多目的ってなんだろう

 最近あちこちで目にする「多目的」な設備。
 有名なところでは「多目的トイレ」があります。
 本来は障害のある方も障害のない方も、男性も女性も誰でも使えるトイレという意味なのですが、多目的の意味をはき違えている人もいていろいろと困ったことが起きたりもしています。
 それはともかく、災害が起きて避難所が設置されると、やたらと多目的を主張する設備が増えてくるのが困りものです。
 食堂兼交流スペースくらいなら全然問題ないのですが、よくあるのが、授乳室とおむつ交換室、それに更衣室が兼ねられているもの。
 時間がかかるものがセットにされていると、いつでも何かで使用中になって、他の目的で使いたい人が困ることになってしまいます。
 優先順位をつけるといっても、授乳とおむつ交換と着替えの優先順位をどうやってつければいいのか、また、優先する事態で待っている場合には入っている人を追い出すのかなど、多目的であるか故の問題が発生するのです。

パーテーションで仕切ってでも単独機能の方が使いやすい

 利用目的のはっきりしているものや利用者が多いものは多目的にするべきではありません。
 目的ごとに部屋を仕切って、その目的のみに利用すること。
 そうすることで、同じ目的の利用者が複数同時に使えたり、違う目的の人から文句が出たりすることもありません。
 多目的で問題ないのはトイレだけ。
 避難所の設計時にこのことを頭の中においておくとよいと思います。

避難所は健常者しか避難できない

 大規模災害が長期化すると、避難のための場所が生活のための場所に変わります。
 そういった避難所でよく観察してみると、避難している方がほぼ健常者だということに気付くと思います。
 妊産婦や赤ちゃん連れ、身体やこころに病気を持っている人を見かけることはほとんどないと思います。
 避難所で過ごす人達は、災害前の生活と比すと自分の思ったようにならないことから大なれ小なれこころに不満や不安を持っています。
 それが自分の常識の外の事態に出会うと、その対象者に対して言葉や物理的な暴力が振るわれ、危険を感じた人は避難所から退去することになります。
 例えば、乳児は泣くことでしか自分の意思を伝えることができません。おなかが空いたり、おむつが濡れているだけでなく、不安を感じたときにも大声で泣くのです。
 その泣き声は、普段鳴き声に接することのない人の耳にはものすごく耳障りに聞こえ、なかでも不満や不安を押し殺しているような人にとっては格好の攻撃材料になってしまいます。そしてそれが続くと、乳児を持つ親は危険を感じて退去することになり、それが続く結果、避難所は健常者だけになってしまうのです。
 同じ事が障害をもつ方にも言えます。結果として、本来は避難が必要な人が避難所を追い出され、避難しなくても生活できる人が避難所を占拠するという困った状態になるのです。
 現在避難レベル3で高齢者や障害者、乳幼児などを持つ親は避難するようになっていますが、そういった人達は避難準備を始めてから避難ができるようになるまでに時間がかかります。
 そして避難所に避難したときには健常者で溢れていて入れないということもよく起きます。
 そのため現在福祉避難所を避難所開設と同時に設置して支援が必要な避難者を専門に受け入れるような整備が進められているのです。
 地方自治体の中には、この福祉避難所の設置が地域に混乱をもたらすと消極的だと聞きますが、役割をしっかりと決めて説明しておくことで、無用な混乱が起きることは防げると思うのですが、あなたはどう考えますか?

トイレットペーパーの誤解

 災害時に使用する仮設トイレでは、トイレットペーパーは便器に流さずに別に用意されたゴミ袋にいれるようになっている場合があります。
 猫砂や吸水材を使った非常用のものならともかく、それなりにしっかりしているように見える仮設トイレにそのような取扱があるというのは納得いかない方も多いようなのですが、これはトイレットペーパーに対する誤解があるからなのかなと感じています。
 実は、トイレットペーパーは水に溶けてなくなるわけではありません。
 試しに、トイレットペーパーをちぎって平たい皿の上で水をかけ、指でかき混ぜてみてください。
 トイレットペーパーの原型はなくなっても、かき混ぜている指には紙だったものが絡みついてくると思います。
 トイレットペーパーに使っている紙は、繊維が水でほどけやすいようにして作ってあるため、水で溶けているようにみえているだけなのです。
 つまり、充分な水量が確保できなければほどけきらずに塊が残り、それが続くと塊のかたまりができて詰まってしまう事態になります。
 また、拭くときにはちぎったままではなく、ある程度厚さのある塊にして使うと思うのですが、塊になれば水の中でほどけにくくなりますから、ちぎったままの状態に比べると詰まりやすくなってしまうのです。
 もちろんティッシュペーパーに比べれば格段に水に流れやすいのですが、災害時、すぐに修理ができないような状況で、流せる水に限度のある仮設トイレとなると、万が一を考えると紙を流さずにゴミとして処分する選択をしなければならないのです。
 災害時、生命線とも言えるトイレを守るためにも、トイレの水が確保できるまでは指示に従い、トイレットペーパーは便器に流さないようにしてください。

充電器を持って歩く

 充電器、といっても大型のものではなく、ここでは携帯電話やスマートフォンに充電できるだけの容量のある、持ち歩きのできる充電池のことです。
 普段から使い慣れているアイテムは、災害時でも当然活用されるのですが、その中でも携帯電話やスマートフォンは情報収集や情報交換、暇つぶしにと大活躍します。
 ただ、案外と見落とされがちなのは電池の消耗。当たり前のことですが、使えば使うほど電池は消耗しますが、避難所では充電できる設備はないと思ってください。
 一時避難所にあるコンセントで、たまに自分のスマートフォンを充電している人がいますが、その行為は盗電ですのであまりひどいようだとその施設から追い出されたり、場合によっては逮捕されてしまうこともありえます。
 充電池を持っておくことで、少なくとも1回~2回は携帯電話やスマートフォンの充電ができるはずですから、そちらで対応するようにしましょう。
 携帯電話やスマートフォンの電池の問題は結構切実で、ちょっとした災害時でも避難所の電源が充電器で埋まっているような状態になります。
 携帯電話の会社が開設する臨時充電施設が設置されても、充電時間は15分~1時間程度しかもらえませんが、充電池を充電するためのソーラーパネルなどを持っていれば、電源の問題を自己解決できます。
 多くの人の生活から切っても切り離せない携帯電話やスマートフォン。災害発生時に電池の消耗を防ぐことはもちろん、自力で電源を維持できるようにしておきたいですね。

【終了しました】防災安全講演会が開催されます

 令和3年11月30日の13時30分から、大田市のあすてらすで島根県の主催する防災安全講演会が開催されます。
 講師は国崎信江氏で、演題は「災害時の避難所をめぐる課題について~女性・子どもの視点から~」。
 他に事例発表としてしまね女性センター小川洋子氏による「島根県の防災における女性参画の現状」があります。
 お申し込みやや詳しいことにつきましては、リンク先をご確認ください。

令和3年度防災安全講演会(島根県のウェブサイトへ移動します)

公衆電話の位置を知っていますか

 携帯電話(スマートフォン含む)は、恐らくあなたも含めて多くの人が持っていると思います。
 では、あなたの身の回りでどこに公衆電話があるか思い出せるでしょうか。
 また、公衆電話の使い方はご存じですか。
 災害などで停電が長引くと、携帯電話の電波の中継を行っている携帯基地局の電源が喪失され、携帯電話がつながらなくなります。
 携帯電話の普及で殆ど姿を見なくなってしまった公衆電話ですが、災害発生時には有線回線のため、基地局の状況に関係なく電話をかけることが可能です。
 また、公衆電話は大災害などで一度に大量の通信がある地域に集中したときに行われる通信規制の対象になりにくい特徴も持っています。
 いざというときに非常に頼りになる存在ではあるのですが、携帯電話の普及で公衆電話を使う人が激減したため、災害対策用に置かれているものを除いて、殆ど見かけることがなくなってしまいました。
 とはいえ、大規模災害時の携帯基地局の復旧にはある程度の時間がかかりますから、公衆電話というのはそういったときに自分の状況を被災地外へ伝えることのできる有力な手段となります。
 NTT西日本では、お住まいの地域の公衆電話の設置場所を地図にしたものを公開しています。
 あなたが作る防災マップやご自身の防災計画の中で、いざというときに備えてお近くの公衆電話の位置も把握しておくと便利です。
 そして、10円硬貨と公衆電話の使い方も身につけておくと、いざというときに困らなくて済むと思います。

公衆電話設置場所検索(NTT西日本管内)(NTT西日本のウェブサイトへ移動します)

公衆電話設置場所検索(NTT東日本管内)(NTT東日本のウェブサイトへ移動します)

ペットと避難

 災害が起きるたびに問題になっているのがペットのことです。
 ペットがいるから避難しない、というケースはさすがに減ってきていると思いたいのですが、同行避難で一緒に普通の避難所に避難してくると、その場でトラブルが起きることがあります。
 例えば、吠える、騒ぐ、かみつくといったよくあるものから、動物アレルギーを持っている人がアレルギー反応を起こしたり、ペットの糞尿問題、えさや水、そもそもペットを見たくない人まで、人間同士以上にいろいろな問題が発生してきます。
 大規模な避難所になればなるほどトラブルになるものなので、本来は平時に解決しておかないといけない内容の問題ではあるのですが、まだまだ真剣に考えられていないというのが実情のようです。
 地域によっては、ペット付きの避難所とペットお断りの避難所にわけて指定したりもしているようですが、現状ではペットを区分けした場所で留置する程度の内容しか決まっていないようです。
 一つ言えるのは、災害からの避難ではペットのことは100%飼い主が対応しなくてはいけないということです、吠えたり騒いだりしている場合には、飼い主はそれに対処する義務がありましし、トイレやえさの問題も同じ。避難所運営側で準備する性格のものではありません。
 誤解を受けていることが多いのかもしれませんが、ペット同行避難が原則とされた理由は、あくまでも「ペットを理由にして避難しない人を出さない」ための措置であり、「ペットの命も積極的に守る」というようなものではありません。
 ペットのことは飼い主がきちんと世話しないといけませんし、できないのならそもそも飼ってはいけません。

ケージに入るサイズのペットはケージ内に置くのが基本。


 実は筆者の家でもかつて猫を飼っていたのですが、避難の際には猫は家に置いていくことを決めていました。2階建ての家でしたので、2階にえさや水、トイレを数日分準備して避難行動をとることで、ペットの命を守ることができますし、避難所でも迷惑をかけることはありません。
 幸いハザードマップでは最悪のケースでも二階までは浸からないという想定になっていましたのでこういう方法が採れましたが、そうでなければどうしただろうかと今でも考えることがあります。
 事前準備だけで100%なんとかなるわけではありませんが、ペットをどうやって避難させるのか、どこへ避難させるのかについて、飼い主は飼う前から真剣に考えておく必要があると思います。

社会福祉施設と福祉避難所

 保育園や介護施設などの社会福祉施設では、非常事態に備えた事業継続化計画、いわゆるBCPを持っていると思いますが、そのBCPでは多くの場合、災害発生時の利用者や職員の安全確保については考えられていても、施設の復旧や早期利用開始についてまでは定義されていないことも多いのではないでしょうか。
 令和3年5月に災害対策基本法が改正され、社会福祉施設をあらかじめ福祉避難所として指定し、事前に指定している被災した要配慮者及びその家族を最初から避難者として受け入れられるようにすることができるようになりました。

 これにより、普段利用している要配慮者の心身両面の安全安心が確保でき、安心して早めの避難をしてもらえるようになります。
 ただ、現時点ではなかなか及び腰になってしまっているのが実際のところではないでしょうか。
 今までは営業中の被災について考えておけばよかったのに、福祉避難所としての機能を持たせることになるとより細かな規定を作る必要があるからです。
 例えば、その社会福祉施設がどのような災害に弱いのかやどうなったら福祉避難所の設営を行うのか、職員の確保はどうするのか、施設の復旧と要配慮者の避難受け入れの両立ができるのかなど、さまざまな問題が発生します。
 また、今まで以上に職員やその家族のBCPまで考えてもらわないといけませんから、手間と時間を考えるとどうしても二の次になってしまいます。
 BCPの修正期限まで3年間の猶予はありますが、その間に個別避難計画を策定し、避難所運営計画を作り、事業の復旧や支援受け入れ体制、他の社会福祉施設との応援協定や定期的な訓練など、やらないといけないことはてんこ盛りです。
 元々現在の社会情勢から考えて、社会福祉施設が機能を再開しないと社会全体の復旧が進まないという現実がありますから、営業を止めないことや要配慮者を受け入れることのできる環境を作っておくことは必然です。
 厚生労働省や内閣府防災担当が社会福祉施設に関するガイドラインを作っていますので、とりあえずはそれに当てはめてBCPを作成し、その上で問題点を見つけていくことになると思います。
 全ての社会福祉施設が服し避難所になれる要件を満たしているわけではないと思いますが、あなたの社会福祉施設はどのような条件なら福祉避難所になれるのか、そして福祉避難所をどうやったら運営できるのかについて、市町村などの行政機関から相談がある前に、準備を始めておいた方がよさそうです。

福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改定)(内閣府防災担当のサイトへ移動します)

避難所のトイレ事情

携帯トイレ各種

 家屋被災等で避難所生活をしなければならなくなったとき、最初に問題になるのがトイレです。
 水道が止まっていると下水道や水洗トイレは使用できなくなりますから、避難所になる施設では、まずはトイレを閉鎖することになります。
 くみ取り式や簡易水洗トイレであるならくみ置きの水でなんとかなりますが、通常の水洗トイレの場合、最低でも1回に15リットル以上の水を流さないと詰まってしまいますので、避難所を汚染しないためにも可能な限り早くトイレを閉鎖する必要があるのです。
 避難所では避難者数にあわせて仮設トイレを設置する必要があるのですが、業者から仮設トイレが届くまでの間をどうするのかという問題が残ります。
 段ボールトイレや簡易トイレなどが準備してあればいいのですが、そうでない場合には悲惨な状況になってしまいます。


 避難所が予定されている施設では簡易トイレを備えておいた方がいいでしょうし、避難するあなたも携帯トイレや動物用シートなどを準備しておいた方が安心です。
 また、簡易トイレでは洋式トイレが多いのですが、仮設トイレはほとんどが和式です。そのため、しゃがめないお年寄りや和式トイレを使ったことのない人は非常に困ったことになってしまいます。本当は避難所として使われる施設はトイレの一部だけでも簡易水洗式を採用しておくと安心なのですが、下水道が普及してしまっている地域ではそれも難しいようです。
 あなたの避難する予定の避難所のトイレ事情はしっかりと確認して、無用なトラブルが起きないようにしたいものですね。

避難所には何があるか知ってますか

大抵の体育館は場所は広いが何も無い。

 防災センターや備蓄倉庫など、普段から災害対策をしている場所が避難所になる場合を除いて、多くの場合、避難者に対して支給されるものは殆どないといっていいと思います。
 小規模な避難所であれば、それなりの備蓄がある場合もありますが、大規模で通常は体育館や学校として使われている場所の場合、備蓄は期待できないと考えて下さい。
 では、備蓄がある場合にはどのようなものがあるのでしょうか。
 一概には言えませんが、毛布や間仕切り、テントなどは置いてあることも多いと思います。場合によっては段ボールベッドやコッドといった簡易的な就寝用ベッドや敷物用の段ボールが提供されるかもしれません。


 ここで気がついた人もいるかもしれませんが、施設での備蓄品というのは、基本は腐らずに食べたり飲んだりしないものです。
 つまり、自分の命を繋ぎたければ自分の食べる食べ物や飲み物を準備しておかないといけないということなのです。
 最近多い大雨や台風による水害や土砂災害の場合には、避難者に非常食や飲料が提供されることもあるのですが、これはあくまでも被害がまだ起きていない、あるいは限定的で被災区域以外は通常どおりと言った場合に提供が可能なもので、大規模な地震や風水害では物流ルートが寸断されてしまうので、食べ物や飲み物は届かないと覚悟しておいたほうがあきらめがつきます。
 多くの自治体や自治会では、本番環境と同じ状態での避難所設営訓練や避難所運営訓練はあまりされません。かなり大規模にはなりますが、一度避難から避難所に一晩泊まってみると、どのような問題が生じてどういう風に解決すれば良いのかが蓄積できます。
 又、運用側もぶっつけ本番で資機材を使わなくても済むので気分的にもいいと思います。
「避難所には何も無い」
 そういう最悪の状況を前提にしてあなたの避難用アイテムを考えて準備しておくと安心です。