避難所と防疫

 災害時に怖いのは、人がたくさん集まって生活する空間となっている避難所で発生する感染症。インフルエンザやノロウイルスなどは、避難が長期化した避難所では必ずと言っていいくらい発生して蔓延してしまいますが、その対策としては、徹底的な防疫を行うことくらいしかありません。
 今回は、避難所で起こりうるであろう感染症発生時にどのような対策をすればいいのかについて考えてみます。

1.防疫って何だろう?

  国語辞典などを見てみると、防疫とは「伝染病を予防し、またその侵入を防ぐこと」とされています。つまり、防疫という言葉は「予防措置」と「防御措置」の二つの性格をもっていると言うことになります。

2.予防措置

 大規模避難所では、何よりも衛生環境の維持が必要です。感染症を起こさないようにするためには、徹底した手洗いとうがいが推奨されていますが、被災地では必ずしも水が潤沢にあるわけではありません。
 それでも消毒を行ったり、ウエットティッシュなどで拭く、手が洗浄できなければ使い捨て手袋を使うなど、可能な限り衛生管理を行ってください。
 また、生活空間は絶対に土足禁止です。そして、寝る場所は床から少しでも高さのある状態にしてください。この二つを守ることで衛生環境はかなり維持することができます。
 あとは歯磨きなどで歯や口の中の雑菌を繁殖させないようにすること。特に避難所での生活では気力も体力も消耗していきますから、いつも以上に口腔内の衛生には気をつけるようにします。

3.防御措置

 それでも人が多く集まれば何らかの感染症が発生することは避けられません。感染症発生に備えて、患者を隔離できる部屋を一つ準備してあらかじめ空けておく必要があります。
 また、基礎体温のチェックや体調の確認は毎朝毎晩行うようにし、少しでもおかしな兆候があればマスクを着用した上で隔離部屋へ移動してもらって様子を見ます。
 隔離部屋は部屋だけでなく、その周辺を含めて立ち入り制限区域とし、制限すべきエリアは目で見てわかるようにしておきます。また、立ち入り制限区画の出入口には消毒、マスク、手袋などを用意し、できるだけ感染者に直接接触しないようにします。感染者に接触した後は、生活空間に菌を持ち込まないようにマスクや手袋などは制限区域内に処分場所を用意してそこで外すようにします。間違ってもそのまま生活空間に入らないようにしてください。
 隔離部屋については、室内が乾燥しないようにし、感染者が寝るための場所を準備しておきます。これは生活空間と同じように直接床ではなく、少しでも床から高い位置に場所を作るようにします。そして汚物入れや汚染されたものを生活空間に持ち込まないように窓などから外部へ搬出できるルートは作っておいてください。
 また感染者には優先的に食べやすいものや飲料を供給し、病気の回復を支援するようにします。

4.感染症は起きるものと考える

 感染者と一般者が普通に接触していると、感染は一気に拡大します。早めの封じ込めにより感染拡大を防ぐことと、汚染されているかもしれない空間と汚染されていない空間とがはっきりわかるようにしておくことは、感染症対策としては絶対条件となります。そのため、例えば巡回する医師や看護師などの医療関係者も感染者に接触した後は生活空間に入らないようにしてもらいましょう。
 防疫については大げさすぎるくらいでちょうどいいと思います。ここでは病院に搬送できないという想定で隔離部屋を作っていますが、発症したら病院に送り込むくらい極端でも構わないと思います。
 そしてもし避難所内で隔離するのであれば、感染者が体力を維持し、回復できるように飲料食や薬を優先的に回せるように考えておきましょう。
 いずれにしても、ある程度の規模の避難所では、避難が長期化してくると感染症は必ず発生します。発生したとき、いかに素早く対応できるかで被害の状況が変わりますので、感染させないこと、感染を広めないことを念頭において日々の管理を行うようにしましょう。