扉の前にものを置かない

 火災などで防火シャッターが降りた後、逃げ遅れた人や消火活動をする人のために非常用扉がもうけられています。「扉の前にものを置かない」というのは消防法でも決められていることなのですが、過去にはこの非常用扉の可動範囲にものがあって扉を動かすことができず惨事を招いた火災がたくさんあった結果です。
 防災上も、扉の周囲にものを置かないというのは鉄則なのですが、職場ではともかく、家の中では意外とそれに気づいていない人が多いことに驚かされることがあります。家庭で押したり引いたりして開けるタイプの扉では、その可動範囲及びその周辺に倒れたり崩れたりして扉の開閉を妨げるようなものは絶対に置いてはいけません。引き戸であっても、引き戸にもたれてしまうようなものを周囲においてはいけません。
 「扉の前にものを置かない」と聞くと、扉の前にものがなければいいのかと考えてしまいがちですが、扉の開閉を邪魔しないために行う作業ですからそこを意識してものの配置をしないといけないでしょう。扉の開閉はもちろんですが、扉の周囲にものがないことで、足下の安全がしっかりと確保されます。そうすると、扉を超えても足下の心配をしなくていいわけで避難の速度が上がることは間違いありません。職場では、普通の扉と非常扉を、家庭では部屋や廊下を行き来する扉や玄関を、それぞれチェックしてみてください。もしもそこに何か置いてあったとしたら、すぐに撤去して出入りをふさぐことのないようにしておいてくださいね。

 ちなみに、上記の写真はとあるオフィスの非常扉です。
 扉の可動域は確保されており、通り道も取られているのですが、折りたたみ式コンテナが大量に積まれていたり、台車が何台かまとめて置かれています。 地震や水害では、こういったものが崩れたり流されたりして扉の開閉を邪魔してしまうことが起きますので、少なくとも扉を構成しているポケット部分には何も置かないようにしたほうが安全です。
 「扉の前にものを置かない」だけでなく、「なぜ置いてはいけないのか」まで考えてもらえるといいなと思います。

経路のチェックと籠城計画

 あなたは普段自分が使っている通学路や通勤路が水没しそうな場所についてチェックしていますか。特にアンダーパスや低い土地を通る人は要注意です。最近の雨は短時間に集中して降ってくるため、側溝などの排水能力を超えて水没することが増えています。そのため、例えば避難勧告が出て学校や職場が閉鎖となり、家に帰ることになった時、気がついたら周辺が完全に水没して動きが取れなくなってしまうと言うことが起きることになります。

 本来なら、災害が発生する前に、例えば大雨特別警報が出たらそのまま学校や職場にいるのと、そこから家に帰ることのどちらが安全なのかをきちんと分析しておく必要があるのですが、現在は「災害=帰宅」となっていることが多く、当然学校も職場もそこで籠城するための準備も設備もありません。避難所に指定されているところでさえ、資材は備蓄基地から発災後に運んでくると言うような計画になっていて、そこには空間しかないという場合がほとんどです。災害が発生すると帰宅できなくなる事態が発生することも想定して、それぞれがある程度の備えをしておくことが必要ではないでしょうか。

 お互いがどこで安全を確保しているのかがわかれば、心配することもありませんし危険な中をお迎えに急ぐ必要もありません。

 これは学校や職場に限らず、例えばディサービスなどでも同じことで、そこにいるときに災害が発生した場合どうするのかについて、しっかりと取り決めておくことです。災害は待ってくれません。特に人を預かる場所については、しっかりとした取り決めをして、関係者に周知徹底しておく必要があると思います。

指示待ちでは助からない

 災害発生時において最も重要なのは、自分で安全を判断できることです。
 ですが、この国に住んでいる多くの人は誰かの指示を待っている状態。例えば、行政の避難情報や消防団の巡回、テレビやラジオからの避難の呼びかけなど、誰かからの指示があって始めて避難するということが多いなと感じます。別に指示待ちは本人が決めたことなのでどうでもいいのですが、その結果としてその判断をした「自分以外の誰かが悪い」という状況を作り出してしまいます。
 結果的に避難が必要なかったような事例であれば、「あいつが逃げろと言ったから逃げたのに無駄な時間を使わせやがって」と文句の一つもいうようになり、その発言を聞いた人は、絶対に一緒に避難するもんかとと思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも、私は誘う気にはなりません。隣近所のつきあいがあって、避難しなければ死んでしまうだろうなと思ったとしても、です。
 確かに、災害で避難するか否かを判断するためにはいろいろな知識を取得して、判断するための情報に意識を向けておかなければなりません。それが面倒だという人もいらっしゃるでしょう。ただ、自分の命を自分以外の誰かの判断にゆだねると言うことは、もしもその判断が間違っていたときに、自分が死ぬことになってしまいます。また、みんなでどうしようと考えているうちに被災してしまう可能性もあります。
 避難するタイミングは人それぞれです。10人いれば10通りの判断基準があるわけなので、自分で自分の判断基準を定めて逃げ方なども決めておきたいですね。
「自分の命は自分で守る」
 こと災害に関しては、まずは自分の安全の確保が第一になります。こういったことを書くといろいろと言われてしまうのですが、自分が安全でなければ人の救助などできるわけがありません。
 繰り返しになりますが、指示待ちではなく、自分の命は自分で守ることを基本にして、ご自身の防災計画を策定していただければなと思っています。

身を守る努力とはなにか

 災害時にしないといけないことと言うといろいろありますが、あなたは最初に何をすべきだと思いますか。いろいろな考え方がありますが、まずは身を守って自分の命を守ること。これが第一なのではないでしょうか。
 避難訓練というと、大前提になるのは自分が五体満足で無事でいるということなのですが、これは自分の命を守れて始めて訓練になるものです。こけたり倒れたり何かの下敷きになったりして怪我をしたり動けなくなったり、最悪の場合は死んでしまうかもしれません。地震では「シェイクアウト」や「ダンゴムシのポーズ」が有名ですが、他の災害でも、まずは自分の命を守ることを最優先に考えます。
 命を守るにはどうすればいいか。水害や津波でも、自分の命を守るための行動についてしっかりと考え、いざ本番の時にきちんと動けるようにしておかなければなりません。普段から自分を守るためにはどうすればいいかを、頭のどこかで考える癖をつけてください。最初はくたびれますが、慣れてくると安全な場所が目につくようになってきます。最終的には無意識のうちにそういった安全な場所を選んでいるようになりますので、頭上、足下、周囲に怪我をしそうなものがないかどうか意識的に確認するようにしましょう。
 そして、避難する判断を他人にゆだねないこと。避難はあくまでも自分が行うものです。自分の心身の条件や移動する時間、受け入れてくれそうな場所の選定などを考慮してどこへいつどうやって逃げるのかを決めておきます。必ずしもその判断に従わないといけないわけではありませんが、自分が準備した避難基準がなぜそうなったのかについてはしっかりと考え、自分で納得しておいてください。また、実際に動いてみるといろいろなことがわかります。とても逃げられない場所であったり、あえて避難の必要が無かったりというような状態は、実際に歩いてみないとわからないものです。
 自分の身を守るということは、そんなに大上段に構えるものではなく、毎日のちょっとした積み重ねが結果的に身を守ってくれることにつながるのだと思います。ちいさなことですが普段から準備をしておくことです。

非常用持ち出し袋も衣替えを忘れずに

 急激に寒くなってきましたが、あなたは風邪など引いていませんでしょうか?
 使っている服たちは、すでに冬物に変わっていると思いますが、非常用持ち出し袋や非常用備蓄品に入れられている下着や衣服たちもきちんと確認していますか。
 非常用持ち出し袋の中にある非常食や水の賞味期限は割と気をつけている人が多いのですが、服関係については案外と無頓着な方が多いような気がします。
 非常食や水の点検、あるいは衣替えに合わせて、非常用持ち出し袋の中の下着の確認と、服の入れ替えをしておきましょう。また、子どもさんがいるおうちではセットされている服が子どもたちに着られるかどうかの確認も必要です。
せっかく準備している非常用持ち出し袋なのですから、非常時にしっかりと役に立つように、食べ物や電池類だけでなく、衣類や小物についても確認をしておいてくださいね。

ラジオの準備をしておこう

 災害時にもっとも頼りになるのは、個人的にはラジオだと思っています。
 携帯タイプのラジオであれば、非常用持ち出し袋に入れていても、普段使いでもさほど邪魔にはなりませんし、地震や何かが起きたときでも避難しながらリアルタイムの情報を得ることができます。よく災害時にはラジオが一番と言われるのは、持ち運びが楽で場所も取らず、ある程度精度のある災害情報を確実に受け取ることができるからです。
 では、災害の時に頼りになるラジオというのはどのようなものなのでしょうか。ラジオに限らず、電化製品は電気を使うことが前提で作られていますので、乾電池や蓄電池の持ちがいいか、あるいは手回し式や太陽パネルをつけて自分で発電できるものが重宝されます。
 災害時には環境が極端に悪くなることも多いですので、防水防塵あたりの装備はあったほうが安心です。
 また、ラジオとしてはAM、FMの両方が拾えるタイプでないといけません。近距離であればFM波で充分ですが、大規模災害などの場合には、それなりの距離でも聞くことのできるAM波が入るラジオが有効です。
 よく災害用ということでライトやランタン、携帯電話の充電器や時計などがついていて多機能を謳っているものも多いのですが、ラジオの電池の出力がなければそれらの装備は充分に使えませんので、あまり多機能にしないほうが無難だと思います。また、手回し充電器でも機械によってずいぶんと効率が異なるので注意してください。一般的には、それなりの値段でよく売れているものだとそれなりの機能を有していると思っています。
 ラジオは非常用と言うことで、買ったらそのまま非常用持ち出し袋に詰めておしまいという人も多いと思いますが、使い方をしっかりと覚えておかないとあとで面倒なことになりますので、ラジオを買ったら、まずは使い方と電池交換の仕方、電池の規格と必要な本数を確認しておき、できればスペアを用意しておきましょう。
その上で、実際に電源を入れて、そのラジオが聞き取りやすいのか聞き取りにくいのか、チューナーは使いやすいか否か、もし発電機を搭載しているのであれば、その発電能力でどれくらいの間ラジオが聴けるのかも一つの基準となるでしょう。
 災害時には、ラジオは貴重な情報源となります。そのラジオがきちんと使えるように、しっかりと使い方を覚えておいて欲しいものです。

水を確保する

 防災グッズについては本当にさまざまなものがあり、何から揃えればいいのか非常に目移りします。ですが、どうしてもこれだけは準備しておいてほしいものを一つあげろと言われると、私は水をあげます。
 他のものは代用品がいろいろとあるのですが、こと水に関して言うと代用品がないのです。ついでに書くと、非常食は基本的に乾燥しているものが多いため、アルファ米のように戻すにしても、乾パンやクラッカーのようにそのまま食べられるものでも、どちらにしても水は必要となります。
 飲用だけではありません。けがをしたときの傷口の洗浄にも、手や顔を洗うのにも、調理、洗濯。掃除など、すべての生活の基礎に水が存在するのですが、この水を作り出そうとすると非常な困難が伴うのです。
 最近は高性能な浄水器がいろいろと登場していますが、マニュアルをよく読んでみると化学物質の濾過はできなかったり、泥水や海水が使えなかったり、いろいろと制限があります。
 水を作るのであれば、浄水器以外にも、濾過器や湯沸かしの蒸気を冷ましたり、夜露や雨を集めたりといろいろとやり方はありますが、どれも非効率的です。
 水道が破損して使えない場合には、井戸を頼るしかありませんが、使っていない井戸だと、水が痛んでいないか、汚染されていないかをしっかりと確認しておく必要があります。
 そんなこんなを考えていくと、結論として水は水のまま確保して保管しておくのが一番早いし手間もかからずコストも安いということがわかりました。
 宅配水のウォーターサーバーを使っているのなら、予備の水タンクを一つ準備しておくとか、2リットルのペットボトル6本組みを準備しておくとか、何らかの形で水を保存しておくといろいろと使えます。
 面倒くさければ水道水をペットボトルに詰めて密封すれば、数日は持たせることができますし、18リットル入りの灯油缶を水専用として準備しておくのもありでしょう。
 水道に関して言えば、被災してもすぐには止まらないことが多いですから、被災したときにいかに水をためておくかを考え、道具を準備しておくことも忘れないようにしたいですね。
 また、機会を作って、普段自分たちが一日にどれ位の水を使っているのかを調べてみるのもいいと思います。節水できるところはするとして、一日に必要な水の量を調べて、それを三日分準備しておけば、とりあえずはなんとかなります。日常生活で仕事や学校などにいるときには、さすがに大量の水を持ち歩くわけにはいかないと思いますが、200mlくらいでもいいので、いざというときに備えた飲用水を準備して持ち歩くようにしたいものです。


 普段どれ位水を使っているのかを知り、準備しておくことは自分の安心にもつながります。機会を作って、是非一度自分や家族の水の使用量と最低限必要な量を調べ、知っておくようにしてくださいね。

医療行為と常備薬

 大規模な災害が発生すると水が手に入りにくくなります。
 そのため、大量のきれいな水を必要とする医療行為は規模縮小や閉鎖を余儀なくされてしまうことがあり、例えば透析を受けている人などは透析が受けられなくて困ったことになり、命に関わる問題が起きますので、平常時にかかりつけのお医者様と非常時の対応についてきちんと詰めておくことをおすすめします。
 また、常備薬の必要な方もいますが、これも災害時にはなかなか手に入らないものになりますので、1週間分くらいは手元に置くことをかかりつけのお医者様に相談されておくといいと思います。災害後の支援物資として送られてくるものの中には薬もあるのですが、基本的には誰でも使えるようなものに限定されますし、特殊な薬や種類が多くなると、手に入らないものも増えてきます。
 状況が落ち着いてくると災害派遣医療チームが避難所などに入ってきて簡単な診察などの医療行為をしてくれるわけですが、普段のかかりつけのお医者様ではありませんので、「いつもの薬」といっても全く通じません。薬の名前を覚えているといいのですが、自分の症状は言えても使っている薬の名前までは言えないものです。そこでお薬手帳の登場です。
 お薬手帳は飲んでいる薬の種類や分量がわかるように書かれたもので、これがあると災害派遣医療チームのスタッフも対応が早く確実になります。自分の命を守るためにも、お薬手帳またはそのコピーを非常用持ち出し袋や普段の鞄にいれておくことをお勧めします。
 余談ですが、お薬手帳は一人一冊です。医療機関ごとや薬局ごとに作るのではありませんのでご注意ください。
 あとは、自分の病気にはどのレベルの医療行為が必要なのかをきちんと把握しておくことです。特殊な設備や頻繁に交換の必要なものがある人などは、かかりつけの病院の再開を待っているわけにいきませんので、被害にあっていない場所まで避難して医療行為を継続する必要があるでしょう。
 寝たきりや、支援がいる人も、できれば被災地区外まで避難した方が手厚い介護が受けられると思います。
 被災した場所には、通常の生活はありません。
 支援が必要な方は、支援が受けられる場所まで移動する。それによって自分が生き残る確率も上がりますし、被災地でひどい目にあうこともありません。
 何事も起きていないときだからこそ、非常時の段取りについて決めておく必要があるのです。

自分の命は自分で守る

 災害対策でもっとも重要なことは、「あなたの命を守るのはあなただ」ということであることをご存じでしょうか。
 例えば、いくら行政が災害対策をしても、それはあくまでも面的な整備ですし、整備がされたからといって絶対に安全だと言えないことは、東日本大震災の津波対策が証明しているところです。どんなに立派な堤防を作っても、巨大な防波堤を作っても、軟弱地盤の地盤強化をしたとしても、想定以上の災害が襲ってくればひとたまりもありませんし、想像できる最悪の事態に備えて施設整備を行ったとすれば、その金額と工期はいずれも天文学的な数字になってしまうことでしょう。そして、災害対策で行われる施設整備はあくまでも一つの災害に対してであり、複合的に災害が起きてしまうと、手の打ちようがない事態が起きることも考えられます。
では、なぜ巨額の予算をかけて行政がさまざまな災害対策をしているのかと言えば、少しでも人命や財産が失われる確率を下げること、そして避難するための時間を作り出すためです。
 この想定は、住民が安全な場所に避難することが含まれています。つまり、あなたが自分で安全に避難する経路と、身の安全を保証してくれる場所をきちんと決めているということが前提条件になっているということです。
 何がどうなったらどこへどんな手段で避難を開始するのかということと、状況が収まり、自分の避難を解除するタイミングもあらかじめ決めておくと、いろいろと悩まなくてもすみます。
 あまり意識されていないとは思いますが、自治会や消防団、行政機関があなたの命を守ってくれるのは、災害が収まった後の復旧・復興部分であって、災害時に「逃げろ」と声かけに回ってくれることはあるかもしれませんが、あなたの命を守りきる責任は、当たり前ですが負っていません。
 命さえ無事であれば、あとはなんとかなります。まずは安全な場所に逃げて自分の命を守ること。
 これだけは忘れないようにしておきたいものです。

バケツは万能アイテムです

 災害後に必要だなと思うことの多いアイテムの中に「バケツ」があります。
 水の配給時はもちろん、赤ちゃんの沐浴や洗い物、ゴミ捨て、洗濯など、一つあるのとないのでは大違いなのですが、残念ながら普段の生活ではあまり使うことがないかもしれません。
 最近では折りたたみの出るさまざまな種類のバケツが売られるようになり、アウトドア用品や釣り具、そして工具売り場などでさまざまな大きさのものを扱っています。
 欲張って大きいのを買っても大は小を兼ねない世界ですので、中身が入っても自分で持ち運びできる程度のものを選ぶとよいと思います。
 一つ気をつけるとすれば、中身が入っていなくても自立するタイプのものを選ぶようにしてください。
 中にはとてもコンパクトなものもありますから、赤ちゃんがいるおうちでは、そういったものをお出かけセットに一つ加えてもいいかもしれません。

 非常用持ち出し袋に折りたたみバケツを一つ。忘れないでくださいね。