、代替品を作るまたは維持することによって他に発生する数々の問題が生じてしまうものは、できるだけ必要なものそのものを用意しておきます。そのことによって、そうでなくてもさまざまなストレスにさらされてしまう災害後の生活でよけいなストレスをため込まなくてすみます。
 さまざまな防災用のあれこれを準備するときには、まず最初に自分の日々の生活の中で使うもののうち、「絶対に必要でないと困るもの」を最優先で多めに備蓄していくと間違いがないと思います。

ペットとの避難

 最近はペットが家族の一員としてなくてはならない存在になっています。
 ですが、ペットを家族の一員として考えるからこそ、そう思わない人たちとの間にさまざまなトラブルも起きるようになってきています。

 環境省の指針では「ペットは同行避難」となっていますが、そうするためには地域・飼い主・ペットがそれぞれにしておかないといけないことがあります。
 ペットをどのようにしたらよいのか、ここではそれを考えてみます。

1.事前準備として

1)避難所の受け入れ体制を確認する

最初にやっておかないといけないことは、もしも自分が避難することになったときに避難する先でペットの収容が可能かどうかを確認しておくことです。
地域によって取り扱いはさまざまですが、基本的にペットと人は一緒に収容しないことになっている場合が多いはずです。
そのとき、他にペット可の避難所があるのか、ない場合には避難先でどのようにしたらペットの受け入れが可能になるのかについて避難所の運営を行う自治会や自主防災組織にきちんと確認しておきましょう。
どうしても受け入れが不可能な場合には、どうやったら一緒に避難を行うことができるかについて検討をする必要があります。

2)予防接種や迷子札の装備をきちんとしておく

避難先が収容可能な場合でも、病気を他のペットにうつしたりもらったりしては困ります。そのため、決められている予防接種はきちんと摂取しておくことが大切です。
そして、万が一行方不明になったときに備えて、首輪などにペットの名前、飼い主の名前と住所がわかるものを備え付けておきます。可能であればマイクロチップを埋め込んでおけば、迷子になっても見つかる確率はぐんと大きくなります。

3)ケージにちゃんと入れるようにしておく

大型犬、中型犬など物理的に入れられるものがない場合を除き、基本的にはケージの中に収めて避難をすることになります。暴れないように、騒がないように、ケージにしっかりと慣れさせておく必要があります。

ケージは慣れると入っていい子にしてくれている場合が多いです。ペットに「ケージ=楽しいこと」という意識付けが必要になると思います。

4)非常用の餌とトイレを準備しておく

災害時の支援物資は人が優先になります。ペットには、基本的に人の食事を与えることが難しいと思いますので、自分のペットの食事やトイレについてゴミ袋もあわせて1週間から2週間程度準備しておく必要があります。

普段食べているご飯の方がストレスが無くてよいみたいです。

2.発災時

1)まずは自分の身の安全を確保する

 発災時にはまず自分の身を守ることを考えます。そのうえで、ペットの安全を考えてやりましょう。
 ペットを我が子と同じように考えている人は、地震が起きたときに慌てるペットを助けようとして倒れてきたり落ちてきたりしたものに当たって怪我をするというようなことが起きます。
 もしあなたが怪我をしてしまうと、残されたペットの面倒は誰が見てくれるのでしょうか。
 ペットは基本的に自分で我が身を守りますから、まずは自分の身を守ること。そして状況が落ち着いてからペットの安全を確認してください。

2)避難する場合には基本的には一緒に連れて行く

 家で飼われているペットは野に放つわけにいきません。飼い主が避難するときには、一緒につれて避難することが基本です。そのさい、事前に確認しておいた手順に沿って避難を行ってください。

3)避難所ではケージに必ず入れておく

避難所では野放しにすると他のペットとけんかが始まったり、人によってはアレルギーが出ることもあります。そのため、何か事情がある場合を除いてはケージに入れておくことになります。ただ、ケージに入れっぱなしになるとペットもストレスが貯まってきますので、適当なところでガス抜きしてやる必要があります。

ペットとの避難については、地域や理解度によってかなりの温度差があるのが実情です。
できればペット仲間やかかりつけの獣医さんも交えて、どのようにしたら自分もペットも安全に避難ができるのかについて検討しておく必要があると思います。

詳しくは環境省のホームページを確認して、いざというときにペットを置き去りにしなくて済むようにしてくださいね。