広域避難はできないか

 大規模災害になると、被災地での被災者に対する支援はかなり難しいのが現実です。
 そのため、特に要支援者の方を中心として、被害地外へ広域避難してもらい、状況が落ち着いてから帰ってきてもらうという方法がとられるようになってきています。
 特に原子力発電所の事故対策としてこの動きが顕著なのですが、それに限らず、さまざまな災害で利用してもいいのではないかと考えています。
 ただ、問題となるのは受け入れ先の対応力です。
 たくさんの被災者を収容するためには、それだけの資材とマンパワーが必要となりますが、行政改革で徹底的に削減された人員では、自治体は他所の面倒までみることはできません。
 また、避難させた自治体にその余力があるかと言われると、やはり余力はないというのが正直なところです。
 できることであれば、平時に被災者をどのように避難させてどのように収容するのか、そしてどのように生活環境を確保するのかということを被災するであろう人達でしっかりと話をし、できるだけ自分たちで対応をしていかなければ難しいと思います。
 被災者はお客様ではありませんし、かわいそうな人でもありません。一人の生活者です。災害前までは生活を自ら営んでこれたわけですから、生活できる空間が整っていれば自分の生活を営むことは可能だと思います。
 体育館や集会所、大規模施設はあくまでも仮の避難施設と考え、仮設住宅や借り上げ住宅、什器や生活物資の支援などの準備や段取りを計画的に準備しておくと、いざというときでも慌てたり不安になったりしなくて済むのではと考えますが、あなたはどう考えますか。

被災者支援の「平等と公平」

 日本の被災者支援では「平等」が求められるようで、そのため、支援物資が入ってきても全員に配れないものは配布されなかったり、一部の人にしか必要とされないものはいらないと断られたりすることも、過去の災害では起きています。
 でも、「命を守る・命をつなぐ」という視点で見ると、平等は「不平等」だと感じます。
 例えば、健康な成人男性と3歳児が飲まず食わずでどれくらい持ちこたえられるかを想像してみてください。
 恐らく、成人男性の方が3歳児よりも長く生きることができるはずです。
 平等という考え方でいけば同じ量が同じ時期に支給されない限りは食事は配れないということになりますから、放っておくと3歳児は成人男性より先に死んでしまうことになります。
 また、生理用品については女性は必要としていても男性にとっては必要の無いものですので、人によっては「こんなものいらない」と運営者が返品してしまうことも起きえますし、実際に東日本大震災で起きたとも聞いています。
 「全ての人に全てのものを」という発想で行くと、必要の無い人にいらないものが届き、必要とする人には必要数に足りない量が配られるという悲しい事態になってしまいます。
 ところで、似たような条件の難民支援では「必要なものを必要な人に優先順位に従って届ける」ことがルール化されています。
 生命力の弱い人を始めとする支援の必要な人から優先して必要な物資を届けることで、無駄もなくなり、安心して命をつないでいくことができるからです。
 避難所運営においては、あちこちから届くさまざまな支援をどのように分配するのかが必ず問題となりますが、その際の視点は「平等」ではなく命をつなぐための「公平さ」が必要なのではないかと考えます。
 避難所を開設して運用をするとき、その避難所にどのような人が居るのかを把握し、届けられる物資をどのように配分すれば避難者全てが命をつなぐことができるのかに配慮した視点をもち、物資を配布する前に配布の仕方をルール化しておくことは絶対条件です。
 声の大きな人や気づいた人が優先的に物資や支援を受けるのではなく、必要な人に優先度に応じてきちんと物資や支援を届けることが、避難所の運営ではなによりも重要だと考えます。
 ただ、この公平さは行政機関では対応ができない部分です。日本の行政機関は「住民全てに平等に」という原則がありますので、できれば避難所の運営を行政職員以外の自治会や自主防災組織が行った方がトラブルが防げます。
 さまざまな支援に対して、自分に必要ないから拒否するのではなく、その支援が必要なのはどのような人なのだろうかという視点にたって使い道を考えていきたいものですね。

広域避難の受け入れ計画は大丈夫ですか?

 平成31年3月末時点の「原子力災害に備えた島根県広域避難計画」の付属資料が公開されました。
 それによると、島根原子力発電所で何らかの大規模放射能漏れが発生した場合には、島根原子力発電所から30km圏内の住民は全て避難対象となっているようです。
 その数、121,460人。
 その中で、県内避難先として益田市、津和野町、吉賀町も入っており、益田市が17,950人、津和野町が1,970人、吉賀町が1,430人を受け入れる計画になっています。
 原発事故による避難はほぼ着の身着のままで生活物資も殆ど持たずに逃げ出すことになることが多いので、この数の人がもし避難してきたとしたら、その人達に対する支援はどうなるのでしょうか?
 現在の人口の2割から4割くらいの人が避難してくるわけですから、それまでの生活物資の流れのままでは、そこに住む住人達の通常の生活ですら破綻することになってしまいます。
 東日本大震災で広域避難自体がそこまで大きな騒ぎにならなかったのは、背後に首都圏という超巨大な物資集積地があり、避難者の数も避難先の住人の数に比べれば少なく、太い物流を活用できたためで、中国地方では岡山市や広島市も含めて首都圏ほどの太い物流網はありませんから、避難先の土地でさまざまな物資が不足することが簡単に予測できます。
 居住民の物資が欠乏するとその恨みは物資を消費する避難者に向けられるわけで、これに対する対策も事前に決めておく必要があります。
 どうしたら物流を滞らせずに増えた人口を安定して食べさせることができるのか? 避難所のトイレやライフラインの問題はどうすればいいのかなど、検討し、決めておかなければいけない問題は 山積みのはずです。
 もちろん行政機関だけの問題ではありません。受け入れ先として予定されている学校などの各施設は、避難者を収容するとその間授業などの通常業務はできなくなると考えた方がよさそうです。
 渋滞や犯罪の問題も起きるでしょう。自治会や自主防災組織、学校、企業など、それぞれに検討しておく課題は存在します。
 今現在、去年くらいからようやく広域避難の訓練が始まりましたが、受け入れ側の受け入れ訓練はまともにされているとは言えません。
 いざというときにトラブルが起きないように、付属資料の避難受入候補地を確認していただいて、受け入れた後どうしたら地域に問題が起きずにすむのかを考えておく必要があると思います。