「命を守る」とは?

 地震や津波などが起きる際には、マスコミ報道等では必ず「命を守る行動をしてください」という言葉が入ります。「命あっての物種」ですから、とにかく生き残らないことにはその後の準備をいくらしていても何の役にも立ちませんので、マスコミ報道の伝えていることは完全に正しい内容だと思います。
 では、命を守るとはどういうことなのかというと、まずは「死なないこと」です。そして「怪我をしないこと」。
 当たり前のような話です。
 では、もし今地震が起きたとしたら、あなたはどうやって自分の命を守るのか、その方法と理由を説明することができますか。
 机のある学校や職場ではとりあえず机の下に潜るようにと指導を受けますが、なぜそうするのかをきちんと知っている人はあまりいません。頭、そしてできれば身体全部を落下物から守るために、机の下に潜るという行動が推奨されているわけです。
 でも、机の下に潜る「理由」ではなく「行動」しか教えていないため、安全な校庭にいる子ども達が緊急地震速報の音で慌てて危険な校内に避難するようなことが起きているのが現状です。最近では「ダンゴムシのポーズ」を教えることも多いようですが、これもやっぱりなぜこのポーズをするのかについての説明がされていません。逆に言えば、なぜそうするのかという理屈さえわかっていれば、それが災害時の行動規範になります。その結果、助かる確率があがることになるのではないでしょうか。
 例えば、家の耐震補強をするのは、地震が起きたときに家に潰されないようにするためです。どんなに命を守る訓練をしていても物理的に潰されてしまったら死んでしまいますから、潰されないように対策をしておくことが必要です。同じ理由で「家具の固定」も行っておく必要があります。他にも高いところに重たいものを置かないようにするとか、窓ガラスが割れて飛び散らないようにフィルムを貼るといった行為も自分が死なない、怪我しないために行う準備なのです。
 まず命が助かること。災害を生き残るためにはそれが一番最初であり、一番大切なことなのです。
 もしもあなたが災害対策にかける予算が少なくて何をするのかを迷っているようでしたら、まずは寝室のお片付け、そして家具の固定、できれば耐震診断をして家の耐震補強をするところから手をつけてみてください。
 また、学校や勤務先等ではものが落ちないように対策をしたり、頭や身体を守れるように身を隠す場所を決めたりしておきましょう。
 災害時にしっかりと命を守ることから、災害対策が始まるのです。

避難所の区画整理について考える

体育館が避難所になる場合は、最初は大きな空間しかない。ここを区画整理する。

 避難所で最初に決めないといけないことは、区画整理です。
 これを最初に行っておかないと、避難した人たちが好き勝手に場所を占拠してしまうため、移動をさせられずに後で四苦八苦する羽目になります。
 では、区画整理でどんな場所を決めなければいけないのか。
 最初は通路です。どんな場所であっても通路の確保は最優先に行います。さもないと、導線が混乱して非常に使い化っての悪い状態になります。
 次に、本部と資材置き場を確保します。これらはある程度しっかりとした面積と空間を確保する必要があります。避難者で施設が一杯になっても、そこを運営する場所がないと大混乱を招くことになりますので、最初に本部の設置場所を確保してください。避難所の出入口付近で、人の出入りが監視できる場所が望ましいです。また、掲示物の掲示場所も近くに作れるとよいです。

 資材置き場は運ばれてくる資材ごとに分類できるように、ある程度広いスペースが確保できると作業がしやすくなります。例えば避難所が学校の体育館なら、資材が勝手に持って行かれないように周囲から見通しのきくステージなどに置くとよりよいと思います。
 施設によっては仮設トイレの場所を確保する必要があります。人目につきやすく、明るさを確保でき、かつプライバシーが守られるような場所が選択できるとベストです。


 あとは談話スペース。足の不自由な方や独りで避難された高齢者の方などがそこで時間を過ごせるような空間を作っておきます。いすや机を置き、誰でも使えるようにしておくとよいと思います。

 また、授乳やおむつ替えできるスペースも確保したいです。診療エリアとしてそのうちに回ってくる医療者を受け入れられる場所を確保しておき、そこを使えるようにしておくと当座をしのぐことができます。
 洗濯物を干す場所や学習をする場所など、他にもさまざまな必要な施設がありはしますが、とりあえずはこれくらいの場所を確保した上で、初めて避難者にエリアを割り当てていきます。
 本番時にこんなことを決めていてはとても対応が間に合わないので、これらのレイアウトは事前にきちんと形にしておくと作業が早くなります。

区画の中をさらに家族単位で過ごせるように段ボールで仕切る。これだけで快適性が格段に変わる。

 さて、避難者への区画の割り方ですが、できれば地区ごとにしておくと後でいろいろと作業がしやすくなりますので、大ざっぱでいいので地区ごとの割り当てを考えていきます。もしも収容者が多数になってくるようなら、空いている区画を割り当てるなど、別にゾーンを設定するとよいでしょう。また、各区画ごとに代表者を決めて貰い、その人が本部と避難者との間でいろいろな連絡用務を請け負ってもらうことになります。
一口に避難所と言っても、運営開始までには決めることがたくさんありますし、ここで上げたことが絶対とも思いません。避難所の数だけ事前に準備した方がいいことはあると思います。災害の時に決めたとおり運用できるとは限りませんが、いきなり本番で避難所を開設をしてもごたごたしてうまくいきませんので、できる限り事前にさまざまな段取りを詰めておくようにしましょう。

避難訓練と本番の違い

 避難訓練と本番では、やる内容が大きく異なるなと思うことがあります。
 避難訓練での子ども達への合い言葉は「お・は・し・も」で、これは「押さない」「走らない」「しゃべらない」「戻らない」の頭文字を取ったものです。
 でも、いざ本番の時にこれをこなしたらどうなるかというと、逃げ遅れたり周囲の人が気づかなかったりすることが起きるでしょう。
 災害時の避難は「身を守る」「急いで逃げる」「周りを巻き込む」「戻らない」が基本となると思います。まずは身を守り、そして安全な場所に逃げる、そのときにはできるだけ周りの人も避難するように声かけて巻き込み、避難した後は安全確認ができるまで絶対に戻らない。東日本大震災では、釜石の子ども達がこの行動をとり、多くの人たちを救うことができました。
 ではなぜ避難訓練では「お・は・し・も」になってしまうのでしょうか。
 これは訓練を実施する側の都合と、近所から紛らわしいという苦情が入るからではないかと思われます。
 訓練する側は、できるだけ統制のとれた避難をしたいと考えます。そのため走らせないししゃべらせないのだと思います。また、単独訓練で「津波だ、逃げろ!」と子ども達が騒ぐと、学校の周囲のお宅はパニックになってしまうかもしれません。いっそのこと、ご近所も巻き込んだ避難訓練を行えば実戦さながらの訓練になると思うのですが、なかなか準備が大変なようで、そこまでの訓練を大規模校でやっているところは少ないのではないかと思います。
 避難訓練というと、訓練のための訓練になってしまいがちです。できれば専門家を交えてより実戦的な訓練を行ったり、そこまではしないまでも、訓練の様子を見てもらって講評を受けるだけでも緊張感は変わると思います。もちろん当研究所でもそういった業務を行っていますので、お気軽に相談いただきたいと思いますが、せっかく避難訓練をするのですから、「問題なし」で終わるのではなく、小さな問題でもいいので見つけて改善していくようにしていければなと思っております。

災害時の子どもの安全

緊急時に子どもがどこへ避難するのか知っていますか?

 災害時には自分の身を守ることを最優先で行うことが大切だと思っているのですが、自分の身を守った後、あなたと家族はどのような行動をするのかを決めていますか。
 大人であれば、とりあえずは安全な場所に移動するというところでしょうが、学校や保育園、幼稚園に通っている子ども達の場合、それぞれの施設がどういう判断でどんな行動をとるのか、きちんと把握していますか。
 学校や保育園、幼稚園などの教育機関の場合、子ども達は教師や保育士といった大人の指示に従って行動することになりますが、子ども達が何が起きたらどこにいるのか、どこへ避難するのかについて、きちんと教育機関側に確認が取れていますか。災害が発生したとき、または発生が予測されるときには、原則として教育機関まで保護者が迎えに行くということになっているところが殆どだと思いますが、どんな状況なら保護者に引き渡しがされて、どんな状況なら引き渡しを中止するのかについて、きちんと把握していますか。
 というのも、学校やこどもたちが無事であっても、お迎えに行った保護者がその途中で被災する可能性が非常に高いからです。東日本大震災では、災害時には保護者に子どもを引き渡すという取り決めに固執してしまったため、お迎えに向かう途中で被災したり、お迎え後の避難中に被災した方もいらっしゃったようです。
 災害時に教育機関から保護者に子どもを引き渡すことができるのは、状況が落ち着いて安全に引き渡しが可能な状態がそろっている必要があります。逆に、そろっていない状態では引き渡しはせず、学校で安全を確保する必要があるのだと思います。
 むろん、先生方に全ての責任を取れというわけではありません。災害時の避難や引き渡しについてきちんと保護者との間で取り決めをしておくことが大切だということが言いたいのです。保護者が同意するなら、自分で判断できる年齢の子ども達であれば、災害時の避難について自主的に行わせるというのも選択肢としてはありだと思っています。危険から逃げるという能力については、ひょっとしたら大人よりも子どもの方が優れているのではないかと思うこともあるからです。
 子どもが自分のいる場所で状況が落ち着くまできちんと命を守ることができること。そして子どもが自分の命を守っていることを信じることで、保護者もまた自分の安全を確保することができます。
 これこそが「津波てんでんこ」なのではないでしょうか。
 自分の身の安全というのは、結局のところ自分にしか守ることができないのですが、災害時に教育機関として集団行動をするのであれば、先生方が日々の災害対策についてきちんと学習し、訓練や教育を継続して行っていく必要があります。でも、それがきちんとできているでしょうか。
 「釜石の奇跡」は防災教育を受けた中学生達の自主的な行動の結果でした。あなたがお住まいの地域の子ども達の災害対策はきちんとできていますか。
 そして、あなたの子どもは、災害後にどこであなたを待っていますか。

消火器の使い方を知ろう

 昨日は「災害時には早めに手を打つ」という内容を書きましたが、その中で、かなり重要な位置を占めているのが初期消火です。
 今回は消火器の使い方と、消火器を使った消火の方法について少しだけ書きたいと思っています。
 あなたは消火器を使ったことがありますか。本番でなくても構いません。例えば職場や地域、あるいはお祭りなどに出店している消防署や消防団のブースなどで消火器の操作体験をしたことがあれば大丈夫です。というのが、消火器は構造は簡単なのですが、使用するための手順を知って、実際にやっていないと、本番で使えないという状態が起こりうるからです。

(1)消火器を持ってくるまでの手順

 さて、消火器を持ってくる手順として、次の順番になります。
 まず火を見たら、大きな声で「火事だ」と叫びます。周囲の人に火事であることを知らせると同時に、自分や周囲に状況を確認させる意味もあります。
 次に消火器を取りに行きます。消火器が普段どこに置いてあるのかをしっかりと把握しておかないと、消火器を探してうろうろする羽目になります。
 最後に、消火器を持って火元へ移動します。このとき、消火器はハンドルの下を持って移動してください。消火器を抱っこして移動すると、転んだときに大けがをします。そして、消火器をもって火元に来たら、次は消火器を使って火を消しますが、消火作業に入る前に自分の退路が確保されていることをしっかりと確認してください。目の前の火だけに気を取られてはいけません。

(2)消火器の使い方

1.まずは上部の黄色いピンを抜きます。これが安全装置ですので、ここを外さない限りは消火液は出ません。
2.ホースを留め具から外してノズルを火元に向けます。このとき、できるだけ火の根元を狙っておきます。
3.噴射装置を握り、火に向けて消化剤を吹きかけます。通常、およそ15秒程度で空になります。
4.火の周りを移動しながら、火元の根元にしっかりと消火液がかかるように撒きます。

(3)消火器の使える範囲

 通常置いてある消火器で消せる火の大きさは、およそ目の高さくらいまでだそうです。少し前までは天井に届いたらあきらめて避難という指導がされていたのですが、天井に燃え移ると火の周りが格段に早くなってしまうことから、現在は目の高さという指導をされているところが多いようです。

 初期消火がうまくいけば、さまざまな人が助かります。もしもやったことが無い方は、是非一度消火体験をしてみてください。
 また、職場や学校、地域などでも人数と日程があえば、消防署や消防団の方が来て指導もしてもらえますので、防災訓練の際には、ぜひ初期消火を取り入れるようにしてください。

訓練用の水消火器。使い方は普通の消火器と同じ。


 最後に、いくら消火器を使いこなせるようになっても、肝心の火元に消火器がないのでは何にもなりません。万が一に備えて、家庭にせめて1台は消火器を備えるようにしましょう。
 消火器の使い方や詳しい手順などは、以下のリンク先を確認していただければと思います。

消防防災博物館・消火器の使い方

災害対策は「早く手を打つこと」が基本です。

 災害対策は、何事も「早く手を打つこと」が基本です。災害が発生してから起こるさまざまな問題は、時間が経っていくとどんどん増えていきます。
 ですが、問題が発生した時点、もっと言えば問題が発生する前に対処しておけば、問題を一つ消すことができてそれに投入しなくてはならない力を他のことに振り分けることができます。
 例えば、大地震が起きたと想定します。そこで発生するのは倒壊した家屋、多くのけが人、火災で、これらに対応するのは全て消防となります。地域の消防力はそんなに多くありませんから、これに全部対応しようとすると手が回らずに全てを中途半端にするか、または心を鬼にして最優先事項以外の全てを切り捨てるかということになるでしょう。現に阪神淡路大震災では、消防力の不足からそのような事態になりました。
 でも、全ての家屋が耐震補強され倒壊しなければ、また、家具の固定やガラスの飛散防止などの対策がしてあれば、緊急に救助を要する人の数は格段に減らすことができますし、各家庭に消火器が備えてあってそれをきちんと使うことができていれば、発生する火災の件数もぐっと減らせるはずです。そうなれば、消防はそれでも必要とされる怪我や火災にのみ対応すればよくなりますから、誰も何もしていない状態よりもずっと手早く確実に仕事をこなせます。
 病院などで問題になるのは電気と水ですが、例えば水は井戸からくみ上げて浄水できるようにしておき、電気は自家発電機だけでなく、太陽光発電システムや蓄電池などを併用することで、電気や水がないことにより起きうる病院の受け入れ中止を防ぐことができます。電気や水の復旧は年々遅れる傾向にありますから、場合によっては普段から敷地内で発電したものを使うようにしてもいいのかもしれません。
 また、普通の人たちも家庭や職場、学校に非常用持ち出し袋が置いてあれば、それをもって避難すればいいので、当座の水や食料、衣類やトイレなどの心配はしなくてもすみますし、さまざまなものを持っている人と持っていない人の間で発生するであろういざこざも防ぐことが可能です。
 こんな風に、起きる前に手を打っておくことで、そこから発生するであろうさまざまなリスクを消滅あるいは軽減することが可能になり、発生するさまざまな問題を少なくすることが可能になります。
 ここまでお話ししてきたのは事前準備になりますが、発災後に問題が起きたときも、放置せずすぐに対応できればそれ以上問題が大きくなりません。
 例えば、避難所のトイレが閉鎖前に使われてしまって汚物で汚染されていたとして、その場で掃除して消毒した上で閉鎖すれば、その後トイレが汚染源になって発生するさまざまな問題を防ぐことができます。照明についても、生活リズムが異なる人たちが一緒に生活すると明るい暗いというトラブルが必ず起きます。そのとき、それを放置せずに同じような就寝リズムの人たちで部屋や場所をまとめて照明を調整するようにすれば、そこから発生する睡眠不足やさまざまな病気、トラブルを避けることができるでしょう。
 災害に限らないことですが、問題を先送りすると大概の場合にはさらに問題が大きく深刻化するものです。物理的に解決できないことは仕方がありませんが、工夫ややり方で解決できることはその場で解決してしまうこと。そうすれば、その先に広がるさまざまな問題の発生を防ぐことができます。それに対処するため、予測できることをあらかじめ準備しておくのが「BCP」といわれる「事業継続化計画」で、これがあるのとないのでは災害が発生した後の対応が驚くほど違います。
 作るのは事業に限りません。家庭でも、学校でも、あなた自身でも、自分が被災してから復旧するまでの計画を一度きちんと作ってみてください。そうすることで、本当に災害が起きたとき、驚くほど早く日常を取り戻すことができると思いますよ。

階段を使っていますか

 あなたがお住まいのところや通勤、通学をしている先、遊びにいくところなど、ある程度の高層階になるとエレベーターやエスカレーターがあり、多くの人はそれを利用すると思うのですが、それらの施設の階段の位置を、自信をもってわかりますと言える方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
 また、行き先が階段しか無い施設だとして、いざというときに普段使っている階段以外の階段がどこにあってどこに通じているのかをきちんと把握していますか。
 災害時に避難で使うのは基本的に階段になりますが、階段の場所を知っていないと途方に暮れることになります。よくあるのが、商業施設や病院などで職員以外は全てエレベーターやエスカレーターしか使えないようになっているもの。非常灯の誘導に従えばちゃんと非常階段にたどり着けるようにはなっているはずですが、普段から階段を意識していないと、エレベーターだけの施設だと閉じ込められたと感じるでしょうし、止まっているエスカレーターに人が押し寄せると、群衆雪崩や、最悪の場合エスカレーターが外れて落下することも考えられます。
 よくいくところ、よく使う施設であるなら、たまにでいいので階段の位置や、できれば階段を使って移動してみてください。そうすると、いざというときに階段で逃げるという選択肢が思い浮かぶと思います。
 人の心理として、非常時になるほど知っているところを使おうとするものです。よほど場数を踏んでいるか、冷静な方でも無い限り、混乱している中で使ったことの無い非常階段を使おうとは思わないのではないでしょうか。また、階段しか移動手段のない施設の場合、普段自分が使わない階段を意識して使うようにしてください。そうすることで、混乱の中でも自分の持つ選択肢が増えて助かる確率が上がります。
そうでなくても、地震発生時にはエレベーターでは閉じ込められる可能性が、エスカレーターでは緊急停止による将棋倒しが起きる可能性が高いです。
 よく「健康と省エネのために階段を利用しよう」と言われますが、いざというときに自分の身を守るためにも、普段から階段の位置を意識して、できれば使っていきたいですね。

扉の前にものを置かない

 火災などで防火シャッターが降りた後、逃げ遅れた人や消火活動をする人のために非常用扉がもうけられています。「扉の前にものを置かない」というのは消防法でも決められていることなのですが、過去にはこの非常用扉の可動範囲にものがあって扉を動かすことができず惨事を招いた火災がたくさんあった結果です。
 防災上も、扉の周囲にものを置かないというのは鉄則なのですが、職場ではともかく、家の中では意外とそれに気づいていない人が多いことに驚かされることがあります。家庭で押したり引いたりして開けるタイプの扉では、その可動範囲及びその周辺に倒れたり崩れたりして扉の開閉を妨げるようなものは絶対に置いてはいけません。引き戸であっても、引き戸にもたれてしまうようなものを周囲においてはいけません。
 「扉の前にものを置かない」と聞くと、扉の前にものがなければいいのかと考えてしまいがちですが、扉の開閉を邪魔しないために行う作業ですからそこを意識してものの配置をしないといけないでしょう。扉の開閉はもちろんですが、扉の周囲にものがないことで、足下の安全がしっかりと確保されます。そうすると、扉を超えても足下の心配をしなくていいわけで避難の速度が上がることは間違いありません。職場では、普通の扉と非常扉を、家庭では部屋や廊下を行き来する扉や玄関を、それぞれチェックしてみてください。もしもそこに何か置いてあったとしたら、すぐに撤去して出入りをふさぐことのないようにしておいてくださいね。

 ちなみに、上記の写真はとあるオフィスの非常扉です。
 扉の可動域は確保されており、通り道も取られているのですが、折りたたみ式コンテナが大量に積まれていたり、台車が何台かまとめて置かれています。 地震や水害では、こういったものが崩れたり流されたりして扉の開閉を邪魔してしまうことが起きますので、少なくとも扉を構成しているポケット部分には何も置かないようにしたほうが安全です。
 「扉の前にものを置かない」だけでなく、「なぜ置いてはいけないのか」まで考えてもらえるといいなと思います。

経路のチェックと籠城計画

 あなたは普段自分が使っている通学路や通勤路が水没しそうな場所についてチェックしていますか。特にアンダーパスや低い土地を通る人は要注意です。最近の雨は短時間に集中して降ってくるため、側溝などの排水能力を超えて水没することが増えています。そのため、例えば避難勧告が出て学校や職場が閉鎖となり、家に帰ることになった時、気がついたら周辺が完全に水没して動きが取れなくなってしまうと言うことが起きることになります。

 本来なら、災害が発生する前に、例えば大雨特別警報が出たらそのまま学校や職場にいるのと、そこから家に帰ることのどちらが安全なのかをきちんと分析しておく必要があるのですが、現在は「災害=帰宅」となっていることが多く、当然学校も職場もそこで籠城するための準備も設備もありません。避難所に指定されているところでさえ、資材は備蓄基地から発災後に運んでくると言うような計画になっていて、そこには空間しかないという場合がほとんどです。災害が発生すると帰宅できなくなる事態が発生することも想定して、それぞれがある程度の備えをしておくことが必要ではないでしょうか。

 お互いがどこで安全を確保しているのかがわかれば、心配することもありませんし危険な中をお迎えに急ぐ必要もありません。

 これは学校や職場に限らず、例えばディサービスなどでも同じことで、そこにいるときに災害が発生した場合どうするのかについて、しっかりと取り決めておくことです。災害は待ってくれません。特に人を預かる場所については、しっかりとした取り決めをして、関係者に周知徹底しておく必要があると思います。

「やさしい日本語」はみんなにわかりやすい

 最近の災害報道では、以前のように難しい言葉や字幕を使わないことが増えています。特に危険が迫っているときには「今何が起きているのか?」と「どうすればいいのか」だけ伝われば行動にはうつしてもらえます。それが目的です。また、文字が読めない人もいますので、アナウンサーがやはり同じ条件で、普段と異なり少しだけ感情を込めて「高いところへ逃げてください」などと具体的かつわかりやすく伝えています。
 では災害後はどうかというと、行政から発信される情報は、残念ながら難しい言い回しでかかれていることが殆どで、日本語の理解が十分でない人には非常にわかりにくいものになっています。
 そのため、災害後には行政が発表する各種情報を「やさしい日本語」に置き換えて誰もが言いたいことがわかる作業をするボランティアが必要となってきます。
 特に外国から働きに来ている人は普段の生活で使っている日本語くらいしかわかりませんので、どうやって伝えるかを試行錯誤して文章にしていくことになります。ただ、行政の出す情報はとにかく量が多い上に提供から支援開始までの時間が非常に短いという問題があり、ボランティアもやさしい日本語にする書類を選んで訳している状態です。でも、普通に書かれた行政からのお知らせをわかりやすい日本語に直すことは、日本語の知識のある人であれば基本的には誰でもできると思います。小さなニュアンスの違いは発生するとしても基本的な情報が伝わるか伝わらないかは、その後の行動に大きく差が出てきますから、快適な生活をするためにもその場にいる人たちがその処理ができるといいなぁと考えます。
 やさしい日本語は、いかに短いフレーズでいかに簡単にわかりやすく伝えるかを目的にしていますので、例えば避難所などではお年寄りと子どもが一緒になってこういう翻訳作業をすれば、言い回しや書き方など、ちょうどいい頭の体操になるのではないでしょうか。
 また、やさしい日本語は文字も大きく書くため、老眼にもやさしく、年寄りにも読み取れる程度の情報量です。
 誰にとってもメリットのある「やさしい日本語」。
 いざというときに備えて、日頃見ている文章を「やさしい日本語」にするとどういうフレーズになるのかを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
 島根国際センター発行の「やさしい日本語」のテキストをリンクしておきますので、興味のある方は是非ご一読ください。