行動する理由を確認しておこう

避難訓練は、「自分の命を守る」ために行うものです。
そして、訓練していないことは本番でもまずできません。
だから消防士も自衛官も、みなさまざまな状況を想定した訓練を行っているのです。
では、学校ではどうでしょうか?

1.どうして机の下なの?

学校で地震に対する防災訓練をすると「机の下に隠れなさい」という説明をされます。
でも、なぜ机の下なのでしょう?
上からものが降ってくる、それによって怪我をしないために机の下に隠れるというのが正しいのだと思うのですが、訓練時には、その説明もなく、ただ「机の下に隠れなさい」と言われているのが現状です。
山梨大学地域防災・マネジメント研究センター秦康範准教授がある興味深い実験をしています。
何の予告もなしにいきなり緊急地震速報を小学校で流す実験を行ったのですが、驚いたことに、緊急地震速報が鳴り響くや否や、校庭で遊んでいた子ども達の殆どが慌てて校内に駆け込んでしまったのです。
後で確認したところ、校内に逃げ込んだ子ども達は、教えられたとおりにきちんと「机の下」に避難していました。
なぜ安全な校庭にいたのに、わざわざ危険な屋内に退避したのか。
これは「地震=机の下」という説明しかされず、「なぜそれをするのか?」という動機付けがきちんとされていないために発生したものです。
その行動をする理由をきちんと説明し理解したうえで訓練を行っていれば、恐らく子ども達は校庭でそのまましゃがんで地震に備えたのではないでしょうか。

2.避難訓練って、なんだ?

避難訓練は「自分の命を守るため」に行うものです。
ただ、多くの学校での避難訓練は「避難訓練を行うことが目的」となっており、一番大切な「命を守る」という視点が抜け落ちています。
実際に避難訓練の様子を見てみると、学校での避難訓練は校庭まで逃げて終わりになっていることが殆どです。
これは学校が避難所になっている場合が多いこともあるせいと思われますが、、いざ本当に避難しなければならない事態が発生したときには校庭に逃げるだけでは終わらない場合もあります。
被災の状況によっては他の避難所や安全な場所までの避難訓練もやっておかないといけないのですが、まったくそうなっていないのが現状です。
いざ本番のとき、校庭までは訓練通りに逃げることができたのに、校庭に逃げるのが完了した後でその先をどうするのかを決めるようなことをしていると、せっかく避難したのに被害にあってしまいます。
東日本大震災で問題とされた大川小学校では、恐らくはそんな状態だったのではないのでしょうか。
本番では、訓練したこと以上のことはできません。
災害からの避難訓練では、本番で行う全てのことを、可能な限りやっておく必要があります。
大川小学校の例と対比する形でよく言われるのが、「釜石の奇跡」と言われる子ども達による率先避難です。
大きな違いは、釜石東中学校の生徒はハザードマップを元に、何度も絶対安全と思われる場所までの避難訓練を行っていたことです。
そして「自分の命は自分で守る、そのために避難訓練をする」ことがきちんと説明され、子ども達の中にもそれが浸透していました。
移動距離が長かったのが理由で後にもう少し近くが避難先にされましたが、絶対安全と思われる場所までの避難訓練を経験していた子ども達は最終的にそこまで避難を行っていました。
釜石東中学校の生徒が逃げるぞと叫びながら避難するのを見た鵜住居小学校の子ども達も、それに続いて逃げ出します。
これは、いざというときには中学生の行動に続けと教わっていたためで、結果的にぞくぞくと逃げる子ども達を見て、近所の保育園や老人福祉施設の人たちも一緒に避難し、現在「釜石の奇跡」と言われる行動に繋がったのです。

3.行動する理由を確認しておこう

今回はわかりやすい例だったので学校を例に取りましたが、さまざまなところでやっている避難訓練も、訓練のための訓練になっていないかをよく確認する必要があります。
少し前になりますが、アメリカの同時多発テロで航空機に突っ込まれた世界貿易センタービルでも避難訓練はやっていました。
ですが、その訓練とは「消防士や警備員が救助に来るまでその場を動かない」というものだったのです。
自爆テロ後にビルのセキュリティに対応を確認しても「今救助にいくから動かないで」という回答がなされていたようです。
そのため多くの人がその訓練の時のように各階で待機し、犠牲になったとされています。非常階段の位置すら知らなかった方もいたと聞きます。
でも、非常階段を使って逃げ出した人たちもいたわけですから、「自分の命を守ること」がどこまで腑に落ちていたかが、生死を分けたとも言えるでしょう。

考えてみれば、避難訓練に限らず、現在行われているさまざまなことは、案外とそれを行う理由を考えずにやっているものです。
一度立ち止まって、「なぜその行動をするのかの理由」をきちんと整理し、その上でさまざまな行動を行った方が、内容がきちんと理解できてよいのではないでしょうか。
また、行動する理由を見直してみると新しい発見があるかもしれません。
とくに避難訓練は「自分の命を守ること」を目的にするものですから、その理由と目的をきちんと理解した上で実施したいものです。
最後に、今回の実験や釜石の奇跡についての動画、およびネタ元を乗せておきます。
興味のある方はどうぞご覧ください。

Yasunori Hada (youtube)

命を守る防災教育(岩手県釜石市) (youtube)

※アメリカ同時多発テロについては「生き残る判断生き残れない行動」(アマンダ・リプリー著・光文社)を参考にしていますが、現在絶版になっています。
20190105追記・文庫本が2019年1月9日に筑摩書房から出版されるようです。


生き残る判断生き残れない行動 災害・テロ・事故、極限状況下で心と体に何が起こるのか (ちくま文庫 りー8-1) [ アマンダ・リプリー ]
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