大雨の時の避難

 梅雨というと、しとしとした雨が何日も降り続くというのが昔の風物詩でしたが、最近では短時間で局所的に一気に雨が降って、それ以外は雨が降らないということも起きるようになってきました。
 しとしと雨だと、河川が氾濫したり側溝や用水路が溢れたりするまでには時間がありますから、水位の上昇を見てから逃げても充分に間に合います。
 ですが、短時間で局所的に降る雨だと、気がついてから準備ができた頃には家も道路も水浸しで逃げられないという事態が起こりえます。
 大雨の時の避難は、どのようにしたらいいのかを少し考えてみたいと思います。

1.住んでいる場所の環境を知る

 まずはお住まいの環境が低地かどうかを確認します。
 周辺の土地に比べて低いようなら、避難を考える必要がある場所です。
 また、ハザードマップを確認し、土砂災害が起きる可能性のある地域や河川の氾濫による浸水想定地域かどうかを確認します。
 もっとわかりやすく書くと、凡例で示されている色が塗られている場所は避難が必要な地域と言うことになります。
 この他、低地やハザードマップの凡例の色が塗られていなくても、崖下や崖の上、雨が降ると水の溜まりやすい場所などは、状況に応じて避難した方がよいかもしれません。
 上記に該当しない場合には、とりあえずは慌てて避難する必要はありません。
 ただ、孤立してしまう可能性はありますので、数日分程度の生活物資の確保はしておいてください。

2.避難先と避難経路を確認する

 避難が必要だと判断したら、安全な避難先を考えます。近くの高台でも避難場所でもいいのですが、いくつか場所を決めたら避難路を線で引いてみます。
 ハザードマップの凡例の色つきの場所や、普段見ていて危ないなと思うような場所、低地や崖下、崖上を通るような経路になっていませんか。
 避難先だけでなく、避難経路が安全であることも大切ですから、大丈夫だと思えるまでいろいろと試してみてください。

3.実際に避難先まで歩いてみる

 避難先と避難経路が決まったら、一度実際に歩いてみましょう。地図上で見るよりもいろいろな気づきがあると思います。
 その時の気づきと、実際にかかった時間を記録しておきましょう。

4.避難開始のタイミングを決める

 実際に歩いてみた結果を基に、避難にかかる時間を考えます。
 避難するときには、恐らくすでに天気が悪くて歩きにくい状況になっていると思われますので、歩いてみた時間を1.5倍したものを移動時間としてみましょう。
 その時間を基本にして、避難開始のタイミングを考えます。
 例えば、移動に30分以上かかるようなら、警報が出たら避難するでもいいと思いますし、さほど遠くないのであれば、警戒レベル3で行動開始でもよいと思います。
 警報基準が改正されて「レベル4=避難指示」となりましたが、レベル4が発表されたときでは移動開始が遅くなることも多いですから、判断基準は平時にしっかりと検討しておきましょう。
 早めの行動なら、空振りは多くなるかもしれませんが確実に助かります。

5.非常用持ち出し袋を作っておく

 避難後数日間を過ごせる程度の生活用品を詰めた非常用持ち出し袋を用意します。
 大雨の場合には時間にある程度の余裕がありますから、持ち出しリストを作っておいて、避難前に袋に詰め込んでもいいかもしれません。
 可能であれば生活用品のストック場所を非常用持ち出し袋にしておくと、そのまま避難開始できて便利ではあります。

6.避難したら戻らない

 避難が完了したら、状況が落ち着くまでは避難先に留まるようにします。
 避難所の設置者も「警報解除=安全」で避難所をすぐに閉鎖しようとするのですが、実際には警報解除後に崖崩れが起きたりすることもあります。
 もし夜間であれば、そのまま朝まで避難所で待機して、周囲が明るくなってから帰ることをお勧めします。
 自分の目で安全が確認できるようになったら避難解除と考えて行動するようにしてください。

 大雨時の避難はタイミングと避難先が結構難しいものです。
 平時に少しだけ時間を作ってルールを決めておくと、いざというときに迷わず行動することができます。
 あなたの命を守るために、しっかりとした行動をするようにしてくださいね。

避難の時の逃げ道を検討する・水害編

ここ数年、高津川は上流域の大雨により危険水位まで上昇することが増えている。写真は2018年
7月に撮影したもの。

 当研究所を始めるに当たって、研究所の所在地である益田市高津町上市で水害が起きた場合、もしくは起きると想定した場合、どの時点でどこへ避難するかについて研究員達と検討したことがあります。
 先日、益田市のハザードマップが更新されたことに伴って情報が追加されましたので、この情報を元にどのように避難を考えたらいいのかをもう一度考えてみたいと思います。
 考えてみたら、災害時の避難というのはさまざまな判断が求められ、その上住んでいる場所によっても判断が変わるものです。
 以前に避難経路を考えてみる必要があることについては触れていましたが、今回は、地元の地区を例に挙げて、水害対策についてどのように検討したらいいのかについて考えてみます。

1.ハザードマップの限界

  いきなりなのですが、行政の製作するハザードマップには限界があります。
 今回は時期的に水害対策で検討をしたのですが、ここで予測されているのは「想定された氾濫時に最大でどこまで浸水するか」というものを示した図でしかありませんので、どのあたりから越水して堤防が切れ、どのように浸水するのかについては当然ですがわかりません。
 でも、避難をするに当たってはどこからどのように水が流れてくるのでどこへどんな風に避難すればいいかということが大切な検討材料になります。

2.水の特性を考える

 水は必ず高いところから低いところへと流れていきます。つまり、流れている川のカーブでは、カーブから見て上流側の堤防よりも下流側の堤防に力がかかります。
 そのため、同じような堤防であればより力のかかる側の堤防が決壊する可能性が高いと考えられるわけです。

国土地理院の地図を3m刻みで着色したもので、川は図の下から上に向けて流れている。川の合流点から変電所の脇を抜け、奥の田に向けて低地があるため、水害発生時にはここが最初の水の道になりそう。

3.地域の特性を考える

上市地区の少し上流部には川の合流点があり、ここで本流と支流がぶつかります。大雨が降って水量が増しているときには、支流の水は本流にはじかれてしまうので、合流点で水が滞留しやすくなります。バックウォーターと呼ばれるこの現象が起きると、逃げ場を失った水は堤防を越水して低地に向けて流れ込んでいきます。

 また、排水路が一カ所堤防の中腹に抜けていて、ここには逆流防止装置がついていないことから、排水路を越える水が流れてきた場合、ここから水が噴き出してきます。昭和47年7月の水害では、この付近から水が越水し、家屋流出の被害も出たことをお住まいの方からも伺っています。

4.水がどこを通って流れていくかを考える

 バックウォーターで越水すると、水の流れは人麻呂神社の駐車場から翔陽高校の実習田がある方へ流れていくことになりそうです。また、神社前から下流に向けても角度がついていますので、水は二手に分かれて流れていくことが予測できます。

最初の地図に水の流れる方向を落とし込んだもの。郵便局の周りが上市地区になるが、高手に避難しようとすると、どうやっても水の道を突破しなくてはならないことがわかる。

 また、蟠竜湖停車場線は翔陽高校方面に向けてゆるやかに下降しているので、ここも水の道になることが予測されます。また、排水路からの逆流水もここを流れていくことになりますので、殆ど川状態になりそうです。
 どちらにしても、この場合には側溝が溢れる内水面越水ではなく、川を流れる濁流ですので、一度氾濫すると流れてくる水の勢いは歩ける状態ではなさそうだということも予測できます。

5.避難する先はどこになるかを考える

 上市地区の近傍の避難所である「高津小学校」は水没地域のど真ん中、「高津公民館」は家屋倒壊等氾濫想定地域のど真ん中にあり避難所としては不適切です。おまけに上市地区と各避難所を結ぶ避難路がもろに水の通り道になってしまうのでどちらにしても避難することは現実的ではありません。

柿本神社は土石流警戒区域になっているため、荒天時の避難には注意が必要。ただ、柿本神社を抜けて万葉公園の管理センターに避難するのが一番無難そうではある。

 水に浸かる可能性のない「万葉公園」「翔陽高校」「希望の里」そして画像では切れていますが「高津中学校」が避難の選択肢となりますが、避難するのであれば越水する前という条件がついてきます。

6.結論

 上市地区はハザードマップ上の浸水域は2~3mとなっています。最悪の場合には、住家内で2階への垂直避難を行えば助かることはできそうです。
 ただ、より安全を考えるのであれば、国土交通省が出す高津川氾濫情報の氾濫危険水位到達時に避難を開始することが必要で、避難先との調整をしておく必要があるということになります。また、高齢者が非常に多い地域なので、親戚や知り合いが高手に住んでいるようなら、気象庁の「Lv.3発表」時点や、高津川氾濫情報のはん濫警戒水位に達した時点で域外に移動してしまうことも検討すべきでしょう。

 以上、簡単に地区の水害に対する分析を行ってみました。
 この分析結果をどのように使うのか、使わないのかはそれぞれの判断となりますが、これからの季節、お住まいの地域やおつとめの地域のハザードマップと国土地理院の地図を使って、もし水害が起きそうな状態になったら自分のいる場所ではどのようにしたら安全が確保されるのかについて検討してみてはいかがでしょうか。