災害対策について考える

 大雨や洪水、台風といった災害では「タイムラインを作れ」ということがよく言われるようになってきました。
 地震以外の災害は必ず何らかの予兆があるので、それを見逃さずに災害が発生する前から対処を開始して手遅れになることがないようにしようということなのですが、どんな情報があってどういう風に活かしたらいいのかがなかなか理解されないという現状があります。
 ただ、各市町村が発表するさまざまな避難関係の情報は、被害が大きくなってくると間に合わなくなってきます。これは災害が発生し始めると加速度的にしなくてはいけないことが増えるためで、専任の職員がいても華麗に裁くのはかなり困難な仕事です。そのため、市町村が判断するための根拠となる情報を確認して避難関係の情報が出るかもしれないという予測を立て、行動に移す。そのための時間軸がタイムラインということです。
 これはお住まいの地域や家族構成によって必要となる行動や判断基準が変わります。例えば、避難勧告が出ていても避難しない方が安全なところもあれば、避難準備の段階ですでに危険な場所もあるからです。自分のいる地域の強み弱みを知った上で先手を打って行動することで、助かる確率を上げていくための手段だと考えてください。
 ただ、そうそういつも家にばかりいるわけでもありません。出掛けた先で災害が起きそうなときはどうすべきか。これは市町村が出す情報から判断して避難をしていくしかありません。そのため、状況がおかしくなりそうだと気づくことが一番大切なこととなります。周辺状況の変化を意識することが重要になります。
 ところで、地震の場合にはどうなるのでしょうか。地震は、なかなか発生するタイミングを予測することは難しいです。予想もしなかった場所で大きな地震が発生することもよくありますから、地震が起きたときに死なないように対策をしておく必要があります。
 地震で亡くなる人の殆どは、地震そのもので死ぬのではなく揺れによって倒壊した建物や倒れてきた家具などの下敷きになって圧死しています。つまり、耐震補強や転倒防止処置をすることが大切になってくるのです。家だけでなく、自分が出掛ける先がちゃんと地震対策をしているかどうかが、いざというときの生死をわけることになりますから、出掛けた先では意識的にどこなら自分の安全が確保できるかを考えながら行動するようにしてください。最初は面倒くさいかもしれませんが、これも慣れてくると意識していなくてもできるようになります。
 災害対策は自分だけではなく、家族やペット、友人や近所の人といった自分の周りのたくさんの人が誰も死なないようにするために行うものです。自分の対策ができたら、家族同士で内容を擦り合わせ、何かあってもきちんと合流できるようにしておいてください。また、復旧方法や対応策についても、ある程度検討しておいていざというときにすぐ対処ができるようにしておきましょう。

非常用持ち出し袋の中身を考える

 災害に備えて準備しておきましょうと言われるものの一つに「非常用持ち出し袋」があります。
 ただ、この非常用持ち出し袋、政府の推奨する量を全て収めるとかなりの重さになってしまい、高齢者や乳幼児の居る世帯では持って逃げることが困難なのではないだろうかと考えてしまいます。
 試しに、内閣府の防災情報のページにある非常用持ち出し袋の中身の一例を書き出してみましょう。

飲料水、食料品(カップめん、缶詰、ビスケット、チョコレートなど)、貴重品(預金通帳、印鑑、現金、健康保険証など)、
救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬など)
マスク、軍手、缶切、ナイフ、懐中電灯、衣類、下着、毛布、タオル、ライター、携帯ラジオ、予備電池、
使い捨てカイロ、ウェットティッシュ、洗面用品、ヘルメット、防災ずきん

 これらのものを家族構成に合わせて準備し、玄関近くや寝室、車の中、物置などに置いておくようにしようと書かれています。
 よく3日分~1週間分の準備をしておこうという話もありますが、災害は発生から収束まで長くても2~3日ですから、さほど間違った内容だとも言えません。もっとも、そちらは家にストックしておく備蓄品でも構わない訳なので、自分の体力にあわせた非常用持ち出し袋を作る必要があるでしょう。
 自分が持ち歩く非常用持ち出し袋は、当然自分が持ち歩けなければ意味がありませんから、あなたの体力や状況によっては、必要だとされる全てのものを持って避難することは無理かもしれません。
 では、最悪の場合は何を持って行けばいいでしょうか?

 前提条件は、とにかくあなたが生き残ることができることです。危険な状況で非常用持ち出し袋を持ち出せる余裕が無い状況であれば、身一つで逃げましょう。
 もしも持ち出す余裕があるのであれば、最低限として次のものを準備しておくといいと思います。

 まずは飲料水。ライフラインが絶たれたときに一番困るのは衛生的な水を手に入れることです。一人一日3リットルという話もありますが、300mlだろうが50mlだろうが、無いよりは遙かにましですので、持てるサイズのお水は必ず用意してください。
 常備薬。慢性疾患や気になる病気がある方は必要です。
 新聞紙1日分と買い物用のビニール袋。これを組み合わせることで簡易トイレや敷物、簡易防寒着やたき火の焚き付けなどに使うこともできます。
 お財布や健康保険証といった貴重品は、恐らくある程度まとめて普段から持ち歩いている人も多いと思うので、その袋をそのまま持って行きます。
 携帯電話をお持ちの方は、充電池と充電ケーブルは絶対に必要ですし、できれば充電機能をもった携帯ラジオがあるとよりよいと思います。
 タオルはバスタオルとフェイスタオルを一枚ずつ準備します。女性であれば、普段お使いの生理用品も一回分は在庫があったほうが安心です。
 ウェットティッシュと歯ブラシ、下着、使い捨てカイロはあったほうがいいです。それから、風呂敷と手ぬぐい、帽子。雨合羽。
 最後に余力があれば食料品少々。
 これらのアイテムを、濡れないように密閉できるビニール袋に収めて、背負いやすいリュックサックに入れておきます。

 人の命が危険になる順番としては、①体温低下、②脱水症状 ③飢えになりますので、ここではそれに対応した準備をご紹介しています。食料は、無いとお腹が減ってひもじい思いはしますが、食べ無ければすぐに死ぬという人で無い限り、優先順位はそんなに高くありません。でも、低体温や脱水は生命にかかわってきますので、そちらへの対応を重視していることが読み取れるでしょうか。
 もっとも、これらのものを準備したところで自分が使わなかったり、使い方を知らなければ単なる重しでしかありませんので、使えてかつ必要だと思う物を準備しましょう。また、上記にプラスして、おうち個別の事情で追加しておくべきものもいろいろあると思います。例えば乳児のいるおうちではおむつやミルクが必要になるでしょうし、高齢者の方だと老眼鏡や入れ歯が追加になってくるという風に。
 ただ、個別の事情を考え出すと、あれもこれもということになって、結局いろいろなものを準備しすぎて持って行けなくなるということが非常によくあります。せっかく準備していても、それを持って避難ができなければ何の意味もありません。
 高齢者が多く、自治会管理の避難所があるところでは、身一つでの避難を徹底する代わりに、避難所にコンテナボックスに入れた各個人の非常用備蓄品が備えることで非常用持ち出し袋の代わりができるようになっていたりすることもあります。

 何を重視するのかは人それぞれですし、地域によって備えるべき災害と準備は異なります。あなたや家族、地域の状況を考えた上で、自分が持てる重さの非常用持ち出し袋を準備するようにしてくださいね。

避難所と防疫

 災害時に怖いのは、人がたくさん集まって生活する空間となっている避難所で発生する感染症。インフルエンザやノロウイルスなどは、避難が長期化した避難所では必ずと言っていいくらい発生して蔓延してしまいますが、その対策としては、徹底的な防疫を行うことくらいしかありません。
 今回は、避難所で起こりうるであろう感染症発生時にどのような対策をすればいいのかについて考えてみます。

1.防疫って何だろう?

  国語辞典などを見てみると、防疫とは「伝染病を予防し、またその侵入を防ぐこと」とされています。つまり、防疫という言葉は「予防措置」と「防御措置」の二つの性格をもっていると言うことになります。

2.予防措置

 大規模避難所では、何よりも衛生環境の維持が必要です。感染症を起こさないようにするためには、徹底した手洗いとうがいが推奨されていますが、被災地では必ずしも水が潤沢にあるわけではありません。
 それでも消毒を行ったり、ウエットティッシュなどで拭く、手が洗浄できなければ使い捨て手袋を使うなど、可能な限り衛生管理を行ってください。
 また、生活空間は絶対に土足禁止です。そして、寝る場所は床から少しでも高さのある状態にしてください。この二つを守ることで衛生環境はかなり維持することができます。
 あとは歯磨きなどで歯や口の中の雑菌を繁殖させないようにすること。特に避難所での生活では気力も体力も消耗していきますから、いつも以上に口腔内の衛生には気をつけるようにします。

3.防御措置

 それでも人が多く集まれば何らかの感染症が発生することは避けられません。感染症発生に備えて、患者を隔離できる部屋を一つ準備してあらかじめ空けておく必要があります。
 また、基礎体温のチェックや体調の確認は毎朝毎晩行うようにし、少しでもおかしな兆候があればマスクを着用した上で隔離部屋へ移動してもらって様子を見ます。
 隔離部屋は部屋だけでなく、その周辺を含めて立ち入り制限区域とし、制限すべきエリアは目で見てわかるようにしておきます。また、立ち入り制限区画の出入口には消毒、マスク、手袋などを用意し、できるだけ感染者に直接接触しないようにします。感染者に接触した後は、生活空間に菌を持ち込まないようにマスクや手袋などは制限区域内に処分場所を用意してそこで外すようにします。間違ってもそのまま生活空間に入らないようにしてください。
 隔離部屋については、室内が乾燥しないようにし、感染者が寝るための場所を準備しておきます。これは生活空間と同じように直接床ではなく、少しでも床から高い位置に場所を作るようにします。そして汚物入れや汚染されたものを生活空間に持ち込まないように窓などから外部へ搬出できるルートは作っておいてください。
 また感染者には優先的に食べやすいものや飲料を供給し、病気の回復を支援するようにします。

4.感染症は起きるものと考える

 感染者と一般者が普通に接触していると、感染は一気に拡大します。早めの封じ込めにより感染拡大を防ぐことと、汚染されているかもしれない空間と汚染されていない空間とがはっきりわかるようにしておくことは、感染症対策としては絶対条件となります。そのため、例えば巡回する医師や看護師などの医療関係者も感染者に接触した後は生活空間に入らないようにしてもらいましょう。
 防疫については大げさすぎるくらいでちょうどいいと思います。ここでは病院に搬送できないという想定で隔離部屋を作っていますが、発症したら病院に送り込むくらい極端でも構わないと思います。
 そしてもし避難所内で隔離するのであれば、感染者が体力を維持し、回復できるように飲料食や薬を優先的に回せるように考えておきましょう。
 いずれにしても、ある程度の規模の避難所では、避難が長期化してくると感染症は必ず発生します。発生したとき、いかに素早く対応できるかで被害の状況が変わりますので、感染させないこと、感染を広めないことを念頭において日々の管理を行うようにしましょう。

避難所の種類と機能について考える

 災害が起きると、住民の避難先として注目されるのが避難所ですが、行政側も住民側も避難所がなんなのかがよくわかっていない部分があるような気がします。
そこで、今回は避難所について改めて整理してみたいと思います。

1.避難所の定義

出典:国土地理院

 避難所には、「指定避難所」「一時避難所」「避難場所」があります。名前と表示マークは同じなのですが、定義がなぜか自治体によって異なっているので、ここでは石西地方の市町の定義でご紹介します。

①指定避難所(していひなんしょ)

 家が壊れたりして住めなくなった住民を収容して一時的に住居を提供するところです。地域の復興支援のためのボランティアセンターやそのサテライト、住民に提供する物資の集積所の機能を持ちます。

②一時避難所(いっときひなんしょ)
災害を避けるために一時的に避難をする施設で、災害が収まったら速やかに帰宅あるいは避難所に移動する必要があります。津和野町では住民が自主的に開設・運営する避難所を一時避難所として定義しています。

③避難場所(ひなんばしょ)
災害を避けるために緊急的に避難をする場所です。学校の校庭や公園など、安全の確保できる広い空間が指定されることが多く、災害後にここでそのまま過ごすのはかなり困難です。
熊本地震では自家用車で車中泊したり、被災者のテント村が設営されたりもしました。

2.避難できる災害の種類
内閣府防災が定めている避難所で定義する災害は次の5種類です。

①洪水・内水面氾濫
「○」避難可能
「×」水没するため避難不可
「△」水没するが上層階なら避難可能

②土砂災害(土石流、崖崩れ、地すべり)
「○」土砂災害の危険がなく避難可能
「×」土砂災害の危険があるため避難不可

③地震
「○」耐震・免震・制震構造等で新耐震基準に適合している施設及び公園や校庭
   など建物倒壊の影響のない場所
「×」地震で倒壊する可能性のある施設または倒壊する建物の影響を受ける場所

④高潮・津波
「○」標高10m以上の場所にある施設・場所
「×」標高10m以下にある施設・場所

⑤大規模火災
「○」大規模火災の影響を受けない施設・場所
「×」大規模火災発生時に何らかの影響を受ける施設・場所

このうち益田市は「大規模火災」の定義をしていません。また、津波については津和野町、吉賀町は該当がないため、益田市の基準を紹介しています。

上記の1と2で定義したものを看板にすると次のようになります。益田市、津和野町、吉賀町の3市町では、吉賀町のみがこの掲示をしているので、吉賀町の吉賀高校体育館のものをサンプルとして表示しています。

3.指定避難所の機能
 避難所というと避難している人のための施設というイメージがありますが、指定避難所のところでも触れたとおり避難者受け入れ以外にもさまざまな機能を持っています。よく誤解されるのですが、避難所に集積される物資は避難所の避難者専用ではありません。避難所は地区の物資集積所として地区全体の被災者支援に使われることが前提で物資が集まってきますので、避難所を運営する方はそれを必ず意識してください。
 また、行政から発信される情報も避難所に掲示されます。避難所は地区の物資と情報集積の基地として機能するということを覚えておいてください。
 もちろん、避難所は自宅が被災して住めなくなった人が身を寄せて生活する場所でもありますから、生活空間としての避難所と物資情報集積基地としての避難所を上手に切り分けて運営する必要があります。
 ただ、避難所の運営は行政がしない方が無難です。行政が運営するとどうしても「平等の原則」が働きますので、届いた物資が欲しい人全員に行き渡らなければ配布しないという事態が起こりえます。乳幼児やその母親、高齢者などの弱者と健常者が同じ扱いとなってしまうということは、体力の無い人は生き残ることができないと言うことになりますので、食料や水など生活に不可欠なものの配布優先順位をあらかじめ作っておくことをお勧めします。

BCPを作ってみよう

 新型コロナウイルスが国内に広がりそうな気配です。
 政府は不要不急の外出を控えて人混みに出るなというお願いをしていますが、多くの人が集まるコンサートやイベントについては、各自で判断して欲しいということで、何がどうなったら危険なのかという判断基準が明らかになっていません。まずはその基準を自分たちで作る必要がありますがいろいろなしがらみの中で判断に迷うというのが実のところだと思います。本来なら政府が強制的に人がたくさん集まることを禁止すべきなのでしょうが、そこまで思い切ったこともできないようですから、各自が自分のところの事業継続化計画、いわゆるBCPを作るしかないということになります。
 参考になるのは、以前に新型インフルエンザ騒動があったときに多くの会社や機関が作ったものです。あの時は政府が基本となる指針や作成例の提示があって、それに従って作っていたと思いますので、もしも作っていたら探してみてください。感染症対策はさほど変わりませんので、過去のBCPでも充分役に立つと思います。
 もしそのときに作っていなかったとしても、BCPを作るのはそんなに難しくはありませんからご安心を。やることは「方針を決める」「困りごとと解決策を洗い出す」「優先度を決める」「時系列に整理する」というたったの4ステップです。

1.方針を決める

 まずは今回の新型コロナウイルスに対する我が家我が社の方針を決めましょう。新型コロナウイルスが蔓延したときに我が家我が社がどのようになっているのが理想でしょうか。会社や組織で「人命優先」なら流行中は出社に及ばずでしょうし、「事業優先」なら何があっても出社して仕事をしろになるでしょう。おうちであれば「家族優先」なら家族がかかったときに誰が休んで世話をするかということになるでしょうし、「仕事優先」ならどこの誰にかかった家族を見てもらうのかを決めないといけないことになります。
 いろいろと迷う部分はあると思いますが、BCP設計の基準となるのは我が社我が家の方針です。ここがしっかりと決まっていると、さまざまなBCPはその方針を元に決定できます。

2.困りごとと解決策の洗い出し

 方針が決まったら、次は発生したときに起こりうる困りごとを洗い出し、その解決策を決めていきます。
 例えば、いつもの仕入れ先が操業停止したら代わりの入荷先が確保できるのかや、家庭であれば子どもが発熱したとき、その子の世話をどうするかはあらかじめ決めておかないと揉める元になるでしょう。
 予測される困りごとをどんどん書き出すわけですが、できれば困りごと一つを一枚の付箋に書いて何かに貼り付けていくとあとで時系列で整理するときに楽ができます。そして、困りごとが出きったら、同じように今度はその解決策を付箋に書き出してセットにしていきます。一つの困りごとに複数の解決策があることもあるでしょうし、逆に解決策がない場合もあるかもしれませんが、それでも構いません。

3.優先度の整理

 ここまでできたら、後は方針に従って困りごと+解決策の優先度を決めていきます。同じ優先度で真逆の行動というのがでてくるかもしれませんが、ここではとりあえずそれは無視しておきます。
事前の方針に矛盾するものは優先度が低くなりますし、事前の方針に密接に関係するものは優先度が高くなります。

4.時系列の整理

 最後は、優先度の高い順に「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「どうしたら」「どうする」「どれくらい」「いくら」という5W2Hをはっきりとさせて時系列を整理していきます。同じ時期に同時に行わないといけない行動が出てくると思いますが、優先度が整理されているはずなので、優先度の高いものから処理していくようにします。

 これで一応BCPが完成しました。できたものは関係者それぞれがそれを知っておくことが必要です。
 普段の業務が忙しくてこんなものを作っている暇はないと言われる方も多いのですが、いざ非常事態に突入したとき、このBCPを作っていないと作成に必要な時間よりもずっと多くの時間を非常事態対応に振り向けることになりますので、面倒くさがらずに作っておくことが大切です。また、一度定めたBCPも状況に合わなければいくらでも修正はできます。作って使ってみて修正してまた使う。この繰り返しをすることで、BCPは生きてきます。
 不謹慎だと思う方もいらっしゃると思いますが、こういうときでもないと誰も真剣にBCPなど考えないと思いますから、この際一度あなたのBCPを作ってみたらどうでしょうか?

自分ができる地震時の安全な姿勢を決めておく

 地震が起きたとき、まず最初に周囲の安全を確認してからダンゴムシのポーズを取る、というのが最近の耐震姿勢のはやりのようです。
 ただ、何らかの事情でダンゴムシのポーズがとれなかったり、周囲の安全確認に時間がかかったりする人がいることも事実ですので、自分がすぐにとれるできるだけ安全な姿勢というのを確認しておきましょう。例えば高齢者の方などは素早い行動を取るのが困難な人も多いですから、安全確認しているうちに揺れで転んで怪我をしてしまうかもしれません。それを防ぐためには、普段歩くコースに危険なものがないかを意識しておくことです。
 それから、転倒しないためには重心を下げる必要があります。人間の身体は構造上異常に頭が重たくなっていますので、なるべく低い姿勢を取ることが大切です。しゃがんだり、座ったりすると揺れに対して転んでしまうリスクはかなり下がります。階段では、必ずてすりをつかんで移動し、揺れを感じたら手すりをつかんだまましゃがむこと。そうすれば何もせずに立ったままよりもかなり安全になります。
身体が揺れを感じたらすぐに低い姿勢をとること。もし地震でなかったとしても、転倒する危険は防げます。
 地震そのもので死ぬことは殆どありません。揺れによる転倒や倒壊、崩落などに巻き込まれて死ぬのですから、その原因をなくせばいいのです。
 普段からの生活スペースの片付けや移動経路にものを置かないことなどしなければいけないことはたくさんありますが、ちょっとした意識の変化で生存確率を変えることはできます。あなたにあった地震時の安全な姿勢を見つけ、その姿勢が無意識にでも取ることができるように、見つけて練習しておいてください。

災害時の情報にはどんなものがあるだろう

 災害で危ない目に遭わないようにするためには、災害が起きる前に自分の安全を確保することが大切です。その判断基準の一つとして、行政機関が発表する各種情報がありますので、今回はこの情報について確認してみることにします。

1.情報の種類

情報の種類には、大きく分けると3つあります。

(1)気象庁が出す気象情報

 気象庁や各気象台が出す情報で、早期天候情報、各種注意報、各種警報、各種特別警報など、おそらく一番よく見聞きする情報です。テレビやラジオ、インターネットなどで確認できます。

(2)気象庁と関係自治体が出す河川情報及び土砂災害情報

 国、都道府県が管理している河川の水位とその水位に基づく河川情報、雨や水量の状況によって起きる土砂災害に関する土砂災害情報があります。
これらの情報は重複して提供されていたり、管理区間だけ提供されていたりとややこしいので注意が必要です。
 河川情報は国土交通省の各河川事務所、土砂災害情報は各都道府県の砂防事業を担当している部署のホームページ、または都道府県の防災ポータルでも確認できます。

(3)市町村が出す避難情報

 上記(1)や(2)の情報を元に、市町村が集めた情報を総合的に判断した上で避難情報を出しています。市町村からは防災無線や防災メール、一部ではSNSでも提供されています。

 ご覧のように、さまざまな行政機関がいろいろな情報を出しているため、去年情報の緊急性を示すレベル表示が導入されたのですがこのレベルだけではなんのことかわからないということで、現在はレベルと避難情報を併記した状態情報が提供されています。
 次に各レベルと対応する各種情報を並べてみます。

2.発表されるレベルと情報の関係

(1)レベル1

 気象庁が天気でなんらかの危険の兆候が見られるときに出す早期天候情報。これが発表されると「レベル1」になります。
 ラジオやテレビの気象コーナーでも触れられることがありますが、1週間程度前から危険が予測されそうな場合には情報が出されます。精度的は低めですが、これが発表されたら非常用持ち出し袋の中身や備蓄品の確認をして、不足しているものがあったら買い足しておくようにしてください。

(2)レベル2

 気象庁の「大雨注意報」や「洪水注意報」、国や都道府県の「河川洪水注意報」や「土砂災害注意情報」などが発表されたときに「レベル2」になります。
 これが発表されると、この先危険になる可能性があるということですので、あらかじめ決めてある避難経路を確認して、いつ、どこを通って、どのような手段で、どこへ避難するのかを見ておいてください。
 また、気象情報に意識を向けるようにしてください。

(3)レベル3

 気象庁の「大雨警報」「洪水警報」国や都道府県の「河川氾濫警戒情報」「土砂災害警戒情報」が発表され、住民通報や道路などの状態から危険が迫っていると判断されると「レベル3」が発表されます。
 「レベル3」は避難情報では「避難準備・高齢者避難開始」といい、災害が起きる可能性があるから避難準備を始めること。乳幼児がいたり、高齢者の方や障害者の方など、避難に時間のかかりそうな人や土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域に住んでいる人は、準備ができ次第すぐに避難を始めてくださいというお知らせです。
 ここからはだんだんと緊急性を帯びてきますが、「レベル3」は比較的早い段階で発表されるので、避難に車を使うことが可能です。家に不安のある人や、孤立しそうな場所の人も、できれば避難した方がいい情報です。

(4)レベル4

 市町村の発表する「避難勧告」や「避難指示(緊急)」がこれに当たります。
 国や都道府県では「河川氾濫危険情報」や「土砂災害警戒情報」の発表も判断基準の一つとなっていますが、これが発表されるときには小さな災害は発生しています。危険地域に住んでいる人は何を置いても避難してください。避難に時間のかかる人がいる場合には、二階に避難するなど屋内での垂直避難も考えるような状態です。これが発表されたら、原則として避難に自動車ではなく徒歩での避難になりますので注意が必要です。

(5)レベル5

 市町村では「災害発生情報」の発表となりますが、これが出るような状況だと多くの場所でいろんな災害が起きている状態です。
 気象庁が出す「大雨特別警報(浸水害)」「大雨特別警報(土砂災害)」、国や都道府県では「河川氾濫発生情報」がレベル5の判断基準となっていることからも分かるとおり、完全に災害となっています。
 もしこの発表があったら、その時点・その場所でもっとも安全と思われる場所へ直ちに避難をしてください。

 ここまで読んで気がついた方もいらっしゃると思いますが、「避難命令」は災害の避難情報には存在しません。最上位でも「避難指示(緊急)」ですので、避難に関する情報については気をつけていただければと思います。

 今まで説明した内容を一覧にするとこの表になります。(出典:気象庁HP)
 自分は避難すべきかどうか、避難するとしたらどの情報が出たときに避難を開始すればいいかを、今までの説明とこの表、そしてあなたの状況を考えて決めておいてください。
 また、この表の色は、そのまま「土砂災害情報」や「河川情報」のメッシュ地図で使われているものです。紫が一番ひどい状態だと言うことを覚えておくといいと思います。ただ、一つ例外があるのは気象庁の雨雲レーダーです。これは一番強い雨雲を赤で示すことになっていますので、そこだけ注意してください。

3.避難の判断基準

 避難の判断基準はあなたの状態や避難先、そして気象条件により変わるため、一概にこうだということは言えません。
 おおざっぱに書くとレベル3からレベル4の間で避難の開始から完了まで済ませることができれば、概ね安全だと言えるでしょう。
ただ、現在起きている、または起きそうな災害に対応している避難先でなければいけませんので、そこだけは注意するようにしてください。
 もし避難所(一時避難所、避難場所含む)に避難されるときにはその避難所がどんな災害に対応しているのかを事前に確認し、避難先を決めておくことをお勧めします。避難所の性格についてはこちらでご確認ください。

まずは安全確保から

 地震にしても、水害にしても、津波や台風にしても、まずは自分の安全を確保するところから始まります。いくら生き残った後の避難訓練や復旧手順の確認をしても、災害時に死んでしまっては何の役にも立ちません。でも、どのように安全確保すると生き残る確率が上がるのかについては、案外とまじめには考えられていないものです。
 例えば、学校や施設では、生徒や入居者の安全確保についてはうるさいくらいに言いますが、肝心の教員や職員は安全確保が非常におざなりだと感じています。普段指導する側やお世話する側なので、そうなってしまうのは仕方が無いことなのかもしれませんが、正直なところうるさく指導する人ほど自分の安全対策はないがしろにしているなと思います。どのような人であれ、災害が起きたときにはその災害が特定の人だけ避けてくれるわけではありませんから、他人に指導しながら自身も安全確保をするための行動を取る必要があります。
 さまざまな訓練を見てきていますが、指導するときには格好の指導はしますが、なぜその行動を取らなければいけないのかという説明は殆どされていません。
 防災訓練での前提となる「安全確保」について、当たり前だとは思わずにきちんと対象者に説明すること。そして言っている本人も自分の安全確保はきちんと意識し、行動すること。
 まずは生き残る確率を上げるためにどのように安全確保したらいいのかについてしっかりと意識し、確認し、自分の中や周囲の人と、しっかりと共有して行動するようにしてくださいね。

身体から熱を逃がさないための方法

 寒い時期に被災すると、熱を作り出すのに苦労します。特に雨が降っている状況下では焚き火もできませんから、どうやって身体を冷やさずにいるかということに重きを置く必要があります。
 身体が冷えてくると低体温症になり、ひどくなると死んでしまいます。ずぶ濡れや熱の逃げてしまうような環境で、普通に会話ができていた人がろれつが回らなくなったり、日付や今までのことが言えなくなったりしたときには、低体温症による記憶障害を疑ってみたほうがいいのですが、まずはそうならないために、次の点に気をつけてください。

1.身体を濡らさない

 着替えがあるなら、速やかに濡れた服を脱ぎ、濡れた身体を拭いてから乾いたものに着替えてください。最初は寒く感じますが、熱を奪う水分がなくなった分は身体への負担が減ります。

2.風を遮蔽する

 風は身体から熱を奪っていきます。暑い中で冷たい風にあたると身体の熱が奪われて気持ちいいと感じますが、あれは寒い時期にも起こります。できるだけ風を通さない場所を選び、あれば防寒着や合羽、なければ大きなビニール袋でも構いませんので、身体に着て直接風が当たらないようにしてください。

3.冷たい場所に直接座らない

 金属や石、堅い木の上などに座るとひやっとするかもしれません。その場合、いくら身体を乾かして風に当たらないようにしても、座っているお尻から熱が逃げていきます。それを防ぐために、お尻の下にはエアークッションや座布団、段ボールや新聞紙といった、間に空気が貯まって保温できるようなものを敷いてください。
 新聞紙は空気の層を作る必要がありますので、できれば一日分をお尻の大きさに合わせてたたみ、その上に座るようにしてください。週刊誌や雑誌でも厚手のものであれば同じ効果が期待できます。

4.身体の熱の逃げる部位を覆う

 身体からは思っている以上に熱が逃げています。2で風を遮蔽しているはずですが、熱を逃がさないために身体の周囲に空気の層を作るようにします。エマージェンシーシートやビニールシートといった風を通さない素材で身体を覆うようにします。頭や顔からも案外と熱が逃げますので、理想は包まって目だけ出ている状態です。

5.熱を作る

 保温に成功しても、身体のエネルギーが不足すると熱を作り出すことができなくなります。そうならないように、チョコレートやようかんといったすぐエネルギーに変わる糖類を摂取して体内から熱を作り出せるようにします。

 ちなみに、1から4までを空間として作ると路上生活者の人が作っている段ボールハウスになります。断熱・保温・居住性の点で非常に有効なものを作っているなと感じており、その構造は避難所内外のシェルターとしても使えると思っていますので、もしも観察する機会があればどのようにして作っているのかを見てみてください。

新型コロナウイルスとBCP

 ここのところ新型コロナウイルスによる感染拡大が騒がれています。
 対策としてはしっかりとした手洗いとアルコール消毒、そしてマスク着用なのですが、ドラッグストアではマスクが全て品切れで生産が間に合わない状態だそうです。ちょうどインフルエンザの時期と重なっているのである程度の備蓄はされているのではないかと思いますが、あなたは大丈夫ですか。
 過去に新型インフルエンザが流行したときに企業や行政機関がこぞって新型インフルエンザ用のBCPを策定していましたので、当時のBCPがアップデートされていれば今回の新型コロナウイルスにも適用できるはずなのですが、行政機関の動きを見ていると、どうもそんな感じではなさそうです。
 企業に関して言えば、きちんとアップデートされているところの動きは速く、そうでないところは何から手をつけていいのかといった感じの動きですが、何年かに1度は何らかの形で感染症が大流行している感じですので、企業や行政だけでなく、家庭や個人でもそれに対応したBCPを備えておく必要があります。
 BCPは何かあったときに事業を継続して行うために必要な計画をあらかじめ立てておくことです。自然災害や戦争、病気や相手先の倒産といったさまざまな事態に備えて、あらかじめ発生しうる危険を予測してその対応策を決めておくことで、これをきちんと決めて関係者間で共有しておくと、台風や地震で動きがとれない状態なのに全社員が無理矢理出勤するといったばかげた行動を防ぐことができます。
 今回の新型コロナウイルスでも水際での阻止には失敗していますので、国内で大流行した場合にどのような対応をするのかについて、今からでも遅くないと思いますので、自分の関係者と対応について検討しておくことをお勧めします。また、どのような症状が出たらどのような対応をとるのかについて、自分がかかった場合を想定して行動を決めておくことも忘れないでください。
 そのためには、新型コロナウイルスがどのようなものかを正確に知っておく必要があります。混乱やパニックが起きるのは、相手が分からないからですから、敵を知り、自分を知ることで自分の生存確立を上げる努力をしておきましょう。
 新型コロナウイルスへの対処については、以下のウェブサイトを参考にしてください。

新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~(首相官邸のウェブサイトへ飛びます)