扉の前にものを置かない

 火災などで防火シャッターが降りた後、逃げ遅れた人や消火活動をする人のために非常用扉がもうけられています。「扉の前にものを置かない」というのは消防法でも決められていることなのですが、過去にはこの非常用扉の可動範囲にものがあって扉を動かすことができず惨事を招いた火災がたくさんあった結果です。
 防災上も、扉の周囲にものを置かないというのは鉄則なのですが、職場ではともかく、家の中では意外とそれに気づいていない人が多いことに驚かされることがあります。家庭で押したり引いたりして開けるタイプの扉では、その可動範囲及びその周辺に倒れたり崩れたりして扉の開閉を妨げるようなものは絶対に置いてはいけません。引き戸であっても、引き戸にもたれてしまうようなものを周囲においてはいけません。
 「扉の前にものを置かない」と聞くと、扉の前にものがなければいいのかと考えてしまいがちですが、扉の開閉を邪魔しないために行う作業ですからそこを意識してものの配置をしないといけないでしょう。扉の開閉はもちろんですが、扉の周囲にものがないことで、足下の安全がしっかりと確保されます。そうすると、扉を超えても足下の心配をしなくていいわけで避難の速度が上がることは間違いありません。職場では、普通の扉と非常扉を、家庭では部屋や廊下を行き来する扉や玄関を、それぞれチェックしてみてください。もしもそこに何か置いてあったとしたら、すぐに撤去して出入りをふさぐことのないようにしておいてくださいね。

 ちなみに、上記の写真はとあるオフィスの非常扉です。
 扉の可動域は確保されており、通り道も取られているのですが、折りたたみ式コンテナが大量に積まれていたり、台車が何台かまとめて置かれています。 地震や水害では、こういったものが崩れたり流されたりして扉の開閉を邪魔してしまうことが起きますので、少なくとも扉を構成しているポケット部分には何も置かないようにしたほうが安全です。
 「扉の前にものを置かない」だけでなく、「なぜ置いてはいけないのか」まで考えてもらえるといいなと思います。

支援物資では来ないけれど自分に必要なものは準備しておく

 災害では、よっぽどのことが無い限り1週間程度で支援物資が届き始めます。
 国がプッシュ式支援と呼んでいるもので、食品、水、乳児用ミルク、紙おむつ(大人用、子供用)、生理用品、トイレ、トイレットペーパー、毛布の8品目は必ず送られるものとして決められています。
 とはいえ、名目上はこれだけの品目が送られてくるとしても、あなたにあったものがくるとは限りません。食品でもアレルギーがある方は食べられないものが出てくるでしょうし、乳児用ミルクは子どもが飲んだり飲まなかったりするものもあります。紙おむつも必要なサイズのものがあるとは限りませんし、生理用品についても同様なのですが、とりあえず送られてくるのは間違いないので、アレルギーや品物にこだわりがあったり。「その銘柄」でないと困るもの以外はなんとかなると考えてください。
 もちろん、これらも準備しておくに超したことはありませんが、それ以上に重要なのは、「自分にとっては必要だけれども大多数の人にとっては必要とは言えないもの」、つまり支援物資として送られてくる優先順位は低いが自分にとっては優先順位の高いものを備えておくことです。
 具体的に書くと、必要とされる常備薬、眼鏡やコンタクトレンズ、スマートフォン用モバイルバッテリー、下着類などは少なくとも準備しておいた方がいい品目です。自分にとって必要なものは人の数だけありますから、例えばコーヒーのような嗜好品が手放せない人はそれも必要になるでしょう。
 普段の生活であなたが何気なく使っているさまざまなものをきちんと見直して、あなたの生活に絶対必要なものについてはきちんと準備しておくことです。よく見てみると、意外なものがあなたの生活の必需品になっていたりして驚くことがあるかもしれません。
 災害では、いかに自分の生活の質を確保していくかがその後の復旧・復興への切り替えに影響していきます。できるだけ生活の質を下げないですむためには何を準備しておけばいいか、時間を見つけてリスト化し、優先度を上げて準備しておくようにしたいですね。

災害ボランティアと農業

 災害復旧のボランティアに出向くと、ちょっと考えさせられることがあります。
 それは、田畑の復旧は誰がするんだろうということ。
 災害ボランティアでボランティアセンターに行くと、泥だし、ゴミ出しといった家やお庭の片付け、側溝の整備、出された泥やゴミを集積地に輸送するなどいろいろな業務があります。
 でも、一番人手が欲しいはずの田畑の掃除や泥出し、汚染された農産品の収穫は、一般的には災害ボランティアセンターの業務としては受けないというのが一般的なようです。
 受けてはいけないということにはなっていないようですが、農業が営利事業であるということ、保険の適用や後のトラブルを避けるなどの問題からやらせないというところが殆どです。
 では誰がそれをするのかというと、地元の有志や農家の人の個人的つながり、またはボランティアセンターを通さない農業ボランティアと言われる人たちによってなされているようです。
 災害ボランティアが制度化された元が阪神大震災であり、この災害が都市型だったために必要とされるボランティアの中に農業関係のものが入らなかったと聞きますが、災害が起きるのは都市に限りません。田舎などでは田畑がやられてしまうことが多いですし、被災したのが高齢の農家の方だと復旧にかける費用を考えて廃業する方も多いようです。被災した後に田畑を作れるようにする復旧作業が営利事業ということになると、農家の方は復旧のためのスタートラインにつくことさえできない状態になり、国土は荒廃していくのではないかとも考えます。
 ちなみに、ちょっと調べてみると。農林水産省が「農村災害ボランティア」という制度を作っているようなのですが、これはほとんど利用されていないようです。
平成29年7月九州北部豪雨の時には、福岡県朝倉市で地元JAを主体とする農業ボランティアを募集して対応したということがあり、これが一つの参考になるのではないでしょうか。
 いずれにしても、現在の災害ボランティアの派遣システムが基本的にボランティアセンターを経由するようになっている以上、田畑の復旧についてもどうやったら可能になるのかという検討をし、対策をしておく必要があるのではないかと思います。

経路のチェックと籠城計画

 あなたは普段自分が使っている通学路や通勤路が水没しそうな場所についてチェックしていますか。特にアンダーパスや低い土地を通る人は要注意です。最近の雨は短時間に集中して降ってくるため、側溝などの排水能力を超えて水没することが増えています。そのため、例えば避難勧告が出て学校や職場が閉鎖となり、家に帰ることになった時、気がついたら周辺が完全に水没して動きが取れなくなってしまうと言うことが起きることになります。

 本来なら、災害が発生する前に、例えば大雨特別警報が出たらそのまま学校や職場にいるのと、そこから家に帰ることのどちらが安全なのかをきちんと分析しておく必要があるのですが、現在は「災害=帰宅」となっていることが多く、当然学校も職場もそこで籠城するための準備も設備もありません。避難所に指定されているところでさえ、資材は備蓄基地から発災後に運んでくると言うような計画になっていて、そこには空間しかないという場合がほとんどです。災害が発生すると帰宅できなくなる事態が発生することも想定して、それぞれがある程度の備えをしておくことが必要ではないでしょうか。

 お互いがどこで安全を確保しているのかがわかれば、心配することもありませんし危険な中をお迎えに急ぐ必要もありません。

 これは学校や職場に限らず、例えばディサービスなどでも同じことで、そこにいるときに災害が発生した場合どうするのかについて、しっかりと取り決めておくことです。災害は待ってくれません。特に人を預かる場所については、しっかりとした取り決めをして、関係者に周知徹底しておく必要があると思います。

当事者の災害、他者の災害

 災害というのは思ったよりも復旧に時間がかかるものです。ただ、マスメディアに取り上げられなくなり、災害の跡が片付いて行き、時間が経過していくとだんだんと人々の記憶からは忘れ去られていくものです。

 でも、被災した当事者はなかなかそうは行きません。自分の生活を取り戻し、日常を取り戻したように見えても、心の中の整理はなかなかつくものではありませんから、ここにギャップが生じてきます。周囲はその災害を忘れてしまったように普通の日々を過ごしているのに、自分だけは被災した日から時間が進んでいない。特に高齢者の方は、被災し、さまざまなものを失い、呆然としている中で周りだけが変化して、自分だけが取り残されていく。相談する相手もなく、人と会いたくなくなって、俗に言う「震災関連死」の1人になってしまう。これではあまりに悲しすぎます。

 ハード面では復旧しているかもしれませんが、急激な変化についていけない人たちに対してどんな対応をしていけばいいのか、立て続く災害の中で、行政も地域も問われているのではないのかなという気がします。

リップスティックでろうそくを作ってみた

 寒くなってくると空気が乾燥してきます。唇が切れることも多くなるので、リップスティックは必需品。というわけで、今年も仕入れてきました。

 パッケージを眺めていると、ふと気になる「ワセリン」という文字。ワセリンは石油から作られている保湿剤の一つなのですが、パラフィンの一種、つまり燃料になる材質でできています。
 ・・・もしかして、真ん中に芯を刺したらろうそくが作れるんじゃなかろうか。
 というわけで、試しにろうそくを作ってみることにしました。

 材料は、リップスティック、芯用のたこ糸、そしてはさみ。

 リップスティックは案外と柔らかいので作業はスティックケースの中でやりたいところですが、中央部に押し上げるねじがついているので、ケースから頭を出しておきます。
 お試しなので芯となるたこ糸は短めに切ります。そのままだと糸が太すぎるので、撚ってあるうちの一本を抜き取って芯にします。

 リップスティックの中央部に押しピンで穴を開け、そこにたこ糸を押し込むと、
なんとなくそれっぽいものができました。

 火をつけてみると・・・。

 ちゃんとろうそくになってます。火力はろうそくよりも強いです。
 ただ、その分リップスティックの消費も早い感じで、1分経たないうちにパラフィンが流出を始めました。
 メントールが助燃剤になっているのでしょうか?


 ともかく、いちおう予測通りろうそくにはなりました。火を消して試してみましたが、いちおうリップスティックとしても使えました。
 結論ですが、リップスティックはろうそくとして使うことは可能そうです。ただ、燃焼速度が速いので、ろうそくとして使うときにはケースから出して使った方が安全かもしれません。目方が少なく燃焼時間が短いので、あくまでもろうそくがなくて明かりが欲しいときの一つの応急的な手段として使えるかもしれないといったところです。
 他にもワセリンが含まれているものは燃料として使えるはずなので、また近いうちに試してみたいと思います。
 あ、もしもやってみようという奇特な方がいらっしゃる場合には、自己責任であることと、周囲の安全確保をしていただくようにお願いいたします。

災害ボランティアと破傷風

 一口に「災害ボランティア」といっても、その内容は多岐にわたります。
 でも、多くの人がイメージする災害ボランティアというのは、恐らくはゴミ出しや泥出しといった被災者のお片付けのお手伝いではないでしょうか。地震であれ水害であれ、多くの災害ではさまざまなゴミや泥が発生します。そして生活空間を取り戻すためには、まずそれらを片付けるという作業が必要です。これは短期間でやる必要があることが多いので、人海戦術となります。ただ、殆ど手作業ですから特殊な技能や知識も必要ありませんし、老若男女問わずに誰でもできる作業です。結果、多くの災害ボランティアがこの作業に従事することになりますが、作業でよく起きるのが切り傷や擦り傷と言った怪我です。
 被災現場はさまざまな理由で雑菌などが大量発生していることが多く、感染すれば命に関わるような細菌に感染する確率が高くなっていたりします。特に破傷風菌はちょっとした擦り傷や切り傷の傷口から感染しますから、ボランティアに参加する人はきちんとした対応策をとっておく必要があります。
 一つには、肌を露出させないこと。長袖長ズボン、マスク、手袋、長靴、帽子を着用し、なるべく肌をさらさないようにすることで、怪我を防ぎます。
 次に破傷風ワクチンを接種しておくこと。破傷風ワクチンは現在でこそ接種項目に加えられていますが、昭和44年以前は接種するワクチンではありませんでした。そのため、ある年齢以上の方は破傷風に対する免疫が無い状態になっています。破傷風ワクチン自体は、初めて接種する場合には最初に3回ほど続けて射つ必要がありますが、あとは10年に1回程度接種すればしっかりとした効果が維持できるもので、接種をきちんと行えば、ほぼ破傷風にかかる可能性はなくなるという便利なワクチンです。破傷風はかかったからといって抗体を得ることができるわけではないようで、唯一抗体を得ることができるのがこのワクチン接種なのだそうです。 破傷風は発症がわかりにくいこともあり、気づいたときには重症化していることも多い病気ですので、予防するに超したことはありません。
 詳しくはかかりつけのお医者様に確認していただければと思いますが、万が一に備えて、ボランティアをされる方は接種しておいた方がいいと思います。
 特に災害ボランティアを趣味にしておられる熟年層は、抗体を持っていないことも考えられますので、楽しくボランティア活動を続けるためにも、ワクチンの接種を検討してください。
 なお、破傷風菌自体は口から感染することはありませんので、念のため追記しておきます。

どうやって暖をとるか

 だんだんと寒くなってきて、世の中は冬です。
 こんなときに災害が起きたら、どうやって暖をとったらいいか、あなたは考えたことがありますか。
 ある程度の田舎まで行くと、燃やせる木や草がたくさんありますから、それを燃え移らない場所まで運んでいって焚き火をすれば充分に暖を取ることができます。
また、地震など状況によっては倒壊した家を薪代わりに使うこともできるでしょう。
では、都会地ではどうでしょうか。身の回りを見回して、何か燃やせるものがあるかどうかを考えてみてください。せいぜい公園の木や葉っぱというところでしょうが、圧倒的に燃やせるものが少ないのが現状です。倒壊するような家屋もさほどないでしょうし、冬に被災すると冷えと戦わなくてはならなくなります。
 寒さをしのぐには、風を遮って身体の周りから体温を逃がさないということを以前書きましたが、安定的に体温を維持しようと思ったら外部からの熱があるほうが有利です。
 例えば使い捨てカイロが一つあるだけでも、暖の取り方は全く変わってきます。また、安全対策の問題はありますがろうそくでも暖を取ることが可能です。外部からの熱量があると、身体で無理に熱を作る必要がなくなるので、体力を温存できて生存確率も上昇しますので、何か暖をとれる手段を考えておいてください。
 もしも何かを燃やして暖をとるのであれば、それに火をつける道具も念のために準備する必要があります。保存性を考えると、ライターよりはマッチの方がよさそうです。最近はやりのファイヤスターターもいざというときの備えとしては有効です。いずれにしても使い慣れないと火がつけられないので、しっかりと事前に練習をしておきましょう。
 ともあれ、いざというときにあなたの命をつないでくれる暖を取るための手段。しっかりと考えておいてくださいね。

指示待ちでは助からない

 災害発生時において最も重要なのは、自分で安全を判断できることです。
 ですが、この国に住んでいる多くの人は誰かの指示を待っている状態。例えば、行政の避難情報や消防団の巡回、テレビやラジオからの避難の呼びかけなど、誰かからの指示があって始めて避難するということが多いなと感じます。別に指示待ちは本人が決めたことなのでどうでもいいのですが、その結果としてその判断をした「自分以外の誰かが悪い」という状況を作り出してしまいます。
 結果的に避難が必要なかったような事例であれば、「あいつが逃げろと言ったから逃げたのに無駄な時間を使わせやがって」と文句の一つもいうようになり、その発言を聞いた人は、絶対に一緒に避難するもんかとと思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも、私は誘う気にはなりません。隣近所のつきあいがあって、避難しなければ死んでしまうだろうなと思ったとしても、です。
 確かに、災害で避難するか否かを判断するためにはいろいろな知識を取得して、判断するための情報に意識を向けておかなければなりません。それが面倒だという人もいらっしゃるでしょう。ただ、自分の命を自分以外の誰かの判断にゆだねると言うことは、もしもその判断が間違っていたときに、自分が死ぬことになってしまいます。また、みんなでどうしようと考えているうちに被災してしまう可能性もあります。
 避難するタイミングは人それぞれです。10人いれば10通りの判断基準があるわけなので、自分で自分の判断基準を定めて逃げ方なども決めておきたいですね。
「自分の命は自分で守る」
 こと災害に関しては、まずは自分の安全の確保が第一になります。こういったことを書くといろいろと言われてしまうのですが、自分が安全でなければ人の救助などできるわけがありません。
 繰り返しになりますが、指示待ちではなく、自分の命は自分で守ることを基本にして、ご自身の防災計画を策定していただければなと思っています。

「やさしい日本語」はみんなにわかりやすい

 最近の災害報道では、以前のように難しい言葉や字幕を使わないことが増えています。特に危険が迫っているときには「今何が起きているのか?」と「どうすればいいのか」だけ伝われば行動にはうつしてもらえます。それが目的です。また、文字が読めない人もいますので、アナウンサーがやはり同じ条件で、普段と異なり少しだけ感情を込めて「高いところへ逃げてください」などと具体的かつわかりやすく伝えています。
 では災害後はどうかというと、行政から発信される情報は、残念ながら難しい言い回しでかかれていることが殆どで、日本語の理解が十分でない人には非常にわかりにくいものになっています。
 そのため、災害後には行政が発表する各種情報を「やさしい日本語」に置き換えて誰もが言いたいことがわかる作業をするボランティアが必要となってきます。
 特に外国から働きに来ている人は普段の生活で使っている日本語くらいしかわかりませんので、どうやって伝えるかを試行錯誤して文章にしていくことになります。ただ、行政の出す情報はとにかく量が多い上に提供から支援開始までの時間が非常に短いという問題があり、ボランティアもやさしい日本語にする書類を選んで訳している状態です。でも、普通に書かれた行政からのお知らせをわかりやすい日本語に直すことは、日本語の知識のある人であれば基本的には誰でもできると思います。小さなニュアンスの違いは発生するとしても基本的な情報が伝わるか伝わらないかは、その後の行動に大きく差が出てきますから、快適な生活をするためにもその場にいる人たちがその処理ができるといいなぁと考えます。
 やさしい日本語は、いかに短いフレーズでいかに簡単にわかりやすく伝えるかを目的にしていますので、例えば避難所などではお年寄りと子どもが一緒になってこういう翻訳作業をすれば、言い回しや書き方など、ちょうどいい頭の体操になるのではないでしょうか。
 また、やさしい日本語は文字も大きく書くため、老眼にもやさしく、年寄りにも読み取れる程度の情報量です。
 誰にとってもメリットのある「やさしい日本語」。
 いざというときに備えて、日頃見ている文章を「やさしい日本語」にするとどういうフレーズになるのかを考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
 島根国際センター発行の「やさしい日本語」のテキストをリンクしておきますので、興味のある方は是非ご一読ください。